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インハウスレポート

インハウスレポート

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

官庁と企業の双方での執務の経験

1.はじめに

私は弁護士としてのキャリアのうち10年以上を組織内弁護士として執務してきました。組織内弁護士は、官公庁で執務する弁護士と企業内弁護士に大別されますが、私はその双方を経験しました。当会会員の皆様が弁護士としてのキャリアを考えるうえで双方のプラクティスを知ることが参考になると考えて双方の経験を記します。

2.官公庁~外務省における執務

私は、渉外法律事務所にて執務していた当時、2002年から2005年にかけて参加していた日弁連のカンボジア弁護士会支援プロジェクトを通じ、英語を使って公益に資する仕事をしてみたいと考えていました。そんな折、外務省 がEPA(Economic Partnership Agreement/経済連携協定)の締結交渉に法的観点から従事する弁護士を募集していたため、そのポジションに応募したのです。
その結果、2006年7月から2008年6月まで外務省国際法局経済条約課にて、任期付職員(課長補佐)として採用され、2か国間の貿易の自由化を図るEPAの締結交渉に従事することになりました。担当分野はサービス貿易で、担当国はチリ、ブルネイ、インド、オーストラリア、GCC(Gulf Cooperation Council / ペルシャ湾岸の関税同盟)諸国、ASEANでした。主な仕事の一つは相手国との条約締結交渉であり、そこでは実際に条約締結交渉にあたる担当官や交渉官を、交渉の準備から条約締結交渉(海外出張を伴うことが多い)の場まで法的側面からサポートしていました。もう一つの仕事は内閣法制局審査でした。これは、交渉の結果、締結された条約の条文内容の法的問題の検討・解決につき内閣法制局参事官と議論するというものでした。
条約締結交渉は時間的・内容的に大変でしたが、関係する様々な立場の方々とともに、一つのチームのように働くことには、法律事務所の執務とは異なるやりがいがありました。また、交渉の結果が条約として結実し、日本と相手国との貿易の未来を規律するというプロセスに関わることができる点にもやりがいを感じました。

3.企業における執務

外務省において条約締結交渉を進める当事者として職務を遂行し、その過程で様々な立場の人たちと議論して知恵を絞り、案件の始めから終わりまで一連の面倒を見る、という体験は非常に興味深いものであり、こうしたスタンスで今後も仕事をしたいと考え、企業内弁護士への転身を決意し、2008年12月から昭和シェル石油株式会社(現・出光昭和シェル)に勤務することとなりました。そこでは会社法、独禁法、知的財産権法、海事法など多岐にわたる法分野で、国内外にまたがる仕事をしており、更に興味深い経験を重ねました。
他方、そこでの私の役割は、法律家としての専門的知見を提供するプレイヤーの役割のみでした。私はプレイヤーであるとともに、組織を管理するマネージャーとしての仕事もしたいと考え、2009年10月から、ばんせい山丸証券株式会社(現・ばんせい証券株式会社) のコンプライアンス本部長として、プレイヤー兼マネージャーの一歩を踏み出しました。マネージャーの経験はありませんでしたが、自分なりに試行錯誤しながら組織マネジメントを考えて実行していった結果、私が掌握していたコンプライアンス本部は従前にも増して会社に貢献し、部下の方々の獅子奮迅の活躍もあり、副社長賞を受賞しました。以後一貫してプレイヤーとマネージャーの二足のわらじを履く形で仕事をしています。
その後、より大きな会社での執務機会を求め、かつ音楽が好きなこともあって、2010年6月にエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(現・エイベックス株式会社)の法務部長に就任しました。エンタメ企業が有する自由闊達なカルチャーを生かしつつ、法律問題で企業にヤケドをさせないよう日々腐心していましたが、音楽好きな人々の間でエンタメ法務を担当できる喜びを感じていました。しかし、私のバックグラウンドには渉外法 務があり、再び英語を使って国際的な取引に関与したいと考え、2015年1月から株式会社 JVCケンウッドの法務部長・ジェネラルカウンセルに就任しました。JVCケンウッドは世界中で手広くカーエレクトロニクスを中心に、電子機器を取り扱っており、こうした業務にまつわる国際法務を体験できるとともに、国際法務を扱う法務部の運営を担い、マネージャーとしてもプレイヤーとしても充実した業務を行うことができました。
その後、法務を通じて会社全体を見渡すことで発見した会社全体にかかる問題点やその解決策を、会社経営の一端に関与することによって経営にフィードバックしたいと考えるようになりました。そのため、2018年3月にアクサ損害保険株式会社の執行役員・ジェネラルカウンセル・リーガル&コンプライアンス本部長に就任し、従前から担っていたプレイヤーとマネージャーの役割に加え、企業経営についての検討と意思決定を行うマネジメント・コミッティの一員として、会社経営に関する問題点や議題につき意見を述べ、決議に加わる立場において職務を遂行してきました。

4.結び

私は組織内弁護士として外務省、石油会社、証券会社、エンタメ企業、電子機器製造業、保険業と様々な職域で執務してきました。このように、私が相互に関連のない複数の業種・職域にわたって執務をすることができたのは、あらゆる業種・職域で弁護士の法的な知見が求められていることに基づくのだと考えています。
従前、弁護士の職務というと、法律事務所を構えて、訴訟を中心とした法律業務に従事するというものと理解されてきたと考えます。しかし、法的知見があらゆる場で求められ、そしてあらゆる場に法の支配と人権擁護を普及させるための弁護士の職域拡大が焦眉の問題となった今日においては、弁護士資格は、より広い職務をカバーすべく、「法律を武器として仕事とする人のパスポート」としての意義を持つようになったとすら考えています。
弁護士の法的知見は、今後も官庁や企業など社会のあらゆる場において要請されます。今後当会においてもそうした社会の要請に応ずべく、訴訟を中心とした法律実務のみならず、企業に、官庁に、社会に、そして世界に、自由自在に切り込んでいく弁護士が増えていくことを願います。