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弁護士の魅力を語る〜第2弾〜

※経歴は『NIBEN Frontier』2020年4月号時点のものです。

2019年10月号に掲載し、好評を博した企画の第2弾として、今回は、海外、地方、自治体でご活躍の3人の先生方に、弁護士の魅力について語っていただきました。

海外で活躍する弁護士

若松 大介先生 【編集部】 先生の経歴を教えてください。
【若松】 60期で修習を終えた後、外資系法律事務所での勤務、商社への出向を経て、2013 年にロサンゼルスに留学しました。その後も、そのままロスに拠点を置き、現在は、のぞみ総合法律事務所のロスオフィス所長として、主に日本の会社のアメリカでの事業や、新規進出・買収等のサポートをしています。

【編集部】 ロスに拠点ですか...国際的で格好良いですね。元々学生の頃から、国際派弁護士を目指していたのですか。
【若松】 いいえ、私は大学では経済学部に入ったので、弁護士は全然目指していませんでした。しかし、大学3年生になってもやりたい仕事のイメージを持てずにいたところ、司法試験の勉強をしていた友人に憲法の問題を見せてもらったら、条文や規範を事実に当てはめ結論に導いていくプロセスが数学の証明に似ていて面白いなと思い、司法試験の勉強を始めました。
学部では、企業経済学という企業活動を経済学の観点で考えるゼミを専攻していましたので、弁護士としてもビジネスに関わる仕事がしたいと漠然と思っていました。

【編集部】 その後、外資系の事務所に入所されていますが、この頃から海外のお仕事がしたいと思っていたのですか。
【若松】 いえ、18歳までほぼ九州から出たことがなく、外国人と目を合わせるのも怖いくらいでした。でも、ビジネス系の仕事をするならそうも言っていられないと考えていた中で、就職活動中にリンクレーターズの先生方とお会いし、この先生方と働けたら面白そうだと感じたこと、また、外国人がいつも隣にいる環境ならば英語の上達も早まるのではと思い、入所しました。

【編集部】 英語は得意でしたか。
【若松】 いえ、全くです。外国人の弁護士に挨拶するときに、「ナイス・トゥ・ミート・ユーでいいのかな」と迷うレベルでした。
M&Aの部署に配属され、業務の8割ぐらいが英語でしたが、最初はメール1通の作成に何時間もかかり、電話会議では皆が何を言っているのか分からない状況でした。
でも、文化の違う外国人とどんどんコミュニケーションが取れるようになり、全然違う考え方の中で同じビジネスのゴールを目指して進んでいくのは思った以上に楽しく、その中で英語も次第に習得していきました。

【編集部】 その後、三井物産に行かれましたね。
【若松】 事務所から弁護士を派遣することになり、その中で声がかかり、色々見てみるのも面白そうだと思い、行くことにしました。まだ弁護士2年目でしたが、ここが私の転機となりました。
法務部内の、主に北米、中南米を担当する部署にいましたが、常に営業の方たちの隣で投資案件などを進めていく中で、案件規模や価値評価などの数字や事業上の目的に対する意識が強まったとともに、外部の専門家としての立場から、より案件に主体的に関わってアドバイスをしていくべきという意識が目芽えました。

【編集部】 出向後、ベーカー&マッケンジー法律事務所に転籍されていますね。
【若松】 元の事務所のM&Aチームの一部で一緒に移籍する形でした。転籍後もそのままM&A案件を担当していました。出向時代に中南米の案件を扱った関係で、ブラジルの案件が多かったです。

【編集部】 その後、ロスに留学されたんですね。
【若松】 事務所ではアソシエイトに留学の機会が与えられていたのですが、これまでオンザジョブの経験しかなく、もう少し体系的に英米法を勉強したかったのと、人脈作りもしたいという思いから志願しました。

【編集部】 留学先のカリフォルニア大学ロス校ロースクールはご自分で選ばれたのですか。
【若松】 はい、ロスは私の友人も住んでいて元々親しみのある街だったので選びました。気候も良く、当時まだ幼かった子どもにとっても過ごしやすい環境だと思いました。

【編集部】 留学先ではどのような勉強をされたのですか。
【若松】 ロースクールでは自分の好きなコースを選択できますが、私はビジネス系を選択し、M&A関係や契約を生徒同士で交渉して作り上げる授業や税法の授業などを取りました。

【編集部】 向こうの司法試験を受けられたんですよね。勉強は大変でしたか。
【若松】 留学期間も厳密には10か月くらいしかなく、5月の卒業後は7月の試験に向けて、 予備校に行って詰め込んで勉強しました。

【編集部】 どんな問題が出るんですか。
【若松】 カリフォルニアでは、当時は3日間かけて、択一テスト、日本の論文試験のようなテスト、50ページを超える記録を読んでクラ イアント向けのメモなどを起案するテストの3 部構成となっていました。特に最後のテストはネイティブではない私には大変でした。

【編集部】 合格して、そのまま居着いちゃったんですね。
【若松】 家族の意向もあり、残ることになりました。子どもも海外の方が褒められることが多いのですくすく育っていましたし、その時点ではもう英語が優位になっていました。私ももう少しアメリカでやりたいという気持ちがありました。
ただアメリカで仕事を探すのは大変でしたが、最終的には、現地の日本人ネットワークを通じて知り合ったJi2という会社(現Soliton Systems, Inc.)で働くこととなりました。

【編集部】 どういった会社ですか。
【若松】 アメリカでは、訴訟においてディスカバリー制度という相手方の持っている関連証拠の全てについて開示を求めることができる制度がありますが、同社では開示対象となる証拠のレビューを行うためのプラットフォームの運営サポート業務を行っていました。
基本的にクライアントは法律事務所が多かったので、弁護士資格を持っていることで共通の理解があり、話をスムーズに進めることができていたと思います。

【編集部】 のぞみ総合法律事務所に籍を置くことになったのはどういった経緯からですか。
【若松】 その会社の顧問だった当事務所の結城大輔弁護士から、ロサンゼルスにも拠点を持ちたいという話があり、私もM&A案件を含め業務範囲を広げたいと思い、参画することになりました。

【編集部】 ロスにもオフィスがあるんですか。
【若松】 はい、あります。渋滞を避けるため、朝8時位から家で仕事を始めて、10時過ぎに家を出て、19時頃に帰宅し、夕飯を食べたり子どもと接したりした後に21時頃から日付が変わるぐらいまで自宅で仕事をするという生活をしています。

【編集部】 今はどのような案件を扱っていますか。
【若松】 冒頭に述べたように、日本の会社のアメリカでの事業のお手伝いが主ですが、買収案件やジョイントベンチャーの案件、アメリカに進出した後の通常業務に関する契約書チェック、日本とアメリカでは労働法が結構違いますので労働系の相談も多いです。

【編集部】 考え方が違うんですか。
【若松】 アメリカでは原則解雇は自由です。とはいえ、カリフォルニアはアメリカで一番労働者保護が強い州で、簡単に解雇してしまうと、人種差別やハラスメントを理由に訴えられることが多いです。理由はしっかり準備しておかなければなりません。日本と違ってすぐに紛争に発展するので、この辺りのアドバイスが必要になります。

【編集部】 日本とカリフォルニアの法律の違いについては、どう感じますか。
【若松】 怖いなと思いつつも面白いです。従業員のスタンスも違いますし、きっちり法律を守らないと日本よりもそこから生じるダメージが簡単に大きくなってしまうと思います。

【編集部】 ロスに行って良かったと思うところはありますか。
【若松】 嫌なところもいっぱいあります。ファストフード店で注文した物が入っていないとか、宅配を頼むと配達する人が面倒くさくなったのか、届けたふりをして帰られるとか。ですが、黒人も白人もアジア人も色々な人 がいて、私も十人十色の一色という感じがします。みんな違うのが前提で、人は人、周りを気にせずフランクに付き合えるのは、アメリカの良さだと思います。
例えばエレベーターの中で一緒になった人ともすぐフランクに会話をします。日本だと酔っ払ったときでもないと、そんなことしないですよね。

【編集部】 お子様との会話は英語ですか。
【若松】 半々です。今小学校4年生ですが、現地の学校に通っていて、土曜日だけ補習学校で日本の教科書を使って勉強しています。
日常会話はだいたい日本語でしますが、現地校の宿題を教えるときには日本語だと用語の違いもあり分かりにくくなってしまうので、英語で話します。

【編集部】 弁護士の魅力は何だと思いますか。
【若松】 コンサルタント的な仕事は色々ありますが、例えばビジネスコンサルだとアドバイスが合っているかどうか根拠が必ずしもあるわけではない。でも弁護士は法律という軸がありここをベースにアドバイスができるのは強みであり、面白さなのかなと。
また、クライアントからの信頼を得やすい立場にあると思います。比較的若くても色々な会社の経営陣の方々と会社の意思決定について話し合い、自分の意見を取り入れてもらえるというのは、この仕事の醍醐味だと思います。

【編集部】 経営に参加しているみたいな?
【若松】 そうですね。弁護士だからといって法律のアドバイスをするだけではなく、素人考えでも取りあえず言って、違えば却下してもらえばいいというスタンスで、思ったことは何でも言うようにしています。
まだ若手の頃、「会議で黙って座っているだけなら給料泥棒だ」と言われました。本当にそのとおりで、言うのは自由ですし、「お前は黙っておけ」と言われないのが弁護士という資格の良さだと思います。受け入れてもらえるかどうかはクライアントが最終的に判断することで、こちらは考えたことを意欲的に、法律以外の面でも言うべきです。それが許されるのがこの仕事の魅力だと思います。

【編集部】 ワークライフバランスはどうですか。
【若松】 オフィスにいなくてもパソコンがあればできる仕事だと思うので、家での時間を作るように意識しています。休暇は自分で決めるような形のため、逆にオンオフのスイッチが難しいですが、例えば子どもの学校の行事などに合わせて、休みを作ろうと思えば作れる環境にはあります。

【編集部】 先生のような働き方に憧れる人も多いと思います。まだ進出のチャンスはありますか。
【若松】 仕事を見つけるにも仕事で成長するにも、人の縁が大事なのではないでしょうか。私も自分がこうしたいというビジョンを明確に持ってきたというより、縁で色々な仕事に出合い、目の前のクライアントのために、どうすればより良い結果を出せるかを軸として一生懸命やってきましたし、縁がうまく回ればチャンスはあると思います。
あとはやはり海外に行くには勢いが必要でしょうね。チャンスがありそうなときに勇気を出せば、海外でやっていくことは十分できると思います。

【編集部】 これからの時代を生き抜くために若手に求められる力は何だと思いますか。
【若松】 やはりアメリカはITテクノロジーが進んでいます。リーガルテックも進み、ゴールがはっきりしている作業はどんどんAIに取られていくように思います。弁護士として強みになる部分はどこか、例えば依頼者ごとの事情や個別の背景をも踏まえながら、何が論点となるのか、どういう作業が必要になるのかを判断する力などがますます重要になると思います。

【編集部】 若いうちに何をしておいたら良いでしょうか。
【若松】 何となく自分はこの分野が苦手だなと思って避けているものがあると思います。例えば特許のように理系の知識が必要な案件は、難しいからやりたくないなど。その要素は期を重ねれば重ねるほど強くなると思います。まだ若くて真っさらなうちに、色々なものに対してちょっと手を出してみる。私にとって英語での仕事がそうだったように、やってみたら実は好きかもしれない。
若いうちだからこそ専門分野との兼ね合いも気にせず好き勝手に、自分の知らないことの言い訳もしやすいので積極的にやると良いと思います。

画像 【編集部】 法曹志望者の激減についてはどう感じますか。
【若松】 弁護士という資格があってこそできる面白い仕事が沢山あります。
極端に言えば資格取得後に弁護士をやめてもいいと思うんです。でも、弁護士になるための勉強、経験、論理的な思考力と、法律に対する考え方は、何をするにしても武器になります。会社員とは違い、自分の力で信頼を勝ち取ってビジネスを作っていける強みがあります。司法試験という入り口がある分、相対的には競争は激しくないはずです。
弁護士という職業が魅力的であることは、法曹人口が増えても、昔も今も変わっていないと思います。是非若い方々にも目指してもらいたいですね。

離島で活躍する弁護士

橋爪 愛来先生 【編集部】 自己紹介をお願いします。
【橋爪】 2018年5月に引っ越してきて、7月から隠岐ひまわり基金法律事務所(以下「隠岐ひまわり」)の所長になりました69期の弁護士です。隠岐ひまわりは、司法過疎地域対策、「弁護士ゼロワン地域」解消のために日弁連・弁護士会・弁護士会連合会が支援し、設立した、各地の「ひまわり基金法律事務所」の1つです。2015年に設立され、私は2代目の所長 で、任期は3年、2021年7月までこちらにいる予定です。

【編集部】 隠岐の島は、どのようなところですか。
【橋爪】 隠岐の島には松江地裁西郷支部があり、島後(どうご)と呼ばれる隠岐の島と、島前(どうぜん)と呼ばれる中ノ島、西ノ島、知夫里島の4つの島を管轄しています。人口は隠岐の島で約1万4,000人、島前3島も合わせて 合計2万人ほどです。産業としては、漁業が一番の収入源です。

【編集部】 隠岐の島に弁護士は何人いますか。
【橋爪】 2人です。もう1人は法テラス西郷法律事務所の先生で、70期の男性です。昨年の1 月に赴任されました。

【編集部】 なぜ隠岐に来たのですか?
【橋爪】 修習前に、父島の夕日が世界で2番目にきれいだとテレビ番組で見たことなどをきっかけに、船で片道24時間かけて小笠原諸島 へ旅行に行きました。
そこから離島を好きになってしまって。1人で行ったので、いろいろな人と知り合いになりました。その場で出会った人や住んでいる人と話したり、飲んだりしたのですが、小笠原には裁判所もないし、士業もいないんです。人口が二千数百人くらいで、何かもめごとがあったら、地元の有力者のような人が全部解決する。解決できているのか分からないのですが、とにかくその人がすべてという感じらしいのです。
私はまだ修習前でしたが、それでいいのかな?と感じました。私はこういう人たちの役に立ちたい、離島で弁護士をやりたいと思うようになりました。私は東京で弁護士をしていましたが、1年が経った頃に所長を募集していたのが隠岐ひまわりで、思い切って応募しました。まだ結婚したばかりでしたが、夫の理解を得て、単身で島に行くことになりました。

【編集部】 どのような事件が多いですか。
【橋爪】 主には離婚、相続、交通事故など一般的な個人の事件で、あとは成年後見も多いです。会社の事件もありますが、会社といってもほぼ個人のような感じです。刑事事件はゼロです。2018年は私選の刑事弁護が2件ありましたが、2019年は刑事は相談のみで受任はありません。

【編集部】 弁護士2人ですと、当番弁護が大変なのでは。
【橋爪】 いえ、隠岐の島警察署にある留置施設は現在使われておらず、逮捕されるとそのままフェリーで松江に連れて行かれます。つまり、身柄事件は全部松江に行きますので、当番弁護がないのです。

【編集部】 手持ち事件は何件ですか。
【橋爪】 (2019年10月末時点で)57件です。終わりかけているものや債権回収をしているだけのものなども含めてです。

【編集部】 その中で訴訟は? 傾向として、やっぱり訴訟は少なくなるのでしょうか。
【橋爪】 そうですね、少ないです。そもそも地裁と家裁は3か月に2回しか期日が開かれないので。現在の訴訟は4件です。

【編集部】 弁論期日が3か月に2回?
【橋爪】 口頭弁論、弁論準備、それに家事調停も破産の債権者集会も全部その期日にやります。裁判官も1人なので、全て同じ裁判官です。

【編集部】 提出書面など全てこの日に合わせて準備するというのは大変ですね。
【橋爪】 期日の1週間前に全部出せと言われるので、そのときは大変です。ただ、現在の訴訟のうちの2件は簡裁の事件で、簡裁の判事は常駐で地裁とは関係なく期日が入るため、多少分散しています。簡裁のほうが早く期日が入るということもあってか、訴訟が付調停になることもあります。

【編集部】 事件の進め方や例えば調停委員の雰囲気など、東京と違うと感じることはありますか。
【橋爪】 狭い島なので、調停委員と当事者が島の中で普段会ってしまうことが結構あります。調停の最初に、町中で会っても挨拶はしませんと調停委員が必ず説明するんですよ。もともと知り合いだろうと、とにかく私たちは町中であなたに会っても挨拶しないけれど、気分を悪くしないでねと。

【編集部】 そういう人間関係だと、そもそも訴訟も調停もやりたくないという人もいるでしょうね。
【橋爪】 そういう人は多くて、それで我慢する人がすごく多い気がします。あまり強硬なことはしたくない、やっぱり裁判所に申立てをするのはすごくおおごとのように思って。

【編集部】 すぐ知れ渡ってしまいますもんね。
【橋爪】 裁判所に出入りしているだけでうわさになるとか。弁護士に相談していることも知られたくないと、ばれないように別のところに車を止めて隠岐ひまわりまで歩いてくる人もいます。

【編集部】 島民性のようなものを感じることはありますか。
【橋爪】 理屈よりも気持ちが大事というような人が多いです。例えばお金を貸して返ってこないという相談が多くありますが、結局返ってこないのは分かっているし、返さなくてもいいけど、感謝の気持ちとか言葉が一切なかったことに対する怒り、そちらでボルテージが上がってきてしまう。
相手を信頼してやっていたのに。あの一言があれば違ったのにとか。人同士が近いので、信頼関係がすごく大切と言う人が多いと思います。

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画像 【編集部】 隠岐ひまわりの事務所は隠岐の島にありますが、島前の3島から日帰りで相談に来ることはできるのですか。
【橋爪】 今の時期は可能ですが、冬は無理です。12月から2月は高速船が休航期間のため、島前に帰れないんですよね。隠岐の島から島前は日帰りできます。ただ、島前に行くと、フェリーの時間の関係で午前か午後が全て潰れてしまう、若しくは1日がかりになってしまうので、急ぎの方は電話で聞いてしまうこともあります。無料で。

【編集部】 島前で法律相談会などは行っていますか。
【橋爪】 各島に島根県弁護士会が開設した島前法律相談センターがあり、月1回法律相談会を行っています。私が西ノ島町に行く月は、法テラスの先生が海士町・知夫村に行くといった具合に、交代で行っています。

【編集部】 仕事以外ではどのように過ごされていますか。
【橋爪】 今一番参加しているのは、地元の合唱サークルの練習です。あとは飲んだり、ちょっと運動したりで、最近ジムに入りました。バスケにも誘ってもらって、大会にも出ました。
あと、花火大会の運営委員会に入ったり、音楽祭などのイベントの運営にも参加したりしています。私は東京育ちですが、東京ではそんなイベントの運営に携わる機会なんてありませんでした。こういう小さいところでみんなで助け合って、盛り上げようみたいな感じで、すごく楽しいです。

【編集部】 隠岐の島に来て良かったですか。
【橋爪】 はい、良かったですね。本当に私がやりたいと思っていた仕事ができています。もともと私は個人対個人の仕事がしたいと思って弁護士になりました。弁護士になる前に大手法律事務所のパラリーガルの仕事をしていたのですが、扱う事件が大き過ぎて、自分が何をやっているのか分からない。面白いのですが、私は何をやっているんだろうとなってしまって。
私はそういう大きい会社の仕事ではなく、「今、目の前に座っている人」対「私」の仕事、人間味のある仕事がしたいと思っていました。隠岐の島は人間関係もすごく密だし、それがやりづらいときもあるのですが、それこそ飲み会で知り合った人から相談を受けることもあり、ほとんど個人の仕事で、まさに、やりたかったことをやっている。やりがいをすごく感じます。

【編集部】 特にやりがいを感じた瞬間などはありますか。
【橋爪】 すごくベタですけど、やはり感謝されたときです。個人の方は、自分で弁護士費用を支払う。だから、会社の担当者の人とは意気込みが全然違うと感じます。自分で払う分、思い入れがあり、希望もたくさんあって。もちろん全部かなえられないこともあるし、何か申し訳ないなと思うことを言わなければいけないときもある。そういういろいろをくぐり抜けて、最後、ありがとうございましたと言ってもらったときが、やはり一番うれしいですね。やっていて良かったと心から思います。

【編集部】 東京でやっていたときと違いますか。
【橋爪】 1人なので、先輩弁護士と一緒にやっているのとは、やっぱりちょっと感覚が違いますね。私の責任だと思う。どんなに嫌でも自分でやらないといけない。大変だった案件ほど、最後に感謝されると、やって良かったなと感じます。

【編集部】 3年の任期満了後について、何か考えていますか。
【橋爪】 いろいろ考えていますが、ずっと地方と関わり続けていきたい、援助の手が必要なところに関わり続けたいと思っています。

【編集部】 弁護士の魅力はどういうところにあると思いますか。
【橋爪】 弁護士だからこそ、できることがたくさんあります。私が資格も何もなく隠岐に来たらできなかったことが、弁護士というだけで、いろいろできている。
また、都会では、私のようにまだ弁護士になって3年目くらいでは絶対できないようなことも、いろいろできているということに、赴任して1年くらい経ってから気付きました。例えば、破産管財人や相続財産管理人などは、都会ではなかなかできないと思います。内容がそれほど複雑でないというのはありますが、弁護士として年次が上がらないとできないことも、こちらではできる。やらせてもらえるし、やらなければいけない。
あと、行政の委員会などの話が多くきて、いろいろな委員などになっています。隠岐の島町の情報公開審査会の委員をやっているのですが、これまでは1回も開かれていなかった審査会が最近初めて開かれることになりました。委員は10人いますが、今回が初めての例なので、役場の人も分からない、委員の方々も分からない。私は委員の中で最年少だと思いますが、法律のことはもう先生しか分からないからと、審査会の会長になってくださいと言われました。私も初めてのことで何も分からないので、「えー?」となりました。議事運営も答申もどうしたら良いか分からないし。私も困って、支援委員会の先生に相談したりしています。私がこのようなことを任されるのも、隠岐ならではというのがありますが、それもやはり弁護士という資格があってのことです。
弁護士であるからこそ、できている経験ですし、いろいろな形で地域に貢献できていると思っています。

【編集部】 若い人で、自分も飛び出して何かやりたいけど、ちょっと勇気がないという人に、何か一言。
【橋爪】 多くの方々のバックアップがあって、たぶん弁護士人生の中で一番濃い日々を、今過ごさせてもらっています。私は、今できることは、できるうちに全部やってみたいと思うタイプです。まだ子どもはいないのですが、子どもが生まれたらできないと思うと、今やらずにどうするんだと。若い人たちは、怖がるより、自分の代え難い経験になるという考えで、是非、いろいろやってみてもらいたい。最初の一歩がなかなか踏み出しにくいかも しれませんが、踏み出したら素晴らしい経験になるかもしれない。私も30歳を過ぎて、こんなに新しい世界が見えてくるとは、本当に思っていなかったので。

【編集部】 最後に、これから弁護士を目指す人たちにメッセージを。
【橋爪】 弁護士になって、今は本当に望んでいたとおりの夢がかなっている。やりがいの感じ方が、もう全然違います。皆さんも、なぜ弁護士になりたいと思ったのかを忘れずに、頑張ってもらいたいと思います。初心を忘れずに。

地方自治体で活躍する弁護士

画像 【編集部】 まず、先生のご経歴を教えていただけますか。
【中澤】 1997年に大学を卒業して、1年間、大手法律事務所でパラリーガルとして勤務した後司法試験の勉強を始めて、2001年に合格し、2003年に弁護士登録をしました。最初は大手渉外事務所に1年強おり、その後、主に民事再生を扱う事務所に移り、さらに、妊娠を機に一般民事を取り扱う事務所に移りました。その事務所に籍を置き在宅で仕事をしながらもほぼ育児休業という状態に入り、約5年半そのような状態でいました。下の子が1歳を過ぎたのでまた働こうかなと思い、元の事務所に戻ることも考えましたが既にほかの方が入所されており、ほかを探しているときに、弁護士会のひまわり求人情報で国立市の嘱託員の募集を見つけました。嘱託員というのは特別職の公務員なのですが、勤務時間の都合も良かったので、応募し、運良く採用されたのです。

【編集部】 そのころ、お子さんは何歳でしたか。
【中澤】 2人いて、上の子が5歳、下の子が2歳でした。

【編集部】 嘱託員のあと、任期付き職員に就任されたのですね。
【中澤】 嘱託員で1年間働いているうちに任期付き職員の条例を作ることになって、その翌年から任期付き職員となり、債権管理担当課長として勤務しました。最初の5年の任期が終わり再度採用されて、現在任期の2年目なので、通算だと8年目です。

【編集部】 国立市には、ほかにも任期付き職員の方はいらっしゃいますか。
【中澤】 弁護士では私だけです。

【編集部】 次に、国立市では、どのようなお仕事をされているのか、業務内容をお聞かせいただけますか。
【中澤】 まず庁内の法律相談です。各部署からの相談を随時お受けしています。また、訴訟案件について、指定代理人として、委任している顧問弁護士の先生に事実関係をお伝えしたり、書面を確認させていただいたりしています。また、行政不服審査の審理員の業務をしております。庁内の法律に関する研修の講師や、管理職なので議会の対応もします。

【編集部】 法律相談では、どの部署からどのような相談が来ることが多いのですか。
【中澤】 本当に多岐にわたっています。福祉関係の部署からは、ある課題に直面したときに、どこまで市が関われるでしょうかというようなご相談が多いです。契約関係や、建築、道路関係の部署の相談もあります。
また、職員の処分関係もあります。それは労働事件に近いというか。

【編集部】 行政不服審査の審理員としては、どのようなことをされているのでしょうか。
【中澤】 平成28年4月に行政不服審査法が改正され、審理員が最初に審理員意見書を書くことになり、その意見書をもとに行政不服審査会が答申を出し、裁決が出る形になりました。その意見書を書く業務です。これはやってみると、裁判官に似ており、争点整理から事実をどうやって引き出すかという点に注意しています。

【編集部】 どういった内容の研修の講師をされるのでしょうか。
【中澤】 リーガルマインドをどうやって育てれば良いかといった研修や、クレーム対応などです。今年は民法の改正があるので、その研修も行う予定です。

【編集部】 国立市役所の職員は何人くらいいらっしゃるんですか。
【中澤】 正規職員が470名くらいです。その他に嘱託員、臨時職員が合計で670名くらいいます。

【編集部】 それだけの規模で、弁護士資格を持った任期付き職員がお1人だけというのは大変 ですね。 ほかの自治体ではどのような体制になっているかご存知ですか。
【中澤】 多摩地区では、町田市、多摩市、国分寺市、西東京市、調布市、青梅市と、最近では日野市に弁護士の任期付き職員がいますが、2人いるところは多摩市だけです。

【編集部】 3つの法律事務所での勤務を経て市役所に入られたとのことですが、法律事務所と市役所との違いは何かありますか。
【中澤】 市役所では、勤務時間が限られている点がとても良いことです。勤務時間は午前8 時半から午後5時15分までで、私は育児がある ので定時になったら帰ります。

【編集部】 定時で帰っても、周りから何も言われませんか。
【中澤】 市長も私がバスに向かって走っていると、頑張ってと声をかけてくださいます(笑)。

【編集部】 育児への配慮 は法律事務所と市役所で違いはありますか。
【中澤】 法律事務所の場合、自分でどれだけやりくりするかということだと思いますが、市役所では、子どもが熱を出したときなどに有給で1人につき5日間もらえる看護休暇という制度があるので、それは非常にありがたいです。そのほかにも有給休暇が20日間あります。また、減給にはなりますが、子どもが小学校に上がるまでは時短勤務が可能です。
私の場合、業務量が膨大というわけではないので、自分でコントロールできています。休みも好きなときに取れています。

【編集部】 任期付き職員のやりがいやメリットを教えていただけますか。
【中澤】 公益というのでしょうか。みんなのために、というところがやりがいや動機になっています。

【編集部】 嘱託員から数えて8年目とのことで、今はもう慣れていらっしゃるかと思うのですが、当初、市役所に入って苦労されたことはありましたか。
【中澤】 決裁や、予算・決算など、市役所の内部システムが全く分からない状態で入ってしまったので、理解するまでとても大変でした。課長になってからも管理職としての指導な どは特段なく、議会対応も見よう見まねでした。債権管理条例という条例を1つ作りましたが、そのときも見よう見まねで。当時、私は債権管理担当課長で、その下に市債権係というのがあって、その係長も兼務しました。市債権係に職員として1人だけ部下がいましたが、その職員がとても優秀で、私はその職員のおかげで何とかできたという感じでした。
彼は普通の職員でしたが、本当に優秀だったので、司法試験を受けたらと勧めました。すると、予備試験からあっという間に受かってしまいました。現在は弁護士として法律事務所に勤めています。
これまで経験した業務の中で、条例を1つ作ったというのは大きなことですね。所管の課長というのはとても大きな責任を持つものなので、初めて議会対応もやって、全会一致で可決して成立したので、うれしかったです。

画像 【編集部】 どんな条例ですか。
【中澤】 内容としては、地方自治法と同法施行令に規定はありますが、それを引き直した上で、債権の放棄をするには議決が必要です。しかし、条例で決めていれば議決が必要ではなくなるので、その議決を不要とする事由を定めたことと、債権をきちんと管理しましょうということを決めたものです。

【編集部】 弁護士になられてから何年か、複数の法律事務所で勤務されたご経験がありますが、そのときのご経験がどのような形で活きていると思いますか。
【中澤】 全体的に、弁護士の知識や経験は全部活かせると思います。私の場合は、最初が渉外事務所でしたし、一般民事といっても民事再生が中心で、あまり経験はありませんでしたが、それでも契約書のチェックなどをやっていたので、どうすれば良いかというのは分かりますし、相続などについてもよく聞かれるので、普通の弁護士のスキルは全部活かせていると思います。

画像 【編集部】 国立市が初めて弁護士を採ろうと思ったのはなぜか、理由はご存知ですか。
【中澤】 国立市はもと もと税金の収納率がとても低かったのですが、職員の努力により上がりました。そこで、次は税金以外の債権もしっかり回収しましょうということで、1人弁護士を採ってマニュアルを作ってもらおうという経緯だったようです。ですから、最初に私が採用されたのは債権管理担当だったのです。
でも、入ってみたら、弁護士が入って訴訟を提起してまで回収する債権は、実は余りなかったんです。むしろ払えないから滞納してしまっているという債権が多くて、放棄してしまう方が多かったという感じです。

【編集部】 民間だとビジネス的な利害得失を重視すると思いますが、自治体は税金を原資として運営されるので、債権放棄にも特別な配慮をするものですか。
【中澤】 放棄してしまうと、財産の管理を怠る事実といって住民訴訟の対象になってしまうことがあるので、そうならないために理由付けをしっかりする必要があります。
何かやるときには住民訴訟のリスクを必ず考えます。

【編集部】 さて、弁護士資格の魅力はどこにあるとお考えでしょうか。
【中澤】 弁護士は、基本1人で全部決めて1人で責任を負うものだと思います。組織に入ってみて、それをしみじみ感じました。そのおかげで、組織人だけれども自分の意見や、自分が責任を負う意識は常にあります。組織人だから組織の決定には従いますが、それでも前例踏襲ではないものや、最後は自分が責任を負うからこうしようという気持ちになれるところがあります。
忖度するとか、周りに合わせるというのが弁護士にはないから、その性質が私はとても好きです。そうやって自分で責任を持って言える、自分でやっていけるというのはすごく魅力だなと思います。弁護士という肩書がなくなってしまえば、組織としての意見だから、自分個人の意見ではなくなってしまうという感じがします。

【編集部】 中澤先生の名刺にも「弁護士」と記載されていますね。
【中澤】 私は、実は入職して2年目くらいに事情があって弁護士登録を取り消したんです。それで弁護士ではない時期もあったんですが、日弁連の自治体等連携センターに入るために、去年の8月に再登録をしました。すると、自分が弁護士であることを、より意識するようになりました。弁護士としての発言に責任を持たなければいけない、そういった思いをより持つようになりました。

【編集部】 唐突ですが、今後やってみたいと思っていることはありますか。
【中澤】 児童福祉の問題に関わってみたいと思います。国立市には児相はないですし、どう関わっていくかという課題はありますが。自治体と弁護士をもう少し結び付けるということもやっていきたいと考えています。

【編集部】 自治体と弁護士の結び付きというのは、具体的にはどのようなことでしょうか。
【中澤】 多摩支部の方で最近、災害対策のプロジェクトチームができ、そこに入れさせていただいています。プロジェクトチームは自治体とも連携していくということが1つの目的の中にあったので、自治体の中と弁護士の側の両方にいながら、うまくつなげていけたらという思いがあります。自治体の中には、弁護士に対するニーズがとても大きくて、そのニーズをうまくとらえて、うまくつなげていくことで、何とか予算をつけてもらえる仕組みにすることができたら良いなと思っています。

【編集部】若手の弁護士に対して、メッセージをお願いします。
【中澤】将来が不安だとか、暗い話ばかり伺うことが多いように思います。個人事業主ですから、良くも悪くも自分次第なのかなというところがありますので、あまり悲観しないで頑張ってほしいですね。私も頑張ります。


【編集部】法曹志望者が激減していることについて、どうお感じですか。
【中澤】とても残念です。私は、これほどすてきな商売はないと思っているので。

【編集部】 どのあたりがすてきでしょうか。
【中澤】 弁護士法1条ではないですが、基本的人権の擁護と社会正義の実現。そこに1人の人間として、実現に携われるところです。

【編集部】自治体で任期付き公務員としてお仕事をされて、そのあたりを感じることは多いですか。
【中澤】 自治体に弁護士が入ることでどのように自治体の政策決定が変わっていくかということを研究されている方がいます。弁護士が入ると、例えば騒音などに対する規制行政が、発動されやすくなることがあるらしいのです。自治体側が今までよく分からないからやらなかったことを、弁護士が入ることによって法の執行ができるようになります。それが、弁護士が自治体に入ることの大きな意味だと思います。
私としては、全国の自治体に弁護士がいた方が良いのではないかと思います。

【編集部】 最後に、これから法曹を目指す方へ、メッセージをお願いします。
【中澤】 弁護士でなければできない仕事があるので、そこに誇りと自信を持ってやっていただきたい。弁護士がどのようなものなのかというのも、その人次第なので、そんなにマイナスイメージを持たないで、自分が変えていくというイメージでやっていただけたらと思います。