出版物・パンフレット等

弁護士の働き方改革

本企画では、「弁護士の働き方改革」と題して、業務効率化を実現している弁護士等を取材しました。取材を重ねると、様々な工夫を凝らして、仕事自体の時間を密度の濃いものにした上、仕事以外の時間も生み出し、ライフ・ワーク・バランスを実現していることが分かりました。仕事の時間が長くなりがちな弁護士業ですが、普段の時間の使い方を今一度、見直してみませんか。

①弁護士Aの日常から 業務の改善点を考える

①ある日のスケジュール

まず、ある弁護士の日常生活を見ながら、効率化できる部分を探してみましょう。
これはとある弁護士Aの3日間のスケジュールです。Aが働く上で現状抱いている悩みは以下です。
同じような悩みを持っている方、もっと業務量や作業時間が膨大な方もいらっしゃるのではないでしょうか。

画像

②事務所外での時間を有効活用

まず、多くの弁護士に共通していることに、「日中の移動や待ち時間が長い」という点があります。通勤や裁判所・弁護士会に行く時間、期日間の待ち時間等を有効活用できる方法や場所が何かあれば、普段事務所内で行っている業務時間を短縮できるかもしれません。次に、事務所内での作業内容を改めて整理してみましょう。

③事務所内での作業内容を効率化

A弁護士が事務所にいる時間のうち、何をどのくらいしているか、業務の内訳を調べてみました。

画像

グラフから、起案以外の時間が全体の過半数を占めていることが分かります。また、事務所内での執務時間が長くなればなるほど、合間にこまめに取る休憩時間(だらだらと眺めるネットサーフィン等も含まれます...。)も長くなり、その結果、仕事から完全に離れて余暇を楽しんだり心身を休めてリフレッシュしたりする時間が減ってしまうという無限ループにはまります。
ここで、事務所内での作業が必要だと考えられているものを洗い出してみましょう。

画像

メールの送受信は外出先で可能なのはもちろんですが、上記がそもそも全て本当に必要な作業と言えるでしょうか。仮に、まだ電話等がやむなく必要だとしても、事務所内でしかできないとは言い切れません。さらには、起案に集中できる環境も考え直す必要がありそうです。

②各人が望む業務スタイルを

編集部は、若手インハウス弁護士が在宅勤務を活用している企業、事務所外での執務や兼業を可能とする仕組みを確立した法律事務所、完全ペーパーレスでの業務を実践している弁護士、子育てと仕事の両立をしている弁護士等を取材しました。次ページからは、様々な特色ある働き方をしている弁護士の声をもとに、各事務所や企業が導入しているツールや生活の工夫、事務所外でのおすすめ執務スペースをご紹介していきます。
弁護士の業務形態は、年次や取り扱っている分野によっても千差万別です。本特集を通じて、いかなる働き方をしている方にとっても、慣例と思い込んでいることが本当に必要か、現状に応じて改善点を洗い出し、ご自身の希望が叶う「新しい執務の形」「時間の生み出し方と使い方」を考えるきっかけをご提供できれば幸いです。

在宅勤務・短時間勤務を活用する企業内弁護士の働き方
株式会社NTTドコモを例に

画像

①在宅勤務のノウハウ

①在宅勤務導入の経緯

在宅勤務の制度自体は、10年ほど前からあったものの、当時は育児をする女性のみが利用する限られた制度でした。働き方改革の一環として、また、東京オリンピック・パラリンピック開催時期に通勤が困難になることを見据えて、2年前から、社員全員に対して在宅勤務の積極利用を促すようになりました。
まず、テレワーク強化月間を8月と12月に設けて、同月は月に1回必ず在宅勤務を利用するよう呼びかけました。

②仮想デスクトップ等の活用

社員が個人で持っている自宅のPCなど、社外のPCからも社内のネットワークに接続可能なネットワーク環境(これを「仮想デスクトップ」と呼んでいます。)が整備されたことも、在宅勤務が定着した大きな理由のひとつです。
NTTグループで活用されている仕組みですが、「s-WorkSquare」という名称で社外にも販売をしており、まだ少数ですが、法律事務所での導入事例もあります。
仮想デスクトップとは、会社内で使用しているPCのデスクトップ環境を、自宅のPCやスマートフォンでも同じように表示し、会社内のサーバーに保存されている情報を操作できるようにする仕組みです。

画像

上の写真を見ると、モニター画面全面ではなく、内側に一回り小さな画面が表示されているのが分かります。ここが「仮想デスクトップ」です。仮想デスクトップ上で見られるものは、社内のPCで見られる情報全てです。仮想デスクトップを立ち上げると、自分のPCの画面が、会社内で使っているPC画面と同じになるとイメージすると分かりやすいでしょうか。
仮想デスクトップは、社内のファイルサーバーにつながっているので、社外にいても社内で作業するのと同様にデータを利用して作業することができます。一方、仮想デスクトップ内で使用したデータを、画面の外側部分に出すこと、すなわち自分の私用PC端末に保存することはできない仕組みになっているため、情報漏洩リスクがないのが大きな利点です。
仮想デスクトップ以外にも、NTTグループでは、「sMeeting」というクラウド型Web会議サービスシステムを開発・利用しています。
会議参加者のPC画面に同時に同じ資料を表示しつつ、資料にメモを書き込むことも可能です。音声も聞き取りやすいため、全国各地に支店があるなど、遠隔地にいる複数人で一度に会議をする際には、交通費や時間を削減でき、効率化に役立っています。これも仮想デスクトップ同様、各端末に会議内容や資料などのデータを保存することはできないようになっているので、秘密保持に対する配慮は万全です。
カメラの設定で顔が映らないようにもできます。顔が見えると、身だしなみを整えなければならず面倒だったり、自宅の部屋の一部が見えてしまってプライベートが明らかになったりするため、むしろ音声だけのほうが在宅勤務では好まれているようです。
また、株式会社NTTドコモでは、業務用携帯電話が各人に1台ずつ支給されており、携帯電話で社内の内線通話が受けられるので、在宅勤務時も外線からの問合せを受けることができます。

③情報管理の仕組み

各端末に情報を残さず、サーバー上で管理することが徹底されているのは前述のとおりですが、さらに社員には、在宅勤務をする際に、社内で印刷した紙媒体の資料を持ち帰ることを禁じています。USB等にデータを入れて持ち歩くことも禁止です。
いかなるPCやスマートフォンでも業務が可能なため、どこでも執務が可能です。しかし、執務場所は、原則自宅やシェアオフィスのみとしています。画面が他者から見える可能性があるカフェや旅先などの場所での執務は不可とし、情報漏洩の防止を徹底しています。

②短時間勤務を支える制度

①勤務条件や環境整備

在宅勤務以外にも、同社では働き方改革の一環として、短時間に集中できるような執務環境構築に努めています。
一部部門を除いて、フレックス制度が導入され、コアタイムは10時~15時です。原則20時以降の残業は禁止です。年間の有給休暇20日 も消化するよう推奨されています。
社内に各人1人ずつの机がありますが、それに加えて食堂とリフレッシュルームがあり、自席から移動して執務することも可能です。リフレッシュルームには、「オフィスグリコ」(オフィスコンビニサービス)を導入していて、お菓子を食べながらこまめに休憩をはさむことで集中力が維持できます。

②勤怠管理はデータを活用

社員は、原則として、毎月25日までに翌月の勤務計画を申請します。年休や在宅勤務は前日申請でも可能です。これらの申請方法は全て電子登録です。申請されたものの決裁も全て電子化しており、ハンコは不要です。
在宅勤務日を変更する場合には、前日までに上司にメールと申請をすれば変更できます。在宅勤務時の勤怠時間の管理にも、仮想デスクトップを使います。仮想デスクトップを起動している時間を勤務時間として管理し、事前に申請していた時間を超えて作業をしていると、アラートが出て、残業を申請するか作業をやめるか選択するよう求められる仕組みになっています。

③時短勤務で生まれた時間の使い方

余暇の時間の使い方は完全に自由で、大学院に在籍して研究をしている弁護士もいます。兼業も許可制ではなく、届出制で可能となっています。現在、男女問わず入社後勤務年数が長い人が比較的多いのですが、仕事から離れて余暇の時間が確保しやすいこともその一因ではないかと考えられます。

画像

④企業内弁護士の経験談

2019年4月入社の中島大明弁護士は、在宅勤務を活用しワークライフバランスを実現していると話します。

実家が千葉で、東京本社への通勤時間が比較的長くかかるため、月に1 ~ 2回平均で在宅勤務の申請をして利用しています。最大で月に8日間在宅勤務をすることが可能です。入社した年次は若いですが、会社全体で在宅勤務を活用することが推奨されているので、申請しづらい雰囲気は全くなく、在宅勤務の利用は歓迎されます。仮想デスクトップを利用すれば、会社にいて作業するのと同じ環境が整います。
NTTドコモでは、現在、金融や動画配信サービスなど多方面でのサービス展開を進めており、その関係で、 業務内容としては新たなサービスを始める際の契約書チェックが多いです。あるサービス全てについて、自分が1人で責任を持って関わることができる点にインハウスとしてのやりがいを感じています。
仕事をする上で、電気通信事業法をはじめ、複数の専門的な法領域の学習が必要で、日々新たな知識を習得する必要があります。現在、社内には10名を超える弁護士が在籍していますので、先輩弁護士から教えを乞うたり、部内の図書室を利用したりして仕事をしています。もちろん社内にいればその場で他の弁護士の意見を聞いたり調べたりすることができますが、在宅でも先輩とは電話で連絡できますので、不便を感じることはありません。

執務場所は各自が決める
Teamsを積極的に利用した新たな法律事務所の形
三浦法律事務所を例に

画像

法律事務所勤務弁護士かつ企業内勤務弁護士として勤務可能

Q現在の業務内容を教えてください。

【今戸】三浦法律事務所に籍がありますが、現在は、株式会社アイ・アールジャパンで常勤として働いています。金融関連法制を専門としているので、投資銀行部門へのファイナンスアドバイスやコンプライアンスチェックなどを行っています。今は、アイ・アールジャパンでの業務が8割、事務所で扱う業務は2割程度ですので、事務所でM&Aなどの大型のプロジェクト案件にメインで関わることはしませんが、訴訟案件で法廷に立つこともあります。

【金山】私は、大学卒業後は、法学部研究室、弁護士事務所を経験してから、国土交通省で勤務し、グーグル合同会社を経て、三浦法律事務所に入所しました。現在は、事務所の案件を中心に仕事をしています。これまでのキャリアを生かして、不動産・建設・交通に関する案件に取り組んでいます。学校法人等のガバナンスにも関心があり、今後は事務所に籍を置きつつ、またどこかの企業等で兼業することも考えています。

【佐藤】現在、株式会社メルカリの正社員として働いています。仕事全体のうち、メルカリでの業務が8割、事務所での業務が2割程度です。元々メルペイ(メルカリが提供するスマホ決済サービス)の立ち上げのためにメルカリに入社しました。メルカリではFinTech や金融関連法に関する業務を扱っています。今は法務部ではなくファイナンスチームに所属しています。事務所での仕事は、ベンチャー企業やVC(ベンチャーキャピタル)からの相談が多く、利用規約や資金調達などのアドバイスを行っています。

Qほかにも兼業をしている弁護士はいますか。

【今戸】います。弁護士会の副会長をしていた弁護士もいて、会務と社外役員としての業務が中心だったようです。

②事務所外での執務を実現する仕組み

Qどのような制度を導入しているのですか。

【金山】事務所からノートPCが各弁護士に支給されていて、そのPCでのみ取扱業務の資料にアクセスできるようになっています。Teamsを活用しており、事務所全員が入っているグループ、プロジェクトごとのグループがあり、そこで情報共有やコンフリクトチェックを行います。
書類管理は、「SharePoint」というソフトを使っています。ただ、個人的には、「Google Docs」のほうがより使いやすいと思っています。「Google Docs」ですと、会議をしながら同時にその場で資料が作れて効率的です。

【今戸】事務所の机は、固定席か、場所を決めないいわゆるフリーアドレスかが選べます。
訴訟を担当していると完全にペーパーレスにすることはできませんし、本など私物の置き場所が欲しいので固定席にしています。

【佐藤】私は、今の業務では紙はほとんど使いません。日中はメルカリや顧客先にいることがほとんどで、事務所では固定席は不要なためフリーアドレスにしています。

画像

Qメールや電話は使いますか。

【金山】メールや電話も使います。事務所から携帯電話の支給はありませんが、NECの「UNIVERGEどこでも内線サービス」が利用できます。これを使うと、自分の携帯電話から通話する際、事務所の内線直通番号から相手方へ発信した表示になり、事務所外で対応する際に便利です。

【佐藤】私も、依頼者の希望に合わせて、電話、 メール、Slack、Facebook、Messenger、Googleハングアウト、Skype、Zoomと色々使います。

FAXや郵便の管理はどうしていますか。

【今戸】5人の弁護士に対して1人の秘書スタッフがついており、そのスタッフが管理をしています。

情報管理(守秘義務)で気を付けていることはありますか。

【佐藤】私は現在務めている企業の業務の性質上、他企業の情報に触れることは避けなければなりません。そのため、事務所の弁護士間で共有しているSharePointなどへのアクセスを、あえてできないようにしてもらっています。

【金山】資料をUSB等で持ち出したり、自分個人のメールアドレスに転送したりすることは禁止です。カフェなどで作業するとPCの画面がほかの人から見えてしまうおそれがあるので、私の場合は事務所か自宅で作業をすることが多いです。

Q事務所にいる時間が少ないことのデメリットと、その対応策はありますか。

【金山】ほかの弁護士の意見を聞いて議論をしたいときには直接会ったほうがいいと感じることはありますし、何気ない会話の中にヒントが見つかることもあります。ただ、Teamsなどでテレビ会議等もできますので、特定の弁護士と話したいときはテレビ会議等を利用して議論しています。

【佐藤】teamsを追っていればある程度事務所の動きは分かりますし、2週間に1度は全体会議もあるのである程度はフォローできていると思います。兼業先がある弁護士は毎回出席が必須ではないのも私は助かっています。

【今戸】年に1度、弁護士間の交流を兼ねて合宿も開催しています。近場で1泊、かつ希望者は日帰りも可能なので、子育て中でも参加できます。

Q法律事務所勤務と企業内勤務で働き方に違いはありますか。

【佐藤】「法律事務所」「企業内」という括りではなく、各事務所や各企業によってカラーが全く違うという印象です。三浦法律事務所は企業でいえばベンチャーっぽくて、なんでも柔軟にチャレンジしていく気質が自分には合っていると思います。メルカリも自分が関わったことがプロダクトとして見えやすいのでそこにやりがいを感じます。

【金山】三浦法律事務所は自由度が高く、先進的なのはそのとおりで、これまで所属したどの組織よりも柔軟です。ラフな服装でも全く問題ありません。

【今戸】企業内勤務は、プロジェクト単位でしか関与できない法律事務所の仕事と違って、深く会社の実情を知ることができる面白みもありますし、社内とはいえ、弁護士だからこそ第三者的な立場で発言できるところもあります。また、時間のコントロールも利きますので、子育て中でも働きやすいと思います。

年間100日を海外で!
ペーパーレス業務実現の秘訣
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を例に

画像

画像

Q現在の業務内容と執務に使用しているツールを教えてください。

IT系企業の顧問先が複数あり、その法律相談をメインにしています。個人のお客様はおらず、顧客は全て企業です。現在、訴訟は受任しておらず、顧客と対面しての打ち合わせ、紙媒体を使ってのやりとりは行っていません。電話やメールは、顧客対応では使いません。事務局員はいません。それぞれ以下のオンラインツールを駆使して作業することで紙媒体を使わずに仕事ができます。

画像

Q使用するITツールを選ぶ基準は何ですか?

まず、世界規模で使用実績が多くあることです。利用シェアが大きいものはセキュリティ面も強いと思われるからです。また、例えば名刺管理に特化しているなど、1つのサービスを専門としている会社のツールであることも目安にして、自分でいろいろ使いながら決めています。チャットツールではChatworkのほかにもTeamsやSlackがありますが、Chatworkは初期 設定の方法が簡易で使い方がシンプルなので、今はこれに統一しています。初めてChatwork を使用する顧客にも、「メールやLINEが使えれば大丈夫ですよ」と言って導入してもらっています。テレビ会議ができるサービスも複数ありますが、Zoomミーティングは、資料を画面上でお互いに見ながら操作でき、音質も良く声が聞き取りやすくて一番使いやすいと感じます。

Q海外でお仕事をする場合に持って行くものは?

MacBook、iPhone2個(主に使うものと予備のもの)、充電アダプターだけです。
「AIRSIM」というサービスを使えば、普段自分が使っているiPhoneで、渡航先の国の携帯キャリアのネットワークが使えるように設定できます。AIRSIMは世界約80カ国で利用可能なSIMカード(携帯電話回線を使用した通話・データ通信をするために必要な携帯に内蔵するカード)です。
AIRSIMを入れれば各国どこでも通信ができます。渡航先の携帯キャリアは日本で言うところのドコモやau、ソフトバンクなどと同じイメージですから、Wi-Fi を使うよりも格段に安全で情報漏洩の危険がありません。滞在日数に応じて利用額が決まるので、使用料金も割安です。
MacBookは、iPhoneからテザリング(スマートフォンを介してPCでもネットワーク利用を可能にすること)をしてインターネットに接続します。
iPhoneを2つ持って行くのは、万一iPhoneを無くしたときに、手元にある方を使って、紛失したiPhoneの位置情報を検索したり、他人が使用できないように遠隔操作でロックを掛けたりするためです。

Q現在の業務形態を実現するに至るまでの経緯は?

弁護士になってすぐは、企業法務を扱う大手事務所に勤めました。パートナーや先輩アソシエイトから振られてくる案件で深夜まで事務所に張り付いて働く日々でした。この毎日を続けていていいのかと疑問に感じ、事務所を移籍しました。その後に勤務した事務所でマーケティングに関する知識を学ぶ機会に恵まれました。また、個人事件の受任が推奨されていたので、ITに関する案件を積極的に受任しました。
学生時代に自分でホームページを作るなど元々 ITに関心があったのと、複数事務所勤務で得た経験から、現在、独立してIT業界に特化した仕事ができています。業務分野を絞っているのは、自分の責任が持てる範囲の仕事のみを受け、それを正確かつ迅速に行うことこそが信頼につながると思うからです。自分の専門外の相談や訴訟案件は、修習時代や過去の事務所の同僚などの弁護士につなげます。Facebookも活用して情報発信や意見交換をしています。

Q仕事とプライベートの切り替えはどうしていますか。

プライベートの時間に仕事のことを考えたくないという声も聞きますが、私は全くそのように思いません。それは自分が好きなことがはっきりしていて、好きな仕事だけをしているからだと思います。ですので、仕事とプライベートを切り替える必要を感じていません。旅行先で仕事の問い合わせが来ても全く苦ではありませんし、先ほどご紹介した様々なツールを使ってすぐに対応できることで顧客の皆様から継続して仕事が頂けているのだと思います。「ワークライフバランス」というより、「ワークアズライフ」というイメージです。仕事そのものが生きがいで自分の生き方全体を作っています。

画像

Q今後目指していることはありますか。

仕事をしていく上で私が一番辛いと思うのは、自己決定の幅が少ないことです。私は自分の好きなこと嫌いなことがはっきりしている性格なので、シンプルに「好きなことだけする、嫌いなことはしない」と、受ける仕事と受けない仕事をはじめから分けています。現在、就学前の幼い子どもがいるのですが、それでも妻や子どもも海外に一緒に連れて行きながら働けています。今後また家族が増えるかもしれませんが、その時々のベストな生活を模索しながら、世界中で好きな仕事をして働いていくと思います。

双子の育児と仕事の両立できる仕事の見極めがポイント
花井ゆう子弁護士を例に

画像

画像

出産前から勤務していた事務所に、産後10か月で復帰しました。産休に入る半年前から新件は受任しないようにしましたが、従前から担当していた案件はほぼ全て事件終了まで担当し、残りは同期に託して産休育休に入りました。
復帰後は、毎日上記のスケジュールで働いています。まず先に家庭での生活スケジュールを決めて、それに仕事を合わせている形です。週1日のみ、東京家庭裁判所の家事調停官を務めています。家事事件は、仕事内容としてもやりがいがありますし、17時終業で残業があまりないことと、固定した収入が得られるということが有り難いです。家事調停官は、子育て中の弁護士でもやりやすい仕事だと思います。

短時間勤務の肝はメリハリと事務所の理解

以前は、1日10時間から12時間程度事務所で働いていたと思います。復帰後はほぼその半分になりました。短くなった分、通勤時間にメールを処理したり判例を読んだりして、事務所内で行う業務は起案と対面での打ち合わせのみにするよう努めています。また、朝は子どもが保育園に行くのをぐずったり、急に熱を出したりということもしばしばあります。そういったトラブルでも仕事に支障が出ないよう、できるだけ午前中に期日を入れないようにしています。
現在の業務内容は、家事事件が多いですが、それ以外の分野でも訴訟や調停を複数件受け持っています。出産前は、刑事や少年事件も担当していましたが、今は受任できないのが現状です。また、夕方以降の時間の打ち合わせは難しいことを事前に伝え、どうしてもといった場合には家族などの協力を得て対応するようにしています。夜の会食などには行かなくなりました。
子どもが近くにいると集中できないので、自宅では書類を作成するような仕事はしません。効率も出来も良くないので、思い切って土日は完全にお休みにしています。

画像

現在は出産前に比べれば担当できる案件数は減りました。それでも以前と同じように法廷に立ち、弁護士として働き続けられているのは、何より勤務先の理解と家族のサポートがあるからだと思います。事務所にいられる時間が短く帰宅時間が決まっている分、以前よりむしろ集中して働けているような気もしています。

移動時間を有効活用
コワーキングスペース紹介

画像

①STATION WORK

JR東日本株式会社では、 昨年から「働く人の"1秒"を大切に」をコンセプトに、 STATION WORK事業と銘打って、 主要駅構内外にワーキングスペースを設けています。

①STATION BOOTH

画像

STATION BOOTHは、今年5月現在、JR東京駅、新宿駅、池袋駅、立川駅、高輪ゲートウェイ駅、品川駅、有楽町駅に設置されています。同年中には、 仙台駅など新幹線停車駅を含めて全国30箇所に設置予定です。
編集部では、東京駅構内に設置されているSTATION BOOTHに行ってみました。扉にスモークが掛けられているため、 中に人がいることは確認できるものの、誰がどんな作業をしているか外からは見えません。席に座ってみると、圧迫感はなく、遮音性が高いため集中できる環境でした。清掃も定期的に入り、防臭の工夫もされています。冷暖房、送風機も完備されているので、暑さ寒さをしのいで休憩するのにも利用できそうです。外から他者が扉を開けることはできないので、女性1人の利用でも安心です。東京駅では特に出張の際の新幹線待ち時間等の活用に最適と感じました。
USBポートや電源のほか、ディスプレイが設置されていて、手持ちの機器と接続して大きな画面で作業することができます。Wi-Fiは、1アカウントを1人で利用する形のため、セキュリティは高度です。
当日空きがあれば、その場でSuicaを使って利用することもできますが、会員登録をすると、事前予約と利用時間の延長ができます。利用時間の1秒前まで無料キャンセルが可能です。会員形態は法人会員と個人会員があり、弁護士事務所が法人会員になることもできます。
利用料は、15分単位で、15分250円(税別)です。

②STATION DESK

画像

STATION DESKは、JR東京駅丸の内南口地下改札を出てすぐ、丸ビルとJPタワーの中間に位置しています。 利用料金はSTATION BOOTHと同様ですが、こちらは会員のみの利用です。靴を脱いでソファに寝そべりながら作業ができる席など6種類の座席があり、 好みの席を事前に予約します。扉で遮断して隣が完全に見えない席は人気で、 取材時もビジネスマンでほぼ埋まっていました。弁護士が作業をするにも、この個室型がよさそうです。 室内はとても静かで、フリードリンクや防音の電話ブースも用意されています。STATION BOOTH が短時間利用に向いている一方、STATION DESKは腰を据えて作業をするのにも適しています。

②ビジネスエアポート

ビジネスエアポートは、その名のとおり、国際空港ラウンジをイメージして東急不動産株式会社の100%出資会社が事業運営しているレンタルオフィスです。東京駅周辺をはじめ、品川、新橋、渋谷など、都内に11店舗あり、いずれも最寄り駅から徒歩2 ~ 5分です。今後都内で店舗数はさらに増える予定です。完全個室のシェアオフィス部分(「サービスオフィス」といいます。)とコワーキングスペース部分(「シェアワークプレイス」といいます。)から構成されていて、実際にサービスオフィスを弁護士が事務所として使用している例も複数あるようです。いずれも利用には会員登録が必要です。

画像

編集部では、東京メトロ千代田線「二重橋前」駅徒歩2分の「ビジネスエアポート丸の内」に取材に行きました。コンセプトのとおり、高級感にあふれており、皇居を一望できる美しい眺めで、落ち着いた雰囲気でした。防音の電話ブース、会議室、フリードリンクはもちろん、ライブラリなど充実した設備が揃っています。シェアワークプレイスを、1日あたり3,000円(税別)で利用できるプランもあります。
ただし、このシェアワークプレイス部分は、隣との間についたてがある席が用意されているものの、共有スペースとなっています。当日の客室状況次第で、より機密性の高いサービスオフィスを、1時間単位で利用することができます。個室で集中して起案をしつつ、時折、気分転換にシェアワークプレイスを利用するなどすれば作業がとてもはかどりそうです。

画像

顧問先訪問と裁判所での期日の間に数時間空いてしまったけれど往復する時間を加味すると事務所に帰る時間がもったいない、事務所では電話等で作業が中断されたり、思考が煮詰まったりして起案が進まない...そんなときの打開策として活用してみるのがおすすめです。