出版物・パンフレット等

インハウスレポート

組織内弁護士~公益法人での執務

神田 麻 Asa Kanda 68期

私は2019年4月から公益法人のインハウス弁護士として働いております。
2015年に弁護士登録してからインハウス弁護士となるまでの3年数か月は、法律事務所にて民事、家事、刑事といった事件を担当しておりました。弁護士になった当初は、実力をつけて早い段階で独立開業したいと考えておりましたので、将来自分がインハウス弁護士になるとは全く考えていませんでした。
法律事務所では様々な事件を担当することができ、大変面白かったですし日々やりがいも感じておりました。そのうち、企業や病院といった顧問先を担当するようになり、顧問先からの相談を数多く受けているうちに、企業法務の面白さも感じるようになりました。また、それと同時に、顧問先から問題が大きくなってから相談を持ち込まれるケースもあり、予防法務の必要性も感じるようになりました。顧問先で研修を行ったり、顧問先の担当者には何かあれば遠慮なく事務所まで連絡するように伝え、日頃からコミュニケーションを取ったりと出来る限りのことはしていたつもりでしたが、配置換えなどで担当者やメンバーが変わるとまた一からやり直しとなってしまったりと、法律事務所の弁護士が顧問先に関わることの限界を感じることもあり、この頃からインハウス弁護士なら限界なくチャレンジできるのではないかと考えるようになっていきました。
前述のとおり、私は早い段階で独立開業したかったのですが、インハウス弁護士への関心が高くなったため、法律事務所で3年間の経験を積む頃を目途にインハウス弁護士に転向しようと決めました。私は大学卒業後弁護士になるまで、臨床検査技師として医療機関で働いておりましたので、組織内で働くことに不安や抵抗を感じることはありませんでしたし、組織内で働くことは法律事務所よりもワークライフバランスが実現されると考えていたことも、インハウス弁護士への転向を決めた理由の一つです。
その後、法務部で募集をかけていた公益法人に採用され、無事インハウス弁護士となることができました。タイムカードで出退勤時間を管理されるようになり、また、机上に個人携帯を置いて仕事をするということもなくなったりと、法律事務所の弁護士とは違った労働者としての感覚を久しぶりに味わいました。
私の所属する法務部ですが、弁護士の採用は私が初めてで、私の他に3名の職員がおります。弁護士が一人しかいない組織の場合、他の職員との分業の仕方や、他の職員と弁護士との知識量や見解の違いなどで悩むことがあると聞いておりましたが、そのとおりであり、どうすれば円滑に業務を遂行していけるかが今後の課題です。現在は、職員に対し個別に講義を行ったり、何か疑問点があればその都度理解してもらうように努めることで、私も含め法務部のレベルの底上げをはかっているところです。
仕事の内容は、契約書のチェック、規程の整備、コンプライアンス問題の対応、顧問弁護士との連絡等々で多岐に渡ります。法律事務所時代にはあまり使うことのなかった知的財産法や独占禁止法の出番が多く、実践に臨みながら法律の勉強を進めることになりますので、とても面白いです。何か問題が発生すると法務部に一報が入り、問題発生から解決に至るまで全ての過程に関与することもできますので、大きな問題となる前に解決することができることに非常にやりがいを感じております。また、役員から直接質問を受けることもありますので、守りの法務に徹することがないよう心がけております。「それはできない。」と否定の形で終わるのではなく、何らかの代替案を示せるよう、今後も法的知見を増やし、調査能力を上げる努力を常にしていきたと思っています。
組織内には法務部だけでなく、総務部、経理部、広報部等の部署があり、全部で50名程の職員がおります。私の場合、初めて採用された弁護士であり、新入職員といっても新卒枠でもありませんので、皆さん最初は気軽には話しかけづらかったようです。弁護士と話したことがないという人がほとんどで、後日談によると、弁護士と何を話してよいのか分からなかったとか(笑)。私の場合は自分から積極的に話かけるというようなことはしなかったのですが、回ってきた仕事について丁寧に説明しコミュニケーションを図っていくうちに、自然と打ち解けていきました。医療従事者としての社会人経験が役に立ったと思います。
最後に、インハウス弁護士の執務は、法律事務所の弁護士の執務とは違ったやりがいがあり、ワークライフバランスも実現しやすい環境にあります。法律事務所での経験はインハウス弁護士にとって非常に役に立つ経験ですので、今後、インハウス弁護士に関心のある先生が、どこかのタイミングで短期間でもインハウス弁護士に転向し、組織内の法務に尽力してくだされば大変嬉しく思います。