出版物・パンフレット等

ネット中傷対策実務の基礎(前編)

1 講師紹介

司 会 清水先生は、TwitterやFacebookの投稿削除・発信情報開示の分野で日本で初めて決定を獲得され、著作物も多数です。今回は、基礎から解説していただきます。
清 水 著作多数とご紹介いただきましたが、主なものは4冊です。今回の内容は、その中でも『サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル』を発展させたものです。『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務─発信者情報開示請求と削除請求─』には実務に役立つよう、必要書類の書式も多数掲載していますが、残念ながら在庫も増刷の予定もないようです。

2 2つの対応策

ネット中傷の対応には基本的に2つの方法があります。1つは「削除」、もう1つは「相手の特定」です。
「削除」は、送信防止措置依頼や削除仮処分を使います。「特定」は、特定だけではあまり意味がないので、特定した上で対象となる人に対して直接警告をします。警告の例として、裁判ではなく内容証明郵便等の送付、損害賠償の請求、場合によっては刑事告訴が考えられます。

2 情報の削除方法~任意請求~

1 削除できる場合とその注意点

前提として、当然ながら、何でも請求すれば削除できるということではありません。削除できるのは、権利侵害、すなわち名誉毀損やプライバシー権侵害がある場合です。例えば、Twitterで誹謗中傷されている場合、特定のアカウントから何度も繰り返されることが多いため、依頼者から、当該アカウント自体を削除できないかと相談されることがあります。しかし、アカウントの削除は、原則できません。
ブログで誹謗中傷されることもあります。ブログ全体を削除するには、ブログ開設者へ直接削除するよう求めるか、裁判手続を通じ強制的に削除させることになるでしょう。しかし、開設者本人が任意に削除に応じることはほぼありません。裁判所も、表現の自由の観点から、アカウント全体の削除は基本的に認めないと考えた方がよいと思います。
削除はあくまで対症療法になるので、削除しても書き込みが続く可能性があります。
さらに、削除請求をすると、書き込みをした本人に対し、削除請求について意見照会されることがあります。その意見照会自体を、書き込みをした本人が公表してしまうことがあります。公にされても問題がなければよいのですが、プライバシーに関わる話である場合等、削除請求したことで2次被害が発生する恐れがあります。

2 削除方法

(1)直接削除を請求する

書き込みをした本人が判明している場合、その人に対して削除を求めるのが一番シンプルです。メール、手紙、その他の方法で削除を依頼します。

(2)サービス提供会社(コンテンツプロバイダ) に削除を請求する

ネット上は匿名でどこの誰が書いているのか分からないことが普通です。その場合、サービス提供会社であるコンテンツプロバイダに削除を請求することが考えられます。
例えば、「Yahoo!知恵袋」であれば運営会社であるヤフー株式会社に、「Amebaブログ」であれば株式会社サイバーエージェントに削除を請求します。

(3)サーバー会社に削除を請求する

サーバー会社に削除を請求するという方法もあります。例えばさくらインターネット株式会社やエックスサーバー株式会社などが、レンタルサーバーを提供しており、こうした管理会社に、「このコンテンツは違法なものだから削除してほしい」と請求します。

3 削除請求のフローチャート

そもそも、相手の連絡先が分かる場合でも、削除請求自体を相手から公表されてしまうことが懸念される場合、直接の削除請求はしないという選択肢もあると思います。
投稿者の連絡先が不明な場合には、運営会社やサーバー会社等の調査をして、削除請求していくことになります。ここで、さらに送信防止措置依頼と削除仮処分の2つの選択肢に分かれます( 図表1 )。送信防止措置依頼とは、簡単に言うと任意の削除請求です。
送信防止措置依頼で削除されなかった場合、仮処分は必須ではなく、そのままやめておくという選択も当然あります。仮処分をしても削除されないという場合は、これはいかんともしがたいのが現状です。

4 運営会社・サーバー会社の調査方法

(1)「WHOIS」の利用

会社情報は、ページの一番下に「企業情報」と記載されたリンクがあることが多いので、そこをクリックすると分かります。また、トップページにサービス提供会社名が掲載されていることもあります。まずはサイト内をくまなく探してみることです。
最近は、アフィリエイトサイトや、いわゆるまとめサイトが増えており、まとめサイトでは、運営会社という表示があったとしても、メールアドレスや連絡フォームがあるだけの場合も多いです。
この場合、「WHOIS」を使います。「WHOIS」とは、IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報が見られるサービスです。現在、「WHOIS」自体をいろいろな会社が提供しているので、使いやすいものを選んでいただければよいと思います。

(2)「aguse」の使い方

中でも、「aguse」(https://www.aguse.jp/) というサイトが使いやすいと思います。他の「WHOIS」のサイトでは、ドメイン名だけを抜き出して書くよう求められることがあります。ドメイン名とは、例えば私の事務所のホームページのアドレス「https://www.alcien. jp/」のうち、「alcien.jp」部分です。
最後のスラッシュが入ったりalcienの前のドットが入ったりすると、多くの「WHOIS」のサイトではうまく検索できません。「aguse」はURLをコピー &ペーストするだけでよいので使いやすいです。
URLを入力し、「調べる」ボタンを押すと、一番下のところに 図表2 のような表示が出てきます。
左側に「alcien.jpのドメイン情報」とあり、登録者名「Yohei Shimizu」とドメインを登録した人が表示されます。
右側に「正引きIPアドレスの管理者情報」があります。「WHOIS」でドメイン名を調べることを正引きといい、逆に、IPアドレスを調べることを逆引きといいますが、正引きドメインを調べると、それがどこのサーバー会社が持っているものかが分かるようになっています。「WHOISで調べる」ボタンを押すと、英数字だけの少し長いページが出てきますが、ここに「GMO Internet. Inc.」とあります。これでこのホームページは、GMOインターネット株式会社が保有しているサーバーを使って作られていて、そこにデータが格納されていることが分かります。
例えば、私の事務所のホームページに誰かの権利を侵害するような記載があるとすれば、弊所に直接削除請求する方法と、GMOインターネット株式会社に対して削除請求する方法があることになります。
この「alcien.jp」のドメイン情報の登録者名に表示されている人には請求ができないのかと疑問に思うかもしれません。試してみてもよいですが、結論として、法律上、この人は請求の対象にはなりません。なぜなら、ドメインを取得するための取得代行という制度があり、サイトのドメインを取得した人がそのサイトを管理運営しているとは限らないからです。
また、プロバイダ責任制限法上、ドメイン登録者は、「特定電気通信役務提供者」に当たりません。特定電気通信役務提供者は、電気通信のサービス業者のようなイメージです。ドメインを持っているというだけでは、電気通信に関わっているとは言えず、請求の相手方にはなり得ません。ですから、参考にはしますが、あまり重視し過ぎないようにしています。また、左側のドメイン情報の登録者には私の 名前が表記されていますが、公開連絡情報には「 Whois Privacy Protection Servise onamae. com」と記載されています。「Whois Privacy Protection」というサービスを使うことで、この表記を登録者名とすることができるため、どこの誰が登録したのかさえよく分からないケースが多くあります。

5 送信防止措置依頼書(テレサ方式)記載方法

送信防止措置依頼書の書式(テレサ書式)がプ ロバイダ責任制限法関連情報Webサイト(http:// www.isplaw.jp/)にあります( 図表3 )。
テレサはテレコムサービス協会という、電気通信事業者で作っている業界団体の略称で、ここからテレサ書式と呼んでいます。

(1)特定電気通信役務提供者の名称

書式の左上に「特定電気通信役務提供者の名称」とあります。ここには、削除を依頼する相手を書きます。サイト管理者名やホスティングプロバイダ名で、例えばヤフー株式会社やエックスサーバー株式会社などと記入すればOKです。

(2)権利を侵害されたと主張する者

「権利を侵害されたと主張する者」は、弁護士が行う場合は依頼者の住所、氏名を書き、連絡先に代理人弁護士の情報を記入します。
依頼者が法人の場合、氏名欄には会社名を記入し、代表取締役名は不要です。代理人弁護士の情報は、氏名、事務所名、住所、電話番号、ファックス番号等ですが、私はメールアドレスも記載するようにしています。

(3)掲載されている場所

「掲載されている場所」欄には、URLを記入します。ただし、ブログ等のトップページのURLだけでは不十分です。冒頭で、アカウント全体の削除はできないとご説明しましたが、トップページのURLを記載するとアカウント全体の削除を指定してしまうことになるため、場所を特定して明示します。記事のタイトルや記事が更新された日付をクリックすると個別の記事のURLが表示されるはずですので、それをコピー &ペーストしてください。
例えば、「2ちゃんねる」「したらば掲示板」などの掲示板の場合には、掲示板全体のURLだけでなく、どの番号の書き込みが問題かを指定することが重要です。

(4)掲載されている情報

「掲載されている情報」は、問題の書き込みの内容を箇条書きにするか、長すぎなければ、内容をコピー&ペーストします。

(5)侵害されたとする権利

「侵害されたとする権利」は、不法行為になり得るものならどのような権利でもよいとされています。私がよく書くのは、名誉権、プライバシー権、営業権、著作権です。

(6)権利が侵害されたとする理由

「権利が侵害されたとする理由(被害の状況など)」は、一番重要なところです。最近はSNSでも実名を使用する人もいますが、同姓同名の他人ではないかどうかをまず検証します。また、例えば伏せ字や当て字になっている場合に、これが依頼者のことを指している理由を説明できないと、権利侵害なしとされかねません。ここを聞き取り文章化する作業が重要です。
その上で、その書き込みの内容がどういう理由で権利侵害なのかを説明します。名誉棄損なら社会的評価の低下の存在が必要ですので、その書き込みにより、どのように社会的評価が低下するのかということを書かなければなりません。違法性阻却事由があれば削除されにくくなるため、その点も含めて説明し、証拠もあれば添付します。

6 送信防止措置の流れ

(1) 概要

送信防止措置の申立ては、プロバイダ等に依頼書を郵送します。削除依頼を受けたコンテンツプロバイダは書き込みをした人に対して7日の猶予を設けて意見照会をします。実は、会社によって期間に差があり、原則7日です。反論がなければ削除してよいことになっています( 図表4 )。
ただ、どこの誰が書いているのかをコンテンツプロバイダも知らないことが多いです。ブログやSNSを開設登録する際に住所は普通入力しませんし、記載があってもメールアドレスや電話番号が関の山です。ですから、 図表4 に「配達記録郵便等で削除等の措置を講じて差し支えないかを照会」とありますが、困難な場合が多いです。その場合、登録されているメールアドレスに意見照会を送るというのが基本です。 SNSやブログと違い、掲示板では登録の必 要もなく誰でも書き込めるのが一般的で、この意見照会さえできないことが多く、意見照会なしで削除されるパターンもあります。 ただ、掲示板のスレッドを立てるのにメールアドレスの登録が必要なサイトもあるため、その場合にはスレッドを立てた人に対して、こういう削除依頼が来ているが削除してよいかという意見照会をする例はあります。
このあたりは、どのサービスなら意見照会がされるのかをきちんと把握しておかなければ、送信防止措置を採ったことでさらに情報が公にされてしまう恐れがあることに注意が必要です。

(2) その他必要書類等

送信防止措置依頼書の押印は、原則弁護士印のみです。まれに、依頼者の押印を求められることがあります。しかし、委任状も合わせて提出し、委任状には当然依頼者が押印します。「訴状に当事者の印鑑を押さない一方、裁判手続でもないものに、なぜ当事者の印鑑を要求するのか理解不能である」、「押印を求める法的根拠を求める」などの反論をしてください。
誹謗中傷されている対象(URLが明記されているもの)を印刷した用紙も必要です。Google Chromeを使うと原則としてURLも印刷されるようになっていますが、Internet ExplorerやEdgeでは、URLが印刷されない設定になっていることが多いようなので注意が必要です。
URLは送信防止措置依頼書に記載されていますが、それと印刷した用紙の記載が本当に一致しているのか、書面上明確にすることが重要です。
あとは、本人確認書類です。個人の場合には、印鑑証明書、免許証、パスポート等のコピーが必要です。印鑑証明書だと原本を求められることが多いため、依頼者に取ってきてもらうことになり面倒ですから、免許証のコピー等がおすすめです。
法人の場合には、印鑑証明書が必要です。本人確認書類のほかに、原則として委任状も提出する必要があり、委任状にも当然これと同じ印鑑を押してある必要があります。さらに、場合によっては、法人の現在事項証明書を求められることがあります。プロバイダ責任制限法のガイドラインには、現在事項証明書が必要と書かれているため、あらかじめ取って一緒に送った方がよいと思います。
代理人の身分証や職印の印鑑証明書を要求されることもあり得ます。

(3) 送信防止措置依頼の注意点

大前提として、送信防止措置「依頼」という表現から分かるとおり、「請求」ではないということです。請求ではないということは、「強制力がない」ということです。加えて、裁判で請求することもできません。送信防止措置請求訴訟のようなことはできないということです。ただし、以下のような問題があれば削除される可能性は高くなります。
①まずは、ブログが更新されていない場合です。なぜなら、意見照会をして7日以内に回答がない場合は削除可能というルールになっているからです。
削除依頼を受けて、投稿者が削除してくれるパターンもあるでしょうし、送信防止措置依頼書を受け取ったコンテンツプロバイダが、利用規約に反していたという理由で自主的に削除する例もあります。ですから、内容がいかにひどいかということを検証することは重要です。
③書かれている内容が真実ではなく、それを裏付ける証拠があるとなれば、投稿者が削除する可能性は高くなります。
④これは少し観点が違いますが、投稿者が理性的判断をすることができる人物である場合です。意見照会を見た投稿者が、削除しようと思ってくれれば削除されるわけで、それを期待して送信防止措置依頼を行うということもあり得ます。
そのため、送信防止措置依頼書の書き方としては、「削除しなければ訴えるぞ」といった威圧的な書き方ではなく、「こういう理由で削除していただきたいと思っています」と、丁寧に書くのが結構重要なのではないかと個人的には思っています。
送信防止措置依頼をする対象ですが、転職情報サイトも含まれます。ただ、仮処分に移行する場合が多いです。記事全体の削除は、なかなかしてもらえない傾向にあります。問題であると指摘した単語や一文だけの削除では、文章全体から内容を推認できることもあり、むしろ書き込みをされた会社のイメージが悪化することにもなりかねません。書き込み全体が非常に問題だということをきちんと主張し、証拠も合わせて提出しましょう。
ブログや掲示板などを運営している会社も対応のスピードが遅い場合があります。3 ~ 4 週間かかるのが普通と考えていただいた方がよいと思います。
海外のサービスの場合、例えば、Twitter、Facebook(Instagram)、Googleには、基本的に送信防止措置依頼は使えません。各会社に日本法人がありますが、日本法人はあくまでPR活動のみで、内容に関わることができないという理由で、原則対応してくれません。内容証明郵便を送ったとしても返事はないと思っておいた方がよいです。

3 情報の削除方法~仮処分~

1 削除仮処分の利点

仮処分のメリットは、迅速性です。1 ~ 2カ月ぐらいで結論が出て削除できるので、通常訴訟より格段に早くなります。
原則、削除されたものが後で復活することもありません。

2 管 轄

民事保全法第7条と第11条が民事訴訟法を準用しています。管轄は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所(民訴法第4条)と、不法行為地を管轄する裁判所(民訴法第5条第9号)です。削除仮処分の訴訟物は、人格権に基づく妨 害排除請求権です。不法行為ではありません。
ただし、この人格権訴訟も不法行為関連訴訟だと一般的に理解されています。
不法行為地は結果発生地を含むという裁判例がありますから、結果発生地も不法行為地だとすると、書き込みを見た場所に管轄があることになります。ただ、ネットは世界中どこでも見られるわけで、そうすると範囲が広すぎるため、実際は住民票上の住所・居所を基準に考えます。

3 削除対象と根拠法令

人格権に基づく削除請求なので、不法行為の成立だけでは足りないことになります。例えば、営業上不利益だから削除できるかというと、不法行為に該当する可能性はありますが、営業権は憲法第22条で、人格権は憲法第13条ですから、根拠条文が異なり、削除不可となってしまいます。
著作権侵害は、著作権法に差止請求権が規定されているため、削除請求できます。
商標権や不正競争防止法にも差止請求権が定められているため、これに基づいて削除請求ができるかという点があります。
例えば、自社のサービスの商標が勝手に使われ、レビューサイトに書かれているから削除で きないかというケースがあるとします。商標権 侵害が成立するためには、商標的使用が必要に なります。つまり、他人が類似商標を使って、誤認混同を招いているという場合でなければ商 標権侵害にはあたらないので削除できません。 社内情報がネットに書かれているので、こ れを削除したいという相談も結構あります。これを不当競争防止法に基づき削除するには、その情報が営業秘密に該当する必要があり、そのためには、秘密管理性など厳しい要件を 満たさなければなりません。一般社員がアク セスできる情報は営業秘密にはあたらないと されることが多々あります。また、不正競争 防止法上、侵害となる類型がかなり細かく決 められており、情報漏えいのルートまで立証 する必要があり、同法を根拠に削除を求めるのは困難な場合が多いといえます。

4 削除仮処分の具体的方法

(1) 申立ての趣旨

申立ての趣旨は、「債務者は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を仮に削除せよ」で問題ありません。
投稿記事目録には、原則、「URL」「レス番号」「投稿日時」を記入します。「投稿内容」も記載するよう言われていましたが、対象が非常に長いと、書記官が投稿内容を一字一句確認するのが大変ということで、投稿内容は不要と言われる例が最近増えてきました。

(2) 主張・疎明するべき事項

主張・疎明するべき事項は、いわゆる要件事実です。名誉権侵害の場合は、①社会的評価を低下させる内容であること、②①の表現内容が真実でないか、又はもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であること、
③被害者が重大にして回復困難な損害を被る恐れがあることで、いわゆる北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日)の事前差止めの要件をそのまま使うというのが基本的な考え方です。ただ、ネット情報は公開済みのものですから、事前差止めではないため、③の要件は比較的緩く考えられていると思います。プライバシーの侵害は、①記事等の対象が 債権者のプライバシーに属すること、②記事等の内容が社会の正当な関心事ではないか、表現内容、表現方法が正当なものではないこと、③記事等の公表によって、債権者が重大な損害を被ることを疎明する必要があります。名誉権は、裁判例が多数あり、何が名誉権かがかなり明確になっていますが、プライバシ ー侵害の場合は注意を要します。
宴のあと事件(東京地判昭和39年9月28日)の要件に沿って主張・疎明するのは避けます。なぜなら、同判例は、非公知性をプライバシーの要件に掲げているからです。ネットに書かれると、非公知でなく世界中誰でも見られます。この点を債務者側から指摘される恐れがあります。 最近の裁判例の流れは、プライバシーの範囲に属することを説明の上、内容を比較考慮をした上で、相当かという観点から検討するため、そのように主張・疎明した方がよいと思います。

(3) 保全の必要性

保全の必要性(民事保全法第13条1項)は、主張・疎明を要しますが、実際は、前記(2)の要件で記載する内容と重複しますので、別途「保全の必要性」という項目を作っての記載は不要です。

(4) 判例

最決平成29年1月31日は、Googleに対し、検索結果として表示される前科情報の削除を求めた事案です。最高裁決定は、当該事実を公表されない法的利益と、当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考慮して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、削除を求めることができると判断しました。
検索結果に表示されているものを削除する請求自体は一応できると判示していますが、事実のあてはめの結果、前科情報の削除は認められませんでした。
この最高裁決定は、プライバシーについての判断です。前科がプライバシーかどうかという古典的議論はありますが、この削除の請求は、前科をプライバシーとして構成していたわけではなく、更正を妨げられない利益を根拠としていました。ただ、そこを最高裁は取り上げず、プライバシーと整理して判断しました。前科情報の削除については今後も厳しい判断が続くと考えられます。
名誉権についての最高裁の判断は、まだありません。高裁レベルでは、検索エンジンという性質を考慮して、要件を厳格にするべきと判断している場合もありますし、逆に、検索エンジンといっても別にネットにあるものを表示しているのだから、コンテンツプロバイダと同視し、要件を変える必要がないと判断しているものもあります。この辺はまだ、裁判所の判断が固まっていません。
いわゆる「忘れられる権利」は、数年前から話題になっていましたし、実際に検索結果から削除したいという相談を受けることもよくあります。ただ、個別のサイトの削除より難しいと思っていただいた方がよいです。
検索エンジンは色々ありますが、GoogleとYahoo!を合わせて、シェアが90%を超えています。Yahoo!の検索エンジンはGoogleのものを使っていますので、Googleで削除されれば基本的にはYahoo!の検索結果からも自動的に削除されます。ですから、Googleを相手方にした方がよいと思います。
ただ、Googleには検索結果に手を加えないという基本的な考え方があり、法的手段を採ると最高裁まで争われる可能性が高まります。また、アメリカの本社を請求の相手方にしますので、アメリカの登記を取る必要があり、費用が約5 ~ 6万円かかります。相手への訴状や申立書を郵送するには、英訳の手間と費用も要し、依頼者の負担になります。
ですから、私は検索結果より、個別のサイトを削除していった方がよいのではと提案しています。検索結果に無数の情報が出ている状況でも、手間はかかりますが個別に削除請求していく方がよいと思います。裁判ではなく、ウェブフォームから地道に削除請求をすると、意外と応じてくれる場合もあります。

(次号へつづく)