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インハウスレポート

小野 浩奈(63期) ●Hirona Ono

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1.はじめに

私は機械専門商社の法務部門に勤めております。ひとまとめに組織内弁護士と言っても業種や組織によりその態様は様々ですが、私の経験談が、特に商社ビジネス及び小規模法務に興味のある方の参考となれば幸いです。

2.経歴

私は印刷会社での営業職を経て、31歳で弁護士登録後は一般民事・刑事の法律事務所に所属し、主に離婚事件や少年事件を扱っておりました。そちらで4年ほどを過ごしましたが、ビジネス法務の知見があまり広がっていないことに気づき、自分のキャパシティを広げてみようと企業の法務部門で働くことにしました。縁あって商社である当社から声を掛けていただき、ドメスティックな仕事の経験しかなかった私にとっては大きなチャンスと思い、入社することに致しました。

3.当社のビジネスと法務部門の業務

当社は従業員約250人の機械専門商社で、ある総合商社の完全子会社です。工業用機械及び技術サービスを国内外の顧客に提供しています。商品ラインナップは、細かな部品から100億円程度のプラントまで様々です。
入社時は年齢と社会人歴が考慮され、マネージャーになる一歩手前の職位でしたが、入社3年目からは法務課長を務めております。法務課は私を含め5人で構成されており、この規模の会社としては多い方だと思います。
業務内容は、契約関連とコンプライアンス関連の大きく二つに分けられます。契約関連は、契約書の作成・レビュー・稟議審査に留まらず、営業担当とともに案件構築段階からプロジェクトに加わることが多いです。顧客やメーカーとの交渉に同行することもあります。コンプライアンス関連は、研修等の啓蒙活動、問題事案の対応、法令改正対応及び安全保障貿易管理(外為法等に基づく全輸出貨物、提供技術の社内審査等)等があります。
私はプレイングマネージャーなので、前記のような業務に、法務課の方針決定、課員の業務管理・教育等、マネージャーとしての業務が加わります。

4.商社の法務部門で働くということ

商社は自前で作るもので勝負するのではなく、信用供与を始めとする他の部分で付加価値を創造し、客先に提供します。当社が提供する付加価値、それに見合った利益と取るべきリスクを明確にする必要がありますし、商品そのものに起因するリスクは取ることができません。正確で網羅的なリスク分析、取るべきリスクとヘッジすべきリスクの選別、その契約書への落とし込みが我々法務部門の重要な仕事となります。
また、約半数は海外案件ですので、英文契約及び英米法の知識が必要となります。事業投資、貿易、物流等の知識も必要となりますし、日々の世界情勢の把握も業務に直接結びつくので重要です。

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5.小規模法務で働くということ

前述のとおり、当社は従業員約250人で法務部門も大企業と比較すると小規模です。このような小規模法務の特徴としては、「何でも屋」であるということが挙げられます。例えば大規模な総合商社ですと、契約担当(さらに分野や地域で細分化)、コンプライアンス担当と分かれているのが通常だと思いますが、小規模法務の当社では課員全員がそれぞれ全て担当します。プラント案件の長大な英文契約のレビューから、問題社員の懲戒処分に向けた事情聴取まで、業務の幅はとても広いです。幅広い知識とフットワークの軽さが必要で、大変な面もありますが、会社の活動全体に携われ、経営者との距離感も近いのでやりがいがあると感じています。

6.組織内弁護士に転身して得たもの

第一に、当たり前ですがビジネス法務の知見です。前職では家事や刑事の仕事が多かったので、法律家としての幅が広がったという点は当初の狙いどおりと言えます。もっとも、前職で訴訟実務及び人権擁護や公正といった概念を身をもって学べたことは、現在の企業法務においても非常に役立っています。ですので、例えばコンプライアンス事案において会社の方針や手続に問題があると感じれば、経営層に意見することもありますし、会社からはそのような適法性及び相当性の担保としての役割も期待されていると思います。
第二に、グローバルな視点です。海外案件が多いので、仕向国の情勢や世界の景気動向は常に注視するようになりました。ただ、英語でのコミュニケーション力はまだまだでして、海外出張での契約交渉の際は大変に苦労しました。目下の課題です。
第三に、会社員ならではの学びのチャンスを享受できるということです。法務に限らず各種分野の研修制度を利用できますし、香港・中国での海外ビジネス研修にも参加させていただきました。
第四に、マネージメントの経験ができたということです。現在、部下にいかに正確にこちらの意図を伝え、自発的に高いパフォーマンスを発揮してもらうか、日々苦心しております。

7.おわりに

会社組織の一員として働くことは大変な面もあります。ただ、私の場合は弁護士として、またビジネスパーソンとしての自分のキャパシティを広げることができたと思います。参考にしていただければ幸いです。