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上訴審弁護について

弁護士 嶋田 葉月(65期)●Hazuki Shimada

はじめに

今回は、上訴審の国選弁護を担当した際、実際に被告人から質問のあった事項をふまえ、控訴審と上告審について、Q&A方式を取り入れ、基本的なところを紹介したいと思います。
なお、字数の関係で記述が正確ではない部分があることや私見にわたる部分があることをご容赦ください。

控訴審

1 控訴審の概要について

Q 控訴審で第一審判決が破棄される割合はどのくらいですか。

平成30年度の司法統計年報によると、高等裁判所における控訴審終局人員総数5,710人のうち、破棄・自判が550人、破棄・差戻し・同移送が26人、控訴棄却が4,163人、控訴取下げが939人、その他が32人でした。この統計によると、第一審が破棄された割合は約10%になります。

Q 控訴審は、結果が出るまでどのくらいかかりますか。

裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によると、平成30年における平均審理期間は3 〜4か月となっています。また、平成30年度の司法統計年報によると、高等裁判所受理の日からの審理期間は、総数1,414件のうち、1か月以内が491件、3か月以内が720件、6か月以内が127件、1年以内が49件、2年以内が20件、2年を超えるものが7件となっています。

Q 被告人が控訴を取下げた方がよいかどうか迷っています。どういう点に注意して決めたらよいですか。

控訴期間経過後の取下げの場合、検察官が控訴していなければ裁判は直ちに確定します。そのため、控訴審での見通しを伝えるとともに、被告人が控訴の取下げをする場合、弁護人は再度の控訴ができないこと、未決勾留日数の裁定通算がないこと等の効果を説明して、被告人の意思を尊重することになると思います。
なお、被告人が控訴の取下げをした場合、裁判所から国選弁護人に対し、事件終了の通知がなされます。

2 控訴趣意書について

Q 控訴審においては、控訴理由として何が主張できるのですか。

控訴理由は、法令違反(刑事訴訟法(以下「法」といいます。)377条〜法380条)、事実誤認(法382条)、量刑不当(法381条)及び再審事由・刑の廃止等(法383条)となります。被告人控訴の場合、量刑不当を控訴理由に挙げているケースが最も多くなっています。

Q 複雑な事件で、証拠資料も多いため、とてもではありませんが控訴期限までに控訴趣意書を提出できないと思います。控訴趣意書提出期限の延長を求めることはできますか。

定められた控訴趣意書提出期限までに控訴趣意書を提出することが困難な場合、裁判所に対して、控訴趣意書提出期限の延長を求める書面を提出します。期限の延長について明文の規定はありませんが、裁判所の職権発動を促すものとして広く行われています。延長を求める書面には、期限内に提出が困難な事情(弁護人に選任された時期、記録の分量、事案の複雑さ等)を具体的に記載することが求められます。もっとも、期限の延長が認められるかどうかは裁判所の裁量になります。
控訴趣意書差出最終日までに控訴趣意書が提出されないと、決定で控訴棄却となりますので、注意してください。

Q 弁護人の控訴趣意書以外に、被告人自身も控訴趣意書を提出したいと考えていますが、可能ですか。

被告人自身も、控訴趣意書を提出することは可能です。ただ、控訴審で被告人自身が弁論をすることはできないので、被告人の控訴趣意書は弁護人が陳述することになります(法388条、控訴審における弁論は、原則として控訴理由の存否についての論争であって、訴訟上の知識を必要とするため。)。
なお、弁護人が控訴趣意書の提出期限を延長したとしても、被告人が提出する控訴趣意書の提出期限もあわせて延長されるわけではありません。そのため、被告人が控訴趣意書を提出する予定の場合は、被告人の控訴趣意書提出期限の延長も必要です。

Q 裁判に関係する自分自身の思いを記載した手紙(「裁判官へ」)を控訴審で提出することはできますか。

前の質問でも述べましたが、被告人にも控訴趣意書を提出する権利がありますので、被告人自身の控訴趣意書として提出することができます。また、書証として、事実の取調べ請求により提出することも可能です。実務上は、後者の方が多いと思われます。
なお、弁護人を通さずに被告人自身が裁判所に対し直接手紙を郵送していることがありますが、その場合、裁判所から弁護人に対し連絡をもらえることが多いです。私の担当したケースでは、裁判官は事実上手紙に目を通してくれていたようでした。

3 控訴審期日、事実取調請求について

Q 控訴審の期日に出頭する義務はありますか。

被告人は裁判所が特に出頭を命じた場合以 外は、公判期日に出頭する義務はありません (法390条)。
しかし、実際には、被告人も出頭するケースが多いです。

Q 第一審の判決後、被害者と示談が成立しました。控訴審で示談書を提出することはできますか。

第一審の判決後、示談が成立した場合、その事実は量刑不当の控訴理由とはなりませんが、第一審判決後に生じた情状に関する事実にあたるため、法393条2項によって職権取調べを求めることができます。実際、示談書の事実取調請求は、実務上ほぼ採用されています。
なお、第一審の弁論終結後、判決前に示談が成立した場合は、法393条1項本文に基づき、示談書の取調べを請求することになります。

Q 控訴趣意書提出後にどうしても追加で主張したいことが出てきました。控訴趣意補充書を提出することはできますか。

控訴趣意補充書を提出することは可能です。ただ、控訴趣意書提出期限後の場合、控訴 趣意書で主張されていない新たな主張を行うことはできないので、あくまで提出期限までに提出した控訴趣意書に記載した控訴理由の内容を補充する内容となります。もっとも、控訴趣意書提出期限後に新たな控訴理由を追加するものであったとしても、裁判所の職権発動を促す意味はありますので、補充書に記載して提出すべきであると考えます。

Q 法廷で裁判官に直接伝えたいことがあります。控訴審で被告人質問をすることはできますか。

事実取調請求で被告人質問を求めることができます。第一審における被告人質問は職権で実施される扱いとなっていますが、控訴審では請求しない限り原則として実施されないので、注意が必要です。
ただし、控訴審は事後審であることから、被告人質問は必要性なしとして却下されることも多く、仮に行われたとしても短時間に留まるため、これらの点を事前に被告人に対して説明しておく必要があると思われます。

4 判決後について

Q 控訴が棄却された場合、未決勾留日数は何日程度算入されますか。

被告人控訴の棄却事案においては、60日前後(50日〜 70日程度)算入されることが多いようです。
なお、検察官控訴の場合や破棄自判の場合、控訴申立て後の未決勾留日数は全部法定通算されます(法495条2項)。

Q 控訴審の結果に納得がいきませんが、上告すべきですか。

平成30年度の司法統計年報では、上告審の 総数1,993件のうち、控訴審が破棄されたケースは、有罪が4件、無罪が1件と破棄差戻し・同移送となった件が1件と、割合としてはかなり少なくなっています。
また、法定の上告理由は、憲法違反と判例違反に限定されていますが(法405条)、職権破棄も可能ですので(法411条)、この辺りを主張することができるかという点も問題となります。
上記のようなことを説明して、被告人の意思を尊重することになると思われます。

上告審

1 上告審の概要について

Q 上告審の破棄率はどのくらいですか。

前の質問でも述べましたが、毎年0 〜数%程度となっています。

Q 上告審は、結果が出るまでどのくらいかかりますか。

裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によると、平成30年における平均審理期間は2.9か月となっており、判決・決定で終了する事件のうち、8割程度の事件が3か月以内に終局しています。

2 訴訟準備について

Q 事案が複雑であり、記録も膨大なため、上告趣意書の提出期限までに、趣意書の作成が間に合わないと思います。上告趣意書提出期限の延長はできますか。

裁判所の判断にはなりますが、事案によって、上告趣意書提出期限の延長も可能です。
延長の方法は、控訴趣意書提出期限の延長に関する場合と同様です。
参考ですが、否認の共犯事件で記録が10冊程度あった事件(被告人から裁判官への手紙多め)では、2か月の延長が認められました。

Q 上告審で新たに証拠を提出したいのですが、可能ですか。

上告審は法律審なので、通常、証拠の取調べを行うことはありません。新たな証拠を提出したい場合、上告趣意書や上告趣意補充書の添付資料として提出するという方法があり得ます。

3 判決後について

Q 上告が棄却された場合、未決勾留日数は何日程度算入されますか。

上告棄却の場合、全く算入されないことが多いです。
もっとも、申立てから4か月を超えるとそれ 以降は裁定算入(刑法21条)されることが多いようです。
実際、私が担当した事件で、申立てから上告棄却までに約6か月かかったケースでは、未 決勾留日数80日が算入されました。

Q 上告が棄却された後、まだ不服申立て可能な手続は残っていますか。

上告が判決で棄却された場合、判決訂正の申立てを判決宣告後10日以内にすることができ(法415条)、決定で棄却された場合は異議申立てが決定送達後3日以内に可能です(法414条、386条2項、385条2項、 最 決 昭30・2・23)。いずれも、判決の内容に誤りがあることを理由に申立てをすることができます。
なお、いずれも申立ての期間が短いため、必要に応じ、事前に被告人に対し、申立書のひな形を交付しておくと安心だと思います。

おわりに

最後に、国選弁護報告書のチェックの際に問題となる事案について少し触れておきます。

1 控訴趣意書の書き方について

国選弁護報告書のチェックをしていると、具体的な事項を記載せず、抽象的に「事実誤認がある」、「法令違反がある」などと記載しているものや、漫然と第一審での弁論要旨を繰り返したり、援用すると記載したりしているものを見かけます。
控訴趣意書に記載すべき控訴理由について、最判昭52・11・11は「控訴の趣意として、『一 原判決は明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。二 原判決は量刑が不当である。追つて詳細は書面で述べる。』と記載したにすぎない本件控訴趣意書は、刑訴法三八二条、三八一条所定の事実の援用を欠き、法律で定める方式に違反している」と判示しており、抽象的に事実の誤認がある、量刑不当である、訴訟手続の法令違反があるという記載だけでは不十分であり、不適法とされています。
また、最判昭35・4・19では「控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣意は許容されないとした原判示は正当である。」と述べられています。
そのため、控訴趣意書においては、原審における弁論要旨を援用するだけでは足りず、事実及び資料を具体的に指摘し、原判決のどの点にどのような控訴理由があるのかを具体的に示すことが必要です。

2 上告審における被告人の意思確認方法について

東京高裁以外の高裁で控訴審の審理を行った事件の被告人については、東京拘置所に移送されることなく、控訴審裁判所所在地管轄の刑事施設に収容されたままになります(刑訴規則265条)。しかし、上告審の国選弁護人は、原則として東京三会の弁護士の中から選任されますので(刑訴規則29条)、被告人が遠隔地の拘置所に勾留されている場合でも、必ず接見しなければならないのかという悩みが生じます。
上告審においても、被告人の意思を踏まえた弁護活動をしなければいけないことは言うまでもありません。ただ事案次第にはなりますが、接見の必要性が高い事案や、東京拘置所に収容されている案件以外では、手紙の発受信による方法で足りる場合もあり得ます。しかし、その場合は手紙で、被告人がどのような理由で上告したのか等を確認する必要があります。
国選弁護報告書のチェックをしていると、接見に赴かず、被告人の意思確認を行わずに、訴訟記録のみから被告人の意思を汲み取って、上告趣意書を提出している弁護人がいますので、注意していただければと思います。

【参考文献】
◦石井一正『刑事控訴審の理論と実務』(判例タイムス社、平成22年)
◦植村立郎監、岡慎一ほか編『刑事上訴審における弁護活動』(成文堂、平成28年)
◦季刊刑事弁護増刊『刑事弁護ビギナーズ ver.2』(現代人文社、平成26年)
◦東京弁護士会刑事弁護委員会編『実践刑事弁護 国選弁護編【新版第2版】』(現代人文社、平成23年)