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委員会ニュース(子どもの権利に関する委員会)~少年とともに~

受けこのリクルーターの年齢切迫事案

阿部みどり(62期) ●Midori Abe

1.事案の概要

少年は、特殊詐欺の受け子のリクルーターをしており、受け子の勧誘に対する報酬目的の犯行でした。
勧誘のツールはSNSが中心であり、少年は受け子との直接の面識がありませんでした。
また、少年自身もSNSにより指示役から指示を受けている立場であり、その指示役とも面識がなく、自分が誰から指示を受けているのかも、本件被疑事実の具体的態様もよく分からないまま、指示役に指示されたことだけを受け子に伝えていた、というものでした。
少年が逮捕された時点で、約1か月後に20歳になる、いわゆる年齢切迫事件だったので、私は、少年審判に間に合うのだろうか、不安と焦りの中、活動を始めることになりました。

2.少年の生活状況等

少年は、数年前に少年院入所歴があったものの、出所後は会社員として働いており、勤務先の代表取締役(以下「社長」といいます。)によれば、勤務態度も非常によく、周りからの信頼も厚いとのことでした。
また、家庭環境に関しても、実父母の離婚により、実父とは疎遠になっていたものの、実母との関係は良好でした。
そして、少年には婚約者がおり、間もなく入籍予定、婚約者は妊娠中という状況でした。

3.少年の更生に向けた活動

正犯か幇助犯かを検討するうえで、SNSを通じた共犯者間のつながり方や少年の関与度合い等に関しては、特に丁寧に事実を確認するようにしました。
また、家裁送致後に想定される活動期間は、実質10日程度しかなかったことから、国選弁護人に選任された後すぐに、私は、社長、少年の母、婚約者と面談し、少年が犯した罪を説明するとともに、更生するための力・支えになってもらいたいとお願いしました。
社長は、少年院出所後から仕事面で面倒を見てくれていた人物であり、少年の犯行後は仕事関係者への対応に追われていました。少年に裏切られたという思いもきっとあったと思いますが、少年の更生に全面的に協力することを約束してくれました。また、少年の母と婚約者も、家族として少年の更生に協力してくれることになりました。
少年院出所後、どれだけ真面目に頑張っていようが、これまで築いてきた人間関係も社会的信頼も、犯行により一瞬で失います。私は、少年が更生するために力になってくれる社長や家族がいることの有難さを伝えるとともに、そのように支えてくれる人達を2度と裏切ってはいけないとアドバイスしました。
逮捕当初の少年は、自身の犯した罪の重さや、被害者の気持ちに表面的にしか向き合えていない状況でした。しかし、面会を重ねていくうちに、少年の心境は徐々に変化していき、非行原因、自分の長所・短所、被害者への気持ちや奪ったもの、事件について思っていること、今後の生活について等の項目を立て、1つ1つの項目ごとに自身の考えをノートに記すまでになっていました。
このノートは、犯行後に少年が考えてきたことが少年なりの言葉でつづられたものであり、内省の過程が伝わる内容でした。

4.家裁送致後の活動

本件では、移送があり得たため、移送すべきではない旨と、逆送を避けるという意味も含め、保護処分が相当であり速やかに審判すべきとの申入れを、送致当日に上申書にて行いました。なお、この上申書は、国選付添人に選任される前に、被疑者弁護人の立場で提出しましたが、問題なく行うことができました。
国選付添人に選任された後、私は、記録の検討、担当調査官との直接の面談、審判期日を指定する旨の意見書を提出するなどし、少年審判に向けた活動を行いました。しかし、残念ながら、少年審判の期日が指定されることのないまま、年齢超過により逆送されてしまいました。裁判所が審判期日を指定しなかった理由は不明ですが、私にはどうすることもできませんでした。

5.逆送後の刑事裁判手続

当初の罪名は詐欺罪の正犯でしたが、起訴事実は、詐欺罪の幇助犯でした。 情状証人に関しては、少年院出所後の犯行であることから、社長や少年の母では抑止力が不十分で監督能力に疑問を持たれる可能性もありましたが、面談するうちに私が感じた社長や少年の母の思いや法廷で語る姿・語る言葉を少年にも直接感じてほしかったので、社長と少年の母にお願いすることにしました。
なお、少年の今後の生活を考えると、婚約者にも情状証人をお願いするかどうかも検討しましたが、妊娠中であることの精神的負担などを考え、証人申請は行いませんでした。
証人尋問において、特に少年の母への追及は厳しいものがありましたが、少年の母が息子を思う気持ちと、更生に向けた誓いは、少年にもしっかり伝わったように思います。
また、被告人質問において、私は、主な犯行動機は、婚約者やこれから生まれてくる子を養ううえで収入面に不安があったことだととらえていましたが、裁判官は、それにとどまらず、少年が、手っ取り早くお金が欲しかったこともあるのではないかと鋭く追及し、少年に猛省を促していました。裁判後、私は、事案の追及が不十分だったことを反省しましたが、少年にとっては、犯行を真摯に反省する場になったように思います。

6.判決

少年が受け子・出し子の紹介のみならず、指示伝達などを行っていたことから比較的関与の度合いが大きいとされたものの、犯時少年であること、前科がないこと、反省していること、母や社長が協力を誓っていることなどを考慮され執行猶予になりました。ただし、少年の非行歴や「手っ取り早く金を手に入れよう」と安易に犯罪に及んだ面から、手厚い支援が必要とされ、保護観察に付されました。

7.最後に

本件は、少年が少年院出所後に社会人として生活していたこともあり、家庭環境の問題というよりは、少年自身の甘さ・弱さ、安易な思考が引き起こしたものであると考えられ ました。手続きの途中で少年が20歳を迎えたからといって、いきなり大人に成長するわけでもなく、年齢による線引きの合理性や刑事裁判と少年審判の違いなどについて、色々と考えさせられる事案でした。
判決後、少年から手紙が届き、判決後すぐに仕事を再開することができたことや、婚約者と無事に入籍を済ませたことなど、頑張っている様子がつづられていました。更生に向けて歩みだした少年を心から応援しています。

コロナ下の多摩支部 子どもの権利に関する委員会

子どもの権利に関する委員会副会長 木村 真実 ●Mami Kimura

この原稿が皆様のお目に触れる頃には、新型コロナウイルス感染症の影響が収束に向かっていることを祈りつつ、私から見たコロナウイルス下の多摩支部子どもの権利に関する委員会の動きについて、ご報告させていただきます。なお、意見にわたる部分は私見です。

1.弁護士による子どもの悩みごと緊急LINE相談会

国の緊急事態宣言発令及び東京都知事の自粛要請を受け、4月8日から多摩支部会館と多摩地域の全ての法律相談センターが業務を停止し、子どもの悩みごと相談を含む専門相談も停止となりました。法テラス多摩・八王子の相談停止と併せ、市民の法律相談へのアクセスは、大きく制限されました。
この状況の中で、多摩支部では、4月27日から、自治体や社会福祉協議会経由で市民からの相談を受けました。また、支部会員の有志で高齢者・障害者等弁護士相談、生活保護に関する相談が始められ、一般社団法人オンネリが支部の弁護士たちによるDV・虐待LINE相談を毎日10時~ 22時の長丁場で行いました。
子どもたちは、学校その他の家庭外の居場所がなくなり、屋外で遊ぶことも強く制限される中で、今後への不安を抱え、家庭内で大人のストレスの影響を受けるなど、相談のニーズは高まっていると思われました。
そこで、多摩支部子どもの権利に関する委員会では、2学期開始前に予定していたLINE相談を急きょ行うこととし、4月22日から5月31日まで毎日14時~ 17時に行いました。多摩支部では、昨年の2学期開始前にも2日間限定でLINE相談をしましたが、今回は新規メンバーも何人か加えて大きく拡充しました。
毎日3 ~ 4名体制を組み、Teams等でバックアップしながら、相談を受けました。昨年は会議室で集まって相談を受けましたが、今回は各人が事務所や自宅で相談を受けました。
毎日、14時の開始前に数人待っている状態で、時間内に毎日5 ~ 10件ほどの相談を受けてきました。関西や九州などの遠隔地から、年齢層も小学生から子どもを支援している大人まで。虐待されている、両親の関係が悪くなっている、学校に行くのが不安、公園で遊んでいいのか、などなど多種多様な相談をいただきました。「法律」相談でないものも多く、それゆえ弁護士による相談だけでは終われないと感じたものもありました。情報が限られている中で虐待通告などをどうするのか、各地の社会資源にどうつないでいくのか、継続的なフォローが必要な場合どうするのか、など課題も見えてきました。
私はもともと、情報の豊富さの点でも正確さの点でも相談は対面でやるのが一番よく、電話でも間などから分かるものがあると思っていましたので、LINE相談には懐疑的な思いも持っていました。また、LINE相談には、セキュリティへの配慮が必要、端末を持っている子どもしかアクセスできない、悩みの創出や属性の詐称の可能性があるといった問題もあります。
しかし、今を生きる多くの子どもたちにとって、初めて話す大人と電話で話をすることはハードルが高くなっており、二弁や多摩支部の子どもの悩みごと相談も相談件数が伸び悩んでいます。他方で、LINEなどのSNSはその廉価性、匿名性等から子どもたちに身近なコミュニケーションツールになっており、その悩みに寄り添おうとすれば検討の対象とせざるを得ません。デメリットに配慮しながら、子どもたちのニーズに応えていく努力が求められていると思います。
多摩のLINE相談をひとつのきっかけに、4月29日から、毎日、二弁の子どもの委員有志によるLINE相談が行われています(6月時点での受付時間は17 〜 19時、LINE IDは@154irgux)。
有志ではなく二弁の正式な相談にできるよう、検討を始めています。

2.スクールロイヤー

『NIBEN Frontier』5月号の当欄に鬼澤秀昌弁護士、平栗敬子弁護士から、江東区のスクールロイヤーのご紹介がありましたが、本年1月から、多摩地域では初めて、八王子市がスクールロイヤー制度を始めました。江東区とほぼ同規模、小学校・中学校併せて約100校を3人の弁護士が分担して担当します。2020年度は1,000万円を超える予算が組まれています。
私はその1人目として活動を始めましたが、教育現場の様々な問題を一緒に考えながら、相談の中に出てくる子どもの利益を考えていく、頑張りがいのある仕事だと思っています。 不登校やいじめの問題も、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための休校で、学校には見えにくくなってしまいました。休校が明ければ、子どもたちが抱える問題が噴出するだろうと思います。
多摩支部子どもの権利に関する委員会では、今後、域内の自治体からのスクールロイヤーの推薦依頼が続くのではないかと予測しています。研修などの準備をしながら、どうすれ ば地域のニーズに応えていけるのか考えていきたいと思います。

3.自立支援コーディネーターとの勉強会

「自立支援コーディネーター」とは、2012年度から都内の児童養護施設に配置されている専門職です。児童養護施設を退所する子どもたちの社会での自立を総合的に支援するため、入所中から就職や進学など退所後の生活支援を、退所後はアフターケアとして個別相談等をしたり、自立支援に関する施設職員への助言や関係機関との連携等も担当したりしています。
数年前から、多摩支部子どもの権利に関する委員会のメンバー10人ほどが、多摩地域の養護施設の自立支援コーディネーターの勉強会に参加して法律的な問題を一緒に考え、多摩ユースサロン(多摩地域の児童養護施設出身者たちが安心して集える居場所として、複数の施設の自立支援コーディネーターが協力し、NPO法人と連携して活動をしています)に参加して子どもたちから直接話を聞くなどしてきました。子どもたちは、交通事故を起こした、就職先でのパワハラ、賃金未払、失業による生活保護申請などの様々な法律問題に直面しており、親とのトラブルや無国籍などの相談もあります。継続的な相談で解決をはかったり、裁判手続の受任に至ったりすることもありました。
生きづらさを抱えながら社会的養護の中で暮らす子どもたちは、コロナ下で学校に行けず、ユースサロンをはじめとした様々な居場所がなくなり、たいへんな時期を過ごしてきました。
地域の弁護士として、微力であっても支える力になりたいと思います。

学校における相談体制のイメージ