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インハウスレポート

宮里 民平(65期) ●Tamihei Miyasato

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1.はじめに

私は、6年間の法律事務所での弁護士経験を経て、2019年4月から草加市役所で自治体内弁護士として勤務しています。もともとは、労働者側の弁護士として、社会運動などにも取り組んでいましたので、全く畑違いの分野で働くこととなり、業務内容も働き方も一変しました。
私が自治体内弁護士に転身したきっかけは、行政分野に興味・関心があったのはもちろんですが、ほかにも、子供ができたことや、絶えず紛争の渦中にいなければならないことへの精神的疲労が蓄積されたことなどもありました。
自治体内弁護士への転身はこの点で私が思い描いたとおりであり、その魅力や特徴を少しでもお伝えしたいと思います。

2.法律相談の幅が広い!

主な業務は職員からの法律相談です。相談を受けると、法令等を調査の上、対応方法についてアドバイスするということを繰り返しています。最初の1年間で受けた相談件数は、立ち話で済むような細かな相談(契約書のちょっとした文言など)を除いても、150件を超えていました。
相談される案件は、行政が行っていること全てが対象であり、極めて多岐にわたります。例えば、水道、道路、公園、境界、都市計画などのインフラ関係や、保育園、生活保護、障害者、高齢者といった社会福祉関係、人事労務関係、入札などの契約関係、債権管理、税金、議会、学校運営に関わることなどが挙げられますが、ほかにもまだまだあります。
関連する法律も多く、行政三法や地方自治法をベースに、墓地埋葬法、子ども・子育て支援法、地方税法、空家特措法、道路法など、今まで全く知識のなかった法律に関する相談を受けます。
それに加えて、自治体の条例規則の解釈も必要になります。
自分の知らない法律・分野の法律相談を受けるので、絶えず知識がアップデートされていきます。そんな法律あるの!?というところから始まり、調査を進めて、法律家としての思考で解釈することは、大変面白いです。
なお、この幅の広さは、自治体の規模によって変わります。小規模な自治体になるほど幅広い対応が求められ、官公庁や大規模な自治体ではより専門性が求められることになると思います。

3.裁判に勝てるかだけではない!

通常の法律相談では、やはり、裁判に勝てるかが重要なメルクマールになると思います。 しかし、市役所で私が受けた法律相談では、裁判例など何もない分野もありましたし、法令解釈が確立していない分野、法の文言と実務がかけ離れていたりすることもありました。
また、法律上は行政の義務ではないけれど、行政としては行った方がいいことなどもあります。
そのため、実務に適合させながら法解釈をしつつ、行政としての公平性や平等原則といった観点からも、行政実務を行うようアドバイスすることを私は心がけています。

4.市長との距離が近い!

地方自治体の規模や組織の在り方などにも左右されるかと思いますが、私が勤務する草加市(人口約25万人)では、直接、市長と話す機会も多くあります。市長と意見交換をして、直接アドバイスしたり、市長の政治的な意見も踏まえた対応を考えたりするなど、意思決定に強く関与できるというのも、自治体内弁護士の魅力でしょう。

5.ワークライフバランスが実現できる!

弁護士は個人事業主として働いている方が多いと思われます。その場合、労働時間という考え方があまりなく、どうしてもオーバーワークになりがちです。また、打合せや会議、懇親会などが夜に行われることも多いでしょう。
自治体内弁護士の場合、基本的には職員の勤務時間と連動しますので、夕方以降に打合せ等が入ることはまれです。そのため、法律相談の回答のための資料作成や調査が終わっている限り、定時で帰ることができます。私の妻も弁護士のため、我が家では、子供の保育園へのお迎えは私が担当しています。
また、クレーム対応等の法律相談はもちろんあるものの、基本的には職員の後方支援のため、労働者側の弁護士として活動していた頃と比べ精神的なストレスはかなり減りました。

6.自治体内弁護士の役割は大きい!

行政は前例主義であるとの批判がよくなされます。実際、新しいことを始める際は、法解釈に基づいて処理方針を決めたはずですが、それが10年、20年と経つことによって、法解釈が忘れられ、やり方だけが引き継がれてしまっていることがあります。また、他自治体がそのようにしているからという理由で業務を行っていることもあります(これは、行政サービスの公平性という観点では必要なこともありますが)。
そのような処理をしていると「どの法律のどの条文をどのように解釈して行っているのか」ということが抜け落ちてしまい、イレギュラーな事態について、どのように対応していいのか分からなくなってしまいます。 弁護士であれば、当然、法解釈に基づいた業務処理を考えることができますし、仮に規律のないものであっても、類推解釈などの法的思考によって処理することができますので、「法律による行政」を実現するための役割は大きいと思います。
また、法律上、問題ないというアドバイスがあれば、自治体職員としても自信をもって業務を行うことが可能になります。

7.おわりに

自治体内弁護士に興味を持ち始めたとき、私には自治体内弁護士の知り合いはいませんでした。そこで、日弁連を通じて二弁の自治体内弁護士経験者の先生を紹介してもらい、さらに、弁護士業務センターの行政連携部会をご紹介いただきました。そこで、自治体内弁護士の実情をお聞きすることができました。 このようなネットワークがあることは二弁の強みです。また、自治体内弁護士であれば、二弁は弁護士会費も免除されます。 自治体内弁護士というキャリアは、まだまだマイナーですが、大変、魅力的です。是非、多くの先生に興味・関心を持っていただき、自治体内弁護士という仕事が当たり前の時代にしてもらえると幸いです。