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インハウスレポート

山岸 哲平(63期) ●Teppei Yamagishi

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1.法律事務所から企業内弁護士へ

私は、弁護士登録して10年目を迎えます。最初の約6年間は法律事務所に勤務し、その後企業内弁護士に転職して、現在2社目の会社に勤務しています。
弁護士としてのキャリアをスタートした森本紘章法律事務所では、訴訟事件を中心に、個人の依頼者や顧問先の企業からの相談など、特定の分野に偏ることなく幅広く案件を担当させていただきました。新人弁護士のころは、ただ目の前の案件に必死に取り組む日々でしたが、徐々に自分の弁護士としてのキャリアについて考えるようになりました。私は、弁護士事務所以外に社会人経験がなかったため、会社組織の一員として仕事をする経験を積んでおくべきではないかと思い、法律事務所に5 年ほど勤務したところで、企業内弁護士への転職活動をしてみることにしました。
法律事務所から企業内弁護士への転職活動は、転職エージェントを利用しました。紹介を受けた企業の中から、収納代行・資金移動業等の決済サービスを提供しているウェルネット株式会社に、社内初の企業内弁護士として勤務することになりました。同社は、企業内弁護士の採用自体が初めてであるばかりか、法務部もなく、転職に当たって不安な部分もありました。当時はまだ現在ほどキャッシュレス決済が浸透していなかったものの、今後の成長が見込める業界ということもあり、せっかく転職するなら新しい環境で挑戦してみようと、思い切って飛び込んでみました。

2.一人法務からのスタート

入社後は、総務人事チームに所属しながら、社内唯一の法務担当者として、営業・開発・コールセンター・バックオフィス等の各部署からの契約審査・法務相談や、資金移動業者としての金融庁対応等、社内のあらゆる法務業務を担当しました。入社した当初は、ほぼ法務業務のみでしたが、会社に慣れてくるにつれ、総務や人事の仕事も一部任されるようになり、株主総会の運営や人事制度改定プロジェクトの事務局など、法務の枠に留まらずに幅広く業務を経験しました。
いわゆる一人法務として、社内の法務案件を全て一人で担当することで、会社のビジネスを深く理解でき、新規ビジネスのローンチに関わることができるなど、非常にやりがいを感じる充実した仕事でした。その反面、法務担当者が他にいないという環境では、私の仕事の進め方は企業内弁護士としてはどうなのか、社内にロールモデルがなく、このまま自己流で企業法務をすることがスキルアップにつながるのか、という点は気がかりでした。
結局、約2年弱勤務したところで、ロースクールでお世話になった弁護士の先生からの紹介もあり、異なる環境での執務機会を求めて、現在勤務している曙ブレーキ工業株式会社に転職しました。

3.自動車部品メーカーへの転職

同社は、ブレーキ部品メーカーで、海外関連会社を含めると約1万人弱の従業員を抱える会社規模、組織的な法務機能を備えているなど、それまでとは大きく異なる環境で、私の入社時点で企業内弁護士も他に2名在籍していました。自動車業界は、多数の部品製造メーカーが連なって、サプライチェーンを構築しており、下請法・独立法への対応や安全保障貿易管理についての相談なども重要な業務となります。
入社して約3週間で、いきなり会社が事業再生ADR手続を申請し、私はその法務担当メンバーとなりました。債権者会議、臨時株主総会、新経営体制でのリスタート、事業再生に向けた構造改革と、会社の変革期に内部から関わることができたのは、企業内弁護士として貴重な経験であると思います。
入社から9か月ほど経ったところで法務室長となり、契約審査に加え、コーポレート業務、コンプライアンス業務等、法務室(現在は法務課)全体を広く俯瞰する立場となりました。
また、管理職として組織マネジメントにも関与するようになりました。チームマネジメントは初めての経験であるため、どうやったらひとつのチームとして結果を出すことができるか、悪戦苦闘する日々です。

4.企業内弁護士となってみて

法律事務所から企業内弁護士に転職し、会社規模や業種、法務組織が全く異なる2社に勤務したことで、企業内弁護士であっても期待される役割は様々であることを実感しました。しかし、いずれの会社においても、法律事務所で勤務した経験は、リスクを意識した契約書審査、紛争に備え必要となる証拠資料の残し方、外部弁護士事務所への対応など、至るところで大いに役立っていると感じます。また、企業内弁護士になったことで、ビジネスサイドの視点を意識したり、依頼者の立場で外部の弁護士事務所に接するようになるなど、法律事務所に勤務していたころとは異なる視野で仕事をする機会が得られるため、法律事務所と企業内弁護士の双方を経験することで、弁護士としての幅も広げることができたのではないかと思います。

5.弁護士会との関わり

私は、法律事務所から企業内弁護士へと転職したのを機に、情報公開・個人情報保護委員会に所属しています。同委員会は、以前よりオンラインでの委員会出席が認められていたり、委員会後にミニ講義を実施していただいたりと、企業内弁護士にも配慮した委員会運営がなされており、非常にありがたく思います。また、今年の3月には、二弁と日本組織内弁護士協会との間で協定が締結されたとうかがいましたので、今後ますます組織内弁護士が会務にも参加しやすくなる体制が整備されていくことを期待しています。