出版物・パンフレット等

少年とともに

初めての付添人活動

青塚 貴広(71期) ●Takahiro Aotsuka

1.それは突然に

いつものように事務所で勤務をしていると、突然、弁護士会から電話が来て当番弁護の打診を受けました。待機日ではありませんでしたが、サポート名簿に名前が登載されていたことから連絡が来たようでした。心の準備はできていませんでしたが、せっかくのチャンスを逃すのはもったいないと思い、当番弁護を受けることにしました。
こうして私の初めての少年事件は突然に訪れました。

2.初回面会

罪名は窃盗罪。都内にあるディスカウントストアで、グラス等6点(合計約15,000円)を万引きしたとのこと。非行歴はありませんが、今までに数回万引きをしたことはあったようです。
少年は当時18歳で、高校を中退後、親元を離れ、現在は売買の仲介業等で生計を立てていました。話を聞いていると、万引きをしたことに対する反省は見せつつも、仕事に影響が出るのを避けるために早く身柄を解放して欲しいという思いの方が強いようでした。両親の連絡先を聞いたところ、栃木県在住であることが判明したので、栃木県内の裁判所に移送される可能性があり、私が付添人になるのは不適当かもしれないと伝えました。しかし、費用は支払えること、都内にある被害店舗と示談交渉をしつつ栃木にいる両親にも会って欲しいという希望を持っていることなどから、結局、同じ事務所の72期の弁護士と共同受任(私選)することになりました。

3.往復の日々

初回面会から数日後、少年は両親のいる栃木県内の裁判所へ移送されました。少年の経済的負担を極力減らすために、1台の軽自動車を借りて2人で乗り込み、片道約2時間かけて東京と栃木とを往復する日々が始まりました。

4.両親との面会々

少年は、本件非行を行う1か月程前にトラブルに巻き込まれて警察沙汰になったことがありました。その際、両親は少年を引き取りに栃木から都内の警察署まで長い時間をかけて会いに来たと聞いていたので、環境調整はそこまで難しくはないだろうと思っていました。今後の環境調整等について話し合うため少 年の実家に伺うと、少年の父親と祖母が出てきました。私は、少年が本件非行を行い、栃木の少年鑑別所に収容されていること、少年が両親との面会を希望していること、身元引受人になって欲しいことなどを伝えました。しかし、返ってきたのは「身元引受人にはな らない。面会もしない。」という言葉でした。
以前、少年が金銭トラブルを起こした際、数人の男が実家に押しかけて父親を脅してきたことがあったため、少年が実家に戻ってきたら再び押しかけてくるのではないかという恐怖感が拭えず、身元引受人になることに強い抵抗があるようでした。また、これまでのすれ違いで、すっかり少年との接し方がわからなくなっているようでした。
私は「せめて1度は会って欲しい。その時の少年の態度を見て決めて欲しい。」とお願いし、両親と少年鑑別所で会う約束をなんとか取り付け、その日は東京に戻りました。

5.環境調整の難しさ

後日、約束どおり両親と会うために、少年鑑別所の駐車場で待っていたところ、両親は現れました。しかし、「会うつもりはない。代わりに手紙を渡して欲しい。」と言って面会を拒んでしまいました。
私は少年に対し、示談交渉がまとまらず早期の身柄解放も難しい状況になったことも含め、ありのままを伝えました。少年は両親が身元引受人になり、すぐに実家に帰れると思っていたせいか、さすがに応えたようでした。少年の処遇について、家裁調査官と話し合う中でも、帰住先の不存在という事情が最後まで問題となりました。裁判官と家裁調査官は、今までの少年の交友関係の中で帰住先を見つけても適切なものとは認めないという考えを持っていたため、帰住先の捜索は難航を極め、結局、見つかったのは審判の3日前でした。

6.少年の変化

当初は、早く身柄を解放して欲しいという思いが強く、本件非行について内省を深めたり、家族関係の改善に努めたりすることは二の次という印象でした。
しかし、両親に面会を拒絶されたことで、本件非行を含め少年の今までの行いで大切な人の人生がどれだけ狂わされてきたのかを自覚するようになり、両親への手紙にも「ごめんなさい」という言葉が多く出てくるようにもなりました。また、少年が野球をしていた頃、いつも両親が応援や送り迎えをしてくれていたことを振り返り、「この頃の関係に戻りたい。」と話すようにもなりました。
両親も少年と何通か手紙をやりとりする中で少年の変化を感じたのか、少年鑑別所に面会に訪れるようになりました。結局、今すぐの受け入れは難しいということになり、帰住先を実家にすることはできなかったのですが、それでも少年は「もっと成長します。待っていてください。」と両親や祖父母への思いを捨てることはしませんでした。

7.審判

家裁調査官と少年鑑別所の意見は、いずれも第1種少年院送致相当という厳しいものでした。比較的軽微な万引きであること、内省を深めていることは認めつつも、保護者による指導監督が期待できない現況を重視していました。
付添人の私たちからは、面会や両親との手紙でのやりとりを通じて少年がどのように変化していったのか、帰住先でどう生活していくのかを中心に論じました。帰住先は土木関係の会社寮で身元引受人の社長も一緒に生活するから指導監督が期待できることも指摘しました。
また、家裁調査官にアプローチをかけ続けたのが功を奏し、意見の中で「適切な帰住先が提示され、少年もそれを受け入れるのであれば社会内での更生の余地もある」という留保を付けてもらうことができました。
その甲斐もあって審判の結果は、「保護観察」でした。

8.最後に

結局、少年の「実家で家族と暮らしたい」という希望は叶わなかったので、他に良い方法があったのではないかと反省するばかりの付添人活動でした。
今はただ、少年がしっかりと更生し、いつの日かまた両親と祖父母と笑顔で過ごすことができるのを願うばかりです。

児童養護施設から自立する子どものために弁護士ができること ~自立支援コーディネーターと 弁護士との勉強会を通して考える~

山本 雄一朗(62期) ●Yuichiro Yamamoto

1.はじめに

子どもの権利に関する委員会では昨年度から、有志メンバーが児童養護施設の自立支援コーディネーターとの勉強会に取り組んでいます。
児童養護施設を退所して社会に出ていく子どもは、後述のように多くの課題のある環境に置かれますが、このような児童養護施設からの自立が持つ課題について学び、できれば弁護士としてこれに関わっていきたいと考え、この勉強会を始めました。
本稿では、児童養護施設を退所する子どもが置かれる環境について概略や、現在行われている勉強会の様子をご説明したうえで、そのような子ども達に対して弁護士としてできることについて、私の考えを述べたいと思います。

2.児童養護施設を退所する子どもが置かれる環境

(1)児童養護施設への入所・退所

児童養護施設は、親権者等からの虐待・養育困難等の事情で家庭での養育が適切でない児童が、主に児童相談所の措置により入所する施設です。東京都では、各児童養護施設に1名以上、そのような支援のコーディネートを行う「自立支援コーディネーター」を置いています。18歳になった子どもは、高校卒業等のタイ ミングで退所し、一人暮らしを始める等します。また、同時に就職もしくは、大学や専門学校に進学します(なお、例外的に、児童相談所の措置延長により18歳を超えても入所を続ける場合もあります。)。

(2)退所後の生活の課題

このように、長いこと児童養護施設で生活してきた子ども達が、原則18歳で社会に出ることになります。
社会的養護ではない一般家庭の子どもは、18歳で大学に進学する際、学費等について両親から経済的サポートを受けています。また、一人暮らしを始める場合には、両親や親族に、生活の細かい部分を助けてもらうなど、多かれ少なかれ、精神的にも経済的にも支えられます。このように、社会的養護ではない一般家庭の子どもは、18歳になった後も、経済的にも精神的にも、両親や親族等に大いに支えられて生きていくことができます。
そして、児童養護施設では、退所後の子どもについて、施設と子どもとのつながりが途絶えない限り、そのような自立支援コーディネーターの方々がメインとなって、退所後の生活のサポートや様々な悩みの相談に応じています。
そのような状況で施設を出て独り立ちをするのですから、後述するような、様々なトラブルに出合う場合があります。
なお、このような問題は、児童養護施設を退所する子どもに限らず、里親委託されていた子ども等、社会的養護の子どもの多くが抱える問題と考えられます。

(3)退所にあたっての施設側のサポート

このような子どもの自立のために、児童養護施設では、退所前から施設のスタッフが、その子どもに合った就職先を探す援助をする、進学や一人暮らしに要する費用の見積もりをする等のサポートを行っています。東京都では、各児童養護施設に最低1名、そのようなサポートのコーディネートを行う「自立支援コーディネーター」を置いています。
そして、施設では、退所後の子どもについて、つながりが途絶えない限り、主にそのような自立支援コーディネーターの方々が、退所後の生活のサポートや様々な悩みの相談に応じています。

3.勉強会で寄せられる相談

昨年度から取り組んでいる勉強会は、そのような自立支援コーディネーターの方々と情報交換を行い、児童養護施設を退所した子どもの問題について、弁護士としても見識を深め、ひいては、児童養護施設を退所していく子どもの自立の過程に寄り添うことができればと考え、始めました。
その勉強会では、児童養護施設を退所した後の子どもが、以下のような具体的な課題に直面するということが、参加した自立支援コーディネーターの方々から弁護士への相談という形で明らかになりました。
具体的には、児童養護施設に入所していた子どもが自立するにあたって、一人暮らしをするために建物賃貸借契約を締結する際や、携帯電話の契約をする際に保証人が求められることが多いが、親権者との関係が良好でなく、どうすればよいか、といった相談がありました。このように、施設からの自立によって契約 行為等が必要になった際に、親権者の協力が得られないと、とくに未成年の子ども達には、自立への大きなハードルとなりかねません。児童養護施設出身の子どもの入居に理解のある仲介業者にあたる、親権者を保証人とすることを求めない会社の携帯電話を作る、等の方法が考えられますが、100%対応可能な解決策は見つかっていません。
また、施設からの自立にあたって就職先を十分に選ぶことができず、労働法制上問題のある就労環境に置かれており、退職したいが職場での罰金等の締め付けがひどく、退職届の提出等の通常の退職方法では退職後に脅迫等の恐れがあり、恐怖で退職できない、という相談があり代理人として動いたケースもありました。
このように、児童養護施設から自立する子どもが、頼れる親権者がいないことや、施設での自立の準備をするという環境下で与えられた選択肢が十分ではなかった等の事情で、自立後に様々な生活上の困難に直面することが多く、法律を用いてそのような課題に対するソリューションを見出すことは、一定の意味があるものと考えます。
さらに、上記のような退所後の子どものアフターケアの問題とは別に、自立支援コーディネーターの方々が、養護施設入所中の子どもの生活に接していることから、勉強会においては、施設入所中の子どもにまつわる相談も受けることがあります。具体的には、養護施設入所中の外国籍の子どもの国籍に関する相談や、予防接種やパスポート取得の際の親権者の同意の取得の要否に関する相談があり、対応しました。
いずれも一般的には、子どもの担当の児童福祉司が児童相談所の非常勤弁護士に相談するような内容ではありますが、施設側でも子どものために悩んでいるのであれば、弁護士が施設側の相談に直接対応することで、施設としてもより良い子どものケアにつながっていくものと思われました。

4.児童養護施設から自立する子どものために弁護士ができること

児童養護施設から自立をする子どもには、できるだけ多くの大人が連携してサポートを行っていくことが必要だと考えます。その連携の輪の中に弁護士がいることで、上記のような生活上の課題について、法律面でサポートすることが、ある程度は可能と思われます。そのきっかけ作りとしても、上記の勉強会 を継続して内容を深めていきたいです。そのなかで、自立支援コーディネーターをはじめとした児童養護施設の現場の方々から、児童養護施設に入居して、自立していく子ども達が、どのような環境でどのようなことを考えて生活を送り、どのような課題を有しているのか、について、多くお話を聞き経験を共有させていただくことが必要です。また、弁護士達が、そのような子ども達への支援の経験を積んでいくことも必要だと考えています。 そのようにして、児童養護施設から自立す る子どもにしっかりと寄り添える弁護士になっていきたいと考えています。