出版物・パンフレット等

東京三会合同研修会「成年後見実務の運用と諸問題」(後編)

5 その他裁判所への質問

1 付加報酬について

付加報酬について、付加をした場合としなかった場合の具体例を教えていただきたい。例えば、大規模修繕を行うこととなった場合に、その修繕にかかる請負契約を締結することは付加事情になるか。付加事情になるとして、契約の締結だけを行う場合と、現地で修繕にも立ち会う場合とで、付加の度合いは異なるか。
また、被後見人からの連日の電話に対応した場合やごみ屋敷のごみ撤去作業に立ち会った場合なども付加事情となるか。

(1)付加報酬について

東京家裁後見センターにおける現在の運用を述べると、「付加報酬」とは、後見人等の職務遂行に際し、後見人等として通常行うことが想定されている業務の範囲を超えて行った行為(管理財産額に応じた基本報酬において評価されているとはいえない行為)について、当該労力の程度、それにより本人が得た利益(経済的に評価できる利益のみならず、経済的に評価し得ない利益も含む。)などを考慮して、これを金銭評価するものである。

(2)報酬付与申立事情説明書について

付加報酬を付与するか否かは、報酬付与申立書とともに提出いただく報酬付与申立事情説明書において、「□...について、付加報酬を求める」という欄にチェックがされ、その次頁以下において対象となる行為等が特定されている場合に、裁判所において検討の対象となるのが原則である。
報酬付与申立事情説明書の書式(東京家裁 が現在提供しているもの)に挙げられている、
①訴訟、②調停及び審判手続における対応、③遺産分割協議、示談等の手続外合意における対応、④不動産の任意売却、⑤保険金の請求手続及び⑥不動産の賃貸管理については、特段の事情がない限り、いずれも付加報酬の考慮対象としている。ただし、報酬付与申立期間中に本人が現に経済的利益を得ていない 場合には、裁判官ごとの個別判断にもよるが、当該期間においては付加報酬として考慮せず、本人が現に経済的利益を得た時点で全体とし て付加報酬の対象として考慮することが多い。その他、報酬付与申立事情説明書の「その他の行為」欄には、後見人等により、上記以外の財産管理や身上監護に関する様々な行為が記載されて報酬付与申立てがなされている のが実情である。その場合は、裁判官が、当該行為について、後見人等の通常業務の範囲を超えているか否かを、事案の内容に応じて個別に判断している(当庁の平成25年1月1日付け「成年後見人等の報酬額のめやす」に記載のとおり、身上監護等に特別困難な事情があった場合に、付加報酬の対象として考慮することとしている。)。当該判断については、後見人等から付加報酬を求められる行為が様々であり、それぞれの事案に応じた個別判断という側面があることから、付加報酬を求められて付加した例と付加しなかった例を裁判所 の側で整理してお伝えすることは困難である。

(3)設例に対する回答について

設例については、前述のとおり事案に応じた個別判断による面があることから、一般的・類型的な回答は難しいが、考え方の方向性という限度において、以下のように考えられる。

  • ア 大規模修繕における請負契約締結や現地での修繕工事立会いについては、請負契約締結に先立つ事情調査、業者選定・条件交渉、裁判所への事前連絡等の一連の活動が必要と思われるので、通常は、請負契約の締結行為自体が、後見人等の通常業務の範囲を超えていると判断し得るものである。また、現地で必要とされる修繕工事への立会いを行ったというような場合には、さらに労力を要したと評価できる。したがって、請負契約の締結をもって付加報酬の考慮対象とすることや、現地で必要とされる修繕工事への立会いを行った場合に、当該労力の程度を考慮して一定の範囲で付加の度合いを増すという余地は、十分にあると考えられる。
  • イ 被後見人からの連日の電話対応については、当該電話対応の内容や頻度に応じて、後見人等の通常業務の範囲を超える困難事情への対応をいただいたものとして、付加報酬の考慮対象とする余地は十分にあると考えられる。
  • ウ 「ごみ屋敷」におけるごみ撤去作業については、当該作業に係る請負等の契約を締結するほか、その請負業者等から、作業過程におけるもろもろの確認のために後見人等の立会いを求められるなど、作業過程への立会いが必要となる場合があると考えられる。後見人等が当該契約を締結し、かつ必要な立会いを行ったとすれば、通常は、当該契約締結及び立会いをもって後見人等の通常業務の範囲に含まれるものとはいえず、付加報酬の対象になり得るものと考えられる。

6 後見人等の選任

1 はじめに

(1)最近の動き等

平成28年に制定された成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づき、成年後見制度利用促進基本計画(以下「国の基本計画」という。)が平成29年3月24日に閣議決定された。国の基本計画では、成年後見制度が社会生 活上の大きな支障が生じない限り、あまり利用されていないことがうかがわれること、親族よりも法律専門職等の第三者が後見人に選任されることが多くなっているが、第三者が後見人になるケースの中には意思決定支援や身上保護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされているものもあると指摘されていること、後見人等を監督する立場の家庭裁判所では福祉的な観点から本人の最善の利益を図るために必要な助言を行うことは困難であることなどから、利用者がメリットを実感できていないケースが多いこと等を踏まえ、そのメリットを実感できる制度、運用への改善を進める必要があるとされている。
そのために様々な施策が打ち出されており、その中で、財産管理のみならず、意思決定支援、身上保護も重視した制度、運用とすることや、家庭裁判所が適切な後見人等の選任をすることができるための方策を検討するものとされている。

(2)専門職団体と最高裁判所との議論状況及び情報提供

国の基本計画を受けて、平成30年6月以降、専門職団体(日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、公益社団法人日本社会福祉士会)と最高裁判所との間で、後見人の選任の在り方などについて中央レベルでの意見交換が行われた。その結果、認識共有が図られた内容について、平成31年1月に、最高裁判所から全国の家庭裁判所に情報提供がなされた。主な内容は、①身上保護等の観点も重視した後見人の選任を行う、②中核機関、あるいは、専門職による親族後見人支援の必要性を確認する、③選任後も必要に応じて選任形態を柔軟に見直すことにする、というものである。
これについて、平成31年春頃の新聞報道等では、親族を積極的に選任するというような趣旨で報道されたが、要は、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合にこれらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましいということであり、親族等の候補者が後見人にふさわしいかどうかは、個別に事案ごとに検討するということが前提になっている。そのため、全ての事案で当然に親族を後見人として選任するというわけではない。家庭裁判所が後見人を選任するに当たって は、その候補者、親族等が後見人に選任することが相当でない事情、例えば、親族間の対立の有無や、想定される課題の専門性、候補者の能力適性、不正防止の必要性などを勘案し、その親族等の候補者が本人のニーズ、課題に対応できるかどうかを検討していくことになる。その結果、当該事案で後見人としての適格性があると判断された場合、中核機関の支援が見込まれるときは、中核機関の支援の下に単独で選任されることが考えられ、中核機関の支援が見込まれないときには、必要に応じて専門職の関与が想定される。専門職の関与の仕方は、複数後見人として関与する場合も、監督人として関与する場合も想定される。また、いったん後見人を選任して後見等が開始した後も、例えば、課題が解決した場合や、逆に新たな課題が発生した場合等には、後見人等の選任形態を柔軟に見直すことが前提となっており、必要に応じて、後見人の交代や追加選任等を行うこととなっている。

2 現在の東京家庭裁判所の運用

(1)近年における親族後見人の選任件数の推移近年、親族後見人の選任件数は増加傾向にあるか。親族後見人の選任割合は全体の何割くらいか。

  • ア 全国の統計数値
    (最高裁判所ウェブサイト)
    親族が後見人等に選任された割合の全国の統計数値は、最高裁判所のウェブサイトに公表されている。これによると、現在の成年後見制度が始まった平成12年4月からの1年間では親族後見人の割合は9割を超えていた。しかし、5年後の平成17年度で79 %、そのさらに5年後の平成22年(1月から12月の統計、以下同じ。)は58.6%となっており、年々親族の選任割合は低下している。親族後見人の割合が50%を切ったのが平成24年であり、直近では平成27年が29.9%で3割を切っている。平成28年には28.1%、平成29年には26.2%、公表さ れている一番新しい数値である平成30年は、23.2%まで低下している。
    冒頭で示した東京家裁管内のみの統計数値では、親族の選任割合が26.5%であり、全国平均の23.2%より若干高い数値になっている。
  • イ 補足説明 親族が20%台しか選任されていないということが、親族が後見人に選任されないというイメージの固定化につながっているとも思われるため、統計数値について、補足説明をしたい。
    ①複数選任の統計上の処理について
    数選任の場合、本人との関係性が異なるものはそれぞれ1件ずつという形で複数計上されている。平成30年の全国の統計上、認容で終局した件数は3万3864件であり(これは概ね本人数とイコールと考えてよいと思われる。)、後見人と本人との関係別の選任件数の総数3万6298件との差(2434件)は、関係性の異なる複数選任であったことがうかがわれる。後見人と本人との関係性については、例えば、本人のきょうだいが2人選任された場合は1件としてカウントされるが、きょうだいと親だと別々にカウントしている等、若干複雑な扱いをしているため、必ずしも正確な言い回しではないが、複数選任の場合は専門職と親族のケースが多いことから、認容で終局した件数のうち、1人でも親族が選任された件数というのは概算で8428件(24.9%)程度ではないかと思われ、全国平均の親族後見人(23.2%)と比べて、若干高い数値になると思われる。東京家裁管内の数値で同じような計算をすると、1 人でも親族が選任された割合は約28.7%となり、全国平均値より少し高くなる。
    なお、統計の数値は、開始時のものである。後見等開始時に専門職が選任されて、その後、例えば、課題が解決したため専門職から親族にバトンタッチしたようなケースも専門職選任としてカウントされており、途中で親族に交代したケースはこの数値には反映されていない。また、専門職と親族との複数後見の場合は、専門職と親族とそれぞれカウントされるため、相対的には親族の選任割合が下がるということになる。新規信託案件のようなケースでは、東京家裁の場合は親族後見人と信託後見人の複数選任という形を取っているが、全国的に見た場合、新規信託事案で開始時には信託後見人(専門職)だけを選任し、信託が終わった後に親族後見人に交代するリレー方式の運用をしている家裁もあり、このような事案は、長期的、実質的に見ると親族後見人事案といってもよいと思われるが、統計上は専門職単独選任としてカウントされることになる。
    いずれにしても、専門職がいったん選任されると最後までずっと就いているという固定観念、そのため親族が全く関与できなくなるのではないかという懸念が、制度の利用控えや専門職が選任されることに対する強い抵抗感につながっている事例もあるように感じており、専門職の関与の在り方として、必要なときに関わるものであるという説明を親族にしていくということも重要と考えている。
    ②首長申立て・本人申立ての割合
    後見等開始事件の申立人の内訳を見ると、平成30年の全国の統計数値では、市区町村長の申立て、いわゆる首長申立てが21.3%に上っており、首長申立ては年々増加傾向にある。また、本人申立ても全国の統計で15.8%あり、首長申立てと本人申立ての合計が37.1%になる。この種の事案は親族が候補者になることはまずない事案である。 実務上、親族が候補者となる事案は、親族が申立人であるものにほぼ限られている。親族申立ての割合は、平成30年の全国統計で全 体の59.7%であり、もともと親族が候補者になり得る事案が約6割しかないといえる。
    ③親族申立てで第三者専門職を候補者とする申立て
    また、親族の申立てではあるが、候補者は親族ではなく第三者専門職というケースがとても多いという印象を持っている。候補者の統計はないので、あくまで個人的な感覚の話になるが、おそらく東京家裁本庁では、親族申立て事案のうち、半分程度は専門職が候補者になっている事案という感触を持っている。親族が申立人なのになぜ第三者専門職が候 補者なのかという経緯については、家庭裁判所の方で個別に確認するようなことはしていない。そのため推測になるが、申立書類を見ると、申立人である親族自身が支援を要するような状態である場合や、本人と疎遠な親族が申立てをしており、申立てにはかろうじて協力が得られたが、後見人にはなれないとい う親族が多いためと思われる。
    このような状況から、候補者となり得るような親族がいないケースでの成年後見制度の利用がなお多い、つまり、基本計画で指摘されているように、社会生活上の大きな支障が生じない限り、成年後見制度が利用されていないことの現れではないかということが推測される。身近な親族がいるような事案での申立てが増えると、この数値も変わってくるのではないかと考えている。
    また、一方で、家族の在り方や考え方の影響、例えば、本人の方で親族の世話になりたくないという意向を有しているというケースもあり、親族の方が後見人を務めるだけの経済的、精神的、時間的余裕がないというケースもあると考えられる。
    ④候補者一任のケース
    候補者が一任のケースは、全国的には必ずしもそうではないのかもしれないが、東京家裁本庁で見る限り、非常に少ないという印象がある。なぜ候補者一任なのかという理由までは確認していないため推測になるが、記録からうかがわれる事情からすると、親族間対立があるので最初から一任で申立てをするケースや、推進機関が事前の候補者調整をしたが、候補者のなり手が見つからないケースというのもあるように思われる。
  • (2) 専門職(名簿登載者)が候補者である場合専門職(名簿登載者)が候補者として申立書に記載されている場合で、その候補者を後見人等に選任しない場合はどのくらいあるか。
    その場合、選任しない理由にはどのようなものがあるか。

    申立書の候補者欄に専門職の名前が記載されている場合は、裁判所が、例えば、ほかに親族に候補者となるような人がいないかどうか探索するような運用はしていない。また、なぜ親族が候補者にならないのかもあえて詮索はしていない。専門職の候補者をそのまま選任することが圧倒的に多い。
    名簿登載の専門職候補者を選任しない場合の統計は取っていないため、件数や割合は分からないが、家裁後見センターの認識としてはレアケースである。
    専門職候補者が選任されないケースとしてあり得るのは、親族間対立があり、申立人が立てた候補者である場合、申立人の意向を汲んだ候補者であるという理由で、ほかの親族が反対しているというようなケースが挙げられる。もっとも、補助類型の場合は、本人がその候補者を希望している場合は、ほかの親族が反対していてもそのまま選任するというケースもあり、ケース・バイ・ケースではある。また、これもレアケースで、厳密に言うと 候補者の変更というべきものであるが、手続を進める中で、申立人や本人が、申立て段階から気が変わって、別の候補者でお願いしたいと述べることもある。
    ところで、平成30年の全国統計で親族後見人が選任される割合は23.2%という状況であるが、前に述べたように、そもそも親族による申立てが全体の6割ほどしかなく、そのうち半分ぐらいは第三者専門職が候補者であると思われるため、親族を候補者とする申立ては3割くらいの印象である。その中で、候補者である親族を選任できないケースは全体の中では少ないという印象である。先ほど申し上げたとおり、東京家裁では1人でも親族後見人が選任された割合は約28.7%であり、親族の候補者は概ね選任されていることになると思われる。また、推進機関や専門職が客観的な立場で関与して申し立てられた事例では、ほとんどのケースで適格性のある親族候補者が立てられていると認識している。
    他方、親族の候補者が選任されない場合の典型例は、親族間対立が存在するケースであり、一定数が存在している。数の上では少ないが、紛争案件で対立が激しいので、親族の候補者が選任されなかった、あるいは、選任した第三者の専門職が自分の思うとおりに動いてくれない、という不満が出やすく、選任されなかった例として関係者に対して強い印象を残すことがあると思われる。
    ほかに、親族の候補者が選任されないケースとして、東京家裁ではまれであるが、申立手続に専門職や推進機関が一切関与しておらず、自力で親族が申立てをした案件で、書類等に不備が非常に多く、裁判所のほうで説明をしてもなかなか手続が進まず、結局、候補者自身が、自分には無理ですと言って辞退するというケースもある。
    親族間対立などの親族等後見人を選任することが相当でない事情がある場合は別として、そのような事情がない場合で、候補者の能力や適格性に不安があると感じられるケースの場合、最近の東京家裁の傾向としては、直ちにその人を選任しないのではなく、選任した上で、専門職との複数後見や、監督人選任という形をとることが多いと思われる。
    もっとも、親族の候補者の適格性に問題があるケース、例えば、候補者親族が事実上本人の預金等を管理しているが、不自然に資金が流出している等の事情が認められるケースでは、親族の候補者を選任しないことがある。

3 後見人等選任の在り方

(1) 専門職の選任の在り方
親族後見人に対して、専門職が複数後見として選任されている場合と、後見監督人が選任される場合との違いについて、教えていただきたい。

平成30年6月から専門職団体と最高裁判所との間で中央レベルの意見交換が行われたが、その中で、専門職が後見人として複数後見という形で関与する場合と、監督人として関与する場合の違いについて、次のような説明がされている。

  • ア 親族等の候補者が、本人のニーズ、課題に対応できるかどうかを検討して、中核機関等の支援があれば対応できる場合は、親族を選任した上で、監督人を付し、又は親族単独の選任とする。
  • イ 中核機関等の支援があっても対応が困難という場合は、専門職等との複数選任にし、場合によっては専門職のみの単独選任とする。
  • ウ 「中核機関等による支援」とは、専門職や福祉機関等が中核機関に代替して継続的な支援を行っている場合も含む趣旨である。

(2)申立て段階の資産調査
申立段階における本人の資産調査は、どの程度する必要があるか。
例えば、区長申立ての場合、本人の資産状況の把握には限界がある。

裁判所が後見人を選任するに当たっては、本人のニーズ、課題を踏まえて、課題の難易度、候補者の能力、適格性、不正防止の必要性などを考慮するが、特に財産管理面におけるニーズ、課題に対応できるかどうかを検討するに当たり、本人の資産状況が手掛かりになる。そういう意味では、資産状況が的確に把握できていた方が望ましいといえる。また、保佐、補助類型では、代理権付与の申立てをされることがままあるが、代理権が必要かどうかに関しても、資産状況が不明だと検討ができない場合もあろうかと思われる。
そのような意味で、家庭裁判所としては資産状況の調査を原則としてお願いする、というスタンスになるが、申立時における本人への支援体制の状況いかんによっては、資産を把握することが容易でないというケースはあると考えられる。特に申立ての直前まで、行政、地域、あるいは、親族の支援の手が行き届いていないケースなどでは、申立時の財産目録や収支予定表がほぼ不明という形で申し立てられるケースもままある。
財産管理権のない申立人や支援者がその全容を調査するには時間も労力もかかり、できないことも多いと思われる。調査に長時間を要していると、その間、本人が成年後見制度の保護のない状態のまま、長期にわたってその状態で置かれてしまうということになり、そのこと自体、望ましいことではない。そのため、調査に困難が予想されて、時間がかかるであろうものについては、選任後の後見人による調査に委ねる方がよいと考えられることもあると思われる。
そのように考えると、具体的にどこまでというところを示すのは非常に難しく、ケース・バイ・ケースの判断にならざるを得ないが、分かる範囲で調査していただき、分かっている範囲で開始選任の審判をして、初回報告で判明した資産状況に応じて、選任形態を見直したり、場合によっては必要な代理権付与の追加をしていくというようなことが現実的な対応であると思われる。

4 監督人に求められる役割

(1)最近の動き

日弁連をはじめとする専門職団体と最高裁との間では、国の基本計画を踏まえ、後見監督人に期待される役割等についても中央レベルで意見交換がなされた。その結果、一定の認識共有に至ったとして、令和元年8月に、その内容が最高裁から全国の家裁に情報提供されている。
その内容については、弁護士会にも情報提供されていると思われるが、大きな柱として、次のようなことが指摘されている。すなわち、親族後見人に監督人が付されるような場合において、監督人には、後見人による不正行為の防止という観点からの役割だけではなく、より広く後見人による不適切な後見事務を防止するための支援という観点からの役割も期待される、とされている。例えば、財産調査、財産目録作成についての指導・助言、後見事務上の課題対応に関する相談対応・指導・助言、後見人の裁量の範囲内かどうかについての相談対応・指導・助言、初回報告や定期報告時における指導・助言などがこれに当たる。東京家裁としては、こうした監督人による 支援的役割について、これまでになかった全く新しい役割が追加されたものとは受け止めていない。従来から、監督人には、親族後見人による不適切な後見事務を防止するための指導、助言などをやっていただいており、事案によってはそのために大変なご苦労をいただいている案件もあるものと承知している。今般の中央レベルでの意見交換では、国の基本計画を受けて、こうしたこれまでの監督人の活動が新たに再認識されるに至ったもの、と考えている。もっとも、そうした監督人の支援的役割が、親族後見人など利用者にも広く認識されることで、専門職の関与に対する理解が深まるきっかけになるのではないかと期待しているところである。

(2)中核機関の役割と監督人の役割(すみ分け)

国の基本計画では、権利擁護支援の地域連携ネットワークにおいて中核となる機関を各地域に設置することとされており、この中核機関は、広報・相談・制度利用促進の各機能のほかに、後見人支援機能を担うものとされている。この後見人支援機能とは、具体的には、親族後見人等の日常的な相談に応じるほか、後見人による事務が本人の意思を尊重し、その身上に配慮して行われるよう、後見人を支援するものとされている。
そうすると、後見監督人による支援と中核機関による支援との関係がどうなるのかという疑問も生じ得るが、両者は、重なる部分もあるものの、目的や内容に差があるものと思われる。
中核機関は、福祉、医療、地域等の関係者によるチーム体制を構築し、専門的知見を要する案件では専門職の協力を得られるような仕組みを作ることとされており、中核機関による支援は、主にこれらの関係者がチームとして行うものを想定しているものと解される。そして、福祉サービスとして提供される支援という性質上、後見人が任意に中核機関の協力を得るという仕組みが前提になるものと解される一方、中核機関による支援について、中核機関が監督責任を問われるということは、一般的には想定されない。
他方、専門職たる監督人による支援は、当該案件において、法律上求められる監督事務の範囲内で、後見人による事務が適切に行われているかを監督する立場から行われる指導、助言であり、後見事務が不適切であった場合には、状況次第では、監督人の監督責任を問われる可能性がある。しかし、後見事務のうち後見人の裁量の範囲内とされるような方針決定等について、監督事務の範疇を超えて、専門外の分野を含めた幅広い分野にわたる情報・ノウハウを福祉サービスとして支援するようなことまで必ずしも求められているわけではない。
中央での意見交換の結果によれば、中核機関が整備されるまでの間における過渡期の運用を念頭に、後見監督人の支援的役割を期待した運用が考えられるとしているが、中核機関による支援と後見監督人による支援に違いがあることを考慮すると、中核機関が整備された後においても、それぞれに支援的役割が期待される場面はあるように思われる。

(3)任意後見監督人について
任意後見と通常の後見とでは、監督事務の内容に異なる扱いがあり得るか。

後見監督人に期待される役割等に関する専門職団体と最高裁との意見交換の内容について、東京家裁としては、主として法定後見における後見監督人を念頭に置いたものと受け止めているが、任意後見監督人に共通の部分も少なくないと思われる。もっとも、任意後見監督人には、重要な財産行為についての同意(民法864条)の規定が準用されておらず、任意後見人の代理権が事案ごとに異なるほか、任意後見人には行為能力の制限を理由とする取消権がなく、また、たとえ後見事務において大きな課題がなく後見人が事務に習熟していたとしても、監督人が辞任することはできないなど、法定後見と相違する点も少なくない。実際、監督人事務の実態・実情として、任 意後見と法定後見とでどのように異なるのかについては、家庭裁判所として十分把握できていないところが多く、今後、専門職の皆様からの情報提供をいただきながら確認していく必要があるのではないかと感じている。

7 中核機関との関係

1 門職による中核機関の利用

国の基本計画に基づき、各地域に中核機関が設置された場合であっても、専門職が申立代理人として後見等開始の申立てをする際に、中核機関を通す必要はないものと理解しているが、そのような認識で合っているか。
東京家裁では、在京の専門職団体等と協議して作成した「基本計画が想定する後見制度ないし運用の在り方(メモ)」と題する通称「家裁メモ」という書類を平成30年3月28日付けで発出し、東京三弁護士会にも提供している。この家裁メモにも記載されているとおり、中核機関による申立て支援については、申立人等の意に反する形で中核機関の支援の対象とすることはできないという考えが大前提となっている。実際に個別案件の様々な事情により中核機関との関わりについて消極的とならざるを得ないケースもあると考えられるため、個別事案ごとの判断に委ねることで差し支えない。
他方で、専門職が申立代理人として関わるケースの中には親族後見人が単独で選任されるケースがあり、選任後に親族後見人が中核機関と関わりを持ち支援を受けることが望ましいケースもある。自治体・推進機関へのアンケートでも、推進機関で親族後見人を支援したいがその情報がない、親族後見人が推進機関に相談できることを知らない人が多い、推進機関として申立て支援から関わっていないと状況が見えず対応が難しい等の意見が出ており、親族後見人が選任後に中核機関と関わりを持ち支援を受けることが望ましい場合には、ご配慮いただけると幸いである。

2 中核機関と家庭裁判所

専門職後見人としては、大きな資産変動を伴う行為等の重要な事項に関して意見を求める先は、中核機関ではなく、東京家裁後見センターである、という理解で合っているか。

(1)監督と支援

家庭裁判所は、後見人等に広範な裁量権があることを前提に監督を行っており、裁量権の逸脱、濫用がないかどうかとの観点で後見事務の確認をしている。仮に問題があれば指導・助言を行い、裁量権の逸脱、濫用が認められた場合には、追加選任や解任等の手続を検討する。
他方で、中核機関は、監督ではなく支援をすることが求められ、後見人等の裁量権の範囲内の事務や方針について、相当性の検討やサポートを行うことが主な役割となる。中核機関の支援の対象は、主に親族後見人が念頭に置かれていると思われるが、当然、専門職後見人も支援対象となり得る。

(2)家庭裁判所への相談

後見人等の後見事務の方針には複数の選択肢があり、そのいずれを選択するかは後見人等の裁量に委ねられているため、後見事務を遂行するにつき、原則として、逐一家庭裁判所の許可を得る必要はない。ただし、裁量権の逸脱、濫用のおそれがないかどうかが懸念されるケースは、家庭裁判所に相談いただくことがむしろ望ましいといえる。この場合、家庭裁判所に意見を求めるというよりは、後見人等が方針を示し、裁量権の逸脱・濫用がないかご相談いただくことが望ましい。
もっとも、どのような事項が明らかに後見人等の裁量権の範囲内といえるかの線引きは非常に難しい。例えば、3万6000円の車椅子を購入する場合、車椅子の機能・価格は様々であり、レンタルという選択肢もある。また、台風で本人の自宅の屋根が破損し、その応急補修のために40万円かかるという場合、工事の範囲、業者の選定、金額の相当性等、色々と検討すべき事項は存在する。しかし、これらはいずれも原則として後見人等の裁量権の範囲内での判断であり、本人が車椅子を必要としていないにも関わらず購入しようとする場合等の例外を除き、事前に裁判所が許可する事項ではないと考えている。この種の相談について裁判所に相談された場合には、実務上はほとんど家庭裁判所から指導することはないと思われる。東京家裁では、50万円を超える支出がある場合には連絡票による報告をお願いしているが、この場合も家裁の「許可」を要するという趣旨ではない。
また、本人が在宅生活を継続するか施設に入所するのが良いのかという問題も非常に大きな問題ではあるが、本人の状況に応じたきめ細かな判断ができるのはまさに後見人等であるため、基本的に後見人等の裁量に委ねられるものと考えられる。
他方で、高額の資産を売却する場合や本人以外のための支出をするという場合は、結果的には問題のないケースが多いが、色々な問題が生じることがあるため、裁判所にご連絡いただきたいと考えている。

店舗において、三井住友銀行が同月24日から一部の店舗において、それぞれ後見制度支援預金を導入している。他の道府県に本店があって、東京都内に支店を有する地方銀行で後見制度支援預金の取扱いを開始したものもいくつかある。これらについては、適宜、各単位会を通じて情報提供してきている。
また、今般、東京都内に本店を有する地方銀行として、東京スター銀行が本日(同年12月16日)から後見制度支援預金を導入したと聞いている。
東京家裁では、同年7月1日から、全ての金融機関における後見制度支援預貯金の取引につき、報告書兼指示書の統一書式を導入しており、この点についても、各単位会を通じて事前に情報提供している。
(2) 後見制度支援信託の関係では、京都銀行が、同年12月2日から後見制度支援信託を導入したと聞いている。
(3) このとおり、後見制度支援信託・支援預貯金の取扱金融機関は拡大しているが、各金融機関における個別の契約条件には様々なバリエーションがあるため、具体的な契約条件等については、各金融機関のホームページを参照したり、各金融機関に問い合わせるなどして確認をしていただきたい。

8 裁判所からのお知らせ

後見制度支援信託・支援預貯金の取扱金融機関の拡大について

(1) 平成31年4月 に、全国の農業協同組合
(JA)において後見制度支援貯金の取扱いが開始された。その後、メガバンクでは、みずほ銀行が令和元年5月27日から全店舗において、三菱UFJ銀行が同年6月17日から全店舗において、三井住友銀行が同月24日から一部の店舗において、それぞれ後見制度支援預金を導入している。他の道府県に本店があって、東京都内に支店を有する地方銀行で後見制度支援預金の取扱いを開始したものもいくつかある。これらについては、適宜、各単位会を通じて情報提供してきている。
また、今般、東京都内に本店を有する地方銀行として、東京スター銀行が本日(同年12月16日)から後見制度支援預金を導入したと聞いている。
東京家裁では、同年7月1日から、全ての金融機関における後見制度支援預貯金の取引につき、報告書兼指示書の統一書式を導入しており、この点についても、各単位会を通じて事前に情報提供している。
(2) 後見制度支援信託の関係では、京都銀行が、同年12月2日から後見制度支援信託を導入したと聞いている。
(3) このとおり、後見制度支援信託・支援預貯金の取扱金融機関は拡大しているが、各金融機関における個別の契約条件には様々なバリエーションがあるため、具体的な契約条件等については、各金融機関のホームページを参照したり、各金融機関に問い合わせるなどして確認をしていただきたい。