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インハウスレポート

当会会員 斜木 裕二 (46期) ●Yuji Nanameki

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1 はじめに

司法研修所を出て渉外法律事務所に7年程勤務して、企業法務案件を適切に処理するには企業の現場に入らないと分からないという思いが強くなりました。相手方との交渉や訴訟の過程でクライアントからは聞いていない事実が相手方から出てくることもあり、クライアントは最初の会議から自社に不都合な事実を含めてすべて話してくれていないな、と感じていたからです。
これがインハウスを考え出したきっかけとなり、その後、25年程、電子部品・電気製品の上場企業メーカー 3社の法務部長を経験することになります。

2 得られた経験および良かったこと

(1) コーポレートガバナンス、リスクマネジメント、内部統制、コンプライアンス
インハウスになった頃、コンプライアンスという言葉が世の中に広まり始め、リスクマネジメント、そして、Internal Controlが内部統制という新しい和訳で復活し、更にコーポレートガバナンスが重要視されてきて、社内の体制作りに奔走したことが、現場を理解したこれらの体制作りや運営の助言に役立っています。

(2)迅速な対応(社外弁護士)
企業にいますと、毎日、どこかで何らかの法的問題や事故が発生し、法務部はあらゆる事態について迅速に対応しなければなりません。「迅速」であることは、企業からみた社外弁護士に対しても、最も重要な要求であると思います。企業にとっては、正確な意見書も時宜を得なければ意味がなく、直ぐに回答が来ると、自社を大切なクライアントと思って優先的に対応してくれていると感じます。「了解致しました」の一言の返信が直ぐに来るだけでも、印象が違います。
実際、欧米の弁護士達は深夜でも彼らがバケーション中でも2~3分後には短い返事をくれるので安心したものです。
現在では、これらを実行することでクライアントからお褒めの言葉を頂くことがあります。

(3)国際カルテル
2008年、各国の独禁法/競争法委員会が電子部品業界のカルテルをターゲットとすると明言しました。その後10年間、私の業務のかなりの部分が国際カルテル対応に割かれることになります。
その結果、国際カルテルの捜査・調査を行う常連の国・地域であるアメリカ、ベルギー(欧州委員会はブラッセルに所在)、ドイツ(ブラッセルに支店)、シンガポール、韓国、中国、ブラジル、そして日本の各国のトップクラスのうち2、3の法律事務所(対応できる大手法律事務所は限られており、競業他社を代理する場合コンフリクトで使えないので複数の事務所と関係を持っておく必要がある)の弁護士達との会議、国内外での社員のインタビュー、その後の会食などで、グローバルに著名な弁護士達とのネットワークができました。今でもメールやニュースのやり取り、事務所訪問などを行い、現在の法律事務所での仕事に役立っています。人間関係はとても大切です。
また、特許訴訟の関係で、アメリカ、ドイツそして日本の著名な特許事務所の弁護士との知己を得て、交流を続けています。

(4)事業計画
企業では通常、単体およびグループの短期および中期の事業計画を策定してから、ブレイクダウンをして段階的に現場に落としていきます。同時に、各部門(法務部門も人員計画、専有面積の賃料、弁護士費用予測などに基づき予算を策定)の予算を積み上げ、調整することで単年度の予算を組みます。この作業は企業というものを理解する上で役立ちます。

(5)会議運営
会議の日が近づいてきたらFriendly reminderのメールを送ってくれる弁護士は、自社を認識してくれているという安心感があり、良い印象を与えます。
会議の成否は、その議事録を見れば大体分かります。良い議事録、つまり良い会議のためには、良いアジェンダが必要です。会議を効率的かつ効果的に行うには、事前にアジェンダを作成し会議の参加者に周知し準備してもらうことが必要です(その場の思い付き発言の防止)。デッドラインは先だからと以前の会議で決議した事項の進捗報告とそのチェックを怠ると、期限までの目標達成や計画の修正が手遅れとなります。
また、アジェンダには報告事項と決議事項を分けて記載します。誰が報告するんだっけ、〇〇君、報告してよ、ということがないように、誰が何を報告するか、何を決めるかを事前に明確にしておきます。
そして、書記(書記を決めていない会議は論外)のメモを基に、アジェンダを修正して議事録を作成し、参加者にドラフトを送り内容のチェックをします。議事録で最も重要なのはいわゆるAction Planです。つまり、決定事項について、誰が、何を、いつまでに行うか、すなわち、責任者と責任内容およびスケジュールの記載です。事前にアジェンダに記載しておきます(財務部の誰かがやるだろう、という無責任発想の防止)。
これらは、弁護士としてクライアントとの会議を実効性のあるものにすることに役立ちます。

(6)各種団体への参加
私は、JEITA(日本電子情報技術産業協会)、JILA(日本組織内弁護士協会)、経営法友会、その他の組織に所属していました。
JEITAの参加企業の法務関係者や事務局の人などとは、今でもメールや会食などを通して旧交を温めています。また、JILAはその設立前後は12~13人程のインハウスが居酒屋などに集まって議論をしていたと記憶していますが、今では日本の法曹界でも大きな影響力のある組織に発展しています。
経営法友会では幹事を務め、幹事会を構成する日本の各業界を代表するトップ30社程の企業の法務部門のトップの方々とお付き合いをさせて頂きました。現在の法律事務所での比較的大型の国際的な投資案件や融資案件については、経営法友会を始めとするこれらの団体で知り合った方々による助力や紹介を得ることができ、大変助かっています。

3 最後に

以上のとおり、私は電子部品・電気製品等のメーカーに関しては、経営トップから工場のラインワーカーまである程度は知識があります。それでも、現在の法律事務所では、他の業界のクライアントからも企業の立場を良く分かった上で迅速にコメントを出して頂き助かりますと感謝されています。このように、企業というものを理解する意味で、実際に企業の中に入り、現場の仕組みや人間関係を体験する価値はあると思います。