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要通訳事件の初回接見とセンター利用時の注意点について

■弁護士 磯野清華(61期)●Seika Isono
■弁護士 仲田隆介(64期)●Ryusuke Nakata

はじめに

今回は、当番弁護・国選弁護に関して、会員の皆様から問合せが多いもののうち、①当番弁護士として被疑者が外国人の事件(いわゆる要通訳事件)で初回接見する場合の注意点、②三会刑事弁護(当番弁護士)センター(以下「当番センター」)及び被疑者援助事務センターに関する注意点について、取り上げたいと思います。

要通訳事件における初回接見の注意点

1 接見に行く前に

(1)通訳人への連絡

当番弁護士として要通訳事件が配点された場合、当番センターが手配した通訳人と同行して、被疑者との初回接見に臨むこととなります。
配点連絡票の連絡事項欄に通訳人の氏名・連絡先が記載されていますので、通訳人に連絡して、初回接見の予定を調整して下さい。通訳人は弁護士からの連絡を待っていますので、配点連絡票を受領後、なるべく速やかに連絡するようにして下さい(通訳人から当番センターに、「弁護士からの連絡が来ない・遅い」との苦情が寄せられています。)。なお、要通訳事件の場合、それ以外の事件と異なり通訳という作業が加わるため、接見時間が長くなることが多いです。この点を見越して接見の予定を立てる必要があります。

通訳人と連絡を取った際、通訳人から、配点連絡票に記載されている事件の内容について、情報提供を求められることがあります。配点連絡票には個人情報も含まれているため、どこまで情報提供すべきかは事案によって異なりますが、一般に、罪名・逮捕日・勾留日・国籍等は、通訳人の準備等のために、予め情報提供することが望ましい情報と考えられます。

(2)アドバイスカードの準備・持参

外国人の被疑者は、日本の逮捕・勾留手続や、被疑者として注意すべき点等について、理解していないことがほとんどです。
これらの点については、初回接見時に説明することになりますが、『当番弁護士マニュアル 書式・資料編』にある「外国人被疑者向け差入文書(アドバイスカード)」(外国語で、逮捕・勾留された被疑者への注意点を説明したもの)を被疑者に差し入れておくと、接見後に読み返すことができ、被疑者にとって有益なことが多いです。
そのため、被疑者の言語(配点連絡票に記載)に対応するアドバイスカードを持参して差し入れることを、お勧めします。
なお、当番弁護士マニュアルに収録されていない外国語であっても、日弁連の会員専用ページ(「外国人被疑者接見時の差し入れ文書」)や当会ウェブサイトに収録されていることがあるので、確認してみて下さい。

(3)入管法に関する基礎的な事項の確認

要通訳事件の場合、接見時に被疑者から、自分が退去強制されることになるのか等といった、出入国管理法及び難民認定法(入管法)や入管手続に関する事項について、質問されることが多くあります。
接見に行く前に、入管法や入管手続に関する基礎的な事項を確認しておいたり、入管法が掲載された六法等を持参すると、慌てなくて済むと思います。

2 接見時の注意点

(1)初回接見で被疑者に確認・説明すべき事項

要通訳事件で被疑者に特に確認・説明すべき事項については、『当番弁護士マニュアル』57、58頁に詳しい記載がありますので、ご一読下さい。
特に、入管法違反の事件でなくとも、入管手続の関係で必要となることがあるので、被疑者の在留資格(外国人が「ビザ」という場合、在留資格を指すことが多いです。)及び在留期間は、初回接見時に必ず確認して下さい。

(2)被疑事実の確認

被疑者から被疑事実の確認を行うことについては、要通訳事件の場合と通常の刑事事件の場合とで、異なるところはありません。もっとも、通訳人を介して行うことから、いく つか注意すべき点があります。

 通訳人への配慮
外国人の被疑者とのコミュニケーションを円滑に行うためには、会話が通訳しやすくなるよう、通訳人に配慮することが必要となります。
例えば通訳人からは、以下の点を配慮して欲しいとの要望が出されています。

  1. 話す内容を、一文ずつに区切って、短く話す。
  2. 通訳人が通訳し終わったのを確認してから、次の話をする。
  3. 文章と文章のつながりについて、論理関係を明確にする。
  4. 日本語によく見られる、曖昧なニュアンスを含む表現を使うことを、極力避ける。 このような点に弁護士が配慮するのはもちろんですが、被疑者に配慮が見られず、通訳に困難が生じている場合には、弁護士から被疑者に配慮をお願いすべきときもあります(接見の場で、通訳人が弁護士に意見等することは難しいこともありますので、通訳人が通訳しにくそうにしている時は、弁護士から何か問題があるかどうか、通訳人に尋ねてみるのも良いと思います。)。

 通訳人の氏名・連絡先を被疑者や関係者に教えないこと
被疑者や関係者に、通訳人の氏名・連絡先を教えないようにして下さい。なお、配点連絡票には通訳人の氏名・連絡先が記載されているので、その箇所が被疑者に見えることがないよう、注意して下さい。

 通訳人に問題がある場合
めったにありませんが、通訳人が通訳と関係なく被疑者と会話したり、会話の内容を逐語訳しない(意訳・要約する)という事例が報告されています。
この場合には、通訳人に対し、弁護士の指示なく被疑者と会話しないようにしてもらったり、意訳したり要約したりせず、逐語訳するよう、通訳人に適切に指示して下さい。

(3)入管法や入管手続に関する質問への対応

先に述べたとおり、要通訳事件では、被疑者より、入管法や入管手続に関する質問がされることが多くあります。
これについては、『当番弁護士マニュアル』57頁以下等をご参照下さい。特に近年、入管法は改正が繰り返されていますので、最新の条文・書籍を確認するよう、ご注意下さい。

(4)初回接見の通訳費用について

以前は、当番弁護士として出動して、援助制度を利用せずに弁護人として受任した場合(いわゆる純粋私選事件)には、初回接見の通訳費用を弁護士会は負担せず、被疑者が全額負担することとされていました。
しかし、2019年4月1日以降、純粋私選事件であっても、当番弁護士の初回接見の通訳費用は弁護士会が負担することとなりました。
すなわち、どのような場合でも、被疑者が初回接見の通訳費用を負担することはありません。制度が変更されていますので、ご注意下さい。

3 接見終了後

接見終了後は、通訳人への通訳料の支払いに必要な手続を行って下さい。
配点連絡票と一緒に通訳費用の「請求書」が送られているので、通訳人に確認の上、必要事項を記入して請求書を作成して下さい(請求書の作成に必要となるので、接見の待機時間や通訳時間を記録しておく必要があります。)。
なお、通訳人から請求書の写しを求められることがあります。コピーを作成・交付するか、スマートフォンで撮影してもらう等の対応をお願いします。

4 おわりに

以上、非常に駆け足ですが、要通訳事件における初回接見の注意点等を述べさせていただきました。少しでもご参考になれば幸いです。

三会刑事弁護(当番弁護士)センター及び被疑者援助事務センターに関する注意点

まず先生方にご理解いただきたいのは、両センターとも刑事手続に精通しているわけではないということです。よって、国選の切替手続等に関する質問を両センターにすることは控えて下さい。もちろん、当番出動に関する手続や被疑者援助制度申込みに関する手続についてはセンターにお問い合わせ下さい。
ただし両センターともぎりぎりの人員で業務を行っているため、可能な限り当番弁護士マニュアル等で調べて下さい。
次に、両センターに提出する書類が多いとのご指摘をよくいただきます。確かに提出すべき書類が多くなることもあり、それは弁護人が弁護活動を熱心に行う程多くなるものではありますが、適正な弁護士報酬の計算のためにどうしても必要なものですのでご理解下さい。

1 当番弁護士センターに関する注意点

(1)配点の際における注意点

配点の際に注意していただきたいことは以下の点です。

 待機当日まで
待機日は機械的に割り振られる以上、どうしても当日に待機することができなくなることがあります。これ自体は仕方のないことです。当日の待機ができなくなった際には、交代の方を先生方において見つけていただくことになりますが、当番弁護士センターには交代の手続を行う権限がありませんので、交代の連絡は事務局人権課にお願いします。

 待機当日
センターの業務時間は午後5時までです。待機当日、当番の派遣要請がいつ来るかはセンターにもわからず、派遣要請が入り次第先生方に連絡を入れることになります。一日中電話の前に張り付いていることも現実的ではないため、派遣要請の電話にすぐ出られないこと自体は仕方のないことです。しかし電話に気付き次第、折り返しの電話をお願いします。なお、業務終了直前に折り返しの連絡をいただいてもセンターが話し中で対応できないことや、午後5時を過ぎて電話が通じなくなることもあります。この場合、センターとしては「当日先生には連絡をしたけれど連絡が取れず」という処理をせざるを得ません。そのため、センターから先生方に連絡をした際、遅くとも業務終了30分前までには折り返しの連絡をするよう心掛けて下さい。

 事件配点の際
従前から起きている問題点ですが、配点の際に断らないようお願いします。最近、「外国人案件を断る」「性犯罪を断る」「私選として受任できなさそうな罪名を断る」というケースが特に多く見受けられます。このようなことは配点業務の遅滞を招くことにつながり、当番弁護士名簿からの抹消となることもありますので厳に慎んで下さい。

 接見のタイミング
待機当日は当番出動要請後速やかに接見できるよう、スケジュールを確保して下さい。要通訳事件においては、センターは通訳の連絡先を出動する先生に伝えていますが、配点当日に接見するという原則の下、センターでは配点当日にスケジュールが空いているかの確認しかしておりません。当日出動していただけないと、翌日にはその通訳のスケジュールが空いていない可能性があります。また、被疑者は当番を要請した当日に当番弁護士が来ると思っていますので、接見が翌日以降になりますと被疑者とのトラブルを生じる可能性もあります。
また、当日の接見であっても真夜中に近い時間の接見はトラブルの原因になりかねませんので避けて下さい。

(2)配点後の注意点

接見後に注意していただきたい点は被疑者国選への切替手続です。当番として接見後、被疑者国選へ切り替える手続を行う必要のある事件においては、本人への不受任通知の交付や法テラスへの選任要望書の提出等を確実に行って下さい。これらの手続を行っていただけませんと、国選弁護人として選任されず、被疑者にとっても先生方にとっても不利益が生じます。

2 被疑者援助事務センターに関する注意点

(1)被疑者援助制度申込時の注意点

申込みの際に注意していただきたいことは以下の点です。

 使用する書式
被疑者援助制度申込みの書式は、4年前に変更されていますが、未だに旧書式での申込みがあります。旧書式で申込まれても被疑者援助事務センターで処理できません。せっかく書類に必要事項を記入したにもかかわらず再度の提出を求められることは先生方にも負担が生じますので、新書式による申込みをお願いします。

 弁護士援助の必要性、相当性について
申込書には、弁護士援助の必要性及び相当性を記入する欄があります。ここに何も記入せず申込みをされる方がいますが、必要性及び相当性が認められないと援助することができません。簡潔に必要性及び相当性の記入をお願いします。

(2)援助終了後の注意点

被疑者の身体拘束が解かれるなど、援助終了事由が発生した場合には速やかに報告書をセンターまで送って下さい。援助終了事由発生後6カ月を経過しますと、特段の事情がない限り報酬が支払われないことになります。

これらの注意点をご参照いただき、当番弁護士制度の円滑な運用にご協力いただけますようお願いいたします。