出版物・パンフレット等

ワイン法 ~知的財産権・地理的表示の観点から~

1 地理的表示について

マンデル 今日は、最近発効した日本とEUの経済連携協定についてお話しします。その中には地理的表示の相互保護に関する話もあります。
この合意は、2019年2月に発効したものですが、それ以前から日本とEU委員会の間では5年間の交渉がありました。自由貿易協定ですから2つの地域での自由貿易を促進し、サービスや投資を奨励するためのものです。この協定のさまざまな条項の中には多くの農産物に関する項目があります。
EUにとって、農業はとても重要な分野です。また、日本への農産物の輸出額は、年間57億ユーロにのぼります。日本はEUの輸出先として世界の中で4番目の市場なのです。
協定の締結により、多くの関税が撤廃され、EUから日本向けの85%の農産物が自由化されました。今後も段階的に拡大され、最終的には関税がなくなります。
ワインもそうです。発泡性のワインも非発泡のワインも以前は15%の関税でしたが、2月以降はワインもスピリッツも、アルコール類はすべて撤廃となっています。ワインの生産者にとってはとても重要な話です。日本向けのワインの年間輸出額はほぼ10億ユーロですから、EUのワイン生産者にとって、今回の関税撤廃は大きなメリットとなり、フランス、スペイン、イタリアのワイン生産者は、先に自由貿易協定を締結していたチリのワイン生産者と平等に競争できるようになりました。
日本で消費されるワインの60%は、輸入品で、ヨーロッパのものもありますし、それ以外の新世界といわれるところからのものもあります。
ここから協定の地理的表示の相互保護についてお話しします。地理的表示(GI:Geographical Indication)とは、1つの製品が1つの土地で生産されたということを認証するものです。製品の性質やその他の特徴は、主に原産地に負うものであるということです。
ヨーロッパにはシャンパン、コニャック、アルマニャック等々何千もの地理的表示があります。このようなテロワールといわれる土地との関係が非常に強い製品に関して、その製品がどの原産地で、どのような性質と特徴があるかといったことが、この地理的表示に掲載されていれば保証されるわけです。
日本はこの協定により、ヨーロッパの地理的表示を認証することになりますが、現在、日本ではEUの210のGIが認証されています。内訳は、71農産物、139のワインとスピリッツです。そのうちブリ・ド・モー、カマンベール・ド・ノルマンディー、ボルドー、シャンパーニュ、モッツァレラ・ブッファラとかカンパーナなど、45がフランスのものです。

EU側では、日本の56のGIを承認していて、その中の8つがワインとスピリッツです。GIの中には神戸牛や、山梨のワインなどが日本側の地理的表示として保護されています。この地理的表示のリスト、EU側のリスト、それから日本側のリストについて、今後変更になり、追加、修正されます。もちろんその際にはEUと日本の間で協議が行われます。
どのぐらいの地理的表示がどのような製品をカバーしているか示したものをご覧ください(図表1~図表3)。
欧州のものには、農産物、チーズが多く入っていて、そのほかにハム、ソーセージもあります。
興味深いのはどうやって地理的な表示のリストが作成され、交渉されてきたかということです。
EUはEUの加盟国にすでにたたき台となるリストを渡していました。それまでいろいろなところでEPA(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)などのリストを事前に渡し、できるだけ日本に対して輸出する可能性があるものを念頭に、このリストを修正するよう加盟国に伝えたのです。そしてEUの産品ではないがEUの地理的表示をまねたもの、例えば、パルメザンのチーズですが、イタリアのパルミジャーノをEUの地理的保護のリストに入れるように要望することが可能になりました。
一方、日本側は別の形で取り組んだようです。日本にとって農業は非常にセンシティブな分野です。まず日本の政府はできるだけ広い分野で政治的にメリットがあるように交渉したかと思います。簡単に言うと、日本側は、EU委員会に対して日本の地理的表示をすべて認めてくださいと働きかけたということです。この交渉がスタートした時点ですでに申請されている地理的表示はすべて承認してくれと。その産品を日本側がEUに輸出する可能性があるなしにかかわらずです。
ヨーロッパの地理的表示の場合は、これまで農林水産省の登録申請の手続きが必要でしたが、すでにリストに載っている210については、自動的に承認がなされるので、新たな登録申請の手続きは不要になりました。
次に、保護の範囲についてですが、この合意はEPAの保護を強化します。シャンパンの例を挙げましょう。C.I.V.Cというシャンパーニュ同業者委員会がありますが、日本で「シャンパン」とか「シャンパーニュ」に音声的、あるいは見た目に近い名前は使わないようにと要望しています。それが「日本で作ったシャンパン」というふうに、別のところで作ったと指定されていてもです。「Champagne」というフランス語が日本語で「シャンパン」と書いてあっても、あるいは「シャンパン風」とか「シャンパン様式の」とか「シャンパン風の手法に従った」というような迂回した方法を使っても、そういった表示は禁止されることになります。
この禁止は客観的な要素に基づくもので、人々が誤認するということは要件とされていません。もし、「日本のシャンパン」だといって提示すれば、日本の消費者はシャンパーニュ地方で作られたものとは思わないでしょうが、今回のEPAにより、そういった表示も含めて禁止されることになりました。
そして、保護にもいくつかの限界があるということも触れておきましょう。これは、すでに取得されている権利に関するものです。
例えば、日本の商標で「サッポロゴルゴンゾーラ」というものがカナダの会社によって登録されています。これは、本場イタリアのゴルゴンゾーラではなく、カナダ、あるいはアメリカで作られたものですが、すでに日本でEPAの発効の前に商標登録が申請され、承認を得ているので、この商標が無効となったり、取り消されたりすることはありません。既得権といったものは尊重せざるを得ないのです。しかし、シャンパンでもゴルゴンゾーラでも日本の生産者がEPAの発効後、例えば、シャンパンをもじったような商標を申請すれば、それは拒否されることになります。日本の特許庁などから混乱の恐れがある、誤認の恐れがあるということで登録が認められません。
次に、今回の保護での範囲について。商標ではなく地理的表示の不正使用に関するものです(図表4)。

これは実際に存在する商品で、ブルーチーズ、青カビのチーズです。ゴルゴンゾーラという名前が付いていますが、実際は日本で生産されています。この協定においては日本産ゴルゴンゾーラを作っている人たちは地理的表示ではなく、ゴルゴンゾーラという種類のチーズの一般名称として使っています。ですがEPAの協定では、このような使用を段階的に廃止していくということになります。つまり具体的にはEPAの発効から7年後、日本で作ったゴルゴンゾーラの生産者はゴルゴンゾーラという名称を使うことができなくなるということです。
同様に、ワインとスピリッツに関しては、5年間の移行期間となっています。日本政府からは、「カルバドス」、「ソーテルヌ」、イタリアの「グラッパ」などが一般名称として使われていると言われましたが、こういった使用は、移行期間を経ていずれは禁止されることになります。
最後に、保護の限界についてお話しします。これは複合的な地理的表示について、一般的な名称を保護しないというものです(図表5)。

例えば、ノルマンディーのカマンベール、モーのブリー、オランダのエダム、モッツァレラ・ブッファラなど、いろいろな地理的表示と名前が組み合わさっているとき。これらは地理的な一定の場所を表すものではありません。ですから、一応EUと日本との交渉者の間で、このような名前は特定の地名を表すものではないから保護しないということになりました。
実際に存在している日本の市場にある商品には、モーのブリーやオランダのゴーダとは書いておらず、ただゴーダチーズやブリーと書いてあるだけです。このような用語の使用、地理的な部分を外した残りの部分の使用は今後も一応使えることになります。ただ、消費者をだましてはいけないと思うわけです。つまりモッツァレラという用語が一般的な用語だと考慮されることになっても、包装用紙の色が何となくイタリアのモッツァレラを思い起こすようなものであれば、何かしらの意図があるわけですから、そのようなラベルは制裁を受けることになります。その場合日本の裁判所が制裁することになります。

2 ナチュラルワイン

モラン ワインは、日仏両国で情熱が傾けられている分野です。
ワインの瓶に何種類ぐらい添加物を入れることができるかご存じでしょうか。実に、134種類もの添加物を入れることができ、EUのビオワインにおいても、76種類入れることができます。もちろん全部いっぺんに入れることはありませんが。
日本の方々はとてもワインが好きです。グランクリュといわれる特級ワイン、ボルドーのワインなどは特に大好きです。そういうワインにもいろいろな添加物が入っていて、皆さんが考えられないようなものも入っています。
なぜそれを知ることができないかというと、ワインは食品の中で唯一、ラベルに内容物が書かれてない製品だからです。あなたが飲んでいるワインは何が材料ですか?ブドウですと答えると思いますが、実はブドウだけではないわけです。
私はこうしたものとは違うタイプのワインづくりを支援しています。フランスでもフィロクセラ(編集部注:葡萄樹の害虫)の悲劇がある前に行われていた方法によるワインづ くりで、古代からの製法です。世界のワインはグルジアから始まり、紀元前9000年ぐらいから作られています。土地には長い歴史があって、その歴史はここ数十年の化学製品を大量に撒いてきたものよりずっと古く長いのです。現代においても、作り手の中には、まったく農薬などを使わない人たちもいます。
そのようなワインは自然発酵で造られます。ワインが自然にできたときが、ワインが完成するときなのです。こういうアプローチはBIO、有機といわれますが、実際BIOよりもさらにBIOらしいものです。EUの規則でたとえ有機と表示されていても、いくつかの農薬は使ってもいいとされているからです。
このようなナチュラルワインにおける問題は、地理的表示にあります。フランスでの地理的表示は、決まった製法で作られたものに限られます。例えば、サンセールだったらサンセールの、サンテミリオンだったらサンテミリオンの製法が定められています。もし、それを守らなければその名称を使うことができません。それがAOC(原産地統制呼称)です。 私のお話しするワインの作り手たちは、このようなルールから離れようとします。ルールは大事ですが、私たちは時にはルールを守らず、違う方法を考えたりするわけです。ル ールを守らない人はこの名称を使用することができません。その場合には、「ヴァン・ド・フランス(フランスワイン)」という名称でしかワインを売ることができなくなります。例えば、ルイ・バンジャマン・ダグノー氏のワインには、「プイィフュメ」という名前が付けられなくなりました。とてもおいしいワインですが、「フランスワイン」としてだけしか売ることができないのです。
「フランスワイン」というとフランス産のワインというだけの意味です。しかも、より詳しく見ると、一部はEUの他の国のブドウを使ってもいいということになっています。そして、本来ワインのラベルに書くようなことはすべて禁止されます。例えば「フランスワイン」には「シャトー」という文言を使うことができません。何かブランドになるような文言を「フランスワイン」には使用することができないのです。これらは原産地統制呼称によって限定されています。「フランスワイン」はどこで製造されたのかということも示すことができません。アンジュー地方で製造されたものであっても、そのラベルに「アンジュー」と記載することはできないのです。ブドウがアンジュー産であってもです。これは「アンジュー」が原産地統制呼称だからです。このように、「フランスワイン」はどこで造られたかを知ることができないので、「みなしごのワイン」とも呼ばれています。
 ナチュラルワインの作り手たちはフランスではどんどん増えており、パリにはセラーでナチュラルワインを売っているところがあります。作り手たちは、トラクターすら使わず、馬で畑を耕して自然に作っているワインを売っています。マスコミでも取り上げられ、星付きのレストランでも飲まれていて、しかも、他の高級ワインに比べて価格も安いのです。そのため他所からのジェラシーが生じています。
フランスには、不合理なルールがたくさんあり、そういう規制と戦う人たちもいます。例えば、あらゆるAOCには詳しい製造方法がありますが、その中には、草を何センチぐらいまでしか畑に生やしてはいけないという規則があります。当然、草は自然に生えてきますし、殺虫剤を使わなければさらに伸びてきます。それなのに、草の高さが決められてしまうのです。もしこの草の高さを守っていないと、私たちが「草の検挙隊」と呼ぶ、ネクタイを締めて綺麗な恰好をしている人たちが、作り手に何も言わずに畑に来て、物差しを使って草の高さを測るのです。そして、「あなたの雑草は規定よりも10センチ伸びています。それを切るかAOCをやめるかしかありません。」などと言います。
そういうとんでもないこともあるわけです。ブドウ畑に行けば草が生えているし花が咲いていて、ミミズもいるのは当たり前のことで、それによって土地に酸素が供給され、農薬を使うよりもずっと健康な土地ができるわけです。
それから製造方法についても規則があります。例えば、県で毎年ボトルにワインを詰める日を決めていることがあります。私の知っているワインの作り手たちは、アルコール発酵であってもマロラクティック発酵であっても、発酵のタイミングを人工的にコントロールしません。亜硫酸塩で発酵を止めたりはしないのです。自然発酵をさせていると、いつ瓶に詰めることができるか、はっきり分からなくなります。すると、決められた日よりも早く瓶詰めをしてしまったということで、AOCを失ってしまうことが生じるのです。
ワインづくりというのは本当にリスクがある仕事です。このようなばかばかしいルールを守るために添加物を使ってしまうこともあるのです。地球温暖化の影響もあり、ワインの発酵もだんだん早まっているので、早めに瓶詰めをすることが多くなってしまい、現実とはそぐわなくなっているわけです。
ナチュラルワインを日本で語るというのは意味があることだと思います。なぜならば、本当に自然に造られている日本酒があるからです。付加されている余計な材料がまったくなく、亜硫酸塩が足されることもありません。私たちと日本の方の共通点がここにもあります。多くの日本の方たちは、お酒でも特別なもの、例えば、誰が作っているかとか、どこで造っているかなどを特定しながら、そういうものを飲みたいと思っているわけです。亜硫酸塩が入っていると頭が痛くなるなど健康への影響の不安もありますが、日本の方は健康だけではなく、精神的なことも重視していると思います。
日本の方たちは、エネルギーにとてもこだわっているのですが、このエネルギーはまさに土から来ていて、ナチュラルワインを造っていると、エネルギーがワインにもあふれていると感じます。フランスでは、ナチュラルワインというのは、男性を優しくし、女性を幸せにするといいます。ぜひナチュラルワインを味わってみてください。

3 日本のワイン法

蛯原 私は、明治学院大学の法学部でワイン法という授業を開講しています。おそらく日本の法学部で唯一、ワイン法が選択必修科目になっています。ワインにかかわるソフトローであろうと、ハードローであろうと、あらゆるルールがワイン法であると最初の授業でお話ししています。
ワインはブドウを原料としており、まずブドウを育てないといけないのですが、ブドウを育てるためには畑が必要です。どうやって畑を手に入れるのか、日本では簡単に手に入りますが、EUでは非常に厳しく、最近まで「droit de plantation」という植え付け権を持たないとワイン用のブドウが栽培できませんでした。そこから始まって、ブドウの栽培(viticulture)に関する法律やルール、それからもちろんワイン醸造(vinification)についてのルールがあります。
そして、造ったワインは売らなくてはいけません。私が非常に興味を持っているのが、ワインのボトルに貼られるラベルです。ラベルにはさまざまなことが書いてあって、特に重要なものが産地、地名です。
地名の中で特にブランド力を持ったものは、地理的表示、原産地呼称として保護されています。GIは、知的財産としての側面です。
そういったワインに関するあらゆるルールがワイン法なのです。
実は、2014年に『はじめてのワイン法』という本を出しました。多少はその本が影響したそうですが、翌年、日本のワイン法に「革命」が起こったのです。
2015年以前の「旧体制」では、ラベルに「軽井沢」とか「上高地」という地名を付けたワインがありましたが、原料のブドウの産地は、軽井沢や上高地ではありませんし、ワインを醸造しているのも別の土地でした。ただ、そこで売られているということでこのラベルが使われていたのです。
ところが、2015年に2つのワイン法ができるという「革命」が起きたのです。法と言っても、国会が作った法律ではなく、既存の法律である酒類業組合法に基づいて、2つの国税庁長官の告示という形で出されました。
1つはラベルの表示に関するワイン法で、もう1つは酒類のGIに関するものです。前者のラベル表示に関するワイン法では、日本ワインというものが定義されました。それまでは日本ワインというのは定義されておらず、国産ワインや日本ワインなどの呼称が混じって使われていましたが、法律に基づくルールとして整備されました。これは業界のソフトローではなくハードローです。
国税庁長官の告示ですので、日本国内のワイナリーはこれに従わないといけないことになります。違反すると、罰金を科せられたり、最悪、ワイナリーの免許をはく奪される非常に厳しいものです。
ここで定義されたジャパンワイン、日本ワインというのは日本産のブドウを100%使って日本国内で醸造されたもの。この日本ワインだけが日本の地名、セパージュ(ブドウの品種)、ミレジムあるいはビンテージ(収穫年)を表示でき、そうではない日本国内で造られた国内製造ワイン、つまり、日本ワインに該当しないものは、それらを表示できなくなったのです。
どのように日本のワイナリーが新たなワイン法に対応しているのか、例を挙げてみます。
まず、「鳥居野」は京都の地名ですが、長らく京都の丹波ワインが造っていたワインの商品名でした。造られているのは京都ですが、原料は輸入ブドウであり、日本ワインではないことになります。日本ワインであるためには、日本産のブドウを100%使う必要がありますので、新しいワイン法の表示基準に従って、商品名を鳥の名前の「ヤマガラ」に変えました。
次に、山形県のワイナリーが造っていた「蔵王スター」という赤ワインがありましたが、使っていたのは、蔵王産のブドウではありませんでした。そこで、地名を名乗るのはやめて、ワイナリー名を入れた「タケダワイナリールージュ」と名前を変更しました。
 業界最大手のメルシャンが造っているスパークリングワインで「長野のあわ」という商品がありました。確かに長野産のブドウを使っていますが、お隣の山梨県で醸造し、泡を添加するのは、神奈川の工場でやっていました。新しい表示のルールで、「長野のあわ」を名乗るためには、長野県のブドウを85%以上使いかつ、長野県で醸造し泡も入れなくてはいけないため、商品名を「日本のあわ」と変更したのです。なお、この商品名の脇には「長野メルロー」と書いてありますが、長野県で収穫されたメルローを85%以上使えば、原料の説明として表示できます。
続いて、北海道の地名である「鶴沼」というワインがありましたが、これも表示基準に引っ掛かり、「鶴沼収穫」という表示に変えました。これは北海道の鶴沼で収穫されたブドウを北海道の小樽市で醸造した商品です。鶴沼と表示すると鶴沼で醸造しているようにも消費者がとらえる可能性があるということで、誤解を招かないようにしました。
最後に、「朝日町ワイン」というワインがありましたが、これも朝日町で収穫されたブドウを85%以上使わないといけません。それができないワインについては、有限会社の(有)を付けて、「(有)朝日町ワイン」としました(写真1)。これはワインの説明ではなく会社の名前を書いたものであるということです。

現在では、地名だけをラベルに表示する場合には、その土地で収穫されたブドウを85%以上使って、醸造もその土地で行うことが必要になっています。
商品名を変えないため、畑の近くにワイナリーを新設する動きが見られます。熊本ワインが造っていた「菊鹿」というワインは、菊鹿にワイナリーを造って、堂々とラベルの表 示ができるようにしました。また、メルシャンのワインで「桔梗ヶ原メルロー」という高級ワインがありますが、もともと山梨県で醸造していたのを、長野県の桔梗ヶ原にワイナリーをオープンさせ、そこで醸造することで、堂々と地名を名乗れるようにしています。メルシャンは、さらに長野県の上田市にも椀子ワイナリーを造るなど、大手のワイナリーはブドウの収穫地でワインの醸造を始めるようになってきています。
GIの方ですが、日本ではお酒のGIと食品・農産物のGIは別々の制度です。1995年にWTO(世界貿易機関)がスタートしたときからお酒のGI制度を導入しています。そして、海外の酒類GIについては日本ではしっかり保護してきましたが、日本の酒類GIは、この25年間で10件しか登録・指定されていません。ワインにおいては、山梨と北海道だけです。しかも、日本の生産基準は、ヨーロッパのAOP(原産地保護呼称)などに比べると、それほど厳格ではありません。日本ではAOPとIGP(保護指定地域表示)の違いはなく、地理的表示として一本化されているのですが、産地内すべてのワイナリーの同意がないと地理的表示の登録ができないという仕組みになっています。
食品と農産物のGIについては、2014年に法律が通り、2015年から施行されました。それから3年半の間に、海外のGIが1件、そして日本のGIが確か85件登録されています。それ以外に先ほどマンデルさんから報告があったEUのGIが一括指定されています。
日本のワイン、日本の農産物はEUにも輸出されていますが、EU以外の国へも輸出されています。ワイナリーにとっては、安くておいしいワインがたくさんあるヨーロッパにわざわざ日本のワインを輸出しても、高くてあまり見向きもされないのではないかということで、アジアの国々などに精力的に輸出しています。バンコクの髙島屋には、「どさんこプラザ」があって、そこでGIマーク付きの北海道ワインが売られていました。
日本ワインの輸出は、今回のEPAによって手続きがかなり緩和されました。いうなれば、日本は輸出優遇国で、「ホワイト国」になったということです。
ただ、それには条件があり、EUが使っている添加物を日本でも認めなさいということです。これは3つのグループに分けられて、第1グループはもう済みましたが、第2グループの添加物については2年以内にEUが使っている添加物を日本で認めないと、優遇措置が停止されます。
それから第3グループのものもあるのですが、先ほどビオワインの話にあったように、日本では認められていないものもいろいろあります。しかし、双方の協議により、EUと日本の間で各種基準のハーモナイゼーションが進められています。