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特別企画!弁護士による子どものためのLINE相談~子どもからのSOSにリーチする~

子どもの権利に関する委員会 委員長 黒松百亜(54期)●Momoe Kuromatu
弁護士子どもLINE相談PT PT長 中村仁志(55期)●Hitoshi Nakamura

1 企画の経緯

1 LINE相談の目的

①コミュニケーションツールの変容

SNSの急速な発達により、今の子どもの主たるコミュニケーションツールはSNSとなりつつあり、固定電話がない世帯も増えています。当委員会では、「子ども悩みごと相談」という電話相談・面接相談を実施してきましたが、近年は子ども本人からの相談件数が伸び悩んでいました。そこで、昨年来、当委員会内でも、子ども本人からのSOSをキャッチするにはLINEというツールに踏み切るべきでは、という議論が始まっていました*1。

②コロナ禍

nf-202012-pickup1.jpg緊急事態宣言を受け、休校・外出自粛によるDVや児童虐待の増加・悪化が報道されていました。学校や友人関係だけが逃げ場だった子どもにとって、休校や外出自粛下の生活は生き地獄に等しい環境となります。同時に、保護者が常時身近にいる環境では、電話によるSOS はなおさら発しにくいのではと懸念されました。さらに、経済情勢の急激な悪化は、もともと経済的困難を抱える子どもや家庭にいっそうのダメージを与え、学習の機会が保障されない、栄養状態が悪化する、学費や生活費に困窮する、といった二重三重の困難を招きます。コロナ禍に限らず、災害や有事の際は、苦 しい環境にある子どもがさらに困難な立場に追い込まれます。一人でも多くの子どもにリーチするにはいかなる手段によるべきか...検討の末、LINE相談という方法にトライすることにしました。

2 有志によるLINE相談から会公認の相談窓口へ

他会の例としては、2018年に大分県弁護士会が月2回のLINE相談を立ち上げ、続く翌年、多摩支部が、夏休みの特別企画として2日間のLINE相談を実施していました。
多摩支部は、この春の緊急事態宣言を受け、4月22日に緊急企画としてLINE相談を開始していましたので(6月末まで実施)、当委員会においても、まずは有志でLINE相談を立ち上げることとしました。多摩支部の先生方が、LINE相談のノウハウを惜しみなくご提供下さったうえ、相談員としても協働して下さり、4月29日、総勢33名で「二弁有志による子どもLINE相談」を始めることができました。
有志でHPを作成し、各人の人脈を通じてマスコミに伝えたり、有志メンバーがツイッターやインスタグラムを通じて広報した結果、8月16日までの約3か月半で、1日平均8〜9件の相談が寄せられました。うち約98%は子ども本人からの相談で、多くの子どもが深刻な悩みを抱えているという実状を肌で感じました。そして、より多くの子どもにリーチするため、会公認の相談窓口として実施する運びとなりました。
子どもからの相談をLINEで受けるという特殊性から、今回の企画においては、児童心理、児童福祉及び障がい分野についての知識・関心のある委員会から担当者を募ることとなり、法教育の普及・推進に関する委員会や高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会の先生方のご協力を得て、総勢50名での相談体制となりました。

2 子どもLINE相談の実施方法

1 LINE公式アカウントの利用

nf-202012-pickup2.jpgLINE公式アカウントは、コミュニケーションアプリ「LINE」上で事業者や自治体がアカウントをつくり、ユーザーへダイレクトに情報を届けられるサービスです。相談者は、「子どもSNS相談@第二東京弁護士会」を友だち登録すれば、相談を開始できます。他の相談者との連絡やチャット画面の閲覧はできず、あくまで弁護士との1対1のチャット(やりとり) となります。

2 完全リモートでの相談体制

相談担当弁護士は、各自のデバイスで相談画面にログインし、会館は利用しません。事務所や自宅で相談対応ができるので、育児中の会員やインハウス弁護士など、定刻に会館に移動することが難しい会員も参加してくれました。なお、完全リモートにすることで、災害により会館が使用不能となる場合でも、誰かがIT環境に接続できさえすれば相談体制を復旧できます。
また、情報漏洩や利益相反という問題を防止するため、相談画面にアクセスするには二段階認証を設定したうえ、システム管理会社に委託し、ログ管理機能やアクセスの制限機能といった設定も講じました。

3 3人体制+オンライン連携

LINE相談の場合、同時に複数名からメッセージが届くため、毎回3人の相談担当弁護士を配置しました。その3名は相談対応中Zoom で常時繋がっているため、お互いの専門分野(児童福祉、教育、少年事件、障がい、ネット関連など)について情報交換し、助言し合いながら相談業務に当たることができます。若手の会員にとっては、貴重なOJTの体験にもなりました。

4 広報

nf-202012-pickup3.jpg会の公認が得られた後、LINE相談の開設情報を会のHPに掲載し、担当理事者と共に記者会見を行ったほか、子どもたちに直接リーチするため、他のSNSと比較して10代の利用者が多いといわれているツイッターによる拡散にも注力しました。ツイッターは、140文字以内の短文を投稿することに特徴があり、利用者の目に留まるようにするには、頻繁なツイートが必要だといわれています。会公式のツイッターで週1回程度ツイートするほか、有志時代に作った「【10代のみんなへ】弁護士子どもLINE相談@TokyoⅡ」というツイッターアカウント*2もそのまま活用し、ツイッターの予約機能を使って、拡散されやすい時間帯に、1日最低4回はLINE相談を紹介するツイートをするようにしました。

3 子どもLINE相談の意義

1 子ども本人にリーチできたこと

相談期間を通じて、1日平均8.6件の相談が寄せられ、うち約94%が子ども本人からの相談でした。主な相談内容としては、①親族や知人からの虐待、②学校や交友関係のトラブルや悩み、③SNS上での加害・被害などが挙げられます。
子どもは、虐待・いじめ・体罰等についてそもそも「問題である」という認識を持てないことが少なくありません(「自分が悪い子だから叩かれる」「自分は人より劣っている」といった受け止め)。また、子どもにとって、辛い体験を話すことは、その辛い過去を追体験するプロセスでもあり、自己肯定感の低い子どもほど「相談する」ことへのハードルは高くなります。加えて、親や教師に相談することにより、かえって虐待やいじめが酷くなるのではないかという恐怖心も抱いています。
この点、LINEは相談への敷居が低く、問題解決に向けた心の準備ができていなくても、「辛い」という気持ちを吐き出して受容的に受けとめてもらうだけで不安の軽減に繋がります*3。相談時間外でもメッセージを送ることは可能ですから、子どもが、自分のタイミングでひと言でも送ってくれれば、相談時間になったとき、担当弁護士から返信することができます。LINEは、子どものSOSを拾い上げるのに適したツールであるという実感を得ました*4。

2 子どもの人権擁護及び人権教育に資すること

子どもを被害から救い出すには、信頼できる大人に相談することが第一歩です。ところが、虐待・いじめ・不適切指導など、権威者やマジョリティから否定・排除されてきた経験を持つ子どもは、概して自己肯定感が低く、大人に対する強い不信感を持っています。いじめや虐待は絶対に許されないこと、あなたは何も悪くないということ、あなたの人権や尊厳は傷つけられてはならないということ等を繰り返し伝え、必要に応じて法的手続を説明したり、その子の身近な社会資源に繋がるよう助言しました。
子どもたちにアンケートを実施したところ、「相談できる唯一の人だった」、「一時期は死にたいぐらい辛かったけれど、難しい法律を分かりやすく教えてくれたり、解決策を一緒に考えてくれたりして、心が晴れるようだった」、「この相談室をなくさないでほしい」といった声が寄せられました*5。相談により自己肯定感を得ること、問題の解決に繋がるという経験を積むことで、現実の被害から救済したり、被害を最小限に食い止めることができます。その意味で、多分に法教育としての効果も大きいと感じました*6。

4 今後の課題

1 相談担当弁護士のスキルアップ

相談者は子どもですから、必ずしも事実関係を整理して説明できるわけではありません。事情を正確に把握するまでに、丁寧で根気強いヒアリングを要します。さらに、心の傷が深い子どもほど、自傷他害などの行動(私たちは「SOS行動」と呼んでいます)に及ぶ危険があるので、相談担当者には児童心理や子どものコミュニケーション特性に関する知識が必要不可欠です。また、やりとりが文字に残り、虐待をしている親が目にする可能性もありますから、無用なトラブルを招かないよう細心の注意を払わなければなりません。

2 他業種との連携

前述のとおり、LINEを通じて子どもの悩み ごとに対応するには、児童心理、障がい特性、精神医療及び自治体の支援制度などに関する知識が必要不可欠です。児童福祉や障がい福祉における専門家との連携の必要性も強く感じました。また、子どものLINE相談の場合、相談のみで終了することも多く、現時点で事件受任に至った例はないため、法律相談制度が想定する収益モデルに合致しないという課題は否定できません。いわゆる法律相談というより法教育としての色合いも強く、法的手続に至る前段階での相談が多いことなどを踏まえれば、自治体による相談窓口との親和性が高いという性質もあると思われます。今回の貴重な経験を活かして、自治体との連携や福祉系・教育系の支援機関との協働も視野に入れるなど、今後も、子どもの権利擁護のための制度作りに力を尽くしたいと考えています。最後になりましたが、この相談体制に参加 して下さった先生方、コロナ禍で会務が山積するなか本企画の実現にあたりご尽力下さった理事者の先生方と事務局の皆様、そして、蓄積したLINE相談のノウハウをご提供下さった多摩支部の先生方に、紙面を借りて心から の御礼をお伝え申し上げます。

*1 総務省(情報通信政策研究所)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、令和元年において、LINE利用率は、全年代で86%、10代では94.4%に上ると公表されています(利用率はアンケート対象者の全数に対して)。このデータからも、LINEは、多くの 人々が日常的に利用しているコミュニケーションツールとなっていることが分かります。
*2 https://twitter.com/10LINETokyo1
*3 LINEでは、いわゆる「前熟考期」「熟考期」の段階にある方の相談が多く寄せられる傾向があり、これに対して、「準備期(直面している課題が明確で、解決したいという意欲がある段階)」にある方は、メール・電話・面談等の相談を選ぶ傾向が高まると考えられています(杉原保史・宮田智基「SNSカウンセリング入門 LINEによるいじめ・自殺予防相談の実際」P7)
*4 ただし、端末を持っていない子どもや親が端末を管理している子どもにはリーチできないという限界があります。こうした層を救済から取りこぼさないようにするには、行政や福祉機関との連携が必要不可欠と考えています。
*5 公式アカウントに友だち登録してくれた495名宛にグーグルフォームにてアンケートを実施したところ(回答率10%)、満足度調査では、「とても満足した」が38%、「まあまあ満足した」が28%となりました。対して、「解決に結びつかなかった」という感想や、「相談できる時間じゃなかった」、「弁護士に相談するのが緊張してできなかった」という理由で相談に至らなかった子どもがいることなど、相談体制の課題も浮き彫りとなりました。
*6 「子どもは、権利の享有主体であるとともに権利の行使主体であることを、社会全体の認識にし、競争的管理的な教育制度の改善、体罰・虐待等人権侵害の根絶、子どもの成長発達権の保障、子育て支援策の充実、学校教育等での人権教育の充実に取り組みます。いじめは人権侵害であると捉え、いじめ防止や解決のためのあらゆる活動を行い、いじめによる人権侵害の根絶に取り組みます。」(日弁連「人権のための行動宣言 2019」)