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インハウス レポート

小野 大輝 (72期) ●Daiki Ono

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1 はじめに

frontier202012-inhouse1.jpg私は、2019年12月、72期司法修習を修了し、第二東京弁護士会に弁護士登録をした、1年目の新米弁護士です。
現在、私が勤める会社は、IT系のベンチャー企業です。リーガルテックの提供を目的とした会社であり、主に資格試験のオンライン教育サービス、電子契約サービスの提供をしています。私は、2019年12月からフルタイム業務委託、2020年6月からは、正社員という形でいわゆる「インハウスローヤー」としてこの会社に勤務しています。
一方で、会社から兼業許可を頂いて、2019年12月に個人事務所を設立し、会社業務の傍ら、少量ではありますが、一般民事業務を行っています。そういった意味では、いわゆる「即独弁護士」という状態にあります。
友人や先輩からは、この「インハウスローヤー」と「即独弁護士」との「ハイブリッド」の勤務形態に興味をもたれることが多いため、本日は、これらの良さと苦労についてお話できたらと思います。

2 インハウスローヤーの良さと苦労

frontier202012-inhouse2.jpg(1)インハウスローヤーの一番の良さは、法務と離れた知識を、実務を通して学べることだと感じています。
会社には、人事の方、マーケティングの方、セールスの方、エンジニアの方、さまざまな職種の方がいらっしゃいます。皆それぞれが、スペシャルな経験・知見をもとに、日々の業務にあたられていて、会社では、ペルソナ分析、SQL解析など、本の中でしか見たことのないような専門用語が、日常的に飛び交っています。これらの知識を、実務を行う中で学べることは、非常に刺激的です。
ほかにも、企業法務に内側から当事者として向き合えること、労務管理が適切になされていること、給料が定額で安定していること、基本的にリモートワークであることなど、いろいろな良さがあります。
(2)インハウスローヤーの一番の苦労は、社内の合意形成を図ることだと感じています。会社で働く方々はそれぞれの能力も、視点も、価値観も、大きく異なるため、社内で一定の合意形成を図ることは大変です。エビデンスをもって説得することも必要ですし、ときには、自分の意思とは異なる、組織としての決定を主体的に進めていく柔軟さも必要です。非常に難しい課題ですが、これはこれとして、やりがいも感じます。

3 即独弁護士の良さと苦労

(1)即独弁護士の良さは、すべて自由に決められることだと思います。事務所をどう作るか、ホームページをどう作るか、この事件を受けるか受けないか、報酬をどう設定するか、事務所外の誰と協力して進めるか、どのような方針で処理するか、すべて自由です。この自由と責任は表裏だと思いますが、いろいろなことを自分で考えて、行動することは、他には代えがたい充実感があります。
(2)即独弁護士の苦労は、実務経験がないため、事件を独力で処理できないことです。
現在、私は、残業代請求・離婚・遺産分割・隣地紛争などの業務を進めています。いずれも、個人的にいただいたご相談ですが、新米弁護士がひとりでこなせるようなものではありません。私は、依頼者の方にご迷惑をおかけすることだけはあってはいけないと思い、二弁の指導担当制度を利用しました。
ご紹介いただいたベテランの先生方は、人柄的にも非常に信頼できる方々で、本当によくしていただきました。指導担当制度は、基本的に半年間で終了するものですが、その後も、私が事件を持ち込み、先生方に共同受任していただく形で、業務をすすめています。その意味では、「即独」というより「イソ弁」という方が実態に合っています。

4 ハイブリッドの良さと苦労

frontier202012-inhouse3.jpg(1)ハイブリッドの良さは、会社員としての報酬面・労務面での安定性と、一般民事への挑戦を両立できることにある気がします。
企業内法務と一般民事に関わるという願望を選びきれずに至った状況ですが、刺激的で充実した日々だと感じています。
(2)ハイブリッドの苦労は、やはり休日があまりないことです。週5日は40時間~ 50時間程度、会社の業務を、週1 ~ 2日で断続的に事務所の業務を行っています。自ら選んだことですし、私よりもっと働いている先生方はたくさんいらっしゃいますから、若手らしく頑張ろうと思いますが、たまに、本当に何もない休日が欲しくなります。
いずれにせよ、いまはなるべく多くの経験を積んで、その経験値から余裕を作れるようになれたらと思います。拙い報告でしたが、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
さきがけ二弁の新米弁護士、頑張って参ります!