出版物・パンフレット等

この一冊

frontier202012-konoissatsu.jpg西 愛礼(68期) ●Yoshiyuki Nishi

才能、それは我々を魅了してやみません。燦然と輝き、出会ったら一生我々の心を掴んで離さない、時を忘れて読み耽 り、出会えただけでも幸せだと 思う、そんなときめきを少しでも皆さんと共有したいと思い、「この一冊」に寄稿しました。私が紹介するのは、天才・冨樫義博が描く「HUNTER× HUNTER」という作品です。
主人公・ゴンは、父親に会うため、父親と同じハンターになる試験を受ける旅に出ます。ハンターとは、怪物、財宝、賞金首、美食、遺跡等の希少な事物を追求することに生涯をかける人々の総称で、ハンター試験は合格率が数百万分の一といわれる超難関です。ゴンはその旅路で様々な仲間や敵と出会い、知略を尽くした格闘や冒険を経て、自らの才能を開花させ、成長していきます。
書評であるにもかかわらず、私は本作品を評する言葉を持ち合わせていません。
私は社会人になってから趣味で写真を撮るようになりましたが、その中で「価値とは非代替性である」という一つの価値観を学びました。同じリンゴの写真でも、誰もが真似できないような写真は「アート」と呼ばれます。つまるところ、才能とは、ある種の非代替性なのではないでしょうか。私にとって、「HUNTER× HUNTER」は、およそ代替不可能なものであり、その一部を説明しようとするだけでも言葉に窮してしまう、そんな作品です。各キャラクターの思想、台詞回し、コマ割り、アクション、その随所に作者だけの天性のものが込められ、1ページ1ページがとても新鮮で、ページを捲る手を止めて思わず唸り、ため息をついてしまう、そんな作品なのです。作中では、天才対天才が命 を賭して戦う様子がしばしば描かれます。彼らは互いの才能に畏敬の念を示し、自らの才能に溺れることは決してせず、ただそれぞれの世界観に沿って生きています。私がそこから学び、得られるものはほとんどありません。しかし、なぜか、その光景に魅了されるのです。私が求める本は、ジャンルを問わず、このようにただただ没頭してしまう、そんな時を過ごせる幸せの形なのだと思います。
私自身、天才とまではいかないまでも非代替性、すなわち「他の人にはできない仕事」というものに憧れを抱くようになり、この業界を志しました。修習を経てから数年を経過したところで、まだまだ私は技能を磨くべき段階にあるのかもしれませんが、同様の過程にあるゴンが自分の立場に甘んじず、目の前の問題に対して精一杯頑張る姿勢は一つの指針になっています。
「そうか、余は、この瞬間のために、生まれてきたのだ」私が、本作品で最も好きな台詞です。私自身、弁護士職務経験制度により弁護士をしているという仮の身分ですが、目の前の仕事に対して精一杯頑張った結果、ふとこの台詞が脳裏をよぎったことがありました。
私の世界を豊かにしているのは「この一冊」です。