出版物・パンフレット等

花水木

堤真吾 堤 真吾(68期)
●Shingo Tsutsumi

弁護士になって丸4年が経った。修習を終えたばかりで右も左も分からなかった1 年目とは違い、ようやく「先生」と呼ばれることや、依頼者に送付する書面に「当職宛てまで」と書くことにも慣れてきた。そんな状況の中、4 年間のまだまだ短い弁護士生活を振り返ってみて、依頼者、相手方への丁寧な振る舞いが、弁護士として仕事をする上で最も大事なことだと感じている。

弁護士になり3年目の頃、訳あって、私の勤務する事務所のボスが、事務所にほとんどいないという状況になった。もちろん全件ではないが、毎日、自分の依頼者ではない方々と1対1での仕事だった。
最初の頃は「●●先生はいらっしゃらないのですか」と聞かれたし、私の方から「●●は不在です」と依頼者に説明することもあった。
「自分だったら3年目の弁護士よりもベテランの弁護士に依頼したいな」と思い、依頼者に対して申し訳ない気持ちすらあった。
その中で「依頼者に見放されてはいけない」と考えた私は、ただ1つ、ボスよりも丁寧に依頼者に接することだけを考えて仕事をした。相談や打合せのときは、できるだけ長く話を聞き、時計は見ず、依頼者が帰った後は電話やメールで説明の補充をするようにし、その日にできる仕事は全てその日のうちにするようにした。そうすると、不思議なことに初回相談か継続相談かを問わず、依頼者から「●●先生はいらっしゃらないのですか」と聞かれることがなくなった(皆様の私に対するお気遣いかもしれませんが...)。私も依頼者に対して「●●がおらず申し訳ございません」と言うこともなくなった。依頼者と1対1でやり取りするストレスもだんだんと消えていった。

また、相乗効果か、結果があまり良くないものであっても、何も良いアドバイスができなくても、感謝していただいた依頼者がいた。
また、丁寧にやればやるほど、準備書面1つ、尋問での質問1つに感謝してくれる依頼者が増えていた。
準備書面も、依頼者が相談時に話していたことを漏らさず書くよう意識した。自分なりに、依頼者に対して丁寧に振る舞ったからこそだと思う。

思い返すと、私は、小学生や中学生の頃、授業態度がすこぶる悪く、授業中など悪ふざけをしては先生に怒られていたのだが、自分は何もしていないのに、同級生の起こしたことでも私がやったと勘違いされて怒られることが何度もあった。そのことを親に言う度に、両親から「普段の振る舞いが悪いから勘違いされる! 反省しなさい!」と更に怒られたものだが、今になって親の言葉が身に染みる。自分の周囲の人は、自分の 普段の振る舞いを思ったよりも見ているし、普段の振る舞いをもってその人を評価するものだと改めて感じている。

さて、弁護士になり4年が 経過した。今ではボスも事務所に戻っており、事務所事件の依頼者との完全な1対1のやり取りは減った。
しかし、その一方、依頼者と1対1でやり取りしていた昨年のように、丁寧に振る舞えているのかは疑問である。弁護士5年目に入った今、 この点を常に自問しつつ、執務にあたっていきたいと思う。