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新入会員に贈るメッセージ

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弁護士の仕事は楽しい!?

1.はじめに

皆さんの入会を心から歓迎します。これから弁護士としての仕事を始める皆さんは、この社会の「S席」に座ったようなものです。弁護士は、刑事事件の被告人から上場企業の社長まで、様々な階層の依頼者の悩みを直接聞き、依頼者の人生を追体験できる稀有な職業です。裁判官や検察官のように、対象が裁判事件や刑事事件に限られません。法的な相談とも限りません。様々な人の問題や悩みについて、依頼者から直接話を聞き、依頼者の心のケアまでも期待されるのが弁護士の仕事です。
私は1990年4月登録で、弁護士歴30年です。この間、1回の人生では体験できないような、いろいろな体験をさせていただきました。それでもまだ世の中は知らないことばかりです。いまだに毎日、勉強させていただくことがたくさんあります。
皆さんも、これからが日々本番の勉強です。弁護士の仕事を通じて、失敗も含めて多くの体験をしていくことは、とりわけ若い弁護士にとっては重要です。どんな些細な体験でも、その後の弁護士人生にとって役に立たないものはありません。後になって必ず生きてきます。リアルな体験でなく、疑似体験であっても、弁護士の仕事を一生懸命することこそが、最も勉強になります。
依頼者から教わりながらお金までもらえる。
私は、弁護士ほど恵まれた仕事はないと思っています。

2. 弁護士としての心構え

普段の弁護活動を通じ、私が弁護士として必要だと思う心構えについて、少しお話ししたいと思います。

(1) 事実に偏見なく誠実に向き合う

どんなに法的な知識があっても、法的評価は事実を前提とします。事実を見る目がなければ、法的評価を誤ってしまいます。そのためには、目の前の事実に偏見なく誠実に向き合うことが必要です。
一般に裁判では事実認定といっていますが、弁護士の仕事は、最初にまず事実を確認する作業から始まります。「この事件は○○だ」などと思い込むことは、とても危険です。相談や調査には時間をかけ、謙虚かつ丹念に事実を聴取する姿勢が必要です。
思い込みや偏見は、しばしば事実を見る目を曇らせます。たとえば、ある事件を「儲かる」と思えば、その瞬間から、弁護士は「事件」をお金が儲かる方向に動かすことも可能です。たとえば離婚事件の場合、裏方に徹して夫婦の話し合いだけで協議離婚とすれば、二人にとっては未来に禍根を残さない別れ方ができるかもしれません。でもその場合は法律相談料ベースのお金にしかなりません。他方、法律相談の中で、「弁護士を入れた方がよい」と誘導して事件化すれば、着手金や報酬金をもらうことができます。しかし、二人の未来には禍根を残すことになるかもしれません。お金の誘惑に負けずに、事実に即したアドバイスができるかは、弁護士の心構えとして重要です。
自分の信条とは異なる「党派性」なども、真実を見る目を曇らせる要素です。私は、これまで政治的信条や宗教的信条に反するからというだけで事件をえり好みしたことはありません。新人のうちは、仕事の好き嫌いは考えず、とにかく来る仕事をすべて引き受けました。問題を抱えている相談者がいるなら、時間が許す限り相談に応じてきました。「この事件はお金にならない」と最初は思っていた事件が、多額の報酬をいただく結果になったことも何度もあります。
今私が様々な形で関わっている宗教被害事件も、最初から取り組もうと思った事件ではありませんでした。困った被害者を一人一人救済しているうちに、今や『マインドコントロール』という本すら書けるほど、多数の事件を担当することになり、それがまた新たな仕事にもつながっています。

(2) 経験に頼らない

「経験」は、「偏見」の中で最もやっかいな代物です。新人のころは、初めての事件ばかりですから、新鮮な気持ちで依頼者からもいろいろと教わりながら勉強していくわけですが、経験を積めば積むほど、「これはこういう事件だ」「このくらいの時間でできる」などと、過去の経験から、「今」の事件を判断しがちとなります。しかし、実際の事件は毎回異なり、事件処理をしていくうちに自分の見立てが間違っていたということもよくあります。世間ではOJTなどと、経験はしばしばポジティブに取られがちですが、こと弁護士の仕事にとっては経験に頼ることは危険な面があります。事件ごとに経験を排して、いつも新鮮な気持ちにリセットして事件に取り組むには、自分を律する気概が必要で、最も精神的に苦労する点です。

(3) 創造力が大切

この世の中の紛争は、裁判で勝つだけで決着できる事件ばかりではありません。裁判外の活動、たとえば今の法律で解決が無理なら、法の改正に向けたマスコミへの働きかけや政治家との折衝や出版など、運動論的な仕事もとても重要です。法の世界を飛び出し、法を一から作り出すくらいの創造力が必要です。
私は弁護士2年目で、初めて宗教団体の伝道の違法性を問う裁判を提起しました。その時の記者会見で「これは、マインドコントロールの違法性を問うもの」とコメントしたところ、当時の記者たちの反応は「この弁護士、何言っているの」という白々しいものだったのを覚えています。当時の日本はまだ「マインドコントロール」はSFの世界で、判例も文献もありませんでした。
その後、オウム真理教事件を経て、今や「マインドコントロール」はカルトの悲劇を繰り返さないための重要なキーワードになり、この手法に違法性があることは、多くの裁判例で認められています。
2019年6月15日に施行された改正消費者契約法では、取り消しができる、つまり違法性を帯びる消費者契約の類型として「霊感商法」が加えられました。法律に「霊感」という文字が入ったのは初めてのことで、民事という枠組みではありますが、霊感商法の被害者の救済に役立つことが期待されています。努力すれば法律も変えられるという良い例だと思います。

3. 終わりに

私は、弁護士の世界に出家したようなものだと思っています。依頼者一人一人にとことんコミットしていくこの仕事は、楽しいばかりではなく、苦しいことも多々あります。しかし日々の仕事に精進し、頑張っていけば道 は開けます。皆さんの30年後が楽しみです。強く期待しています。



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新入会員の皆様へ

1.はじめに

新入会員の皆様、入会おめでとうございます。ようこそ、第二東京弁護士会へ。
私は2002年に弁護士登録し、弁護士6名の中規模事務所に2年半勤務した後、独立しました。独立当初は一人で事務所を開設し、その後、夫と友人弁護士たちとともに共同経営の事務所を開設して現在に至ります。
これまでの18年間の弁護士道を振り返り、新入会員の皆様へ贈るメッセージをしたためたいと思います。

2. 弁護士登録〜新人弁護士時代

私が弁護士登録後に勤務した法律事務所は、顧問先企業の訴訟対応、意見書や契約書の作成、総会指導といったいわゆる企業法務が主で、たまに一般民事事件を扱っていました。その中で、自分が行って良かったと思う事項をいくつか挙げたいと思います。

(1) 時系列表・争点整理表の作成

新人弁護士として勤務した当初は、事件の途中から、訴訟等の案件に携わることになるのがほとんどです。単純な事件であれば表など作成しなくても理解できますが、複雑な事件となると、各案件ごとに、時系列表・争点整理表を作成しなければ事案の内容や双方の主張・証拠関係等を的確に理解することは困難です。
これらの表は、頭の中を整理できるだけでなく、尋問準備や最終準備書面等を作成する際にも役立ちます。
詳細な表を作成するには時間がかかりますが、結果として効率の良い業務に繋がります。

(2) 判例・文献調査でしぶとく

当時のボス(故川崎達也先生。当会会長等歴任)が、事件処理にあたり口癖のように言っていた言葉は、「知恵と工夫」でした。
そうはいっても、無い頭を絞っても出てこない...ということで、先人の知恵と工夫に頼ることにしました。そう、判例と文献調査です。今のようにネットで検索すればいろいろヒットするという時代ではなかったので、新人弁護士の頃はよく合同図書館に行って文献調査をしました。
とある遺言無効の訴訟(某士業の先生が関与して作成した遺言を当方が無効として訴えた訴訟)で、当初、遺言の形式面がバッチリ固められていたこともあり、旗色はあまり良くありませんでした。しかし、こんな遺言絶対におかしい!という執念のもと、似たような判例をしらみつぶしに探したところ、類似の裁判例を見つけることができました。その結果、旗色が変わり、無事に勝訴的和解に持ち込むことができたのです。あきらめずにしぶとく判例調査をして良かったと実感した事案でした。
新人の頃は、旗色の良くない事案はあきらめてしまいがちかと思いますが、知恵と工夫をもって、しぶとく事案にあたって頂きたいと思います。

(3) 飲み会や食事会への参加

事務所のボス等から、飲み会や食事に誘われると、面倒だな〜と思うことはありませんか?もちろん、断って頂いて全く構いませんが、もし時間に余裕があれば、ぜひ参加することをお勧めします。
飲み会の席で語られる先輩弁護士の失敗談や成功談、ここだけの話等は、弁護士業務を行うにあたりとても参考になります。
私のボスの場合、話す内容は自慢も多かったですが(ほとんど自慢話だったかもしれません笑)、その中に、今後の弁護士道に活かせるヒントが隠されていたりします。

3. 独立してから〜現在

さて、昔ながらの弁護士然としたボスに、優しい兄弁・姉弁・同期・後輩弁護士という恵まれた環境で勤務していましたが、そんな私も独立をしました。

(1) 百聞は一見に如かず

司法修習生の頃、お世話になった先生から、「刑事事件は弁護士道の基本である。」という言葉を頂きました。その言葉がずっと胸にあり、独立をしてから今に至るまで、年に2、3件は刑事事件に携わるようにしています。
独立してすぐ、強姦未遂で逮捕された被疑者の否認事件を受任したことがありました。当時、時間は山ほどあったので、自白調書を取られないよう毎日接見に行き被疑者を励ますとともに、証拠収集の日々。ある日現場を見に行ったところ、犯行時刻とされる夕方に、人が目と鼻の先にいるこんな場所で女性を襲おうとすることなどないと確信。その他にも有利な証拠を集めることができ、検察官に意見書を提出したところ、不起訴に持ち込むことができました。
「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」とは有名なドラマのセリフですが、民事・刑事を問わず、弁護活動においても、現場に足を運んでみることは大切だと実感した事件でした。

(2) 目先の利益に捉われない

独立した当初は、一人だったことと、1年半後に友人たちとの共同事務所設立が控えていたことから、当時、弁護士としては珍しかったレンタルオフィスを利用することに。そのオフィスの利用者向けに無料の法律相談会を継続的に実施したところ、少しずつ相談や事件の依頼が増えていきました。案件や報酬の大小に関わらず、目の前の事件に一所懸命対応していると、顧問を頼まれたり、紹介案件に繋がったり、徐々に大きな事件の依頼も頂くようになりました。新入会員の皆様は、騙されたと思って目の前の事件に懸命にあたってみてください。成果や報酬は後から必ずついてきます。

(3) 会務や会派の活動・仲間とともに

弁護士は、ともすると孤独になりがちな職業です。弁護士会の委員会や会派の活動をすることで、個々の事件に関わるだけでは身に付かない見識が広がったり、また、事務所の垣根を超えた繋がりができて、遊びを共にしたり、悩み事を相談したり、時には事件を頼まれたりすることもあります。信頼できる弁護士仲間を作ることは、新入会員の皆様が今後弁護士道を歩む上で間違いなくかけがえのない財産になります。

(4) 趣味のススメ

仕事の依頼は、時に思いもかけないところから来ることがあります。私は車が好きで、以前サーキット走行をしていた時期がありました。その時に知り合った方から、所有するスーパーカーを巡る事件の依頼があったのが、個人事件の第一号です。
弁護士が増えたとはいえ、身近に弁護士の知り合いはいないという方がほとんどです。趣味や遊びも真剣に取り組んでいると、事件の依頼が舞い込むこともあります。
また、弁護士の仕事はストレスフルなので、オンとオフを切り替え、ストレスを解消できる趣味の時間を持つことはとても大切です。

4. おわりに

弁護士業務には時に辛いこともありますが、必ず弁護士になって良かったと思える瞬間があります。
始まったばかりの弁護士人生、楽しいことも辛いことも、これから起こる全てのことを良き経験として、ぜひ頑張ってください!
皆様の輝かしい未来を祈念しております。



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可能性も専門性も、自分次第!

1.はじめに

弁護士登録及び二弁への入会、おめでとうございます。会員弁護士として、心から歓迎いたします。
今回、「新入会員の皆様に、先輩としてメッセージを」という依頼を頂きましたので、弁護士登録から13年目を迎える私の経験談と共に、新人弁護士時代の過ごし方や心構えの参考例をご紹介したいと思います。

2.弁護士1年目を振り返って

弁護士登録から約5年半は銀座の法律事務所に所属し、一般企業法務・一般民事・刑事事件・家事事件を広く担当しました。
1年目の私は、訴訟等のいわゆる「紛争解決」の経験を積むことにこだわっていました。
その理由は、次の2つです。
①訴訟は弁護士の専権事項
②紛争解決の終局手段である訴訟実務を知って初めて予防法務や契約書作成が可能
後に、企業内弁護士(インハウスロイヤー)に転向した私ですが、リスクを軽減させる方法をアドバイスする場面や契約書作成において、訴訟や交渉による紛争解決の実務経験が活きる場面が、多数ありました。
それぞれの環境や目標に応じて、自分が弁護士である意義や、将来何ができる弁護士になりたいかを考えて業務を開始されると、将来に活かせる経験がより多く積めると思います。

3.1年目に立てた目標

1年目に立てた目標は、次の3つでした。
①3年以内に、顧問先を獲得する。
②3年以内に、書籍を執筆する。
③3年間は、辞めない!

4. 自由業の光と影

目標①は、将来独立し、事務所を経営する適性があるかを見極める為に設定しました。
自由業を続ける以上、必ず向き合わなければいけない課題なので、自分なりに不安を軽減する為の経験を積むことが重要だと思います。
結果的に、目標①を達成できましたが、独立してやっていけるだろうかという不安は消えませんでした。
ただ、3年の経験しかない自分でも、お客さんの信頼を得て仕事を任せてもらえたことは大きな自信になりました。お客さんとの接点の増やし方やニーズを掴む術、自分なりの営業感覚を磨くことができ、「何とかなるかも」と思えたことは、大きな収穫でした。

5. 専門性は"自称"から自分で作る

目標②は、専門家として世の中にアピールできる知識や経験を積む為に設定しました。弁護士の競争激化といわれる時代です。書籍を布石に、多くの弁護士の中から選んでもらうための専門性を習得したいと思っていました。
書籍執筆は1つの例ですが、専門性を"意識"し"自称"することで、著名な先輩と接点を作ろうと行動したり、当該分野の勉強会に出て知識を得るようになり、結果的に、その分野の仕事が集まってくるようになります。
「自分の専門分野を作ろうという"意識"が世界を広げる」ということです。(共著ですが、2冊の書籍出版に携わることができました。)

6.3年かけて、芽が出る(忍耐)

目標③は、精神的・時間的に余裕がなく、自信を失いかけた自分を奮起させる為に設定しました。
受験勉強は、マイペースに進められる正解がある世界ですが、仕事は違います。社会常識がなく叩かれ慣れていなかった私にとっては、できない自分ばかり思い知らされる辛い時期でしたが、この時期の1つ1つの経験が、その後の礎になっています。
3年経つと、案件の"落としどころ"が最初に思い浮かぶようになり、スピードも質もまともになっていき、精神的にもタフになりました。人脈も、1年目に蒔いた種が芽を出し、急速に世界が広がりました。
時間設定は人によると思いますが、あまりに不合理な環境でない限り、同じ環境で一定期間続けようという覚悟によって得られるものは大きいと思うので、続けてみてください!

7.企業内弁護士への転向

それなりの成長実感を持って5年目を迎えた私でしたが、顧問先の仕事が増えるにつれ、次のように限界に悩むようになりました。
①海外取引に対応できず、お客さんのニーズに応えられない
②経営者の相談相手になるための経営知識やビジネス経験、ビジネス感覚がない
③リスク発生後の事後対応しかできない
④あくまで第三者で、当事者ではない
これらを解決する方法として、企業内弁護士への転職を決意しました。
日本製の商品を海外で展開することに興味があったところ、キリンが採用してくれて、今に至ります。
新しい経験と知識を得て、それまでの自分の限界を超えて一回り成長できたので、新しい世界に飛び込んでよかったと思っています。

8.活動範囲=可能性の広がり

弁護士の魅力は、組織に依存せず自立できることですが、その反面、自分一人でできる範囲内の規模や世界、仕事に収まりがちです。
他方、企業では、自分一人では到底できない規模や種類の案件に、当事者として、当初から関わることができます。
転職するまで英文契約を読んだこともなかった私ですが、海外法務チームに志願した結果、海外M&A、アジア・ヨーロッパとの取引契約、海外子会社管理、海外での訴訟対応など、活動範囲や必要な知識が一気に広がりました。
また、企業は様々な新しい経営施策を日々実行しているため、常に新しい案件が入ってきます。その領域も、M&Aや販売店契約、ライセンス契約などの取引法務から、株主総会運営、コーポレートガバナンス業務、株式実務、紛争やリスク案件対応、法務基盤整備等、広範囲にわたります。
経験できる仕事や領域、地理的範囲が広がると、その分、自分の可能性が広がります。特定分野プロフェッショナル弁護士か、ジェネラリスト弁護士かという価値観にもよりますが、少なくとも若い時は、可能性や選択肢を広げる方向で動いてみるとよいと思います。

9.終わりに

事実のアクティブリスニングや現場が大事とか、まずは質よりスピードとか、法律以外で差をつけるとか、自分で限界を決めないとか、新入会員の皆さんにお伝えしたいことは沢山ありますが、一番お伝えしたいことは、弁護士は素晴らしい仕事!だということです。
自分次第で可能性は無限に広がり、自分に合ったやり方で、世の中や人の役に立っていることが実感できる仕事です。競争激化といっても、愚直に努力してお客さんの信頼を得ていけば、まだまだ食べていける仕事です。
充実した人生が待っていると思いますので、夢や希望を持って、多少辛いことがあったとしても、1年目を乗り切ってください!