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少年とともに

付添人体験記  - 保護観察中に強盗殺人未遂? -

飯塚 敬太(70期) ●Keita Iizuka

1 はじめに

本件において、少年は強盗殺人未遂事件の被疑者として逮捕・勾留され、私は2人目の被疑者弁護人として選任されました。
本件の事案の概要は、少年が、共犯者3名(うち2名は少年の友人で未成年であり、もう1名は成人でした。)とともに、金品を奪う目的で東京都内の裏スロット店に客を装い入店したうえで、共犯者のうちの1名(成人の共犯者。以下、「共犯者A」といいます。)が、所持していたナイフで殺意をもって裏スロット店の従業員を切りつけた、というものでした。

2 初めての面会

(1)本件は、強盗殺人未遂事件という重大事件であり、早急に2名体制で弁護活動をする必要がありました。そのため、被疑者援助制度を利用し、勾留前から少年に面会に行きました。面会の際には、成人の刑事事件の時以上にオープンに質問をするように気を付けていました。
少年に話を聞いたところ、非行事実の要旨には被害者が1名しか記載されていないが、共犯者Aは、3名の従業員にけがを負わせているとのことでした。
また、少年には特殊詐欺の前歴があり、本件は当該前歴について保護観察中の非行でした。共犯者である少年のうち1名とは当該前歴において共犯関係にあり(以下、前歴において共犯関係にあった少年を「少年B」といい、あと1人の少年を「少年C」といいます。)、少年Bと接触しないことが保護観察中の条件になっていました。
さらに、少年は、非行後に交際相手とともに逃走しており、逮捕時には大麻を所持していました。そのため、大麻取締法違反で再逮捕されることも想定されました。
加えて、少年には、他人名義の銀行口座を購入するという犯収法違反の余罪や、遊興費や薬物購入費に充てる金銭を得る目的で、SNSにオートバイやゲーム機を売却するなどと虚偽の書き込みをし、購入希望者に他人名義の預金口座に送金させて金を騙し取るという詐欺の余罪もありました。
(2)本件について少年から話を聞いたところ、少年が非行に至った経緯はおおむね次のようなものでした。
①少年Cから「たたきってお金になるからやらないか」などと言われ、少年、少年B及び少年Cの3名で少年の自宅でインターネット検索を行った。
②たたき募集のツイートを見つけ、少年が氏名不詳の指示役と連絡をとっていた。指示役から、当日は刃物を持ってくるようにとの指示を受け、カッターナイフを購入した。
③指示役からの指示どおりに、事件の当日、共犯者Aと新宿駅近くの待合せ場所で合流し、裏スロット店の下見等をしたうえで非行に及んだ。
少年の話によると、少年が共犯者らとともに現場に行ったことは間違いないが、少年らには被害者を傷つける意図はなく、共犯者Aが独断で行ったものだということでした。少年の主張のとおりだったとしても、少なくともナイフを持参して本件犯行に及んでいる以上、強盗傷害の共犯としての責任は免れられない旨、少年に伝えるとともに、保護観察中の非行でかつ重大事件であることや、安易に金銭を得ようとした動機の悪質性からすると、逆送される可能性もあり得ることを伝えました。

3 方針について

(1)成人の弁護であれば黙秘することになるかと思います。しかし、すべての非行事実について少年審判で同時に処理をしてもらうとともに、供述することで反省の態度を示して逆送を阻止するため、黙秘はしないが、調書に署名指印はしないという方針を採ることにしました。
(2)さらに、少年の両親と面会し、これまでの成育歴を聞き取るとともに、示談金を準備してもらえないか確認しました。少年の両親は離婚していましたが、父母ともに、協力して少年に関わっていきたい旨の話をしていて、少年に対する愛情は感じられました。しかし、示談金については、準備することはできないとの回答でした。そのため、少年に謝罪文を書いてもらうことにとどめました。

4 大麻取締法違反での再逮捕と家裁送致

少年は、強盗殺人未遂事件については処分保留で釈放となり、同日中に大麻取締法違反の非行事実で再逮捕されました。大麻取締法違反は裁判員対象事件ではなかったこともあり、勾留前援助手続において複数選任を認めてもらえませんでした。そのため、私は、弁護人としての立場を失い、少年と面会をすることができなくなってしまいました。(一人目の弁護人が就任しています。)
その後、検察官が大麻取締法違反で勾留延長を申請しましたが、この申請が却下されたことから、検察官は、急ぎ大麻取締法違反の非行事実についてのみ家裁送致し、強盗殺人未遂についてはその時点で家裁送致をしませんでした。結局、検察官は、強盗傷害(認定落ちしました。)の非行事実についても追送致しましたが、送致の時期が遅れたことにより、私は1週間ほどしか少年の付添人として活動できませんでした。また、審判期日は大麻取締法違反の非行事実で送致された際に決められた日程で行われることになったため、強盗傷害についての膨大な一件記録を検討する時間も大幅に短くなってしまいました。

5 審判について

少年には、少年院送致は避けられないため保護観察を求めることはしない(賛否が分かれるところかと思います。)が、長期の入院は必要でないと主張する方針である旨を説明し、審判に臨みました。付添人意見書には、保護処分を求める旨、記載しました。審判には、少年の父母がともに出頭してくれました。
少年は、涙を流しながら、二度と非行を繰り返さないようにすると話をしてくれました。しかし、裁判官から、非行がエスカレートしていることや、非行の動機が薬物を購入するための金銭を得る目的であったことなどを指摘され、比較的長期間の少年院送致が相当であるとの審判がなされました。

6 最後に

本件は、私にとって2件目の少年事件でした。裁判員対象事件であったことから、逆送されないための弁護方針を採る必要があることなど、とても勉強になった事件でした。審判の内容としてはやむを得ないものであると思いますが、当初、大麻取締法違反の非行事実についてのみ家裁送致した検察官の対応には大いに疑問が残る事件でした。

児童虐待の基礎知識

中村 仁志(55期) ●Hitoshi Nakamura

近年、痛ましい虐待死事件が続き、児童虐待についてクローズアップされています。また、児童福祉法及び児童虐待防止法の改正が続いており、弁護士としても家事事件等において児童虐待の問題と接する機会が増えてきていると思われることから、今回、改めて児童虐待に関する基本的な部分をご紹介したいと思います。

1 児童の最善の利益について

子どもの権利について、児童の権利条約においては、次のように規定されています。

(児童の権利条約)
第3条1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。

このように、「児童の最善の利益」を主として考慮することが謳われており、児童福祉法においても、平成28年の改正により以下のように規定されました。

(児童福祉法)
第一条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

児童の最善の利益が優先して、考慮されるべきと規定されたことの意義は大きいものです。これまで子どもに関する事案について、親権といった親中心に議論されてきたケースも多いと思われますが、「児童の最善の利益」を優先して考慮すべきだといえます。

2 虐待とは

児童虐待については、虐待防止法第2条に、身体的虐待、ネグレクト、性的虐待、心理的虐待の4類型が規定されています。
身体的虐待について、親の言い分として多いのは、民法の親の懲戒権を根拠とした、「しつけ」であるというものです。しかし、「しつけ」であっても叩いたり蹴ったりすることが正当化されるものではありません。この点、平成31年の改正により児童虐待防止法14条において、しつけであっても体罰は許されないことが明確になりました。

3 虐待通告について

虐待を受けていると思われる子どもがいる場合、全国共通ダイヤル「189」で児童相談所に通告することができますが、その通告は虐待の疑いがあればよく、確信までは必要ありません。また、通告した者が誰であるかは厳重に秘匿され、虐待者に伝わることはありません。弁護士も、相談等で児童虐待を覚知する場合もあり得ますので、そのような場合には通告義務が課せられています。
特に、相談者が虐待者の場合、通告について弁護士の守秘義務が問題となるところですが、児童虐待防止法第6条3項において「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。」と規定されており、児童福祉法25条2項にも同様の規定があることから、児童虐待通告により守秘義務違反を問われることはないと考えられています*1
では、児童相談所が通告を受けた場合にどのように対応するかですが、まずは、子どもの安全確認ということで、児童福祉司が実際に子どもに会いに行くことになります。

4 虐待通告後の流れ

福祉司により子どもの状態が確認されますが、体にアザがあったり、その他虐待の兆候がある場合には児童相談所において一時保護するかどうかの判断がされます。
一時保護された場合、原則としてその期間は2ヶ月ですが、延長することも可能です。ただし、一時保護の延長について親権者の同意がない場合には、家庭裁判所での審判となります。この審判は進行が早く、申立がされると2週間くらいで期日が入り、期日が開かれたその日のうちに審判が出されることも多くあります。
このように、一時保護は延長可能ですが、複数回の延長は望ましくなく、児童相談所としては、速やかに親権者の元に返すか、施設入所ないしは里親委託、その他の措置とするか判断することとなります。
近年、この一時保護所が十分でなく、定員をオーバーすることが多くあり、保護所内での子どもに対する待遇についての問題も指摘されているところです。
本年度、開設された江戸川区の児童相談所には、一時保護所も併設されていますが、これまでの一時保護所の問題をふまえた施設の設計や取り組みがなされています。この江戸川児童相談所については、改めてご紹介する予定です。

5 施設入所の承認審判手続について

児童相談所において施設入所相当との判断になった場合には、まずは親権者が施設入所に同意するか否か、児童相談所から親権者に対して意向の確認がされます。ここで同意となれば施設入所等の措置になりますが、親権者が明確に反対した場合には、家庭裁判所での審判となります。いわゆる28条申立といわれており、児童福祉法28条に規定される家裁が施設入所等の措置を承認するか否かという手続となります。
この28条申立の審判では、一時保護された経緯、それまでの養育状況、子どもの状況などを考慮して、今後子どもにとってどのような環境で生活するのが良いか、審理がされることになります。
この28条申立による承認の効果は2年間となりますので、2年の間に、児童相談所と親権者との間で環境調整ができれば子どもを家に帰すことになりますが、さらに施設入所を継続することに親権者が反対している場合には、更新の申立となり、これが認められればさらに2年間、施設入所が継続することとなります。

6 まとめ

児童虐待事案の流れをおおまかに説明しましたが、どのようなケースであっても、まずは「子どもの最善の利益」が何であるかという観点を優先して検討していただければ幸いです。