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インハウスレポート

当会会員 入江 潤 (69期) ●Jun Irie

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1 はじめに

私は双日株式会社法務部に所属しています。弁護士になって4年弱ですが、私のキャリアの異色な面として、ファーストキャリアからずっとインハウスローヤーをしているという点があります。そこで、本稿では、総合商社法務の仕事を紹介しつつ、ファーストキャリアとしてのインハウスローヤーをテーマにお話ししたいと思います。

2 総合商社法務の業務

古くより"ラーメンからミサイルまで"と形容される通り、総合商社の取り扱う商材は多岐にわたります。また、現在の総合商社は、単なる貿易商売というより、事業投資を行いグループとして利益を上げていくことをメインの生業としていますので、法務部では、例えば穀物や石炭のトレーディングや飛行機の売買といった貿易商売から、自動車ディーラーの買収・運営、風力や太陽光発電への参画等、ありとあらゆる商売に付随する、一切の法律・契約関連マターを取り扱うことになります。さらに、海外案件も非常に多いため(私自身は弁護士としてのキャリアのうち8割以上海外案件に関与しています)、あらゆる商材・商売に関連する、あらゆる国・地域の業務を取り扱います。

3 ファーストキャリアとしてインハウスを選んだ理由

私は就職活動の際、海外案件に多く関与できる環境という軸で就職先を考えていました。というのも、当時は"弁護士は食えない資格になっていく"と喧伝されて久しい時代でしたので、若手のうちに法曹資格+αの武器を獲得したい、海外業務経験はこの+αの武器としてふさわしいのではないかと考えていたためです。法律事務所含めオファーを頂いた中で"もっとも現場に近い環境で、高レベルの海外法務を経験できる環境だ"と考え、当社に入社しました。

4 入社後の業務

中国メーカーの工場入社後は期待を裏切られることなく、どっぷりと海外案件に浸かったと思います。当部は事業部を縦割りに担当する3つの課と、コンプライアンスを担当する2つの課からなりますが、私が最初に配属されたのは、事業部を担当する課のうち、金属資源や自動車ビジネスを担当する課でした。そこでは主に、豪州やアジア地域での炭鉱・資源メーカーの買収等のM&A業務、新規貿易ビジネスを始めるにあたっての契約書ドラフト・レビューや交渉支援、海事紛争の処理(国際仲裁や仲裁前の交渉等)等を経験しました。変わり種としては、アジア地域での所謂ライドシェア事業参画のサポート(初期法令調査、ビジネスストラクチャの検討等)や国内3Dプリンタ事業を行うにあたっての知財戦略策定にも関与しました。

5 メリット/デメリット

マレーシア出張の際訪れた、当社が運営する日本食フードコート前ファーストキャリアとしてインハウスローヤーを選ぶメリットは、①若手のうちから案件を主体的に進める力が身につく、②クライアント目線での弁護士の良し悪しが分かるようになる、③様々な国・事務所の弁護士(アソシエイトからパートナーまで)の技量や仕事を見る(盗む)ことができるという点だと思います。一方のデメリットは、④業務時間が制限されてしまう、⑤ある特定のプラクティスの専門性は身につきにくい、といったところかと思います。この中で特に①についてお話しします。
企業法務系の法律事務所であれば、ジュニアアソシエイトが単独で業務を行うことは多くなく、シニアアソシエイト、パートナーとのチームで業務を行うかと思いますが、インハウスの場合、相当早い段階から一担当者として業務を行います。当社の場合、1年目は必ずミドル〜シニアの先輩とタッグを組んで業務を行いますが、2年目からは一人の担当者として戦場に駆り出されます。私自身も2年目には中国での資源系メーカーの買収案件をメインで担当し、対象会社との契約交渉や現地出張等、法務からは全て一人で赴きました。稟議が必要になる事項(当社の場合、株主間契約書のような重要契約の締結や事業参画を決める重要な意思決定)については部課長の指示・指導のもと業務を行いますが、それ以外は自ら調べ、考え、必要であれば先輩方の助力を求めなくてはなりません。このような環境は、やっている最中は非常に大変ですし不安になるものですが、とても成長できます(成長せざるを得ない)。一方で、このように早期に独り立ちすると、間違ったやり方を正してもらうチャンスが少なくなるというデメリットにもつながります(部課長への報連相を行う中でアドバイスは貰えるものの、細かい指導や成果物の逐一レビューはない)。したがって、特に報連相はマメに行い、悩んでいる部分も含めて早期に共有し、自分の仕事を自発的にレビューしてもらうことが重要です。

6 英語

業種にもよりますが、インハウスローヤーになるのであれば英語力は必須です。では、入社時点でビジネスリーガルレベルの英語力が必要かというと、答えはNOです。私は入社前には英語のクラス以外で英語にほぼ触れたことがなく、英語で外国人と話したことも数回しかないようなレベルでした。そのような人間でも、半年程度経験を積めば秘密保持契約のような定型的英文契約のレビューはできるようになりますし、3年程度の業務経験を積めば、一人で海外出張に行って契約や債権回収交渉を行ったり、外国人弁護士とのミーティングをリードしたりできるようになります。若手でインハウスへの転職を考えている方も、入社後に努力できるのであれば英語を理由に転職を断念する必要はないと思います。

7 おわりに

ファーストキャリアをインハウスローヤーとして過ごしている弁護士のキャリアを紹介している記事はあまりないと思いますので、皆様の理解を深める助力になれば幸いです。