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山椿

權田 光洋權田 光洋(41期) ●Mitsuhiro Gonda

弁護士となって、あっという間に30年が過ぎてしまった。ロートルになってくると、仕事のやり方にも型(パターン、スタイル)ができてくるようである。その型で仕事をこなしていけば、まあ、そこそこの仕事ができるようになる。だからといって、その型ばかりで仕事をしていると、次第に仕事の質が落ちていくようである。身に付けた型を意識的に壊して、新しい型を身に付けていく必要があるように思う。身に付けては壊し、身に付けては壊しの繰り返しである。
思えば、司法試験で法的三段論法という型を覚え、司法研修所で要件事実という型を覚え、実務に出てこの型で経験を積み、この型を磨いてきた。そして、いつしか仕事のみならず、日常のできごとにもこの「必勝パターン」をあてはめて物事を見ていた。2000年から仲裁センターに関わり、いくつか和解あっせん事件を担当したが、あっせん人としても法的三段論法、要件事実の思考パターンで法的評価し、和解案を提示してきた。
15年程前に裁判外紛争解決の利用促進に関する法律(ADR法)の制定を契機として、多士業を巻き込んだいわゆる「(民間)調停ブーム」が起きた。この中で新しい紛争解決の手法として「自主交渉援助型調停」「対話促進型調停」が紹介された。この手法は、争点を明らかにして、事実を認定し、法的評価をして結論を導くという法的三段論法、要件事実の型ではない。紛争当事者は、相互に共通する事実や認識を大切にし、対立する主張についてはなぜ相手方がそのような主張をするのか相互理解を深め、その結果、明らかになった利害に着目して、解決のために話し合う課題を探り、それに対する解決案を双方が提案し合って紛争解決を図るというものである。調停人は法的評価に基づく調停案を提示し、当事者を説得するのではなく、当事者自らが解決案を導き出せるよう援助する。この新しい紛争解決の型に出会い、紛争解決へのアプローチの幅が広がった。当時、この手法をトレーニングする教材の製作に関与したことから、これまでトレーナーとして、傾聴スキルを紹介し、実施してきた。選択修習では、修習生にもトレーニングを行った。
しかし、「自主交渉援助型調停」を知ったのも既に15年前である。法律実務家として身に付けなければならない(と今は思っている)「法的三段論法」「要件事実」との関係、双方の型を洗練させ、どのようにこれらを組み合わせていくか、統合した新たな型を創造できる可能性はないのかなどを模索する時であるように思う。
型は、日常生活での考え方にも影響を及ぼす。紛争が、そして依頼者の利益が常に変わっていくように、日々の生活もその時々により喜怒哀楽さまざまである。その中で、その時々に相応しい最良の型を探し、創造し、身に付け、壊し、更に型を探し、創造していく過程にはとどまるところがない。
型を身に付け、型を壊す。これを「型破り」というのであろう。
「奇正相生、如循環之無端、孰能窮之」(漢字を並べて検索してみてください。)