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花水木

梶原 圭梶原 圭(61期) ●Kei Kajiwara

このたび、同じ研究会に所属する先輩弁護士の方より、本稿執筆のお話をいただきました。何を書こうかと考えながら、これまでの弁護士としての業務のことを振り返りました。反省すべき点、成長しなければならない点が多く頭に浮かびましたが、せっかくの機会ですので、弁護士業務のやりがいについて書かせていただきたいと思います。
私は、これまでに数多くの案件に携わってきました。その中でも、最も思い入れが大きいのは、企業の破産や民事再生等のいわゆる倒産案件です。
これらの案件では、当該クライアント企業に所属されている従業員の方が、所属先の企業が倒産することを認識されたとき、どのように感じるかということに直面する機会があります。所属企業が倒産することを伝えると、本当に多くの従業員の方が驚かれ、動揺されます。場合によっては、経営陣の方や、経営陣から委託を受けた私たち弁護士に対して厳しい意見が出されることもありました。ただ、そのタイミングで倒産をすることが最善の方法であることや、今後の手続の進行、お給料のことなどを丁寧に説明すると、納得してもらえることが多いです。すると、各従業員の方に、その後の倒産手続にご協力いただけます。従業員の方とやり取りをしている過程で、それまで従業員の方が勤めてこられた所属企業に対しての思いなどをお聞きする機会もあります。これまで長い時間を過ごしてきたオフィスで働くことができなくなってしまうことを大変残念に思われる方が多いです。中には、最後の記念の意味を込めて、オフィスで写真を撮られる方もいました。
一方で、倒産手続に納得していただけない場合には、その後も関係性が改善できず、手続に非協力的な態度を取り続けられることもありました。
弁護士の業務は、倒産関係の案件にかかわらず、依頼者やその関係者の方に様々かつ大きな影響を及ぼす業務です。そのため、依頼者やその関係者の感情を直接的に感じることが多くあります。それゆえに大変なことも多いですが、一方で、感謝をしていただける場合の依頼者の言動には、大変勇気づけられてきました。
これは、離婚案件で慰謝料や財産分与で受けられる金額が多くなったとき、難解な交渉をまとめあげ和解が成立したとき、勝敗の予測が困難な訴訟で勝訴したとき等、どの種の案件でも感じることができるのだと思います。
仮に依頼者が望む100%の結果にならなかった場合であっても、私が依頼者に言っていただいたうれしい言葉の一つに、「先生にお願いしてよかった」というものがあります。
昨今ではAIが弁護士業務にも活用されており、それによって業務効率が改善されたり、成果物のクオリティが上がることもあるのだと思います。私が今後の業務プロセスにおいてどの程度AIを活用していくかはまだ分かりません。ただ、結果だけではなく、そのプロセスにおいても、依頼者に感謝してもらえるような弁護士でありたいと思います。それによってこれまでたくさんの勇気とやる気を依頼者にいただいたからです。