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インハウスレポート

当会会員 松永 あかり (70期) ●Akari Matsunaga

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1 はじめに

 私は、総合化学メーカーの法務特許部法務室に勤めております。様々な背景をお持ちのインハウスローヤーがいらっしゃると思いますが、企業法務経験が乏しいまま企業に就職した私の経験談がインハウスローヤーに興味をお持ちの方の参考になれば幸いです。

2 経歴・志した理由

 私は、司法修習修了後、一般民事を多く扱う法律事務所に所属し、労働事件、相続事件、離婚事件、債務整理事件など一般民事事件全般に従事しておりました。また、集団訴訟事件も受任しておりました。
 この集団訴訟事件を通じ、多様な人と協力しながら働くやりがいを感じ、また、企業法務の知見を得たいという思いもあり、インハウスローヤーへの転職を考えるようになりました。加えて、ワークライフバランスの取れた働き方をしたいと思ったことも転職を考えた一要因でした。

3 当社の概要と法務室の業務

 当社は、従業員数1万人以上、関係会社100社以上を有し、グローバルに事業展開する総合化学メーカーです。基礎的な化学素材から先端材料、分析診断機器まで様々なビジネスモデルを擁しております。
 法務室の業務としては、契約書レビュー・ドラフト、紛争対応、法律相談対応、コンプライアンス遵守活動、関係会社の法務支援、法務教育、M&A等です。メインの業務は契約書レビュー・ドラフトで、秘密保持契約、製品売買、原燃料資材購買、製造委託、賃貸借、担保など多様な契約を扱います。また、海外案件も多くありますので、英文契約や英文法の知識が必要です。

4 企業を選ぶ視点

 私は、先述したように、法律事務所において企業法務業務をほとんど経験しておりませんでした。また、恥ずかしながら、英語などの語学研鑽も怠っておりました。そのため、転職活動を始めるまでは、今更企業法務の経験を得たいと言っても受け入れてくれる企業が存在するのかとても不安でした。
 ところが、意外なことに、法律事務所における経験を必要とするものの、職務内容は不問、英語能力があれば尚良しという条件を提示している企業が多くありました。
 そこで、業界で絞ることはせず、法務部門として業務範囲が幅広いこと、ワークライフバランスが取れる企業であること、を主眼に企業を選択しました。
 インハウスローヤーに興味はあるものの、企業法務の経験値不足や語学力をウィークポイントだと感じている方も、入社後の研鑽は必要になりますが、最初から諦めることなく、一歩踏み出してみることをお勧めいたします。

5 企業で働く利点

当社施設見学をした際、「塩山」の前で ①前向きであること
 法律事務所で業務していた際は、絶えず紛争の渦中にあり、クライアントにはトラブルが生じていることが前提でした。
 しかし、企業内では日々様々なチャレンジがなされていて、私も人々の生活をより良くするためにはどうしたらよいか、ということを本気で考えながら仕事をしています。
 もちろん、全てが前向きな業務ではありませんが、法律事務所時代にはなかった、明るく未来に向かっている業務に携わることができ、気持ちも明るく過ごすことができております。
 前向きな案件に携わる機会が多いことがインハウスローヤーとして働くことの最大の利点だと感じております。
②刺激が多いこと
 当社が総合化学メーカーであることが要因の一つだと思いますが、文系出身の私は知らないことだらけです。
 事業部や研究所の方と打ち合わせをしていても、単語や基礎的な点もわからず、丁寧に教えていただいております。
 毎日新鮮な知識を得ることができ、刺激的な日々を過ごしております。
③ワークライフバランスを実現できること
 弁護士には、個人事業主として働く方が多いと思います。そうすると、労働時間管理という概念はなく、平日休日・昼夜問わずに働くことができます。それがメリットでもあるとは思うのですが、どうしてもワークライフバランスを取るのが難しくなることが多いのではないでしょうか。
 その点、インハウスローヤーは従業員として、労働法の保護を受ける立場になるため、メリハリをつけて働き、休日は必ず休日として過ごすことができています。また、やるべきことが終わっていれば定時退社可能なので、平日もプライベートな時間が十分に取れます。
 インハウスローヤーとなった後、睡眠時間が十分に取れ、運動する時間や食事を作る時間ができ、生活環境が改善されたことはいうまでもありません。

6 おわりに

 ひと昔前は、司法試験に合格した後に企業に就職するのはかなりの少数派だったと思います。しかし、現在は、インハウスローヤーの数は全国で2600人以上*1、求人の数からみてもインハウスローヤーの需要は高まっており、しっかりとした選択肢の一つになっていると思います。
 企業法務の経験や語学実績に乏しい私でもインハウスローヤーという道がありました。
 少しでも興味のある方は、可能性を狭めずインハウスローヤーとしてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
*1 日本組織内弁護士協会(JILA)、企業内弁護士数の推移、2020年