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公証役場の利活用〜日本公証人連合会会長インタビュー

従来から、公証役場は公正証書遺言、金銭消費貸借契約、賃貸借契約、任意後見契約、離婚(養育費)等における公正証書作成や確定日付、定款認証等の各種公証のために利用され、弁護士が代理人として手続に関与するケースも少なくなかったと思われますが、今回の民法改正により保証意思宣明公正証書という新たな類型が定められたほか、相続法改正、民事執行法改正に伴う制度変更によって、公正証書の作成実務も影響を受けていると考えられます。
今回は、「公証役場・公証人とは」といった基本的事項から最新の実務まで幅広く、日本公証人連合会の服部悟会長にお話を伺いました。

服部 悟 ●Hattori Satoru
日本公証人連合会 会長
〈略歴〉
昭和51年4月 東京地裁判事補(28期)
平成5年7月 最高裁総務局第一課長
平成10年4月 東京地裁判事部総括
平成20年11月 佐賀地家裁所長
平成23年2月 福岡高裁判事部総括
平成26年8月 公証人(日本橋公証役場)
平成30年5月 日公連理事長
令和元年4月 東京公証人会会長
令和2年5月 日公連会長

1 公証役場及び公証人について

1 公証人の仕事の特徴は、どのようなところにありますか。

公証人は、法務大臣から任命された法律の専門家として、中立・公正な立場において、国の公務である公証事務を担い、国民の権利保護と私的紛争の予防の実現を使命としています。裁判所が事後救済という役割を担っているのに対し、公証人は、事前に紛争を予防するという予防司法の役割を担っている点が特徴的です。

2 日本の公証制度は、いつ頃から始まったものなのですか。

明治19年法律第2号「公証規則」の制定により、公証制度が始まって以来、長年にわたり、公証人が公証事務を担ってまいりました。
公証制度は、国によって異なり、大きく分けて、公正証書の作成はせず、私文書の認証及び宣誓認証のみを取り扱うアメリカ型のNotary Publicと、これらに加えて公正証書作成も権限に含まれるドイツ、フランス、イタリア、スペイン等のラテン法系諸国のNotaryがあり、日本は、広汎な権限を有する後者の制度を範として、制度設計がされています。

3 公証人が業務を行う公証役場は、どのように運営され、全国のどのようなところにありますか。

公証人は、国の公務である公証事務を担う公証人法上の公務員ですが、国から給与や補助金等の金銭的給付を一切受けず、国が定めた手数料収入によって事務を運営しており、手数料制の公務員ともいわれています。
公証人は、全国に約500名おり、公証人が執務する事務所である公証役場は、全国に約300か所あります。全国(東京都内各地を含む。)の公証人及び公証人会で組織された団体である日本公証人連合会のホームページに、各公証役場の所在地、電話番号、FAX番号、メールアドレス等(https://www.koshonin.gr.jp/list/)が記載された「公証役場一覧」が掲載され、ワンクリックで、各公証役場のホームページに飛べるようになっていますので、是非御活用ください( 図表1 )。

4 公証役場では、様々な業務を扱われていますが、具体的には、どのような種類の業務がありますか。

公証業務は、①公正証書の作成、②私署証書の認証(宣誓認証を含む。)、③定款認証、④確定日付の付与等からなります。
公正証書は、公正な第三者である公証人が、その権限に基づいて作成した法律行為(契約及び遺言、保証意思宣明等の単独行為)や事実確認(尊厳死宣言及び事実実験)に関する文書ですから、当事者の意思に基づいて作成されたものであるという強い推定が働き、これを争う相手方が虚偽であるとの反証をしない限り、この推定は破れません。さらに、金銭債務の支払に関する公正証書は、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(強制執行認諾文言)が記載されている場合には、執行力(債務不履行のときは、裁判所に訴えることなく直ちに強制執行をすることができる効力)を有します。また、事業用定期借地権設定契約、任意後見契約等については、公正証書で作成しなければ効力が生じないことは、弁護士の皆様が御承知のとおりです。

公証実務の概要や基本的事項のQ&Aについては、日本公証人連合会のホームページの「公証事務」(https://www.koshonin.gr.jp/business)において、「遺言」、「任意後見契約」、「金銭消費貸借」、「保証意思宣明公正証書」、「土地建物賃貸借」、「離婚」、「事実実験公正証書」等の各類型ごとに掲載していますので、御覧ください。
また、一般の利用者向けに、公証人の仕事を分かりやすく説明した広報ビデオを作成しています。日本公証人連合会のホームページのトップページに掲載された「公証人ってなんだろう?」の箇所をクリックすると、これを御覧いただくことができますので、依頼者にも御紹介ください。

5 現在は、どのような業務が多いのでしょうか。

全体としての件数という観点でいいますと、四つの業務のうち、公正証書の作成、私署証書の認証及び定款認証が多く、確定日付の付与は少ないです。
公正証書の中では、遺言や任意後見契約が増加傾向にあり、金銭消費貸借は、減少傾向のようです。どのような種類の公正証書が多いのかについては、各公証役場により異なるので、一概にはいえません( 図表2 )。

6 近時の民法(債権法)の改正や民事執行法の改正の影響は、利用状況に現れていますでしょうか。最近、増加しているもの、逆に、減少傾向にあるものは、ありますでしょうか。

保証意思宣明公正証書という制度が新設されたので、当然、その分の件数は、増加していると思います。その他の法改正によって、利用状況に差が生じているか否かは、まだ改正からそれほどの時間が経過しておらず、調査していないので、分かりません。金銭消費貸借が減少傾向にあることくらいで、他については定かではありません。

7 公証人から御覧になって、もっと活用されるべきではないかと思われるものは、ありますでしょうか。

各公証人によって、考えるところは違うと思いますが、公正証書に関していえば、例えば、①遺言、②任意後見契約、③家族の信託契約、④死後事務委任契約、⑤尊厳死宣言等の超高齢化社会で特に求められる行為については、公正証書作成の依頼を受けることが多くなりました。しかし、高齢者の人口(令和2年9月21日付け朝日新聞の記事によれば、令和2年9月15日現在3617万人)を考えれば、まだまだ少ないと思います。
(ア)公正証書遺言を例に取りますと、近年は、全国で年間11万件程度です。①公証人による遺言内容や遺言能力の法律的なチェックにより、有効性が確保されていること、②公証人及び証人による高度な証明力が保持されていること、③厳重な保管により、廃棄や偽造の防止ができること、④迅速な遺言執行が可能であることなど、公正証書遺言の様々なメリットを考えれば、公正証書遺言は、もっと活用されるべきものと思っています。
(イ)また、任意後見契約や遺言では実現が困難な事業承継、資産運用等を可能にする民事信託契約や、将来、意思表示が不可能になったときに備えて、治療に関する自己決定権を確保し、親族や医療関係者に対する免責を明確にする尊厳死宣言、死後の葬儀や公務所への諸届出等の後始末を委任する死後事務委任契約等の公正証書も、活用の余地はまだまだあると考えています。
(ウ)その他、離婚給付等契約公正証書、様々な金銭債務に関する債務弁済契約公正証書等のように、執行認諾文言を付し、執行力を付与することによって、裁判手続を経ることなく、迅速に金銭の支払を確保することができる執行証書は、有効な物的担保を確保できない債権者にとっては、非常に強力かつ有効なものですので、もっと活用されてしかるべきであると思います。
(エ)さらに、裁判になったときに備えて、証拠保全の意味を有する知的財産権の先使用の証拠保全等の様々な類型の事実実験公正証書も、将来の法的紛争の発生や裁判を見据えて業務を行っておられる弁護士の皆様方にとって、活用の余地は大きいと思います。
(オ)公正証書以外に目を転ずると、宣誓認証は、外国での裁判等において、単なる供述書ではなく、宣誓供述書(公証人が過料の制裁を告知した上で、供述者が、内容について真実である旨を宣誓し、公証人の面前で署名する供述書)の提出を求められる際に、よく利用されます。今後、外国での裁判等における宣誓供述書の提出の場面はますます増加し、宣誓認証の必要性が増大するのではないかと思われます。そのような場合には、是非最寄りの公証役場の公証人に御相談ください。
(カ)これら以外に、電子確定日付の付与も、知的財産権の先使用に関する証拠書類の存在の日付を証拠化する場合はもとより、長期ローン契約の契約書や各種電子契約書の日付の証拠化等のためにも、御活用ください。後にお話ししますが、令和2年8月から、電子確定日付センターとして、全国6か所の公証役場を指定し、優先的かつ迅速に大量の電子確定日付を付することができるシステムを構築し、利便性を向上させました。日本公証人連合会のホームページで確認の上、御利用いただければ幸いです(https://www.koshonin.gr.jp/center/)。

8 コロナ禍で、公証役場の業務に影響はありましたでしょうか。現在、公証業務において、以前と変化したことはありますでしょうか。

日本公証人連合会では、新型コロナウイルス感染症対策のため、「新型コロナウイルス感染防止対策ガイドライン」(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20200529-2.html)を制定し、同感染症を防止しながら、公証業務の継続に努力してまいりました。
お陰様で、令和2年11月末日現在において、公証人や書記の感染者は、一人も出ていません。今後とも引き続き、感染防止対策に十分に配慮しながら、業務を継続していきたいと思っています。
この新型コロナ感染症の影響については、調査したわけではありませんが、経験から推測して、次のような影響があったものと思われます。

遺言等を始めとする公正証書の作成等の公証業務の一時的減少

高齢者の外出の回避、老人ホーム等の高齢者入所施設の面会禁止、企業の営業活動の縮小、輸出入業務の縮小や中断等、公証役場側の勤務態勢の縮小等により、一時的に、遺言、任意後見、債務弁済等を始めとする公正証書の作成業務が減少し、また、定款認証、委任状等の私署証書の認証等の業務も減少しました。

新型コロナウイルス感染症を契機とした公正証書の作成需要の発生

数値的には不明ですが、ある程度、新型コロナウイルス感染症の増加が停滞した時期には、逆に、コロナ禍の経験を契機として、例えば、「持病があるから、コロナに感染して重症化しないうちに、早めに遺言を作成しておきたい」、「コロナで、身内に面会もできなくなったら嫌だから、元気な今のうちに遺言を作成しておきたい」といった動機に基づく遺言公正証書の作成依頼が次第に目立つようになりました。また、コロナ禍で夫婦間の衝突が増えたせいか否かは不明ですが、離婚給付等契約公正証書の作成依頼も、従前より増えてきたような気がします。また、景気が悪化したため、債務弁済契約等の執行証書の作成や執行文付与等の依頼も、従前にも増して多くなってきたような印象を受けます。

9 公証人の取扱業務は、その執務を行う公証役場によって、違いがあるものなのでしょうか。また、公証人の公証業務には、管轄はあるのでしょうか。

公証人は、法務大臣が指定する法務局又は地方法務局に所属し(公証人法第10条)、原則として、所属法務局の管轄区域内の法務大臣が指定した地に設置した公証役場において執務を行うことになっています(同法第17条、第18条)。一定の場合には、公証役場以外の場所で執務を行うことはできますが(同法第18条第2項、第57条)、自己が所属する法務局又は地方法務局の管轄外で職務を行うことはできません(同法第17条)。つまり、東京法務局所属の公証人は、県境をまたいで、神奈川県、埼玉県又は千葉県まで出張して、遺言等の公正証書を作成することはできないのです。
現在、全国に約500名の公証人がおり、所属する全国各地の法務局の管轄内に設置された約300の公証役場で執務しています(東京都内では、約110名の公証人が、45の公証役場で執務)。
他方、公証人が行う公証業務(①公正証書の作成、②私署証書の認証、③定款認証、④確定日付の付与等)は、いずれも公証人法等の法令で定められています。
このように、公証人が行う公証業務については、全国どこの公証役場でも、等しくこれを受けることができるようになっており、基本的には、公証役場によって取扱業務に違いはありません。

10 取扱業務が同一であることについて、例外はないのですか。

(ア)取扱業務について、一つ例外があります。外国向け私署証書の認証については、東京都内、神奈川県内及び大阪府内の公証役場においては、特例的措置として、ハーグ条約締約国向けの私署証書の認証事務について甲様式の認証用紙(アポスティーユ付き)を、同条約非締約国向けの私署証書の認証事務について乙様式の認証用紙を使用したワンストップサービスの認証手続を行っています。令和3年1月からは、静岡県内及び愛知県内の公証役場においても、同様の取扱いが開始される予定です。この外国向け私署証書の認証手続については、後で詳しく御説明します。
(イ)また、全国どこからでも、どこの公証役場の公証人に対しても、求めることができる手続もあります。それは、電子確定日付の付与手続です。
日本公証人連合会では、令和2年8月3日から、新たに電子確定日付センターを開設しました。これは、企業や個人が一度に多数の電子確定日付の付与を必要とする場合に、全国どこからでも、指定に係る6公証役場のいずれかに登記・供託オンライン申請システムを利用してオンライン申請をしていただくことによって、これを迅速かつ集中的に処理することができるようにしたものです。
電子確定日付の付与には、特に管轄はなく、全国どこの公証役場の公証人でも付与することができる利点を生かし、業務量的に迅速な対応が可能な地方の公証役場を選定した上、これを電子確定日付センターとして、それらの拠点で大量の電子確定日付付与の嘱託を集中的に処理することによって、迅速な公証サービスの提供と、利用者の利便の向上を図ろうとするためのものです。
日本公証人連合会のホームページにおいて紹介している電子確定日付センターとなる6公証役場は、①武生公証役場(福井県)、②宇和島公証役場(愛媛県)、③古川公証役場(宮城県)、④笠岡公証役場(岡山県)、⑤苫小牧公証役場(北海道)及び⑥大牟田公証役場(福岡県)です。是非御活用いただきたいと思います(https://www.koshonin.gr.jp/center/)。

11 公証人は、どのようなキャリアを経てなられるのでしょうか。

公証人は、国の公務である公証事務を担う公務員です。しかも、公証人が担う公証事務は、国民の権利義務に関係し、私的紛争の予防の実現を目指すものであり、公証人が作成する文書には、強制執行が可能である公正証書も含まれます。そのため、公証人は、単に高度な法的知識と豊富な法律実務経験を有することが必要であるばかりでなく、公務員として、党派性がなく、中立・公正でなければなりません。その意味で、一方の当事者から依頼を受けて、依頼者の代理人等として依頼者の公正な利益のために活動する弁護士等の士業者の方々とは、職責を異にしている面があります。
このような理由から、公証人は、原則として、裁判官や検察官を長く務めた者、又は弁護士の資格を有する者など、法務実務の経験豊かな者で、公募に応じたものの中から、法務大臣が任命することになっています(公証人法第13条)。なお、現在は、多年法務事務に携わり、法曹有資格者に準ずる学識経験を有する者で、かつ、検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経て公募に応じたものについても、法務大臣が公証人に任命しています(公証人法第13条の2)。

12 公証人は、任命前のキャリアその他によって、それぞれ得意分野や専門分野はあるのでしょうか。

各公証人は、公証人になる前の職歴や担当職務により、それぞれ得意分野や専門分野を有しています。そして、公証人になる前のキャリアや経験が、公証業務を行う上で役に立つことはあると思います。
しかしながら、公証人法等で定められた公証人の公証業務は、基本的に裁判官、検察官、弁護士等の職務とは異なりますから、公証人になる前のキャリアや得意・専門分野が、直ちに当該公証人の公証業務上の得意・専門分野に直結することはないと思われます。
むしろ、各公証人は、任命される前のキャリアに関係なく、各公証業務を適正迅速に行うことができるように、それぞれ真摯に努力し、各種研修会や各種資料を通じて知識の修得に努め、自己研鑽を積んでいます。

13 任命前のキャリアに関係なく各公証業務に精通するために、どのような工夫をされていますか。

日本公証人連合会においても、全国の公証人が、公証人になる前のキャリアや経験に関わりなく、等しく適正な公証業務を行えるように、種々の体制整備を行っています。
例えば、公証人に就任して間がない者全員に対し、義務的なものとして、新任公証人研修を実施しています。また、公証実務を行う上で必要かつ有益な種々の情報や資料(日公連速報、東京公証人会会報、各種の証書の作成と文例、各種の認証実務Q&A等)を各公証人に提供しているほか、関係法の制定改正に関する内容その他公証業務に資するテーマについて、全国の公証人に対し、専門研修会、実務研修会等を実施しています。同様の研修会や勉強会は、各単位公証人会やブロック公証人会等でも行っています。さらに、公証人が日常業務を行う中で生じた疑問点や問題点について、ベテラン公証人に相談できる体制を整えるとともに、電子情報管理システムにより、各種情報を収集できるようにしています。

2 相談に当たって

1 公正証書作成等の依頼に当たって相談する場合、具体的に公証人を指名させていただくことは、問題ないでしょうか。

公証人を指定した上で、公正証書の作成を嘱託することは可能です。ただし、御指名をいただいても対応できない場合がありますので、御留意ください。
まず、公証人には職務執行が可能な管轄というものがあります。私は、東京法務局所属の公証人ですので、東京法務局の管轄外で職務を行うことはできません。前に申し上げたとおり、県境をまたいで、神奈川県、埼玉県又は千葉県まで出張して、遺言等の公正証書を作成することはできません。他方、当事者が公証役場に来ていただけるのであれば、全国どこにお住まいの当事者でも、全ての公証役場において、公正証書を作成することができます。
また、公正証書作成以外の事項ですが、執行文の付与、公正証書の正本又は謄本の作成は、当該公正証書を作成した公証人又はその後任者の権限とされています。さらに、例えば、株式会社、一般社団法人及び一般財団法人の定款の認証に関する事務は、当該法人の本店又は主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局所属の公証人のみが取り扱うことができ、それ以外の公証人は、これを取り扱うことができません。
したがって、これらについては、御指名をいただいても、処理できないことになります。

2 相談に当たり、弁護士が本人を同行する必要はありますか。

本人の同行をお願いするということは、弁護士の先生方からの嘱託の場合、ほとんどありません。むしろ、現在、コロナウイルス感染症対策として、人との接触を極力避けることが重要であるとされています。
各公証役場では、電話やメールでの相談も受け付けています。日本公証人連合会や各公証役場のホームページには、電話番号やメールアドレスを掲載しておりますので、これを御活用いただけると幸いです。

3 相談の際、弁護士として、最低限、準備すべきことは何でしょうか。まず、当事者の特定資料としては、何が必要ですか。弁護士が代理人になる場合は、どうですか。

出頭した当事者が他人名義を使って金銭借入れの公正証書を作成しますと、名義を使われた借受人は、公正証書上、金を借り受けたこととなり、場合によっては、強制執行を受けるなど、重大な事態となりかねません。これを避けるため、公正証書の作成当日には、出頭した当事者が本人であるかどうかについて、次のような書類等を御持参いただき、厳重な身分確認を行っています。
(ア)個人の場合には、①印鑑登録証明書及び実印、②官公署発行の顔写真付き身分証明書(例えば、運転免許証、運転経歴証明書、パスポート、住民基本台帳カード、個人番号カード(マイナンバーカード)、在留カード、身体障害者手帳等)及び認め印のいずれかの組合せを御持参いただいています。
(イ)法人の場合には、法人の登記簿謄本(現在事項全部証明書、履歴事項全部証明書又は代表者事項証明書)、代表者の印鑑証明書及び代表者印を御持参いただいています。(ウ)個人から委任を受けた代理人による場合には、委任状、委任者の印鑑登録証明書及び代理人の官公署発行の顔写真付き身分証明書が必要であり、法人から委任を受けた代理人による場合には、委任状、委任法人の登記簿謄本、代表者の印鑑証明書及び代理人の官公署発行の顔写真付き身分証明書が必要です。
(エ)公正証書の委任状には、公正証書の対象となる契約内容を記載した書面を添付することが必要です。そして、委任状には、委任者の実印を押印し、余白に実印で捨て印を押捺した上、添付した契約内容の書面との間及び当該書面の各頁間に実印で契印(割り印)をして、委任状は完成となります。
(オ)個人の印鑑登録証明書、法人の代表者の印鑑証明書及び法人の登記簿謄本は、公正証書作成日から遡って3か月以内のものであることが必要です。

4 公正証書の内容に関する資料としては、何が必要ですか。

公正証書遺言の作成を依頼される場合には、最低限、次の資料が必要ですので、これらを準備しておくと、打合せがスムーズに進行すると思います。
なお、事案に応じて、他にも資料が必要となる場合もありますので、詳細は、依頼される公証人にお尋ねください。

まず、遺言の場合には、どのような資料が必要でしょうか。

遺言公正証書を作成する場合には、遺言内容のメモのほか、①遺言者本人の本人確認資料(原則として、印鑑登録証明書)、②遺言者と相続人との続き柄が分かる戸籍謄本(戸籍事項全部証明書)、③財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票写し(法人の場合には登記簿謄本)、④財産の中に不動産がある場合には、その登記簿謄本(登記事項証明書)及び固定資産評価証明書(又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書)、⑤証人予定者のお名前、住所、生年月日及び職業をメモしたもの、⑥遺言執行者の特定資料を御用意ください。

次に、任意後見契約の場合には、どのような資料が必要でしょうか。

任意後見契約公正証書を作成する場合には、本人確認資料として、委任者については、①印鑑登録証明書(又は官公署発行の顔写真付き身分証明書)、②戸籍謄本、③住民票写しが必要であり、受任者については、④印鑑登録証明書(又は官公署発行の顔写真付き身分証明書)、⑤住民票写しが必要です。

また、離婚給付等契約の場合には、どのような資料が必要でしょうか。

離婚給付等契約公正証書を作成する場合には、本人確認資料(印鑑登録証明書又は官公署発行の顔写真付き身分証明書)のほか、①戸籍謄本、②不動産がある場合には、その登記簿謄本及び固定資産評価証明書(又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書)、③年金分割がある場合には、基礎年金番号が分かる資料(年金手帳、年金分割のための情報通知書等)が必要となります。

5 弁護士が公正証書を作成するに当たって、留意すべき点は何でしょうか。弁護士が担当することの多い離婚給付等契約で、よく遭遇する事項等を例にして、御説明いただけますでしょうか。

まず、当事者の住所の秘匿というのは、できるものでしょうか。

住所等の秘匿の可否がよく問題になります。一方の嘱託人から、相手方に自分の住所を知られたくないので、住所を秘匿したいとの希望が述べられることがあります。
家事関係で、DV等の行為が背景にある事件では、申立人本人の保護のため、住所を秘匿した形式での申立てを認めており、公正証書の作成手続においても、同様の事情がある場合には、住所を秘匿する合理性があると考えられます。
もっとも、その場合、実際の住所と異なる住所を記載した公正証書で強制執行が可能かという問題があります。執行手続上は、現住所に代えて、住民票の住所、本籍又は代理人弁護士の事務所所在地を記載する方法でも、問題はないとされているようです。

離婚届提出の合意まで必要ですか。

多数の意見は、協議離婚の合意と離婚届提出の合意が必要であり、公正証書を作成する場合、この両者の記載が必要であるとされています。そして、離婚届提出の時期については、時期を問わないというわけではなく、数か月先という限界があるとされています。御注意ください。

執行文との関係で留意しておく点はありますか。

離婚に伴う養育費、慰謝料及び財産分与の各給付請求権は、離婚の効力が発生したときに生じるとされています。この場合、執行文は、事実到来執行文となります。これを単純執行文とするためには、「離婚届の受理の有無にかかわらず」という文言を入れておくのが適当です。

養育費の記載について留意すべき点はありますか。

(ア)養育費は、子が複数の場合には、合計した金額等を記載するのではなく、各人について金額等を記載する必要があります。これは、万が一、子の一人が死亡したときに、養育費の支払がどのようになるのかについて、疑義が生じないようにするためです。
(イ)養育費の始期と終期は、必ず記載しなければなりません。終期について、「大学を卒業する月まで」と記載すると、中途退学した場合などに疑義が生じますので、「大学を中退し、又は卒業する月まで」と記載したり、「満22歳に達した後に最初に到来する3月まで(ただし、その時点で大学就学中のときは、大学を卒業する月まで)」と記載したりします。なお、「子が大学を卒業するまで」と記載すると、終期が日割り計算となるので、「大学を卒業する月まで」という記載の仕方をします。

民事執行法との関係で留意すべき点がありますか。

養育費については、民事執行法上、特例があり、その一部に不履行があるときは、確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができ、また、差押え可能な債権の範囲が2分の1に拡大されています。さらに、財産開示手続は、令和2年4月1日に改正民事執行法が施行され、開示義務者(債務者等)の手続違反に対する罰則が強化されるとともに、申立てが可能となる債務名義の範囲も拡大され、公正証書に基づいて申し立てることも可能となりました。

慰謝料についてはどうですか。

消滅時効の点は、改正民法との関係があるので、注意してください。
消滅時効の起算点については、①離婚による慰謝料は、離婚届の受理時が始期となり、②離婚の原因となった婚姻関係破綻による慰謝料は、婚姻関係が破綻した時が始期となり、③離婚の原因となった個々の不法行為(不貞行為、暴力行為等)による慰謝料は、当該個々の行為を行った時が始期となります。
時効期間は、これまで3年(短期)と20年(長期)であったものが、人の生命又は身体を害する不法行為(身体に傷害を負わせた場合や、うつ病を発症させた場合など)による慰謝料については、短期が5年となりました。

財産分与の対象となる不動産に住宅ローンが付されている場合はどうですか。

(ア)ローン債権者である銀行は、自宅の名義変更をローン債務の期限の利益喪失事由とする約款を定めているのが通常です。その約款がある場合、自宅を財産分与で妻に譲渡して所有権移転登記をし、かつ、ローン残額の一括返済を避けるためには、事前に銀行の承諾を得る必要があります。しかし、妻に資力があるというようなごく例外的な場合を除けば、銀行は承諾しないことが多いようです。
(イ)登記名義の変更がないと、夫が第三者に不動産を譲渡して登記名義を変更すると、妻は、譲受人に対抗できないことになります。このような場合の対策としては、夫から妻への所有権移転登記は、債務完済後にすることとし、離婚時には、夫から妻への所有権移転請求権保全の仮登記を付けておくことが考えられます。以上は、一つの例にすぎませんが、住宅ローン付き不動産の財産分与については、いろいろと困難な問題が生じるおそれがあるので、公証人と相談するのがよいと思われます。
以上、縷々御説明申し上げましたが、お気軽に、公証人に御相談いただくのがよろしいと思います。

3 各論

1 民法(債権法)改正に伴う注意点

民法(債権法)改正によって、公正証書の条項において、変更が必要な箇所があれば、教えていただけますでしょうか。

公正証書の作成等の公証事務が影響を受ける今回の債権法改正の主な点は、保証人の保護の観点から新設された①個人根保証契約の規定(民法第465条の2から同条の5まで)と、②保証意思宣明公正証書と呼ばれる民法第465条の6第1項及び第465条の8第1項の公正証書の規定です。
(ア)まず、個人根保証契約の新設ですが、貸金等債務の根保証については、既に平成16年の民法改正により、①極度額を定めること、②元本確定期日を原則3年、最長5年とすること、③破産、死亡等の事情が発生すれば、元本が確定することなどが定められました。
今回の債権法改正により、貸金等債務以外の根保証についても規定が設けられました。具体的には、賃貸借契約に関する保証人や継続的売買取引契約に関する保証人等についても、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」として、元本確定期日に関する規定は設けられなかったものの、極度額の定めが必要とされることになりました。
したがって、賃貸借の保証人等の個人根保証契約を内容とする公正証書を作成する場合には、極度額の定めをしなければならず、この定めを忘れると、その根保証契約は、基本的に無効とされますので、この点に注意が必要です。
(イ)また、保証意思宣明公正証書は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約等について、その契約締結日前1か月以内にこれを作成することが必要とされました。
保証制度が、特に中小企業向けの融資において、重要な役割を果たしている一方、個人的な情義等から安易に保証人になり、想定外の多額の保証債務の履行を求められて生活の破綻に追い込まれるケースも相当数存在するといわれています。そこで、そのような事態を抑止するため、公証人が、保証人になろうとする保証予定者について、主債務の具体的内容を認識していることや、保証契約を締結すると、保証債務を負担し、主債務が履行されなければ、自らが保証債務を履行しなければならなくなることを理解しているかどうかを確認することによって、保証契約のリスクを十分に理解した上で、相当な考慮をして保証契約を締結しようとしているか否かを見極めることを目的として、この制度が設けられることになりました。
どのような場合に保証意思宣明公正証書を作らなければならないかについては、「事業のために負担した貸金等債務」の要件解釈によることになります。典型例としては、製造業を営む事業主が工場を建設する費用や原材料を購入する費用等の資金として借り入れた貸金債務がこれに当たりますが、個人のいわゆるアパートローン等もこれに該当すると考えられています。
保証意思宣明公正証書作成の要否の判断が困難な事例も想定されますが、公証人は、保証予定者が保証意思宣明公正証書の作成を求めた場合には、仮に、保証意思宣明公正証書を作成しなくても、当該保証契約が有効に成立し得ると判断したときであっても、その作成を拒絶すべきでないと考えられていますので、念のために保証意思宣明公正証書を作成しておくというのも一方策かもしれません。

2 保証意思宣明

民法(債権法)改正で新設された保証意思宣明公正証書の利用状況を教えていただけますでしょうか。公証人から御覧になって、どのようなメリットがあると感じられますでしょうか。現在の運用上、課題となっている点はありますでしょうか。

(ア)令和2年3月1日の施行から間がないため、保証意思宣明公正証書の利用状況の全体像を把握できるまでには至っていません。
(イ)個別的な利用状況を見ると、いわゆるアパートローンや個人事業主による事業資金の新たな借入れに伴って、保証契約が締結される事例もありますが、従前から保証していた主債務について借換えの時期が到来したことにより、新たな金銭消費貸借契約を締結することに伴って、保証契約を締結する事例も比較的多いように思われます。
(ウ)実際に、保証意思宣明公正証書を作成してみると、従前から保証人となっていて、今回、主債務の借換えに伴って、保証契約を締結しようとしている保証予定者であっても、今回の保証意思宣明公正証書の作成に当たって、保証債務の内容の詳細を理解した旨述べる保証予定者もおり、保証予定者に熟慮を促す点で、メリットのある制度であると思われます。また、保証予定者にもよりますが、主債務者の財産状況等については、比較的よく把握されているように思われます。主債務者による保証人への情報提供義務が果たされている結果かもしれません。
(エ)運用上の課題や問題点については、まだ、始まったばかりの制度ですので、これから明らかになっていくものと思われます。

3 自筆証書遺言書の保管制度と公正証書遺言

民法(相続法)改正に伴う自筆証書遺言書の保管制度の新設により、公正証書遺言が減ったということはないでしょうか。改正相続法の下において、公正証書遺言を作成するメリットとしては、どのようなものがありますか。

(ア)御承知のとおり、令和2年7月10日から、法務局における自筆証書遺言書の保管制度が始まりました。これにより、公正証書遺言の利用状況に変化が生じているかということについては、まだ上記制度が始まって間がなく、また、令和2年は、新型コロナウイルス感染症の影響もあるので、数値的には定かではないというのが正直なところです。ただ、これまでの印象では、自筆証書遺言書の保管制度の開始は、遺言書の作成に関する国民全体の関心を高めることはあっても、それ自体により、公正証書遺言の利用が減少に転じたというような影響は、特に生じていないのではないかと思っています。
(イ)公正証書遺言は、公証人による遺言内容や遺言能力の法律的なチェックをもって有効性が確保され、証人及び公証人による高度な証明力も保持されるなどの利点がありす。このことは、自筆証書遺言書の保管制度を利用した場合にはないメリットといえると思います。
(ウ)また、公正証書遺言は、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合と同様に、家庭裁判所での検認の手続が不要であることはもとより、公証役場における厳重な保管により、廃棄や偽造の防止ができます。その上、日本公証人連合会では、公正証書遺言を電子データにして、二重に保存するというシステムを構築しており、全国の公証役場から、公正証書遺言の有無に関する検索をすることも可能です。
(エ)さらに、公正証書遺言では、遺言者が病気等により自分で署名することが困難な場合には、公証人が遺言者の署名を代署することが法律で認められている上、遺言者が高齢や病気等のため、公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が、遺言者の自宅や病院等に出張して、公正証書遺言を作成することもできます。
(オ)以上のとおり、公正証書遺言は、自筆証書遺言書の保管制度の開始後においても、なおメリットが多く、安全確実な方法であるといってよいと思います。遺言者にとっては、費用が掛かるという点はありますが、その費用も、公証人に相談して具体的な金額を尋ねていただければ、案に相違して、それほど高額ではなかったということも少なくないのではないかと思います。費用に関しては、日本公証人連合会のホームページでも説明していますので、そちらを参考にしてください。

4 外国向け私署証書の認証関係

外国向け私署証書の認証を受けるに当たって、公証役場に私署証書の翻訳までお願いすることはできるのでしょうか。

認証対象の私署証書(作成者の署名、署名押印又は記名押印のある私文書)について、公証役場では、当該言語から他の言語に翻訳することはできません。これは、公証人にはそもそも、翻訳文作成に関する職務権限が与えられていないからです。
外国向け私署証書の認証とは、外国において使用される私署証書(対象文書は、日本語でも外国語でも構いません。)に対する認証のことであり、公証人の認証は、作成名義人の署名等の真正を認証することによって、作成名義人本人がその私署証書を作成したことが推定されるというものです(公文書については、後記のとおり、認証の対象にはなりません。)。
したがって、嘱託人が公証人に認証を求める私署証書(宣言書、契約書、委任状等)の翻訳は、嘱託人の方で作成する必要があります。公証役場によっては、ホームページに英文の宣言書等のサンプルを掲載しているので、参考にしてください。
なお、公証人による認証文(日本語)については、多くの公証役場において、サービスとして、認証文の英訳を作成し、公証人がそれにサインをして認証文に添付するという扱いをしていると思います。

嘱託人は、外国文の私署証書の認証を受けるに当たって、日本語の訳文を用意しなければなりませんか。

公証人は、違法又は無効な内容の私署証書には認証を与えることができないので(公証人法第第60条、第26条)、私署証書が外国文で、公証人が文書の内容を理解することができない場合には、文書の内容や宛先等を口頭で説明してもらうことになります。
公証人がいろいろな事情を勘案した結果、日本語の訳文の提出を求めることもあります。その場合、全文の翻訳を求められることもあれば、主要部分の翻訳のみを求められることもあり、事案によって異なります。会社内の決裁の際の参考資料として日本語の訳文を作成している場合には、それを御持参いただくと、好都合です。

外国の官公庁や会社から、公証人の認証のある会社の登記事項証明書や個人の戸籍事項証明書の提出を求められた場合には、どうしたらよいですか。

会社の登記事項証明書や個人の戸籍事項証明書は、公的機関が作成した公文書ですから、公証人は、それ自体を直接認証することはできません。公文書は、発行した公的機関自身が認証すべきものであるからです。

では、どうしたらよいのでしょうか。

(ア)提出先が公文書自体に対する直接の証明を求めている場合には、外務省において、公印確認(その後に日本にある提出先国の大使館又は領事館での領事による認証を必要とするとき)又はアポスティーユ(Apostille)(その後に日本にある提出先国の大使館又は領事館での領事による認証を必要としないとき)を取得することになります。しかし、提出先の国又は地域によっては、外務省で公印確認等を取得できないことがあるので、その点も含めて、外務省に問い合わせて、その指示に従ってください。
(イ)これに対し、提出先が、私署証書である宣言書(Declaration)に公文書を添付した上で、公証人による私署証書の認証を受けることで差し支えないとしている場合には、嘱託人が、例えば、次のような内容を記載した日本語又は英語等の宣言書を作成し、この宣言書に当該公文書又はその写しを添付した上、この宣言書に署名等をすることによって、この宣言書を公証人に認証してもらうことができます。この宣言書自体は、公文書ではなく、私人が作成した私文書(私署証書)であり、公証人が認証することができるのです。
なお、官公庁が謄本証明を出さないもの(例えば、パスポート等)については、上記宣言書方式により、公証役場で認証を受ける方法しかありません。他方、台北駐日経済文化代表処では、現在、自らが公文書の原本の公印証明を行うということで、公文書の原本を添付した上記宣言書方式を認めていないため、台湾に公文書を提出する場合に、上記宣言書方式で行うときは、宣言書に公文書の原本ではなく、公文書の写しを添付する必要があるので、御注意ください。

個人の宣言書の例
① 私は、添付の書面が、東京都○○区から発行された私の戸籍事項全部証明書の原本(又は写し)に相違ないことを宣言します。
② 私は、添付の書面が、東京都公安委員会から発行された私の運転免許証の写しに相違ないことを宣言します。
③ 私は、添付の書面が、外務省から発行された私のパスポートの写しに相違ないことを宣言します。

会社の宣言書の例
① 私(株式会社○○○○の代表取締役社長)は、添付の書面が、東京法務局から発行された当社の現在事項全部証明書の原本(又は写し)に相違ないことを宣言します。
② 私(株式会社○○○○の代表取締役社長)は、添付の書面が、厚生労働省から発行された当社の医薬品製造販売承認書の写しに相違ないことを宣言します。

(ウ)提出先が、公文書を英語等に翻訳した文書も併せて提出することを求めている場合には、翻訳した文書が私文書であるので、外務省では取り扱うことができず、公証役場で認証を受ける方法しかありません。この場合には、嘱託人が、例えば、次のような内容を記載した日本語又は英語等の宣言書を作成し、この宣言書に当該公文書又はその写しを添付した上、この宣言書に署名等をすることによって、この宣言書を公証人に認証してもらうことになります。

個人の宣言書の例
① 私は、添付の書面が、東京都○○区から発行された私の戸籍事項全部証明書の原本(又は写し)に相違ないことを宣言します。また、私は、日本語と英語の両方に精通しており、添付の書面が、上記の戸籍事項全部証明書を正確に英語に翻訳したものに相違ないことを宣言します。
② 私は、添付の書面が、東京都公安委員会から発行された私の運転免許証の写しに相違ないことを宣言します。また、私は、日本語と英語の両方に精通しており、添付の書面が、上記の運転免許証を正確に英語に翻訳したものに相違ないことを宣言します。

会社の宣言書の例
① 私(株式会社○○○○の代表取締役社長)は、添付の書面が、東京法務局から発行された当社の現在事項全部証明書の原本(又は写し)に相違ないことを宣言します。また、私は、日本語と英語の両方に精通しており、添付の書面が、上記の現在事項全部証明書を正確に英語に翻訳したものに相違ないことを宣言します。
② 私(株式会社○○○○の代表取締役社長)は、添付の書面が、厚生労働省から発行された当社の医薬品製造販売承認書の写しに相違ないことを宣言します。また、私は、日本語と英語の両方に精通しており、添付の書面が、上記の医薬品製造販売承認書を正確に英語に翻訳したものに相違ないことを宣言します。

謄本認証について、教えてください。

謄本認証とは、嘱託人が提出した私署証書の謄本について、公証人が、その原本と対照した結果、これと符合すると判断した場合に、当該謄本が原本に符合する旨を認証するものです。公文書については、公証人は、謄本認証を行うことができないので、御留意ください。

宣誓認証について、教えてください。

(ア)宣誓認証とは、公証人が私署証書を認証する場合において、嘱託人が、公証人の面前で当該私署証書の記載が真実であることを宣誓した上、これに署名若しくは押印し、又は当該私署証書の署名又は押印を自認したときは、公証人がその旨を記載して認証するというものです。すなわち、公証人が、私署証書について、真正に作成されたものであることを認証するとともに、制裁の裏付けのある宣誓によって、その記載内容が真実かつ正確であることを嘱託人が表明した事実も公証するものです。一般の私署証書の認証と異なり、公証人の面前で宣誓することが要件となっているので、署名等の代理自認をすることはできません。
(イ)宣誓認証の嘱託をするためには、一般の私署証書の認証と異なり、同一内容の私署証書2通を提出することが必要です。これは、宣誓認証の手続が完了した後に、宣誓認証をした私署証書のうち、1通を嘱託人に還付し、1通を公証役場で保存するためです。
(ウ)私署証書の記載が虚偽であることを知った上で宣誓した場合には、10万円以下の過料に処せられることになります。
(エ)外国の提出先から求められて宣誓認証を行う場合のほか、宣誓認証をした私署証書2通のうち1通を公証役場で保存するため、第三者から内容の改竄等を主張されるおそれがなくなるので、知的財産権の先発明や先使用の保存、立証等のためにも宣誓認証が活用されています。

公証人の認証を受けた私署証書については、その後、どのような手続をとればよいのでしようか。

(ア)公証人の認証を受けた私署証書を海外で使用する場合の手続は、次のようになります。

嘱託人 → 公証人 → 法務局 → 外務省 → 駐日公館 → 使用する国

(イ)文書が海外の提出先で問題なく受け入れられるためには、相手方において、その文書が真正に作成されたことが容易に確認できなければなりません。その確認の手段として考え出されたのが、二重三重の公的機関による認証・証明手続です。
これは、まず、私署証書に記載された署名等を公証人が認証し、次いで、法務局が公証人の署名及び職印を証明し、さらに、外務省が法務局長の公印を証明するなど、その証明者の署名や公印を別の公的機関が更に証明するという制度です。前者の署名等の認証手続は、「ノータリゼーション(Notarization)」と呼ばれ、後者の他の機関による証明手続は、「リーガリゼーション(Legalization)」と呼ばれます。
(ウ)このように、公証人の認証、すなわち、ノータリゼーションの後の手続としては、リーガリゼーションを行うのが通常ですが、常に必要とされるものではないことに留意する必要があります。
これは、私的取引等において、ノータリゼーションに加えて、更にリーガリゼーションを求めるのかどうか、また、求めるとしても、どの段階のリーガリゼーションまで求めるのかについては、当該私署証書が提出され、又は交付される国又は地域の政府機関や取引先の判断に依拠しているからです。
すなわち、私署証書の提出先である相手方としては、当該私署証書が真正に作成されたものであることが確認できればよいので、公証人による私署証書の署名認証があればそれで十分であると考えるのか、公証人によるものであることの確証を得るために、外務省の公印証明まで必要であると考えるのか、さらに、ハーグ条約非加盟国向けの私署証書の場合に、外務省の公印であることの確証を得るために、提出先の国の駐日公館(大使館又は領事館)の証明(これを「領事認証」といいます。)までも必要であると考えるのかについては、相手方の判断次第ということになります。
したがって、私署証書の提出先である相手方が、公証人の認証のみでよいというのであれば、その後のリーガリゼーションの手続は不要であり、公証人の認証を受けたのみの私署証書を相手方に送付することで差し支えないことになります。

公証人の認証を受けた後の手続、すなわち、リーガリゼーションの流れについて、詳しく説明してください。

公証人の認証を受けた後のリーガリゼーションの手続は、次のとおりです。
① その公証人の所属する法務局(地方法務局)の長から、その私署証書に付されている認証が、当該公証人の認証したものであることの証明を受ける。
② 次に、外務省において、その法務局長の公印が間違いないことの証明を受ける(郵送によることも可能である。)。
③ 最後に、提出先の国の駐日公館(大使館又は領事館)において、外務省の公印が間違いないことの領事認証を受ける。

ハーグ条約は以上と異なる取扱いを定めていると聞きましたが、ハーグ条約について説明してください。

(ア)ハーグ条約の正式名称は、「外国公文書の認証を不要とする条約」であり、その略称が「ハーグ条約」です。ハーグ条約は、証明手続の簡素化を図るため、領事認証を不要としたものであり、日本もこれに加盟しています。米国、英国、大韓民国その他多くの国又は地域が、この条約に加盟しています。加盟している国又は地域については、外務省のホームページ等で御確認ください。
(イ)公証人が認証した私署証書がハーグ条約に加盟している国又は地域内に提出される場合には、条約で定めた形式の外務省のアポスティーユ(Apostille)という公印証明を受ければ、日本にある当該提出先の国の領事認証(上記③の手続)が不要になり、その私署証書を直ちに提出先である相手方に送付することができます。
(ウ)なお、例えば、インドネシアにある英国の銀行の支店が私署証書の提出先である場合には、ハーグ条約の関係では、英国(銀行)が提出先ではなく、インドネシアが提出先になるため、ハーグ条約非加盟国向けの私署証書として取り扱われることに御留意ください。

東京都内、神奈川県内及び大阪府内の公証役場では、特殊な取扱いがされていると聞きましたが、その取扱いについて、説明してください。

(ア)東京都内、神奈川県内及び大阪府内の公証役場では、提出先の国又は地域がハーグ条約に加盟している場合には、特例的措置(ワンストップサービス)として、法務局長の認証及び外務省のアポスティーユが付された認証文書(その用紙は、「甲用紙」と呼ばれています。)を作成するので、法務局、外務省及び駐日公館に出向く必要がなく、直ちに海外の相手方に送付することができます。
(イ)また、これらの公証役場では、提出先の国がハーグ条約に加盟していない場合には、特例的措置(ワンストップサービス)として、あらかじめ法務局長の認証及び外務省の公印確認が付された認証文書(その用紙は、「乙用紙」と呼ばれています。)を作成するので、公証人の認証を受けた後、法務局及び外務省に出向く必要がなく、直ちに駐日公館(大使館又は領事館)で領事認証を受けることができます。
(ウ)なお、令和3年1月からは、静岡県内及び愛知県内の公証役場においても、同様の取扱いが開始される予定です。

日本が国家として承認していない国又は地域が提出先の場合には、どのような取扱いになるのでしょうか。

日本が国家として承認していない国又は地域が提出先の場合には、外務省が公印確認をすることはできないので、特例的措置(ワンストップサービス)を行っている公証役場においても、この措置を行うことはできません。
したがって、例えば、台湾内に私署証書を提出する場合には、公証役場において、通常の認証(その用紙は、「丙用紙」と呼ばれています。)を受けた後、台北駐日経済文化代表処で認証を受けることになります。詳しくは、依頼される公証人にお尋ねください。

外国で作成された文書を日本国内で使用する場合は、どのような手続をとればよいのでしようか。

(ア)外国で作成された文書(例えば、外国の高校の卒業証明書等)について、日本国内で使用する場合(例えば、受験のために日本の大学に提出する場合など)には、通常、公証人から当該文書の認証を受けた後、それをそのまま日本の関係機関(例えば、大学等)に提出するだけでよいと思われます。
(イ)なお、外国の高校の卒業証明書等については、嘱託人が、「私は、添付の書面が、○○高校から発行された私の卒業証明書の原本(又は写し)に相違ないことを宣言します」などと記載した宣言書を作成し、この宣言書に当該卒業証明書又はその写しを添付した上、この宣言書に署名等をすることによって、この宣言書を公証人に認証してもらうという方法がとられています。

5 事実実験公正証書

事実実験公正証書とは、どういうものですか。

(ア)公証人は、五感の作用により直接体験(事実実験)した事実に基づいて公正証書を作成することができ、これを「事実実験公正証書」と呼んでいます。事実実験公正証書は、証拠を保全する機能を有し、権利に関係のある多種多様な事実を対象とします。
(イ)例えば、①前に述べた尊厳死宣言公正証書もその一つの例ですが、そのほか、②金融機関や倉庫会社から嘱託を受け、手数料不払の貸金庫や美術品キャビネット等を開披し、その内容物を点検して確認する事実実験公正証書を作成する場合、③相続人から嘱託を受け、相続財産の把握のために、被相続人名義の銀行の貸金庫を開披し、その内容物を点検して確認する事実実験公正証書を作成する場合、④知的財産権者の嘱託により、知的財産権の侵害されている状況や、逆に、先使用があって知的財産権無効の抗弁を裏付ける事実を記録した事実実験公正証書を作成する場合がよくあります。
また、⑤土地の境界争いに関して、現場の状況の確認及び保存に関する事実実験公正証書を作成する場合、⑥隣地の工事による建物の不等沈下が予想される場合の事前の建物の土台の水準の計測や建物の亀裂の有無の確認等の証拠保全のために事実実験公正証書を作成する場合、⑦株主総会の議事進行状況に関する事実実験公正証書を作成する場合などもあります。
さらに、⑧特殊な事実実験公正証書として、指紋採取確認公正証書を作成する場合があります。これは、嘱託人が、外国の官庁等から公的証明のある指紋の提出を求められた場合に、公証人が、嘱託人と一緒に、警視庁や道府県警察本部等を訪れ、警察の係官が嘱託人の持参した指紋台紙を使用して指紋採取を行う場に同席し、その状況を確認して、指紋採取確認公正証書を作成し、嘱託人に対し、その正本(指紋票の原本を添付したもの)を交付するというものです。
(ウ)対象となる事実は、私権の得喪又は変更に直接又は間接的に影響がある事実であればよく、債務不履行、不法行為、法律でいう善意又は悪意、物の形状、構造、数量又は占有の状態、身体又は財産に加えた損害の形態又は程度等も含まれます。
(エ)事実実験公正証書を作成する場合には、事実実験をどのように実施し、どのような内容の公正証書を作成するのかについて、その段取りを決めるため、嘱託人と公証人との間で、事前に十分かつ綿密な打合せを行うことが必要です。事実実験公正証書の場合、事実実験に時間が掛かるほど、手数料が増えるので、効率的かつ迅速に事実実験を行う必要性は高く、事前準備の巧拙が手数料の多寡にも影響することに留意する必要があります。
(オ)事実実験公正証書は、その原本が、公証役場に保存される上、公務員である公証人によって作成された公文書として、裁判上、高度の証明力を有します。したがって、事実実験公正証書は、証拠保全を考える場合に、大きな力と効果を有するものということができます。

実際に経験された事実実験で、何か参考になる具体的なエピソード等について、御紹介いただけますでしょうか。

(ア)金融機関や倉庫会社から嘱託を受け、手数料不払の貸金庫や美術品キャビネット等を開披し、その内容物を点検して確認する事実実験公正証書を作成したことが幾度もあります。 手数料不払の利用者に対する約款に基づく催告手続がきちんと履践されているかについて、提出された書類で事前に確認するとともに、事実実験の進め方等について、金融機関等との間で、事前に十分な打合せを行った上で、事実実験の当日に臨むことになります。当日は、金融機関が保管している副鍵(予備鍵)が入った副鍵袋の封印状況を確認し、それを開封して取り出した副鍵によって、貸金庫等を開披し、その内容物を取り出してもらいますが、その一つ一つの場面について、公証人が指示して、写真撮影してもらいます。内容物が木箱に入っていたり、風呂敷で包まれている場合には、その外観を写真撮影するとともに、それを開いて取り出した内容物も写真撮影してもらいます。
したがって、内容物が多数の場合には、メモを取るのも大変であり、作業時間も長時間にわたり(時には、夜間に及ぶこともあります。)、後日、内容物の目録を作成したりする作業も手間が掛かることになります。デジカメは、電池切れになることもあるので、複数用意してもらいます。
(イ)金融機関や倉庫会社の移転に伴って、貸金庫や美術品キャビネットの内容物の移転に関する事実実験公正証書を作成したことも幾度かあります。これらの場合には、金融機関等の都合で、休日に出勤して事実実験を行うこともあります。
貸金庫の場合には、旧店舗の貸金庫から取り出した保管箱に、あらかじめ準備した移設シール(旧店舗の貸金庫番号、顧客名及び新店舗の貸金庫番号を印字したもの)を貼付してもらい、封緘されていない保管箱については、これを開けることなく、帯封を保管箱に十文字に巻き付け、金融機関の職員と公証人が帯封の交差部分にそれぞれの職印を押捺するなどの作業を行い、その作業状況の一つ一つの場面を写真撮影してもらうとともに、新店舗の貸金庫に多数の保管箱が間違いなく収納されるのを確認することになります。
また、美術品キャビネットの場合には、旧店舗の美術品キャビネットから取り出した内容物について、写真撮影をしてもらうとともに、その数量や状況を確認した上で、移動用の段ボール箱に詰めてもらい、新店舗において、その段ボール箱から取り出した内容物について、写真撮影をしてもらうとともに、その数量や状況の同一性を確認した上で、美術品キャビネットに収納してもらいます。
この場合も、内容物が多数のときは、手間や時間が掛かることになります。
(ウ)知的財産権を有する会社の嘱託により、その知的財産権を侵害している会社のホームページに掲載された侵害の状況を保存するために、事実実験公正証書を作成したことも複数回あります。
ホームページ上の動画等は、その表示者側において、いつでも削除又は修正を行うことができ、その内容が変動するものであって、後日、遡って調査を行うことができなくなるので、事実実験公正証書により、現状を保存しておくことが重要性を有するものです。弁理士等も加わった事前の綿密な打合せに基づき、ホームページへのアクセスの状況等を写真撮影してもらうほか、動画等については、知的財産権侵害の画面が現れる都度、動画を静止させ、当該画面を写真撮影するとともに、プリントアウトしてもらいます。
どの画面で動画を静止させるのかなどについて、あらかじめ綿密な打合せをしておくことによって、効率的に事実実験の作業を進めることができます。

6 法改正と公証業務の変更

公証役場の取扱業務の中で、最近二、三年以内程度の法改正を踏まえ、方式等が変わったもの、弁護士として押さえておくべきと考えられるものがあれば、教えていただけますでしょうか。

(ア) 民法(債権法)の改正と保証意思宣明公正証書
公証人の取扱業務の中で、前述した保証意思宣明公正証書は、遺言公正証書と同様に、その作成方式、記載方法、記載内容等が民法で新
たに規定されましたので、公証人は、それに従って作成することになります。
保証意思宣明公正証書の作成方式の特徴としては、遺言公正証書と同様に、代理人による作成ができず、公証人が、保証予定者本人の面前において、同人から法律の定める事項の口授を受けて、公正証書を作成しなければならないという点です。したがって、保証予定者には、原則として、公証役場に来ていただくことが必要になります。
保証意思宣明公正証書は、公証人において、保証予定者が、保証契約のリスクを十分に理解した上で、相当な考慮をして保証契約を締結しようとしているか否かを見極めることを目的として設けられた制度であり、条文にも、「公証人に口授すること」などが必要と規定されているので、そのように解されています。
ちなみに、保証意思宣明公正証書の作成に当たっては、嘱託人に対し、口授すべき事項をあらかじめ保証意思宣明書に記載してもらう運用を行っています。保証意思宣明書の書式は、日本公証人連合会のホームページからダウンロードすることができます( 図表3 )。
なお、御質問からは少し外れますが、任意後見契約公正証書における委任者や、いわゆる遺言代用信託公正証書における委託者についても、法文上明示されているわけではありませんが、その性質上、本人の事理を弁識する能力や契約を締結する意思を確認する必要があるため、代理人による作成にはなじまないものとされているので、御留意ください。

(イ)民法(相続法)の改正と遺言公正証書
民法(相続法)の改正によって、配偶者居住権の制度が新設されましたが、配偶者居住権を遺言で取得させるには、特定財産承継遺言(民法第1014条第2項。いわゆる「相続させる遺言」)によるのではなく、遺贈によらなければならないとされているので(民法第1028条第1項)、遺言公正証書の作成に当たっては、留意する必要があります。これは、仮に、特定財産承継遺言による取得を認めることにすると、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合にも、配偶者居住権の取得のみを拒絶することができず、相続放棄をするほかないこととなり、かえって配偶者の利益を害するおそれがあることなどが考慮されたものであるとされています。
また、令和2年3月30日付け法務省民二第324号民事局長通達「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(配偶者居住権関係)」により、「遺言書の全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り、居住建物の所有権の帰属に関する部分についても遺贈(負担付遺贈)の趣旨であると解して、当該所有権の移転の登記を申請する必要がある」とされました。それを受けて、例えば、遺言者が、その所有する建物について配偶者に配偶者居住権を取得させ、子に当該建物の所有権を取得させる遺言をする場合に、遺言公正証書において、配偶者居住権が設定される当該建物について、子に相続させると記載しても差し支えないのか、あるいは子に遺贈すると記載すべきなのかという問題があります。
次に、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対して居住用不動産について贈与又は遺贈をしたときは、持戻し免除(当該居住用不動産を相続財産とみなした上、それを特別受益に当たるものとして、当該配偶者の相続分の額から当該居住用不動産の価額を控除するという持戻し計算を行うことをしないこと)の意思表示をしたものと推定されることになりました(民法第903条第4項)。したがって、遺言者が配偶者に贈与又は遺贈をした居住用不動産について持戻し免除を希望しないときは、遺言公正証書に必ずその旨を記載しておくことが必要であり、逆に、持戻し免除を希望するときも、反対事実の立証を許して無用な紛争が生じることを回避するために、遺言公正証書に持戻し免除の意思表示を明示的に記載しておくことが望ましいということができます。
また、遺言執行者の権限が明確化されるとともに(民法第1012条等)、遺言執行者の復任権について、原則と例外が逆になり、遺言者が遺言で反対の意思表示をしない限り、遺言執行者は、その任務の全部を第三者に行わせることができることになりました(民法第1016条第1項)。したがって、遺言者は、遺言執行者がその任務の全部を第三者に行わせることができるようにしたくないときは、遺言公正証書にその旨を明記しておくことが必要です。
さらに、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額の請求権に改正されましたので(民法第1046条)、遺言公正証書の作成のみならず、任意後見契約公正証書の代理権目録の作成に当たっても、留意が必要です。

(ウ) 成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化と定款認証
成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(令和元年法律第37号)第50条により、弁護士の欠格事由(弁護士法第7条)から、「成年被後見人又は被保佐人」(同条第4号)が、弁護士法人の社員の法定脱退事由(弁護士法第30条の22)から、「成年被後見人又は被保佐人」の引用条文が削除され、この改正は、令和元年12月14日から施行されました。
また、会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号)が令和元年12月11日に公布され、会社法改正法の施行日から施行されます。この改正法により、一般社団法人の役員の欠格事由(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第65条第1項)から、「成年被後見人又は被保佐人」(同条第2号)が削除されます。
これらの改正法の趣旨に照らすと、社員の脱退事由や資格喪失事由として、「後見開始又は保佐開始の審判」や、「成年被後見人又は被保佐人」を記載した弁護士法人の定款又は一般社団法人の定款は、適当でないということになるので、それらの定款の認証嘱託に当たっては、留意する必要があります。

(エ) テレビ電話による電子定款及び電子私署証書の認証の開始
これについては、後記7で説明することにします。

7 テレビ電話による電子定款認証

テレビ電話による電子定款認証について、概要を教えていただけますでしょうか。どのようなメリットがあるのでしょうか。

現在も行われているテレビ電話方式によらない通常の電子定款及び電子私署証書の認証手続では、嘱託人本人又はその代理人が、公証役場に赴き、公証人の面前で、本人確認を受けた上、電子署名について、自認又は代理自認をするなどの手続が必要です。
これに対し、平成31年3月29日から、電子定款(株式会社、一般社団法人及び一般財団法人の電子定款)及び電子私署証書の認証手続について、テレビ電話を使用して行うことが可能となりました。テレビ電話を使用した認証手続は、嘱託人が、テレビ電話を通じて、本人確認を受け、電子署名の自認の手続を行うものであり、嘱託人又はその代理人が公証役場に赴くことなく、電子定款及び電子私署証書の認証を受けることができるという大きなメリットがあります。

現行のテレビ電話の制度は、開始当初の制度とどこが変わったのかについて、御説明ください。

テレビ電話の制度の開始当初は、テレビ電話を使用する要件として、①発起人等が、電子定款に電子署名をして、嘱託人として、自ら電子定款をオンライン申請すること、又は②発起人等が委任状に電子署名をし、定款作成代理人(弁護士等の士業者)が嘱託人として、この委任状と一緒に、自ら電子署名をした電子定款をオンライン申請することが必要とされていました。そのため、発起人等が電子署名をすることができない場合には、テレビ電話による定款認証を利用することができませんでした。
しかしながら、令和2年5月11日からは、テレビ電話方式による電子定款認証の要件が緩和され、発起人等が定款作成を弁護士等の士業者に委任する際に作成する委任状について、電子署名が付された電子委任状のみならず、書面による委任状と印鑑登録証明書等を公証人にレターパックで郵送することでも足りることになりました。
これにより、テレビ電話を使用して公証人の認証を受けることが、従前より随分容易になり、より一層手続がしやすくなりました。実際に、令和2年5月以降、テレビ電話方式を利用した電子定款認証の件数は急増しており、利用者からも好評を得ているところです。
新型コロナウイルスの感染防止の観点からも、この手続を大いに利用していただきたいと考えています。
なお、株式会社の設立手続に関し、定款認証と設立登記のオンライン同時申請(ワンストップサービス)が可能となる「スーパー・ファストトラック・オプション」(電子定款の認証は、テレビ電話を使用して行う。)について、令和3年2月半ば頃の開始を目指して、現在、準備作業を鋭意進めているところです。

テレビ電話方式による電子定款認証手続の流れについて、概略を御説明いただけませんか。

テレビ電話方式による電子定款認証手続の流れの概略は、次のとおりです。

  1. 定款案、実質的支配者となるべき者の申告書( 図表4 )、身分確認書類(委任状等を含む。)等について、公証人に対し、メール、ファックスその他の適宜の方法で送付し、事前確認を受け、適宜修正する。
  2. 公証人の認証を受ける日時を予約する。
  3. 法務省の登記・供託オンライン申請システムを用いて、電子定款の認証のオンライン申請をする。
  4. 実質的支配者となるべき者の申告書、身分確認書類(委任状等を含む。)、同一の情報の提供申請書等について、公証人にレターパックで郵送する(宛先を記載した返信用のレターパックも同封する。)。
  5. 嘱託人は、「FACE HUB」というテレビ電話ソフトをパソコン又はスマホ等にインストールする。
  6. 公証人から、テレビ電話の交信に必要なURLがメールで送信される。
  7. 嘱託人は、予約した時間に、⑥のURLをタップするなどして、テレビ電話で公証人と通話し、運転免許証等の提示による身分確認を受けた上、電子定款の電子署名が嘱託人によってされたものであることを自認することによって、電子定款の認証を受ける。
  8. 公証人から、法務省の登記・供託オンライン申請システムを用いて、電子定款を認証した旨の「電磁的記録の認証」等のデータが嘱託人に送信される。
  9. 公証人から、返信用レターパックにより、「同一の情報の提供」と題する書面、「申告受理及び認証証明書」、計算書(兼領収書)等が郵送される。
  10. なお、手数料は、公証人の指示に従って、事前、同時又は事後に、指定された口座に振り込んで納付する。

テレビ電話方式による電子定款認証手続を説明したものは、何かあるのでしょうか。

日本公証人連合会では、テレビ電話方式による電子定款認証制度を一層利用していただくため、利用者の皆様向けに、テレビ電話方式の電子定款認証手続を分かりやすく説明した「テレビ電話による電子定款の認証手続について(利用者への説明メモ)」を作成し、日本弁護士連合会を含む各士業者会連合会にお配りしているので、是非御覧いただきたいと思います。
なお、依頼される公証役場でも、これを入手することができます。

4 その他

1 公証業務の手数料

公正業務の手数料について、教えてください。

公証人が公正証書を作成した場合などに受け取る手数料等は、公証人手数料令(平成5年政令第224号)によって、定められています。手数料等については、日本公証人連合会のホームページに掲載して説明しているので、御覧ください。また、詳しくは、依頼される公証人にお尋ねください。 なお、公証人に対する公証相談は、全て無料ですので、お気軽に御相談ください。

2 公正証書の書式例の紹介

公正証書にすべき文書の書式例を御紹介いただけないでしょうか。

(ア)公正証書の作成を嘱託する際に参考にしていただく書式例としては、日本公証人連合会が編著者となって執務の参考に取りまとめている『新版 証書の作成と文例』の書籍シリーズを挙げることができます。このシリーズは、これまでに、遺言編〔改訂版〕、家事関係編〔改訂版〕( 離婚給付等契約、任意後見契約等に関するもの)、貸金等・人的物的担保編〔改訂版〕、借地借家関係編〔三訂版〕及び売買等編〔改訂版〕の5分野に関し、公正証書の文例等を取りまとめて、立花書房から、書籍として公刊しています。
(イ)これらの書籍については、法改正があったときは、順次必要な改正内容を盛り込んだ改訂版の公刊も行っています。一般の方でも購入可能で、書店に在庫がない場合には、書店を介して、出版社の立花書房に注文をいただければ、購入することができます。ちなみに、このうちの遺言編〔改訂版〕については、令和2年12月時点で、この度の民法(相続法)改正前のものが立花書房でも在庫切れということなので、令和3年のできるだけ早い時期に、改正内容を盛り込んだ新たな改訂版を公刊したいと思っています。
(ウ)そのほかにも、遺言公正証書等を中心に、現役やOBの公証人が編著者となって公刊されている文例集等もあるので、参考にしてください。
(エ)なお、これらの書式例は、飽くまでも参考例であって、実際の公正証書の作成に当たっては、公証人が、個々の事案に応じ、嘱託人と双方向で内容を検討し、嘱託人の意向を十分に酌んで、適法かつ適切妥当な内容の公正証書の作成に努めていることは、いうまでもありません。