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花水木

表 大祐表 大祐(69期) ●Daisuke Omote

私は、2017年に渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に入所し、同年8月から2019 年7月まで金融庁企画市場局市場課への出向を経て、現在に至ります。金融庁在任中は、金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律、金融商品取引法施行令、その他内閣府令及び監督指針等の改正作業に従事していました。現在は、主に金融規制法・金融取引法務・一般企業法務分野の法律事務に携わっています。本稿では、金融庁で勤務していた頃から心掛けていることと、出向から戻った後に心掛けていることを書き綴りたいと思います。
金融庁在任中は、現行の金融分野において対応が必要と考えられる政策を立案し、当該政策案を幹部等に稟議して庁内で政策実行の意思決定を行い、当該政策に沿った法令案を作成することを中心に行っていました。法令案の作成、と文字にすると華々しくもありますが、振り返るとその作業に充てた時間のほとんどはとても地道なものでした。 法令案の作成にあたって は「用例」がとても大事で、多くの時間をこの用例探しに充てることになります。用例とは、既にある法令で使用されている用語例や言い回しを意味し、法令案の作成の際には、基本的に当該用例に倣う必要があります。例えば「●、●、その他の△」と表現されるときは●は△に包含される例示列挙を意味しますが、「●、●、その他△」と表現されるときは●は△に包含されず、並列の関係にあることを意味するため、「の」が入るか否かによりその意味合いが異なってきます。また、例えば、「~の場合」という条件を一文で二度使いたい場合、多くの法律において、二個目の条件には「とき」という用語を使用しており、「場合」という用語が二度続くことはほとんどありません。こうした用例に倣う必要があるのは、同じような意味合いのものを表現したい場合、法令の文言を統一することで、誤読を避けることができると考えられているからです。
法令案の作成は、「こういった意味合いにしたいけど、用例が見つからない。それならば用例のあるこの表現に変えてみるか。でも意味合いは同じかな。」という悩みを延々と繰り返す作業でした。こうした経験が一言一句を大事にするという意識を育て、今でも日々心掛けている大事なものとなっています。
金融庁出向から戻った直後は、いかに文章を正確に表現するかという点を常に意識していました。勿論、この意識は今でも大事にしています。しかし、弁護士業務では依頼者の理解を得る必要があり、そのためには依頼者にいかにわかりやすく伝えるか、ということも大事であることを日々痛感しています。そして、正確に表現することとわかりやすく表現することは、時に相反することもあります。そのため、現在では、正確に表現するということに加えて、いかにわかりやすく表現するかということも意識し、そのバランスを考えながら日々の業務に携わっています。
正確かつわかりやすい、より洗練された表現ができるように今後とも研鑽を積みたいと思います。