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インハウスレポート「二つの国際委員会」

当会会員 髙畑 正子(52期) ●Masako Takahata

インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。
本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

1 はじめに

2000年に弁護士登録し、15年以上組織内弁護士として過ごしています。学部を卒業後、銀行員(総合職)として日本の銀行に勤務しておりましたので、司法試験合格後、金融機関等で組織内弁護士として働くことは選択肢の一つと考えておりました。

2 組織内弁護士の増加

2004年に外資系金融機関のインハウスカウンセルになった頃、企業内にいる弁護士は50名未満だったと思います。日本組織内弁護士協会(JILA)に入会したところ、外資系企業に在籍する会員が多く、いわゆる渉外事務所から米国LL.M.を経てインハウスへ転向する方が多かったためか、二弁会員が多かったと思います。
その頃、日本企業の法務部門は法学部出身者で構成され、社内の留学制度を利用して米国ロースクールへ留学し、ニューヨーク州法の資格を取得した者を除き、法曹資格を有する者はごく少数でした。これには、三つの理由があり、一つは、日本における終身雇用制度の下では、新卒採用が重視され、(実務経験のある)弁護士を中途採用するということが人事制度上困難と考えられていたことです。法学部卒を教育し、留学させて有資格者とすることの方が、企業にとって有益と考えられていたからでしょう。二つ目は、日本の企業には、"弁護士"が遠い存在であって、採用することに躊躇する傾向があったからです。三つ目は、弁護士ないし弁護士会としても、"インハウスカウンセル"への馴染みが薄く、弁護士が組織の中で執務することの意義が理解されにくかったことがあります。日本企業の法務部門は、バックオフィスの中でも地味な存在でしたし、法務部門を拡充させることに熱心な経営者は少なかったと思います。ちなみに、入行当時、日本の銀行には法務部はありませんでした。
その後、人材の流動化、法曹人口の増加等もあり、日本における組織内弁護士は増加の一途をたどっており、JILAの会員数も増加しております(2020年12月末日現在、JILA会員数は1879名)。

3 国際委員会

2019年より、国際委員会の委員となり、2020年度より副委員長を務めております。10年程前に、男女共同参画社会推進PTの座長を務めていましたので、久しぶりの会務活動です。当時、外資系金融機関のダイバーシティフォーラムを運営していたので、その知見が、法曹界における多様化、男女格差解消等の問題意識に貢献できるのではないかと思い、藤原座長にお声掛けいただきましたので引き受けました。
2014年より、日本企業のジェネラルカウンセルとして主に対外投資をサポートしておりますので、弁護士会レベルで投資先国の法制度を学ぶ良い機会だと思っております。日常業務の中で、投資活動に必要な知識を現地法律事務所等から得る機会は多いのですが、弁護士会レベルでの共通の問題意識、例えば、弁護士倫理、法曹養成制度、人権問題等について意見交換をすることは、弁護士としてとても重要だと思っております。組織内にいると、弁護士としての「良心」に従った判断であっても、組織の論理(多数決原理や指揮命令系統等)との間で軋轢が生じてしまう場面が十分想定されます。組織内弁護士にとっては、(法律事務所の弁護士と異なり、)必ずしも「依頼者」が一義的に決まらないことや、周囲に弁護士が少ないことから、弁護士会での様々な議論は心の支えとなります。
加えて、近時は、ビジネスと人権や、SDGs等、様々な角度から企業の経済活動の社会へ与える影響や企業の在り方が議論されていますので、社内に「社会正義の実現」を担うべき法曹としての知見のある者が必要とされている場面は多くなってきていると感じています。また、IBA(国際法曹協会)において、Corporate Counsel Forumを設置し、ジェネラルカウンセルのためのセッションや会議を開催していること等からも明らかなように、企業における法曹人口の質的量的拡大への期待は、日本だけの現象ではないといえます。

4 JILA国際委員会

日本企業の投資行動の世界経済へ与える影響の大きさを鑑みると、日本企業の行動様式を、(少なくとも、法務の視点から)世界標準化することが喫緊の課題といえます。そこで、2019年、日本企業の法務部に所属する会員が多いJILAにも国際委員会を設置し、副理事長として担当しております。主に、諸外国の法制度や法律事務所に関する情報交換のフォーラムの提供、セミナーや国際会議への参加等自己研鑽支援、諸外国のインハウスカウンセルの団体との意見交換会の開催等に取り組んでおります。セミナーや意見交換会のテーマとしては、インハウスカウンセルの役割、法曹資格制度、弁護士会との関係、業種別の規制・制度の比較等多岐にわたります。日本の場合、組織内弁護士として名乗るためには弁護士会に登録することが必須ですが、パリ弁護士会等、インハウスカウンセルは登録できない場合や、オランダのように、法律事務所所属でない場合には、弁護士会に登録する必要がない国もあります。このように、弁護士会との関係でインハウスカウンセルの位置付けが異なるので、弁護士会の国際委員会等では、各国のインハウスカウンセルの意見を聞くことが難しいこともあると考えられます。
また、JILAでは、弁護士となる資格を有しながらも弁護士会に登録していない方にも会員となっていただいています。個人的には、弁護士会へ登録することの意義は大きいと考えていますが、様々な理由から弁護士登録されない方であっても、インハウスとして、他社の法務部門等での議論や情報収集に関心の高い方であれば、JILA国際委員会に参加することをお勧めします。

5 おわりに

近年、経済団体等が、日本企業の国際競争力強化の観点から法務部門の拡充を提唱していることもあり、日本における組織内弁護士数は急激に増加しています。弁護士会同様、JILAも比較的実務経験の浅い会員が多いので、委員会活動等に携わる人材の育成、"国際化"に対応する会員の研鑽のためのメニュー等が共通の課題と認識しております。また、ロースクールから組織内弁護士を目指す方も増えてきていることから、法曹教育の一環として、組織内弁護士のための教育(経営、会計、コミュニケーション・スキル等)を提供できる機会があるとよいのではないかと思います。