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国選弁護日誌「障害者弁護に関する二弁の支援制度」

障害者弁護に関する二弁の支援制度

柴田 勝之 Katsuyuki Shibata (47期)
今回は、私が担当している精神障害者Aさん(46歳)の国選弁護の報告を通して、精神障害者等を依頼者とする刑事事件に関する当会の支援制度について御紹介します。

1 受任

2020年9月29日、二弁の障害者刑事弁護名簿(SH名簿)の割当日で被疑者国選の配点がありました(なお、この後御紹介する二弁の支援制度は、SH名簿の配点事件でなくても依頼者に精神障害等があれば利用可能です)。 事件はA さんが被害者に金を貸し、その金を返さないことに怒ったAさんが被害者に暴行して加療1週間の怪我を負わせたというものでした。同日夜に初回接見したところ、Aさんは双極性感情障害により精神障害者福祉手帳2級( 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの) を所持していて、感情が激すると記憶がなくなることがあり、今回の事件についても被害者に「借金した覚えはない」等と言われたりして激高した後しばらくの間の記憶がなく、暴行についても記憶にないとのことでした。

以上の主張は私が聞き取った内容を自分なりにまとめたものですが、実際のA さんの話は、ろれつが回っておらず聞き取りが困難であることに加え、こちらの質問への的確な回答がなされず自分の言いたいことを話し、内容も意味不明だったり筋道が立っていなかったりして、理解することがかなり難しい状況でした。事件の前までは医師から1日35錠の薬の処方を受けて服用していたことを繰り返し述べており、精神障害にとても苦しんでいることだけは良く分かりました。

その後に関係者と連絡を取ったところ、Aさんは前科で入所していた刑事施設からの仮釈放の後は父親と二人暮らしで、仕事はせず、父親が仕事をして稼いだお金で生活していたとのことです。しかし、父親からは「もう面倒は見られないので戻ってこないでほしい」と言われてしまいました。

また、Aさんが被害者に金を貸したというのはもう何年も前のことで借用書もなく、被害者としては借りた覚えはない、Aさんが貸したと言っているのは金をせびる口実と思っている、とのことでした。

検察官からは示談ができれば起訴猶予の方向で検討すると言われましたが、仮に起訴猶予になってもAさんの精神障害の状況からすれば自活はまず無理であり、生活保護などの環境調整をしなければまた問題を起こしてしまう可能性が高いと思われました。

そこで、Aさんの社会復帰後の環境調整に助力いただくため、二弁の「社会福祉士・精神保健福祉士との連携制度」を利用することにしました。

2 社会福祉士・精神保健福祉士との連携制度

障害者の刑事弁護においては、障害特性、成育歴、供述特性等を踏まえる必要があり、それらに対する知識、経験の乏しい弁護士にとって、福祉の専門家との連携は不可欠と言えます。そのため、東京三弁護士会では、事案に応じて社会福祉士や精神保健福祉士と連携して弁護活動を行うことができるよう、東京社会福祉士会、東京精神保健福祉士協会に窓口を設けていただいています。連携内容としては、障害に対する見立てや必要な支援に関する助言を目的とした接見への同行、更生支援計画(事件と障害との関わりなどを踏まえた上で今後の必要な支援や環境について福祉専門職として意見を述べる書面)の作成協力、証人としての出廷、成育歴に関する資料収集の方法や社会復帰後の生活環境の整備等について助言を受けることなどが考えられます。なおこの制度は国選だけでなく私選の場合でも利用可能です。

この制度を利用するためには、二弁の会員サービスサイト社会福祉士・精神保健福祉士との連携及び費用援助制度に書式がアップされている「相談依頼書」に事案の概要、福祉専門職の支援を必要とする理由、依頼したい支援の内 容等を記載して、二弁事務局人権課にFAXを送付します。すると、弁護士会から社会福祉士会または精神保健福祉士協会の窓口に情報提供し、社会福祉士会等において担当者が指名され連絡が来るという流れです。なお相談依頼書を送付する前に、社会福祉士等に情報を提供することや、社会福祉士等が面会に来たり関係者と会ったりすることについて、依頼者の承諾を得ておく必要があります。

また支援は弁護士と社会福祉士等との間の契約により行われるため、費用は弁護士からの支払いになりますが、国選の場合には次項で述べる援助制度があります。

本件についても10月2日に二弁にFAXしたところ、10月5日に担当の精神保健福祉士のP先生から連絡をいただくことができ、「支援及び個人情報使用に関する同意書」(精神保健福祉士協会の書式とのことでした)の取得を指示されたため早速Aさんと接見して署名してもらいました。そして10月6日にはP先生と面談して事案の説明等を行い、7日にはP先生と一緒にAさんと接見しました。なお精神保健福祉士との接見は一般面会扱いとなるため、警察には事前に要請書を提出して面会時間を30分に延長してもらいました。

3 社会福祉士等との連携のための援助金制度

国選弁護人・国選付添人等の場合で、精神障害、知的障害又は発達障害(これらの障害の疑いがある場合を含む)の被疑者、被告人又は少年に関する事件であって、更生支援のため、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門的知識を有する者との連携が必要な事件については、二弁から援助金を受けることができる「社会福祉士等との連携のための助成金制度」があります。なおこの制度は、前項の二弁からの連携制度を利用せずに上記の専門職に依頼した場合でも利用することができます。

援助の対象は、①初回相談5000円、②面会1回当たり5000円、③更生支援計画作成1万5000円、④公判出廷5000円、⑤旅費交通費、実費、⑥行政手続申請調整等2万5000円を目安とし、原則として合計5万円(いずれも消費税別)が上限とされています。ただし、(1)裁判員裁判その他の長期の対応が必要となった場合であって特に必要性が高いと認められる場合、(2)解離性障害、重度知的障害等の原因により、被疑者等の理解力や記憶力が著し く劣る場合又は会話が著しく困難と認められる場合、(3)反社会性人格障害等の原因により、被疑者等とのコミュニケーションが著しく困難と認められる場合、(4)福祉的支援の客観的必要性が著しく高い一方で、被疑者等がそれを理解できない等、多数回の接見、面会が必要と認められる場合、(5)以上に類する困難な事情が認められる場合には、5万円を超える支払が認められる場合もあるとされています。

この援助金は、二弁の会員サービスサイト 社会福祉士・精神保健福祉士との連携及び費用援助制度に書式がアップされている「国選弁護人等援助金(社会福祉士等との連携のための援助金)支給申請書」を二弁事務局人権課に提出し、刑事弁護委員会の審査により支払が認められます。

4 福祉的支援関与に対する援助制度

前項の援助金は、専門職へ依頼した費用について援助を受けられる制度ですが、この「福祉的支援関与に対する援助制度」は弁護士自身が援助金を受けられる制度です。

国選弁護人・国選付添人等の場合で、精神障害、知的障害又は発達障害(これらの障害の疑いがある場合を含む)の被疑者、被告人又は少年に関する事件であって、弁護人等が被疑者段階、被告人段階(少年審判手続を含む)又は刑務所若しくは少年院からの出所の段階における環境調整、社会福祉士等の面会への同行その他の福祉的支援に積極的に関与した事件として、①被疑者等との接見回数が4回以上又は接見に要した時間が合計4時間を超 える場合、②往復2時間を超える場所において接見又は面会を行った場合、③環境調整のために社会福祉士等又は親族と合計3回以上面談を行った場合には、弁護人等1人当たり金3万円を上限に援助金を受けることができます。 この援助金は、二弁の会員サービスサイト福祉的支援関与に対する援助制度 に書式がアップされている「福祉的支援関与に対する援助申請書」を二弁事務局人権課に提出し、刑事弁護委員会の審査により支払が認められます。

本件で私は被疑者段階でAさんと14回接見したため上記①に当たるということで申請したところ、援助金を受けることができました。

5 公判請求

起訴前に被害者と3回面談しましたが示談することはできませんでした。また検察官には簡易鑑定を要請して実施してもらったところ責任能力に問題はないとの結果が出たとのことで、満期前に起訴猶予を求める意見書を出しましたが、10月16日に公判請求されてしまいました。しかも後日に起訴状を見たところ、勾留事実であった傷害に加えて恐喝未遂も公訴事実として起訴されていました。

係属部が決まったところで公判前整理手続の請求を行いましたが却下され、12月7日の第1回公判では、Aさんには事件の記憶がないため公訴事実と責任能力を争う旨の意見を述べ、現場臨場した警察官の報告書、被害者とAさんの供述調書を不同意としました。その後はコロナ禍の影響でなかなか期日が進行せず本稿執筆時点に至っています。

2021年1月28日の第2回公判では責任能力を争うために鑑定請求をしましたが、裁判官からは消極的なニュアンスで留保され、次項で述べる「当事者鑑定費用援助制度」の利用を検討しています。

6 当事者鑑定費用援助制度

鑑定が必要と思われる刑事事件について鑑定を採用させるため、また、検察官や裁判所の鑑定結果を弾劾するため、弁護側の行う当事者鑑定(いわゆる私的鑑定)は強力な武器となります。二弁では、国選弁護人・国選付添人等が精神科医・心理学者等の専門家による当事者鑑定のために要した実費を援助する制度があります。なおこの制度は障害者が依頼者の事件に限らず、以下の要件を満たす当事者鑑定の費用であれば利用可能です。

援助の対象は、①裁判員裁判対象事件であって、精神保健に関して学識経験を有する医師又は心理学、法医学その他の専門的知識を有する者( 以下「精神科医等の専門的知識を有する者」と総称する)による精神鑑定、情状鑑定、法医学鑑定、工学鑑定、DNA鑑定、筆跡鑑定又は検察官立証に対する反証としての再鑑定等( 以下「当事者鑑定」という)が必要と認められる事件、②心神喪失又は心神耗弱の可能性が具体的に認められ、かつ、公訴事実に争いがある事件であって、精神科医等の専門的知識を有する者による当事者鑑定が必要と認められる事件、③精神障害、知的障害又は発達障害( これらの障害の疑いがある場合を含む) の被疑者、被告人又は少年に関する事件(「精神障害等関連事件」)であって、精神科医等の専門的知識を有する者による当事者鑑定が特に必要と認められる事件、とされています。援助の金額は原則として1件当たり40万円(消費税別)となっています。

この援助金は、二弁の会員サービスサイト当事者鑑定費用援助制度 に書式がアップされている「当事者鑑定費用援助申請書」を二弁事務局人権課に提出し、刑事弁護委員会の審査により支払が認められます。

7 終わりに

久しぶりに障害者の刑事事件を担当していますが、やはり弁護士の社会的な役割として意義が大きい業務であると改めて感じています。なかなか負担も大きい仕事ではありますが、本稿で御紹介した支援制度も活用して、ぜひ積極的に受任いただければ幸いです。