出版物・パンフレット等

ウィズコロナ時代の 労務管理の在り方について(全編)

Tomohito Itsumi
五三 智仁(48期)
当会会員

―略歴
2017~2018年度
当会労働問題検討委員会
委員長

CONTENTS

  1. 一般従業員への対応
  2. 感染者等への対応
  3. 営業を自粛する場合
  4. 在宅勤務
  5. 職場における安全配慮等

1.一般従業員への対応

1.マスクの着用等

従業員に職場でのマスク着用を義務付けることは可能でしょうか。現在は、自分が感染していた場合に他人に感染を広げないためにも、感染予防のためにも、マスクの着用が一定の効果を上げることが、もはや常識になっていますので、職場内でのマスクの着用は業務上必要、かつ相当な指示として、従業員にこれを義務付けることは可能と考えます。経団連が昨年5月に発表した、オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインの中でも感染防止対策の1つとして、「従業員に対し、勤務中のマスクなどの着用を促す」ことが示されています。

マスク着用の義務付けが可能だとして、それに従わない従業員に対してどのように対応すべきでしょうか。マスクが入手困難である場合、感覚過敏によりマスクを着用できない場合、個人的信念によりマスク着用を拒否する場合の3つを考えます[参考:図表1]。

マスクが入手困難な時期に、マスクが購入できないことを理由にマスクの着用ができなかったとしても、懲戒処分にすることはできないと思います。また、感覚過敏等の症状を訴えてマスクの着用は困難だという方もいます。こういった症状や病気を理由にマスク着用ができなかったとしても、やはり懲戒処分にすることはできないと思います。

他方、個人的な信念、例えばマスクには効果がないとの信念を持った方がマスク着用を拒否した場合には、使用者としてはその従業員に繰り返し注意をして、着用を促す必要があろうかと思いますが、それでも従わない場合は、場合によっては懲戒処分も可能だと思います。

また、マスク着用を義務付けている職場においては、理由はどうであれ、マスクを着用しない従業員に対し、使用者はその就業を拒否することが一応可能だと考えます。問題は、使用者がマスクを着用しない従業員に対して、オフィスでの就業を拒否し、なおかつ業務の性質等から在宅勤務の実施は困難であるため、その従業員に休業を命じざるを得なかったという場合、賃金や休業手当の支払いが必要かどうかです。

賃金と休業手当の関係を確認しますと、民法第536条2項危険負担の条文を、労働者の労務提供義務の履行に当てはめると、「使用者の責めに帰すべき事由によって労働者が労務提供義務を履行することができなくなったときは、使用者は賃金支払いを拒むことができない」と読み替えられます。

他方、労働基準法第26条の休業手当の条文は「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない」と定めています。同じように「使用者の責めに帰すべき事由」という表現が用いられていますので、両者の関係が問題になります。

ノースウエスト航空事件判決(最二小判昭62年7月17日民集41巻5号1283頁)は、労基法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」の解釈適用について、「いかなる事由による休業の場合に、労働者の生活保障のために使用者に平均賃金の6割以上という限度での負担を要求するのが社会的に正当かという考量を必要とするのであって、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであり、民法第536条2項の帰責事由よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害をも含むものと解するのが相当である」と判示しました。

要するに、労基法第26条の休業手当は労働者の生活保障のためのものであるから、その支払いの要件である使用者の責めに帰すべき事由は、民法第536条2項より広い範囲で、過失責任主義とは異なる労働者の生活保障の観点からも考量が必要だとしました。労働者の生活保障の観点から使用者に休業手当を支払わせることが相当かを考えて判断するということです。客観的な基準がないに等しいところがあり、休業手当の支払いが必要かどうかの判断は、特に経営側においては非常に予測しにくいものになろうかと思います。

同判決の考え方を踏まえ、マスクを着用しない従業員の就業を拒否せざるを得なかったといった場合に、賃金や休業手当の支払いは必要でしょうか。まずマスクの入手が困難な場合や、感覚過敏でマスクの着用ができないといった場合、少なくとも労働者の生活保障の観点から休業手当の支払いが必要になると判断される可能性は極めて高いと思います。この場合に、休業手当を越えて賃金の支払いまでが必要かどうかは、判断が分かれると思います。

他方、マスクには効果がないといった個人的信念で着用を拒否する従業員に対しては、少なくとも賃金全額の支払いは不要でしょう。また休業手当の支払いも不要と考えたいところですが、在宅勤務の実施等、代替手段が取れなかったことについて、会社側に落ち度がないと言えるのか等の事情も考えると、支払い不要と言えるのか若干の疑問が残ります。賃金、休業手当の要否の判断は難しいところがあります。

2.検温とその報告の義務付け

従業員に対して、出勤前の検温と報告を義務付けることは可能でしょうか。厚労省の発表等によれば、感染した場合には発熱を伴うことが多いようですので、37度5分以上の高熱が認められた場合等、必要に応じた報告を義務付けること自体は可能だと思います。経団連のガイドラインには、従業員に対して出勤前に体温や新型コロナウイルスへの感染を疑われる症状の有無を確認させることが示されています。

ところで、最近は非接触で体温を測るサーモカメラを会社の出入口に設置しているところも見られます。このようなシステムで検温情報を入手するにあたり、事前に明確な同意を得ているとも言えません。こうした自動的な検温情報の入手が法的に問題ないのかを一応考えてみましょう。

個人情報保護法は第17条1項で、「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」と規定しています。第17条2項は要配慮個人情報という概念を規定し、高齢による場合や、同意を取るのが困難である場合等の所定の例外事由を除き、原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならないと規定しています。

このように個人情報保護法上は、要配慮個人情報については原則、本人の同意を得て取得する必要があるが、要配慮個人情報に当てはまらない、それ以外の個人情報一般は不正の手段によらない限り取得が可能だと定めています。要配慮個人情報とは本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪経歴、犯罪被害を受けた事実、その他、本人に対する不当な差別、偏見、その他の不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮を要するものとして、政令で定める記述等が含まれる個人情報と定義されています。

政令によると健康診断結果などは要配慮個人情報に該当しますが、検温結果や、感染している疑いがあるといった感染疑い情報については要配慮個人情報には該当しないと考えてよいでしょう。

したがって、検温情報は個人情報保護法上、事前に本人の同意を得なくても、不正の手段によらない限り取得が可能になろうかと思います。入場者に認識できるようにサーモカメラを設置して、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から自動的に検温情報を取得しているのであれば問題にならないと思います。

とはいえ、プライバシー保護の観点からは個人情報取扱事業者である企業には必要以上の情報を収集すべきではないという、リスク管理の判断が必要になります。従業員に対し検温を義務付けた上で、検温結果を日々報告させるのではなく、一 定以上の体温が続いた場合のみ報告を義務付けるといった工夫があると良いと思います。

3.私生活上の一定の活動制限

昨年4月に緊急事態宣言が発出されたことを受け、東京都知事は特措法第45条1項に基づく緊急事態措置として、徹底した外出自粛の要請を行いました。また、北海道知事は11月に期間を定めて条件付きながら札幌市と道内地域との往来自粛や、札幌市内での外出自粛の要請を行いました。

このように緊急事態宣言の発出や、行政からの外出自粛要請があった場合に、使用者が労働者に対して私生活上の外出自粛、飲み会や旅行等の活動の自粛などを求めることは、業務上の指示として可能だと思います。また、私生活においても密 閉、密集、密接、いわゆる3密を避け、マスクの着用を促すことも可能でしょう。経団連のガイドラインでも、「従業員に対し、感染防止対策の重要性を理解させ、日常生活を含む行動変容を促す」「公共交通機関や図書館など公共施設を利用する 従業員には、マスクの着用、咳エチケットの励行、車内など密閉空間での会話をしないことなどを徹底する」とされています。

では、使用者が自粛を求めていたにもかかわらず、労働者が自分の判断で飲み会や旅行を実施して、結果的に新型コロナウイルスに感染してしまった場合に懲戒処分は可能でしょうか。

業務と直接関係しない私生活上の非行であっても、それによる会社の業務運営や社会的評価に悪影響を与え、企業秩序を乱す恐れのある行為であれば、懲戒処分の対象になり得るとするのが、最高裁判例の考え方です。ただし、労働者の労働契約上の本質的な義務は労務提供義務であり、使用者が労働者の私生活上の行動に過度に介入すべきではありません。

また、新型コロナウイルスはどんなに注意していても感染する可能性があり、感染経路が特定困難な場合もあります。従業員が私生活上の飲み会や旅行等を実施し、結果として感染しても、そのことだけで懲戒処分の対象とすることは困難であろうと思います。

2.感染者等への対応

1.感染者を休業させる場合の留意点

新型コロナウイルスに感染したことはどのようにして確定されることになるのでしょうか。

厚労省のホームページには、息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合、重症化しやすい方で発熱や咳など比較的軽い風邪症状がある場合には、帰国者・接触者相談センターへの相談を促すこととなっています。

こういった症状が認められた場合、相談センターに相談するやり方もありますし、また地域の診療所に行くという方法もありますが、診断を受けてPCR 検査が実施され、陽性反応が出ると、感染確定となって保健所に報告される仕組みになっています。保健所からの報告によって行政、都道府県が感染者を把握します。

感染が確定すると、感染症法の指定感染症に該当しますので、都道府県知事による就業制限の対象になります。感染者は入院治療や、比較的症状の軽い方はホテル等での宿泊療養を行うことになりますので、普通は自ら欠勤をすることになるでしょう。

仮に、使用者から休業を命じるということになった場合でも、労基法第26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当を支払う必要もないと思います。

なお、この場合は労災保険の適用がなければ、被用者保険に加入している労働者であれば、健康保険制度による傷病手当金の支給対象となり得ます。具体的には療養のために労務を服することができなくなった日から起算して3日の待機期間を経過した日から、労務に服することができない期間、直近12カ月の標準報酬月額を平均した額の30分の1、つまり日額ですが、日額のその3分の2の金額が保障されます。平均賃金の概ね3分の2が保障されます。

そして、昨年3月に厚労省保険局保険課が「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」という事務連絡を出しており、自覚症状がなく、検査の結果、陽性と判断された場合のほか、発熱等の自覚症状があるため自宅療養を行ったときに、療養のために労務に服することができなかった場合も傷病手当金の支給対象となり得るとしています。比較的広く、傷病手当金の支給を認めていると言えます。

2.感染が疑われる者を休業させる場合の留意点

(1)風邪の症状がみられる従業員

厚労省は、初期症状は発熱、咳など、普通の風邪と見分けが付かないと指摘しています。一般的な風邪症状が現れるだけでは、新型コロナウイルスの初期症状なのかが判然とせず、単なる風邪の疑いも払拭できません。

この場合、従業員が自らの判断で休むのであれば結構ですが、休まないのであれば、会社が休業を命じることは可能だと思います。経団連のガイドラインにも「体調の思わしくない者には各種休暇制度の取得を奨励する。また、勤務中に体調が悪くなった従業員は、必要に応じ、直ちに帰宅させ、自宅待機とする」などの指示が見られます。

発熱や咳などの風邪症状が見られるだけでは新型コロナウイルス感染症への感染が確実に疑われるとも言い切れません。本来は年次有給休暇を利用するなど、自ら休んでもらいたいところですが、自ら休もうとしないため、使用者の指示によって休業させなければいけない場合は、少なくとも休業手当の支払いが必要になると考えます。実務的な対応としては、経団連のガイドラインが指摘しているように、休暇制度の取得制度を奨励して、自身で休んでもらうように働き掛けることになろうかと思います。

(2)家族の感染が確認された従業員

厚労省によると、濃厚接触者とは、感染者と1メートル程度以内の距離で15分以上接触し、かつ感染の可能性が相対的に高くなっている人と定義されています。

濃厚接触者と判断されると、PCR検査を受け、仮にPCR 検査の結果が陰性であったとしても、感染者と接触があった日の翌日から起算して14日間、外出を自粛し、健康観察を行う必要があります。

濃厚接触者と判断された従業員は、健康観察の基準に照らして、14日間自ら休業を選択してもらいたいところですが、自ら休業を選択せず、使用者の指示により休業させる場合はどのように対応すべきでしょうか。

濃厚接触者と判断されただけで、確実に感染が疑われるとも言い切れない者を、使用者の指示によって休業させる場合は、休業手当の支払いは必要になると考えるべきでしょう。

ところで、従業員の家族が新型コロナウイルス感染症に感染した、PCR 検査で陽性結果が出たといった情報を感染情報と呼びます。家族の感染情報はその従業員自身の要配慮個人情報ではありませんが、家族のうち誰であるのかが特定できる場合には、当該家族を本人とする要配慮個人情報に該当しますので注意が必要です。

例えば配偶者と2人暮らしの従業員について、会社がその事実を把握している場合は、その従業員の家族に陽性結果が出たならば、必然的にその家族とは従業員の配偶者と特定されます。そうしますと、要配慮個人情報については法令に基づく場合等の例外的な場合を除き、あらかじめ本人の同意を得なければ取得してはならないというルールを意識しなくてはなりません(個人情報保護法第17条2項)。

この例で言えば、本来、会社は従業員の配偶者本人の事前同意を得て、配偶者の感染情報を取得しなければならないはずです。もっとも、実際はそこまで徹底せずに、従業員を介して、感染した従業員の配偶者からの同意を得るという形で整理されることが多いのではないかと思います。

ただ、改正個人情報保護法において、要配慮個人情報という概念が新たに新設された趣旨は、要配慮個人情報が個人のプライバシーに大きく関連する極めて機微な情報であり、そのために情報取得に際しての本人同意を徹底させることにあります。従業員の配偶者が新型コロナウイルスに感染したという感染情報を、従業員を介して感染した配偶者から同意を得るという簡単なやり方で足るのか疑問が残ります。従業員の家族の感染情報については、こうした問題意識を持っておく必要があるでしょう。

(3)感染が強く疑われる従業員

感染のメルクマールである息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱、味覚・嗅覚障害等が強く出ている場合等は、従業員が自ら休むことが望ましいのは言うまでもありませんが、自ら休業しない場合には使用者が休業を命じざるを得ま せん。この場合は、さすがに使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当しないものとして、休業手当の支払いは不要と考えてよいでしょう。

3.営業を自粛する場合

昨年4月緊急事態宣言が発出され、都道府県知事から施設使用制限等の要請がなされ、これを受けて民間企業も休業に踏み切ったところがいくつか見られました。

緊急事態宣言下の施設使用制限等の要請を大きく分けると、まず特措法第45条2項に基づく緊急事態措置としての都道府県知事による施設使用制限等の要請(A)があります。要請に留まるものの、正当な理由なく要請に応じない場合、都道府県知事は要請に係る措置を講ずべきことの指示を出すことができます。指示を出した場合には公表が義務付けられています。

もう一つは、同法第45条1項に基づく緊急事態措置として、市民に向けて徹底した外出自粛の要請を行う一方で、事業者に対しては特措法第24条9項に基づく必要な協力の要請として、一定の施設の使用制限等を要請するというもの(B)です。第24条9項は緊急事態宣言とは関係なく発出できるものです。要請に従わない場合の指示、公表という仕組みはありません。

昨年4月の都知事の緊急事態措置等はAではなくBでした。

私は、その当時、Aの緊急事態措置としての施設使用制限等の対象となり、これによって休業を余儀なくされた場合には、休業手当の支払いも不要であろう、他方、Bの必要な協力の要請にとどまる場合には、休業手当の支払いは必要と解すべきだろう、という整理をしていました

これは、Aは、要請とはいうものの、緊急事態宣言を受けた緊急事態措置としての施設使用制限等の要請であり、正当な理由なくこの要請に応じなければ指示がされ、公表に至るものですから、この施設使用制限の対象となって休業を余儀なくされた場合には、もはや不可抗力というべきだろう、他方で、Bは、悩ましいけれども、緊急事態措置としての施設使用制限等の要請対象でない以上は、会社の自主的な判断で営業自粛に至ったという側面があるから、労働者の生活保障の趣旨から、休業手当の支払いは必要だろう、という考えによるものでした。

しかし、実際にはBの必要な協力の要請としての施設の使用制限等の要請がされたにもかかわらず、Aとの違いは明確にされず、むしろ「休業要請」などと報じられておりました。また、都道府県庁の担当職員の方が営業を継続しているパチンコ店等に赴き、かなり強い休業の要請を行っていたようです。つまり、蓋を開けてみると、AもBも実際上大差がありませんでした。

したがって、現時点では、およそ緊急事態宣言下において、都道府県知事による施設使用制限の対象となり休業を余儀なくされた場合には、A、B の区別なく、もはや、不可抗力として、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当せず、休業手当の支払いは不要であると考えています。

他方、行政からの施設使用制限の対象にはならなかったが、市民に向けての外出自粛要請を尊重して、自主的な判断で休業に至った場合は、労基法第26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業として、少なくとも休業手当の支払いは必要になると思います。

4.在宅勤務

1.在宅勤務の利点・問題点

これまで述べた賃金や休業手当の支払いが必要かの論点は、業務の性質等から在宅勤務の実施が困難であることを前提としていました。在宅勤務を行わせることができれば、事業を継続させて収益を上げ、従業員に賃金を支払うことができます。したがって、事業継続という観点からも、従業員の感染防止を図りつつ、賃金や休業手当支払いの要件についての微妙な判断を避けるという観点からも、在宅勤務の積極的な導入は検討の価値があります。

在宅勤務の利点は、通勤時間の短縮、遠隔地の優秀な人材の確保、業務効率化、時間外労働の削減、育児や介護と仕事との両立、ワークライフバランスの実現等です。従来は育児や介護と仕事との両立のために、在宅勤務が利用されることが多かったかと思います。

他方、問題点としては、労働時間管理の困難さ(長時間労働への誘引)、仕事と仕事以外の切り分けの困難さ(中抜けの問題)、情報セキュリティーの確保等が指摘されています。情報セキュリティーの確保は技術的に解決可能ですが、その他の2点は、基本的に労働者が1人で業務に従事することになるため、本質的に労働時間の管理が難しく、労働時間の規制がなじみにくいことの現れと思います。

特に在宅勤務の場合、家で仕事をしていると、雨が降ってきて洗濯物を取り込まなければいけない、宅配便が届いて対応しなければいけないなど、仕事と仕事以外の家事等の私生活との切り分けが非常に難しいです。在宅勤務は育児や介護と仕事との両立のために利用されることが多かったので、仕事の合間に家事等の私生活が行われることが想定されている、中抜けが予定されていると言っても過言ではないかもしれません。

長時間労働対策としては、本年3月25日公表の厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」( 改定テレワークガイドライン) において、メール送付の抑制等、システムへのアクセス制限、時間外・休日・所定外深夜労働についての手続、労働者への注意喚起があげられています。たしかに、在宅勤務においても、長時間労働による健康障害防止を図ることはきわめて重要ですが、私としては、在宅勤務に関しては、長時間労働よりもむしろ、仕事と仕事以外の切り分けが難しいこと、つまり中抜けの問題が本質的ではないかと考えています。

このように、在宅勤務には利点・問題点がありますが、新型コロナウイルス感染拡大防止対応下での現状としては、まず、在宅勤務による通勤の回避は感染拡大防止、感染予防に資するという点が指摘できます。特に東京では、満員電車を避けるだけでも感染拡大の防止、予防に資すると言えます。

それから、休業の回避、事業継続の観点からも在宅勤務は必要だと思います。更に、労基法第26条、民法第536条2項の使用者の帰責性判断には微妙なところがありますので、この解釈を避けるためにも在宅勤務の積極的導入が望まれます。

従来は育児や介護のために特に希望する従業員に対してのみ在宅勤務を導入していましたが、感染拡大防止対応としては、一定範囲の従業員全員に対して比較的永続的に必要になります。

2.在宅勤務を命じることができるか

感染拡大防止、事業継続のためにも在宅勤務は有用ですが、法的根拠なくこれを命じることができるかは別問題です。

実は、私は深く考えずに、賃金の支払いをすれば自宅待機を命じることも可能だから、当然在宅勤務を命じてもいいのではないかと考えていました。しかし、当会の労働問題検討委員会で、ある先生が、自宅は家庭生活を営む場であって、仕事をする場ではないので、在宅勤務を命じられるものでないし、就業規則に在宅勤務の規定を設けるにしても、労働契約法第7条や、第10条の定める合理性があるかは慎重に判断しなければいけないという意見を述べており、そういう考え方があるのかと感心し、文献を調べてみると、学者の先生の中にも、就業規則上の根拠規定がない場合は、在宅勤務を命じることに消極的な意見の方も結構いました。

改めて考えますと、在宅勤務は事業場外における労働者の業務遂行の手段であり、出張に近いものだと思います。必ずしも特別な根拠規定は必要なく、労働契約上、特に在宅勤務を排除していると解されない限り、使用者が業務命令として労働者に在宅勤務を命じることは可能ではないかと整理するに至っています。

ただ、労働契約の締結に際しては、労基法上、使用者が労働者に労働条件を明示する義務が課されています(労基法第15条1項)。中でも就業の場所は契約期間や始終業時刻、賃金等と並んで重要な労働条件として書面交付等の方法による明示が求められています(同法施行規則第5条1項1号の3)。就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しておかないと、この労働条件明示義務違反、明示義務との関係が問題になり得ますので、その点は注意が必要だと思います。

また、有期雇用の場合は契約更新の都度、新たな労働契約の締結がされたものとして、労基法第15条1項に基づく労働条件の明示が必要です。既に在宅勤務を実施させている有期雇用労働者の方も契約を更新して、引き続き在宅勤務を実施させる場合に、労働条件明示書に就労の場所にテレワークの場所を表示しておくという工夫は必要になりますのでご注意ください。

加えて、労務管理の観点からは在宅勤務制度の導入の目的、対象となる業務、対象者の範囲、勤務方法、勤務時の評定の仕方についてルールを定めておくことは重要だと思います。特に在宅勤務は、仕事と仕事以外の切り分けが困難であり、労働者の自律的な業務遂行に委ねるという側面が大きくなります。上司の目、他人の目が届かない場所で、自分1人で自律的な業務遂行は不可能です。あらかじめ一定のルールを定め、そのルールの範囲内で自律的な業務遂行をしてもらうことは、極めて重要なことだと思います。

また、業務命令として在宅勤務を命じることは可能としても、業務命令の内容は合理的なものでなければならず、濫用にわたってはならないことは当然です。在宅勤務は事業場外での就労ですので、①実態に合った労働時間管理の仕方、②具体的な指揮命令、業務報告の仕方、③業務遂行に当たっての費用負担の在り方、④その他適切な就業状況・就業環境の維持に関して、合理的な内容のルールを制定し、それに基づいて在宅勤務を命じることが必要です。


講演中の五三会員

3.費用負担

在宅勤務に要する通信費等は、労働者が労務を提供するのに要する費用です。労働契約とは労働者が労務提供し、使用者がその対価である賃金を支払う構造です。労働者に対して自身の債務を履行するのに必要な費用を負担するように求めることは何ら違法ではありません。

労基法第89条には、就業規則の必要記載事項が明示されていますが、5号には「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」が掲げられています。労働者に費用負担をさせる場合には、就業規則にその旨を規定しておく必要があります。

とはいえ在宅勤務を行う場合には、情報通信機器、通信等の費用が一定程度掛かりますので、在宅勤務を命じる上で会社が必要な費用を負担することが望ましいでしょう。他方、通信費は個人の使用と業務使用の切り分けが難しい側面がありますので、多くの企業は在宅勤務者に対して一定額、在宅勤務手当を支給する方法を採っており、これは極めて合理的な方法だと思います。

4.労働時間の管理

使用者に労働時間を適正に把握し、管理する責務があることは、在宅勤務時においても変わりません。厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従い、労働日ごとの始終業時刻を現認するか、客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録するのが原則だということになります。労働者が在宅勤務に使用する情報通信機器の使用時間の記録等により、労働時間を把握する等の方法が考えられます。

もっとも、在宅勤務時に使用する情報通信機器の使用時間の記録が、始終業時刻を正確に反映できない場合も考えられますので、そのような場合には、労働者の自己申告によらざるを得なくなります。自己申告により始終業時刻を把握する際には、労働者に対する十分な説明、自己申告と情報通信機器の記録との乖離を把握した場合の補正、適正な自己申告を阻害する措置を講じないことなどが求められます。

なお、自己申告による始終業時刻の把握も結構なのですが、そもそも在宅勤務には、一定のルールの枠内において、労働者の自律的な業務遂行が期待されるはずですので、管理者による拘束や具体的業務指示は本質的になじまないように思うのです。そこで私は、本来在宅勤務時には、労基法第38条の2の事業場外みなし労働時間制をより広く適用するのが妥当なのではないかと考えているところです。事業場外みなし労働時間制とは、「労働者が、事業場外で業務に従事し、労働時間を算定しがたいときは、原則として所定労働時間労働したものとみなし、業務遂行に通常必要とされる時間が、所定労働時間を超える場合には、通常必要とされる時間労働したものとみなす」という制度です。

「労働時間を算定しがたいとき」の要件がかなり厳格に解釈されるため、この事業場外みなし労働時間制は実務的になかなか適用されにくいという現状がありますが、厚労省の改定テレワークガイドラインでは、テレワーク時に①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務をおこなっていないことがいずれも認められれば、事業場外みなし労働時間制の適用が可能と考えられる旨の示唆がされています。

①については、勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合はもちろんのこと、勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができるという場合でも、クリアできるとされています。

②については、使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等) をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものでなければ、クリアできるとされています。

要は、在宅勤務を命じた日の業務の具体的な遂行方法や時間配分を完全に労働者の裁量に委ねるのであれば、事業場外みなし労働時間制の適用が可能になるということであり、基本的に妥当な解釈だと思います。

ただし、仮に事業場外みなし労働時間制が適用されても、時間の管理が完全に不要というわけではありません。事業場外での業務の遂行のための通常必要時間が所定労働時間以下である場合は、所定労働時間、労働したものとみなされますが、通常必要時間が所定労働時間を上回る場合には、通常必要時間労働したものとみなされます。通常必要時間がどれくらいなのかという見立てが必要になります。

また、一部事業場外労働の場合、午前中在宅勤務で、午後出社といった場合は、事業内労働時間の把握が必要となり、事業場外の通常必要時間と事業場内労働時間の合計が所定労働時間を超える場合には、事業場外の通常必要時間と事業場内労働時間の合計が1日の労働時間となります。きちんと労働時間を把握しなければなりません。

さらに、事業場外みなし労働時間制が適用されても、労働安全衛生法第66条8の3「労働時間の状況」の把握は必要です。働き方改革関連法により改正労働安全衛生法が施行され、基本的な労働者に対する医師の面接指導を実施するために、事業者が労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと規定されました。労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がどの時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです。労基法の労働時間とは異なる概念ですが、通達によって原則として、タイムカードやPC の使用時間等の客観的な記録によって労働者の労働日ごと出退時刻や入退時刻を把握しなければなりません。在宅勤務者について仮に事業場外みなし労働時間制を適用できたとしても、パソコンの使用時間の記録等、客観的な記録によって、労働者の労働時間の状況も把握が必要ですのでご注意ください。

他方、事業場外みなし労働時間制の適用が非常に難しい場合は、フレックスタイム制(労基法第32条の3)の適用も考えられます。労働者が1カ月などの単位期間の中で、一定時間数労働することを条件として、1日の労働時間を自己で選択するときに開始、かつ終了できることとする制度です。

従来、[図表2]のように、8時〜10時をフレキシブルタイム、10時〜15時をコアタイムとして、その間に休憩時間を消費し、15時〜19時はフレキシブルタイムとすると、どうしても8時〜10時の好きな時間に仕事を始めて、10時〜15時に勤務時間と休憩時間を取らなければならず、15時〜19時の間であれば好きな時間に仕事を終えることができます。

ただ、フレックスタイム制はみなし労働時間制ではありません。労基法上みなし労働時間制は、事業場外労働と裁量労働しかありません。フレックスタイム制は1日の始終業時刻の決定を労働者に委ねるもので、これにより1日の労働時間の伸び縮みを認めるというものです。フレックスタイム制を採用しても、使用者による労働時間の把握、管理は必要になります。

また、フレキシブルタイムを長くしてコアタイムを短く、最終的に無くすこともあります。労働者の自律性、柔軟性を増すことになりますが、あくまでフレックスタイム制は始終業時刻の決定を労働者に委ねるもので、休憩時間を自由に設定するということを当然に認めるものではありません。これらの点に注意する必要はありますが、労働者の自律的な業務遂行に委ねる側面が大きい在宅勤務は、労働者が自らの判断で始終業時刻を決めることができ、比較的フレックスタイム制との親和 性が高いと思います。

5.労働者派遣の注意点

派遣先は派遣労働者に在宅勤務を命じることができるでしょうか。労働者派遣の場合は、労働者派遣法第26条にて、派遣先と派遣元の間の労働者派遣契約において派遣就業の場所は必ず定めなければいけないと定められています。

同法第34条1項では、第26条1項で労働者派遣契約において定めたものについて、派遣元から派遣労働者に対して就業条件として明示することが求められています。実務的に人材派遣会社は、就業条件明示書兼雇用契約書というフォーマットを作り、更新の都度、法定の就業条件を明記した雇用契約書を取り交わしています。明示事項の1つである派遣就業場所は、派遣元と派遣労働者との間の雇用契約、派遣労働契約の内容になると言えます。

更に、労働局は派遣労働者の派遣就業場所について、特に厳格に解釈する傾向があります。派遣就業場所として派遣先の事業所のみが記載されていた場合、在宅勤務をさせようとする場合は、派遣先が不用意に派遣労働者に在宅勤務を命じるのではなく、原則として派遣先と派遣元とで協議した上で、派遣労働者の同意を得ておくのが無難であると考えます。

では、派遣先の正社員に在宅勤務をさせている中で、派遣労働者には全員出社を命じることは可能でしょうか。安全配慮義務は労働契約上の義務です。派遣先と派遣労働者の間には労働契約関係はありませんので、直ちに派遣先が派遣労働者に対して安全配慮義務を負うとは言えません。

しかし、派遣労働者は派遣先の指揮命令の下、派遣先で就業していますので、派遣先は就業の過程で派遣労働者が生命、健康等を損なうことがないようにする注意義務を負っていると言えます(同法第40条4項)。

したがって、派遣先は感染拡大防止等の観点から、正社員に在宅勤務を命じているのであれば、派遣労働者についても同じように可能な範囲で在宅勤務の実施を検討するのが望ましいです。もし派遣先が自社の正社員だけを守り、派遣労働者は派遣元に管理を任せればいいと考えているのだとしたら、それは誤りと言わなければなりません。もっとも、派遣労働者の業態内容等によって、在宅勤務の実施が困難であることを理由に、派遣労働者に対しては出社を命じること自体は法律上問題にはならないと思います。

厚労省の「派遣労働者等に係るテレワークに関するQ&A」では、派遣労働者であることのみを理由として一律にテレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらず公正な待遇の確保を目指す、改正労働者派遣法の趣旨、規定に反する可能性があるとの指摘があります。しかし、派遣労働者の同一労働同一賃金は、派遣先均等・均衡方式、あるいは労使協定方式のいずれかを含むことによって、派遣元が派遣労働者の待遇改善を行うというものです。派遣先が派遣労働者にテレワーク、在宅勤務を命じるか否かは、派遣労働者の同一労働同一賃金の趣旨とは直接には関係しないものと言うべきだと思います。

5.職場における安全配慮等

1.時差出勤

業務内容等から在宅勤務が困難である者に対し、特段の規定変更なく、時差出勤を適用したり、休憩時間を変更したりすることは可能でしょうか。労基法第89条1号は、就業規則には始業時刻と終業時刻、休憩時間を記載しなければならないとしています。

しかし、通常の就業規則には、使用者が業務の都合によって始終業時刻や休憩時間の変更を容認する旨の規定が書かれていると思います。それら規定が置かれている場合は、時差出勤を適用し、休憩時間の変更を実施することが可能だと思います。仮にそういった規定が置かれていない場合には、労使の個別合意によって対応せざるを得ないでしょう。

なお、労基法第34条2項は、休憩時間は一斉に与えなければならないという一斉付与原則を謳い、但書きで、労使協定があればこの限りではないと定めています。この休憩の一斉付与原則には、運送交通業などの特殊な必要があるとされる事業については例外が認められますが、それ以外の一般的な業務については一斉付与原則の適用対象となっています。時差出勤に伴って一部休憩時間帯を変更するといった場合は、労使協定が必要になりますのでご注意ください。

2.その他安全配慮

経団連のガイドラインに、経営トップが率先し、感染防止のための対策の策定、変更体制を整えることや、一定の距離を保てるよう人員配置について見直しを行うことなど、様々な指摘がありますのでご確認ください。

3.労災保険の適用

労災保険給付の対象となるためには業務と疾病との間に、当該業務に内在又は随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が必要だと考えられています。

医療従事者等であればともかく、一般のオフィスワーカーが感染したとしても、業務災害に該当せず、労災保険給付の対象にならないことが多いかと思われます。しかし、厚労省労働基準局補償課長の「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」との通達には、(1)医療従事者等については業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として 労災保険給付の対象とする。(2)医療従事者等以外の労働者で、感染経路が確定されたものについては、感染が業務によるものである場合には、労災保険給付の対象とする。(3)医療従事者等以外の労働者で感染経路が特定されないものについても、複数感染者が確認された労働環境下での業務、それから顧客等との近接や接触機会が多い労働環境下での業務については、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務起因性を判断するとされています。

労災認定がされて、労災保険給付の対象となると、使用者は当該労働者から安全配慮義務違反を主張されて、労災保険でカバーされない慰謝料等の損害について、損害賠償請求を受ける可能性が危惧されます。そういった主張をされないためにも、上記[時差出勤]、[労災保険の適用] のような安全配慮を尽くすことが大事になろうかと思います。

以上になりますが、この講義が企業や労働者にアドバイスをなさる上で、少しでもお役に立てるところがあれば嬉しく思います。