出版物・パンフレット等

成年後見実務の運用と諸問題[前編]東京三弁護士会合同研修会

日時 ― 令和2年12月15日(火) 午後6時00分
場所 ― 弁護士会館2階 講堂クレオ(Zoom 併用)
司会 ― 東京弁護士会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会 委員 柳生 新

1 開会の挨拶 東京弁護士会 会長 冨田 秀実
2 講 演 東京家庭裁判所判事 浅岡 千香子 氏
東京家庭裁判所判事 戸畑 賢太 氏
東京家庭裁判所判事補 島田 旭 氏
3 閉会の挨拶 第一東京弁護士会 成年後見に関する委員会 委員長 藤本 正保

CONTENTS

前編 今月号掲載
(1)データ紹介
 1.後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)
 2.後見開始等事件の終局までの審理期間
 3.開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

(2)コロナ禍における東京家裁の運用等について
 1.審判までに要する時間
 2.本人調査の方法について
 3.窓口対応

(3)裁判所からのお知らせ
 1.後見等開始申立書の統一書式
 2.未成年後見人・任意後見監督人選任申立書の統一書式
 3.申立ての手引等の作成

(4)申立て
 1.本人情報シートの活用状況について
 2.鑑定の実施状況等について
 3.いわゆる囲い込み事案について
 4.本人の同意確認手続(代理権付与)について
 5.弁護士費用、診断書作成費用について

(5)後見事務
 1.代理権がない(限定されている)場合の対応
 2.本人が外国に移住した場合の対応

(6)後見制度支援信託・支援預貯金
 1.金融機関への届出等の必要性について

(7)辞任・引継ぎ
 1.引継ぎに要する費用の負担について
 2.火葬費用の払戻許可の申立てについて

後編 次号掲載
(8)辞任・引継ぎ
 1.後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)
 2.後見開始等事件の終局までの審理期間
 3.開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

(9)その他裁判所への質問
 1.民法918条2項の相続財産管理人の報酬について

(10)後見人等の選任
 1.親族後見人の選任割合について
 2.福祉専門職の選任
 3.訴訟対応を要する案件
 4.特定の課題対応のための専門職選任
 5.資産高額案件における監督人選任

(11)成年後見制度利用促進基本計画について
 1.基本計画後について

(1)データ紹介

後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)

成年後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任について、令和2年1月から10月までの10か月間における東京家裁本庁の終局件数は合計約2520件であり、内訳は、成年後見開始が約1835件で全体の約73%、保佐開始が約430件で全体の約17%、補助開始が約170件で全体の約7%、任意後見監督人選任が約85件で全体の 約3%となっている。これらのうち認容により終局した件数は合計で約2405件であり、全体の約95%を占めている。
平成31年(令和元年)の同時期との比較では、全体の件数については約100件減少し、成年後見開始もほぼ同じ数値で減少しているが、全体の割合、比率等の大まかな傾向は、ほとんど変わっていない。

後見開始等事件の終局までの審理期間

平成31年1月から令和元年12月までの東京家裁本庁及び立川支部における終局までの審理期間は、申立てから1か月以内に終局したものが59.5%、3か月以内に終局したものが93.1%、6か月以内に終局したものが99.0%となっている。 平成30年1月から平成30年12月の同時期と比較してみると、1か月以内に終局した割合については約5%減少しているが、3か月以内に終局した割合及び6か月以内に終局した割合についてはほぼ同様の数値となっている。

開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

平成31年1月から令和元年12月までの1年間における東京家裁本庁及び立川支部において開始された後見開始等事件において選任された後見人等のうち、親族の割合は24.4%、弁護士の割合は21.7%、司法書士の割合は35.1%、社会福祉士の割合は9.8%、市民後見人の割合は1.5%となっている。平成30年1月から平成30年12月と比較すると、全体的な割合の傾向等については、特に変化はない。
なお、この数値は、一つの申立てで弁護士と親族を1名ずつ選任するような場合(関係性の異なる後見人等の複数選任の場合)は、弁護士に1件、親族に1件とそれぞれカウントして集計している。

(2)コロナ禍における東京家裁の運用等について

1.審判までに要する時間

新型コロナウイルスの感染が拡大し、特に令和2年4月に政府による1回目の緊急事態宣言が発令された際は、東京家裁においても感染拡大防止の観点から登庁する職員の数を制限するなどして、業務態勢を縮小する対応をしていた。
このためその間、後見開始等事件においても、保全申立事件等の緊急を要する事件を除いては、通常通りの進行、処理ができないものも多くあった。また裁判所職員のみならず、本人や親族等事件関係者の移動や接触等についても大きな制約が生じていたことから、特に本人の調査や候補者の面接を要するような事件については、その実施に支障が生じ、進行に遅れが出るという状況になっていた。
このような事情から、全体としては事件処理に通常以上の時間を要する状況となっていたが、現在は、当庁の業務態勢及び事件処理について、平時、すなわち緊急事態宣言等下でない通常の状態とおおむね同様の状況に戻っている。

2.本人調査の方法について

東京家裁においては、従来から調査官が直接本人と面接して調査を行う方法で本人調査を実施しており、緊急事態宣言下においても、基本的にはこの原則自体に特段の変化はなかった。
他方で、コロナ禍における面会制限等により、調査官が本人等と直接面接することが困難な場合も多々あったため、一定の事案において、書面による回答や、場合によっては、電話等による応答を求める形で調査を実施した例もある。その場合は、本人の支援者や申立代理人との間で事前に調整を行い、調査を適切かつ迅速に実施できるように対応していた。
もっとも、このような運用は、コロナ禍における一時的な措置として限定的に行っているものであり、あくまで例外的な調査方法として採用していたということをご理解いただきたい。
また、感染症拡大防止の観点から、病院や施設において、面会制限をしている、あるいは面会時間を20分以内とする等の要請を受ける場合もあり、そのような場合は、時間内に必要な調査を実施できるように、事前に調整等して対応している。
また、件数は多くないが、一部の病院や施設においては、外部との面会自体を全面的に制限している場合もあり、調査官による面接実施が困難なため、調査実施の調整がなかなかできず、数か月間、事件の進行が保留となっているという事案もある。もっとも、このような事情のために調査ができない、調査の実施に時間がかかるという理由のみをもって、申立てを却下する等の対応はしていない。

3.窓口対応

東京家裁後見センターの窓口対応は、現在はおおむね平時と同様の状況に戻っており、コロナ禍を理由とした窓口業務等の縮小は行っていない。対応時間は従前と同様、午前8時30分から午後5時までとなっている。

(3)裁判所からのお知らせ

1.後見等開始申立書の統一書式

基本事件の申立てに関する書式は、後見等(成年後見、保佐及び補助)開始申立書、未成年後見人選任申立書及び任意後見監督人選任申立書があるが、最高裁において、まず後見等開始申立書の統一書式が作成され、令和2年4月から全国の家裁で運用が開始された。
その後、各家裁や専門職団体等の意見を踏まえ、いずれも基本的には形式的な修正ではあるが、最高裁において改定作業がなされた。この改定書式について、当庁は令和3年4月から運用開始を予定している。

2.未成年後見人・任意後見監督人選任申立書の統一書式

最高裁において、未成年後見人選任申立書及び任意後見監督人選任申立書に関する書式についても統一書式が作成され、令和3年4月までに全国の家裁で運用が開始される予定である。
運用の開始時期については、各庁の実情に応じて、令和3年4月より前に統一書式を使用することも可能であるとされているが、当庁においては令和3年4月からの運用開始を予定している。
未成年後見人選任申立書及び任意後見監督人選任申立書に関する統一書式は、先行して運用が開始された後見等開始申立書に関する統一書式を参考に作成されているため、例えば財産目録や収支予定表等については同様の形式となっている。
また、いずれの事件についても、初回報告や定期報告で使用する書式、例えば後見等事務報告書、財産目録、収支予定表等については、いずれも形式的な微修正の範囲にとどまっており、令和3年4月の時点で実質的な改定をすることは予定していない。

3.申立ての手引等の作成

後見等開始申立書に関する統一書式と同様、未成年後見人選任申立事件及び任意後見監督人選任申立事件に関する説明書面についても、各庁の実情に応じて作成することが想定されているため、当庁においても統一書式の導入に合わせて、各申立ての手引を用意する予定である。これらの統一書式と申立ての手引については、運用開始と同時期に裁判所ウェブサイトに掲載する予定である。
弁護士会等の関係機関に対しては、令和3年2月以降になる見込みだが、運用開始前に準備が整い次第、各申立ての申立セット(書式)及び申立ての手引について情報提供をさせていただきたいと考えている。

(4)申立て

1.本人情報シートの活用状況について

本人情報シートの提出の件数、割合及びどのように活用されているかについて、ご説明いただききたい。

提出件数・割合

本人情報シートの運用が開始された平成31年4月1日以降に申し立てられた後見、保佐及び補助の各開始審判申立事件及び任意後見監督人選任申立事件のうち、一定の期間内に終局した事件の総数及びそのうち本人情報シートが提出された件数を集計している。いずれも東京家裁本庁及び立川支部における自庁統計の概数である。
後見、保佐及び補助の各開始審判申立事件につき、令和2年7月に終局した事件の総数は320件であり、うち215件で本人情報シートが提出され、提出された割合は67.2%である。令和2年8月に終局した事件の総数は312件であり、うち215件で本人情報シートが提出され、提出された割合は68.9%である。令和2年9月に終局した事件の総数は382件であり、うち268件で本人情報シートが提出され、提出された割合は70.2%である。
任意後見監督人選任申立事件については、同様の数値及び期間で令和2年7月に終局した事件は総数が11件、うち8件で本人情報シートが提出され、提出された割合は72.7%である。令和2年8月に終局した事件は総数が13件、うち8件で本人情報シートが提出され、提出された割合は61.5%である。令和2年9月に終局した事件は総 数が9件、うち7件で本人情報シートが提出され、提出された割合は77.8%である。

活用のされ方

本人情報シートの活用のされ方を紹介する前に、本人情報シートが導入された経緯及び趣旨から遡って説明する。
本人情報シートは、平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画において検討が促されたもので、その後、最高裁判所事務総局家庭局において検討された結果、導入に至った。
本人情報シートの趣旨は、診断書を作成する医師に本人の判断能力についてより的確に判断してもらうためには、本人の状況を把握している福祉関係者から医師に対して本人の日常生活、社会生活に関する客観的な情報を提供した上で、本人の生活上の課題を伝えることが有益であるという考え方に基づいている。本人情報シートの記載内容は、本人と日常的に接している福祉関係者において、本人の生活状況等の情報をより的確に提供できるようにという趣旨に応じて書式が作成されている。
本人情報シートの提出は法律上義務とされているものではないが、当庁としては前述の本人情報シート導入の経緯及び趣旨に鑑みて、可能な限り本人情報シートを作成して提出していただくようお願いしている。
本人情報シートの趣旨及び趣旨に応じた記載内容は、先に紹介したとおりであるから、後見等開始の申立てにおいて、本人情報シートが提出された場合は、本人の判断能力を判定する際の参考資料として活用されているということになる。
本人情報シートは、医師が十分な判断資料に基づいて適切な医学的判断をできるようにするためのものであるため、診断書を作成した医師は、本人情報シートに記載された情報を踏まえて診断書を作成し、その中で本人の判断能力に関する意見を記載するということが想定された。そのため、本人が実際に後見等に相当する状態であるか、あるいは明らかに鑑定する必要がないかどうかということを判断する際には、基本的には、本人情報シートを踏まえて作成された診断書を参考にしている。
また、少し場面が異なるが、診断書の内容に若干の問題が見受けられるような事案においては、診断書の記載内容に本人情報シートの情報を照らし合わせて、鑑定の要否を判断するための補助資料として用いる場合もある。

2.鑑定の実施状況等について

鑑定の実施件数、割合及び鑑定が行われるケースについて、ご説明いただきたい。

鑑定の実施に関する原則及び例外並びに運用

後見開始の審判をするには、家事事件手続法119条1項本文により、本人の精神の状況について鑑定を実施することが原則となっている。もっとも、同項ただし書により、提出された診断書等から明らかに後見相当と判断できる場合には鑑定が省略できるとされており、実務上は、以下に紹介するように、鑑定を省略する割合が相当数を占めている。保佐についても家事事件手続法133条によって同規定が準用されている。
他方で、補助開始及び任意後見監督人選任については、後見及び保佐とは異なり、家事事件手続法上、鑑定を実施することは原則とはされていない。ただし、申立てに際して診断書が提出されていない、又は提出された診断書のみでは本人の判断能力について的確な判断ができない場合には、申立ての要件の有無について判断するために鑑定を実施する必要があるということに変わりはない。鑑定の要否についての考慮要素、鑑定を実施する必要があるケースの主な場合は、基本的には後見、保佐の場合と同様である。

鑑定の実施件数

平成31年1月から令和元年12月までの1年間における本庁と立川支部の後見、保佐及び補助の開始申立て並びに任意後見監督人選任申立ての各事件において、鑑定を実施した件数は合計で589件であり、終局事件全体に占める割合は12.7%である。
もっとも、後見と保佐については法律上、鑑定を実施することが原則であり、補助と任意後見監督人選任はそのような原則にはなっていないという違いがあるため、これらの類型の間でも、実施件数、割合等は異なっている。

鑑定の要否

鑑定の要否を判断する際には、基本的には提出された診断書の内容を検討することになる。その際の考慮要素としては、診断書に精神上の障害が記載されているか否か及びそのように判定された根拠が記載されているか否か、並びに記載内容全体に矛盾がないかという観点から主に検討することになる。
かかる観点から検討した結果、明らかに鑑定の必要がないと認められるか否かについては、個別事件における各裁判官の判断になるので、最終的には個別の判断となるが、実務の参考のため、鑑定を実施する主な例について紹介する。
まず、提出された診断書に記載された本人の判断能力についての意見と、申立ての趣旨に記載された類型との間に齟齬がある場合が挙げられる。このような場合、まずは本人の判断能力の程度を確定するために鑑定を実施し、その結果、申立ての趣旨と異なる結論が出た場合には、その結果を踏まえて、申立人に対し、申立ての趣旨変更について検討を促すことになる。
次に、精神上の障害の有無又は程度について本人に身近な親族等の間で争いがある、あるいは申立ての際に提出された書面等からそのような争いがあることがうかがわれる事案や、本人が後見開始に反対している事案においては、申立時に提出された診断書と別の内容、別の結論が記載された診断書が提出される等、提出された診断書のみでは適切な判断ができない可能性が想定されることが多いので、原則どおり、鑑定を実施することが多いと思われる。なお、このように精神上の障害の有無及び程度について親族間に争いがない、あるいは本人も反対していないという場合であっても、診断書の内容に矛盾があるなど、診断書の記載が不十分な事案においては、鑑定を実施することになる。
上記とは少し意味合いが異なるが、成年後見用の定型書式による診断書でない場合には、定型の診断書で記載を要求している判断の根拠となるような記載が結果として不十分なことが多いため、鑑定が必要となることが多い。

3.いわゆる囲い込み事案について

いわゆる囲い込み事案等のように申立時の診察に協力が得られず、成年後見用診断書が提出できない場合について、以下の事項につきご教示いただきたい。

診断書を提出できない事情説明書(上申書)等のほか、代替的な資料(介護認定主治医意見書等)が提出される場合はあるか。代替的な資料の具体例やその場合の扱いについてご教示いただきたい。

いわゆる囲い込み事案の場合、提出される資料について、成年後見用の定型の診断書が提出されず、代わりに本人について過去のカルテや、場合によっては定型ではない診断書等の資料が提出されることはある。しかし、通常はそれらの資料だけでは本人の直近の状況や、本人の判断能力の類型、すなわち後見か保佐か補助か、いずれに相当するかということが適切に判断できないため、本人の現在の事理弁識能力を判断するに足りる的確な資料とはいえず、このような場合には、原則どおり、鑑定が必要となることがほとんどであると思われる。

申立て受理後、調査官が本人や親族と面談し、診察や鑑定への協力を説得し実現した例はあるか。

通常はまず本人と同居等をしている親族がいるため、その親族に対して親族照会を行い、当該親族の意向を確認している。通常の親族照会では後見開始及び後見人選任についての意向を確認するということをしているが、このようなケースではこれだけでなく、鑑定に協力する意向があるか否かについても照会している。そして、照会の結果、当該親族から後見開始に反対だが鑑定には協力するといった旨の回答があり、実際に手続が進められたという例は一定数ある。
他方で、当該親族が親族照会にそもそも回答しない場合や、協力できない、協力しないというような回答をした場合は、次に当該親族を対象とする調査官調査を実施し、その意向や事情を聴取して、並行して鑑定への協力を求めるというのが一般的な手法となっている。また、このような調査の結果、囲い込みをしていた親族が、当初は協力を拒否していたが、調査官が引き続き説明、説得した結果、最終的に協力を得られたという 例もある。
他方で、本人の事理弁識能力に問題はないといった理由などから、当該親族から手続には反対である、協力できないというような旨の回答がされるなどして、結果的に親族、ひいては本人の協力を得られず、本人との面会の調整すらできないということもある。このような場合には実際に鑑定を実施することが困難であると判断せざるを得ないため、申立てを却下することになり、場合によっては申立人に対して申立ての取下げの検討を促すことになる。

4.本人の同意確認手続(代理権付与)について

保佐の代理権付与申立において、代理行為目録の各項目について本人の同意を確認する手続は、具体的にどのように行われているか、ご教示いただきたい。また、申立てにおける添付資料でその確認が十分となり、本人の同意確認手続が省略される場合はあるか。

保佐における代理権の付与は、民法876条の4第2項により、本人以外の申立てによる場合には、本人の同意が必要となる。したがって、代理権付与の申立てがなされた場合、原則として調査官による調査によって、本人の同意の有無について確認する手続に進むことになる。
同意確認方法の一般的な運用としては、まず保佐開始と同時に代理権付与の申立てがされた場合、全件について調査官による調査を行い、開始についての陳述聴取とともに、代理権付与に関する同意確認を行っている。冒頭のコロナ禍における当庁の運用において紹介したとおり、通常は調査官が本人と直接面接して、裁判所又は本人の居所等において、本人に直接、代理権付与申立時に提出された代理行為目録の各項目について同意の有無を確認する。
他方で、保佐開始後に代理権の追加付与の申立てがなされた場合、同時申立ての場合と同様に調査官による調査を行うこともあるが、申立書に本人の同意書が添付されているといった事情や、諸般の事情を総合的に勘案して、調査官調査による本人の同意確認の手続を省略することもある。
このように代理権付与については本人の同意が必要であり、その確認のために基本的には調査官による調査を実施することとしている。通常は代理権付与の申立ての前に本人から了解が得られていることがほとんどだと思われるが、中には保佐人としては一定の代理権の付与が必要だと考えているにもかかわらず、本人がその付与に同意しないという場合もあると思われる。このような場合であっても、調査官としては代理権付与の申立てがあった場合は、まず申立てがされた代理権の付与について同意するか否かということについて、本人に確認するというのが基本的な姿勢であって、本人がそれに同意しないという場合に、調査官から本人に対して同意するように説得等をするということは基本的に想定していない。したがって、本人が同意しない場合等、あるいは本人が同意しないことが予想される場合には、まずは保佐人において本人に対して代理権付与が必要であるということについて説明、あるいは説得していただくということになるが、それでもなお本人が同意し ない場合というのも実務上あり得ると思われる。
本人が同意しない理由は事案によって様々かと思われるが、仮に本人の利益を守るために一定の代理権の付与が必要であるにもかかわらず、本人がそのことを十分に理解せずに、代理権付与に同意しないという状況である場合、本人の判断能力が保佐相当の状態を超えて、後見相当の状態に至っている可能性も場合によっては考えられる。このような場合には、保佐人において後見開始申立てを行うということも検討していただくことになるかと思われる。

5.弁護士費用、診断書作成費用について

申立代理を弁護士に依頼した場合にかかる弁護士費用や申立てに必要な診断書作成費用は、原則として本人の財産から支出することは認められないとされているが(『別冊判例タイムズNo.36』)、申立人の理解を得るのに大変苦労しているのが実情である。本人の財産から支出することが認められない理由や、例外的に認められる具体例をご教示いただきたい。

家事審判に係る手続費用については、家事事件手続法28条1項により、申立人の負担となることが一般的な原則として定められている。
他方で、後見については本人の利益になる手続であると一般的にはいえることから、同条2項に基づいて手続に必要不可欠であって、かつその金額等が明確な費用、具体的には申立手数料、後見登記手数料、送達・送付費用、鑑定を実施した場合の鑑定費用等に限って、本人の負担とする審判をすることが当庁の運用となっている。弁護士費用及び診断書作成費用については、上記の手続費用には含まれておらず、基本的には、申立代理あるいは診断書作成を依頼した者が負担すべき性質のものといえるため、依頼した申立人が負担するということが原則になる。
しかし、これらの費用であっても、当該事案における申立ての目的及び経緯、費用支出の必要性、金額の相当性や、本人の財産状況等に照らして相当と認められる場合には、後見人の裁量において、本人の財産から支出することが許容される場合というのはあり得ると考えられる。
具体的にどのような場合が該当するかについては、当庁では具体的な事例を把握しておらず、またその判断については個別具体的な事情によるものであることから、具体的な例を挙げるというのは困難である。しかし、あくまで一例として挙げるとすると、例えば本人の生活や財産管理等のために後見手続が必要であって、かつ、申立人が唯一の支援者であるものの遠方に居住している、あるいは多忙等の理由によって自ら申立ての手続を1人で行うということが困難であるような場合には、本人の利益のために必要かつ相当な費用であるとして、本人の財産から支出することが許容されることは多いのではないかと思われる。
反対に、申立ての目的が例えば申立人が相続人となる遺産分割手続を行いたいというような、主として申立人の利益に基づくものである場合、申立人が自ら手続を1人で行うことに特段の支障がない場合、その費用の金額が依頼した内容や、本人の財産額と比較して過大であるというような場合には、本人の財産から支出することを認めるのは難しいと思われる。

(5)後見事務

1.代理権がない(限定されている)場合の対応

代理権の付与のない又は付与された代理権が限定されている保佐人が、代理権がない行為について事実上対応を要する場合(例えばゴミ屋敷等で近隣住民の生活の安全が脅かされている場合等)に、保佐人が工夫して対応している実例等をご教示いただきたい。

当庁において、例示の具体例は把握していないため、一般論として回答する。
代理権がない、あるいは代理権の範囲が限定されている場合でも、保佐人である以上は、本人の心身の状態や生活状況の変化について対応することが求められる。したがって、保佐人は、必要となる対応の内容や、それが付与されている代理権によって可能か否か等を検討した上で、必要に応じて代理権の付与の申立て等の対応を取る必要がある。その上で、それが本人の利益にかなうものであるにもかかわらず、本人がそれを理解せずに代理権の付与に同意しないような、客観的に代理権の付与が必要である場合には、本人の判断能力の程度等についても併せて検討し、場合によっては、後見開始申立てを行うことも含めて検討すべき場合もあると思われる。
このように、代理権がない、あるいは限定されている保佐人であっても、状況に応じて本人の心身の状態や財産を保護し、又は、近隣住民等の第三者に損害が生じないようにするため、対応の要否や可否について検討する必要があることにご留意いただきたい。

2.本人が外国に移住した場合の対応

本人が外国に移住した場合の後見人の職務

本人が外国に移住した場合、後見人の職務はどのようになるのか。

本人が外国に移住した場合であっても、後見手続の終了事由には該当しないため、後見手続自体は継続する。この場合でも、本人の心身の状態や生活状況の変化に対応することが求められることには変わりないため、後見人等として身上保護事務を行う必要があり、適宜の方法で本人の生活状況等を確認する必要がある。後見人の財産管理事務、あるいはそれに伴う事務を行う義務自体もなくなるわけではないため、本人が外国に移住する等の事情の変化に応じて、財産管理の方法について検討する必要がある。その結果として、国内に本人の財産等が残されていない場合や、後見人が直接本人の財産を管理することが困難である、あるいは相当でないという場合であっても、本人又は本人とともに移住する親族等を介する等、適切な財産管理の方法を選択し、その管理がうまくいくかどうかについて監督する形で財産管理事務を行う必要がある。

本人が外国に移住した場合の辞任申立て

本人が外国に移住したことを理由に辞任の申立てをした場合に認められるか。また、これまでに 本人が外国に移住したケース等の実例はあるか。

本人が外国に移住した場合でも、身上保護事務と財産管理事務の双方について後見人として行うべき事務があることには変わりはない。したがって、本人が外国に移住したことのみをもって辞任の正当な理由があるとはいえないと考えられる。
なお、当庁において該当する実例は見当たらないため、一般論となるが、場合によっては、本人とともに移住する親族を後見人に選任するという可能性は想定できる。ただし、候補者である当該親族には、適切に後見事務を行い、裁判所に対して報告を行うことができるという、一般的に後見人として求められる適格性が必要 であることは通常と変わりはない。そして、仮に親族を後見人に選任した場合であっても、外国から裁判所との間で書類や連絡事項のやりとりを定期的あるいは臨時に必要に応じて行うことは、一般的に困難が伴うと考えられる。そのような場合には、本人や親族の間で接点がある専門職後見人が、外国にいる親族後見人と連絡 を取る等の方法で監督を行うことが適切であることが多いと想定される。よって、専門職後見人は、引き続き後見人を継続して行うか、監督人にスライド選任する形で引き続き関与することが適切であるケースが一般論としては多いのではないかと考えられる。

(6)後見制度支援信託・支援預貯金

1.金融機関への届出等の必要性について

信託等後見人に選任された際、被後見人が保有する全ての預金口座の金融機関への届出や、保険・年金等の手続を行う必要があるか。

信託等後見人は、成年被後見人の財産・収支状況を把握・検討した上で、成年被後見人の将来的な生活設計を立てるなどしつつ、成年後見制度支援信託ないしは同預貯金(以下、併せて「信託等」という。)を利用すること自体の適否や、信託等の条件について判断し、これを裁判所に報告した後、裁判所の指示書により信託等の実際の手続を行い、その結果を裁判所に報告するという職責を担っている。そして、信託等後見人は、当該職責を果たした後は、当該事案において専門職後見人としての職務継続の必要性がみられない限り、原則として辞任することが想定されている。
したがって、裁判所の立場からの一般論を言えば、信託等後見人が、成年被後見人の取引先・関係先である金融機関、保険会社、年金関係窓口等に対し、就任時の届出等の手続をどの範囲で行う必要があるかについては、信託等後見人としての前述の職責を果たすのに必要十分な範囲でなされるべきものであって、どこまでが必要十分な範囲といえるのかは、基本的に信託等後見人の裁量判断に任されているものといえる。
もっとも、この点については、後見開始直後のいわゆる「新規事案」と、管理継続中のいわゆる「継続事案」において、若干事情が異なる面もあるように思われるので、前述の一般論を更に敷えんして、以下、場合分けをして述べてみたい。この点、少なくとも、選任時の想定において、在任期間が限定されているということから、直ちに当該届出等の手続が一切不要であるという結論にはならないものと思われる。

新規事案の場合

後見開始直後のいわゆる「新規事案」の場合、当庁後見センターでは一般に、親族後見人と専門職の信託等後見人を併任するに際し、親族後見人には身上保護の事務を、信託等後見人には財産管理及び身上保護の事務をそれぞれ分掌するという職権による権限分掌の審判を行っている。その理由は、新規事案の場合、成年被後見人の財産・収支状況の全貌やその主要な部分が必ずしも明らかではないことから、信託等後見人において責任を持ってこの点を調査し、明らかにする必要があるという点にある。以上の点から、新規事案においては、財産管理事務を分掌されている信託等後見人に対し、信託等事務と併せて初回報告(財産目録・収支予定表の作成・提出)を求めている。
すなわち、新規事案における信託等後見人は、後見開始直後の在任期間中、それが仮に短期間であったとしても、成年被後見人についての財産管理権を専属的に有する地位にある。したがって、新規事案の信託等後見人による金融機関、保険会社、年金関係窓口等に対する就任時の届出等の手続の要否については、信託等の適否・条件等の判断や、その前提となる調査・検討のための必要性という観点のみならず、自らの限られた在任期間中に成年被後見人の財産管理事務を実質的に掌握・遂行する上で必要とされる手続か否かという観点から判断されるべきことではないかと思われる。
この点、金融機関等においては、約款等により、後見開始の際に、その旨や成年後見人の氏名等の届出義務が定められていることも多いものと思われるので、新規事案における信託等後見人においては、少なくとも当該届出義務の存否を確認した上で、必要な届出を行うことが求められる。

継続事案の場合

管理継続中のいわゆる「継続事案」の場合、当庁後見センターでは一般に、従前の親族後見人に加えて専門職の信託等後見人を選任するに際し、新規事案の場合のような権限分掌の審判は行っていない。その理由は、継続事案の場合、親族後見人による従前の財産管理状況に特段の問題が見られず、親族後見人による従前の財産管理とこれに対する裁判所の後見監督によって、成年被後見人の財産・収支状況が一応明らかにされている事案が信託等の利用の検討対象とされており、信託等後見人においても、信託等の利用の適否や条件を判断するために一から財産調査を行う必要はなく、親族後見人が作成した直近の財産目録や信託等の利用に関する親族後見人との協議を踏まえて、前述の適否や条件を検討することが想定されていることにある。
以上によれば、継続事案における信託等後見人においては、前述の検討・判断を行うために、金融機関、保険会社、年金関係窓口等に対する就任時の届出等を行うことは必ずしも必要ではないと判断される場合も多い。

(7)辞任・引継ぎ

1.引継ぎに要する費用の負担について

本人死亡により後見事務を終了した後、被後見人の財産を相続人に引き継ぐ必要等があるが、そのための費用(相続人確定のための戸籍収集費用や後見事務についての報告書等の郵送費用)は、後見人が負担すべきか。

成年後見人においては、成年被後見人の死亡後、任務終了に伴う管理の計算(民法870条)及び管理財産の引継ぎを行う職務上の義務がある。その際に、元成年後見人において相続人調査のために戸籍を収集し、あるいは後見事務に関する報告書等を相続人に郵送するなどの行為は、元成年後見人が前述の職務上の義務を遂行する上で必要な事務であるといえる。
したがって、これらの事務に要する費用は、成年被後見人の死亡後に発生したものであっても、相当な範囲内の実費である限り、民法861条2項の「後見人が後見の事務を行うために必要な費用」に含まれるものであって、元成年後見人が負担すべきものではなく、相続財産からの清算が認められるものと考えられる。
当該清算の方法については、既に相続が開始し、管理財産について相続人が権利を有していることに照らせば、元成年後見人が一旦費用を立て替えた上で、相続人から償還を受けるのが原則である。しかしながら、前述の当該費用の性質に鑑み、元成年後見人が、金額の多寡や相続人の態度等を適宜考慮した上で、引継ぎの前に当該費用額を相続財産から控除して相続人に引き継いだとしても、当庁後見センターとしては特段問題視していない。

2.火葬費用の払戻許可の申立てについて

火葬契約の契約者以外による火葬費用の払戻許可

元成年後見人が死後事務において火葬費用の払戻許可を申し立てる場合、通常は、申立人である元成年後見人が火葬契約の契約者であることが前提となると思われるが、例外的に申立人が火葬契約の契約者ではない場合にも許可が認められる場合があるか。

成年被後見人の死亡後、元成年後見人が民法873条の2第3号に基づく裁判所の許可を受けて火葬に関する契約を締結した場合、当該契約に基づく火葬費用の負担については相続財産に属する債務となることから、当該費用の支払のための成年被後見人名義の預貯金の払戻しについては、同号所定の「相続財産の保存に必要な行為」として許可の対象となり得る(通常は、火葬に関する契約の締結の許可と、火葬費用の払戻しの許可が同時に申し立てられ、同時に判断されてい。)。
これに対して、元成年後見人以外の第三者(例えば、死亡した成年被後見人の相続人等)が火葬に関する契約を締結した場合、当該契約に基づく火葬費用は当該契約の締結者自身が負担すべき債務であって、当該費用の支払のための預貯金の払戻しについては、同号所定の「相続財産の保存に必要な行為」に直ちに該当するものとはいえず、許可されないのが原則である。
しかしながら、死亡した成年被後見人についての火葬又は埋葬が法令上の要請とされている中、元成年後見人が死亡した成年被後見人の相続人らに当該死亡の事実を連絡したところ、相続人らの一人が火葬契約の締結当事者になることまでは了解したが、これに基づく費用負担については頑なに拒否しており、従前の親族間対 立の存在や、死亡した成年被後見人との関係の希薄さなどの事情から、当該相続人に費用負担の協力を求めることは困難ではあるものの、火葬費用を相続財産から支出することについては相続人間において特段の反対がないというような場合もみられる。あくまでも事案に応じた個別判断ではあるが、例えば前述のような場合には、当該事情に照らし、元成年後見人が火葬に関する契約を締結する場合と実質的に同視し得る状況にあるものとして、例外的に、当該契約に基づく火葬費用の払戻しが「相続財産の保存に必要な行為」に該当するものと判断され、許可される可能性もあるものと思われる。

払戻許可を求める火葬費用の金額

払戻許可を求める火葬費用の金額は概算でよいか。概算でよいとすれば、実際に火葬費用を支出して清算をした後の残金などを貴庁に報告すべきか。

払戻しの許可を求める火葬費用の金額については、申立てに際してこれを裏付ける資料(例えば、見積書や明細書の写し等)を提出した上で、当該資料に明示された金額を払戻額として特定していただく必要がある。
元成年後見人において、業者等からあらかじめ具体的な見積書や明細書等の交付を受けることなく、単なる概算額で払戻許可を申し立てたとしても、当該金額についての客観的な裏付けが存在しない以上、裁判所としては、許可するかどうかの判断を行う前提として、前述の裏付資料の追完を求めた上で、これに基づいて改めて申立てに係る払戻額の特定を求めるということになる。
もっとも、このような要請は、火葬の実施前に、あらかじめ1円単位に至るまで厳密な金額の特定を求めるという趣旨ではない。あくまで事案に応じた個別判断ではあるが、諸般の事情により、業者等の見積書や明細書等に必ずしも表れない加算費用等が見込まれるような場合に、当該事情を説明の上、合理的な範囲で当該費用の加算を想定した一定のまとまった総額の払戻しを求めるなどの対応が許容される場合もあり得るし、合理的理由が認められれば、当該総額の払戻しが許可されることもあり得るものと思われる。ただし、これはあくまで例外的な対応として検討されるものであるため、当該対応の必要性・金額の合理性については、申立時に十分な説明をしていただくことが不可欠である。また、その場合に生じ得る払戻額と実際の支払額との差額については、終了時の報酬付与申立てに伴う最終報告の際にご報告いただきたい。