出版物・パンフレット等

成年後見実務の運用と諸問題[後編]

日時 ― 令和2年12月15日(火) 午後6時00分
場所 ― 弁護士会館2階 講堂クレオ(Zoom 併用)
司会 ― 東京弁護士会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会 委員 柳生 新

1 開会の挨拶 東京弁護士会 会長 冨田 秀実
2 講 演 東京家庭裁判所判事 浅岡 千香子 氏
東京家庭裁判所判事 戸畑 賢太 氏
東京家庭裁判所判事補 島田 旭 氏
3 閉会の挨拶 第一東京弁護士会 成年後見に関する委員会 委員長 藤本 正保

CONTENTS

後編 今月号掲載
(8)辞任・引継ぎ
 1.後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)
 2.後見開始等事件の終局までの審理期間
 3.開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

(9)その他裁判所への質問
 1.民法918条2項の相続財産管理人の報酬について

(10)後見人等の選任
 1.親族後見人の選任割合について
 2.福祉専門職の選任
 3.訴訟対応を要する案件
 4.特定の課題対応のための専門職選任
 5.資産高額案件における監督人選任

(11)成年後見制度利用促進基本計画について
 1.基本計画後について

前編 前号掲載
(1)データ紹介
 1.後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)
 2.後見開始等事件の終局までの審理期間
 3.開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

(2)コロナ禍における東京家裁の運用等について
 1.審判までに要する時間
 2.本人調査の方法について
 3.窓口対応

(3)裁判所からのお知らせ
 1.後見等開始申立書の統一書式
 2.未成年後見人・任意後見監督人選任申立書の統一書式
 3.申立ての手引等の作成

(4)申立て
 1.本人情報シートの活用状況について
 2.鑑定の実施状況等について
 3.いわゆる囲い込み事案について
 4.本人の同意確認手続(代理権付与)について
 5.弁護士費用、診断書作成費用について

(5)後見事務
 1.代理権がない(限定されている)場合の対応
 2.本人が外国に移住した場合の対応

(6)後見制度支援信託・支援預貯金
 1.金融機関への届出等の必要性について

(7)辞任・引継ぎ
 1.引継ぎに要する費用の負担について
 2.火葬費用の払戻許可の申立てについて

(8)辞任・引継ぎ

3.辞任許可の申立理由について

成年後見人等の辞任申出について、辞任理由として認められるものや、認めることが困難なものの例についてご説明いただきたい。

成年後見人等の辞任許可の申立てがなされる場合に、実務上見られる申立理由の例としては、①成年後見人等と本人・親族との関係悪化により後見等事務の継続が困難となった旨、②成年後見人等の高齢、病気その他の状況変化により後見等事務の継続が困難となった旨、③成年後見人等あるいは本人の遠隔地転居により後見等事務の継続が困難となった旨、④専門職が対応すべき課題が解決するなどして、今後は、成年後見人等を従前の専門職から、就任を希望してい る親族等(市民後見人を含む。)に交代することが望ましい旨(親族と専門職の複数選任であった場合に、今後は親族のみでの対応が望ましく、当該親族もそれを希望している旨を含む。)、⑤信託等後見人における信託等の適否判断・手続 の終了、⑥同一事務所に所属する複数選任された弁護士らの一人が当該事務所を退所する旨、⑦事務所を法人化した専門職個人が、成年後見人等を従前の専門職個人から当該個人が所属する法人に変更することを希望する旨といったものが挙げられる。
以上の辞任理由を大きく分類すれば、現成年後見人等による後見等事務の継続の困難さを訴える場合(上記①~③)と、状況に即して成年後見人等の選任形態の変更を求める場合(上記④~⑦)があるものといえる。
成年後見人等の辞任について「正当な事由」という要件が課され、裁判所の許可を要するもの(民法844条等)とされている理由は、成年後見人等の辞任によって本人の利益が害されるおそれがある場合に、これを避けるためである。したがって、成年後見人等の辞任に「正当な事由」があるといえるか否かは、一般論として、成年後見人等が主張する辞任の必要性が実際に認められるか否かという点と、当該辞任によって本人の利益が害されるおそれがないといえるか否かという点の判断によるものと思われる。
以下、この点を前述の辞任理由の例に即して若干敷えんする。
現成年後見人等による後見等事務の継続の困難さを訴える場合(上記①~③)については、現成年後見人等が主張する事情によって後見等事務の継続が真に困難であると認められれば、本人のために成年後見人等の交代が必要であり、通常は「正当な事由」があるものとして辞任が許可されるものと思われる。
これに対し、状況に即して成年後見人等の選任形態の変更を求める場合(上記④~⑦)については、前提となる選任形態変更の必要性に加え、選任形態変更後の体制による後見等事務の遂行について不安がないか否かが問題となる。そして、辞任許可とともに通常申し立てられる新たな成年後見人等の選任申立ての候補者や、辞任後に残される成年後見人等の適格性に問題がないと認められれば、本人の利益が害されるおそれはない(あるいは本人にとってむしろ望ましい)ものとして、通常は「正当な事由」の存在が認められ、辞任が許可されるものと思われる。
他方で、辞任許可の申立てにおいてもっともらしい理由を挙げていながら、当該主張に係る事実関係の実態が認められないなど、実質は辞任の必要性が認められない中での一方的な職責の放棄にすぎないものと見受けられるような場合には、当該辞任について「正当な事由」があるものとはいえず、辞任は許可されない。
また、不正行為や不適切事務等を行った成年後見人等が、自らの不正行為や不適切事務等を認めて辞任許可の申立てをする場合もあるが、当該事実が民法846条等に規定される解任事由に該当し、結論として解任相当であると判断される場合 には、当該解任の判断が先行するため、結果として辞任は許可されない。
また、不正行為や不適切事務等を行った成年後見人等が、自らの不正行為や不適切事務等を認めて辞任許可の申立てをする場合もあるが、当該事実が民法846条等に規定される解任事由に該当し、結論として解任相当であると判断される場合 には、当該解任の判断が先行するため、結果として辞任は許可されない。
なお、統計上の数値を伴わない個人的な印象にすぎないが、成年後見人等の辞任許可の申立てがなされた場合に、当該申立てが却下される例は、実際は少ないのではないかと思われる。その理由としては、通常の場合、成年後見人等が辞任許可の申立てを検討する時点で、連絡票等によって裁判所に事前の相談がなされ、そこで方向性について裁判所と一定の協議がなされているということが大きいのではないかと思われる。成年後見人等の辞任については、本人への影響が類型的に大きく、本人の利益を害さない円滑な対応が必要となることから、これを検討する際には、連絡票等によって事前に裁判所に相談し、方向性について裁判所と協議をしておくことが望ましい。

4.本人の死亡前後の預貯金の引き出し及び引き出した現金の管理方法について

(1)本人死亡後の支払に備えた預貯金の引き出し

本人の死亡が間近に見込まれる場合又は本人の死亡直後において、火葬費用、最後の入院費・施設費、後見報酬その他の費用の支払の確保のために、事前又は事後速やかに後見センターに上申し、成年後見人等が管理している本人口座から50万円を超える金額を引き出すことに問題はあるか。

東京家庭裁判所後見センターでは、紛失や盗難の危険を考慮し、原則として50万円を超える現金を保有する場合には本人名義の預貯金口座への入金を求めている。ただし、必要がある場合には、それ以上の額の現金を保有することも容認している。
本人の死亡が間近に見込まれる状況において、本人の死亡後に想定される必要な費用の支払の原資として、成年後見人等がその管理下にある本人名義の口座から50万円を超える現金を引き出して保有することは、当該引き出し及び保有の必要 性がある場合に該当するものと思われ、後見等事務のやり方として不当なものではなく、成年後見人等の裁量の範囲内における事務遂行といえる。
前述の状況における必要な範囲での現金の引き出し及び保有については、必ずしも裁判所への事前連絡は必要なく、終了時の報酬付与申立てに伴う最終報告において事後的に報告いただければよい。
これに対し、本人の死亡直後、本人名義の預貯金口座凍結前の時期に、同様の理由で本人名義の口座から必要な範囲で50万円を超える現金を引き出すことは、本人の死亡に伴う成年後見人等の任務終了後の行為となることから、後見等終了時 の応急処分(民法874条等、654条)又は本人の相続人全員のための事務管理(同法697条)の要件を満たす限りで正当化されるものであり、通常はいずれかの要件を満たすと思われる。したがって、本人の死亡直前の時期における引き出しの場合と同様、必ずしも裁判所への事前連絡は必要なく、終了時の報酬付与申立てに伴う最終報告において事後的に報告することで足りる。
もっとも、当該事後報告においては、裁判所に対し、当該現金の引き出し及び保有が合理的理由1 に基づく必要な金額の範囲で行われたことを説明する必要があり、裁判所においてこの点に疑義があれば、追加の説明や資料提出等を求めることがある。

(2)引き出した現金の管理方法

本人の死亡が間近に見込まれる場合又は本人の死亡直後において引き出した現金の管理方法について、家裁が望ましいと考えている方法についてご教示いただきたい。

引き出した現金は、本人の財産として、成年後見人等の固有財産はもちろん、成年後見人等による他の管理財産も含めた本人以外の他人の財産と混同しない形で管理することが不可欠である。その意味で、成年後見人等に就任している弁護士個人の預り金口座で保管するなどの対応は、ほかの預り金との混同が生じることから、管理方法として許されない。そのような管理方法が採られた場合には、裁判所において本人資産の管理状況を確認するため、当該預り金口座全体の履歴の提出を求めるなどの対応が必要となる。
以上の点が順守されるのであれば、その他の具体的な管理方法の選択については、成年後見人等の裁量判断に任されている。

(9)その他裁判所への質問

1.民法918条2項の相続財産管理人の報酬について

民法918条2項に基づいて選任された相続財産管理人の報酬は、成年後見人等の場合と同様に基本報酬と付加報酬という考え方で算定されているのか。
仮に成年後見人等の場合と異なるとすれば、どのような算定方法か(報酬付与申立事情説明書の記載事項と関係することから伺いたい)。


当庁後見センター扱いの民法918条2項の相続財産管理人の報酬については、当該財産管理人として通常行うことが想定されている業務についての報酬(基本報酬)に、通常業務の範囲を超えて行ったものと認められる行為についての報酬(付 加報酬)を加算するという方法で算定している。
このような基本報酬と付加報酬という体系を採用しているという点は、成年後見人等の場合と同様である。
もっとも、民法918条2項の相続財産管理人は、相続人の法定代理人として相続財産を現状のまま保全し、これを相続人等に引き継ぐことを目的として選任されるものであり、当該法的地位や権限は、本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務を職責とする成年後見人等の法的地位や権限とはおのずから異なる面がある。したがって、同項の相続財産管理人の基本報酬や付加報酬の対象行為等については、成年後見人等の場合との差異を考慮すべき面があるが、一般論をいえば、相続財産の保全又は引継ぎのために特に労力を要した行為を行った場合には、付加報酬の対象となり得る。
民法918条2項の相続財産管理人において、付加報酬を求めるべき業務を行ったと考える場合には、報酬付与申立てに際して提出する報酬付与申立事情説明書において、付加報酬の対象となり得る行為を具体的に記載していただきたい。ただし、当該行為が付加報酬の対象となるか否かは裁判官の個別判断によるものであり、この点は成年後見人等の場合と事情は変わらない。
なお、以上の説明は、専ら当庁後見センターが取り扱う元成年後見人等が相続人等への引継ぎのために申し立てた場合の民法918条2項の相続財産管理人についての説明であり、当庁の通常部が取り扱う元成年後見人等以外の利害関係人が申し 立てた場合の民法918条2項の相続財産管理人選任の場合の運用が、ここで述べた内容と必ずしも同一ではない点についてはご承知おきいただきたい。

(10)後見人等の選任

1.親族後見人の選任割合について

親族後見人の選任は増えているのか。その理由は何か。

裁判所ウェブサイト上に公表されている全ての選任された後見人等(全選任件数)のうち、親族が選任された割合を数値で表した数値(親族後見人の選任割合・全国)は、下記のとおりである。

平成12年4月~平成13年3月 90%以上
平成17年4月~平成18年3月 79.0%
平成22年(1月~12月、以下同じ) 58.6%
平成27年 29.9%
平成28年 28.1%
平成29年 26.2%
平成30年 23.2%
平成31年(令和元年) 21.8%
平成12年は、現在の成年後見制度が始まった年であり、その頃は親族が90%以上選任されていたが、5年経過した平成17年には79%、さらに5年経過した平成22年には58.6%の選任割合となっている。親族の選任割合が50%を切ったのは平成24年となる。直近の5年間、平成27年以降も、親族の選任割合は年々低下している状況にある。
次に、全国の後見、保佐、補助の認容件数に対する親族後見の選任割合は、下記のとおりである。

平成27年 32.4%
平成28年 30.4%
平成29年 28.3%
平成30年 24.9%
平成31年(令和元年) 23.3%
直近5年間は年々低下し、平成27年には32.4%だったものが、平成31年(令和元年)には23.3%まで低下している状況である。
なお、全選任件数の分母は選任された後見人、保佐人、補助人の数であり、認容件数の分母は後見、保佐、補助開始の認容件数となる。1つの事件で複数後見人が選任されるというケースがあるため、親族選任割合の数値が異なっている。1つ の事件について少なくとも1人は親族が選任されたのがどれぐらいかという観点で見て、おおよその数値を示したものが認容件数における割合数値となる。
東京家裁管内(本庁と立川支部)の認容件数に対する親族後見の選任割合は下記のとおりである。

平成27年 40.3%
平成28年 35.5%
平成29年 34.8%
平成30年 28.7%
平成31年(令和元年) 26.5%
平成27年は40.3%であったものが、平成31年(令和元年)は26.5%まで下がり、こちらも年々低下しているものの、全国の数値よりは若干親族選任の割合が高い数値となっている。
上記のとおり顕著に親族の選任割合が低下している大きな要因は、推測ではあるが、親族を候補者とする申立て自体が大きく減っていることが一番大きな要因ではないかと考えている。
親族を候補者とする割合については過去の統計はなく、正確な数値は不明である。もっとも、申立人が区市町村長又は本人申立てである場合には、親族が候補者になることはないため、区市町村長の申立て又は本人申立ての割合(申立人と本 人の関係)を見ることは、親族を候補者としない申立ての参考になると考えられる。東京家裁管内(本庁と立川支部)の直近5年の割合は次のとおりである。

区市町村長又は本人申立親族申立
平成27年 28.1% 68.7%
平成28年 30.6% 65.0%
平成29年 33.7% 61.9%
平成30年 36.6% 59.4%
平成31年(令和元年) 39.6% 56.0%
申立人が区市町村長又は本人である場合の割合は、平成27年以降で見ても年々増加している。
これに対し、親族が申立人になっている割合は、年々低下している。また、親族が申立人の場合でも、必ずしも候補者が親族とは限らない。親族申立てのうち候補者も親族とする場合の統計はないものの、おそらく親族が申立人のもののうち候補者も親族だというのは半分にいかないぐらいではないかというのが個人的な感覚である。
つまり、親族申立てのうち、半分かそれ以上は専門職が候補者になっているか、若しくは候補者一任になっているということである。そう考えると、先ほどの東京家裁管内(本庁と立川支部)の認容件数に占める親族選任数の割合というのは、平成31年(令和元年)の数字は26.5%であるが、親族が候補者の場合に親族が選任されている割合は、かなり高いものと推測される。
令和2年2月以降、親族が候補者になっている事件の割合を本庁で算出したところ、2月から9月の概数でいうと24%程度であった。全体の24%程度しか親族が候補者の事件はなく、実際に親族が選任されている事件は21%程度であったため、親族が候補者になっているものはかなりの割合で親族が選任されていることになる。そもそも、親族が候補者になっている事件自体が非常に少ないと思われる。

2.福祉専門職の選任

法的な課題等がなく、身上保護面での本人のサポートが重要な事案等で、後見人候補者を一任として申立てをした場合、社会福祉士を選任する場合と精神保健福祉士を選任する場合は、それぞれどのような場合か。両者を選任する基準はどのようなものか。

東京家裁では、社会福祉士(ぱあとなあ東京)、精神保健福祉士(クローバー)について、いずれも各専門職団体から東京家裁に提出された名簿に登載されている方については専門職という扱いをしている。候補者一任ということで申し立てられた新規事件のほか、後見開始後の追加選任事件の場合でも、本人の身上保護面でのサポートのため追加選任が必要であり、候補者が立てられていない場合には、家庭裁判所から候補者推薦団体に候補者の推薦依頼をすることになる。
社会福祉士又は精神保健福祉士のどちらに依頼するかについて、結論としては、明確な基準はない。
もっとも、各専門職団体の人員体制は、考慮要素の一つとして考えざるを得ない。東京家裁管内であっても、ぱあとなあ東京及びクローバーの名簿登録者数は、弁護士や司法書士に比べると非常に少ない。特に、クローバーは、数十人しか名簿登録者がいないため、クローバーに推薦依頼する案件は数が限られることになる。全ての地域にたくさんの候補者がいるわけではないという事情がある。
その他得意分野についても考慮している。社会福祉士は高齢者、障がい者、低所得者など幅広い方を対象に支援活動を行っており、精神保健福祉士は、精神障がいの方に特化して支援活動を行っていると伺っている。このことから、クローバーの登録者は、統合失調症などの精神障がいの方の後見等事務に強みがあると思われ、認知症ではなく統合失調症などの精神障がいの方で、障がいに特有の配慮をすべき事情がある場合には、クローバーが適任であると考えている。ただし、社会福祉士も精神障がいの方を支援の対象としており、被っている部分もあるため、明確な基準があるわけではない。
なお、候補者一任ではなく、候補者が申立段階で存在する場合には、特に支障がない限りその候補者をそのまま選任する運用をしている。親族対立があり、候補者の選任について別の親族が猛烈に反対しているような事でもない限りは、候補 者がそのまま選任される。社会福祉士の候補者が立てられているにもかかわらず、精神保健福祉士に変更するというようなことは、通常はしていない。

3.訴訟対応を要する案件

第三者との訴訟をきっかけとして後見開始が申し立てられた場合の後見人の選任について、親族間紛争はない前提で、以下の点はどうなるか。

(1)従来相談対応をしていた弁護士を引き続き訴訟代理人として委任することを想定して、親族を後見人候補者として申し立てた場合、親族を後見人に選任することはあるか。訴訟案件は親族ではなく弁護士を後見人に選任することになるのか。弁護士を後見人に選任する場合に、当該弁護士ではなく他の第三者弁護士を選任することはあるか。

後見人としての適格性がない場合は別として、訴訟対応が予定されていることのみをもって、親族候補者を排除し、選任しないということはないと思われる。
通常、日常の後見事務を遂行するに当たって特段問題がないレベルでの適格性を有する候補者の場合には、親族候補者をそのまま後見人に選任するということになる。
この場合の訴訟対応について、親族が本人を代理して従前相談していた弁護士と別途委任契約を締結して、訴訟対応を弁護士に依頼することもあると思われるが、例えば、その弁護士が、専ら親族のために活動していて、本人と利益が相反するといった特段の事情がない限り、親族からその弁護士に訴訟対応を別途委任することについては特段差し支えないと考えられる。したがって、家庭裁判所からストップをかけることは通常していない。そのため、訴訟対応が予定されていることのみで、別の弁護士を後見人に選任することもしていないということになる。
もっとも、訴訟対応が既に具体的に予定されているにもかかわらず、親族候補者が相談している弁護士が存在せず、誰に相談したらよいか分からないというような場合には、親族後見人に加えて、訴訟対応のための弁護士を後見人として選任する可能性はある。
また、親族が従来から相談していた弁護士による対応では本人の利益が害される、親族の利益だけが確保されるというような事情があるような場合には、親族後見人とは別の第三者弁護士の複数選任にするか、又は弁護士の監督人を選任することは考えられる。

(2)成年後見制度支援信託、支援預金の利用が見込まれる場合に違いはあるか。

信託等(成年後見制度支援信託、支援預金)の利用が見込まれる場合についても同様の結論になる。
後見開始時、新規案件で資産高額ということで信託等を利用する場合、通常は親族後見人に加えて信託等後見人を複数選任しているが、親族後見人が訴訟対応を別途、従来から相談していた弁護士に依頼するのであれば、信託等後見人は信託等後見人として選任して、信託等の手続を行っていただくということが一般的な流れになると思われる。
他方で、親族後見人が相談をしている弁護士が存在せず、訴訟対応もしなければならない場合には、信託等ができ、かつ訴訟も対応可能な弁護士を、親族とともに後見人に選任し、その弁護士に訴訟対応と信託等手続の両方の対応をお願いすることは十分に考えられる。

4.特定の課題対応のための専門職選任

親族保佐人が選任されている事案で、本人(被保佐人)に関する特定の課題の解決のために、親族保佐人に加えて専門職保佐人を短期で選任する場合にはどのようなケースがあるか。また、その課題が解決後、そのまま専門職保佐人が残るケースとしてはどのような場合があるか。

親族保佐人だけでは対応が難しく、解決には専門職の関与を要するような特定の課題があり、かつ、その親族保佐人が弁護士へ相談する等していない、現に支援を受けていないといった事情がある場合には、専門職保佐人による対応が必要であると考えられる。
しかし、その課題が比較的短期間で解決が見込まれるものであり、かつ、課題が解決すれば親族保佐人だけで保佐事務の遂行が可能であると見込まれるような場合には、専門職保佐人を短期で追加選任するということがあり得る。
例えば、本人が借地上の建物を有しているというような場合で借地権に関する取引が予定され、その借地権の評価が難しい事案や、地主との交渉が困難と思われるような事案では、専門職の関与が必要になる可能性がある。
また、例えば遺留分に関して交渉する必要があるような場合には、弁護士でなければ対応が困難になると思われる。
そのほか、本人と親族保佐人との利益相反するような課題がある場合は、通常は臨時保佐人を選任して対応することになるが、どのような解決方法にするかという方針すら定まっておらず、臨時保佐人だけでは対応が困難というような場合には、専門職保佐人との複数選任にする可能性がある。
予定どおりに課題解決すれば、解決後、通常は専門職保佐人が辞任することになる。しかし、例えば、課題解決により、本人に収益物件であるアパート等の財産が入って、その管理が親族保佐人だけでは困難であり、親族保佐人においても専門職保佐人による財産管理を希望しているというような場合や、当初判明していた課題とは全く別の課題が発見されて、引き続き専門職による対応が必要となる等、継続的に対応する課題が確認されたような場合には、そのまま専門職保佐人が長期にわたって続投する可能性はある。

5.資産高額案件における監督人選任

親族後見人が選任されている場合で、本人の流動資産が1000万円を超えても後見監督人を付けない場合には、どんな場合があるか。これに対して専門職後見人が選任されている場合はどうか。

東京家裁では、後見サイトの「後見センターレポート」、「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q & A付)」等において、親族後見人が選任される事案を前提にして、一般に本人の流動資産が1000万円以上あって、かつ、信託等を利用しない場合には後見監督人を選任するようにとの案内をしている。
流動資産額が1000万円を超えていなくても、重点的な監督を要するようなケース、例えば本人と後見人との間に高額の立替金があって、その精算について本人の利益を特に保護する必要がある場合や、本人から親族に対する多額の贈与が予定 されている場合などにも監督人を選任することはある。東京家裁における監督人選任の在り方については、令和2年1月の「後見センターレポートVol.22」を後見サイトに掲載しているので、ご参照いただきたい。
この裏返しで、本人の流動資産が1000万円以上であっても、信託等が適切に利用され、手元金が少額になっており、かつ親族による後見事務も特段問題がないということであれば、監督人は選任しないという場合があり得る。1000万円というのも、おおよその基準であり、例えば1030万円ぐらいで年間収支は大幅赤字であり、数か月で1000万円を切る見込みがあるといったような場合には監督人の選任を当面留保する可能性はあり得る。
他方で、弁護士等後見人が専門職である場合、専門職団体の方で研修を義務付け、保険加入等を条件とする等により事実上監督をされているという事情を考慮して、1000万円を超えたからといって直ちに監督に選任するという運用はしていない。
しかし、東京家裁では、専門職の後見人等である場合であっても、本人の流動資産額が1000万円を超えて相当高額に至っている場合では、後見人の職種、財産内容、事案等を踏まえて、裁判官が必要と判断した場合に監督人を選任している。後見人が専門職である場合の金額の目安は公表していないので、ご理解いただきたい。

(11)成年後見制度利用促進基本計画について

1.基本計画後について

基本計画後の中核機関、家裁、後見人等(専門職、親族それぞれ)の関係に関して、家裁として中核機関に期待することや、家裁による後見人等への監督の在り方が今までと変わるのかなどについて、教えていただきたい。

成年後見制度利用促進基本計画

  1. 利用者がメリットを実感できない要因
    平成29年3月の国の基本計画では、成年後見制度の利用者が利用のメリットを実感できていないケースが多いという指摘がされている。
    その要因として挙げられているのは、第三者が後見人になるケースの中には意思決定支援や身上保護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされているものもあるという点や、後見等の開始後に本人や親族、さらには後見人を支援する体制が十分に整備されていないという点である。本人や親族などからの相談は、家庭裁判所がこれまで事実上対応していたが、家庭裁判所は、監督はできても、福祉的な観点から本人の最善の利益を図るために必要な助言を行うということは困難である。

  2. 中核機関等の必要性
    続いて、基本計画ではそのような現状を踏まえて様々な施策目標が掲げられている。そのうち、本人を支援するチーム体制、地域連携ネットワーク及び中核機関(これらをまとめて「中核機関等」ということがある。)の必要性については次のようなことが述べられている。
    まず、一つ目のチーム体制の構築については、本人の自己決定権を尊重し、身上保護を重視した成年後見制度の運用を行うために、本人の状況に応じて、本人の身近な親族、福祉、医療、地域の関係者及び後見人といった人たちがチームとなって日常的に本人を見守り、また本人の意思や状況を継続的に把握して必要な対応を行う体制を構築すること、さらに、福祉、法律の専門職が、専門的な助言、相談対応等の支援に参画する仕組みを整備するということが挙げられている。
    次に、地域連携ネットワークの整備に関しては、各地域における相談窓口を整備するとともに、成年後見制度の利用が必要な人を発見して適切な支援につなげる地域連携の仕組みを整備するということが挙げられている。そして、地域連携ネットワークのコーディネートを担う中核的な機関(すなわち中核機関)の設置に向けて取り組むということが挙げられている。
    中核機関等に期待される役割としては、権利擁護支援の必要な人の発見・支援、早期の段階からの相談対応体制の整備、意思決定支援・身上保護を重視した制度の運営に資する支援体制の構築という三つが挙げられている。そして、中核機関等が担うべき具体的機能としては、広報機能、相談機能、成年後見制度利用促進機能、後見人支援機能という四つの機能と不正防止効果というものが挙げられている。

  3. 不正防止の徹底
    基本計画では、不正防止の徹底ということがうたわれており、①中核機関等の整備による不正防止効果、②専門職団体による取組、③その他という三つが挙げられている。
    ①中核機関等の整備による不正防止効果については、不正事案は親族後見人の理解不足から生じるケースが多く、地域連携ネットワークにおけるチームによって見守っていく中で不正を防ぐ効果が期待できるとされている。これは、中核機関等が直接監督をするということではなく、チームにより見守ることで不正防止効果が期待できるという趣旨であると解される。
    ②専門職団体による取組については、本人の意思を尊重しつつ、後見人による不正防止等を含めた本人の権利擁護をより確実なものにするために、特に法律専門職団体は、後見人に対して積極的に指導・助言を行い、後見等事務について不適切な点を発見した場合は、家裁と連携し適切に対応するものとされている。この不適切事務の防止のために家裁と連携しながら積極的に指導・助言を行うという点は、非常に重要だと考えている。
    ③その他についての説明は省略するが、法務省等で色々な方策を検討するものとされている。

(2)基本的視点

  1. 東京家裁の取組状況
    上述の基本計画を踏まえて、これまで東京家裁がどのように取り組んできたかを紹介する。
    東京家裁では、平成29年に基本計画が出されて以降、中核機関等が期待された機能を発揮できるようにするための後押し策を進めてきた。
    まずは、基本計画が目指す後見制度の完成形をイメージしてもらうべく、東京三弁護士会を含めた専門職団体と協議しつつ、東京都や東京都社会福祉協議会(都社協)とも意見交換を重ねて、平成30年3月28日に完成形のイメージを提示した。 その後、平成31年4月に都社協が「地域と家庭裁判所の連携による成年後見制度の新たな選任・利用支援のしくみ」というものを取りまとめているが、この「新たなしくみ」を取りまとめるに当たって、家庭裁判所も都社協及び東京都と意見交換を行い、このしくみづくりに協力した。
    このほか、既存の協議会等における意見交換も行っている。家裁では、例年、家事関係機関との連絡協議会(いわゆる「家連協」)を開催しており、そのほかに、東京都が主催している会議や、都社協が恒例で開催している研究会なども行われ、さらに、平成31年度からは、東京都の主催で「地域と家裁の連絡会」というものも試行的に行っている。「地域と家裁の連絡会」は、都内のいくつかの自治体を集めて、東京都や専門職団体を含めて家裁との協議の場を設けるものである。
    このような場を使って、専門職団体や中核機関側に対して、家裁における後見制度の運用状況の説明や今後の目指すべき制度運用の在り方についての意見交換などを行っている。

  2. 監督と支援
    基本計画を踏まえた取組を進めるに当たっては、各関係機関が連携するとともに、適切な役割分担が必要であると考えられる。
    ①まず、家庭裁判所としては、民法に基づいて後見人等の「監督」を行うべき立場にある。後見人からの定期報告を通じて監督するだけではなく、不正があれば解任も行う。
    家庭裁判所による監督の在り方は、後見人に広範な裁量権があることを前提にして、裁量の逸脱若しくは裁量権の濫用が認められる又はそれらのおそれがある場合に、後見人に対して一定の指示などをするというもので、これは基本計画の前後を通じて基本的に変わらない。
    ②次に、後見監督人は、本来的には後見人の事務の監督が職務ということになるが(民法851条1号)、監督人自身が、後見人の事務の監督をすることについての善管注意義務を負っており(民法852条、644条)、後見人が適切に事務を行っていない場合には必要な指導・助言をして後見事務を適正なものにする必要がある。そのため、法律上定められた後見監督人の事務を行うに当たって、それに付随して後見人に対する指導・助言や相談対応を行うという役割が期待されているものと考えられる。
    このような不適切事務の是正や防止という観点から行われる指導・助言というのは、ある種の後見人に対する支援的な役割という言い方もできる。これは、上述した基本計画において専門職団体の役割として期待されているところかと思われる。
    資産高額事案において監督人が選任されることがあり、これは、基本的には本来的な監督機能というものを期待して監督人を選任しているわけであるが、後見人が親族である場合には、後見事務に不慣れであるということから、不適切事務の是正や防止という観点で、監督人から後見人に対して指導・助言を要するケースは多々あると思われる。裁判所としては、そのような指導・助言という意味での支援的役割を期待して監督人を選任することもあるということを意識していただけると大変ありがたい。
    ③続いて、中核機関等による後見人支援機能については、関係者がチームとなって日常的に本人を見守る体制をつくるということと併せて、本人の権利擁護や、身上保護、意思決定支援など福祉的な観点から、特に親族後見人に対して日常的な相談対応を行うという意味での支援が中核機関等には期待されている。
    ご存じの方も多いと思われるが、令和2年10月30日に政府のワーキンググループから「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が公表された。その中では本人の意思決定を支援するチームを編成して、ミーティングを行って意思決定支援を行うということになっており、その際には必要に応じて中核機関等のサポートを受けるものとされている。
    このような中核機関等による支援というのは、基本的には福祉的な観点から行われるもので、まさに福祉行政の一翼を担う中核機関等だからこそ適切にできるものと考えており、基本計画の目指している意思決定支援・身上保護の重視といった制度運用のために必要不可欠である。従来は、この部分が非常に不十分で、家庭裁判所も対応ができていなかったという基本計画の指摘はまさにそのとおりであり、中核機関等に最も期待されるのはこの部分であるといえる。
    先述のとおり、中核機関等による支援が不正防止の効果をもたらすということが指摘されているが、それは、中核機関等に監督機能を担わせるという意味ではなく、見守りや福祉的な観点からの支援をする中で、いわば副次的な効果として不正防止の効果も期待できるという趣旨であると理解している。
    ④中核機関等による支援と監督人による指導・助言というのは、基本的には異なる観点からなされるものと理解しているが、実際には線引きが難しく、重なり合う部分もあろうと考えている。専門職の方々においては、監督人という立場で 親族後見人に関わる場合、まずは本来的な監督という観点から親族後見人の後見事務を見ていくことになると考えられるが、それだけではなく、専門職ならではの経験を生かして、例えば後見人の裁量の範囲内のことではあるものの、より良い後見事務のために福祉的な観点も踏まえて色々なアドバイスをすることも十分あり得、それはそれで望ましいことと思われる。
    また、専門職の方々には、純粋な監督人としての立場とは別に、中核機関等の活動を支えるという観点での活動に携わる方もたくさんおられると伺っている。その場合は、どちらかというと中核機関側の立場に立った支援が行われるということであると理解している。

(3)今後の監督・支援の在り方

  1. 中核機関等による支援
    今後の監督や支援の在り方について若干補足する。
    中核機関等は、後見の開始前から様々な形で本人や親族に関わることが想定されるが、後見開始後における中核機関等による後見人支援としては、①後見が開始した直後にミーティング等を行う、②後見開始後に随時のタイミングで相談対応等を行う、③定期的なモニタリングを行うといったことが考えられる。
    この三つ目の定期的なモニタリングの実施時期については、もちろん個別の事案ごとに柔軟に対応してよいということになるが、一つの方法としては、家裁への定期報告のタイミングに合わせて実施するというのが受け入れやすいと思われる。東京家裁では、全ての後見人に年1回の定期報告を求めているため、その機会に、もし後見人から希望があれば、中核機関等において定期報告書類の作成支援を行うことが考えられる。その際に、後見事務の実施状況について確認したり、ニーズを踏まえて集中的な支援を行ったり、場合によっては支援方針の再検討、見直しをしたりするということも考えられる。このモニタリング実施のタイミングは、年1回の定期報告のときが良い機会だと思うが、例えば後見開始直後からしばらくの間はもう少し頻度を多くして、慣れてきたら年1回に減らしていくというやり方もあり得る。
    このような支援は、定期報告の書類の作成支援自体に目的があるというよりは、そういったことを通じて後見事務の全体の状況を確認した上で、必要な支援を行うことにつなげるというところに大きな意味があると思わる。もちろん、中核機 関等において直接監督をしていただくということではない。
    そして、支援対象となる「後見人」というのは、主には親族が想定されているが、専門職の後見人が対象外ということではなく、専門職もそういった支援を受けることは可能と認識している。ただし、専門職の場合は、少なくとも報告書の作成支援というのは通常は必要がないと思われるので、例えばミーティングを行うなどといったことで、適宜、情報共有や連携を確認したりするということが主な支援内容になると思われる。

  2. 家裁の監督
    現在、東京家裁では、年1回の定期報告を求めており、また、後見開始後約2か月の間に初回報告を求めている。その監督の在り方は、状況に応じてどこに重点を置くか等が今後変化していくことはあり得るが、現時点では、初回報告や定期報 告の方法自体は基本計画ができたからといって大きく変わることは予定していない。従来どおり、後見人からの報告書なり添付書類などは直接家裁に提出していただくということでよい。監督人が選任されている場合は、監督人を通じての提出ということになるが、その方法自体も変わらない。
    また、後見事務の遂行に関して、例えば重要な財産を処分するような場合は、連絡票を家裁に入れていただくことになるが、その場合の家裁のスタンスも基本的にはこれまでどおりである。後見人には広範な裁量権があるということを前提として、もし裁量の逸脱ないし濫用と認められる、あるいはそのおそれがあるという場合には、裁判所から再考を求めることがあるが、そうでなければ裁量判断に委ねることになる。裁量の範囲内の事柄について判断に迷ったときは、本人を支援するチームや、地域連携ネットワークの中で相談していくのがよいと考えている。