出版物・パンフレット等

スクールロイヤーの実務 ~経験者から学ぶ~

森本 周子(52期) ●Chikako Morimoto
当会会員
【略歴】
2000年 弁護士登録
2003年 南カリフォルニア大学LL.M. 取得
2004年 ニューヨーク州弁護士資格取得
2005年~ 子どもの権利委員会所属(2016年度委員長)
2009年 日弁連国際室嘱託
2011年 東京都子供の権利擁護専門員
2018年 東京都教育委員会 学校問題 解決サポートセンター委員
2019年~ 江東区スクールロイヤー


伊東 亜矢子(55期) ●Ayako Ito
当会会員
【略歴】
2002年 弁護士登録
子どもの権利委員会所属(2013年度委員長)
2016年 関東弁護士会連合会シンポジウム
「医療と子どもの権利」実行委員副委員長
2019年~ 江東区スクールロイヤー


鬼澤 秀昌(67期) ●Hidemasa Onizawa
当会会員
【略歴】
2014年 弁護士登録
2015年 TMI 総合法律事務所入所
2017年 おにざわ法律事務所開設
2019年~ 江東区スクールロイヤー
2020年~ 文部科学省スクールロイヤー 配置アドバイザー

Ⅰ スクールロイヤーについて

1 スクールロイヤーの役割

【鬼澤】法律的にスクールロイヤーとは何かの決まった定義はありませんが、大まかな共通認識として、子どもの最善の利益のために学校や教育委員会に対して法的側面を踏まえたアドバイスを行い、問題を未然防止、早期解決を図るお手伝いをするというものです。

2 実際の相談事例

実際の相談事例についていろいろな類型をご説明します。例えば不登校に関する相談や保護者からの過度な要求への対応、いじめの被害者、保護者からの訴えなどへの対応が挙げられます。それ以外にも教員の非違行為、給食費や教材費などの未納問題等についてもサポートをさせていただいています。

3 文部科学省・日弁連の動き


文部科学省「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き」

スクールロイヤーに関する文科省の動きをごく簡単に解説します。最近、国の政策として弁護士の活用が提案されたのは、平成27年の文科省の中央教育審議会です。日弁連が不当要求に対する対応についてさまざまな知見を持っていることから、これを学校現場にも活用できないかと始まりました。
次に2017年度から2019年度にかけて、いじめ防止等のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究事業が実施されました。いじめ予防等に弁護士が関わるというもので、いじめに対するアドバイスのみならず、生徒に対するいじめ予防授業などの役割も含まれていました。日弁連も2018年1月18日に、「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」を発表しています。
また2019年に、野田市で女子児童が虐待されて亡くなってしまうという事件が起き、もしスクールロイヤーが事前にアドバイスできていればそういう深刻な事態は防げたのではないかという意見が出され、制度構築の流れが一気に加速しました。
このように、2019年度までは、不当要求やいじめ対応、虐待対応など、個別のテーマごとにスクールロイヤーの有効性が考えられてきたということです。
令和2年度(2020年度)からは、より幅広く弁護士が対応することが模索され、都道府県及び指定都市教育委員会における弁護士などへの法務相談経費について、普通交付税措置が行われました。これはいじめ問題や保護者への対応に限るものではなく、相談全般に対して使える経費になります。
ただ1点注意していただく必要があるのは、地方交付税というのは総務省から各自治体に対して配られている税金ですが、あくまでその使い道に関して、自治体において予算として計上しない限り、使うことができません。ですから、各自治体において、議会で計上すれば法務相談に使うことのできる費用が配布されているということをご理解いただければと思います。
そのような流れの中で法務相談経費の活用をより促進するために、2020年12月に文科省が「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き」という資料を発表いたしました。こちらはホームページに公表されているので、皆さんも全文ご覧いただけます。
また日弁連でもその文科省の手引きの発表に合わせて、学校・教育委員会に対する弁護士の関わりの在り方についての情報提供ということで、各単位会に情報提供文書を発出しています。
日弁連の意見書の中ではスクールロイヤーはあくまでアドバイスをするだけで、対外的な代理などは行わないという前提で書かれていましたが、この情報提供文書は日弁連の意見書で定義した「スクールロイヤー」をあくまで関わりの在り方の1つとしていて、代理人としての活動も含めて整理しているというのが特徴になります。

4 スクールロイヤーへの相談方法

スクールロイヤー制度自体は、やはりなかなか実態をつかみにくい一面があります。なぜかというと、制度がさまざまだからです。どうさまざまなのかということを少し具体的に申し上げますと、まず相談者が誰かというのも制度によって違ってきます。
教育委員会で主に動かれる指導主事の方々からの相談や、校長などの学校の管理職からの相談、更にはより広く一般の教職員などが相談できる制度もあります。
相談ルートについても、例えば校長が直接事務所へ電話したりしてアクセスできる場合もあれば、一度教育委員会を通すことをお願いしている制度もあります。また相談日についても随時問題が起きたときにすぐ相談が可能な制度もあれば、決まった相談会の日に相談をすることもあります。
メールや電話などのリモートで対応することもあれば、学校や、弁護士の事務所、教育委員会で面談をするなど場所についてもさまざまな形態があり得るところです。

5 勤務形態

勤務形態も、かなりさまざまです。教育委員会の常勤職員又は非常勤職員として、教育委員会に行って相談を受けるという形もあります。外部アドバイザー形式を取る場合もあります。
業務内容は学校現場の相談や、教育委員会として検討が必要なことの相談、研修なども行います。相談内容については先程お話ししたとおり幅広くありますが、特に教員の労務問題なども含むのかという点についてはまだ議論が深まっていないものの、多くの場合は相談が来たらそのまま受けているという印象があります。
教育委員会(学校)を代理して活動するか、保護者との面談に同席するかどうかも制度によって異なりますが、相談を受けた弁護士がそのまま代理をした方が、引継ぎの手間もなくなりますし、一貫した対応が可能になるというメリットがあります。他方で、代理をする弁護士はアドバイザーとは別にした方が、よりアドバイスをする弁護士が中立な立場であると示しやすくなるとも言えます。現状は後者の方が多い印象です。

6 他職種との連携・報酬

他職種との連携や報酬などについても、それぞれ設計が必要になってきます。スクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラーなどが連携機関として考えられますが、例えば相談に同席したり、定期的な協議会を開催したり、各機関から相談を受けたりという連携が考えられます。
また弁護士の皆さんにとって、報酬体系は気になるところかと思いますが、これも相談ごとに1時間単位で支払われる形もあれば、月額固定で支払われる形もあります。
相談ごとの支払いの方が、当然何に対して対価を支払っているのかということが明確になりやすいという点がメリットです。他方で、特定の時期に相談が集中していますと、それ以降になかなか予算が使えなくなってしまうというデメリットがあります。月額固定の場合は、まさにその裏返しというのがそれぞれのメリット、デメリットになるかと考えております。

7 留意点

制度設計をするときの留意点としましては、やはり独立性が強く要請される調査委員会(典型的な例は第三者委員会)の委員とスクールロイヤーとの兼任というのはやはり回避すべきではないかと考えております。利害関係のない第三者とは言えないと解されるためです。
また、利益相反についてもやはり注意が必要です。どの範囲が利益相反で受けられなくなるのか、教育委員会との間でしっかり合意を取っておく必要があります。
また、例えば保護者同士のトラブルになっているときに、学校がどのように関与すべきか想定しておくと対応がスムーズになります。
そういう場合には弁護士の相談窓口を紹介することで、問題解決を図っていく方向性もあるかと思われます。特に我々は二弁所属なので、キッズひまわりホットラインや子ども学校ADR の活用などについても提案させていただいたりしています。

Ⅱ 江東区における取り組み

1 担当校数・相談方法

【森本】江東区と第二東京弁護士会では、2019年度から協定を結んで、二弁から3名の弁護士を派遣しています。
現在、江東区では区立の幼稚園、小学校、中学校が約90校あり、それを3つの地域に分けて、弁護士1名あたりそれぞれ30校ずつ担当しているという形になります。
昔からの下町的な地域と、最近開発された地域とでかなり違いがあり、相談内容にも特殊性があります。
江東区では基本的に、まず各校の管理職が教育委員会に対して、相談内容を相談フォーマットに記入・送付します。その中で教育委員会が、これはスクールロイヤーに相談しようと決めたものを私たち弁護士が対応する形になっています。
この制度が始まって2年目からは、学校の先生方から、もう少し迅速に直接弁護士に相談したいという声が挙がりました。
そこで、一度教育委員会に一報を入れれば、その後は各校の校長先生などからスクールロイヤーに直接お電話やメールで相談していただけるように、制度設計を少しずつ変えています。
ただ、教育委員会と学校との意見に相違がある場合もあり、そのような場合には、対応に苦慮することもあります。

2 相談件数・内容・報酬等

相談件数はその地域の特性や時期にもよりますが、1人当たりが平均月2~3件で、多いときは5件以上です。ただ、1回の私たちの助言だけで終わるケースもあれば、1件が長く継続する場合も多くあり、何度も教育委員会とやり取りをしたり、私たちが学校に出向いていって直接ご相談を受けるというケースもあります。
内容は、やはりいじめのご相談は多く、あとは学校事故、不登校、教師とのトラブル、保護者間のトラブルなどがあります。
給食費、教材費の未納はとても難しい問題です。保護者からの要求への対応についての相談も多くあります。その中には、過剰な要求に学校の先生方が疲弊されているというケースもあります。
報酬は相談件数にかかわらず、月額の固定でいただいています。
なお、子どもや保護者の方からの相談は受けないということで行っています。これは他の地域のスクールロイヤーの制度もおそらくそうだと思うんですが、利益相反の問題が出てくるからです。私たちは学校の味方というわけではなく、子どもの最善の利益を守ることを一番の目的とはしますが、教育委員会から委託を受けて報酬も出ていて、そちらに対してアドバイスをするという立場から、やはり子どもや保護者の方からの相談というのはダイレクトには受けられないという形になっております。

3 教育委員会・スクールソーシャルワーカー(SSW)との連携

教育委員会との2カ月に1回の定例会(協議会)があります。全体の案件に関する情報共有や制度設計に関する意見交換をしています。
今年から、スクールソーシャルワーカー(SSW)の方と年に3回、協議会を開催させていただくことになりました。SSWの方はスクールカウンセラーとは違って、実際に不登校になっているお子さんなどの自宅を訪問したりして環境調整をすることがメインのお仕事です。
例えば、不登校の子どもが抱える家庭環境や発達に関する課題などを見極め、通院に付き添ったり、家族と面談を行うなどして、環境調整を行い、教育的視点だけでなく、福祉的視点から子どもやその家庭を支援されているケースが多くあります。
そういうお話をお聞きして、SSWの方の見立てと、私たちスクールロイヤーのアドバイスを組合せ、どのように事案に対応していくか、意見交換をしています。これは本当に有意義で、他の地域でもまだあまり実践例はないのではないかと思っております。

Ⅲ 具体的相談

1 いじめ事案

(1)いじめ事案に対するスクールロイヤーの対応

いじめ事案の相談があったときにスクールロイヤーとしてやることをまとめてみました。
まずは、いじめ防止対策推進法(以下「法」といいます。)がありますので、これに基づいて学校が取るべき対応がきちんとなされているかということを、事実整理のお手伝いも含めて助言します。いじめを受けた側やいじめを行ったとされた側から学校に具体的な要求がなされていることが多いので、「それに対してこのように対応していきましょう」、「面談のときにはこういうことに気を付けましょう」とアドバイスします。
いじめが重大事態調査にまで発展したときには、調査に関する留意点を助言します。実際にその調査の進捗状況を把握して、「ここの事実確認が足りないので、もう少しこの辺を聞いてください」といった内容などを伝えます。
調査報告書作成に関する助言や、学校のいじめ調査委員会に出席して助言するということもあります。

(2)いじめ事案におけるポイント

次に、いじめ事案におけるポイントをまとめます。いじめ防止対策推進法の2条1項にいじめの定義が書かれています。第1に一定の人的関係にある他の児童等が行うこと、第2に心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行う場合も含む)であること、第3に行為を受けた児童等が心身の苦痛を感じていること、という3つの要件を満たせば、それがいじめだと定義されております。
このいじめの定義について、現場での混乱が多く起きています。まず、第2の要件の「心理的又は物理的な影響を与える行為」がとにかく幅広いものとなっています。およそ学校生活を送っていれば、何かしらの行為がほぼこれに当たると言えます。例えばクラスの中で少しふざけているような子がいて、その子を注意したときに、注意された側が第3の要件の苦痛を感じれば、それだけでも形式的にはいじめに当たってしまうということがあります。
第3の「行為を受けた児童等が心身の苦痛を感じている」という要件ですが、苦痛の感じ方が人によって様々なので、例えば少し肩をたたいたり親しみを込めてあだ名で呼んだり、からかうようなことをしたりしても親しみの延長として捉える子もいれば、それを苦痛として感じる子もいます。
次に、法律上学校に求められている対応を解説します。これはいじめ防止対策推進法23条(脚注i)に詳しく書かれています。
法22条において、学校は必ずいじめ防止等の対策のための組織を置かなければいけないとされています。そのメンバーは学校の教職員、心理や福祉等に関する専門的な知識を有する者などで構成されるとされています。
いじめが起こったときに、いじめ防止対策組織(いじめ防止対策委員会)で対応策が検討されているかどうかというのが非常に重要です。それが後に、重大事態に発展したときに、第三者委員会が行う重大事態調査や裁判でも重要になってきます。
私たちも「いじめの訴えがあったりいじめを認知したら、いじめ防止対策委員会を開いてそこで検討してください」、「個人の教員に任せずに、必ず組織で対応策を検討してください」と助言しております。
記録の重要性というのは他の事案と同様です。
保護者との面談についても、「できるだけ面談記録を残してください」と助言しています。
いじめを行った側への対応は、法23条4項で、当該児童等を別室で指導するなどの措置が規定されています。
また法26条では出席停止というものも規定されています。出席停止命令とは、学校教育法にも規定があり、学校ではなく教育委員会が保護者に対して命じるものとなっています。ただ、確かに法律上はこう規定されているのですが、実際に出席停止命令が出される例は、ものすごく少ないのが現状です。
いじめを行った側といえども子どもの学習権に配慮することが必要なので、出席停止命令は、謙抑的に考えられています。平成30年度だと全国で7件、令和元年度だと3件のみで、これも全部いじめが原因ではなく、対教師対人暴力や器物損壊、授業崩壊などが理由です。ただ、実際の事案では、いじめを受けた側がいじめを行った児童等を「出席停止にしてください」と学校や教育委員会に求めてくるケースは多々あります。

(3)いじめの重大事態とは

次にいじめの重大事態ですが、法28条1項により、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」(1号)、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」(2号)に、重大事態として調査しなければならないと規定されています。
疑いで足りるので、児童等や保護者が、いじめでこういう結果が起こっていると申立てたときは、学校側はそれはいじめに当たらないと考える、又は、そもそもいじめの事実を認知してないという場合であっても、調査はしなければいけません。
調査をした上で、学校の設置者、公立の学校なら教育委員会に報告もしなければいけないということになります。
法28条1項1号の「生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」というのは、自殺を企図した場合や、身体に重大な傷害を負った場合、金品等に重大な被害を被った場合、精神性の疾患を発症した場合などですが、全国で起きている1号重大事態調査のほとんどが、精神的な被害が生じているという事案です。
次に同条同項2号の「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」というのは、年間30日の欠席を目安とするとされていますが、実務としては30日を待つのではなくて、1週間、2週間など長期で欠席している場合、かつ、いじめの存在が疑われる場合には、30日を待たないで調査が開始されていることが多いです。(脚注ii)江東区の場合でもそのように運用しています。

(4)重大事態における対応

学校の義務として、重大事態が起きた場合には法28条1項に基づく調査を行い、同条2項に基づき、重大事態の事実関係等そのほかの必要な情報を、いじめを受けた児童等と保護者に対して適切に提供するという義務が課されています。これがいつも実務のときに問題になる規定で、どこまで開示できるのか、例えばいじめを行ったとされている児童生徒の情報についてどこまで開示できるのかは、個人情報保護等の関係で難しい判断になってきます。
他にも重大事態調査を行う際に気を付けなければいけないポイントとして、文科省からガイドライン(「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」平成29年3月)が出ているので、そのガイドラインに沿った形の調査がなされているかということをチェックします。重大事態調査は不登校事案がほとんどなので、多くの事案では第三者委員会が立ち上げられるわけではなく、学校又は教育委員会で重大事態調査を行うケースが多いと言えます。
 日弁連でも第三者委員会の経験交流集会を定期的に開催していますが、今年の交流集会では不登校事案を取り挙げています。やはり全国的にも自死事案よりも不登校事案が多くなっております。(脚注iii)

(5)重大事態調査におけるスクールロイヤーの関わり方

重大事態調査について、法律上は調査主体は学校又は学校の設置者となっているので、スクールロイヤーとしては、そもそも調査主体をどこに置くのかという点を含めて、調査をどのように進めていくのかアドバイスをします。次に、調査を進めていくにあたって法28条2項の情報提供の在り方、最後に調査報告書の作り方などについてアドバイスをします。
都が示した調査報告書のフォーマットを使っている自治体も多くあるかと思いますが、フォーマットに埋めるだけでは不十分という場合もあるので、その点を助言するなどしております。
また、スクールロイヤーが重大事態調査の調査委員会に出席するケースもあります。

(6)自死事案

いじめとは限りませんが、自死事案が起きたときには、先程のいじめの重大事態調査のガイドラインや、「子どもの自殺が起きたときの背景調査指針(改訂版)」(文科省・平成26年7月1日)を参考にしてアドバイスをすることになります。
一般的に、遺族が学校や教育委員会に対して、調査に至るまでの対応に不信感を持っているケースも多く、私たちスクールロイヤーの立場としては、仮にこういう事案が起きたら、そのような不信感を持たれないための対応を取る方法を助言していくことになるかと思います。

2 不登校事案

(1)相談類型ごとの対応方法

【伊東】私からはスクールロイヤーとして扱っている相談類型ごとの対応方法についてご紹介させていただきたいと思います。
まず1つ目は、不登校事案です。特にいじめを原因とするものについて先程解説がありましたとおり、いじめの重大事態として年間30日の欠席が目安とされていて、このあたりは我々がまさにダイレクトに関われる部分だと思うのですが、残念ながら学校から報告が上がってくるということはあまりなくて、スクールロイヤーとして察知しづらい側面があります。
なぜなら、学校側がいじめやトラブルが不登校の原因ではないと思っている場合が多いからです。「しばらく学校を休んでいるけれども、トラブルがきっかけというよりも、本人が来にくくて来てないだけじゃないか」といった捉え方をされがちです。
ただ、江東区の取り組みではSSWとの定期連絡会や協議会もありますので、そのような中で不登校のケースにつき我々が「これは、調査した方がいい案件では」と助言をすることはあります。もちろん理由はさまざまなのでいじめに起因しないものもありますし、保護者が何らかの不満を持っていて子どもを登校させないようなケースもあります。
スクールカウンセラーあるいはSSWの方が関わっているケースを我々はくみ取っていきたいと思っていますし、家庭に問題があるようなケースでは、児童相談所や子供家庭支援センターなどとの連携も考えられます。

(2)不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)

まず法律としては、教育機会確保法があり、「不登校児童生徒」の定義(2条3号)、「多様で適切な学習活動の重要性」、「個々の不登校児童生徒の休養の必要性」(13条)が規定されています。
また、「不登校児童生徒への支援の在り方について」(令和元年10月25日)という文科省の通知が出ています。この別記1で、義務教育段階の不登校児童生徒が、学校外の公的な機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて記載され、別記2で不登校児童生徒が自宅においてICT 等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱いについて記載されています。学校の基本姿勢や早期支援の重要性、効果的な支援に不可欠なアセスメントについて解説され、スクールカウンセラー、SSWとの連携・協力の必要性も示されています。更に、児童生徒への積極的な支援や家庭への働き掛け、学習をどうやって把握しフォローしていくかという点が示されています。

(3)スクールロイヤーとして関われること

スクールロイヤーとしての関わりという意味で申しますと、アセスメントの部分が一番重要であると考えております。
特に、「いじめが原因ではないですか」、「いじめと捉えるべきなのにトラブルだと思っていませんか」、あるいは「学校が終わったと思っているトラブルは本当に終わっていますか」、「事実調査は十分でしたか」、こういった視点を我々は提供すべきだと思います。
いじめが原因で不登校となっている場合等には、そのいじめをまず絶対に許さないという毅然とした対応が必要だということや、緊急避難としてのお休みは弾力的に認められていいこと、そのときには学校側もきちんと学習のフォローをすること、いじめられた児童生徒、保護者が希望する場合には、学級替えや転校措置も柔軟に活用していこうといったことも、我々が伝えていきたいところです。
スクールカウンセラーの活用の仕方はそれぞれの自治体によると思うのですが、例えば、カウンセラーの先生に家庭訪問はしてもらえないと学校が思っていたけれども、実は担任の先生と一緒なら行ってもいい立て付けだった、などのケースもあるので、ここは制度がどうなっているのかの確認も行って助言ができるとスクールロイヤーとしての意義があるのではないかと思っております。

3 保護者からの要求対応

(1)対応のステップ

対応のステップとしては、保護者が認識している事実は何なのかということと、保護者の要望内容は何なのかを把握するということがまず第一です。学校側ではどういう事実認識かを確認することが次の段階で、これらを確認した上で、学校側が認識している事実を基にしてどんなことが対策として考えられるか、あるいは学校が謝罪しなければいけない事案なのか、このアセスメントが必要になってきます。
場合によっては保護者がこのような要求をされるに至る背景事情は何なのかということまで踏み込んだ検討が必要になる場合もありますし、「ご要求の案には応じられないがB案なら応じられます」という、B案を検討しなければいけないケースもあろうかと思います。

(2)何が真の問題か?

重要なことは、①事実は何か、②要求内容は正当なものか、③要求態様はどうか、の3つの観点で検討することだと考えております。
前提となる事実の認識が保護者と学校で異なる場合、まず事実の確認をしっかり行う必要があります。事実の認識に齟齬はないが、その事実に鑑み要求内容が不当であったり学校では対応できなかったりするものであるようなケースもあり、その場合は要求には対応できないと説明する必要があります。
また、事実認識に齟齬はなく要求内容も正当だが、要求態様が苛烈に過ぎるというケースもあります。例えば毎回の面談に4~5時間対応しなければならなかったり、連日電話があったりして対応自体に学校側が疲弊しているような場合、我々が面談に同席し、要求への対応方針を明確に説明するとともに、要求態様の苛烈さについては苦言を呈するといった対応もあり得るところです。

4 その他

(1)虐待

児童虐待の防止等に関する法律6条1項で、虐待の通告義務が規定されています。特に学校の教職員は児童虐待を発見しやすい立場にあります(同法5条1項)。
もっとも、実際に虐待の相談がスクールロイヤーに直で学校現場から上がってくることはあまりありません。むしろこれもSSWの皆さんとの協議会の中で、悩ましいケースとして相談されることが多いところです。
スクールロイヤーとしてどう関わるのかというと、例えば背景に未納問題等の経済的問題があるような場合、そのことに対する法的な整理を行うということはあり得ます。
また、保護者側が学校の対応に対して不満があって学校に通わせていない、そしてどうやら子供は学校に来たいようだというような場合で、虐待の一種ではないかという悩みをSSWの方が抱えられていることがあります。このようなときは、保護者が不満とする学校対応に問題はなかったかという点や、子どもの意向聴取等事実調査の部分はスクールロイヤーが関われる部分ではあります。

(2)学校事故

学校事故はスクールロイヤーに相談しやすい類型だと思いますので、かなり上がってくる数としては多いところです。授業中や休み時間など学校の管理下で子どもがけがをしてしまった等の事故のときに、学校がどう対応したらいいのかとのご相談をいただいております。
文科省の「学校事故対応に関する指針」では、死亡や治療に30日以上要するけがを負うなど重篤な事故が生じたときには、学校が調査をして学校設置者に報告をすることが必要と定められています。設置者も必要があれば調査をすることが求められていますので、「この指針に基づいて調査報告を行いましょう」というアドバイスをさせていただくこともあります。
また、学校で起きた事故に関しては、日本スポーツ振興センターの保険で治療費等の一定の支払いを受けることができます。この日本スポーツ振興センターの保険には結構多くの学校が加入されていると思いますので、スクールロイヤーとしては、「保険への報告や利用は検討されていますか」と必ず確認するようにしています。

(3)体罰

【鬼澤】学校教育法11条のただし書きに体罰をしてはならないと書かれております。具体的な体罰の内容は「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」という通知に書いてあります。
結構有名な最高裁の判例などもありますが、実際にスクールロイヤーとしてご相談を受けたときに、厳密にこの行為は本当に体罰に当たるのかまで検討することはそんなに多くないです。
むしろどちらかというと体罰だといわれている教員の行為が本当にあるのかどうか、その調査は十分なのかどうか、またもし本当にあるのであれば再発防止策としてどういうことを考えて提示するのかというあたりをアドバイスをすることが多いです。

(4)情報公開

情報公開は特に公立学校に関わる上では避けて通れない分野ですが、学校分野における情報公開の研究はまとまっていなくて、皆さんにとっても少しとっつきづらいところかと思っております。
まずある個人が情報公開をしようとする場合には、大きく分けて2つの方法があります。1つは情報公開条例に基づく開示で、もう1つは個人情報保護条例に基づく開示です。情報公開条例については誰もが請求できるのに対して、個人情報保護条例に基づく開示の場合は基本的に本人が開示を求めるということになります。
どちらが根拠になるかによって開示できる範囲も異なってくるので、両方の視点からの検討が必要になります。ただし、教育的配慮で学校や教育委員会から開示することが適する場合もあります。
特に問題になるのは、いじめ被害者からいじめに関する報告書の開示請求というのがあります。先ほど森本弁護士からもお話があったとおり、いじめ防止対策推進法28条2項でしっかりと情報提供をしなければならないということが書いてあります。
これはコンメンタールでは個人情報保護条例や個人情報保護法の、本人の同意なく個人情報を提供できる場合の、法令に基づいて開示できる場合に当たるのではないかという話があるんですが、実際問題のところ裁判例や各自治体の答申などを見ている限り、それをダイレクトに認めた判断はなくて、むしろそれ以外の事情を考慮して検討しているということが多いようです。
いずれの場合も、第三者の個人情報等や、当該子どもの利益を害する場合等、非開示情報に注意する必要があります。

Ⅳ 質疑応答

【伊東】まず1つ目のご質問ですが、「児童相談所から調査依頼が来た場合の対応について」です。

【鬼澤】そのような場合は、学校側でどのような情報を提供するのかという点についてアドバイスすることになります。具体的には、学校が認識している保護者の対応や児童生徒の様子について、必要な情報を一緒に整理することになるかと思います。

【伊東】もう1つですが、「学校からの相談が子どもの権利と相反するようなケースはあるのか、そういったときにどう対応するのか」というご質問です。
基本的には子どもの権利が主だと思うので、それと反する学校からのお申入れがあったらお断りするのが原則的な対応であろうとは思いますが、先生方は何か具体的な案件でそのあたりを悩まれたような経験はありますか。

【鬼澤】具体的には申し上げられませんが、よくありそうな事例で言えば、生徒が他の生徒の物をとったという場合に、教員から「窃盗罪が成立するのではないか」という質問があるとします。そのような場合、私は、窃盗罪か否かについては簡単には回答しますが、むしろ、その子の背景や、学校で困っていることなどを聞いた上で、具体的な解決策を提案することにしています。

【森本】区のケースに限らず、一般的に、学校の対応が明らかにまずいというケースだけでなく、逆に保護者の対応が子どもの権利を侵害しているのではないかというケースもあったりします。
このようなケースについての対応はすごく難しいですが、スクールカウンセラーの面談につなげるなどして、カウンセラーの先生から少しその家庭が抱える問題みたいなものを何となく示唆してもらうなどという方法はあるかと思います。

【伊東】次のご質問は、「いじめというほどではない軽いものですが、本人がいじめと認識をしていて形式的にはいじめに該当するというときに、どの程度23条の対応を行うのか」というものです。
逆に、「いじめがあるようだが、子どもからも保護者からも相談がなく、不登校にもなっていない場合、学校又はスクールロイヤーにできることはありますか」というご質問も頂いております。
まず前段のご質問についてはいかがでしょうか。

【森本】いじめと最終的に認定するかどうかと、保護者やいじめを行ったといわれているような子たちに対して、「確かにこれはいじめに該当します」と言うかはまた別問題で、「いじめ」という言葉を使うかは慎重に対応すべき場合もあると助言することもあります。
ただ、その子がいじめを訴えている以上、その訴えに基づく調査は行わなくてはいけません。その上での事実認定というのを私たちの助言を入れて行っていく形になると思います。

【伊東】後段のご質問につきましては、学校とスクールロイヤーのできることには限界があるものの、カウンセラーの関与というのが非常に重要になってくるのではないかと思っています。心に起きていることはその専門家に診ていただくということです。

【鬼澤】まずいじめという定義自体はすごく広いですが、法律上はいじめが認められれば被害生徒に対する支援、加害生徒に対する指導をしなければならないと書かれています。
ただ、文科省の「いじめの防止等のための基本的な方針」によれば、必ずしもいじめという言葉を使わずに指導することもあり得るので、「そういうことをしたことで(言ったことで)相手の子は少し嫌な気持ちになったかもしれない、気を付けなきゃね」といったものでも指導に当たるので、そのように対応いただければいいのではないかと思っています。
もう1つ、本人の訴えがないケースで、保護者からの訴えはあるものの、子どもにいくらカウンセラーや教諭が確認しても、いじめについてお話を得られなかったという例もあると思います。このような場合について、認知しながら十分な対応をしなかったということが、安全配慮義務違反だと判断されている裁判例もありますので、認知している時点で何らかの対応が必要だということです。
文科省のいじめ関係もいろいろな文書が出ていて、いじめ対応に関する事例集というものがホームページで公開されています。これは結構充実しているので、ぜひ見ていただくと参考になると思います。
グループ内のいじめについて当初実態が分からなかったけれども、周りの子どもに話を聞くことでそのグループ内の関係性が明らかになって、解決に結び付いたという事例も紹介されているので、本人の訴えがなく、かつこれは少し対応した方がよさそうだというものがあれば、周りから情報収集するというのも1つアドバイスとして有効かと思います。

【伊東】最後に「子どもの話や親の話をスクールロイヤーは直接聞けない中で、情報が一方的だと思うことはないか」というご質問をいただいていますが、いかがですか。

【鬼澤】やはり一方から話を聞く時点で、他方の事情が理解できてないかもしれないと思いながら聞くというのは結構重要だと思っていて、要は背景事情もある可能性を認識しながら探っていくことは、少なくとも子どもの最善の利益を目指すスクールロイヤーにとってはとても重要なことだという気がします。

(i) いじめ防止対策推進法第23条

  1. 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。
  2. 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
  3. 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。
  4. 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
  5. 学校は、当該学校の教職員が第3項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
  6. 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。

(ii) 文部科学大臣決定「いじめの防止等のための基本的な方針」平成25年10月11日32頁

(iii)令和元年度の重大事態発生件数⇒28条1項1号:301件、1項2号:517件(文科省、問題行動調査より)