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家庭裁判所から見た 離婚や面会交流等の調停実務

2021年4月20日開催 家事法制に関する委員会定例研修

講演 「離婚・面会交流等の調停実務」

細矢 郁 東京家庭裁判所部総括判事

1.離婚や子の監護に関する処分等に関する家事調停事件を担当する裁判官の実情

1 手持ち件数

部総括は常時、調停が300~350件(陪席は400~500件)、審判が30~50件(陪席は30~80件)程度の件数となります。民事事件と比べると圧倒的に多く、調停以外にも別表第1事件も多数担当しています。

2 調停期日の入れ方

東京家裁の場合は、裁判官が調停事件を週2.5日担当しております。午前10時と午後1時15分にそれぞれ10件程度、午後3時20分枠に3〜5件というように、多数の事件を同時進行させているというのが調停事件の特徴となります。
このように多数の事件を同時進行させているため、裁判官は進行の全てに関与することができず、一定の部分を調停委員に任せなければなりません。裁判官が事件の進行をきちんと把握(グリップ)していないと事件が漂流してしまうことになりますので、調停委員とうまく連携することが重要になります。

3 調停事件の運営

●期日の前に
まず記録をよく読み、調停委員の書いた手控え、期日間に代理人から提出される書面、資料、進行に関する上申書や報告書、書記官が作成する電話聴取書、それらにも必ず目を通しておきます。

●期日において
期日を充実させて円滑に進行するためにまず重要なのが事前評議です。事前評議は、例えば、午前10時の事件の場合は、午前9時半ぐらいから10時までの間に、裁判官が事前評議を行う調停室を回ります。1つの部屋に使える時間は10分程度ですが、この短い時間で調停進行について重要な議論をしています。
期日が始まって進行中に実施されるのが中間(進行)評議です。裁判官は、多数の事件を同時進行させていることから具体的な進行状況を逐一把握できません。一方、調停委員は、調停を進めていく中で困難や迷いを感じ、裁判官の意見を聞きたいと思う場面が生じます。このような場合、調停委員は、書記官室に評議の申入れを行い、裁判官が調停室に行き、進行評議を行うことになります。裁判官は、進行評議において、調停委員から、進行状況や評議の要点を確認し、必要な指示を出したり、自ら直接当事者に説明したり、説得したりすることになります。

●期日の後に
期日の後で大事なのは事後評議です。時間が許す限り、調停委員の求めに応じて行います。時間がないときは、書面評議の場合もあります。調停委員が手控えに、次回期日までにこの点について答えてもらいたい、指示を出してもらいたいなどと書き、裁判官が回答を書くという形で書面上で評議をします。この方法は時間の節約という点から有効です。

2021年4月20日 講演時の様子

4 裁判官としての心構え

●当事者の生の声に謙虚に耳を傾ける
裁判官は毎回調停室に入ることはできませんが、進行評議で呼ばれて直接御本人にお話をすることがあります。当事者は、緊張や警戒心などで、そう簡単には本音を言ってくれませんが、裁判官としては、御本人のおっしゃる生の声は本当に貴重な声だと思っており、謙虚に聴かなければいけないと思っています。
当事者の中には本音で裁判官にぶつかってきてくれる方もおり、時には司法に対する非常に厳しい批判を聴くこともあります。裁判官としては、そのような声に謙虚に耳を傾けなければいけないと思っています。裁判官は、間違いをストレートに指摘してもらいにくい立場におり、裸の王様のようになってしまう恐れもあることから、そのようなところを正す上で非常に重要なことであると思っています。

●調停室に入るときに裁判官はどのような気持ちで入っているか
調停室に入るとき、裁判官も非常に緊張しており、心労が大きいというのが実情です。民事事件とは違い、進行全体をコントロールできませんので、いつどの時点でどのような問題が生じるか分からないわけです。突然携帯のメールで呼ばれて調停室に赴くわけですが、評議に充てられる時間は短く、その中で的確な判断を迅速にし、時によっては自分が当事者と相対して説得をしたり働き掛けをしたりしなければなりません。その緊張感は相当なものがあります。
加えて、家庭に関する紛争は要件事実や事実認定、法律解釈等で答えが見つからないことが多く、当事者の間には、人生観や家庭観、子どもとの関わり方や子育てに対する考え方などの対立があるほか、背景には感情的な対立もあり、紛争の度合を高めているのが実情です。
時には、その方にとって最も触れてほしくないところに触れなければいけない場合や、あるいは最も考えを変えたくないところについて考えを変えてもらうように話をしなければいけない場合があります。このように非常に難しい説得をしなければいけないところに民事事件とは違った難しさがあると感じています。
結局、調停というのは、調停に関わる調停委員、裁判官、代理人、御本人、それぞれの人生観や人間観、人間性が強く出る手続ではないかと感じています。
特に裁判官にとっては、調停に向き合う姿勢、事件を担当する上での誠実さや謙虚さ、当事者を思う熱意、その家族のために本当により良い解決を求める意欲など、その人間力や人格が問われる場であって、この辺りが非常にシビアであり、心労が大きい原因の1つであると思います。

2.手続代理人に望むこと

1 手続面について

●申立書・主張書面
裁判所の方で定型の申立書を用意しています。裁判官は多くの事件を処理しなければいけないことから、知りたい基本情報がすぐ把握できる定型の申立書を使っていただけると有難く思います。
その後の主張書面については、感覚ですが、民事事件の準備書面よりも短くて簡潔で分かりやすいものが調停では有難いと思っています。

●証拠資料
調停の段階から甲乙の資料番号を付け、資料説明書を付けていただき、立証趣旨を具体的に記載していただきたいと思います。立証趣旨は裁判官がその証拠を理解する上で非常に有益ですから、是非よろしくお願いします。
陳述書についてですが、調停の場合は、あまりに過激な生々しい陳述書を最初から出されてしまうと、話合いの機運がそがれてしまうということがありますので、陳述書の内容と提出時期について御配慮いただければと思います。

●非開示情報
調停の段階では「相当と認めるとき」に閲覧謄写が許可となりますが、審判に移行すると、原則開示になりますので、調停の段階からその辺りも意識していただければと思います。
また、調停室の中で当事者が話した内容のうち、ここは非開示にしてほしいという申出がされることが時々ありますが、その場合は、この部分は他方当事者に伝えないでほしいということを明確にしていただきたいと思います。調停委員の認識が不明確でうっかり伝わってしまい、後でトラブルが起きるということは絶対に避けたいと思いますので、よろしくお願いします。

●進行への協力
調停期日を充実したものにできるかどうかは、代理人が宿題の期限を守って事前に書面や資料を提出してくださるかどうかによる面が大きいのは、民事事件と変わりません。
なお、調停期日で意外に時間がかかってしまうのが資料の提出です。資料番号の記載、資料説明書の添付、非開示や開示の可否、マスキングの要否の伝達など、スマートに行っていただけると時間節約の点から有難く思います。

2 調停で解決することの意義について

●調停前置主義の意義をよく理解してほしい
【調停だからこそ、じっくりと時間を掛けて話を聴き、調査官等の専門的知見を活かしながら事案に合った働き掛け・調整をすることができる】

人訴の口頭弁論ですと数分で終わってしまうことも多いですし、弁論準備の多くは30分程度ですが、現在東京家裁では1回の期日を1時間45分としているので、時間を掛けて話を聴くことができます。
調停では調停委員が2名おり、裁判官も入るほか、調査官が関与できます。調査官による働き掛け・調整という面においては、人訴よりも調停の方が有用です。また、審判の段階になると、調停におけるほど調査官による働き掛け・調整を活用することはできません。この差は非常に大きいと思います。

【人事訴訟を提起したり審判移行したりすると、経済的にも時間的にも負担となることが多い】
控訴、抗告の時間などを考えると時間的な負担が大きいことは明らかですし、弁護士に依頼すればその費用も掛かることになります。

【調停段階では、早期解決の観点から、幅のある柔軟な解決を模索することができる】
人訴や審判の段階になると、当事者もかたくなになり、調停時点の案が白紙撤回となり、徹底的に争いましょうということにもなりかねません。
人訴や審判の主文で出せる範囲には限界がありますが、調停においては当事者の合意事項を広く取り込めるというメリットがあり、申立ての趣旨には入っていないところまで広げて合意をすることもできますので、柔軟な解決が可能になると思います。

【具体例(婚姻費用分担の事件や面会交流の事件)】
例えば、婚姻費用の調停であれば、権利者側にとっては調停での解決であれば任意に早期に払ってもらえ、履行を確保できる可能性が高くなります。逆に審判に移行すると支払ってもらえない期間が延びるだけでなく、強制執行しても現状では必ず奏功するとはいえないという限界があります。
義務者側も、調停ですと分割払いの話もできますし、また夫婦関係調整事件が一緒に係属している場合ですと、財産分与の調整要素として考慮したり、解決金の調整要素として一緒に解決したりすることができるメリットがあります。
また、面会交流の事件であれば、子の利益の観点から、できるだけ話合いで解決していただくことが望ましく、面会交流をして大丈夫かどうか、一定の期間継続して実施していくためにはどのような条件、方法が良いのか、その辺りを調停でしっかり話し合って子の最善の利益を確保した、より良い解決をしていただきたいと思います。

● 人事訴訟や審判の結論についてできるだけ正確な見通しを持ってほしい
例えば、人訴の場合にそもそもこの離婚は認められる事案なのかどうか、親権に関して御自分の依頼者の主張が通る見込みはあるのかないのか、人訴が決着するまで婚姻費用を払い続けることと養育費の支払に切り替えることでメリットがあるのかないのか、人訴で決められる財産分与と調停で提案されている財産分与の内容ではどの程度違いがあってメリットがあるのかないのか、審判移行した場合に現在の家裁の実務で自分の主張が通用するものなのか、高裁でも維持されるものなのか、代理人にはその辺りを的確に見極めていただく必要があると思います。
この点については、調停委員あるいは裁判官から見通しについてのヒントないし心証が開示されていることがあると思いますので、それを的確にキャッチしていただき、正しく見極めた上で依頼者に適切なアドバイスをしていただきたいと思います。

● 不成立にすべき事案もある
例えば、有責である夫からの離婚請求に対し、妻が、子どもが幼く、どんなに有利な財産分与の案を出されても絶対に離婚したくないと主張しているような場合です。
この場合に調停を長期間続けるのは単に別居期間を積み上げることになり、夫の離婚請求を裏付けることにもなりかねません。このような場合は、早期に不成立にし、人訴で、この段階では離婚の請求は認められませんという判断をもらうことも検討すべきではないかと思います。
また、調停委員会や代理人からかなり説得をされても、心情的にどうしても収まらない方もいらっしゃると思います。そのような方を無理に説得するのは相当ではないと思いますので、そのような場合も不成立はやむを得ないと思います。

3 調停委員について

● 信頼関係を築き合いたい
【調停委員会が手続代理人に信頼されること】

調停委員に対する研修においては、機会あるごとに、調停においてより良い解決を目指すためには、調停委員会が当事者、代理人から信頼されることが絶対に必要であり、それが非常に大切だと伝えています。そのためにはやはりニュートラル・フラットな立場で、どちら側の味方でもなく、偏ることなく、誠実かつ謙虚に熱意を持って調停に取り組むことが重要であると考えています。

【手続代理人が調停委員会に信頼されること】
調停委員会も代理人を信頼したいと考えています。時折調停委員会から「この代理人が就いてくれて本当に良かった」という言葉を聞くことがあります。
どのような代理人についてそのような言葉が出るのか、私なりに抽象化してみたのですが、例えば、当事者と同一化せず、当事者と適切な距離を保つことができる代理人、狭い視野ではなくて事件全体を解決するという広い視野を持つことができる代理人、子どもが絡む事案の場合に自分の依頼者側の利益だけではなく、本当の意味において子どもの利益を考えることができる代理人、他方当事者の代理人との間で法律家同士としての信頼関係を築くことができる代理人などが挙げられると思います。私自身も、事件解決に臨むスタンス、熱意、努力、法律家としての意識の高さ、謙虚さ、誠実さ等において心から尊敬の気持ちを抱く代理人に数多く接しており、本当に感謝しています。

● 時には本音を聴かせてほしい
調停委員は時折代理人の言動がパフォーマンスなのか、どこまでが本音でどこまでが建前なのか、その辺りが分からなくなってしまうことがあるようです。
そのような場合に、代理人のみに調停室に入ってもらうことがあるかもしれません。そのような場面設定においては、代理人も御本人がいらっしゃらないので、本音、実情、あるいは考えておられる落としどころなどを話しやすいかもしれな いと思います。
ただし、この方法を安易に使っていいかというと決してそうではないと思っています。代理人と御本人の信頼関係には十分に配慮しなければいけないと考えていますので、適切なタイミングではないとお考えであればお断りいただいてよいと思います。
反対に、代理人から御本人のいない場で実情などを伝えたいということがある場合は、例えば、書記官室に申し出るなどしていただければ適宜対応できると思います。

● 調停委員に対する要望があれば遠慮なく言ってほしい
当事者本人から調停委員に対する苦情で多いのは、話を十分聴いてくれなかった、偉そうにしていてお説教された、強引に決め付けられたなどが挙げられると思います。また、調停委員の働き掛け・調整に対する批判として多いのは、説得しやすい側、弱い側に対してばかり強引に説得しているのではないかというものがあります。また、片方だけ時間を掛けて聴いていて、自分の方は少ししか聴いてもらえなかったなどの不満もあるかと思います。
調停委員側からすると、いやそんなことはないという言い分もあるかもしれませんが、調停をより良くするためには、このような不満が出ている、当事者はこのようにしてほしいと考えているという実情を知っておかなければいけないと思います。したがって、上申書でも、書記官に対して口頭ででも結構ですので、お伝えいただければと思います。
また、調停委員の法律的知識や見解に疑問を感じることがあるかもしれません。そのような場合は、「現時点の段階での裁判官の意見を聞きたい」と申し出ていただきたいと思います。
なお、調停委員から、調停委員だけのときと裁判官が調停室に入ったときとで代理人の態度が非常に違うというようなことを耳にすることがあります。裁判官がいてもいなくても変わらない対応をしていただけると有難いと思います。

4 経済事案(婚費・養育費、財産分与等)

● 算定表や財産分与の考え方について、基本的な 文献に当たり理解をする
これは代理人として要求される最低限のところであろうと思います。最近では体系的にまとまった非常に良い文献が出ていますので、御確認いただければと思います。

● 収入資料や財産の基本資料等を早期に提出する
これらの基本資料をできるだけ早く出していただいた上で、その事件における争点を早く把握し、認識を共有していきたいと考えています。迅速な解決の点から非常に大事なことであると思います。

● 個別論点についての理解を深め、事案に応じて、最近の審判例や決定例を調査する
婚姻費用における住宅ローンの問題だったり、養育費、婚費の私学加算の問題だったり、年金の換算、財産分与であれば不動産をどのように処理するか、特有財産についての考え方などについての理解を深め、最近の審判例や決定例まで調査していただきたいと思います。
このような応用問題に対して、説得力のある理論的かつ実務において通用する主張ができるかどうかは、まさに代理人の腕の見せ所であると思いますので、是非よろしくお願いいたします。

5 子どもが絡む事案(監護者の指定・子の引渡し、面会交流、親権者変更等)

● 子の利益についての理解
これらの事件の真の当事者は子どもであり、子の最善の利益を確保しなければいけません。子どもの利益の確保という最終ゴールに向かうとき、父母双方に最低限の協力関係を築いてほしいのですが、それがなかなか実現できないところにこれらの事件の難しさがあります。
これらの事件の進行を難しくし、子の利益の確保の実現を難しくしているのは、父母の感情的対立です。この父母の感情的な対立を和らげ、冷静な判断につなげられるよう、調停に関わる者全員に子どもの利益の確保に向かうベクトルを持っていただきたいと考えています。

● 調査官による調査
【調査のための土台作り】

調査官調査は、子どもが絡む事件を解決する上で非常に大事なプロセスになります。
調査をするに当たってまず土台作りが必要であることを十分理解いただきたいと思います。
適切なタイミングで土台作りをしっかり行ってから調査をしないと、場合によっては有効な調査結果を得ることができなかったり、当事者の受け止めが不十分になったりしてしまうことがあります。
例えば、面会交流の事件で子どもが面会を拒否している場合に、子どもの意向・心情調査が必要となる場合がありますが、なぜこの調査が必要なのか、どのような点に配慮しなければいけないのか等を当事者にしっかり理解していただかないと、子どもが自由で自然な形で調査に臨み、本当の気持ちを話してもらえなくなってしまいます。
また、調査官の調査に対して子どもが何と答えたか、その言葉だけで判断するものではなく、その言葉が出るに至る背景事情、子どものしぐさや目線など非言語的な情報まで含めて、行動科学の専門的知見を有する調査官が判断するというと ろまで当事者双方に理解しておいていただく必要があります。
この辺りについては、代理人からも当事者に対して事前に説明しておいていただけると非常に有難いと思います。

【調査結果のフィードバック】
調査が終わった後、調停委員会としては、調査報告書を双方が読んでいる前提で調停期日を進行する準備をしています。
代理人としては、調査報告書が提出されたという連絡がきたら、すぐに謄写をしていただき、御本人に事前に読んでいただき、打合せをしてから期日に臨んでいただければと思います。
高葛藤状態にある父母も、第三者的な立場にある専門家である調査官の意見については冷静に耳を傾けていただけることが多いので、是非よろしくお願いしたいと思います。

3.今後の調停の在り方

1 調停の本質

来年は調停制度100周年を迎えます。家庭裁判所は、コロナ禍を通じて今までの調停の在り方を振り返る機会を得ました。何が調停の本質で、何を維持し、何を合理化すべきなのか、改めて考えています。そこにおいては、これまで代理人の理解と協力を得ながら調停委員とともに培ってきた調停の質を落とすことがあってはならず、その質をより高めていくものでなければならないと考えています。

2 時間管理

【調停時間の適切な管理】
現在、東京家裁では調停時間を1回1時間45分としています。午後3時20分枠もかなり活用できるようになりました。
調停時間の管理については、更に多角的な視点から検証し、より適切な在り方を考えていきたいと思います。
例えば、事案の内容や進行状況、当事者の個性、意向等に照らし、最初に、「20分程度でお話を伺います」ということを伝え、持ち時間を少し意識していただくことを検討しています。
また、事案の内容や進行状況等に照らし、ストーリー型の聴取方法に加え、例えば親権についてはどうですか、養育費はどうですかというようにポイントを絞って事情を聴くポイント型の聴取方法を活用することなども検討しています。
更に、時間的な制約がある中で、1回1回の期日の密度を高めより効果的で充実したものとするため、聴取に際して当事者に留意していただきたいことをもう少し分かりやすく伝えた方が良いのではないかと考えています。例えば、調停は、法 的な問題解決の場であること、調停室では局面によっては話をなるべく簡潔にまとめたり、優先順位を付けたりをお願いする場合があることなどを理解いただきたいと考えています。
このような地道な改善をしていくためには代理人の御協力が不可欠ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

3 適切な時間

心情配慮を要する事件、例えば夫婦関係調整事件や面会交流事件は、一定の時間が掛かると思います。
しかし、単に時間を掛けてじっと当事者の言い分を聴いていれば良いかというとそうではなく、めりはりが必要であると思います。
例えば、初回は時間を掛けて受容的に聴取し、まず信頼関係を醸成していきます。その後、徐々にポイントを絞っていき、働き掛け・調整段階に移れるようになったら再度時間をしっかり掛けるというようなめりはりが必要であると思います。
傾聴の場面で調停委員が苦労しているのは、御本人の話が止まらなくなってしまい、心情の赴くままに争点とは関係ないところまでどんどん話が広がってしまう場合です。
そのような場合に、タイミングよく上手に仕切りを入れてくださる代理人がいらっしゃるのですが、非常に助かっています。その辺りの御協力も是非お願いしたいと思います。

【養育費についてのファストトラック】
養育費についてはファストトラック的な運用が議論されています。
例えば、概ね3回程度の期日での成立を目指しましょう、成立できないときは、場合によっては調停に代わる審判、あるいは審判移行もあり得ますということを共通認識とした上で、計画的かつ効率的に養育費を迅速かつ適正に定めようというものです。
この運用は、仮に導入するとしても迅速さだけを優先させるものでは決してなく、硬直的な運用を避けながら義務者側の手続保障を含む適正さについてももちろん配慮することになると思います。

4 その他の方策(IT化を含む)

電話会議システムは、現在多数導入されており、本人との電話会議も行われています。単独調停や調停に代わる審判も活用しています。
家裁にも近いうちにIT 化という話が出てくると思います。これまで培ってきた調停の良いところと、IT 化の実現で期待される良いところを融合させ、より質の高いものを目指していきたいと思います。
ウェブ調停が導入された場合は、国民から、「手軽に利用ができて、その上でいろいろと話を聴いてもらって調整してもらうことができ、早く良い解決ができて本当によかった」という声が聞こえるようにしたいと考えています。

パネルディスカッション

【パネリスト】細矢 郁(東京家庭裁判所部総括判事)/竹内 亮(家事法制に関する委員会副委員長)/
       中本 有香(家事法制に関する委員会副委員長・調停委員)
【司   会】白井 由里(家事法制に関する委員会副委員長)

司 会 細矢裁判官には引き続きパネリストとして参加していただきます。また弁護士のパネリストとして、家事法制に関する委員会副委員長である竹内亮弁護士、また調停委員でもある中本有香弁護士の2名に加わっていただきます。
調停1期日当たりの時間を1時間45分程度としているとのことでしたが、実際の運用ではこの時間は守られているのでしょうか。

細 矢 中には延長となるケースもあると思います。ただ、かつてあったような、1時間超えとか、午前の事件が午後まで続くとか、そのような大幅な延長は今はない状況です。

中 本 話す時間は短くなっているので、当事者からはもっと話したいとか、相手の方が長いんじゃないかとか、そういった御不満は多少出ています。代理人としては割とめりはりのついた進行で、特にデメリットは感じていないというのが私の感覚 です。

司 会 コロナ禍では期日が入りにくいと聞くんですけれども、緊急性を要する事件についてはどのような工夫がされているのでしょうか。

細 矢 東京家裁では午後3時20分枠を活用していますので、そこに入れるようにしたり、次々回の期日まで確保して期日が入るようにしたりしています。少ない期日の回数で成果が出ると一番良いわけですが、そのためには代理人の方で資料等の提出期限を守っていただけると、本当に進行がスムーズになると思っています。あるいは、代理人間に信頼関係があるような場合は、期日間の調整をお願いして進行を早くすることが有効と感じています。

司 会 調停委員の先生は期日のどれくらい前に資料をお読みになるんでしょうか。

中 本 「いついつまでに提出」ということを調停委員の先生方は手帳などにメモされています。提出日は期日の1週間前とかが多いですけれども、期日までには必ずちゃんと資料を見ていらっしゃる方が多いと思います。


2021年4月20日 講演時の様子
左上 細矢 郁裁判官/左下 竹内 亮弁護士/右上 白井 由里弁護士/右下 中本 有香弁護士

司 会 裁判官は期日前には見ていらっしゃるんでしょうか。

細 矢 資料の見方はいろいろあると思います。例えば調停期日の1週間くらい前にまとめて見るタイプと、私のように資料等が出てきたらその都度書記官に出してもらってタイムリーに見るタイプなど、いろいろあると思いますが、どの裁判官も、期日の前までには必ず目を通しているはずです。

司 会 では次に代理人の立場から竹内先生にお聞きしたいと思います。弁護士の側からすると民事訴訟の事件なんかだと期日の1週間前に書面を提出してくださいということをすごくうるさく言われたりするんですけれども、家事調停については代理人として通常期日のどれくらい前に資料を提出されていることが多いでしょうか。

竹 内 ケース・バイ・ケースだと思いますけど、ほかの先生の御意見も伺ったところ、民事事件よりは若干遅く出しているんじゃないかということが多いようです。なぜなのかと考えたところ、先程細矢裁判官が言われたように事前にきちんと読まれているという認識が民事事件ほど代理人側にないのではないかと。弁論準備だと裁判官は大部分の場合事前に読んでそれを前提に弁論準備が行われるわけですけれども、調停だと資料を出しても必ずしもそれに触れられずに進んでいくこともなくはないと思いますので。今回細矢裁判官から事前に読まれているということをお聞きしたので、今まで以上に期限を守って出した方が良いと実感しました。

司 会 今のコロナ禍において、調停において本人が出席することの重要性はどの辺りにあるとお考えでしょうか。

細 矢 本人が自分の言葉で自分の言いたいことをおっしゃって、調停委員からのアドバイス、助言、働き掛けなどを直接受ける、そして決断をその場でするというのは非常に大事なプロセスであると思っています。その場で決められるので、話合いの機運が高まると一気にその期日で全部詰まって成立に至るということができます。それを我々は「調停の底力」と呼んでいるのですが、本当にすごいパワーがあると感じています。

司 会 では、代理人として事件の中身について本人に期日に出席してもらい、直接裁判所から説得や働き掛けをしてもらいたいということはあるのでしょうか。

中 本 本人がかたくななケースとか、相手との対立がひどいケースでは是非裁判所から説得していただければと。ただそういうケースだと調停委員からの説得だと足りず、裁判官から一言いただきたいようなケースはあると思います。

司 会 婚姻費用などについて保全処分を検討することもあるかと思うんですけれども、東京家裁ではあまり活用されていないというイメージがあります。保全処分のメリット、デメリットについてはどのようにお考えでしょうか。

細 矢 婚姻費用、養育費の事件では、義務者に対してまず仮払いをお願いしているということが1つあると思います。保全処分のメリットとしては、確かに認容されればその額については早期に強制執行ができるということがあると思いますが、一方でやはりデメリットも感じています。調停でこれから話し合いましょうというときに、保全の必要性について、じゃあ別居時に持ち出した預金はどれくらいあるのですかとか、どんな生活をしていてどの程度困っていますかというようなところを確認していくことに時間を掛けるのが本当に良いのかどうか。それよりもまず仮払いをお願いして、話し合いの方向に円滑に進んでいけないかという考えをやはり裁判官は持っているのかなと。

司 会 養育費を決めるときに基本的には算定表をベースにして決定することが多いと思うんですけれども、裁判所としては、当事者の事情によっては権利者側を多少低くても説得するとか、そういうことはあるんでしょうか。

細 矢 調停の場合ですと審判ほどこの方向でなければならないという拘束がないので、双方の譲り合えるところを基本的には探していると思います。どれぐらい譲り合えるかというところで、そこを探すことができる、調整することができるのはやはり調停のメリットではないかなと思います。

司 会 お伺いしたいのが、よく離婚調停で問題となる潜在的稼働能力についてです。例えば主婦をしているとか、今働いていない方について、ただ「年収100万円ぐらいは稼げるんじゃないの?」ということで算定することが多いかと思うんですけれども、例えば昨年からのコロナ禍においてだいぶ女性の就業状態というか、派遣社員で働いていた人が辞めざるを得なくなり、その後再就職が厳しいというようなこの社会状況で、何か裁判所でこのコロナ禍において今までと違うような潜在的稼働能力についての判断はあるのでしょうか。

細 矢 コロナ禍による影響は権利者側、義務者側両方にあると思います。義務者側であっても今まで残業代がかなりもらえていたのにもらえなくなった、あるいはリストラに遭った。同じように権利者側も今までのパートは続けられなくなって減収になった。双方にあることなのでそれぞれの実情、なぜ、どういう理由で減ったのかを聴取します。また、失業の場合は、それぞれの稼働歴、これまでどのような職業を経験し、どの程度の収入を得てきたのか、今後どのような可能性がある のか、更に年齢などを踏まえ、アドバイスをしているというのが実情ではないかと思います。

司 会 そのような意味では、コロナ禍というよりは、コロナ禍以前から当事者の実情は考慮しており、そこは特にコロナ禍だからといって変わらないということでよろしいでしょうか。

細 矢 恐らくその一事情の中にコロナ禍が入ってきているのではないかと思います。

司 会 調停においては、裁判所が調査嘱託に消極的なのではないかというイメージがあります。裁判所としては結局調停が成立しないのであれば調査嘱託をかける必要はないんじゃないかということで、調停の成立の可否によって調査嘱託を認めないということはあるんでしょうか。

細 矢 調停でも必要があれば採用しているのではないかと思います。民事事件と同じように他方当事者の意見も聴いて、今採用するのが適切なのかどうか等を判断していると思います。例えば財産分与の事案で審判あるいは人訴に行っても当然採用されるべきもので、今それがあった方が今後の進行を考える上で必要だという場合は採用の方向でお話をすることになるかと思います。

司 会 例えば離婚調停事件で相手方に離婚の意思が全くない、離婚しませんよと言っているようなケースにおいて、調停委員が期日を続行しようとする場合があるということを聞くんですけれども、期日を続行することにはどのような意味があるんでしょうか。

細 矢 1回目で不成立にしてしまっているかというとそこは慎重になっているのではないかと思います。2回、3回と行っていく中で、申立人に対し、相手方の気持ちを動かすために最大限の財産分与の案を考えてみたらどうでしょうか、あるいは解決金をどれぐらいまで頑張れますか、案を出してみませんかというふうに働き掛け、相手方も一応その案は聞いてみますとおっしゃる場合があるわけですね。実際そのような調整をしていって、その案だったら離婚しますというふうになる事案が散見されますので、調整の選択肢としては続行する場合もありなのかなとは思います。ただ、本当に心底離婚したくないという方を強引に調停で引きとどめておくというのはよろしくないだろうと思っています。

司 会 対立が深刻な場合として、代理人の立場からすると親権の争いに関してはなかなか双方譲らないことが多いです。親権は絶対に譲れないというようなケースが長期化する案件としては結構あると思うんです。そういう場合に当事者の説得で何か工夫されていることはあるでしょうか。

中 本 事前の交渉などでは、親権については対立が激しいので調停は無理だなと判断していることがあります。けれども、調停の中で調査官調査を行っていただいて、その調査報告が今はかなりいろいろ工夫されてメッセージ性のある調査報告書が出てくることがあります。そういうものを見た上で依頼者とよく話をして説得できるということは、ケースとしてはあると思います。

司 会 親権や面会交流が問題になっているケースで、子の最善の利益について、代理人の立場から見た場合と依頼者の考え方が一致しない場合はあるでしょうか。その場合は代理人としてどういう話をされているのでしょうか。

竹 内 非常に難しい問題ですよね。100点満点の解決というのはなくて、55点と65点でどちらが良いかみたいな感じで、見方によっては55点と65点が逆転する事案が結構あるような気がしています。そういう意味では、説得というよりは、依頼者と一緒に子どものことを考える、その手助けをすることを心掛けています。

細 矢 依頼者の立場を離れて本当に子の利益、第三者である子の立場に立ってその利益を考えた場合にどうなるのかということを代理人としてお考えいただくとよいかと思います。事案によっては、それが依頼者の考えている内容とは違う場合があると思います。そこに生じた差を代理人として理解をされて事件に臨んでいただけるかどうか。そこに生じた差を理解した上で依頼者に向き合うと、より深みのあるアドバイス、子の利益に沿ったアドバイスができるのではないかと感じるところなのですが、なかなか難しい問題かなと思います。

司 会 面会交流については調停において試行的面会交流を促されることがありますが、実施するに当たってどのような点に注意されていますか。

細 矢 試行的面会交流は調査官調査の一種となります。別居親が子どもに会いたいという気持ちを満たすためだけの面会交流サービスではないということが1つあります。適切な事案で適切な時期に十分な準備をして、土台作りをしてから行いたいと考えています。
例えば試行の中で親子交流場面を観察したり今後面会をしていく上でどういう課題があるのか、そういうところを見つけようとしたり、同居親の方も別居親のお子さんに対する関わりを目の当たりにされて安心する部分が出てくるのか、あるいは不安になる部分が出てくるのか、そういうところもしっかり把握したいと考えています。事案によって2回試行を行ったりすることもあるのですけれども、1回の場合が多いと思いますので、大切な機会だと認識しております。

司 会 今度は代理人の立場からお聞かせいただきたいのですけれども、依頼者が絶対会わせたくないと言って面会交流を拒否したときは、どのように説得されていますか。

中 本 依頼者の懸念していることは何なのか、例えば、連れ去りが恐ろしいとか、別居親が子どもに何かを吹き込んでしまうのが怖いとか、そういう懸念状況、何を一番危惧しているかというところを確認して、それをカバーできる方法を考えます。また、最初は第三者立ち会いだったけれども、その後段階的に第三者立ち会いを外してうまくいったケースもあるんですよという話をしたりして、少しずつ理解を得るということも行っています。

司 会 今後家事事件においてもIT 化が進むのではないかと思うのですが、そのメリットとしてはどのようなことがあるとお考えでしょうか。

細 矢 例えば、ウェブ調停においては、裁判所に出頭しなくてもよくなりますから、その点で時間の節約になる部分は大きく、利便性も高まると思います。ウェブ調停においても、これまで培ってきた傾聴、働き掛け、調整等による調停の良い面を損なうことなく、IT 化によって期待されるメリットをうまく融合させていきたいと考えており、その辺りのバランスが非常に大事であると思います。