出版物・パンフレット等

山椿

齋藤 隆 Takashi Saito ―29期

二足のわらじ

私は、平成27年9月登録ですので、弁護士経験が僅か6年しかありません。したがって、当欄に執筆する適格性がないのかもしれませんが、その前に38年余の裁判官としての職歴がありますので、これを合わせて一応有資格ということでいかがでしょうか。もっとも、法科大学院の教員も兼務しており、実働時間や取扱い事件が限られることから、弁護士実務については大きなことを言えないという自覚は持っています。そこで、日常的により多くの時間を割いている法曹の卵の孵化の現場と昨今の法律を学ぶ若者の姿をお伝えして責めを塞ぎたいと思います。

我が身をもって伝える

弁護士は、後輩弁護士に対して実務上の知識・経験を日常的に伝えていますし、司法研修所の教官や法科大学院の常勤・非常勤の教員の立場で教育に従事しておられる方も多いので、私が特異なことをしているわけではありません。その中で、個人的に心掛けているのは、充実した争点整理を目指した実践、複雑・困難訴訟の効率的な運用への取組等、民事裁判実務に従事した経験から得られたものを伝承したいということです。そのため、民事系基本科目をいくつか担当するほか、「専門訴訟の理論と実務」というタイトルで選択科目を開講し、複雑・困難訴訟の典型と言われる医療訴訟、建築訴訟及びIT訴訟を題材として、適正・迅速な裁判の実現のための方策、専門的知見を獲得する方法、各類型の訴訟に特徴的な論点の実体法的な分析を講じています。現行民訴法の理念を実現するための実際の体験を後輩に伝えるという趣旨に基づくものであり、我が身をもって体験を伝えていると自分では考えています。

現代学生気質

教員生活も6年目ですから、この間、学生の気質も若干変わってきていますが、やはり人生の目標を持って勉学に励んでいる姿は頼もしく、真摯に努力している若者が次々と巣立っていく法曹界の将来は明るいと感じています。しかし、司法試験合格に一途な余り、幅広く実務的な知識を吸収しようという気風が年々薄れてきており、この傾向は、前述の専門訴訟の受講者の減少に表れているように感じています。思考パターンとしても、判例・通説の問題点を指摘して自説を展開するといった学生は少数派で、答案も正解志向型の似たり寄ったりのものという傾向になりがちです。学生間の討論や教員に対する質問でも、以前のように口角泡を飛ばして議論するといった光景を見掛けることが少なくなったのは残念な気がします。着実な思考の下に基礎を固めた上で成長していくのはあるべき姿ですが、その過程で法曹としての将来を考えながらできるだけ幅広い興味を持ってもらいたいというのが願いです。

天に向かって羽ばたく

学生に対しては、既成概念にとらわれることなく常に新しい可能性を追求し、自由な存在であることを求めています。その際、教材に北海道勤務の時代に撮影した野鳥の力強い飛翔の姿を掲載し、大空を翔るがごとく活躍してもらいたいと語り掛けています。拙い写真ですが、ご覧ください。