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2019年改正会社法等と実務対応 [前編]取締役に対する規律の変化と実務対応Q&A -2021年施行改正会社法と改訂CGコード対応を中心に-

司法制度調査会 権田 修一 澁谷 展由 嶋村 那生 廣瀬 正剛 山田 晃久(50音順)

1 はじめに

取締役に対する規律内容の改正も含む改正会社法が2021年(令和3年)3月1日に施行されました。
本稿で紹介する取締役に対する規律の関係では主に以下の改正がなされました。

  • 上場会社についてこれまで選任するか、選任しない場合には説明が必要という限度であった社外取締役の設置の義務化等(本稿2
  • 上場会社について取締役の報酬方針を決定し、事業報告で開示することの義務化等(本稿3 、4 、5
  • 株式報酬の付与を行いやすくするための発行時に払込みを要しない株式報酬制度の創設等(本稿6
  • 取締役の人材を確保しやすくするための、役員の賠償責任について会社が補償する制度や役員等賠償責任保険の規律の明文化(本稿7 、8
    また、同年6月11日には東京証券取引所上場規程の一部をなすコーポレートガバナンス・コード(以下「CG コード」)が改訂されました。本稿で紹介する取締役に対する規律の関係では主に以下の改正がなされました。
  • 取締役会に対する、サステナビリティへの取組の方針策定、人的資本・知的財産への投資等の実効的な監督等の要請(補充原則4-2②)
  • 東証市場区分再編後のプライム市場上場会社に対する取締役会中の独立社外取締役の比率を3分の1以上とする要請等(原則4-8、補充原則4-8③)
  • プライム市場上場会社の指名委員会・報酬委員会について独立社外取締役を過半数とする要請(補充原則4-10①)
  • 取締役会構成について、スキル・マトリックスなどにより経営環境や事業特性に応じた適切なスキル等の組み合わせの開示の要請(補充原則4-11①)

また、上記の動向に合わせて、実務上、上場企業各社の取締役に対するコーポレート・ガバナンス上の施策の改革も進んでいます。
本稿では、上記のCGコード改訂や実務動向も踏まえて、CGコードの求める指名・報酬委員会運営をどうすべきか(本稿9)、後継者計画やスキル・マトリックスを含めた取締役会の構成をいかに検討すべきか(本稿10)、取締役会実効性評価をどのように行っていくべきか(本稿11)、取締役会事務局や指名・報酬委員会事務局がどのように対応していけばよいか(本稿12)について解説します。
以下、上記改正等による取締役に対する規律の変化を踏まえて実務上対応すべき事項をQ&A 方式で解説します。

2 社外取締役の設置の義務化・社外取締役への業務執行の委託

一定の会社には、社外取締役の設置が義務付けられました。また、社外取締役が業務執行をすると、社外取締役の要件を満たさないことになりますが、一定の場合には、社外取締役に業務執行を委託することが認められました。

Q 社外取締役の設置が義務付けられる会社はどのような会社でしょうか。

A 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、その発行する株式について有価証券報告書を提出している会社です(会社法327条の2)。

Q 設置が義務付けられる社外取締役の人数は何名ですか。

A 会社法上は1名です。
これに対し、2021年6月11日に改訂されたCGコードにおいては、プライム市場上場会社は、独立社外取締役を3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきであるとされています(原則4-8)。
また、同日に金融庁が改訂した投資家と企業の対話ガイドラインにおいては、取締役会全体として適切なスキル等が備えられるよう、必要な資質を有する独立社外取締役が、十分な人数選任されているかが問われています(3-8)。

Q 社外取締役を置かなかった場合はどうなりますか。

A 上場会社等、社外取締役の設置が義務付けられる会社が社外取締役を置かなかった場合、取締役等が100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法976条19号の2)。
事故等により社外取締役が欠けることになった場合、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、欠けているときに行われた取締役会の決議は無効とならないと考えられます。他方、長期間にわたって社外取締役を置かない状況でされた取締役会の決議は無効となり得ます。
そのため、あらかじめ補欠の役員の選任(会社法329条3項)等の手当をしておいた方がよいでしょう。

Q 業務執行の社外取締役への委託に関する規定が設けられたのはどのような理由からですか。

A 会社法上、業務執行取締役でないことが社外取締役の要件とされています。そのため、取締役が「当該株式会社の業務を執行した」場合には、社外取締役の要件を満たさないことになります(会社法2条15号イ)。
しかし、例えば、MBO(マネジメント・バイアウト)等の場面において、株式会社と業務執行者等との利益相反の問題を回避する観点から、社外取締役が取引条件等に関する交渉をすることは、会社法の趣旨にかないます。それにもかかわらず、このような行為をしたことが「業務を執行した」に該当し、社外取締役の要件に該当しないこととなるのは相当ではないからです。

Q 業務の執行を社外取締役に委託できるのはどのような場合ですか。

A 業務執行の社外取締役への委託(会社法348条の2)は、例えば、MBOや親子会社間の取引等、株式会社と取締役(指名委員会等設置会社の場合は、指名委員会等設置会社と執行役)との利益が相反する状況にあるときや、その他取締役(執行役)が株式会社(指名委員会等設置会社)の業務執行をすることにより株主の利益を損なうおそれがあるときに限り、認められます。

Q 社外取締役に対し、包括的に業務執行を委託できますか。

A できません。社外取締役に業務執行を委託するためには、「その都度」、取締役会の決議を要します。社外取締役が、業務執行取締役又は執行役の指揮命令を受けずに独立して業務を執行することが想定されており、社外取締役が誰からも監督を受けずに継続的に業務を執行することがないようにするためです。
なお、社外取締役が、業務執行取締役又は執行役の指揮命令により委託された業務を執行したときは、社外取締役の要件を満たさないことになります(会社法348条の2第3項ただし書)。

Q 株式会社と取締役との間に利益相反がある場合には、必ず社外取締役に業務の執行を委託しなければならないのですか。

A 業務執行の社外取締役への委託の規定は、セーフ・ハーバー(あらかじめ定められた一定の基準や要件を満たしている限り、法令違反とはならないとされる範囲)として設けられたものです。
業務執行の社外取締役への委託の取締役会決議があれば、社外性の要件を喪失することはない、ということであって、利益相反がある場合に、社外取締役に業務の執行を委託することを義務付けるものではありません。(権田)

3 取締役の報酬等に関する規律の見直し(総論)

取締役の報酬等が取締役に対するインセンティブを付与する手段として機能することも踏まえて、一定の会社について、取締役の報酬等の決定方針を決定すること等が義務付けられました。

Q 取締役の報酬等に関して、改正法では、どのような見直しが行われましたか。

A 改正法では、次の見直しが行われました。

  • ① 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定の義務付け
  • ② 報酬等に関する事業報告での開示の充実
  • ③ 株式・新株予約権を報酬等として付与する場合に定めるべき事項の明確化
  • ④ 報酬等としての株式・新株予約権に関する特則(無償交付・無償行使の解禁)

Q 取締役の報酬等が見直された理由は何ですか。

A 会社法は、いわゆる「お手盛り」を防止するため、指名委員会等設置会社以外の株式会社について、取締役の報酬等について定款又は株主総会の決議によって定めることとしていますが(会社法361条1項)、株主総会の決議については、取締役全員の報酬等の総額の上限を定めておくことで足りると解されてきました1
しかし、CG コードにおいて、取締役の報酬等は、取締役に対して職務を適切に執行する動機(インセンティブ)を付与する手段であるという考え方が示されており2、そのような手段として機能するためには、個人別の報酬等の内容が適切に決定されることがより重要であると指摘されていました。
こうした指摘を受け、改正法においては、取締役の報酬等に関して、上記のような見直しが行われました。(山田)

4 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定の義務付け

一定の会社においては、取締役の報酬等に関し、取締役会において「個人別の報酬等の決定方針」を決定することが求められます。
かかる決定については、取締役に委任することはできないと解されています。

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」に関して、どのようなことが義務付けられているのですか。

A 一定の会社について、以下のことが義務付けられています。

  • ① 取締役会において取締役の「個人別の報酬等の決定方針」を決定すること
  • ② 確定額・不確定額、金銭・非金銭を問わず、報酬等に関する議案を提出した株主総会において「相当とする理由」を説明すること(「個人別の報酬等の決定方針」についても想定している内容を説明することが求められる)
  • ③ 「個人別の報酬等の決定方針」を事業報告において開示すること

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定を義務付けることとした理由は何ですか。

A 改正前会社法では、指名委員会等設置会社においては、報酬委員会が「執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針」を定め、個人別の報酬等の内容も報酬委員会で決定することが義務付けられていましたが(会社法409条1項・2項)、指名委員会等設置会社以外の株式会社においては、そのような義務付けはなく、取締役の個人別の報酬等の決定は、株主総会で定められた取締役全員の報酬等の総額の範囲内で、代表取締役に一任することも可能と解されていました。
しかし、上記のとおり、個人別の報酬等の内容が適切に決定されることがより重要であることから、改正法により、指名委員会等設置会社以外の株式会社のうち、一定の株式会社についても、取締役会で取締役の「個人別の報酬等の決定方針」を決定することが義務付けられることとなりました。

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定を義務付けられる会社は何ですか。

A 以下の1又は2の株式会社は、取締役(監査等委員である取締役を除きます3)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容を定めていない場合は、取締役会でその内容についての決定に関する方針を決定しなければなりません(改正法361条7項)。

  1. 有価証券報告書提出会社である監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限ります)
  2. 監査等委員会設置会社

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定が義務付けられている株式会社において、方針を決定せずに、取締役の個人別の報酬等の内容を決定しても有効ですか。

A 「個人別の報酬等の決定方針」の決定が義務付けられている株式会社において、かかる方針を決定せず、又は決定方針に違反して、取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、その決定は違法であり、無効と解されます4

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の決定を取締役に委任することは可能ですか。

A 監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、一定の事項を除き、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができますが、「個人別の報酬等の決定方針」の決定については、取締役に委任することができないとされています(改正法399条の13第5項7号)。
監査役会設置会社については、このような規定はありませんが、「個人別の報酬等の決定方針」の決定は「重要な業務執行の決定」(会社法362条4項柱書)に該当し、取締役に委任することができないものと解されます5

Q 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」として、具体的にどのような内容を決定する必要がありますか。

A 取締役の「個人別の報酬等の決定方針」の具体的な内容は、以下のとおりです(改正会社法施行規則98条の5)。なお、報酬等の額や算定方法等の決定に関する方針を定めれば足り、額や算定方法の具体的な内容、業績連動報酬等の算定基礎として用いる業績指標の詳細、非金銭報酬等の具体的な内容、これらの報酬等の具体的な割合等を定めることまでは求められていません6

取締役(監査等委員である取締役を除く。以下同じ)の個人別の報酬等に関する方針
i. 業績連動報酬等及び非金銭報酬等以外の報酬等の額又は算定方法(1号)
ii. 業績連動報酬等がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は算定方法(2号)
iii. 非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法(3号)
iv. i.~iii.の各報酬等の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合(4号)
取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針(5号)
取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項(6号)
i. 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当(同イ)
ii. i.の者に委任する権限の内容(同ロ)
iii. i.の者によりii.の権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容(同ハ)
取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(③に掲げる事項を除く)(7号)
①~④に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項(8号)

Q 取締役の報酬等に関する議案を株主総会に提出した場合、どのような説明を行う必要がありますか。

A 改正前会社法361条4項は、株主総会に不確定額報酬等(同条1項2号)及び非金銭報酬等(同条1項3号)に関する議案を提出する際に、取締役に対して、当該株主総会において、かかる議案につき「相当とする理由」を説明することを義務付けていましたが、改正後の同項は、確定額報酬等(同条1項1号)も含めて「相当とする理由」を株主総会において説明することを義務付けました。
「個人別の報酬等の決定方針」については、定款又は株主総会の決議による取締役の報酬等についての定めに基づき決定されるものであるため、株主総会で決定方針を説明することは義務付けられていませんが、報酬等の決定方針は株主にとって報酬等に関する議案への賛否を決定する上で重要な情報であり、当該議案の内容の合理性や相当性を基礎付けるものであるため、「相当とする理由」の説明として、「個人別の報酬等の決定方針」の内容についても、必要な説明が求められます7
また、「個人別の報酬等の決定方針」に関する事項は、事業報告に記載することが求められますので(改正会社法施行規則121条6号)、取締役は、当該事業報告が提出された定時株主総会において、その内容を報告し、株主から当該事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません(会社法438条3項・314条)。(山田)

5 報酬等に関する事業報告での開示の充実

 改正会社法施行規則により、会社役員の報酬等に関し、公開会社が事業報告において開示する事項が拡充されました。

Q 報酬等に関する事業報告での開示の充実とは、具体的にどのようなことですか。

A 改正会社法施行規則により、公開会社における事業報告の内容に、①会社役員(取締役、会計参与、監査役及び執行役。会社法施行規則2条3項4号)の報酬等に関する事項や、②報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する事項が追加されています。

Q 会社役員の報酬等について、事業報告ではどのような事項を記載する必要がありますか。

A 具体的な開示項目は、以下のとおりです(改正会社法施行規則121条4号ないし6号の3)。

報酬等(業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等)に関する事項8
i. 取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。i.及びiii.において同じ)、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額及び員数(改正会社法施行規則121条4号イ)
ii. 会社役員ごとの報酬等の額を掲げることとする場合は、会社役員ごとの報酬等の額(同ロ)
iii. 会社役員の一部につき当該会社役員ごとの報酬等の額を掲げることとする場合は、当該会社役員ごとの報酬等の額並びにその他の会社役員についての取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額及び員数(同ハ)
iv. 当該事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなった会社役員の報酬等について、i.からiii.までに定める事項(同条5号)
業績連動報酬等に関する事項(同条5号の2)
i. 業績連動報酬等の額又は数の算定の基礎として選定した業績指標の内容及び当該業績指標を選定した理由(同イ)
ii. 業績連動報酬等の額又は数の算定方法(同ロ)
iii. 業績連動報酬等の額又は数の算定に用いたi.の業績指標に関する実績(同ハ)
非金銭報酬等に関する事項(同条5号の3)
非金銭報酬等の内容
報酬等についての定款の定め又は株主総会の決議による定めに関する事項(同条5号の4)
i. 当該定款の定めを設けた日又は当該株主総会の決議の日(同イ)
ii. 当該定めの内容の概要(同ロ)
iii. 当該定めに係る会社役員の員数(同ハ)
個人別の報酬等の決定方針に関する事項
i. 取締役(監査等委員である取締役を除く)、執行役の「個人別の報酬等の決定方針」を定めているときは、次に掲げる事項(同条6号) a. 当該方針の決定の方法 b. 当該方針の内容の概要 c. 当該事業年度に係る取締役(監査等委員を除く)・執行役等の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社にあっては、報酬委員会)が判断した理由
ii. 各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する方針(i.の方針を除く)を定めているときは、次に掲げる事項(同条6号の2) a. 当該方針の決定の方法 b. 当該方針の内容の概要
取締役会(指名委員会等設置会社における取締役会を除く)の決議により取締役の個人別の報酬等の決定を委任した場合の委任に関する事項(同条6号の3)
i. 当該委任に基づき当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く)の個人別の報酬等の内容を決定した旨(同号柱書)
ii. 当該委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位及び担当(同イ)
iii. ii.の者に委任された権限の内容(同ロ)
iv. ii.の者にiii.の権限を委任した理由(同ハ)
v. ii.の者によりiii.の権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合にあっては、その内容(同ニ)

Q 報酬等として付与された株式や新株予約権等について、事業報告ではどのような事項を記載する必要がありますか。

A 具体的な開示項目は、以下のとおりです(改正会社法施行規則122条1項2号・123条1号)。

職務執行の対価として交付した株式9に関する事項
次に掲げる者の区分ごとに、(i)株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)及び(ii)株式の交付を受けた者の人数(改正会社法施行規則122条1項2号柱書)
i. 取締役及び執行役(監査等委員及び社外役員を除く)(同イ)
ii. 社外役員である社外取締役(監査等委員を除く)(同ロ)
iii. 監査等委員である取締役(同ハ)
iv. 取締役及び執行役以外の会社役員(同ニ)
職務執行の対価として交付した新株予約権等10に関する事項
次に掲げる者の区分ごとに、(i)新株予約権等の内容の概要及び(ii)新株予約権等を有する者の人数(同規則123条1号柱書)
i. 取締役及び執行役(監査等委員及び社外役員を除く)(同イ)
ii. 社外役員である社外取締役(監査等委員を除く)(同ロ)
iii. 監査等委員である取締役(同ハ)
iv. 取締役及び執行役以外の会社役員(同ニ)

(山田)

6 非金銭報酬、株式報酬

株式等の非金銭報酬について取締役の報酬等に関し、定款又は株主総会の決議により定めるべき事項が明確化されました。また、上場会社においては、取締役の報酬としてする募集株式の発行若しくは新株予約権の行使には金銭の払込みが不要とされました。

Q 金銭でないものを取締役の報酬等として付与しようとする場合に定款又は株主総会の決議により定めなければならない事項に関して、どのような見直しがされたのでしょうか。

A 近年、取締役に対するインセンティブを付与する観点から、当該会社の株式又は新株予約権を取締役の報酬等とする必要性が指摘されています。この点、旧法では、金銭でないものを取締役の報酬等として付与する場合には、定款又は株主総会の決議によりその具体的な内容を定めなければならないとされていましたが(改正前361条1項3号)、「具体的な内容」をどこまで特定すべきか解釈上必ずしも明確ではなかったことから、2019年(令和元年)改正法では、以下のとおり、定款又は株主総会の決議により定めるべき事項をより明確化することで、既存株主が希釈化等の影響や報酬額の妥当性を判断できるようにしました(改正法361条1項)。なお、指名委員会等設置会社についても同様の規律が適用されますが、報酬委員会では個人別の報酬等を決定することから、「上限」ではなく、具体的な数を決定することになります(同409条3項)。

対象 決定事項
報酬等のうち、当該株式会社の株式又はその払込みに充てるための金銭 当該株式の数の上限(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数の上限)
報酬等のうち、当該株式会社の新株予約権又はその払込みに充てるための金銭 当該新株予約権の数の上限
報酬等のうち、金銭でないもの(株式及び新株予約権を除く) 具体的な内容

Q 上場会社において、取締役の報酬等として株式の発行等をするとき、若しくは取締役の報酬等をもってする払込みと引換えに新株予約権を発行するときは、行使にあたり金銭の払込み等を要しないこととしたのは、なぜですか。

A 旧法では、株式会社がその発行する株式又は処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、常に払込金額及びその算定方法を定めなければならないとされていました(改正前199条1項2号)。そのため、実務上では、株式の取得費用を報酬としたうえで、当該取締役に募集株式を割り当て、報酬支払請求権を現物出資させる形で株式を交付することが行われていました。
他方、新株予約権については、募集時に金銭の払込みを要しないこととすることができるとされていましたが(改正前238条1項2号)、行使に関しては常に金銭の払込み等をしなければならないとされていたため(改正前236条1項2号、3号)、実務上では、行使価額を1円とすることなどにより、実質的に行使に際して金銭の払込み等を要しない取り扱いが行われていました。
しかし、かかる従前の方式は、いずれも技巧的であり、具体的な金銭の払込みが行われることなく株式を交付した場合の資本金等の取り扱いが明確ではないなどの指摘がされていました。
そこで、2019年(令和元年)改正法では、募集株式の無償発行、新株予約権の無償行使が認められました(改正法202条の2、236条3項)。なお、かかる規律はより円滑に取締役等の報酬を付与することができるようにするためであることから、取締役ではない従業員や子会社の役員その他の第三者については同様の規律は定めていません。
なお、非上場会社の場合、市場株価が存在せず、株式や新株予約権の公正な価値を算定することが容易ではないことから、非上場会社にまで無償発行、無償行使を認めると、濫用によって不当な経営者支配を助長するおそれがあることから、上記規律は上場会社にのみ適用されます。

Q 取締役の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合には、有利発行規制は適用されるのでしょうか。

A 株式会社が取締役の報酬等として株式の発行又は自己株式の処分をする場合には、役務提供があり、株主総会における決議も得て、条件が適正であることは株主の意思確認を経ているので、2019年(令和元年)改正法において有利発行規制の適用はないと考えられます。

Q 金銭報酬とのバランスはどのようにすればよいでしょうか。

A 2019年(令和元年)改正法では、非金銭報酬と金銭報酬のバランスについて何も規定していませんが、CG コードでは、「経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである」とされています。(廣瀬)

7 補償契約

 旧法においては、会社補償(取締役等が職務執行に関して損害賠償請求、刑事訴追等を受けた場合に、取締役等が要した争訟費用、損害賠償金等の全部又は一部を会社が負担すること)が認められる範囲や手続について解釈が確立しておらず、利益相反取引規制との関係でも問題となり得ました。そこで、改正法では、補償契約に基づき会社補償をなし得るものとして、その内容や手続等に関する明文規定がおかれました。

Q 「補償契約」とは何ですか。

A 「補償契約」とは、取締役その他の役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(防御費用)や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失(賠償金や和解金)の全部又は一部を、株式会社が当該役員等に対して補償することを約する契約をいいます(会社法430条の2第1項)。

Q 補償契約による補償が可能なのはどのような範囲ですか。

A 補償契約に基づき株式会社が役員等に対し補償することが可能なのは、役員等が、その職務の執行に関し、①法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する防御費用、②第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における賠償金及び和解金です(会社法430条の2第1項)。
ただし、①防御費用のうち通常要する費用の額を超える部分は、補償の対象とはできません(同条2項1号)。
また、②賠償金及び和解金の補償は、第三者に対する損害賠償責任の場合に限られ、会社に対する損害賠償責任にかかる賠償金や和解金を補償する契約は認められません(なお、①防御費用については、会社に対する責任の追及を受けたことに対処するためのものであっても、補償の対象とすることができます)。更に、賠償金及び和解金のうち、会社が第三者に損害を賠償するとすれば役員等が会社に対して任務懈怠責任(会社法423条1項)を負う部分は補償の対象とすることができず、また、役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったことにより責任を負う場合も補償をすることはできません(会社法430条の2第2項2号及び3号)。すなわち、賠償金及び和解金の補償は、役員等がその職務を行うにつき善意又は軽過失である場合の第三者に対する損害賠償責任であって、会社に対し任務懈怠責任を負わない部分に限られるため、補償の範囲はかなり限定的です(例えば、非業務執行取締役等の任務懈怠責任を責任限定契約によって制限している場合で、当該非業務執行取締役等が、軽過失によって第三者に対する損害賠償責任を負った場合には、これによる賠償金のうち、責任限度額を超える部分は、補償契約により会社が補償することが可能と考えられています)。
そのため、役員等が広く賠償金等の負担の塡補を受けるためには、後述する役員等賠償責任保険契約を利用する必要があります。
なお、①防御費用については、役員等に悪意又は重大な過失があったときでも補償することができますが、会社が、事後的に、役員等が自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は会社に損害を加える目的で職務を執行したことを知ったときは、役員等に対し補償した金額に相当する金銭の返還を請求することができます(会社法430条の2第3項)。

Q 補償契約に関してどのような手続が必要になりますか。

A 補償契約の内容の決定には、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議が必要です(会社法430条の2第1項)。また、取締役会設置会社において、補償契約に基づく補償がなされた場合、補償をした取締役及び補償を受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(同条4項)。
なお、補償契約の締結及びこれに基づく補償は、会社法356条1項2号の利益相反取引に該当しますが、補償契約の内容を株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で定めるものとされることなどから、利益相反取引規制は適用しないものとされています(会社法430条の2第6項)。また、民法108条の規定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によって内容が定められた補償契約の締結については、適用しないものとされています(会社法430条の2第7項)。

Q 補償契約を締結した場合、どのような開示が必要ですか。

A 公開会社において、役員等との間で補償契約を締結している場合は、以下の事項を事業報告の内容に含めなければなりません(会社法施行規則121条3号の2~3号の4、125条2号~4号、126条7号の2~7号の4)。

  • ① 役員等の氏名
  • ② 補償契約の内容の概要
  • ③ 役員等に対して防御費用を補償した会社が、当該事業年度において、当該役員等が職務の執行に関し法令の規定に違反したこと又は責任を負うことを知ったときは、その旨
  • ④ 当該事業年度において、会社が役員等に対して賠償金又は和解金を補償したときは、その旨及び補償した金額

なお、②「補償契約の内容の概要」には、補償契約によって役員等の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときは、その内容を含むものとされています。「職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置」としては、例えば、補償契約において、補償額の限度を定めることや、会社が役員等に対し責任追及する場合の防御費用は補償しない旨を定めることなどが考えられます。(嶋村)

【補償の範囲】

①防御費用 通常要する費用の額の範囲 補償の対象
通常要する費用の額を超える部分 補償の対象外
②賠償金・和解金 第三者に対する損害賠償責任にかかる賠償金・和解金 下記a)・b)以外 補償の対象
a)会社が第三者に対し損害賠償をしたとすれば、役員等が会社に対し任務懈怠責任を負う部分 補償の対象外
b)職務を行うにつき悪意又は重過失の場合の賠償 金・和解金 補償の対象外
会社に対する損害賠償責任にかかる賠償金・和解金 補償の対象外

8 役員等賠償責任保険契約

 役員等賠償責任保険契約(D&O保険)は上場会社を中心に広く普及していますが、旧法において手続等に関する明文規定はなく、また、会社が保険料を支払い、取締役等が損害の塡補を受けることから、利益相反性が指摘されていました。そこで、改正法では、その手続等に関する明文規定がおかれました。

Q 「役員等賠償責任保険契約」とは何ですか。

A 「役員等賠償責任保険契約」とは、会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいいます(会社法430条の3)。ただし、保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除くとされており、生産物賠償責任保険(PL保険)、企業総合賠償責任保険(CGL保険)、使用者賠償責任保険、自動車賠償責任保険、任意の自動車保険、海外旅行保険等は、「役員等賠償責任保険契約」には該当しません(会社法施行規則115条の2)。

Q 役員等賠償責任保険契約に関してどのような手続が必要になりますか。

A 役員等賠償責任保険契約の内容の決定には、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議が必要です(会社法430条の3第1項)。
なお、役員等賠償責任保険契約の締結は、会社法356条1項3号の利益相反取引に該当しますが、役員等賠償責任保険契約の内容が株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で定められることなどから、利益相反取引規制は適用しないものとされています(会社法430条の3第2項)。また、民法108条の規定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によって内容が定められた役員等賠償責任保険契約の締結については、適用しないものとされています(会社法430条の3第3項)。

Q 役員等賠償責任保険契約を締結した場合、どのような開示が必要ですか。

A 公開会社において、役員等賠償責任保険契約を締結している場合は、以下の事項を事業報告の内容に含めなければなりません(会社法施行規則121条の2)。

  • ① 役員等賠償責任保険契約の被保険者の範囲
  • ② 役員等賠償責任保険契約の内容の概要

なお、②「役員等賠償責任保険契約の内容の概要」には、被保険者が実質的に保険料を負担している場合にはその負担割合、塡補の対象とされる保険事故の概要及び当該役員等賠償責任保険契約によって被保険者である役員等の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあってはその内容を含むとされています。「職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置」としては、例えば、役員等賠償責任保険契約に免責額についての定めを設け、一定額に至らない損害については塡補の対象としないこととすることなどが考えられます。(嶋村)

9 指名・報酬委員会

2021年施行の会社法改正で役員報酬に関する規律が拡充され、同年のCGコード改訂でプライム市場上場会社の指名・報酬委員会について独立社外取締役を過半数とすることが求められたことなどから、指名・報酬委員会について従前以上に充実した設置・運営が求められます。

Q 改訂CGコードを踏まえて指名・報酬委員会はどのように設置すればよいですか。

A 2022年(令和4年)4月4日から東京証券取引所の市場区分が従来の第一部/第二部/JASDAQ/マザーズから、プライム/スタンダード/グロースへ再編されますが、

  • プライム市場上場会社の場合は、構成員の過半数を独立社外取締役とするか、そうしない場合は理由をコーポレート・ガバナンス報告書(以下「CG 報告書」)に記載して説明する必要があります。
  • その他の市場の上場会社の場合は独立社外役員を「主要な構成員」とするか、そうしない場合は理由をCG報告書に記載して説明する必要があります(CGコード補充原則4-10①)。11

また、監査役設置会社においては、報酬委員会委員の過半数を独立社外取締役とすることが、役員報酬について損金算入が認められるための要件となっています(法人税法34Ⅰ③イ(2)、法人税法施行令69ⅩⅥ③)。
このほか、CGコードに対応した具体的取組についての考え方を示す、経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2018年9月28日改訂版。以下「CGS ガイドライン」)、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日策定。以下「グループ・ガイドライン」)も指名・報酬委員会運営実務上、重要な指針となっていますので本項目以降、併せて解説します。
CGSガイドラインは委員会の構成として、社外役員が少なくとも過半数か、社外役員とそれ以外の役員が同数で委員長が社外役員であることを検討すべきとしています(別紙3・3.2)。
Q 指名委員会では何を審議すればよいですか。

A CG コードが取締役会に対して取締役の指名に関して行うことを求めている事項及びCGSガイドラインやグループ・ガイドラインが提示している指針からすれば、指名についての審議を職責とする取締役会の下部委員会である指名委員会では表1のような内容の審議をする必要があると考えられます。

【指名委員会で審議すべき主な内容】(表1)

  • ① CEOを含む取締役の選任/解任の基準・手続が適切に定められているか、個別の選任/解任が適切に行われているかの検証(CGコード補充原則4-3①~③、CGSガイドライン別紙3・2.1)。この場合、必要に応じてCEOがいない場で議論できる工夫を検討する必要がある(CGSガイドライン別紙3・3.4)
  • ②社長・CEO以外の経営陣の選解任については、個別の選解任には能動的に関与せず、指名方針の策定への関与にとどまることも考えられる(CGSガイドライン別紙3・2.3)
  • ③社外取締役の選任/解任の基準・手続が適切に定められているか、個別の選任/解任が適切に行われているかの検証(CGSガイドライン別紙3・2.2)
  • ④主要な完全子会社の経営トップの選任/解任の基準・手続が適切に定められているか、個別の選任/解任が適切に行われているかの検証(グループ・ガイドライン5.2)
  • ⑤取締役会の構成が、経営戦略に照らして必要なスキル等を特定したうえで知識・経験・能力のバランス、ジェンダー等の多様性、規模について適切な構成となっているかどうかの検証。その際、スキル・マトリックスの開示を念頭においた検証をすることも考えられる(CGコード補充原則4-10①、4-11①)
  • ⑥ CEO 等の後継者計画の策定・運用が適切になされているか、社内論理が優先されていないか、主観的・恣意的判断に陥っていないか、重要な事項について文書化されているか、株主等のステークホルダーに情報発信されているかなどの検証(CGコード補充原則4-1③、CGSガイドライン4.1.2、別紙4・4.1、4.2、5)
  • ⑦後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われているかどうかの検証(CGコード補充原則4-1③)
  • ⑧取締役会実効性評価において、委員の構成、諮問事項、審議・運営のあり方、取締役会と指名委員会が一体として実効的に機能しているかを評価(CGコード補充原則4-11③、CGSガイドライン別紙3・5)

Q 報酬委員会では何を議論すればよいですか。

A CG コードが取締役会に対して取締役の役員報酬に関して行うことを求めている事項及びCGS ガイドラインやグループ・ガイドラインが提示している指針からすれば、役員報酬についての審議を職責とする取締役会の下部委員会である報酬委員会では表2のような内容の審議をする必要があると考えられます。

【報酬委員会で審議すべき主な内容】(表2)

  • ① 経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従って報酬制度を設計しているかどうかの検証(CGコード補充原則4-2①)
  • ② 固定報酬/業績連動金銭報酬/株式報酬の割合が適切に設定されているかどうかの検証(CGコード補充原則4-2①、CGSガイドライン4.2)
  • ③ 取締役会実効性評価において、取締役会と報酬委員会の連携が確保されているかの評価(CGコード補充原則4-11③)
  • ④ 上場子会社の経営陣の報酬は親会社ではなく上場子会社の報酬委員会で審議するなど、上場子会社の報酬委員会について、親会社からの実質的独立性が担保されているかの検証(グループ・ガイドライン6.5.3)
  • ⑤ 社長・CEO の報酬、個別の報酬額を審議対象とする(CGS ガイドライン別紙3・2.1)
  • ⑥ 社長・CEO の報酬を審議する際、必要に応じて社長・CEO のいない場で議論できる工夫を検討する(CGS ガイドライン別紙3・3.4)
  • ⑦ 社長・CEO 以外の経営陣の報酬について、個別の報酬額の決定に関与する(CGS ガイドライン別紙3・2.3)
  • ⑧ 社外取締役の報酬方針策定、個別額の決定を審議対象とする(CGS ガイドライン別紙3・2.2)
  • ⑨ 親会社の報酬委員会において、主要な完全子会社の経営トップの報酬を審議対象とする(グループ・ガイドライン5.2)
  • ⑩ 報酬方針の策定に関与する(CGSガイドライン別紙3・2.1)
  • ⑪ 経営陣による「サステナビリティ」「人的資本・知的財産」に関する施策の実施を「実効的に監督を行う」ことの一環として、「人的資本・知的財産への投資等...をはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資する」ものとなっているか否かを報酬委員会が検証し、業績連動報酬やPS支給の有無の評価の参考とする(CGコード補充原則4-2②)
  • ⑫ 取締役会実効性評価において、取締役会と報酬委員会が一体として実効的に機能しているかどうかについても評価を行う(CGSガイドライン別紙3・5)

(澁谷)

10 後継者計画、取締役会構成の検討(スキル・マトリックス)

コーポレート・ガバナンスに関する実務動向や、改訂CGコードの要請を踏まえ、取締役の後継者計画の策定・運用や、スキル・マトリックスなどを活用した経営戦略に合致した適切な取締役会構成の開示を検討していく必要があります。

Q 後継者候補の育成・選出について指名委員会でどのような議論をすればよいですか。

A 指名委員会では、CEOをはじめ、経営陣の後継者候補の育成が計画的に、適切に実施されているか検証する審議をする必要があります。
後継者候補の育成・選出についてCGS ガイドラインは以下の7つのステップを例として挙げています(別紙4・3)。

  • ① 後継者計画のロードマップの立案
  • ② 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
  • ③ 後継者候補の選出
  • ④ 育成計画の策定・実施
  • ⑤ 後継者候補の評価、絞込み・入替え
  • ⑥ 最終候補者に対する評価と後継者の指名
  • ⑦ 指名後のサポート

同ガイドラインは、最初から全てを実行することが難しい場合は、②→⑤、③→⑥など、まずは後継者指名に直結する取組から段階的に行うことも考えらえるとしています。
育成計画については様々な方法が考えられますが、グループ会社の経営経験を積ませるなどの「タフ・アサインメント」が有効とされています(CGSガイドライン3.4、グループ・ガイドライン5.3.1)。

Q 取締役会構成を示すスキル・マトリックスを策定するためにどのような議論をすればよいですか。

A 中期経営計画で定めた目標など自社の経営戦略を実行するためにはどのようなスキルを持った取締役が必要か、そのスキルがあるといえるためにはどのような点を満たす必要があるかを指名委員会にも諮問して検証し、策定していく必要があります。
改訂CG コード補充原則4-11①はスキル・マトリックス策定の前提として、取締役会に対し「経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で」としているためです。
したがって、上記のプロセス、検証を経ずに、単に現任取締役が有しているスキルから逆算してスキル項目を抽出して、いずれのスキルも満たしているとするマトリックスを策定して開示しても上記原則を遵守したことにはならず、株主・投資家にも適切な説明をすることが難しくなることに留意すべきです。(澁谷)

11 取締役会実効性評価

従前からCGコードにより取締役会実効性評価の実施が求められていましたが、会社法改正、CGコード改訂、コーポレート・ガバナンス対応実務の進展に伴い、より充実した実施が求められます。

Q 取締役会実効性評価はどのようなことを行えばよいですか。

A 取締役会実効性評価を求めるCGコード原則4-11、補充原則4-11③は、具体的な評価方法までは規定していませんが、スチュワードシップ・コード及びコーポレート・ガバナンスのフォローアップ会議が改訂案について説明した文書では「取締役会・各取締役・委員会の実効性を定期的に評価することが重要となる」としています(2021年3月31日付「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について(案)」3頁)。
筆者(澁谷)の考えでは、「各取締役」の評価については、指名委員会が定めた取締役選解任基準をもとにした指名委員会における取締役の再任可否の審議の際の評価をもって兼ねてもよいと考えます。
「取締役会」自体の実効性評価項目としては表3のような点を取締役会において自己評価したり、指名・報酬委員会でも併せて評価したりすることが考えられます。

【取締役会について実効性評価を行うべき事項】(表3)

  • ① 取締役会の構成、人数規模などは適切か
  • ② 定時・臨時の取締役会の開催頻度は適切か
  • ③ 審議時間は十分に確保されているか
  • ④ 付議基準は適切か
  • ⑤ 自社の状況、社会・経済状況に照らして付議すべき議案が付議・審議されているか
  • ⑥ 取締役会に提供される資料の量・質は適切か(CGコード原則4-13)
  • ⑦ 審議において自由闊達で建設的な議論・意見交換はなされているか(CGコード原則4-12)
  • ⑧ グループ各社の業務執行等に対する適切な関与のあり方を検討する役割を適切に果たしているか(グループ・ガイドライン2.3.2)
  • ⑨ 株主・投資家とのコミュニケーションは十分なされているか
  • ⑩ 取締役に対するトレーニングは適切・十分になされているか(CGコード原則4-14)

また、指名・報酬委員会の実効性評価としては表4のような点を委員会にて自己評価することが考えられます。

【指名・報酬委員会について実効性評価を行うべき事項】(表4)

  • ① 執行側からの独立性が確保されていたか
  • ② 委員会の構成、人数規模などは適切か
  • ③ 委員会の開催頻度は適切か
  • ④ 審議時間は十分に確保されているか
  • ⑤ 付議すべき議案が適切に付議・審議されているか
  • ⑥ 委員会に提供される資料の量・質は適切か
  • ⑦ 審議において自由闊達で建設的な議論・意見交換はなされているか
  • ⑧ 指名・報酬委員会と取締役会は適切に連携したか
  • ⑨ 指名委員会は取締役の選解任、後継者計画の実施を適切に監督したか
  • ⑩ 報酬委員会は報酬設計・手続などについて適切に監督したか

12 改正動向に対応する取締役会事務局、指名・報酬委員会事務局のあり方

会社法改正・CGコード改訂を踏まえた上述の対応については、指名・報酬委員会における独立社外取締役の関与を経た充実した審議・検討が重要となります。その際、取締役会や指名・報酬委員会の事務局の対応・サポートも極めて重要となります。

Q 取締役会事務局、指名・報酬委員会事務局は、会社法改正やCGコード改訂を受けてどのような体制で、どのように対応していけばよいでしょうか。

A 以上のように、改正会社法、改訂CGコードに対応してコーポレート・ガバナンスを強化していくために、上場会社が検討・立案・実行していくべき事項は多岐にわたります。
取締役会事務局、指名・報酬委員会事務局としては、社内/社外の取締役/監査役に対して、自社の状況やコーポレート・ガバナンス改革の動向を踏まえた適切な資料作成・情報提供、審議アジェンダの設定などを提案していく必要があります。
情報収集・検討に十分なリソースを割くことは、単なるコスト負担ではなく、ガバナンスを強化してひいては企業価値の向上につながる重要施策であると社内で位置付けられるよう、社内に情報を発信していく必要もあると考えられます。(澁谷)

1:落合誠一編『会社法コンメンタール8 機関(2)』148頁〔田中亘〕(商事法務、2009年)。
2:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2021年6月版)原則4-2、補充原則4-2①。
3:監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役の報酬等は監査等委員である取締役の協議によって定めることとされていますので(会社法361条3項)、改正法361条7項の「取締役」の対象外とされています。
4:竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』78頁(商事法務、2020年)、久保田安彦「令和元年会社法改正と取締役の報酬等規制」旬刊商事法務232号21頁。
5:前掲注4 竹林・一問一答82頁。
6:渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕」商事法務2251号123頁注34・注36。
7:前掲注4 竹林・一問一答80頁。
8:会社役員のうち社外役員である者が存する場合には、社外役員の報酬等に関する記載についても、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等に分けて、その総額又は額を記載することが必要です(改正会社法施行規則124条5号)。
9:職務執行の対価として募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付した場合において、当該金銭の払込みと引換えに当該株式会社の株式を交付したときにおける当該株式を含みます。
10:職務執行の対価として募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付した場合において、当該金銭の払込みと引換えに当該株式会社の株式を交付したときにおける当該新株予約権を含みます。
11:新市場区分移行後は、CGコードの原則のうち、プライム市場上場会社には全原則適用、スタンダード市場上場会社には全原則からプライム市場上場会社向け原則を除いたものが適用、グロース市場上場会社は基本原則のみが適用されます(東京証券取引所「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について―第二次制度改正事項に関するご説明資料―」(2021年5月12日更新)9~11頁)。本稿では、以下、全原則が適用される上場会社を念頭に、必要と考えられる対応を論じます。