出版物・パンフレット等

2019年改正会社法等と実務対応 [後編]IT 技術を活用したバーチャル株主総会&株主総会資料の 電子提供制度(2022年9月1日施行)について

司法制度調査会 上床 竜司 大庭 浩一郎 野﨑 雅人 山本 正(50音順)

1 はじめに

本誌1・2月合併号(2頁以下)では、2019年改正会社法及び改訂コーポレートガバナンス・コード(「CG コード」)による取締役に対する規律の変化を踏まえて実務上対応すべき事項について解説しました。
今回は、株主総会における近時の動向に着目し、1. IT 技術を利用したバーチャル株主総会、2.2019年改正会社法で新設された株主総会資料の電子提供制度について解説します。
バーチャル総会については、2021年に成立し施行された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に基づくバーチャルオンリー型株主総会に関する最新の動向を含めて、バーチャル総会の実務や論点についてQ&Aを交えて解説します。
バーチャル総会については、ハイブリッド型、バーチャルオンリー型を問わず実務的な知見が重要ですが、本稿では、2021年9月にバーチャルオンリー型株主総会を開催したグリー株式会社において運営責任者の重責を担われた松村真弓氏(グリー株式会社コーポレート本部法務総務部シニアマネージャー)から貴重な御助言をいただくとともに執筆者としても御参加いただきました。とりわけバーチャルオンリー型の株主総会の開催においては、物理的会場の設置がないため、従来の実務をそのまま踏襲することができず、会議体としての株主総会の在り方、会社法で要求される株主総会に関する必須事項は何か(従来の株主総会における手続のうち何を省略できるのか)、株主からの質問や議決権行使をはじめ会社と株主との対話はどのように行われるべきか、といった根源的な問いを投げかけるものといえます。
株主総会資料の電子提供制度については、制度の概要を紹介するとともに、施行後に予想される実務上の対応や論点について解説します。電子提供制度の施行は2022年9月1日であり、現時点では実務上の対応について明らかではない点も少なくありませんが、それらの点についても執筆者らの個人的見解を含めてできる限り言及するように努めました。電子提供制度に関する実務上の対応についても、グリーの松村氏から貴重な御助言をいただきました。
本論稿が、新たな時代における株主総会運営の御参考となれば幸いに思います。

2 バーチャル株主総会について

1.はじめに

近時、インターネット等の手段を利用したハイブリッド型株主総会を採用する上場企業が増加する傾向にあり、後述するように法律上の手当によって、バーチャルオンリー型株主総会も認められるようになりました。特にコロナ禍において、人流を抑制し、総会会場の密を避けるという観点からは、インターネット等の手段を利用した出席を認めるハイブリッド出席型株主総会及びバーチャルオンリー型株主総会の有用性がクロ-ズアップされています1

2.バーチャル株主総会とは

バーチャル総会については、ハイブリッド参加型、ハイブリッド出席型、バーチャルオンリー型 に分かれますが(本稿では3つまとめて「バーチャル総会」といいます。)、それぞれの概念を整理す ると以下のようになります。

物理的会場の有無 物理的会場にいない株主
(インターネット使用等)の有無
リアル総会
(物理的会場のみ)
×
バーチャル総会 ハイブリッド参加型 ○ 参加(審議等を確認・傍聴)するが、
法律上の「出席」とならない
ハイブリッド出席型 ○ 法律上の「出席」となる
バーチャルオンリー型 ×
(存在しない)
○ 法律上の「出席」となる

ハイブリッド参加型及びハイブリッド出席型については、現行法においても採用可能と解されていますが、バーチャルオンリー型の株主総会については、会社法上、株主総会の招集に際して、株主総会の「場所」を定めることが要求されていることから、現行法では開催が難しいものと解されていました。
しかし、今回、産業競争力強化法が改正され、上場会社に限り、以下の1~4の要件に該当することについて、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、「場所の定めのない株主総会」を開催することができる旨を定款で定めることができることとなりました(同法66条、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令1条(令和3年法務省・経済産業省令第1号))2

  1. 情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務責任者の設置
  2. 通信障害に関する対策についての方針
  3. インターネット使用に支障のある株主の利益
  4. 確保についての配慮方針
  5. 100名以上の株主

また、「場所の定めのない株主総会」は原則として定款変更の手続が必要なのですが、定款に定めがない場合でも、新型コロナウイルス感染症感染拡大の現状を鑑みて、施行後2年間に限り、「場所の定めのない株主総会」を行うことができます(産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号)附則3条)3

3.ハイブリッド出席型及びバーチャルオンリー型の問題点

経済産業省は、ハイブリッド参加型・出席型について、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます。)と「実施事例集」を明らかにしています。ハイブリッド参加型については、バーチャル総会特有の会社法上の論点がほぼ生じないことから、実施する企業が増えており、2022年には実施企業数が相当程度増加するものと見込まれています4
これに対して、ハイブリッド出席型・バーチャルオンリー型については後記1~8のような問題点があるため、ハイブリッド参加型に比べて採用にあたってのハードルが高いといえます。そのため、とりわけ、バーチャルオンリー型の場合において、6の点が両大臣の確認に際してチェックポイントとなっていますし、7の点は取締役会決議事項とされています。

  1. 通信システムの設計をどうするか
  2. 議長や役員の出席方法
  3. 株主の本人確認方法
  4. 代理人出席の制限の可否、本人確認方法
  5. 株主からの質問の取捨選択方法
  6. 通信障害に関する対策
  7. 事前に議決権行使を行った株主が総会に出席した場合の議決権の取扱い
  8. 動議の取扱い

そして、取締役会や株主総会が会議体として成立するためには、情報伝達の双方向性と即時性の確保が必要と解されています(その意味では、映像は不可欠なものではなく、音声のみでも構いません。)。ハイブリッド出席型においては、情報伝達の双方向性と即時性について開催場所と出席株主との間で検討することとなるかと思いますが、バーチャルオンリー型では開催場所自体が存在しません。そのため、開催場所と出席株主との厳密な双方向性や即時性を確保することができず、議事進行の責任者である議長と、議長から発言を許された役員や株主の発言内容等が即時に他の出席者に伝わることが担保されていればよいものと解されます(末尾参考文献7.58頁)。すなわち、バーチャルオンリー型における株主からの質問や動議についても、上記の意味での情報伝達の双方向性と即時性が確保されていれば問題なく、実施ガイドも、ハイブリッド出席型における質問に関して、あらかじめ用意されたフォームに質問内容を書き込んだ上で送信し、会社側は運営ルールに従って確認し、議長の議事運営においてそれを取り上げる、というやり方を提案しています(この点は、バーチャルオンリー型でも同様に考えてよいものと解されます。)5
さらに、アメリカでは、もともと株主総会の出席者が少なく、バーチャルオンリー型の採用に株主の抵抗感があまりないという事情があるようですが、日本では、経営陣と対面でのやりとりを希望する株主が多く、総会の規模も1000人を超える規模のものも珍しくないため、イベント会議場やホテルの宴会場などの会場を借りて開催しているという実態があります。そのような事情からすると、バーチャルオンリー型において現実の会場がないという点はそれなりの心理的な抵抗感につながる可能性があります。とりわけ、バーチャルオンリー型については、議決権行使助言会社である Institutional Shareholder Services が、取締役の責任を追及する場合、株主提案を受けた場合、委任状争奪戦の場合などにおいて、会社と株主間の交流が有意義に行われるかについて疑念を示し、反対推奨していることが注目されます。

グリー・松村氏のコメント

グリーは、数年前から株主総会にIT技術を活用する先進的な取組を続けており、2021年9月には、「メタバース株主総会」と称し、バーチャルオンリー型株主総会を開催しました。議長や役員については、株主総会当日の様子をライブ配信するための会場(配信会場)で出席することが考えられるところ、グリーでは完全オンライン開催を目指すべく、役員についても、インターネット等の手段を用いて、遠隔から株主総会に出席することが可能な運用としました。

グリー株主総会の主な施策

施策内容
2017 360°オンデマンド動画配信
2018 ダイジェスト版オンデマンド配信、
質疑応答前に採用動画の配信
2019 ハイブリッド双方向参加型バーチャル株主総会実施、
ウェブ記事誘導型冊子配布(『GREE NAVI』)
2020 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会実施、
株主アンケートをウェブで実施(回答のお礼に電子ギフ トを進呈)
2021 バーチャルオンリー型株主総会実施、
REALITY案内動画の事前配信(バーチャル空間におい てアバターが
バーチャルオンリー型株主総会を説明する動画)

また、招集通知発送後の9月6日から総会前日の9月27日まで、株主から事前質問を受け付けた上で、総会前に随時回答しました。加えて、事業報告は動画を活用し、総会前に開示しています。このように総会前に株主とコミュニケーションを行うための施策を導入した理由は、日本においては株主総会における書面投票制度(会社法311条)などにより、株主総会の審議に参加しない株主にも議決権行使を認め、会社の意思決定に株主意思を直接反映させることとした結果として、大多数の会社では、株主総会の前日には事実上議案の賛否が決しているのではないかと考えたからです。事前の情報提供を充実させ、対話機会を拡大させる等の工夫により、株主総会を、一年のうちの数時間という『点』ではなく、プロセスという『線』として機能させることができるのではないかと考えました。また、そのことにより、アクセス集中を緩和し、システム障害のリスク低減にもなり得ると思います。このような取組の一環として、総会の定足数報告とともに事前行使の集計結果を報告することも行っています6。実際、事前の情報開示や質問への回答によって、納得して事前行使ができたとの株主の声もあり、一定の手応えを感じています。
そして、バーチャルオンリー型株主総会のような前例のない総会では事前準備が極めて重要であり、早期の準備段階から顧問弁護士に相談し、バーチャルオンリー型の総会運営の基本設計における論点については、私たちが実現したい株主総会に向けて一体となって議論いただきました。とりわけ、今までの株主総会の慣例的な実務については、法的に本当に必要なものかどうかを徹底的に検討し、見直すべき点は見直すことができたのではないかと思います。

4.Q&A

それでは、ハイブリッド出席型及びバーチャルオンリー型における問題点(以下2つをまとめて「バーチャル出席」という。)について、Q&A 方式で解説することにします。

Q.1 本人確認の方法
バーチャル出席における株主の本人確認の方法はどうなりますか。
A.1 本人確認の方法については会社法上の定めがあるわけではありませんから、合理的な方法で本人確認を行えば足ります7
実施ガイドは、ハイブリッド出席型において、株主ごとに固有のIDとパスワード等8を送付して、ログインにあたって、これを入力するという方法を提案しています。これはインターネットによる事前の議決権行使において広く利用されている手法であって、合理的な手法と考えられます。そして、この点は、バーチャルオンリー型においても同様と考えてよいものと解されます9
Q.2 代理人出席の制限の可否
バーチャル出席において、そもそも代理人による出席を認めるべきでしょうか。
A.2 会社法は、代理人による議決権行使を認めていますが(会社法310条1項)、バーチャル出席において、代理人による出席を制限できるかどうかが問題となります。実施ガイドは、ハイブリッド出席型について、代理人についてリアル総会への出席という選択肢を認めるのであれば、バーチャル出席について、代理人による出席を制限することは可能としていますが(ただし、その旨を招集通知等において株主に通知する必要があります。)、バーチャルオンリー型の場合には、リアル総会への出席がそもそも不可能であるため、代理人による出席を認める必要があると考えられます(QA6-1)。

グリー・松村氏のコメント

実務的に問題なのが、株主本人(委任者)と代理人の本人確認の方法といえます。グリーの場合には、委任者より「代理権を証明する書面」として「委任状」及び「委任者の本人確認書類」を提出いただき、要件具備を確認した上で、指定された代理人宛てに会社からID・パスワードを郵送することとしました。「代理人の本人確認」については、代理人の株主としての届け出住所にID・パスワードを送付することをもって代えています10。バーチャル出席の場合は、移動の時間とコストという制約が少なく、媒体さえあれば出席可能ですから、代理人を通じた出席を利便化する必要性はそれほど高くなく、グリーとしても、コストを掛けてまで代理出席のためだけの入力画面などを作成する必要はないものと考えました。

Q.3 株主からの質問の取捨選択方法
バーチャル出席において(とりわけ、バーチャルオンリー型において特に問題といえます。)、テキストメッセージを利用して質問を受け付ける場合には、議長が質問の内容を見た上で回答する質問を取捨選択することができるようになりますが、このような観点からして、株主からの質問については、どのように取り扱うべきでしょうか。
A.3 議長が質問の内容を見て取捨選択できるとすれば、議長としては多くの株主にとって有意義とみられる質問を取り上げることができることになりますし、重複している質問を避けることも可能となります。同じ株主の質問であっても一部は取り上げ、一部は取り上げないという臨機応変な対応も可能になるものと考えられます11。他方、実施ガイドは、質問の恣意的な取捨選択のリスクについて、「現経営陣に対して敵対的な質問であるという理由のみで殊更にこれを取り上げないなどの、恣意的な議事運営が許されない」と述べており、あまりに恣意的な取捨選択であると、総会決議取消のリスクもあり得るところです。そのため、会社として質問の内容を見た上で取り上げるべき質問を議長が取捨選択することを予定している旨をあらかじめ株主に対して告知し(可能であれば、質問の選別基準を示すことも検討すべきでしょう。)、かつ株主からなされた質問は全て保存しておき、事後的に恣意的な取捨選択が行われたとのクレームがあったときに、恣意的な選択ではなかったということが十分に立証できるようにすべきものと解されます。
ちなみに、テキストメッセージ等で質問を受け付ける場合に、一人当たりの質問回数や文字数、送信期限(リアル総会の質疑終了予定時刻よりも一定程度早く設定)などの事務処理上の制約が可能かという点が問題となりますが、実施ガイドは、運営ルールとして定め、あらかじめ招集通知等で通知すればよいと述べています。
また、議事打切りのタイミングも問題となりますが、バーチャルオンリー型だから、リアル総会よりも早く打ち切っても構わないというような事情はなく、通常のリアル総会の場合と同様に考えてよいものと解されます。

グリー・松村氏のコメント

質問に対する回答の仕方としては、実務上以下の取組が考えられます。

  1. 無作為抽出の方法で質問を採り上げるなど(三井住友フィナンシャルグループがリリースの中で選択し得る一例として挙げている。)
  2. 総会中に質問があったものの回答しなかった質問に回答を付して、総会後に公開(グリー、Zホールディングスほか実施事例有)12
  3. 事前に質問を募集し、総会当日、主要な質問に対し回答を行う(グリー、Zホールディングス実施事例有)
  4. 事前に質問を募集し、かつ事前に質問とその回答を公開するとともに、総会においてもその概要を紹介(グリー実施事例有)
  5. 総会中に質問を受けたものを全てリアルタイムで公開し、議長がその中から選択し回答する

上記2、3、4については、総会会場での質問の取捨選択について定めるものとはいえませんが、株主に対し質問に関する情報を積極的に開示しようとする姿勢を示すことによって、会社にとって都合が悪い質問を隠しているのではないかとの株主からの疑念を低減させることにつながると思います。
2021年のグリーの総会では、株主1人につき3問までというルールを定めるに止め、時間の許す限り、会議の目的事項に関する質問には全て回答する方針としました。加えて、質疑応答の締切り後から閉会宣言までに受信した質問についても、事前質問及びその回答・総会当日回答した質問とあわせて、総会後に回答を付して公開することとしました。
実際に、他社のハイブリッド出席型の総会に出席した経験からの印象ですが、会場出席の株主からの質問と比較してバーチャル出席の株主からの質問の多くはロジカルでわかりやすく、株主にとっても有益な内容でした(文字数制限があることや文字化した後、送信前に内容の確認ができることが影響したのかもしれません。)。加えて、グリーの今回の総会においては、総会前において質問を受け付けた上で回答することによって、総会当日の質問を、総会前の質問・回答を踏まえたより実質的な内容にすることができたのではないかと考えています。株主と会社との対話をより深化させることができたのではないでしょうか。

Q.4 通信障害に関する対策バーチャル出席を認める場合、通信障害によりバーチャル出席を予定していた株主が株主総会に出席できなかったときに、決議取消事由に当たるのでしょうか。また、特にバーチャルオンリー型における通信障害の対処方法としてどのようなものが考えられていますか。
A.4 ハイブリッド出席型である場合には、通信障害が、株主側の問題(株主側の通信環境)に起因する不具合の場合には、交通機関の障害によって株主が総会会場に出席できない場合と同様に、決議取消事由には当たらないものと考えられますが(実施ガイド13頁)13 、会社側の事情に起因する通信障害については、議論が分かれます。会場の収容能力に不足があった場合(会社が用意した会場の定員とほぼ同数の1110名前後の株主は入場できたものの、それを超える約300名が入場できなかったケース)に決議取消事由になるとした大阪地判昭和49年3月28日の判例があり、通信障害の発生について会社に帰責性があることは会場の収容能力に不足があった場合と同じように考えることができるとすれば、決議方法が違法又は著しく不公正であるとして決議取消事由になる可能性があると思われます。
この点について、実施ガイドは、ハイブリッド出席型について、株主にはリアル総会に出席をするという選択肢があるので、会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知しており、通信障害の防止のために合理的な対策を取っていた場合には、株主として、バーチャル総会のリスクを受け入れるとともに14、 会社として、適切な対応をとっていたものとして、決議取消事由とまではいえないとの判断を示していますが、かかる見解の法的根拠は必ずしも明らかではありません15
それでは、バーチャルオンリー型の場合には、どのように考えるべきでしょうか。QA8-1は、株主側の事情により通信障害が生じた場合等には、それが決議取消事由となることはないと解することも可能としつつ、そのようにいえない場合において、決議取消事由ないし決議不存在事由となるか否かは、通信障害が生じたタイミングや通信障害が議事に与える影響等の個別具体的事情にも左右され、一律に結論付けることは困難であるとしています。よって、いずれにせよ、株主側の事情とはいえない通信障害によって、決議取消事由となる可能性があることは否定できないものと考えられます16
しかしながら、通信障害が生じた時点で通信障害の具体的な範囲や程度等も判明しないことが多いものと思われ、その場において適法に決議がなしうるかどうかを判断することは極めて難しいものと考えられます。よって、バックアップシステムなどを準備し、事前に株主に対してそれを周知しておくことが適切であると考えられます。また、産業競争力強化法66条2項による読替え後の会社法317条は、バーチャルオンリー型について、通信障害による「議事に著しい支障が生じる場合」に備えて、通信障害前に議長に対して総会の延期・続行の決定を一任する旨の総会決議を経ることができると定めており、株主総会の開催宣言直後にかかる決議を経ることが妥当といえます17

グリー・松村氏のコメント

既に述べたように通信障害に対する対策についての方針は両大臣の確認の際のチェックポイントとなっており、かかる確認の審査基準(産業競争力強化法66条1項に規定する経済産業大臣及び法務大臣の確認に係る審査基準)は

  1. 通信障害対策に資する措置が講じられたシステムの利用
  2. 代替手段の用意
  3. 具体的な対処マニュアル
  4. 延期・続行に関する一任決議(前述)

などを例示として挙げています。
グリーでは、前記1については、WEB会議サービスを専門とする企業に依頼し、機器及び配信システム等に冗長化対策を行い、加えて、総会当日、通信障害対応が可能な専門スタッフの配置も行いました。さらに前記3と4の対策も実施し、4については、招集通知にもその旨を記載しています。
なお、グリーでは採用していませんが、前記2の対策として、電話回線などの予備回線を用意することも考えられます。また、通信障害という観点からとりわけ留意すべき点としては、株主側の通信環境による不具合の扱いです。インターネットの通信環境などに十分な知見を有していない株主は、最初から会社側に問題があるかのように主張する可能性もゼロではありません。そのような株主を念頭において、招集通知や事前の御案内で十分な説明を行うように心掛けました。

Q.5 事前に議決権行使を行った株主が総会に出席した場合の議決権の取扱い
 事前に議決権行使を行った株主が株主総会にバーチャル出席をした場合にどのように扱うべきでしょうか。
A.5 従来のリアル総会の実務は、受付通過時に出席したものと扱い、その後決議時に退席していたとしても、出席と扱っていました。そして、株主が事前に議決権行使書によって議決権を行使していた場合であっても、リアル総会に出席した時点(すなわち、受付通過時点)で、事前の議決権行使の効力は失われるものと扱っていました。
この点、実施ガイドは、ハイブリッド出席型について、インターネット等の手段を利用する場合には、途中参加や途中退席の可能性が相対的に高いとして、上記のリアル総会での取扱いを採用して、ログインの段階で事前の議決権行使の効力が失われるとすると、無効票を増やすことになるとして、ログインの時点では議決権行使の効力は失われず、採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使の効力が失われるという取り扱いを提案しています。法的にいえば、ログインの時点で失効するのか、新たな議決権行使の時点で失効するのかは、「出席」概念をどう解するのかということに帰着し18 、いずれの解釈もありうることから、会社において決めることができるものと考えられます(ただし、あらかじめ招集通知等で株主に通知する必要があります。)。そして、この点は、バーチャルオンリー型であっても同様と考えられ19、 かかる取扱いについて、取締役会で決議するとともに、招集通知の記載等事項として株主に事前に通知しておく必要があるとされています(産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令3条3号・同4条1号)。
Q.6 動議の取扱い
 バーチャル出席において、株主からの動議を制限できるでしょうか。
A.6 実施ガイドは、ハイブリッド出席型の場合のバーチャル出席の株主については、リアル総会に出席できるという選択肢があったにもかかわらず、バーチャル出席を選択しているという点を勘案して、動議の提出も動議の採決にも関与できないということも許されるとしています(ただし、動議提出や動議の採決への参加が制限される可能性があることから、その点に懸念がある場合にはリアル総会に出席するように事前に案内を行う必要があるとします。)。
他方、バーチャルオンリー型の場合には、リアル総会に出席できるという選択肢がないため、動議の提出や動議の採決への関与を全く認めないという扱いは認められないものと解されます(QA6-4)。ただし、その場合であっても、動議の提出時期について、例えば、質疑応答までは、動議等を取り上げないという取扱いについては、リアル総会の実務においてそのような対応が広く行われていることからすれば、バーチャルオンリー型においても、原則として同様の対応が可能であるものと解されます(末尾参考文献7.76頁。ただし、議長不信任動議の取扱いについては慎重に行うべきであって、実際に提出されてしまったような場合には(動画配信の途中などの場合を除き)できるだけ早い段階で採決した方がよさそうです。)。

グリー・松村氏のコメント

グリーでは、動議の提出時期の制限を特段行わず、システム上、株主総会開始時から閉会時まで動議が提出できるようにしました。ただし、リアル総会の実務では、ナレーション動画配信中に動議が提出されることは実際問題として想定できないところ、バーチャル出席の場合には、そのような事態も十分に想定されるため、総会シナリオ上、動議が提出された場合、取り上げる箇所を複数設定しておくこととしました(動議の内容によっては現場判断で直ちに取り上げることにしました。)。

Q.7 議案の賛否が拮抗することが予想される場合の扱い
 バーチャルオンリー型において、議案の賛否が拮抗することが予想される議案などについては、どのように対応すべきでしょうか。
A.7 議案の賛否が拮抗するような局面においては、出席株主の議案への賛否を個別に確認する必要があるところ、既に述べたようにインターネット等を利用したバーチャル出席の場合には、なりすましなどの不正のリスクが高いばかりか、とりわけ、バーチャルオンリー型においては議長不信任案が可決された場合の議長交代への対応が難しいという問題があります。議案の賛否が拮抗するような局面では、バーチャルオンリー型を避けるか、なりすましなどの不正のリスクに対して最大限の準備をすることが必要となるものと考えられます。

3 株主総会資料20の電子提供制度について

1.改正前会社法における株主総会資料の電子提供制度

改正前会社法では、インターネットを利用して株主総会資料を提供する制度として次の2つがありました。

  1. 招集通知の電子化(電磁的方法による招集通知)
    株主の個別の承諾を得た上で、インターネットにより招集通知の発出や株主総会資料の提供ができる制度です21。全ての株主総会資料をインターネットで提供できますが、上場会社では全ての株主の個別の承諾を得ることが難しく、ほとんど利用されませんでした。
  2. ウェブ開示(みなし提供制度)
    定款の定めにより、株主総会資料の一部22をウェブサイトに掲載して(招集通知を発出したときから株主総会の日の3か月後まで)、ウェブサイトのアドレス(URL)を株主に通知すれば書面による提供を省略できる制度です23。株主の承諾は不要ですが、議案や貸借対照表・損益計算書など重要な事項が対象に含まれていませんでした。

2.改正法の電子提供制度の概要(改正法325条の2~325条の7)

改正法では、株主総会資料24を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載して株主にそのウェブサイトのURL等を招集通知に記載して通知した場合には、株主の個別の承諾を要せずに株主総会資料を、インターネットを利用する方法で提供(電子提供)できることとなりました。招集通知は、全てをインターネットで発出することはできず、株主総会の日時・場所・目的事項(議題)、株主総会資料を掲載しているウェブサイトのURLなど25、従来よりも限定された事項を書面に記載して発送します(この招集通知は「アクセス通知」と呼ばれることもあります。)。
電子提供制度を採用するためには定款の定めが必要です26が、振替株式を発行する株式会社(上場会社等)は定款の変更の決議をしたものとみなされます27
電子提供制度を採用した場合にも、高齢者等のインターネットの利用が困難な株主の利益を保護するため、希望する株主は、会社に対し、株主総会資料を書面で交付するように請求することができます。
電子提供措置の開始日は株主総会の3週間前または招集通知の発送日のいずれか早い日から、期間の末日は株主総会の3か月後までです。招集通知の発送期限は従来と同じく株主総会の2週間前まで28なので、それより1週間早く株主総会資料が提供されます29
改正法の趣旨は、

  1. 株主総会資料の印刷・封入・郵送の時間や費用の削減
  2. 株主に早期に資料を提供して株主総会資料を検討する期間を確保する
  3. 株主総会資料に盛り込む情報の充実
などです。
電子提供制度に係る改正法の施行時期は2022年9月1日です。

3.Q&A

Q.1 事務負担の軽減
 電子提供制度により、会社の事務負担はどのように軽減しますか。
A.1 改正前の招集通知・株主総会資料は数十ページに及ぶのが通常でしたが、改正後の招集通知は1~2ページで足りますので、招集通知の印刷・封入・郵送に要する日数や費用を節約できます。経団連アンケート30によれば、短縮できる日数は1~5日程度、コストの削減見込額は1社平均で2500万円程度(削減率約40%)とされていました。

改正前・後の株主総会スケジュール(例)

改正前

6/30 基準日
8/3 株主提案権の行使期限
8/20 取締役会
(株主総会の招集決定)
8/25 招集通知・株主総会資料の原稿校了
招集通知等の印刷開始
印刷作業
中4 営業日+土日
8/31 招集通知のウェブ開示
9/1 招集通知等の印刷完了
印刷会社から封入会社へ引渡し
封入作業
中3営業日+土日
9/7 招集通知・株主総会資料の発送
9/14 法定の招集通知発送期限
中14日
9/29 株主総会当日

改正後(想定)

6/30 基準日
8/3 株主提案権の行使期限
8/20 取締役会(株主総会の招集決定)
8/25 招集通知(アクセス通知)の原稿校了
招集通知(アクセス通知)の印刷開始
印刷作業
中2 営業日+土日
8/25~
8/29
株主総会資料
(電子提供事項)の原稿校了
8/30 株主総会資料の電子提供措置開始
招集通知(アクセス通知)の印刷完了
印刷会社から封入会社へ引渡し
封入作業
中2営業日+土日
9/4 招集通知(アクセス通知)の発送
9/7 法定の株主総会資料の電子提供措置開始期限
9/14 法定の招集通知発送期限
中14日
9/29 株主総会当日

グリー・松村氏のコメント

  1. 期間の短縮
    改正前は、招集通知等の印刷期間及び封入期間はいずれも1週間前後でした。意外と日数があると思われるかもしれませんが、土日、印刷会社から封入会社(証券代行会社)への運搬日程、印刷会社が他社から依頼された印刷作業との重複等の影響があり、株主数が多い企業の場合には長過ぎるということはありません。このため改正によって実際にどのくらい期間を短縮できるかは、印刷会社や封入会社と協議してみなければわかりませんが、物理的な量として印刷する招集通知等が減ることを考えれば、印刷日数については少なくとも1~2営業日は短縮できるのではないかと想定しています。
  2. 費用
    経団連アンケートの1社平均約2500万円という削減見込額は、肌感覚でいえば高いと感じます。主な費用は印刷代、封入代、郵送代ですが、金額については株主数、開示方法(白黒/カラーなど)、開示範囲(法定事項に加え任意事項を積極開示するか否かなど)に影響され、数百万円~1000万円台の会社も多いのではないかと思います。アンケートに回答した企業は、株主数が多く、カラー印刷、豊富なビジュアル説明、積極的任意開示などを実施している企業が多かったのではないでしょうか。
Q.2 株主のメリット
 電子提供制度によって、株主にどのようなメリットを提供できますか。
A.2
  1. 早期の情報提供
    従来は、株主総会の2週間前までに招集通知が発送されて、株主に配達される時期は株主総会の2週間前より遅くなることもあり得ました。改正後は、遅くとも株主総会の3週間前までには電子提供措置がとられて、株主はウェブサイトにアクセスすれば株主総会資料を閲覧できるようになります。   
  2.   
  3. 情報の充実
    株主総会資料の分量が増えても印刷・封入・郵送の手間・費用が増える心配がないので、資料の内容をより充実させることができます。   

グリー・松村氏のコメント

改正後は、招集通知に株主総会資料を掲載しているウェブサイトのURLを記載する必要がありますが、これに加えて二次元コード(QRコード®)を載せることが考えられます。パソコン等でURLを手入力するよりも二次元コードを読み込む方が、手間が掛かりません。
また、「情報の充実」に関しては、次のようなメリットがあります。

  1. 紙の場合には、カラー印刷は費用が高くなり担当者としては導入に気を遣いますが、電子提供の場合にはカラー化は容易で、ビジュアル(フロー図、グラフ、概念図など)を利用して株主により分かりやすく伝える工夫ができます。他方で、フルカラーの場合、1色刷り、2色刷りと比較して作業の段取りが増えるので、その分、現在よりも工数(日数)がかかる可能性があります。
  2. ページ数が増えても紙のように印刷費用が増えることはないので、任意記載事項31も詳しく記載することができます。また、紙の場合、招集通知のページ数を4の倍数にする必要がありました(招集通知が中綴じ冊子になっていて、用紙1枚で表面の左右2ページ+裏面の左右2ページを印刷するため)が、電子提供であればそのような制約を気にする心配がありません。
Q.3 書面交付請求の手続
 書面の交付を希望する株主は、誰に対して、どのような手続を取ればよいのでしょうか。
A.3 発行者である株式会社、又はその名義書換代理人(信託銀行、証券代行会社)に対して、書面交付を請求することができます。この場合、請求の方式は、口頭、書面いずれの方法でも可能です。
基準日を定めている会社の場合32、株主は、基準日までに書面交付請求を行えば、招集通知に際して株主総会資料(電子提供措置事項記載書面)の交付を受けることができます。
振替株式の発行会社の場合には、その直近上位機関(加入者の口座を管理する口座管理機関。証券会社・金融機関等)を経由して書面交付を請求することができます。書面交付請求は、直近上位機関→振替機関(証券保管振替機構)→発行会社又は名義書換代理人に、順次取り次がれます。

グリー・松村氏のコメント

書面交付請求を行った一部の株主には今までどおり印刷した株主総会資料を送付するわけですが、その場合、

  1. 印刷する量が減るので印刷単価は上がるのか
  2. 封入についても印刷した株主総会資料を同封する株主と同封しない株主が発生し、封入手数料はどのような設定となるのか

という点は予算確保の面から早めに確認したいところです。なお、ある企業では、ウェブ開示(みなし提供制度)によって開示した事項についても書面の交付を希望する株主には書面を渡していましたが、実際に書面交付を希望した株主は、ウェブ開示制度を導入した初年度は1件のみで、翌年度からは希望者はいなかったそうです。改正法の電子提供制度では株主総会資料の大部分がウェブ上で提供されますので書面交付を希望する株主は増える可能性もあり、本改正の施行前に株主にアンケートを取り、予算確保の目安とすることも考えられます。

Q.4 電子提供措置の中断
サーバーのダウンやハッカー・ウイルス感染等による改ざん等のために株主が電子提供措置事項を掲載したウェブサイト等にアクセスできない場合(電子提供措置の中断)、電子提供措置の効力はどうなりますか。
A.4 以下の全てに該当する場合には、電子提供措置の中断があっても、電子提供措置は有効です33
  1. 電子提供措置の中断につき株式会社が善意・無重過失、又は正当事由があること。
  2. 中断した時間の合計が、電子提供措置期間(総会前3週間又は招集通知を発した日のいずれか早い日+総会後3か月間)の10分の1を超えないこと。
  3. 株主総会の日までの電子提供措置期間中に中断が生じたときは、中断した期間の合計が、当該期間の10分の1を超えないこと。
  4. 株式会社が中断を知った後速やかに、その旨、中断時間、中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置を取ったこと。

グリー・松村氏のコメント

実務的には、中断のリスクをどのように低減するかが課題になります。自社ウェブサイトのサーバーがダウンしないようにメンテナンスを怠らない、レンタルサーバーやクラウドサービスを利用する場合には信頼度の高い業者を選ぶことはもちろんですが、万一サーバーがダウンした場合に備えて対応を検討する必要があります。対応としては、

  1. EDINET(開示用電子情報処理組織)34を使用して、電子提供措置事項を記載した有価証券報告書を提出する方法
  2. バックアップ用のサーバーを用意する方法

が考えられます。
1の方法は、近年検討が進められている会社法上の事業報告書・計算書類と金商法上の有価証券報告書の一体開示や、定時株主総会前における有価証券報告書の開示に向けた取組とも方向性が一致しますが、根拠法令の違いや、限られた期間で複数の開示書類を作成しなければならない負担などの問題から、導入は容易ではありません(有価証券報告書として開示した場合、記載内容が誤っていれば虚偽記載として刑事罰の対象になるという心理的ハードルもあります。)。
2の方法を採る場合には、自社ウェブサイトのアドレスに加えてバックアップのサーバーのウェブアドレスも招集通知に記載することになると思いますが、バックアップサイトを準備する労力やコストの面を考えるとあまり現実的ではないでしょう。
バックアップとして東京証券取引所のウェブサイトにも掲載している場合には、自社ウェブサイトに障害が発生しても救済される方向での対応が別途検討されていますが、これについても、バックアップとして掲載されている情報が自社ウェブサイトに掲載していた情報と同一であることを技術的に証明できるのかなどの課題があるようです35。課題がクリアされてこの方法が正式に整備されれば、これを利用する企業が多いのではないでしょうか。

参考文献・リンク等

バーチャル株主総会

  1. 経済産業省「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案)
    ~ハイブリッド型バーチャル株主総会に関する論点整理~」(2019年5月22日)
  2. 同上「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書(2020年7月22日)
  3. 同上「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(2020年2月26日)
  4. 同上、上記(別冊)「実施事例集」(2021年2月3日)
  5. バーチャルオンリー型株主総会についての経済産業省サイト
    https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/virtual-only-shareholders-meeting.html
  6. 経済産業省・法務省「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関するQ&A」
  7. 澤口実他編著『バーチャル株主総会の実務〔第2版〕』(商事法務)
  8. 太田洋他編著『バーチャル株主総会の法的論点と実務』(商事法務)
  9. 全国株懇連合会 提言書「バーチャル総会の実務」
  10. 松村真弓・徳田千紗「バーチャルオンリー株主総会における対話の実践」

株主総会資料の電子提供制度

  1. 塚本英巨・中川雅博著『株主総会資料電子提供の法務と実務』(商事法務)
  2. 邉英基『株主総会資料の電子提供制度への実務対応』(商事法務2230号46頁以下)
  3. 全国株懇連合会理事会決定「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正について」(2021年10月22日)

1:閉鎖会社においてもバーチャル総会は有用なものと解されます。株主の株主総会への現実の出席を不要とする手法としては、会社法上の書面決議(会社法319条1項)があります。しかし、この場合、参考書類等の交付も要しないものとされ、株主に対する情報開示や対話の機会は確保されない懸念があります。他方、法律上の手当に基づくものではありませんが、一部の閉鎖会社では、電話会議でもって株主総会を実施することもあり、インターネット等の手段を利用した株主総会はかかる電話会議の延長線上にあるといえ、株主数が少ない閉鎖会社においても有用なものといえます。
2:バーチャルオンリー型の招集決定の取締役会においては、「場所の定めのない株主総会」とする旨だけでなく、1.書面投票制度の採用、2.情報の送受信に用いる通信の方法、3.事前に議決権を行使した株主が総会に出席したときの議決権の行使の効力の取扱い、についても決議する必要があります。
3:バーチャルオンリー型の株主総会において、「場所の定めのない株主総会」についての定款変更決議を行うことはできないこととされていることから、バーチャルオンリー型以外の株主総会において、かかる定款変更決議を行う必要があります。そのようなことから、今回の産業競争力強化法の改正を見越して、改正法の成立及び大臣確認などを条件に定款変更決議を行う実例もありました。
4:2019年6月5社→2020年6月113社(三菱UFJ 信託銀行調査)。また、商事法務研究会編『株主総会白書2020年版』旬刊商事法務2256号183頁では、ハイブリッド参加型について、「既に実施している」が127社、「次回(以降)の総会で実施を予定している」が173社となっています。
5:経済産業省と法務省が2021年6月16日に発表した「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関するQ&A」(末尾参考文献6。以下「QA」といいます。)QA6-2も、情報伝達の双方向性や即時性を具体的にどのような手段により確保するかについては、議長の権限に属する事項として議長の合理的な裁量に委ねられると考えられ、例えば、株主からの質問や動議をテキストメッセージで受け付けることとしても、そのことをもって双方向性や即時性が失われるものではなく、情報の送受信に軽微なタイムラグが生じる場合であっても、議事への参加に支障がないように運営がされているときには、軽微なタイムラグがあることのみをもって、情報伝達の即時性が失われるものではない、と述べています。
6:グリーでは、2020年の総会(ハイブリッド出席型)から、総会当日の議決権行使結果を即時集計し、総会中に議案の賛成率を報告するという取組をしています。
7:リアル総会の実務上は、株主の住所に郵送された議決権行使書面の所持をもって本人確認とすることが多いとされています。
8:IDとして既存情報(株主番号など)を使用するケースが多く見られ、パスワードについても議決権行使書から確認できる既存情報(例えば郵便番号)が使われる例もありましたが、かかる情報は第三者に探知される可能性があるため、なりすましのリスクの観点からは若干問題であると考えられます。
9:ただし、出席確認をID及びパスワードだけで行う場合には、リアル総会の場合と比べて、なりすまし等のリスクが高いといえ、実施ガイドは、なりすましの危険が相対的に高いと考えられる具体的事情がある場合などについて、よりセキュリティの高い本人確認の方法(例えば、二段階認証やブロックチェーン活用)を推奨しています。
10:リアル総会において、一般的に、株主本人(委任者)が代理人に委任したことを証する委任状及び委任者の本人確認書類を要求しており、多くの上場会社では、代理人を株主に限定する定款を定めていることから、併せて代理人の本人確認書類を要求しています。よって、ハイブリッド出席型・バーチャルオンリー型ともに、そのような確認書類を、郵送または電子メールで送付を求めるということが考えられますが、株主にとっては若干手間といえます。そこで、インターネットによ る事前の議決権行使において用いられている議決権行使書等の代替としての株主固有のIDとパスワード等を、本人確認に利用することも考えられます(また、委任状に代わるものとしては、インターネット上に委任状記載事項の入力画面を作り、それへの入力でもって代替することが考えられます。)。
11:実施ガイドでは、質問を取り上げる際の考え方(例えば、株主総会の目的事項に関する質問であり、他の株主からの質問と重複しないものなど)や個人情報が含まれる場合又は個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げないといった考え方を運営ルールとして定め、招集通知等で株主に通知するというやり方が提案されています。
12:実施ガイドは、適正性・透明性を担保するための措置として、後日、受け取ったものの回答できなかった質問の概要を公開するなどの工夫が考えられるとします。
13:大阪株式懇談会編 前田雅弘・北村雅史著『会社法 実務問答集Ⅱ』256頁も、交通機関の大幅な乱れによって相当数の株主が出席できないときでも、決議方法が著しく不公正とはいえないとします。
14:ハイブリッド出席型の場合には、リアル総会に出席できるにもかかわらず、通信障害のリスクのあるバーチャル総会への出席をあえて選択した以上、当該株主の保護の必要性に乏しいという実質的判断が背景にあるように思われます。
15:さらに、実施ガイドは、会社側の通信障害防止のために合理的対策を講じており、かつかかる通信障害が決議の結果に影響しなかったような場合(審議に参加できなかっただけで決議に参加できたか、議決権を行使できたとしても決議の結果が変わらなかった)には、裁量棄却の可能性もあると述べています。
16:QA8-1は、通信障害が採決のタイミングで生じ大多数の株主の議決権行使が妨げられた場合には決議不存在事由となる可能性があるとします。
17:QA7-6は、招集通知等において、変更が生じた場合にはその変更内容を知らせる方法等(WEBサイトに掲載するなど)を記載等しておくことが望ましいとします。そして、かかるWEBサイトに掲載する等の方法により、株主に対して、当該延期・続行の決定の内容を知らせることが考えられるとしています。
18:従前のリアル総会における考え方によれば、会社法298条1項3号(書面投票)及び4号(電子投票)に、株主総会に「出席しない株主」とあることを素直に解釈し、総会場への入場の時点で出席したものとして、その事前の書面投票や電子投票が無効となるものと扱ってきました。しかしながら、実施ガイドは、ハイブリッド出席型について、上記の会社法の規定を実質的に解釈し、書面投票や電子投票は総会当日の決議に参加しない(その機会のない)株主に事前に議決権行使を認めた制度であるとの趣旨に着目すれば、「出席しない」との文言は「決議に出席しない」と解釈する余地もあると述べています。
19:QA4-6は、バーチャルオンリー型に関して、ログイン等の時点と議決権を行使した時点のいずれの時点において事前の議決権行使の効力を失わせるかについて、いずれの取扱いも許容しています。
20:以下、 株主総会参考書類・議決権行使書面・事業報告・計算書類・連結計算書類・監査報告・会計監査報告等をあわせて「株主総会資料」と総称します。
21:会社法299条3項・会社法施行規則2条1項2号、会社法301条2項、会社法施行規則133条2項2号、会社計算規則133条2項2号・134条1項2号22:ウェブ開示により省略できるのは、株主総会参考書類・事業報告の一部、計算書類のうち株主資本等変動計算書・個別注記表、連結計算書類、連結計算書類の監査報告・会計監査報告となります。実務上は、個別注記表と連結注記表(連結計算書類の一部)をウェブ開示により省略する会社が多く見られました。
23:会社法施行規則94条、133条3項、会社計算規則133条4項・5項、134条4項・5項
24:正確には、株主総会資料のうち一部を除いたものが電子提供の対象になり、これを「電子提供措置事項」といいますが、本稿では、便宜上、「電子提供措置事項」または「電子提供措置事項を記載した書面」のことを「株主総会資料」と表記しています。
25:招集通知には、その他に、1.書面投票又は電子投票を利用できること、2.電子提供措置をとっている旨、3.電子提供措置に係る事項を記載した有価証券報告書をEDINETを利用して提出した旨、4.株主の議案要領通知請求(株主提案)があった場合における議案の要領などが記載されます。
26:全国株懇連合会は、2021年10月22日に株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正を行いました。
27:会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律10条2項
28:公開会社の場合。非公開会社においては原則として株主総会の1週間前まで。会社法299条1項。
29:改正法の規律に加えて、東京証券取引所が定める有価証券上場規程施行規則437条3号(2021年3月1日施行)において、上場会社の努力義務として、招集通知・株主総会資料を株主総会の日の3週間前よりも早期に電磁的方法により提供するように努める旨が規定されています。
30:法制審会社法制部会第2回会議(2017年5月24日開催)・参考資料9。経団連参加企業41社にアンケートを送付して、回答率は約71%。
31:東証が定めるコーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)の【原則3-1. 情報開示の充実】において、一定の事項について開示及び主体的な情報発信が求められていることを意識して、招集通知の任意記載を充実させる企業が増えています。任意記載事項の例としては、1.社外役員以外の役員候補者の選解任・指名理由、2.社外役員の独立性判断基準、3.経営理念・経営戦略・経営計画、4.コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方・基本方針等、などがあります(商事法務研究会編『株主総会白書2021年版』旬刊商事法務2280号82~85頁)。
32:基準日を定めていない会社の場合、株主は、招集通知の発出時までに書面交付請求を行う必要があると解されます。
33:改正法325条の6
34:金融庁が公開している金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム。改正法325条の3第3項により、EDINETを使用して電子提供措置事項を記載した有価証券報告書を提出する場合には電子提供措置をとることを要しないとされています。この場合には、「電子提供措置」には該当しないため「電子提供措置の中断」の規定も適用されないと解されます。
35:邉英基『株主総会資料の電子提供制度への実務対応』商事法務2230号53頁、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第18回会議議事録3~4頁