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交通事故紛争の現在と未来

【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点

東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー

弁護士業務の中で、避けて通ることのできない交通事故紛争。その数は減少傾向にあるとも言われていますが、多数の案件を処理し、迅速・的確に進行すべく、交通部における運用もここ数年で大きく変容しています。また、近時広く普及するに至ったドライブレコーダーの記録にとどまらず、科学技術の進歩により、交通事故に関連する証拠も、日々進化を遂げています。交通事故紛争を扱うにあたっては、交通部の最新の運用や新たな証拠の動きをしっかり押さえておきたいところです。
そこで、本特集では「交通事故紛争の現在と未来」と題し、まずは本号の【前編】にて、交通事故紛争の「現在」を知っていただくべく、東京地裁の交通部に交通事故訴訟の最新の運用、改正民法施行による留意点等についてお尋ねしました。次号の【後編】では、交通事故紛争の「未来」を考えていただくべく、CDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)の専門家である菰田氏に、EDR/CDRとは何か、今後交通事故紛争にどのような活用が期待されるか、お話を伺いました。

【第1】東京地裁民事第27部(交通部)の概要

Q1 交通部の取扱事件と構成を教えてください。

A 当部は、東京地裁の民事訴訟事件係において受け付けた事件のうち、交通事故に関する事件のみを取り扱う専門部です。
裁判官14名、書記官17名(主任書記官3名、書記官14名)、速記官2名及び事務官3名、単独事件を担当する係が12係(1・2・3・4・5・6・7・A・B・C・D・E)、合議事件を担当する係が5係(甲1・2・3、乙A・B)で審理にあたっています(令和3年4月時点)。

Q2 最近の交通事故の事件数はどのように推移していますか。

A まず、新受事件についてですが、当部における令和2年の交通訴訟の新受件数は、1940件で、令和元年の2190件から11.4%減少しました。これは、明らかにコロナ禍の影響によるもので、東京地裁民事部の通常訴訟の新受件数も、令和2年は前年より約6.1%減少しています。
次に、既済件数についてですが、当部における令和2年の交通訴訟の既済件数は、1838件で、令和元年の2156件から14.7%減少しました。令和2年4月の緊急事態宣言下における審理の停止により、新受件数以上にコロナ禍の影響があったものと考えられます。既済事件を終局内容別に見ますと、判決が15.5%、和解が72.7%、取下げその他が11.8%となっており、当部における和解率は、ここ数年70%を超える高水準が維持されています。
最後に、未済件数について、令和2年の未済件数の推移を見ますと、3月末時点で1592件であったものが、8月末には1935件まで増加し、その後徐々に審理が再開されたことにより、12月末には1759件まで減少しました。ただ、令和元年12月末の未済件数(1657件)と比較しますと、6.2%増加しています。

Q3 交通事故に関する事件のみを取り扱っているとのことですが、具体的にはどのような事件を取り扱っているのでしょうか。

A 当部が担当する事件には、1交通事故の被害者が、加害者に対し、不法行為責任(民法709条、715条、719条等)又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の運行供用者責任に基づき損害賠償を請求する事件、自動車損害賠償責任保険の保険会社に対し、自賠法16条に基づき直接請求する事件及び加害者側が締結していた任意保険の保険会社に対し、保険約款等に基づき直接請求する事件などの損害賠償請求事件、2保険会社が、被害者に対して保険金を支払ったことにより、加害者に対し、保険代位に基づき損害賠償を請求する求償金請求事件、3加害者が、被害者に対し、損害賠償債務がないこと又は一定額を超えていないことの確認を求める債務不存在確認請求事件などがあります。

Q4 車両の事故であっても、取り扱っていない事件はありますか。

A 車両が関係する事故であっても、車両の運行に起因するとはいえない事故、例えば、車両の走行中、投石等により乗客が負傷した事故、停車中の電車・バス内で滑って転んだ事故、駐車場内に駐車中の車両のドアが隣の車両に当たった事故などは、当部ではなく、通常部で取り扱っています。

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【第2】訴訟提起段階から係属中の留意点

1 訴状、答弁書、準備書面の各モデルの紹介

Q1 交通部では、訴状、答弁書、準備書面の各モデルを提供していると聞きました。このような書式を提供するに至った経緯を教えてください。

A これまで、民事交通訴訟の訴状には、損害額一覧表が添付されているものと添付されていないものとがありました。請求原因に対する被告の認否も、例えば請求原因の1項は否認、2項は不知などと文章で記載されていることが多く、当部の担当裁判官は、審理を進めるにあたり、自分の手控えとして、損害額の主張対比表を別途作成するのが通常でした。そして、争点整理手続を進めるにあたって、一部の裁判官はその主張対比表を当事者双方に示しつつ争点を確認することを試みていましたが、多くは、口頭で要点を双方に伝えるにとどまり、代理人において、それぞれ手元の計算書とどこが違うのかを確認しながら補充の主張立証の要否を検討されていたようです。
しかし、迅速かつ的確に争点整理を行うには、訴訟の初期の段階から当事者双方と裁判所の三者が主張対比表を共有するなどして、争点が何であり、その軽重はどのようになっているのか、立証がどの程度されているのかなどについて共通認識を形成することが有益であると考えられます。
そこで、当部では、当事者双方と裁判所との三者間で簡便に認識を共通させるためのツールとして、損害額一覧表を別表として用いる、訴状、答弁書、準備書面の各モデルを作成し、利用をお願いすることとしました。

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Q2 これらをどのように活用すればよいでしょうか。代表的な訴訟物である損害賠償請求事件の傷害事案のモデルを例に、まずは、訴状モデルの活用方法について教えてください。

A まず、訴状に、事案の概要及び損害額を記載した損害額一覧表を添付していただきます(資料1)。
これらには、請求原因事実のうち、定型的な記載になじむ内容のものを全て記載していただき、訴状本文では、損害額一覧表を引用することにより、二重に記載していただく手間を省きます。そして、訴状本文には、事前交渉の経過などから予想される争点について、具体的に記載していただきます。損害額一覧表のデータは、訴状提出後、適宜の方法により裁判所に提供していただくことになりますので、担当書記官に提出方法をご確認ください。
また、訴状には、事前交渉の際に被告に代理人弁護士が就いていた場合、その氏名や事務所名を記載していただきたいと思います。これにより、裁判所において被告代理人に受任予定の有無を確認し、訴状を本人に送達するか、受任した代理人に交付するかを判断することができ、以後の手続を迅速に進めることができます。
被告に代理人が就いた場合、可能であれば、訴状添付の損害額一覧表のデータを原告代理人から被告代理人に対し適宜の方法で交付していただきます。

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Q3 答弁書モデルの活用方法を教えてください。

A 答弁書における請求原因に対する認否は、損害額一覧表の被告側主張欄に記入するとともに、主な争点に関する主張は答弁書本文に記載していただきます(資料2)。損害額一覧表で認否を行うことにより、認否の漏れを防止するとともに、主張や書証の追完の要否を明確にすることができます。損害額一覧表のデータは、裁判所と原告側に提供していただくようお願いします。

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Q4 準備書面モデルの活用方法を教えてください。

A 主な争点に関しては、その後準備書面で詳細な主張のやり取りを行い、審理の途中で損害額に係る主張や認否が変更されることになった場合には、変更内容を反映した損害額一覧表を準備書面に添付していただくことにより、その時点における主張の対立状況を常に一覧できるようにしておきます。審理の途中で既払金などが判明した場合にも、これを損害額一覧表に記載し、原告の請求金額にどのような影響を及ぼすのか、変更後の主張に対する認否漏れがないかなどについて、明確に把握できるようにします(資料3)。

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Q5 活用にあたり特に留意すべきことがあれば教えてください。

A 原告、被告とも、訴状や答弁書の段階から、損害額一覧表には主張の根拠となる書証番号を必ず記載していただきたいと思います。これにより、立証あるいは反証の要否を互いに把握することができます。
このようにして損害額一覧表が埋められるとともに、主な争点に関する主張や証拠の提出が行われれば、争点整理が終了することになりますが、その過程で裁判所が和解勧試を行う場合には、損害額一覧表を基に和解案を作成してお示しすることが考えられます。

Q6 その他の事件類型についても書式は提供されていますか。

A 訴状本文の書式は、このほか、保険代位による求償金請求事件のもの(資料4-1)及び債務不存在確認請求事件のもの(資料4-2)を東京地裁のウェブサイト(裁判所ウェブサイト・トップ>最高裁判所・各地の裁判所>各地の裁判所>東京地方裁判所/東京簡裁以外の都内簡易裁判所>裁判手続きを利用する方へ>民事第27部(交通部))に掲載しております。
訴訟物については、これら以外にも、共同不法行為者間の求償金請求、同請求権の保険代位による行使など、3つのモデルに当てはまらないものもありますので、本文の記載にあたっては訴訟物が何であるかにご注意いただき、要件事実に漏れがないようにお願いいたします。
また、損害額一覧表の書式は、モデルの傷害事案のほか、死亡事案のもの(資料5-1)及び物損事案のもの(資料5-2)も同様に東京地裁のウェブサイトに掲載しております。人損と物損を合わせて請求する場合もありますが、これらは訴訟物が異なることがあり、既払金の充当の誤りを防止するためにも、人損と物損で表を分けております。両者の損害を合わせて請求する場合には、それぞれの既払金の充当後に合計額を計算して請求額とするという方法で利用していただければと思います。

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Q7 損害額一覧表を用いた審理はいつから実施されているのでしょうか。

A 昨年4月から、原則として当部に係属する全事件で行っております。ご協力をよろしくお願いいたします。


2 ITツールを利用した争点整理の新たな運用

Q1 交通部でもITツールは利用していますか。

A 民事訴訟に関する裁判手続のIT化を進めるため、当部でも、令和2年7月から、「フェーズ1」における取組として、現行法の下でウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新たな運用を開始しています。

Q2 具体的にはどのように活用されているのか、教えてください。

A 近時当部に係属した事件では、答弁書が提出された段階で、争点整理のために複数回書面をやり取りすることが必要な事件については、その多くが書面による準備手続に付されています。そして、その手続の過程で、適宜協議の日時が定められ、ウェブ会議の方法により協議が実施されています。訴訟の早い段階から書面による準備手続に付し、ウェブ会議の方法により協議を実施するという運用は、当部では広く浸透しており、令和3年に入ってからは、一月あたり300~500件の期日等が実施されています。引き続きITツールを利用した争点整理にご協力をお願いいたします。
なお、準備書面や書証は、従前どおり、紙媒体で提出していただくことになります。書面による準備手続においては、準備書面の陳述や書証の取調べはできませんので、準備書面の陳述等は、書面による準備手続が終結した後に開かれる口頭弁論又は弁論準備手続の期日において行っていただくことになります。
また、争点整理手続をウェブ会議の方法により行う場合であっても、争点整理手続の進行状況や内容によっては、裁判所に出頭していただいて争点整理を行うことが相当な場合もあり得ますので、その点はお含みおきください。


3 その他の留意事項

Q1 改正民法施行に伴う留意点があれば教えてください。

A 令和2年4月に施行された改正民法には、民事交通訴訟に関わりの大きいと思われる法定利率、消滅時効、相殺、連帯債務に関する事項などがありますが、特にご留意いただきたい点は、遅延損害金です。
遅延損害金について、改正民法では、法定利率が変動制とされたことに伴い、いつの時点の法定利率を用いるかが問題となりますが、この点は明文の規定が設けられ、金銭債務の遅延損害金の算定は「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」によるとされました(改正民法419条1項)。
不法行為による損害賠償債務については、一般に、不法行為時に直ちに遅滞に陥るものと解されていますので、交通事故により損害を被った被害者が加害者に対して賠償を求める場合、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」は事故時を指し、事故時の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。
また、民事交通訴訟では、車両保険や人身傷害保険の保険金を支払った保険会社が加害者に対して損害元金及び遅延損害金の支払を求める、いわゆる求償金請求の事案も多くありますが、このような事案では、通常、被害者が有していた不法行為による損害賠償請求権について保険法25条に基づいて被害者に代位したことを根拠として請求されます。そのため、保険会社が行使する権利は、代位取得した被害者の加害者に対する不法行為による損害賠償請求権であることになります。そうすると、保険会社が当該損害賠償請求権を代位取得して行使する場合にも、事故時の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。なお、このような求償金請求の事案では、保険金支払日(支払が複数回にわたる場合にあっては最終支払日)の翌日以降の遅延損害金の支払が請求されるのが一般的ですが、それは保険金支払日に遅滞に陥るからではなく、事故時から保険金支払日までの遅延損害金は代位の範囲外であるため保険会社が取得することができないことによるものですので、保険金支払日の法定利率によって遅延損害金を算定することにはならないと考えられます。
これに対し、民事交通訴訟では、共同不法行為者間の求償債務が問題となることもありますが、この求償債務については、期限の定めのない債務とみて、遅延損害金の起算日を求償金支払催告日の翌日とした判例(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁)がありますので、催告日の翌日の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。訴状作成にあたっては、これらの点にご留意ください。

Q2 中間利息控除についても、何か留意すべきことはありますか。

A 中間利息控除についても、法定利率が変動制とされたことに伴い、将来の逸失利益や将来の介護等の費用についての損害額を算定するにあたって、いつの時点の法定利率を用いるべきかが問題となりますが、改正民法では、「その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率」によってすることと規定されています(改正民法722条1項、417条の2)。したがって、中間利息控除は事故時の法定利率によってすることとなります(以上については、前田芳人『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準(2020・令和2年版)下巻』を参照)。ライプニッツ係数表参照時にはご留意ください。

Q3 その他、一般的なことについてお聞きします。まず、管轄について留意すべきことがあれば教えてください。

A 当事者双方の住所地及び交通事故発生場所のいずれも当庁の管轄にないにもかかわらず、交通事故に関する事件の専門部があり、相手方の訴訟前の代理人の事務所が東京にあるという理由だけで当庁に訴訟提起をされる場合も少なくありません。
しかし、管轄合意書がなければ、速やかに移送されることがありますので、管轄合意がある場合には、合意書(相手方に代理人が就いている場合にはその委任状も)を必ずご提出ください。

Q4 訴状の記載について留意すべきことがあれば教えてください。

A 当事者が未成年の場合には、法定代理人(共同親権の場合には父母両名)の記載が必要であり、代理権を証する戸籍謄本などの証明書の添付や法定代理人名義の委任状が必要となります。なお、未成年が成人した際には、改めて委任状を取り直して提出していただく必要があります。また、当部の取扱いとして、資格証明書については訴え提起前3か月以内のもの、訴訟委任状については訴え提起前6か月以内のものを提出していただいております。
請求の趣旨は、原告又は被告が単数か複数かをよく確認した上で記載してください。被告が複数であるにもかかわらず「被告は」となっていたり、「連帯」又は「各自」という記載が漏れていたりすることがあります。
原告が被害者の損害賠償請求権を相続したことを理由とする場合には、相続関係図を付けて、必要な戸籍(被害者の出生から死亡まで連続したもの)を提出してください。
当部に係属中の事件への併合を希望する場合には、必ず、訴状提出の際に、事件番号を明記してその旨を記載するか、上申書を添付してください。

Q5 書証の提出について留意すべきことがあれば教えてください。

A 多くの事案では、過失相殺の前提として事故態様が問題となるほか、原告主張の症状の外傷起因性や、治療の必要性・相当性に関係して、事故により身体に加わった外力の部位や程度が問題となります。裁判官にとっては、具体的な事故状況を図面や画像で確認することができた方が、文字での説明のみの場合よりもリアルに理解することができますので、事故現場や事故車両の写真、ドライブレコーダー等の客観的資料が存在するときは、できるだけ早期にご提出ください。
これに限らず、主張書面を提出される際には、当該主張事実を裏付ける客観的証拠があれば、主張書面において当該書証を引用した上、当該書証とこれによって裏付けられる事実を明確に記載した証拠説明書を同時に提出していただくようお願いします。特に、刑事記録、診療録等の大部の書証については、書証にページ番号を付した上、主張書面においても該当ページを引用してください。なお、当部では、書証の提出にあたってご協力いただきたい事項をまとめた書面を作成し、書記官室カウンターに備え置いております。送付嘱託により送付を受けた文書を書証とする場合には、証拠説明書の文書の標目に「(送付嘱託)」と追記することなど、書証の整理に有益となる種々のお願いを記載しておりますので、是非、ご一読ください。

Q6 送付嘱託に基づく送付文書の交付について留意すべきことがあれば教えてください。

A 当部においては、医療機関等を嘱託先とする送付嘱託は、原則として、送付文書を写しにより送付するよう依頼し、その作成費用を申立人の負担とする取扱いをしています。
嘱託先から送付された文書は、本来であれば、裁判所で保管し、申立人が閲覧・謄写をして、書証として提出していただくこととなります。しかし、医療記録は枚数が多く、レントゲンフィルム等は、1枚の写しを作成するのにもかなりの費用がかかるところ、その写しの作成費用を申立人に負担していただいておりますので、原則的な運用によれば、送付嘱託の申立人は、裁判所へ送付する分と申立人側で使用する分の2つ分の写しの作成費用を負担することになります。そこで、写しの作成に要する手間と費用を軽減するために、医療機関等を嘱託先とする場合には、①写しにより送付されたものであること、②嘱託先への返還が不要であること、③交付が相当でないと認められる特段の事由がないこと、④当事者双方に代理人弁護士が就いていること、⑤申立代理人が留意事項(資料6)を了承の上で交付方式の申出をすること、⑥相手方代理人が同意していることという要件を満たす場合には、送付文書を申立代理人弁護士に交付する運用を行っています。ただし、交付を受けた後も、尋問、鑑定等訴訟の審理のために必要な場合その他裁判所が必要と認める場合や相手方当事者において使用する必要がある場合には速やかに貸与することなど、送付文書の取扱いについては交付後も裁判所の指示に従っていただきます。
交付の方式については、当部の書記官室での直接交付に限ることとしております。

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【第3】終了段階における留意点

Q1 和解成立にあたり、留意すべきことや準備すべきものがあれば教えてください。

A まず、裁判所から提示した和解案の受諾の可否、当事者間で合意することができた和解条項等については、期日前に書面又は電話でお知らせください。
次に、訴訟が和解で終了する場合には、次の書類等の準備にご協力ください。

  • (1)振込口座を記載した書面
  • (2)利害関係人が参加する場合は、利害関係人参加申出書、資格証明書(利害関係人が法人であるとき)、訴訟委任状(代理人が出頭するとき)
  • (3)成年後見人に後見監督人が選任されている場合は、後見監督人の同意書(訴え提起自体にも同意書が必要です。)
  • (4)地方公共団体が当事者である場合は、原則として議会の決議が必要であるため、議会の承認を得た旨の書面
  • (5)訴え提起時に未成年者であった当事者が和解成立時に成年に達している場合には、成年に達した当事者からの訴訟委任状
  • (6)当事者の住所変更又は法人の代表者の変更がある場合はそれらを証する書面及びその旨を記載した上申書

Q2 一般的な和解のほか、当事者の出頭を要しない和解の方法があると聞きました。手続について教えてください。

A 当部では、弁論準備手続、書面による準備手続を問わず、争点整理の過程で和解による解決が可能となった場合に、当事者双方に出頭していただく必要のない裁定和解(民訴法265条)の方法も活用しています。裁定和解は、当事者の共同の申立てがあるときに裁判所が適当な和解条項を定め、これを告知することにより、告知の時点で和解が調ったものとみなされる手続ですが、当部では、当事者双方が関与して和解内容を事実上決めた段階で、双方から共同の申立てをしていただき、その内容を裁判所が定める和解条項として告知するという方法を取っています。したがって、和解の内容については、通常の和解と同様、当事者双方の合意の上で決められるものとなっています。
なお、和解調書正本の送達申請については、通常の和解では、書記官の面前で口頭申述していただき、それを調書化した上で送達を実施しておりますが、裁定和解において、和解条項の告知を特別送達やファクシミリ送信の方法によった場合は送達申請の口頭申述ができないので、送達を希望される際には書面で送達申請をしていただく必要があることにご留意ください。

Q3 和解成立後に留意すべきことがあれば教えてください。

A 訴訟救助により訴え提起手数料等の猶予を受けている場合は、和解成立後、速やかに猶予した費用を任意納付してください。

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【第4】最後に

Q 詳細にご説明いただきありがとうございました。最後に読者に向けて一言お願いします。

A 以上、当部に関する近時のトピックをご説明しながら、様々なお願いもいたしましたが、書記官室一同、裁判官と協働して、民事交通訴訟の審理の充実促進を支えるべく努力を続けてまいりますので、弁護士の皆様には、引き続きご協力くださるよう、お願いいたします。