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少年とともに

委員会ニュース(子どもの権利に関する委員会)

練馬区におけるスクールロイヤー制度

●多田 猛 Takeshi Tada(65期) ●谷村 紀代子 Kiyoko Tanimura(61期)
●平尾 潔 Kiyoshi Hirao(53期) ●松岡 正高 Masataka Matsuoka(62期)

(1)練馬区におけるスクールロイヤー制度の導入

  1. 2021年1月、当会に練馬区教育委員会から、スクールロイヤーの派遣を求める申込みがあった。
    練馬区がスクールロイヤー制度の導入を決めた理由は、学校現場で生ずる様々な問題について、専門的な知見や経験を有する弁護士に相談を求める需要があり、かつ、相談を機動的に行えるような体制を整えたいということであった。当時、教育委員会には、学校現場から、いじめや不登校事案等の法的な対応が求められる案件はもちろん、保護者対応の当否、プライバシー等、学校で生ずる法的問題について、数々の相談が寄せられていたと聞いている。
  2. 練馬区では、スクールロイヤーの関わり方として、いわゆる「アドバイザー(顧問的弁護士)」が採用された。区内を4地区に区分し、各地区を1名のスクールロイヤーが担当している。
  3. 練馬区においても、スクールロイヤーの業務の柱は相談である。
    スクールロイヤーへの相談は、学校(校長・副校長等の管理職)から直接、スクールロイヤーに持ち込む方法が採用された。他の区の制度では、教育委員会を相談窓口とする方法もあるが、かかる制度は、教育委員会で相談内容が弁護士への相談に適するかどうかのスクリーニングがなされるためスクールロイヤーの負担軽減に資する一方で、スクールロイヤーと学校の距離が遠くなることや、教育委員会を経由することにより手続が煩雑となるため学校が相談を控えるという弊害が懸念された。また、機動的な相談体制を構築したいという区の目的に相反してしまう可能性があることから、上記の方法が採用された。区としては、学校の管理職が、弁護士に相談するのに先立って、自ら問題点や事実を整することや、弁護士から直接アドバイスを受けることにより、紛争処理能力を養う一つの場面として機能することを期待したいとの希望も出ていた。
    なお、江東区における当会会員の活躍、スクールロイヤー制度の概要やスクールロイヤーに求められる弁護士の資質等については、本誌2020年5月号「少年とともに」(16ページ以下)を参照。

(2)相談対応の実際

  1. スクールロイヤーへの相談は、管理職から、電話やメール等で直接行われる場合が大半だが、教育委員会を通じてされることもある。相談は予約不要で、現在は相談件数の上限を設けていない。原則として、当該地区を担当するスクールロイヤーが対応するが、内容によっては、判断に悩ましい相談も少なくなく、必要に応じ、4名のスクールロイヤーが協議しながら対応することもある。
  2. 相談の内容は、学校に関わることであれば特に制限はなく、様々な相談が寄せられる。学校の管理職は、学校外であったトラブルだとしても、自校の生徒のトラブルである以上、介入や対処が必要か悩むことも多い。学校が当該トラブルに関与すべきかどうかを弁護士が判断し助言するだけでも、管理職の心理的負担は軽減されるだろう。
    また、そもそもそれが法律問題として弁護士に相談すべきかどうかが分からない、悩ましいと教職員や管理職が考えて相談を躊躇する場合もあると聞く。親同士が喧嘩していて、学校が仲介すべきかといった相談がその一例だ。しかし、それが法律問題かどうか判断を聞くだけでも、教職員の心理的負担は軽くなるだろう。私たちスクールロイヤーは、学校現場の様々なトラブルについて事例を学んでいるため、仮に法律問題ではないようなトラブルだとしても、傾聴し、一緒に悩むことはできる。そのような「誰に相談してよいか分からない」悩みを共有できる外部の専門家が身近にいることにも意義があるだろう。
  3. 相談のタイミングもまちまちだ。例えば児童・生徒への指導と校則の関係、幼稚園の退園手続の効力、給食費の未納の問題といった一般的な法律の解釈の相談は、予防的な相談といってよいだろう。
  4. いじめや事故が生じた後、どのようにヒアリングし、指導、和解のアプローチをとっていけばよいかといった相談は、典型的なものだ。保護者との関係等がこじれてしまい、学校として対処に苦慮し相談されることも多いが、スクールロイヤーの立場とすれば、初動対応が重要であることから、もっと早く相談してもらえれば、大事にならなかったのに、と思うケースも少なくない。
    重大事態に至り第三者調査報告書が作成されるようなケースになると、加害者・被害者への対応、調査結果の扱い方等、機微に触れる問題が多く、慎重な対応を要し、スクールロイヤーとの緊密な連携が必要となってくる。
    私たちスクールロイヤーは、トラブルの「芽」ともいえるような小さなトラブルでも、なるべく早い段階から相談してもらった方がありがたい。些細なことでも私たちに気軽に相談してもらえるように周知、啓発していくことが必要だと考えている。

(3)管理職研修

  1. 練馬区では、スクールロイヤーを講師として、校長、副校長に対して別々に講習を行っている。2021年度は夏季に対面、オンラインの併用で研修を行った。事前にスクールロイヤーに対する質問事項を募り、その中から研修素材として使えそうなものを選択し、資料を作成した。第1部でスクールロイヤーの制度設計や活動の留意点を整理したうえで、第2部でよくある質問に回答するという形をとることとした。
  2. 事前の質問では、保護者とのトラブルに関するものが多く、会話録音の可否、弁護士が出てきたときの交渉のコツ、裁判を回避する方法等があった。また、保護者同士の争いに学校が仲裁役で入るケースもあり、対応策等に関する質問もあった。
  3. スクールロイヤーとしては、選択したいくつかの代表的な質問に対する回答のほか、いじめや不登校事案での対応方法、事実調査に際してのヒアリングのコツ、事実認定の方法等についても解説した。その後の質疑応答では、かなり具体的な質問が多数出され、容易に回答できないものもあった。丁寧に対応すればするほど、時間と労力がかかり、現場が疲弊していくことや、それにもかかわらず問題がなかなか解決していかないことがうかがわれ、学校現場の誠意と苦悩を図らずも知る機会ともなった。

(4)今後の展望・課題

  1. スクールロイヤー制度が導入されてまだ半年ほどであるが、相談は増加傾向にある。学校から弁護士に対し、直接教職員への研修要請がある等、教育委員会も想定していなかった利用の広がりもみられる。今後は、広報活動の一環も兼ねて、これまでの区の一斉研修のほか、担当地区別の研修も予定されている。担当地区ごとに、より小規模単位で交流することで、弁護士に対する心理的抵抗感が薄れることを期待したい。
  2. 現在の相談は、保護者対応に関連するものが多いが、重大事態に発展しうるいじめが認知された際、早期にスクールロイヤーが関与することのメリットの周知徹底を図りたい。弁護士が、いじめ防止対策推進法等法令に沿った対応を促すことで、いじめ被害にあった子どもの権利を守るための活動ができることは委員会の趣旨にもかなう。そのためには、これまでいじめ対応に取り組み、ノウハウ・事例を蓄積しておられる教育委員会・現場の教職員との信頼関係を醸成し、情報共有・問題が発生した際の方針についての意識共有を行うことも必要である。
    実際にあったいじめに関する事例につき、個人情報等には配慮した形でスクールロイヤー間でも情報等を蓄積することで、研修等いじめ予防の活動にも還元したい。
  3. 規則により任期の更新は連続3期までとされていることから、担当弁護士が入れ代わる際の円滑な引継ぎも今後の課題である。4名を同時に交代させることを避ける等の方策を検討したい。

付添人体験記

●藤井 智紗子 Chisako Fujii(73期)

(1)初めての少年事件

弁護士になりたての2月半ば、初めての少年事件を受任しました。学部・大学院の頃に少年友の会の学生ボランティアをしており、弁護士になったら少年事件に積極的に取り組みたいと考えていたので、上の期の先生に誘ってもらい、二つ返事で引き受けました。
少年は、もうすぐ20歳となる切迫少年で、被疑事実は所属スポーツチームのロッカールーム内で財布から現金を盗んだという窃盗でした。補導歴がなくもちろん逮捕も初めてで逮捕初日から憔悴しきっていました。初回接見では、建築関係の専門学校に通っており進級試験が近く、「イライラしてやった」とのことでした。また、「こんなことをしてしまい家族に申し訳ない」と必要以上に自分を卑下する様子が気になりました。

(2)少年自身の課題との向き合い

イライラしながら歩く人のイラスト 接見を重ねるうち、同様の手口で5回以上窃盗を繰り返してきた複数の余罪の存在が判明しました。少年は当初、余罪を小出しにし、動機も「イライラしてやった」と語っていました。しかし、共同受任の弁護士と交代でほぼ毎日接見に通い、雑談も含めて話すうち、少年は好きな歌手のライブに行くお金がなかったけれど、教育熱心で厳しい面のある両親には言い出せなかったとのことでした。
少年はとても内気で、ストレスをため込みやすく、アンガーコントロールが未熟で、主体的に物事を進めたり発言したりできないことが非行に至った大きな要因と考えられました。自己肯定感の低さや問題から逃避しがちな性格も影響していると思われました。
少年には、お金が足りない理由、足りないときやイライラしたときの対応等を自分で分析し、私たちと会話を重ねることで更に考えを深めていくことを繰り返しました。例えば、お金が足りない理由がライブのチケット代なら「ライブに行く回数を減らす」と分析し、具体的行動として「昔のライブの動画を見返す」と掘り下げました。同時に、本人が夢に向かって頑張っている姿勢を称え、励ますことも続けました。両親も毎日面会に来て、試験の参考書や自己分析の本を差し入れ、少年を励まし支えました。

(3)余罪告白

余罪をどう扱うかも課題でした。準抗告等は認められず、勾留となりました。進学や資格取得にも影響が出かねない状況であり、また切迫少年であり、余罪で再逮捕が繰り返される可能性もありました。
最終的には、少年自ら余罪を申告しました。何より少年自身の「お母さんに、しっかりした人になると言ったから、自分で余罪について話してやり直したい」という言葉がありました。少年が、大人でも逃げ出したくなるような問題に真摯に向き合い、主体的に物事を決める第一歩となりました。「本当にそれでいいの」と尋ねたときに、今までの鬱屈した表情とは違い、少し晴やかな表情で頷いた姿は、忘れられません。
その後、検察官にも働きかけ、勾留延長なしでの家裁送致、余罪についても再逮捕はされないこととなりました。

(4)観護措置決定回避と示談結果の受け止め

家裁送致の朝、観護措置決定を付すべきではない旨の意見書を提出し、裁判官面接で「観護措置はつけない予定」と言ってもらえました。余罪告白により客観的な罪証隠滅のおそれがないことや学校を休み続けることでの不利益が考慮されたと思います。
同日午後、奇しくも被害者との示談が控えていました。被害者に少年の書いた謝罪の手紙を渡し、少年の父親と一緒に頭を下げました。しかし、「もっと盗んでいるはずだ。お金が欲しかっただけではないか。反省していない。示談に応じるつもりはない」と厳しく言われ、示談は不成立となりました。身体拘束を解かれた少年を迎えに行き、被害者が怒っていたことを伝えると、「そうだと思う」としっかり受け止めていました。

(5)重すぎる代償

やっとの思いで復帰した学校でしたが、少年は最終的に退学せざるを得なくなりました。
学校とは、少年の両親や少年本人がやり取りをしていました。指導を受けて反省文も提出したと聞き、本人も落ち着いた様子で一安心した矢先、「急に学校から呼び出されて1か月の停学処分と言われた」との報告がありました。折り悪く進級要件との関係で留年が確定してしまうタイミングでした。
学校に連絡を取り「処分もまだ決まっていない。このタイミングの停学処分は不利益が大きすぎる」と訴えたものの「規則なので。窃盗は窃盗だ」との硬直的な答えしか返ってきませんでした。1年間留年するという選択肢もありましたが、学校に向けての少年自身の心が折れてしまい、両親が元々学校に対して否定的だったことも相まって、自主退学することになりました。

(6)審判に向けた新たな目標探し

少年は、突然夢を絶たれ、空虚な状態になってしまいました。審判で「学校を頑張って卒業し、社会人としてしっかり生きていく」と表明しようとも話し合っていたため、審判直前に方針転換が必要となりました。
両親は「まずは行動して新しい目標を探ってはどうか」と少年に働きかけると、当初は全てにやる気をなくしていた少年も、アルバイトやボランティア等に取り組むことで、新しい進路を探ることに決めました。
付添人としても、少年に対して今後の目標を今すぐに定めることまで働きかけることはせず、様々な選択肢があることを面談等で伝え、少年自身が決める姿勢を尊重しました。

(7)審判の結果

付添人意見では、

  • 少年が自己分析を繰り返して課題に向き合っていること
  • 両親が協力して熱心に少年を支えていること
  • 少年が夢を失いながらも自らの意思で新しい目標を模索していること
  • 第三者が指導監督を行う保護観察等ではなく、少年自身の主体的な更生を期待すべきこと

等を述べ、不処分を求めました。少年も審判でしっかり自分の言葉で質問に答え、結果、不処分となりました。

(8)最後に

当初はこの少年が窃盗をしたのかと不思議に感じていましたが、接していくうちに、彼が抱えている問題に触れられたように思います。性格や思考はそう簡単に変わるものではありませんが、自分自身に向き合うこと自体が少年にとって大きな変化だと感じました。ボランティアで接するのとは異なり、付添人として審判まで伴走したからこそ感じられた変化だと思います。
一方で、学校関係のことではもっと対応できたのではないかと反省することばかりです。身体拘束の解放を最大の課題としていましたが、その先の環境調整も丁寧に行わねばならない難しさを感じました。
初めての付添人活動を経て、そのやりがいや難しさを垣間見たように思います。これからも1つ1つの出会いを大切にしながら、付添人活動を続けていきたいです。
(※守秘義務の関係で一部事実と異なる記載をしています)

ハートを抱きしめるイラスト