インハウスレポート
インハウスに至るまでと外資系IT関連企業のインハウスローヤー
【当会会員】牧山 嘉道 Yoshimichi Makiyama(42期)
弁護士(日本国・ニューヨーク州)・弁理士リップル法律事務所
インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員(主に任期付き職員)として勤務する弁護士の総称です。
本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。
インハウスに至るまで
私は、2000年4月から3年5か月にわたり、外資系IT関連企業でインハウスローヤーとして法務に携わっていました。
インハウスになる前、私は、国際業務を扱う大手法律事務所に勤務しておりました。
この法律事務所は、当時は金融・証券の分野で有名でしたが、私はこれら金融や一般企業法務とともに、知的財産権分野の業務にも従事していました。これは、そもそも私が知的財産権に関心があり、弁護士になったら是非知的財産権分野の業務に携わりたいと考えていたことによります。
私は、この法律事務所に勤務中に、米国のコロンビア大学ロースクールへの留学と米国法律事務所での研修の機会に恵まれました。
ロースクールでは、著作権、商標、エンターテインメント関連の講義やゼミを受講しました。
ロースクール卒業後、ニューヨークにある、証券市場で著名な歴史ある大手法律事務所のDavis Polk & Wardwellに勤務しましたが、ここでは、プロジェクト・ファイナンスや証券化などのストラクチャード・ファイナンスを扱っている金融部門に配属されました。
他方、著作権法などエンターテインメント関連の米国法の研究を続け、その成果を法律雑誌に連載していました。
そんな中、知的財産権分野においても米国の法律事務所で研修したいと考え、知的財産権を扱っているサンフランシスコのブティック系法律事務所に勤務することになりました。
この法律事務所は、シリコンバレーの企業をクライアントに抱えており、また、事務所の規模が小さかったことから、かなり実質的な仕事に関わることができました。サンフランシスコとシリコンバレーの間を何度も往復し、シリコンバレーの空気に触れたことは、その後の自分に大きく影響を与えることになりました。
帰国後、元の法律事務所に復帰し、IT関連のベンチャーやスタートアップ企業に対するファンドによる投資案件に携わる中で、またシリコンバレーやロサンゼルス近郊のベンチャー企業等を訪れるようになりました。
ベンチャー企業への投資については、ベンチャー企業は自ら有する特許やノウハウなど知的財産権を売り込んで投資を呼び込もうとしますので、金融・証券に関する法律問題のほか、デュー・ディリジェンスなどにおいて知的財産権に関わる法律知識も重要でした。
そのような折、ヘッドハンター経由で、マイクロソフト・アジア・リミテッド(当時、マイクロソフト・コーポレーションの子会社でアジアを統括)の面接を受けたところ、ビジネス現場に近く、時代の最先端の技術を扱う仕事は大変面白そうであり、また、職場の雰囲気もよさそうでしたので、結局、マイクロソフトにインハウスとして入社することになりました。
インハウスの業務
IT企業と一口に言っても、その事業分野やビジネスモデルは様々です。企業が提供する商品・サービスも、ハードウェアやソフトウェア、インターネット、サブスクリプションなど多岐にわたり、それぞれのビジネスモデルや法律問題も多様です。
私がマイクロソフトに在籍していたのは今から20年前ですが、当時においても、マイクロソフトは、先進的なIT化に取り組んでおり、インターネットをフルに活用しているので、インターネット上のセキュリティなどの情報の保護については、企業の最先端の技術が導入されていました。
外資系企業の法務
私がマイクロソフトのインハウスに就いた大きな理由の一つに外資系であることがありました。私は、国際的な法務サービスに携わり、また、外国の人々と交流をしたいと考えていたので、外資
系であることは、極めて重要なポイントでした。
外資系の場合、インハウスがいることは当然のことであり、ジェネラル・カウンセル(General Counsel、法務部長)も基本的に法曹有資格者です。言わば、企業内に自分固有の法律事務所を1つ抱えているようなものです。
グローバルな事業展開をしている企業の場合、本社と各国の子会社の各法務部は緊密な連絡を取り合い、また、同じポリシーの下で、重要な情報を共有します。
グローバルレベルでの法務部の集まりや全社的なイベントを通じた国際的な交流は、単に業務に関する意見交換にとどまらず、色々な国の人々の考え方を知り、ひいてはその国の文化を理解するうえで貴重な経験であり、今日、重視される国際的な多様性そのものの体験であったといえるでしょう。
外資系企業の場合、多くはグローバルに適用されるビジネスモデルや契約書雛形が本社サイドから提示されるのですが、各国の法務部の重要な役割の一つは、そのようなビジネスモデルや契約書等のローカライズ、すなわち、各国の法制度や商習慣に合わせた修正です。このローカライズの過程で、各国、特に本社のある米国法と日本法との相違などを意識し、理解するようになり、比較法的な観点からもその作業は面白いものでした。
ITと法務
企業の法務においては、自社の製品やサービス、技術、ビジネスモデルなどをよく知ることが事案の法的分析の前提となります。私にとって楽しかったことの一つは、いち早く最先端の技術に触
れることができることでした。新しい製品やサービスを世に出すために、法的観点からこれらに関わることができるのは、ITなど先端テクノロジーを扱う企業法務の醍醐味でしょう。
他方、新しいテクノロジーは、法的には、未知の難しい問題を提起することがあります。このような問題に対しては適用される法律が存在せず、また、既存の法令の解釈としてカバーしようとしても所詮限界があります。
何の道標もない問題に直面したときは、大いに悩むこともありますが、これはまた、ある意味で新たな法創造のチャンスでもあると思います。自分やチームの持つ知識と創造性、想像性を動員して、進むべき方向を指し示すことができれば、非常にやりがいのあることではないでしょうか。
さらに、諸外国の動向を無視することはできません。知的財産や個人情報などのデータ移転は国境を跨ぐグローバルな問題ですから、IT関連の法務は非常に国際性を帯びていると感じざるを得ません。
むすび
外資系IT関連企業は、企業として確立し安定しているように見えても、まだまだチャレンジ精神は失われていないように思います。ITなどの先端技術が関わる知的財産権や情報通信分野に興味があり、また、国際的な法務に関心がある方は、外資系IT関連企業の法務部に注目してはいかがでしょうか。