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司法研修所教官 経験者座談会
〜「司法修習のいま」と「弁護教官の仕事」〜

2001年6月の司法制度改革審議会意見書の提言を受け、法科大学院制度が創設されたのが2004年。2006年には新司法試験と、新しい司法修習が始まりました。実務家法曹となるプロセスの最後の段階に当たる司法修習については、この間、前期修習の廃止、給費制から貸与制への変更、前期修習に代わる導入修習の開始、修習手当の創設など、さまざまな制度の変更を経てきました。そのような中、毎年絶やすことなく現場で修習生たちを指導し、サポートしてきたのが、司法研修所の教官であり、各実務修習地の指導担当の方々です。今回は、司法研修所の弁護教官にフォーカスして、最近の司法研修所での修習の様子や弁護教官の仕事についてお話しいただきました。

【司法研修所教官経験者】
古田 茂 Shigeru Furuta(49期) 司法研修所教官 2017年~2020年
洞澤 美佳 Mika Horasawa(51期) 司法研修所教官 2018年~2021年
横田 高人 Takahito Yokota(52期) 司法研修所教官 2018年~2021年/弁護士薦推委員会 2021年~
北川 朝恵 Tomoe Kitagawa(57期) 司法研修所教官 2018年~2021年

【司会】
長谷川 卓也 Takuya Hasegawa(52期) 司法研修所教官 2015年~2018年/弁護士推薦委員会 2018年~

【編集部】
柳楽 久司 Hisashi Nagira(54期) 本誌編集長



長谷川 弁護士推薦委員会委員の長谷川です。今日は、司法研修所教官の任期を最近終えられた4人の先生方にお集まりいただきました。横田先生と洞澤先生は民事弁護教官(民弁教官)、古田先生と北川先生は刑事弁護教官(刑弁教官)をされていましたが、まず、民弁教官、刑弁教官それぞれの立場から、最近の司法研修所ではどのような修習が行われているかということをお聞かせいただき、続いて、その指導に携わる教官の仕事の中身についてお聞かせいただければと思います。
今日はNIBEN Frontierの柳楽編集長にも出席いただいていますので、適宜話に加わっていただければと思います。よろしくお願いします。

司法修習の全体像

人数・クラス編成

長谷川 まず司法修習の全体像からお聞きしていきたいと思います。現在の司法修習は、司法研修所での導入修習で始まり、民裁・刑裁・検察・弁護の実務をローテーションする個別修習を経て、司法研修所に戻って集合修習、という構成になっています。修習生の人数が増えて一度に司法研修所に入りきらないので、クラス編成を個別修習地別にしてA班クラスとB班クラスに2分し、A班の集合修習の期間にB班は個別修習地で選択型実務修習とホームグラウンド修習、その後B班とA班で入れ替わる仕組みですね。修習生全体でどのようなクラス編成になっていますか。

北 川 22組で、1組が大体65人から70人の間です。

長谷川 そのうち、東京で個別修習をする修習は何クラスでしょうか。

洞 澤 霞が関単独クラスが二つ、霞が関と立川の混合クラスが一つ、霞が関と横浜の混合クラスが一つです。

柳 楽 昔は一つのクラスの中に全国の修習地の修習生がいて、修習時代に地域を超えた縁ができる面白さがありましたが、それがなくなってしまったのは残念ですね。

司法修習全体のスケジュール

導入修習

長谷川 導入修習は昔の前期修習に当たるかと思いますが、52期まで4か月、53期以降3か月だった前期修習と比べていかがでしょう。

古 田 前期修習って感じはしないです。今は3週間しかなくて、顔合わせくらいなイメージです。

横 田 内容としては、実務修習に入るのに最低限必要なことを教えるのですが、民弁は座学で実務に必要な知識を詰め込んでいきます。修習生は、消化不良で「やばい!」という意識を持って、実務修習に突入しているかもしれません。

北 川 刑弁も実質5日間ぐらいで、全然時間がありません。たぶん修習生は、導入修習でやったことはほとんど覚えていないでしょうね。

洞 澤 クラスのメンバーを覚えるのも結構大変です。特に今、オンラインで会えませんので、なおさらです。

集合修習


長谷川 その後、実務の個別修習を経た後に、集合修習ですね。こちらは昔の後期修習に当たりますか。

横 田 期間は1か月半ほどで昔より短いですが、内容としては、起案と模擬裁判を中心にびっちりやるという大きな項目は変わっていません。

選択型実務修習、ホームグラウンド修習

柳 楽「選択型実務修習」「ホームグラウンド修習」というのは、何をやっているのでしょう。

横 田 選択型実務修習は、個別修習地の弁護士会や裁判所が用意する専門的なカリキュラムに参加するものです。それに参加しないときがホームグラウンド修習で、個別指導担当の弁護士の事務所に席があって、弁護修習の続きなり勉強なりをしています。

北 川 多くの修習生は、二回試験に備えて要件事実などの勉強を一生懸命していますね。

民事弁護のカリキュラム

導入修習

長谷川 では、司法研修所のカリキュラムの概要を、民弁から教えていただけますか。

横 田 導入修習では、「問題研究」というカリキュラムが一つの柱になります。ここ数年は、修習生が法律相談のビデオを見てメモを取り、その事案に関する訴状起案をして、教官がそれに関して講評をする、という内容です。そのほかの講義は、立証、保全・執行、和解条項、弁護士倫理・職責という内容で、多少の修習生の作業があって「演習」と名の付くものもあるものの、ほぼ座学です。そのほかに民裁とのコラボ科目があります。

集合修習

横 田 集合修習は、柱が二つあります。一つは起案で、2本は他の教官室と同じく採点するもの、もう1本は採点をしない「問題研究」という起案が民弁だけあります。もう一つの柱は、民裁とコラボの模擬裁判です。口頭弁論期日があり、弁論準備期日があり、尋問期日があるという流れです。基本的には民裁教官の進行のもとで、弁護教官は弁護士ならではの考え方を随時話させてもらいます。ほかには、現在では「契約」と「法律相談」の二つのカリキュラムがあります。法律相談は、修習生が弁護士とロールプレイを行います。そのほか、刑弁とのコラボで弁護士倫理の講義が1コマあります。

重点的に教えていること

長谷川 民弁修習では、どのようなことを重点的に教えていますか。

横 田 導入修習では、司法試験の勉強をしてきた修習生は与えられた事案の中で考える癖がついているので、弁護士というのは、自分で主体的、積極的に事実や証拠を発見するんだ、当事者目線で考えて、裁判所を説得するんだ、ということをまず教えます。期間が短いので、その感覚さえ伝えられればいいと個人的には思っています。集合修習は、起案と模擬裁判の二つの柱を中心にして、法廷技術を習得してもらいます。これも昔に比べて短いので、最低限のことにとどまります。二回試験のことも若干意識しながら、きちんと要件事実を意識して、当事者目線で有利な事実をいっぱい拾って書いて、さらにできればそれを経験則等を踏まえて深く論述して、というようなことを、繰り返し教えています。

長谷川 昔は民弁の起案といえば最終準備書面でしたが、今は「分析型」という、事実から掘り起こして最適な法律構成が何かから分析する起案がありますね。その関係はどのように考えられていますか。

横 田 分析型と最終準備書面のどちらも指導をしていますが、材料の集め方は違っても事実をたくさん拾ってきて法律構成の中で並べていくという根幹は変わらないので、両者の違いはそれほどないように思います。

洞 澤 修習の時間が短いので、技術的なところは個別修習なり実務についてからやってもらおうと割り切って、とにかく民弁マインドをたたき込む、当事者法曹なんだということを常に忘るるなかれと何度も言う、ということに徹していました。

横 田 この2~3年で少し変わってきた点といえば、民裁教官室と情報や意見を交換することがとても増えています。お互いの講義を傍聴したり、定期的な会合をしたりしています。例えば私の場合、民裁では「動かし難い事実」というのをとても重視するという考え方に触れて、講義の厚みや起案の指導にも影響がありました。

柳 楽 裁判官の目線と、弁護士の目線の両方を修習生に伝えるのは、昔からやっている取り組みだと思うんですが、最近変わってきたというのはどのあたりですか。

洞 澤 民裁教官室と民弁教官室がさらに交流をするようになったきっかけは、修習生から、「民裁と民弁の違いがよく分からない」あるいは「民弁ってよく分からない」という疑問が出てきていて、そこは課題として取り上げるべきなのではないかという問題意識からです。それで、共通の基盤は一緒なんだよということを、民裁とすり合わせてベースラインを確立した上で、でも立場の違いがあるから考え方に違いがありますよということを、それぞれの講義の中でも反映させていきましょうと。コラボ科目でそれぞれの立場からものを言うのは昔からやっていることですが、それを民弁単独の講義の中でも民裁との共通点や相違点を意識しながらやっていくという教え方が、少し変わってきたところですね。研修所全体でも、各教官室が修習生の課題を洗い出した上で意見交換するという取組みがありました。教官会議でプレゼンテーションをやって、課題を解決するためにそれぞれが何を重点的にどんな教え方をしているかを語り合って共有しています。

北 川「今回は刑裁教官室」というように順番に担当して、修習生が抱える課題の分析結果を発表するという場が始まりました。3年ぐらい前からですね。

刑事弁護のカリキュラム

導入修習

長谷川 次に、刑弁のカリキュラムについてご紹介いただけますか。

古 田 刑弁は、導入修習も集合修習もケースセオリーを確立する弁護活動というのを柱にして指導しています。導入修習では、題材に否認事件と量刑事件の二つの事件だけを使い、否認事件では、捜査段階の接見から始まり、公判準備では公判を想定した起案をし、その講評のときに起案で確認した獲得目標を意識して尋問の演習をする、と段階的に事案の流れを追っていくカリキュラムになっています。量刑事件では、グループディスカッションをさせ、模擬の情状弁論をさせたりする演習カリキュラムです。いずれにしても、この事案で何を獲得するかということを意識させて、そのために集めるべき事実や証拠は何か、集めた事実や証拠を前提に、今度は乗り越えるべき目標、つまり公判であれば論告、勾留であれば証拠隠滅のおそれ・逃亡のおそれなどを、乗り越える議論を組み立てて、最終的に弁論等につなげる。その弁論等を先取りして、あらかじめやることを準備する、という動的な流れに沿った指導を重視しています。刑弁では、導入修習では詰め込まず、逆に情報量を徹底的に減らして、事件との向き合い方をなるべく指導するようにして、それを実際の実務修習で体感してきてほしいという形にして送り出しています。
もう一つ、刑事系は他教官室とのコラボが頻繁にあって非常に重視しているのが特徴です。その三教官室で一緒にその研修をやることによって、裁判所の視点が分かり、検察の視点が分かる。例えば、捜査段階のところで、身体拘束からの解放という問題については、ターゲットは検察官の勾留請求と、裁判所の判断です。そこで、その検察官の議論を乗り越えて勾留の理由・必要性がないことの説得を組み立てます。

集合修習

古 田 集合修習も、同様の視点でやっています。導入修習は事案の流れを追う形でしたが、集合修習になると2回の起案を通じて、実際にケースセオリーを組み立ててみるということを実践してもらいます。また「刑共演習」という模擬裁判的なカリキュラムでは、修習生が裁判官、検察官、弁護人グループに分かれてそれぞれの役割を演じるのですが、裁判教官、検察教官とともに講評することを通じて、適切に争点を設定して説得力のある議論を展開するトレーニングをしています。

北 川 集合修習には、3日間連続でやる模擬裁判のほかに、「検察問研」と「DNA問研」という二つのコラボ科目があります。検察問研は、検察教官室が主導して、主に被害者対応についての講義があって、それに対して弁護側としてはどういうふうに対応していくのか、裁判官はどういう目線で見ていくのか、と話し合いをする科目です。もう一つのDNA問研という科学的証拠の科目は、刑裁教官室が主催します。今DNA鑑定が捜査の証拠としてかなり価値があり、裁判でもそこでいろいろ決定されることが多いのですが、ただそれを鵜呑みにしてはいけないんだよという目線で裁判官は教えますし、検察官もそれに頼ってはいけないよという方向性で教えていて、弁護側もどのようにその証拠を見て主張していくのか、三者の目線から科学的証拠の在り方などを考えていくという科目です。

柳 楽 刑事系のコラボ企画は、私が54期で修習生だった時代もありましたが、刑裁、検察、弁護の3人の教官が集まって話していても、対立する者どうしというか、どこか相容れない空気が漂っていたようにも感じていたんですが、今はどんな雰囲気なんですか。刑事系の修習は大きく流れが変わったように思えるんですが。

古 田 様変わりしていると思いますね。神山啓史先生が刑弁教官室に入ったというのもありますが、刑事手続自体が大きく変わったことが背景にあります。公判前整理手続ができて、証拠開示が当たり前になって、弁護側と検察側の証拠の偏りが以前よりはましになって、偏りはあるものの同様の材料を前提にしてそれぞれの立場で争点に沿った議論をして戦っていく、という形になってきました。そうすると、弁護側もスキルアップして、証拠開示請求を徹底し、争点に沿った議論をしていかないと、公判で適切な弁護ができなくなってきたわけです。裁判所の目線でも、弁護側に対する期待が高まっています。もう一つは、自白に対する依存度が相対的に下がったことです。これは村木さんの事件のような検察の不祥事も背景にあるのかもしれませんが、可視化の影響もあって無理に自白を取ることが困難になり、弁護側からすると以前よりは黙秘しやすくなりました。そのように、今までよりはオープンに戦えるようになってきたところが背景にあると思います。
三教官室のコラボ科目は昔からありましたが、そのコラボ科目を作っていくところから、担当者がそれぞれの立場でかなり議論を重ねて作り込んでいきます。例えば検察教官がどういうことを言うか弁護教官も分かっている状況で実際のカリキュラムの進行ができるので、かみ合うようになったのかなと思います。
量刑にしても、裁判所はどういう考え方でその量刑判断をしているかという考え方の軸を、三教官室が共有した状態で議論します。昔は「有利な情状がこれだけたくさんあるから執行猶予を」みたいな話でしたが、今はそんなざっくりした議論ではなくなっています。

重点的に教えていること

長谷川 刑弁として、重点的に教えていることは何ですか。実務の個別修習でもこれをしてほしいという希望などは。

古 田 重点的に教えているのは、ケースセオリーを確立するための手法です。証拠から事実を収集して、検察の論告を想定し、それを乗り越える弁論、議論をする思考トレーニングを、実際に繰り返しやってみて意識させる、研修所では、その視点を与えることを重視しています。それを実際にやってくるのが、実務修習の中です。例えば接見をしたらその段階で求める結論は何か、公判段階の事件に接したらその段階で求める判決は何かを考え、想定弁論を作って、公判の準備をするというようなことを体感してくれ、というのが、実務修習に対するお願いです。

オンライン修習の実情

柳 楽 73期の修習中の4月、集合修習前に最初の緊急事態宣言が出て、以後司法修習が、74期は導入修習も集合修習も、オンラインになりましたよね。

長谷川 模擬裁判は、どうやっているんですか。

横 田 民事は、73期では、弁論期日や尋問期日を実際のような形では開かず、準備書面や陳述書、尋問メモなどをグループディスカッションしながら作り上げて提出していくことに特化したので、だいぶ様相は変わっていました。74期は尋問期日は実施されたようです。

長谷川 それ以外のカリキュラムはどうですか。法律相談や和解など、グループディスカッションの必要なカリキュラムもあると思いますが。

横 田 それ以外はほぼ一緒でした。グループディスカッションの必要なカリキュラムは、Teams上で会議をグループごとに開いて、教官がそこを転々と回りました。研修所で顔を突き合わせてやっているのと同じではないですが、慣れれば、講義としては全然リアルと遜色ありません。

北 川 刑弁もグループディスカッションは同じようにやっています。

長谷川 刑事は、模擬裁判はどうやっているんですか。

北 川 刑事は、73期から、リアルと同じような手続を全部オンラインでやりました。尋問も、全員違う場所にいて、証人も自宅から参加しました。証拠を示すときにも、Teamsの共有で「甲何号証示します」と。異議をタイミングよく言うのがやや難しかったというくらいで、問題なくできました。修習生はTeamsの操作にすごくたけています。ただし、準備は大変でした。刑事ではいわゆるブレストをやりますが、教室でやるときは有利な事情と不利な事情を付箋に書いてぺたぺた貼っていきます。これをオンラインでは、ホワイトボードを使ったり、付箋のアプリを使ったり、みんなすごく試行錯誤してやったんですが、容量が多いと遅くなってしまうとか、ネット環境が悪い人は凍ってしまうとかいうのがありました。2~3回やればだいぶ慣れてきたみたいですね。

長谷川 となると、刑弁のカリキュラムの実施はオンラインになる前と完全に一緒ですか。

北 川 ほぼ一緒ですね。

長谷川 即日起案はどうするのですか。

横 田 起案は、修習生が実務修習地の裁判所に赴いて行います。そして裁判所が起案の原本を研修所に送って、研修所で教官が引き取り、採点をします。

洞 澤 民弁の採点しない起案は、パソコン起案にしてTeamsのファイルアップロードで提出させました。

長谷川 起案の原本を修習生に返さないとなると、各修習生の起案へのコメントはどうするのですか。

北 川 A4用紙1枚ぐらいのコメントを作って、PDFで個別チャットで送ってあげるのです。起案の講評の後の質問などの個別面談は、ビデオ通話でやりますね。

長谷川 修習生どうしでは、リモートで何か交流していたのでしょうか。

横 田 修習で使うTeamsでは、修習の打合せ以外のことをしてはいけないことになっているので、Zoom等でランチ会などやっていたところもありましたね。

北 川 今ほとんどの修習生はLINEをやっているので、すぐLINEグループでつながっていましたね。そういう意味では、今の人たちはほとんど心配ないですよね。

弁護士会に期待すること

個別修習(修習委員会・個別指導担当)に期待すること・民事

長谷川 研修所教官の立場から、個別修習でこんなことを指導してほしい、というのはありますか。

横 田 研修所では白表紙の座学がどうしても中心になってしまうので、実務修習では、起案を書かせるのも大事だけれども、現場で弁護士がどういうことを考えながら現実の事件を処理しているとか、どういう苦労をしているとか、個別指導担当弁護士との人間的な交流の中で生きざまみたいなものを見せてやってくださいと。これはもう実務修習の中でしかできませんので、とにかく何でも見せてくださいとお願いしています。

洞 澤 導入修習のときは、修習生は手続や書面のイメージを全く持ち合わせていないので、何か書くにも資料を見ながらですらできないのですが、個別修習を経て集合修習に戻ってくると、最低限のやるべきこと、書面のざっくりしたイメージのようなものを、自分なりに作り上げて戻ってきているのは、すごいなと思いました。

横 田 実務修習が終わって集合修習に帰ってくると、それぞれが一回り大きくなってしっかりしたことを言うようになっています。グループディスカッションをやらせても、中でどんどん引っ張れるような人が増えてきて、非常に頼もしいです。

長谷川 司法修習委員会に対してのご希望はありますか。

横 田 是非、教官室と個別指導修習との間に入って両者をより強くつなげていただきたいです。研修所教官は、担当しているクラスの修習地の弁護士会の司法修習委員会との「意見交換会」に行くのですが、地方の修習地だと、司法修習委員会と個別指導担当を兼ねている人が多くて、そのまま個別指導担当とのダイレクトな意見交換までできます。しかし、東京の規模だと個別指導担当のみという先生も当然いらっしゃるわけであって、個別指導担当とのダイレクトな意見交換までは実現されていないように思われます。意見交換会のときに刑弁と民弁でそれぞれお配りしている「弁護実務修習に対して望むこと」という資料があり、教官室の思いが書いてありますので、それを是非もう一度個別修習担当の先生方にフィードバックしてもらいたいですね。逆に、個別指導担当がどういうことをお考えなのかも、教官室に伝えてもらいたいと思います。

洞 澤 我々が修習生だった時代とは、起案の回数が圧倒的に違います。だから、個別修習の時期になるべく多くの書面に触れてもらう機会が必要です。一方で期間が短いからお手持ちの事件で起案させるのがとても難しい状況というのもよく分かるので、そこは民弁教官室の方からも、こんなふうにしたらどうでしょうというような提案はしています。書面を読む機会があるだけでも、イメージのつくり方が全然違い、集合修習に帰ってきたときに修習生たちの力の付き具合が違うので。

横 田 私は個人的には、民事については準備書面を読む機会は、弁護修習より民裁修習だと思うんです。弁護士の事務所でその先生の書面だけを読んでいるよりは、裁判所にいろんな先生の書面がいっぱいありますから。弁護修習では、とにかく行動してほしいです。

個別修習(修習委員会・個別指導担当)に期待すること・刑事

長谷川 刑弁教官室はいかがでしょうか。

北 川 各地の意見交換会でいつも要望しているのが、座学ではできない接見、特に初回接見は重要なので、必ず連れていってあげてくださいということです。これについては、各地でいろいろな工夫をしてくださっていて、ほぼ達成されているなという感じはします。ほとんどの弁護士会では、個別指導担当が刑事事件を扱っていない場合には、いわゆる里子制でほかの先生のもとで接見に行かせる体制をとってくださっているので、接見に行けませんでしたという修習生はかなり少なくなってきていて、すごく感謝しています。
あとは、座学でできないものとして、弁護士としての調査活動や、自分たちで証拠を集めていくといった作業も見せてあげてください、と話しています。どの程度達成されているか分からないんですけれども、いろいろなところに連れていっていただいている認識はあります。なので、要望していることは、おおむね各地の修習委員会や個別指導担当の先生方が工夫してくださっているなという気はします。
弁論を書くという最終段階までたどり着く事件というのは、1か月半くらいのクールではなかなか出会うのが難しくて、弁論は1本も書いていませんという修習生がほとんどですよね。ただそれはもともと予想されていることなので、弁論でなくても、例えば接見に行った後に次何をすべきか、身体拘束から解放するために何をしなければいけないかを、メモを作って細かい議論を個別指導担当の先生としてきてくださいね、と言っています。それもだんだん浸透してきて、メモとか意見書とかをたくさん課題として与えてくれるようになっているかなという感覚はありますね。

古 田 69期から完全に、カリキュラムで使う記録が「見通し型」というのに変わりました。開示された証拠や関係者から聴取した事実などから証人が出てきたとしたら証言するであろう内容などを想定し、公判の審理を想定して想定弁論を作るというものです。旧来型は対極的で、公判での証人尋問調書や被告人調書があって、それを前提に弁論を書くという形だったんですが、そこはがらっと変わったので、実務修習でも「見通し型」の記録でやってくださいということは、かなり訴えていました。もう一つ、今の刑弁教官室では、まずは黙秘から考えるという指導をしていることは、実務修習の方でも理解しておいてもらいたいと思います。どんな事件でもまず黙秘を原則とし、供述させる理由、必要性があるかどうかを考え、例外的にその必要があるときにのみ供述を選択する、という指導をしているわけです。これは刑弁教官室がとんがったことを言っているわけではなくて、本来の在り方を確認するものですし、可視化の時代になってそれが以前よりは容易になったということもあります。日弁連の研修でも同じようにやっています。しかし、実務修習になると、否認事件であっても「まずは自分の言い分を間違いなく言いなさい」というような助言に接する機会があったりして、研修所ではこう聞いたのに実務修習では違うことを言われた、みたいな話になってしまいます。最終的にどういう弁護方針を取るかは事案にもよりますし、弁護士それぞれの考えだとは思いますが、ベースとして研修所ではこういう指導をしているということは理解しておいてもらって、その前提で話をしてもらえば修習生は混乱しないと思います。もう7年ぐらいにわたって各代の教官たちが言ってきたので、だいぶ浸透してきたかなとは思いますが。

登録後のフォロー(研修委員会など)に期待すること

長谷川 司法修習が終わって弁護士になった後に、弁護士会がこういうフォローをやってくれたらいいな、ということがありますか。

洞 澤 1年の修習期間で何もかもはできないので、長い目で若者を育てていく視点が必要です。検察庁や裁判所は組織的に手助けする体制ができていますが、弁護士会でどこまで組織的に長期のスパンで育てあげられているか、考えていってもいいかなという気はします。

横 田 弁護士会の新人研修でどういうことをしているかというのは、教官室に全く伝わってこなくて、関わった経験がないと、どこがどういうことを教えているのか分からないです。意見交換会とまでいかなくとも、お互いにどういうことをしているのかの情報交換はあってもいいのかなと思います。

柳 楽 登録1年目の弁護士は新規登録弁護士研修の履修が義務付けられていますが、二弁では、この新規登録弁護士研修で「クラス別研修」が行われています。65期のときに試験的に導入して、66期から本格実施となりました。昨年までは1クラス20人ほどの編成で、各クラスに担任、副担任、相談役の3人がついていましたが、今年からクラスを増やして、相談役は置かず担任と副担任の2人体制になりました。交通事故、離婚、相続、労働などを題材に年4回、1回目は法律相談のロールプレイで、2〜4回目は事件を検討するといった基礎的なことをやっています。また、修習生どうしの横のつながりが希薄になってきているので、1クラス20人程度という顔の見える人数にして、メーリングリストなどを作り、担任らが飲みに連れていってあげてね、ということをやっていました。コロナになってからはオンラインで希薄になっている面もありますが、基礎的な素養や弁護士の生きざまなどの教育面と、飲み会などで同期の仲間をつくる親睦面、両面から意識してやっています。
新規登録弁護士研修で新人の育成をする研修センターとしては、司法研修所で実際にどんなことをやっているのかは、本当に知りたいところですね。

横 田 司法修習委員会もそうだし、研修センターもそうですが、元教官をどんどん活用すればよいのではないでしょうか。東弁や一弁では、元教官は司法修習委員会に行くのは絶対であると聞きますが、二弁ではつながりが緩やかですよね。

教官の業務

教官室の編成

長谷川 教官の業務について、お聞きしていきたいと思います。まず、民弁教官室、刑弁教官室は、どのくらいの人数構成で業務に当たっているのでしょうか。

横 田 民弁教官室は、毎年就任するのが5〜7人、3年交代で、教官室には1年教官、2年教官、3年教官がいますので、全体の人数は16〜17人。それから、「所付」というマネージャーさん的な役が各年で1人ずつ計3人。所付の期は今だと67~68期ぐらいでしたかね。

北 川 刑弁教官室も、編成は1年5〜6人というのが多くて、3年教官までの合計15〜17人ぐらいでここ数年は推移してきています。

準備期間中の業務

長谷川 では、教官の業務をお聞かせいただけますか。

横 田 集合修習開始前は、基本的にはカリキュラムの作成をしています。柱となる起案について問題を作り、法律論点について教官室内で口頭ないしは書面上で議論をして、教官の手持ちの講義資料に結び付けていきます。それから、授業の準備としてPowerPointのスライドと、また民弁教官室は修習生にレジュメを配っていますので、その作成をします。73期集合修習ではオンラインになりましたので、カリキュラムの進行を慎重に整理して作り上げました。
こうしたことを教官室全員で検討する合議の時間と、各カリキュラムで小委員会に分かれて検討する時間があります。コロナになってからは全てオンライン上でやっていました。合議は、だいたい3週間に1回ぐらいずつ入ります。1回当たりの時間は、日によって違いますが、2時間から長いと4時間ぐらいのこともあります。各カリキュラムの小委員会は、各教官が5つないし6つ担当していて、その会議が1回当たり1~2時間、合議の準備のために開くので合議と同じぐらいの回数が入ります。また、役割分担して資料を準備する作業をしています。

洞 澤 1年教官、2年教官、3年教官でそれぞれ役回りが違います。1年教官が主に担当する講義準備に先立つ基礎資料の作成というのが力業で時間もかなりかかったので大変だったかなと思います。2年教官は、カリキュラム作成の中心人物として、いろいろなものを取りまとめたり方向性を決めたりのプレッシャーがあります。3年教官になると、ようやく講義がある期間における準備を含めた忙しさや、講義の時間配分・講義で教えるべき要点等が見えてくるため、大所高所でいろいろ意見を言う立場になります。したがってやらなければいけない作業の分量はそこまで多くはなくなりますが、その分、1年及び2年教官のフォローを適切に行うことが求められます。また、3年教官ともなると、講義のことだけではなく、人によっては研修所との折衝なども担う人がいて、役割によってプラスアルファで大変な人もいる、という感じでした。

北 川 刑弁も、民弁と一緒で、新任教官は導入修習と集合修習の間の時期に着任して、その時点で既に2年教官が作り始めている記録を、そこから一緒になって作る形になります。刑弁は、記録作りに割かれる時間としては、私のときは集合修習が始まるまで週1回の全体合議が、だいたい3時間から長いと5時間とかありました。かつ、民弁と同じように、担当しているカリキュラムごとに班がいくつか分かれていて、その班合議が全体合議の合間に行われているので、たぶん2倍ぐらいの時間がかかっているのではないかというところです。
それから、導入修習と集合修習と間の期間には、教材のネタとなる事件記録の収集のために、各地の検察庁に出張に行きます。教官は3年間の間に2回、2か所を2泊3日くらいで回ります。所付はさらにプラスで、所付だけの出張があります。

集合修習期間中の業務

横 田 集合修習に入ると、講義の日は研修所に行きます。講義は毎日あるわけではありません。オンラインであっても、研修所で講義します。起案の日は、修習生は裁判所で書いているので、教官は登庁はしません。研修所に起案が到着する日に取りに行って、それから自宅なり自分の事務所で採点することになります。
起案の採点が最も大変で、教官によって違いますが、修習生へのコメントを書くと1通につき30分から1時間ぐらいの時間がかかります。1通1時間とすると、65人を単純に掛ければ65時間です。それを集合修習中に2回、ないし民弁は3回やることが、いちばん大変な作業です。

洞 澤 最初は特に時間がかかると思います。

北 川 刑弁も、民弁と一緒で、集合修習が始まってからは、授業の準備はもう済んでいるのでいいんですけれども、やっぱり起案の採点2回が大変です。採点表をExcelで作って、さらにコメント作りをします。私の場合はだいたい一つの起案の採点で10日間ぐらいはびっちりかかってほかの作業は何もできませんでした。体力的にもそれ以外の仕事は無理なんですよね。採点した上で、授業の準備も、講評内容を少しアレンジしてパワポを自分で変えたりしなければいけないので、それで1日、2日かかります。

古 田 起案の講評の後は、個別面接がありますよね。

北 川 夕方から修習生が質問にわーっと来て、20人ぐらい来ると1人15分でも5時間、夜中までかかってやっている教官もいらっしゃいましたよね。オンラインになってもやっています。

導入修習期間中の業務

長谷川 導入修習のほうはどうですか。

横 田 講義の準備は大変なんですが、起案がないので、集合修習ほどの時間は取られません。ただし、民弁は導入修習のカリキュラムをいちばんたくさん持っていて、A班、B班の両方のクラスを受け持っている教官だと、講義だけでもう精いっぱいになります。講義は朝9時50分から夕方の4時50分ないしは5時までやって、A班、B班を受け持つと週5回のうちの3回は研修所に行きます。3週間ですが毎週3回は研修所に終日いることになります。

洞 澤 A班又はB班の片持ちの場合は、いっぱい入っている週とそうでもない週のばらつきがありますが、それでも大変です。両持ちの先生は、A班とB班が交互に来る感じでやっているので、すごく大変だったろうと思います。

北 川 刑弁も民弁と一緒で、A班B班両方持ちになると、導入修習期間中ははっきり言ってほとんど司法研修所にいることになります。採点はしないものの起案は書かせるので、一応目を通して講評に備えてコメントを考えなければいけないので、それなりの時間はかかったかなという感じですね。

古 田 昔の前期修習のカリキュラムの中では旅行がありましたが、これは今は全くありませんね。

研修所業務に要する時間

長谷川 研修所業務にかける時間は人によって違うでしょうが、準備期間、集合修習期間、導入修習期間それぞれでだいたいどのくらいか、目安はいかがですか。

横 田 計ったことはありませんが、準備期間においては業務時間全体の3〜5割ぐらい、集合修習期間中だと5~7割ぐらいになります。特に起案の採点や起案講評の準備をする際は、週末はほぼつぶれます。私は、3年間ずっと、1日も休まなかったわけではないですが週末に仕事をしなかったことはありません。まあそれは普通の弁護士もそうなのかもしれないですが。カリキュラム作りや、自分の講義の準備、起案の採点などにかかっていました。

洞 澤 私は要領が悪かったので、集合修習中は、採点も含めて7~8割は研修所のことをやっていた感じですかね。もちろんすごく大変だったんだけれども、息抜きのために自分の趣味の活動もやりながら、でもやっぱりなかなか事務所の業務はやれずに、研修所の業務ばかりやっていたかなという感じではありました。

北 川 集合修習や導入修習中も、授業が終わった後に教官室に戻って、そこからすぐ事務所に戻ればいいんでしょうけれども、そこで各教官と意見交換とか、次の授業をどうやってやるという打合せとか、正式な時間ではないけれども結構大事な時間がありますよね。なので、結局ずっと夕方までいることも多いので、授業が1限で終わったとしても午後3時ぐらいまでいることもあり、結構な時間数になったと思います。

金銭的条件

長谷川 ここまでお話しいただいたあたりが公式な業務かと思いますが、それに対する金銭的な条件はどうですか。

横 田 司法研修所からの謝金と、日弁連の補助、二弁の補助を合計して、A班又はB班の1クラスを担任して1年間で450万円ぐらい、A班1クラスとB班1クラスの2クラスを担任して550万円ぐらいです。

カリキュラム関連以外の業務

北 川 ほかに業務としては、先ほど話に出た担任クラスの修習地の弁護士会の司法修習委員会との意見交換会というのもあります。地方の場合は1泊2日で行くことになります。そして夜は修習生と飲み会。多いところでは5か所の修習地が一緒になっているクラスもありますので、結構負担ですね。

長谷川 意見交換会は、コロナ禍でも実施しているんですか。

北 川 弁護士会によって、来ていいよというところと、オンラインにしてくれというところが分かれていました。行っても、修習生と会うのはほぼ無理でしたよね。会うとしても、意見交換会が終わった後に5時半とかに来てもらって、修習生とマスクをつけたまま話をするぐらいでした。

柳 楽 昔、和光で研修が終わった後、弁護教官が修習生1クラス全員に何回かおごっていました。人数が多いものだから1回でもすごい金額になるんじゃないかなと思っていたんですが、飲み会の文化は、今もありますか。

北 川 飲み会はあります。どのクラスも導入初日などにありますが、今はコロナだからしていないかもしれませんね。

横 田 飲み会は1次会は会費制ですね。教官は多く出しますが。

北 川 2次会以降は弁護教官がおごっていることが多いと思います。あと、弁護教官は意見交換会に行った後に修習生と会い、これも2次会以降は教官が出すことが多いと思います。

横 田 それから、教官の事務所訪問と称した飲み会。今はコロナだからできないですが。

柳 楽 昔は、教官の自宅まで訪問しましたよね。

古 田 自宅訪問は、ほとんどしなくなっていますね。コロナ前でも。

洞 澤 意見交換会とか記録収集とかの泊まりがけの業務は、各地方で美味しいものを食べてくるという楽しみもありますが。

北 川 そういうのが好きな教官は楽しいです。しかし、お子さんがいらっしゃるなどいろいろな事情で、東京近辺以外のクラスを持つのは難しい教官もいましたね。

この座談会に出席した4人の教官経験者による経験談の続きや「やりがい」などについて、次号からコラム形式で連載します。