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表示法務の基礎と実践~前編~

染谷 隆明 ●染谷 隆明 Takaaki Someya(63期)
東京弁護士会会員

【略歴】
2010年 弁護士登録
2012年 株式会社カカクコム法務部に勤務(~2014年)
2014年 消費者庁表示対策課に勤務(~2016年)
2018年 池田・染谷法律事務所設立
2021年 参議院地方創生及び消費者問題に関する特別委員会参考人(「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案(閣法第53号)」)

【著作等】
『詳説 景品表示法の課徴金制度』(商事法務)
他多数

CONTENTS

前編
1.はじめに
2.景品表示法の概要と基礎概念の整理
3.打消し表示の実務

後編 次号掲載
4.不実証広告規制
5.景品表示法の適用主体
6.薬機法の広告規制の基礎
7.景品表示法と民事責任の接合

1.はじめに

1.インターネット広告と消費者問題

我々にとって、Twitter、YouTube、Google等のインターネットサービスの利用は、欠かせないものになっていますが、これらには様々な広告が表示されています。令和元年には、テレビメディアの広告費が、インターネット関連の広告費に抜かれたとの報道もあり、今後もインターネット広告が、非常に重要な地位を占めるといえます。
しかし、インターネット広告には、不当・虚偽・誇大広告をはじめ、薬機法違反の広告、アフィリエイター、インスタグラマーによる不正レビュー、ステマ問題、ターゲティング広告、プロファイリングと個人情報の問題等、様々な問題が関係します。今回は、このうち特に不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法又は景表法)の問題について解説します。

2.景品表示法の規制強化

近年では、景表法の規制が強化されており、制度面では、平成28年から課徴金制度の運用が始まりました。平成28年の三菱自動車の燃費不正問題が第1号事件となり、約4億8000万円の課徴金が課せられました。そのほか、イマジン・グローバル・ケアという会社に、合理的な根拠のない表示による健康食品の販売について、約1億7000万円の課徴金が、DADWAYという会社が、合理的な根拠なく抱っこひもの肩の負担が85%軽減という表示をしたとして、約3億7000万円の課徴金が課せられた事案もあります。

課徴金は、損金算入ができないため、IR上もインパクトがあります。上場企業では適時開示等が必要になる場合もあります。景表法違反で、株価が大暴落した、経営権が変わった、IPOを目指していても、上場できなくなったというケースもあります。消費者からの信頼を大きく失わせる景表法違反事例では、会社が課徴金納付命令を超えたダメージを被る可能性があることに留意する必要があると思います。

消費者庁が創設された平成21年以降、令和2年までで、同庁は、約5500件の調査を行い、うち措置命令にまで至った事案は、約380件と全体の6%に及びます。しかし、平成29年以降の各年を見ると、この割合が10%を超えており、制度面のみならず、運用面も厳しくなっていることがうかがえます。また、平成26年からは、都道府県知事も措置命令を行えるようになり、平成30年は9件、令和元年は15件、令和2年は8件と、それなりに執行されています。

最近は、後述する不実証広告規制、つまり、実証されていない広告はしてはならないという規制を積極的に活用する執行実務になっています。表示をする場合には、訴求内容に対応するエビデンスを準備しなければ、事後的に消費者庁から不実証広告規制に基づき、不当表示だと認定されてしまう恐れがあります。きちんとエビデンスをそろえることが重要です。

3.新型コロナウイルス関連表示と規制

近時では、新型コロナウイルス感染症の流行以降、多くの新型コロナウイルス関連商品が市場に出回り、消費者庁も、景表法を使って様々な指導、行政処分を行っています。例えば、一時期「この健康食品を食べると新型コロナウイルスが予防できる」という広告が横行しましたが、新型コロナ ウイルスは、疾病であり、疾病を予防・対策できるのは、基本的には医薬品ですので、食品には、疾病の対策・予防効果はありません。こういった表示は、薬機法違反でもありますが、消費者庁としては、この当時、新型コロナウイルスの性状が明らかではなく、新型コロナウイルスに健康食品が効くというエビデンスはないであろうという認識のもと、注意喚起をしました。

そのほか、「身に着けるだけで空間除菌」等と表示して新型コロナウイルスの予防対策になるとした空間除菌商品についても、エビデンスがないとして行政指導を行い、抗体検査キットについても、抗体の有無を調べるものにすぎないのに、「新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判断する」との表示をして販売している事業者が多かったため、行政指導を行っています。

新型コロナウイルス関連表示については、景表法だけでなく、それ以外の法律も執行されています。例えば、「タンポポ茶を飲めば新型コロナウイルスの感染予防になる」との表示については、医薬品ではないのに医薬品であるかのような広告をしたとして、薬機法違反の疑いで、刑事上の手続である捜索・差押えが行われました。

また、漢方薬の訪問販売をした際に、契約内容を記した書面を交付しなかったとして、特定商取引法(特商法)違反で、逮捕された事案もあります。新型コロナウイルスに本来効かないであろう漢方薬を売ったのであるから、詐欺罪の立件も考えられますが、実務上詐欺での立件は立証の難しさもあるので、形式犯である、訪問販売の書面の不交付をもって、逮捕がなされたのだと思います。

令和3年には、薬機法で初めてアフィリエイターが書類送検される事案も発生しました。更年期障害や糖尿病の予防・改善に効くという健康食品を紹介したとして、薬機法違反が問われました。

4.複雑な表示規制法

表示規制は、非常に複雑です。例えば、食品製造販売業者が、新型ウイルスの流行によって国民のヘルスケアへの関心が高まっていることに着目し、自らが製造したドリンク商品の包装に、特段効果がないにもかかわらず「新型ウイルス予防にこれ1本!」と記載した上で、自社ウェブサイトでも同様の表示をし、インターネット通信販売を開始したという事案を考えます。
この場合、実際に法執行がなされるかは別問題として、様々な法の適用が考えられます。

民事関係では、商品を購入した消費者からは、錯誤無効(民法95条)や不実告知(消費者契約法4条1項1号)があったとして、商品購入契約を取り消した上で行う不当利得返還請求があり得ますし、また、消費者契約法を根拠に置く、適格消費者団体からは、商品の表示が景表法で禁止される優良誤認表示であるとして当該商品の差止請求がなされる可能性があります(景表法30条1項1号)。更に、この商品が非常に売れて、広い層の消費者に消費者被害が生じた場合については、適格消費者団体のうち、消費者庁の認定を受けた特定適格消費者団体から、消費者に発生した損害を回復するべく、同社の不実告知等を原因とする不当利得返還債務を負うことの確認を求める共通義務確認訴訟(消費者裁判手続特例法3条1項2号)を提起されることもあり得ます。競争事業者からの不正競争防止法(不競法)に基づく差止請求や損害賠償請求(同法2条1項20号、3条1項、4条)、独禁法に基づく差止請求や損害賠償請求(同法2条9項6号ハ、一般指定8項、同法24条)もあり得ます。

行政規制、刑事法では、景表法上の優良誤認表示違反(同法5条1号)として、措置命令(7条1項・2項)、課徴金納付命令(8条1項・3項)が行われる可能性があります。この事案では、通信販売も行っていますので、特商法の通信販売規制が適用され、この中の誇大広告規制(同法12条)にあたるとして、指示(14条1項)、業務停止命令(15条1項)、罰則(72条1項1号)が適用され得ます。食品にもかかわらず、新型ウイルスに効くと記載していますので、薬機法の未承認の医薬品の広告(同法68条)に該当するとして、措置命令(72条の5第1項)の対象となります。この措置命令は、令和3年の薬機法改正で新たに加えられた制度です。

また、食品の健康保持増進効果については、健康増進法に規定があり、この効果について誇大広告(同法65条1項)をした場合、同法で勧告(66条1項)ができますので、こちらの適用の可能性もあります。更に、包装に新型ウイルス予防に効く旨が表示されていますが、これについては、食品表示法(食表法)という法律があり、食品に関して機能性表示食品や特定保健用食品いわゆる「トクホ」と誤解されるような広告はしてはならないとされています(同法5条、9条1項10号)。今回の表示がこれに該当するかは解釈の余地があるとはいえ、一応、食品表示基準の問題も取り上げることができるだろうと思います。そのほか、もともと、景表法は独禁法の特例法でしたが、親法である独禁法にも不公正な取引方法として、欺瞞的顧客誘引はしてはならないとされています。
執行例は、非常に少ないですが、これに該当するとして、排除措置命令(同法7条1項)の対象にもなり得ます。不競法の不正な目的を持った誤認惹起行為に該当するとして、罰則の対象(21条2項1号)にもなり得ます。このように、表示規制は法律関係が非常に複雑になっています。

5.広告規制を読み解く視点

広告規制をどう読み解くかについては、主に4つの視点から分類できます。

まず、①規制主体という視点です。ファーストパーティー規制としては、例えば事業者が広告を出稿するにあたっての広告審査基準、要は自分の会社の自主ルールがこれにあたります。セカンドパーティー規制は、契約の相手方に権利を付与する規制です。例えば、相手方に解除権を付与する、損害賠償請求権を付与するというのが、これにあたります。サードパーティー規制には、行政の事前規制、事後規制等があります。事前規制は業法の規制で、事後規制は景表法のような表示規制が該当します。競合事業者からの権利行使もこれに分類されます。
先ほどの適格消費者団体からの差止請求をこの分類で見るとどうなるかというと、差止請求権を持つ適格消費者団体自体は、消費者庁の認定によってできる団体ですので、この意味ではサードパーティー規制との側面があります。
昨今のデジタルプラットフォーマー規制との関係では、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」も、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」も、共同規制というアプローチをとっています。つまり、非常に技術の進展が速いので、その都度、内閣法制局で文書審査をして、こと細かにデジタルプラットフォーマーの箸の上げ下ろしを決めることは、デジタルプラットフォーマーの健全な成長を阻害してしまうため、法律では規制の大枠を示し、その範囲内で事業者それぞれが創意工夫をもって消費者保護をしてください、独禁法違反にならないように透明性を高めてください、という仕組みです。まさに共同規制は、法律の枠組み、規制の枠組みを示すという意味では、サードパーティー規制ですが、一方で具体的な取り組みを決めるのはその事業者ですので、ファーストパーティーという視点もあると整理できます。

次に、②商品等の内容、販売手法という視点です。先述のとおり、食品であれば食表法の食品表示基準が適用されますし、通信販売といった営業手法をとるのであれば、通信販売規制が適用されます。このように食品の内容の安全性や特性、又は販売手法によっては消費者の誤解を招くとの観点から、様々な規制があります。業法は、その典型例です。例えば、旅行業法にも誇大広告規制がありますが、それは旅行役務が目に見えないことから、消費者に誤解を与える恐れがあるということを趣旨としています。

3点目は、③表示内容規制という視点です。表示内容規制を分類すると、表示義務付け型規制と表示禁止型規制に分けられます。
表示義務付け型規制は、情報提供の観点から、必要な事項についてはあらかじめ消費者に表示しなければならないというタイプの規制です。特商法では、通信販売を行うときには、どの事業者といくらで、配送時期がいつで、支払い時期がいつで、解除条件は何なのかなどをあらかじめ公に表示しなければならないと定めているのがこの例です。後者の表示禁止型の典型例が景表法です。

最後に、④規制の消費者保護機能の有無という視点です。もともと消費者保護のために表示規制が規定されているわけでなくとも、表示規制の結果として消費者が保護される場合があります。例えば、不正競争防止法は、もともとその法律名のとおり、公正な競争の確保が法律の趣旨とされていますが、公正な競争を確保するため、事業者の誤認惹起行為が不正競争として定義され、不正競争を禁止する結果、消費者が保護されるということがあり得ます。実際、ミートホープの食肉偽装事件のような食品表示偽装事案では、不競法の誤認惹起行為が適用されています。

2.景品表示法の概要と基礎概念の整理

1.景品表示法の目的と全体像

景表法は、昭和37年に制定された法律です。当時は、独禁法の特例法として、公正な競争の確保が目的とされていましたが、景表法が消費者庁に移管され、消費者法の体系に組み込まれた結果、一般消費者による自主的かつ合理的な選択の保護を目的とする法律になりました。
このように、景表法は消費者が商品・サービスの賢い選択をする環境の整備を目的としています。その観点から景品類の規制と不当な表示の規制の2つの行為規制を定めています。
違反した場合のエンフォースメントには、措置命令と課徴金納付命令があります。いずれも行政処分です。
措置命令は、違反行為の差止め、再発防止策の実施、誤認を排除するための一般消費者への周知徹底、今後同様の違反行為を行わないこと等を命ずる処分です。
課徴金納付命令は、不当表示の対象となった商品の売上げの3%を国庫に納付することを命ずる処分です。先述の三菱自動車の事件では、約162億円の売上げに対し、その3%の約4億8000万円の課徴金納付を命じられました。
調査主体としては、都道府県知事や公正取引委員会による場合もありますが、ここでは、消費者庁による場合について説明します。
調査の端緒として一番多いのが、消費者からの苦情です。競合事業者から苦情が申し立てられる場合もあります。同じ業界内では、「あの事業者の表示は、不当表示に違いない」ということが分かる場合があるので、エビデンスを準備の上で、消費者庁に持ち込むといったケースも多々あります。また、違反した事業者が自主報告する場合もあります。

2.不当な表示の禁止

景表法の表示規制については、第5条が以下のとおり定めています。

『事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引 し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの』

今回は、特に下線部分について、解説します。
1号は優良誤認表示、2号は有利誤認表示、3号は指定告示にかかる表示と呼ばれています。
優良誤認表示(1号)は、例えば、「飲むと痩せますよ」と、「商品の内容」に関する表示をしたが、実際には、そのような効果がなかったという場合です。
有利誤認表示(2号)は、「価格その他の取引条件に関するもの」を指し、典型的なのは、不当な二重価格表示と呼ばれる場合です。例えば、「通常価格1万円。しかし、今なら3000円でお得です」と表示した場合に、消費者は、「今なら安い」と認識するかと思いますが、実際には、通常販売価格としている1万円で売ったことはないという場合が典型例です。その他、キャンペーンの延長や繰り返しも、有利誤認表示に該当する場合があります。
指定告示にかかる表示(3号)は、優良誤認表示や有利誤認表示にあたるかは、解釈上微妙だが、消費者の商品選択に影響を与えるものについて、内閣総理大臣が不当表示と指定することを趣旨としています。おとり広告や原産国表示がこれにあたります。例えば化粧品についてフランス産と表示したが、実際には日本産であり、原産国表示違反ということで処分されたケースがあります。

3.表示とは何か

そもそも「表示」については、告示で具体的な 媒体が指定されています。その範囲は非常に広く、パッケージ、ラベル、チラシ、インターネット広告、テレビ、ラジオ、電話でのセールストーク等も全て「表示」に該当します。消費者に対して、顧客誘引する意図で表示を行う場合は、広く景表法の「表示」に該当します。
例えば、商品のメインとなるLP(ランディングページ)を作ったとします。これも重要ですが、当然、リスティング広告やバナー広告を作り、FacebookやInstagramでの広告のほか、ダイレクトメールを送ったり、チラシを作ったりと、「表示」に該当するものがたくさん出されることにな るかと思います。これら全てを法務が確認するのは現実的ではないので、基本のLPについて、しっかりチェックをして、そこから派生する広告について、訴求してよいこと、ダメなことのチェックリストを渡して、それぞれ現場の方に遵守してもらうという方法が、実務で多く採られているかと思います。

4.どのような場合に不当表示になるか

要件としては、景表法に「実際のものよりも著しく優良であると示す表示」とありますが(5条1号)、この「著しく」の解釈が問題となります。高裁の判断によれば、誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えて、一般消費者の商品等の選択に影響を与えることをいうとされています(東京高裁平成14年6月7日)。
景表法は、一般消費者の賢い商品選択を保護するための法律ですので、一般消費者の立場から表示を見なければなりません。また、実際の商品と表示から受ける印象とが一致しない場合に、実際を知っていれば買おうとしないであろうとの関係(誘引されない関係)が認められれば不当表示になります。表示に影響されて商品選択という不当顧客誘引効果があり、商品選択に影響があれば、この「著しく」が認定されることになります。事業者目線のバイアスに影響されず、一般消費者の素朴な視点で表示を見ることが非常に重要です。

5.実際の措置命令事案

まず、ジャパネットたかた事件です。カタログ等の「通常税抜価格79,800円」という価額に線が引かれ、「会員様特価57,800円」と表示されていますが、この「通常税抜価格」の意味が問題となりました。

ジャパネットたかたは、「通常税抜価格」とは、会員価格を指し、現在における非会員と通常税抜価格である会員価格の比較をしたと主張しました(図内左中段の表)。他方、消費者庁は、消費者は過去の通常販売価格に比べて今がお得との表示と認識すると指摘し(同左下段の表)、過去、会員に79,800円で販売したことがあるかが争点であり、ジャパネットたかたは、会員に79,800円で販売していないので、根拠のない通常販売価格を比較対象価格としたとして、不当表示を認定しました。

 次は、サプリメントに関するだいにち堂事件です。広告には、「ボンヤリ・にごった感じに」、「ようやく出会えたクリアでスッキリ」、「新聞・読書楽しみたい方に目からウロコの実感力」等とあり、高齢者が読みにくそうに新聞を離して読む写真が掲載されていますが、具体的な効能や効果は、書かれていません。

しかし、一般消費者としては、目のボンヤリやにごった症状が改善、又は寛解するかのような印象を受けるのではないでしょうか。実際、消費者庁もこのように認定し、景表法に基づき、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めましたが、資料はないとして、処分されました。

また、最近の違反事例として、実務上問題となることが多いキャンペーン延長の事例を紹介します。
まず、約5億5000万円という過去最大の課徴金事案であるフィリップモリス事件です。加熱式タバコについて、平成29年12月から30年3月まで、3000円オフというキャンペーンを実施しました。この表示により、あたかもこの期間限定で3000円お得であるとの印象を与え、駆け込み効果を生じさせます。それにもかかわらず、翌日からまた3カ月間、同様のキャンペーンを実施しました。キャンペーンがその後も繰り返されるということを知っていたのであれば、今は買わなかったという関係が認められるので、不当表示になります。

次は、最近増加しているTikTok やInstagramも関係する「ライブコマースの事案です。ライブコマースの事例としては、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(ガンホー社)に関するパズドラ事件があります。「全フェス限ヒロインガチャ」という期間限定ガチャが実施され、ニコニコ生放送やYouTubeライブといった動画コンテンツ内で、ゲームプロデューサーがこの期間限定ガチャで出る限定キャラ13体について、「全部究極進化する」と発言しました。究極進化とは、キャラが2段階進化することを指し、2段階進化するのは一部のキャラのみですので、このゲームでは、良い性態とされています。しかし、実際は13体中2体しか究極進化しませんでした。
商品の実際を知っていれば、ガチャを引かないだろうということで約5000万円の課徴金が課されました。ライブコマースを行うときには、きちんと台本をチェックするということが重要です。インフォマーシャルやテレビショッピング等においても同様です。
なお、ガンホー社は、究極進化仕様ではなかった残りの11体のキャラも究極進化できるよう、仕様変更していました。つまり、事後的に商品の実際を表示どおりに引き上げ、不当表示状態を是正する措置を取りました。しかし、2週間のガチャで約30億円を売り上げている事案であり、消費者に与えた影響が大きかったとして、結果として処分されたという事案です。

次もゲームに関する事件で、景表法が初めて域外適用された事案です。中国にあるアワ・パームという会社が、日本のSNK という会社が販売する『THE KING OF FIGHTERS』というゲームのライセンスを取得し、日本国内向けに中国から配信していました。
その中で「クーラ」と称するキャラクターの出現確率は、3%と記載されていましたが、実際には0.333%だったとして課徴金を課された事案です。中国企業に直接適用されましたが、措置命令・課徴金納付命令に従わない場合の法執行については国際法上の課題があると思います。

3.打消し表示の実務

1.強調表示と打消し表示

打消し表示の対となる概念に、強調表示があります。消費者に対し、目立つ形や断定的な表現をすることによって訴求する文言のことです。

他方、打消し表示とは、強調表示からは認識できない取引条件であるが、取引するかしないかを決めるため重要な事項が書いてある表示です。上図(下段)の例でいえば、※印に「現在他のサービスをご利用中のお客様が対象サービスに変更される場合、割引の対象外となります」と書かれています。割引されるかされないかは、商品選択に重要な基準である一方、強調表示には割引について書かれておらず、これは打消し表示に該当します。

2.打消し表示に関する実態調査

消費者庁は、平成29年から打消し表示に関する実態調査報告書を3種類公表しています。平成29年及び平成30年5月の報告書では、打消表示がある広告表示例を用いて、1000人以上のモニターに対し、打消し表示を認識するかどうか、かつ、打消し表示が強調表示の内容を打ち消す内容になっているかについて実態調査を行いました。平成30年6月には、アイトラッキング機器を用いた広告表示に接する消費者の視線に関する実態調査報告書も公表されています。

調査によって、消費者は、打消し表示を全然見ていないという実態が明らかになりました。従って、商品・サービスの内容や取引条件について重大な例外条件がある場合は、強調表示に記載する必要があるということが、これら調査から導かれます。
他方、強調表示に、その例外条件を全て書くことが困難なときもあります。報告書では、このような場合は、例外的に打消し表示を使ってもよいが、①打消し表示を認識できる方法、かつ、②強調表示を打ち消す内容にする必要があるとしています。
また、報告書の中には「体験談に関する景品表示法の基本的な考え方」という項目があります。まず重要なのが、体験談にも顧客誘引効果があるということです。例えば「サプリを飲んだら10キロ痩せて10年前に買ったワンピースが入ってうれしい」との体験談を見たときに、「『体験談と同じような効果』を得られる人がいる」との認識を抱く人や「『大体の人』が効果を得られる」との認識を抱く人の割合が40~50%程度いる、つまり体験談やレビューが商品選択に影響を与えていることが明らかになりました。

さらに、体験談は「個人の感想」ですが、「効能効果を標榜・保証するものではありません」などの免責文言が必ず入っています。報告書は、打消し表示を見ても、「効果が得られる人がいると思う」との認識を抱いた人の割合が55%から48.8%と、6%程度しか減っていないとして、一般消費者が打消し表示を認識したとしても体験談から受ける認識が変容することはほとんどなく、依然として顧客誘引効果はあるとしています。このため、体験談を広告に使う場合には、持っているエビデンスの範囲内で使う必要があります。
打消し表示判断について、原則は強調表示に記載し、例外的に打消し表示を使います。打消し表示を使うとしても、表示の方法、内容の適正化が必要になります。

3.打消表示が不十分とされた事例

まず、動画サービスを提供していたTSUTAYAの事例です。次ページ上段の図のページにランディングすると、「動画見放題」と大きく書いてあり、その周りに新作DVDのパッケージ画像が掲載されています。通常消費者は、これを見て「新作も含めて動画見放題なんだ」と認識するかと思います。
しかし、同じページの下の方にある「よくある質問」には、「動画見放題は新作も観られますか」という問いが記載されています。この記載の仕様には、アコーディオンパネルという、タップすると画面が開くユーザーインターフェースが使われています。このアコーディオンを開くと、月に新作は2本しか見られず、新作は見放題ではないというような内容が書いてありました。

消費者庁は、「動画見放題」の表示から離れた場所に、小さい文字で、このような重要な事項の表示にアコーディオンパネルを使っているとして、これでは消費者が認識できず、新作見放題ではないというサービスの実際を知っていたら買わなかったとして、有利誤認表示を認定し、約1億2000万円の課徴金を課しました。
私であれば、加えて、コンバージョンボタンの配置も問題であると認定すると思います。新作も含めて動画見放題という認識を持った後に、すぐ下に「無料お試しはこちら」というコンバージョンボタンがあるので、打消し表示を見ないで契約に進む可能性があります。基本的に強調表示と打消し表示は一体として表示する必要があるので、強調表示→打消し表示→コンバージョンボタンという順番にするのが望ましいと思います。

次は、アルトルイズムという会社に対する措置命令です。これは健康食品の事案ですが、「ロマンスグレーはまだ早い」「さあ!"黒活"をスター トしましょう!」など、これを食べると白髪が艶のある黒髪になる効果があるかのような表示をしました。体験談があり(図左下)、「個人の感想」と書いてありますが、これは表示から受ける印象を打ち消すものでないとして一蹴されています。加えて、「艶のある深い黒さに」という表示に、※印で「サプリメントの粒の色のことです」と注記されています。普通、「艶のある深い黒さ」といったら髪のことだと思いますが、打消し表示としてはサプリメント粒のことだとしていました。また、「フサフサボリュームも」には、髪がフサフサになるのではなく、※印で「ボリュームのある内容量のことです」との打消し表示がありました。

消費者庁は、打消し表示の記載内容からは捉えにくい表示であるとして、打消し表示の方法が不十分だと認定しました。具体的には、打消し表示が白衣を着た人物を背景にして、白い色の小さな文字で書いてあることから、効果に対する認識を打ち消すものではないと認定しました。

最後は、消費者庁が初めてアフィリエイト広告自体を不当表示と認定したT.Sコーポレーション事件です。医薬部外品に関する広告ですが、あた かもこれを使えば、薄毛の状態から外形上視認できるまで発毛するかのような表示をしたものです。医薬部外品として表示できる範囲を超えており、 薬機法にも違反する可能性があります。本件は、アフィリエイターが行った表示ですが、合理的根拠はなかったとして処分された事案です。企業と しては、アフィリエイトの管理も重要になってきていると思います。

(次号につづく)