出版物・パンフレット等

東京三会合同研修会

日時:2021年12月20日(月)午後6時00分
場所:弁護士会館 2階 講堂クレオ(Zoom併用)
司会:第一東京弁護士会成年後見に関する委員会 副委員長 野嶋 真世

  1. 開会の挨拶:
    第一東京弁護士会 会長 三原 秀哲
  2. 講演:
    東京家庭裁判所判事 村主 幸子 氏
    東京家庭裁判所判事 日野 進司 氏
    東京家庭裁判所判事補 島田 旭 氏
  3. 閉会の挨拶:
    第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会
    委員長 大澤 美穂子

Ⅰ データ紹介

1 後見開始等事件の終局件数(自庁統計による概数)

成年後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任について、令和3年1月から10月までの10カ月間における東京家裁本庁の終局件数は合計で2830件であり、内訳は、後見開始が2004件で全体の約71%、保佐開始が534件で全体の約19%、補助開始が182件で全体の約6%、任意後見監督人選任が110件で全体の約4%となっている。これらのうち認容により終局した件数は合計で2712件であり、全体の約96%を占めている。
令和2年の同時期との比較では、全体の件数については約300件増加し、主に後見開始と保佐開始が増加しているが、全体の割合等の大まかな傾向については、ほとんど変わっていない。

2 開始等事件の終局までの審理期間

令和2年1月から12月までの東京家裁本庁及び立川支部における終局までの審理期間は、申立てから1カ月以内に終局したものが51.6%、3カ月以内に終局したものが87.8%、6カ月以内に終局したものが98.0%となっている。
平成31年1月から令和元年12月の間の数値と比較すると、やはり令和2年は新型コロナウイルスの影響によって、1カ月以内に終局した割合、3カ月以内に終局した割合が、それぞれ約8%ないし5%程度減少しているが、6カ月以内に終局した割合は、ほぼ同様の数値となっている。

3 開始時における成年後見人、保佐人及び補助人と本人との関係別件数

令和2年1月から12月までの1年間における東京家裁本庁及び立川支部において、後見人等選任総数に占める親族の割合は21.2%、弁護士の割合は21.5%、司法書士の割合は36.5%、社会福祉士の割合は10.5%、市民後見人の割合は1.3%となっている。平成31年1月から令和元年12月と比較すると、特に大きな変化はないが、親族の選任については、令和元年までと同様、減少傾向にある。
なお、この数値は、関係の異なる後見人等の複数選任の場合、例えば、一つの申立てで弁護士と親族を1名ずつ選任した場合は、弁護士に1件、親族に1件とそれぞれカウントして集計したものである。

4 各申立事件における首長申立ての件数

令和2年1月から12月までの1年間における東京家裁本庁及び立川支部への申立件数の合計は4636件で、そのうち1234件が首長申立て(精神保健福祉法等に基づいて認められている区長又は市町村長による申立て)であり、その割合は26.6%となる。平成31年1月から令和元年12月までの間の首長申立ての割合は24.8%となっており、首長申立てが若干増加しているという傾向が見てとれる。

Ⅱ 裁判所からのお知らせ

1 診断書定型書式の一部改訂

後見等申立時に診断書を添付する場合には、成年後見用の診断書定型書式の利用をお願いしているが、今般この定型書式の記載のうち、主に医学的診断及び判定の根拠の質問項目の一部等を修正することについて、医療関係団体と最高裁家庭局との間で協議が整い、書式が一部改訂されることになった。
改訂版の診断書書式及び手引については、最高裁家庭局から医療関係団体、厚生労働省及び専門職団体等に対して情報提供され、厚生労働省には地方自治体への周知を依頼している。これを受けて、当庁では、令和4年4月1日以降の申立てについては原則として改訂版の定型書式による診断書を添付していただく取扱いになる。
改訂版書式のデータについては、令和4年1月上旬、東京家裁後見センターのウェブサイトに掲載する予定である。なお、最高裁のウェブサイトには、既に改訂版書式のデータが掲載されている。
そこで、取扱いの開始前に当たる令和3年度中に改訂版書式により作成された診断書が添付された申立てがされた場合であっても、成年後見用の定型書式による診断書が提出されたものとして取り扱うこととする。また、例えば、令和3年度内に申立ての準備に着手し、申立てが令和4年4月1日以降になるケースなど、令和4年4月以降の申立てにおいて、現行の書式によって作成された診断書が添付される場合も想定されるので、令和4年4月1日以降の申立てにおいて現行書式により作成された診断書が提出された場合であっても、一定期間は成年後見用の定型書式による診断書が提出されたものとして取り扱う予定である。

2 ゆうちょ銀行による後見制度支援貯金の取扱開始

後見制度支援貯金については、これまでも各種金融機関が随時取扱いを開始しているが、令和3年9月27日から、ゆうちょ銀行が全国の直営店で後見制度支援貯金の取扱を開始した。書式としては、従前の支援貯金と同様のものを使用していただく。具体的な内容については、必要に応じてゆうちょ銀行のウェブサイト等で確認していただきたい。
なお、預入限度額が通常貯金等と合わせて1300万円とされており、定期定額送金のサービスはないので、利用の検討に当たってはこの点に注意していただきたい。

3 成年年齢の引下げ

令和4年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳、19歳に達している方は、その日から成年となる。これによって未成年後見の対象年齢に関しても、現行の20歳未満から18歳未満となることから、未成年後見開始申立ての際はこの点に留意していただきたい。
未成年後見人又は未成年後見監督人をされている方々においては、まず、未成年者がいつ成年になるのかというのを改めて確認していただき、未成年者が成年に達した場合には、通常どおり、10日以内に市区町村役場に後見終了届を提出いただき、2カ月以内に財産を未成年者であった者に引き継ぎ、3カ月以内に引継書を家庭裁判所に提出するなど、通常の未成年者が成年となった場合と同様の必要な対応をしていただきたい。

Ⅲ 申立段階

1 申立段階における提出資料、留意点等

(1)主な提出資料

申立書、申立事情説明書、親族関係図、財産目録、収支予定表、親族の意見書(同意書)、後見人等候補者事情説明書、診断書、本人情報シート、なきこと証明、戸籍、住民票等がある。

(2)財産関係の資料

財産目録や収支予定表等の財産関係の資料は、後見等の開始に当たって、本人の財産状況を把握し、本人にどのようなニーズや課題があるか、ニーズや課題に対応するために誰を後見人に選任すべきかを検討するために必要な資料である。また、保佐・補助申立ての場合には、代理権付与の必要性等を検討するためにも財産関係の資料が必要になることがある。
そこで、申立てに当たっては、財産関係の資料について、通帳の写し等の裏付け資料も添付するとともに、可能な範囲で詳細に記載し提出することが望ましい。
他方で、後見等開始の申立てをする場面においては、本人の判断能力等が低下しているのが通常であることや、本人以外の申立人には財産調査の権限がないことなどから、申立人が本人の財産に関する調査を行うとしても時間や労力がかかってしまい限界があるということも多い。
また、本人の財産に関する調査に時間を要すると、その間、本人が成年後見制度による必要な保護を受けられないという状態が続くことになる。したがって、財産関係の資料について、提出が容易でない場合は、まずその理由を説明するとともに申立てをして、詳細な調査については選任された後見人に委ねることが相当であるというようなケースもあると考えられる。
一般にどこまでの調査をすべきかは、事案ごとの判断にならざるを得ないが、基本的には申立ての準備において可能な範囲で調査し把握できた範囲で選任の審判をすることとした上で、開始後に選任された後見人による初回報告までの調査によって判明した財産状況等に応じて、事後的に選任形態の見直しや必要な代理権付与の追加などを柔軟に考えていくということが、現実的な対応であると考えられる。

(3)親族の意見書(同意書)

申立時の提出資料として、親族の意見書、すなわち本人と一定の関係にある親族等が、後見開始や後見人等候補者についてどのような意見を有しているかを記載した書面を提出することがある。
なお、親族が後見の開始及び挙げられた候補者の選任のいずれにも同意する意見を記載している書面が提出されることが多いが、こういった場合を想定して、単に同意書と呼ぶこともある。
このような意見書ないし同意書は、本人の状況を把握している親族等に後見等開始についての意向を確認するとともに、親族間に紛争があるか否か等の必要な情報を得るために必要な資料となる。意見書ないし同意書は、特に鑑定の要否や後見人等を誰にするかを検討する上で重要となる場合もあるので、申立てに当たっては、本人と近しい関係にある親族や同居者等がいる際は、可能な限り意見書ないし同意書を提出いただきたい。
もっとも、当該親族が本人の後見等開始に反対している、あるいは親族等が本人と疎遠であるなどの理由により、申立ての準備段階において意見書ないし同意書を取得することが困難な親族がいる場合には、提出が困難な理由を説明するとともに、把握している範囲で提出いただきたい。その場合は、意見書ないし同意書の提出がない親族に対しては、必要に応じて裁判所から親族照会等の方法で確認することもある。

(4)後見人等候補者事情説明書

後見人等の候補者を挙げる場合には、後見人等候補者事情説明書を提出する必要がある。後見人等候補者事情説明書は、候補者として挙げられている者が当該事案における後見人等としての適格性を有しているかを判断するために必要である。候補者が専門職か否かで書式が異なるため、後見人等候補者事情説明書作成の際には注意が必要である。

(5)診断書・本人情報シート

本人の現在の状況を把握し、本人が後見等に相当する状態にあるかを判断するための資料として、診断書、本人情報シートを提出いただきたい。

2 本人情報シートについて

(1)本人情報シートの提出件数・割合

後見・保佐・補助の各開始申立事件で、令和3年7月に終局した事件は、総数373件中289件(77.5%)で本人情報シートが提出された。同年8月に終局した事件は、総数414件中332件(80.2%)で本人情報シートが提出された。同年9月に終局した事件は、総数410件中317件(77.3%)で本人情報シートが提出された。
次に、任意後見監督人選任申立事件で、令和3年7月に終局した事件は、総数9件中9件(100%)で本人情報シートが提出された。同年8月に終局した事件は、総数8件中4件(50%)で本人情報シートが提出された。同年9月に終局した事件は、総数18件中17件(94.4%)で提出された。
比較してみると、任意後見は申立て及び終局の件数自体が少ないため、令和3年8月は50%という低い割合になっているが、それ以外はかなり高い割合で提出されており、令和2年の数値と比較しても増加傾向にあるといえる。

(2)本人情報シートの意義・裁判所における活用

本人情報シートは、平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画において検討が促され、その後、最高裁判所家庭局において検討がされた結果として導入されたものである。
本人情報シートの趣旨としては、診断書を作成する医師に、本人の判断能力についてより的確に判断してもらうためには、まず本人の状況を把握している福祉関係者から医師に対して本人の日常生活、社会生活に関する客観的な情報を提供した上で、本人の生活上の課題を伝えることが有益であるという考え方に基づいている。
そして、その記載内容については、本人と日常的に接している福祉関係者において、本人の生活状況等の情報を提供できるようにという趣旨で書式が作成されたものである。本人情報シートの提出は、法律上の義務ではないものの、このような観点から、可能な限り作成して提出していただきたい。
後見等開始の申立てにおいて本人情報シートが提出された場合には、まず本人の判断能力を判定する際の参考資料として活用している。ただし、本人情報シートは、医師が十分な判断資料に基づいて適切な医学的判断ができるようにするためのものであり、医師は本人情報シートに記載された情報を踏まえて診断書を作成し本人の判断能力に関する意見を記載しているはずであることから、本人が後見等に相当する状態であるか、明らかに鑑定をする必要がないか等を判断する際には、裁判所としては基本的には診断書を参考にしている。
また、診断書の内容に何らかの問題が見受けられるような事案は、診断書の記載内容と本人情報シートの情報を照らし合わせて、鑑定の要否を判断するための補助資料として用いる場合もある。

3 鑑定について

(1)鑑定の原則と例外、運用

後見開始の審判をするには、家事事件手続法119条1項本文により、本人の精神の状況について鑑定を実施することが原則であり、同項ただし書により、提出された診断書等から明らかに後見相当と判断できる場合には、鑑定を省略することができる。保佐についても、同法133条によりこの条文が準用されている。
明らかに後見相当と判断できる場合とは、鑑定に代替するような医師の判断があるような場合、具体的には、申立人提出の診断書等から本人が事理を弁識する能力を欠く状況にあることが明らかと評価できる場合がこれに当たると考えられる。実務上は、成年後見用の定型書式による診断書が提出されることによって鑑定を省略する件数が相当数を占めている。
他方で、補助と任意後見監督人選任については、後見・保佐とは異なり、鑑定を実施することが原則とはされていない。しかし、申立てに際して診断書が提出されていない、あるいは提出された診断書のみでは本人の判断能力について的確な判断ができないような場合には、後見等開始の要件の有無について判断するために鑑定を実施する必要があるということ自体には変わりはなく、鑑定の要否についての考慮要素や、鑑定を実施すべき主な例の場合については、補助と任意後見監督人選任についても、後見・保佐の場合と基本的には同様であると考える。

(2)実施件数等

令和2年1月から12月までの1年間における本庁及び立川支部における後見、保佐、補助の開始申立てと任意後見監督人選任申立ての各事件において鑑定を実施した件数の総数は合計590件であり、終局事件に占める割合としては約12.7%となっている。これは、平成31年(令和元年)の数字とほぼ同様である。もっとも、前述したとおり、後見と保佐は鑑定実施が原則であり、補助と任意後見監督人選任はそうではないという違いがあるため、これらの手続の間では、実施件数や割合が異なっているものとご理解いただきたい。

(3)鑑定の要否についての判断

鑑定の要否を判断するに当たっては、基本的には、提出された診断書の内容を検討するところから開始する。その際の考慮要素としては、診断書に精神上の障害が記載されているかどうか、その判定の根拠が記載されているかどうか、診断書の内容に矛盾がないかどうか、といった観点を検討する。このような観点から検討した結果として、明らかに鑑定の必要がないと認められるか否かは、個別の事件における各裁判官の判断であり、最終的には事案ごとの判断となるが、参考として、鑑定を実施する主な例について紹介する。
まず、(ア)提出された診断書に記載された本人の判断能力についての意見と、申立ての趣旨に記載された類型との間に齟齬がある場合が挙げられる。この場合、まずは本人の判断能力を確定するために鑑定を実施するのが通常であり、鑑定の結果が申立ての趣旨と異なる結論であった場合には、その結果を踏まえて申立ての趣旨の変更について申立人に検討を促すこととなる。
次に、(イ)精神上の障害の有無及び程度について、本人に身近な親族等の間で争いがある(又はうかがわれる)事案や、(ウ)本人自身が後見開始に反対しているような事案が挙げられる。この場合には、本人や親族から、申立時に提出された診断書とは異なる結論や内容の診断書等が提出されるような場合があり、提出された診断書のみでは適切な判断ができない可能性が想定されるため、原則どおり鑑定を実施することが多い。
また、(エ)精神上の障害の有無及び程度や、本人の判断能力について、親族間あるいは本人との間で争いがないような場合であっても、提出された診断書の内容に矛盾があるなど、診断書の記載が不十分な事案が挙げられる。この場合、診断書のみから本人の状態を判断することは困難であるため、鑑定を実施することとなる。
最後に、(オ)提出された診断書が、成年後見用の定型書式でない場合が挙げられる。定型書式でないこと自体から鑑定を実施するわけではないが、結果として判断の根拠となる記載が不十分なことが多いため、鑑定が必要となることが多い。

4 いわゆる囲い込み事案について

申立人以外の親族が本人と共に生活しており、申立人が本人と接触することが困難である、いわゆる囲い込み事案の場合は、本人についての診断書が何ら提出されない場合のほか、成年後見用の定型書式による診断書が提出されず、その代わりとして過去のカルテや定型書式でない診断書等の資料が提出される場合がある。
しかし、通常は、それらの資料のみでは本人の直近の状況や該当する類型、すなわち後見、保佐、補助のいずれに当たるかを判断できないため、本人の現在の事理弁識能力を判断するに足りる的確な資料とはいえず、原則どおり鑑定が必要となることがほとんどである。
鑑定の実施に向けた手続の流れとしては、通常はまず本人と同居等をしている親族がいる場合、その親族に対して親族照会を行い、当該親族の意向を確認する。このようなケースでは、通常の親族照会のように、後見開始及び後見人選任についての意向を確認するだけではなく、鑑定に協力する意向があるかどうかについても照会している。その結果、当該親族から、後見開始には反対だが鑑定には協力する旨の回答があり、鑑定手続を進めることができるという例が実務上一定数見られる。
当該親族が親族照会に対して回答しない場合や、鑑定等の手続に協力しない旨を回答した場合には、その次の段階として、当該親族を対象として調査官による調査を実施し、その意向や事情を聴取しつつ、鑑定への協力を求めるのが一般的な手法となる。このような調査官による調査の結果、当該親族が当初は協力を拒否していたが、説明や説得を重ねた結果として最終的には協力が得られ、鑑定を実施することができたという例も実務上一定数見られる。他方で、本人の事理弁識能力に問題はないなどの理由から、手続自体に反対である旨の回答がされるなど、結果的に協力を得られず、本人との面会の調整すらできないこともある。この場合、鑑定の実施は困難であり、かつ明らかに後見相当と判断することもできないと判断し、申立てを却下することとなる。申立人に対しては、場合によって申立ての取下げを促すこともある。

Ⅳ 選任段階

1 後見人等候補者について

候補者欄に親族等(非専門職)が記載されている場合、まずは申立時に提出された資料等から、当該事案における本人のニーズや課題を把握した上で、候補者がそれらに対応することができるか、当該事案における後見人等としての適格性を有しているかを検討し、必要に応じて調査官による調査や参与員による説明聴取を実施する。その結果、候補者が十分な適格性を有しており、単独で後見人等としての職務を行うことができると判断した場合には、候補者を後見人等に選任する。
なお、個別の事案における適格性とは別に、後見人として通常必要な能力(後見人として作成すべき財産目録や報告書等の書類を作成し、裁判所に対して定期的に報告等をすることができるかという一般的な能力)を有しているかという観点も問題になることがある。これについては、候補者の年齢のほか、職業や経歴等、様々な事情に基づいて判断する。
例えば、候補者が若年のために、報告書作成等の事務を行うことができるか不安があるとか、逆に高齢のために、裁判所に対して定期的な報告を問題なく行えるか不安があるといったケースもあるが、特段年齢について一定の基準等を設けているわけではない。あくまで一般論だが、例えば、候補者が本人とそれまで生活を共にしているなどして、既に信頼関係を構築しており、本人の財産管理や身上保護を適切に行うことが期待できるような場合には、他に課題や問題があるような場合は別として、年齢のみを理由に選任しないといった運用はしていない。
候補者の適格性が十分ではないと判断した場合には、候補者に代わって専門職を選任し、あるいは候補者を選任するとともに、専門職を関与させるが、その場合の選任形態は、その事案における課題の内容や候補者の適格性の程度等によって判断する。
具体的には、例えば、専門職や中核機関等による支援があっても、その候補者が自ら後見事務や課題への対応を行うことが困難であるような場合には、候補者に代えて専門職を後見人等に選任することとしているが、場合によっては、候補者には身上保護の権限を、専門職には財産管理の権限を分掌する複数選任の形態を選択することがある。他方で、専門職や中核機関等による支援があれば、候補者が後見事務や課題への対応を一定程度十分に行うことができると考えられる場合には、候補者を後見人等に選任し、必要に応じて専門職を監督人に選任する。
もっとも、以上の判断・検討は、申立段階において裁判所の方で把握できる情報等を基に行うものであるため、開始後にその選任形態を見直す必要が生じるケースも一定程度ある。また、開始後の事情の変化(例えば、当初予定していた課題の解決等によって専門職が関与する必要性が事後的に消滅)が生じるケースもある。そのような場合には、必要に応じて柔軟に選任形態を見直すことを検討するので、適宜情報提供をしていただければと考えている。
次に、申立書の候補者欄に、専門職(具体的には名簿登載者)が記載されている場合には、通常は記載された専門職候補者を選任する。例外として、専門職候補者を選任しない例としては、親族間に対立があり、親族が、申立人が立てた候補者であるとの理由で反対しているようなケースが挙げられる。また、申立人が明確に認識していない課題等があると裁判所が判断し、かつ申立人が挙げている候補者では当該課題に適切な対応ができないと裁判所が考えるケースも挙げられる。そのほか、少数であるが、後に、本人や申立人が候補者を変更するケースや、候補者が自ら辞退するケースもある。
以上とは異なり、候補者がなく、裁判所に一任されている場合には、候補者を挙げるよう申立人に求めることはせず、提出された資料等から本人のニーズや課題を把握した上で、それらに対応できる専門職を後見人等に選任する。

2 親族等の意向について

申立時には親族の意見書(同意書)を提出いただくこととしているが、本人と近い関係にある親族の意見書が提出されていない場合には、その事件の進行を検討する上で必要な情報を収集するために、裁判所から親族に対して後見開始や候補者についての意向を照会する、いわゆる親族照会を行うことがある。
親族照会を行う対象は、特に法令等に規定があるわけではなく、一般的には推定相続人、すなわち本人が死亡した場合に相続人となる者に対して行うことが多いが、推定相続人に当たらない場合であっても、本人と同居している者や本人の財産を事実上管理している者など、本人と一定の関係にある者に対しては、親族照会を行うことがある。
他方で、推定相続人であっても、例えば、本人の扶養義務者、すなわち直系血族や兄弟姉妹に該当せず、かつ本人との関係も疎遠な親族に対しては、親族照会を行わないこともある。このような親族については、申立準備の段階で意見書(同意書)を取得することも通常は困難と考えられるので、その場合は本人と疎遠である旨の事情等を申立事情説明書等に記載していただきたい。
保佐及び補助については、本人に一定の判断能力があることや、原則として調査官による本人調査を行った上で、候補者を選任することについての本人の意見を確認等しながら手続を進めていることから、親族照会を実施しない場合があるなど、後見を想定した場合と異なる形で手続を進行することがある。
親族照会を行った結果、親族が後見の開始又は候補者の選任に反対している場合もあるが、そのことのみをもって、必ずしも当該候補者を後見人等に選任しないというわけではない。もっとも、反対している理由によっては、仮に当該候補者を選任した場合には深刻な親族間紛争が生じ、それによって円滑な後見事務を行うことが困難になる事態が予想されるようなケースも想定される。その場合には、候補者ではなく、親族間紛争の原因となる課題の対応等に適した専門職を選任することもある。
また、申立人等の親族が後見人等の候補者に挙げられている場合において、中には親族の意見書や親族照会の結果の中で、候補者である親族が本人の財産を不当に侵害している、不正行為をしている、あるいは本人に対して虐待を行っているといった理由で、後見の開始や、当該候補者の選任に反対である旨の意見が記載されているケースもまま見られる。その場合であっても、そのような事情を認めるに足りる裏付けが十分に確認できないことがほとんどであるため、そのような記載のみをもって候補者を選任しないということはない。もっとも、その内容によっては、候補者としての適格性を確認するために、必要に応じて、本人又は申立人に対して調査官による調査を行うことがあるほか、場合によっては開始後に親族間紛争が発生して後見事務が円滑に行われなくなる可能性や、財産管理又は身上保護における課題の有無等を調査する必要性を検討することになる。そのような調査、検討の結果、候補者を選任せず、第三者専門職を後見人等に選任する場合があり得ると考えられる。
保佐又は補助の場合には、本人が一定以上の判断能力を有していることや、本人の同意等が要件になる場面があることなどから、例えば、本人が従前から懇意にしている弁護士を保佐人又は補助人の候補者に挙げている場合には、本人の意思を一定の限度で尊重する必要があることから、後見の場合とは異なる手続の流れや結論となることがある。
まず、保佐の場合、例えば、本人と当該弁護士との信頼関係が非常に強く、本人が、当該弁護士が保佐人に選任されることを強く希望しており、当該弁護士でなければ、保佐開始や必要な代理権付与に同意しない、又は反対するなど、第三者保佐人を選任した場合には、その円滑な保佐事務に実質的な協力が期待できないという場合もある。その場合には、仮に親族が反対していても、当該弁護士を保佐人に選任することも考えられる。もっとも今挙げたのはあくまで一例であり、最終的にその候補者を選任するか否かは、親族間紛争の程度、対立している親族が述べる反対理由の内容や、従前からの本人と当該候補者との関係を総合考慮した上での個別判断になる。
最後に補助の場合には、やはり基本的には本人の意見を重視する必要性が非常に高いことから、親族が反対していても、本人が、当該弁護士が補助人に選任されることを希望する場合には、例えば、第三者補助人でなければ、開始後の補助事務に支障が生じる程度に深刻な親族間紛争がある場合といった事情がない限りは、当該候補者を選任することが多いと考えられる。

3 任意後見監督人の候補者について

任意後見監督人選任申立事件において、任意後見監督人の候補者として、任意後見契約の受任者や本人と交流のある弁護士や司法書士を挙げる例というのも実務上一定数見られる。裁判所によっては、任意後見監督人になる専門職が少ないなどの事情などから、挙げられた候補者が名簿に登載された専門職である場合には、任意後見監督人にその候補者を選任することもあると聞いている。
しかし、そもそも任意後見監督制度は、裁判所が選任する任意後見監督人による直接の監督と、任意後見監督人を通じた裁判所による間接的な監督によって、任意後見人の事務処理の適正を担保する制度である。また、任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督することをその職務としており(任意後見契約法7条1項1号)、任意後見人に対して事務に関する報告を求め、その事務又は本人の財産の状況を調査する権限を有しているほか、任意後見人に不正な行為等の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所に対してその解任を請求するなどの立場にある者である。したがって、基本的には任意後見受任者や申立人と利害関係のない第三者であることが想定されていると考えている。
したがって、後見センターにおいては、任意後見監督人選任申立てにおいて、任意後見監督人の候補者が挙げられている場合であっても、通常はその候補者を選任することはなく、通常どおり専門職団体に対して推薦依頼をした上で、第三者である専門職を任意後見監督人に選任している。
以上の内容については、基本的には、法定後見における監督人についても同様のことがいえると考える。

Ⅴ 後見事務

1 本人の意思決定支援、意思尊重と後見事務

最近、本人の意思決定支援、本人の意思尊重が話題になっているところ、後見人等としては、本人の意思の尊重とのバランスをどのように考えて、後見事務を行っていけばよいか。
実際の後見業務において本人の意思の尊重が問題となる、居住用不動産の処分や金融機関の変更などについて、どのような観点から検討が必要なのか。
これまでの成年後見制度においては、成年後見制度の利用者が利用のメリットを実感できないケースも多い、第三者が後見人となっているケースの中には、意思決定支援や身上保護などの福祉的な視点に乏しい運用がなされているものもある、こういった指摘を受けて、平成28年5月13日に、成年後見制度の利用の促進に関する法律が施行され、その後、平成29年3月24日に成年後見制度利用促進基本計画の閣議決定がされている。
基本計画においては、利用者がメリットを実感できる制度、運用の改善を進めることが目標とされ、財産管理のみならず、意思決定支援、身上保護も重視した適切な後見人の選任、交代がうたわれている。そして成年後見制度の趣旨であるノーマライゼーションや自己決定権の尊重の理念に立ち返り、本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるように、意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインも策定されているところである。
もとより成年後見人は、本人の財産管理、身上保護を行うに当たって、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮する義務がある。こちらは民法に規定されており、保佐、補助においても同様の規定が設けられている。これまでも多くの専門職後見人等においては、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重、こちらの理念に沿った後見等事務に当たってこられたと理解している。そのため家庭裁判所としては、本人の意思尊重という観点から、意思決定支援が求められることを所与の前提として、これまでと同様に後見等事務に当たっていただきたいと考えている。
なお一般論として、意思決定支援とは、特定の行為に関する判断能力に課題のある人について、必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなどして、本人が自ら意思決定をするために必要な支援をする活動をいい、本人が意思形成をすることの支援、及び本人が意思を表明することの支援が中心となる。
例えば、後見人としては、基本的には本人に重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随した事実行為の場面において、直接関与して意思決定支援を行うことが求められるものと考えられる。そして本人の意思決定支援を行う前提として、意思決定支援が必要となる具体的な課題が生ずる前の段階で、環境整備、すなわち後見人等が本人の置かれた状況を把握するとともに、支援者の輪へ参加するということも考えられる。
そして意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確認が困難であるときは、本人の意思推定に基づく代行決定、本人により表明された意思などが、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずるときには、本人にとっての最善利益に基づく代行決定を行うということになる。なお、本人の最善の利益に基づく代行決定を行うに際しては、本人にとってのメリットとデメリット(失う利益と得られる利益)、ほかの選択肢の有無及びその選択肢と比較した本人の不利益の程度、懸念される影響の程度及び確実性、意思決定支援において構築された支援者などの関係者や本人の意思などを考慮して、個別具体的に判断することになる。
こうした過程を経た後見人の判断は、後見人に広範な裁量があるということから、その裁量権を逸脱、濫用したと認められない限り、基本的に尊重されることになると考えられる。そのため、後見人、保佐人等の代理権、同意権の行使方法、方針は、多くの場合、複数の選択肢があり、そのいずれを採用するかは後見人等の裁量に委ねられているため、原則として逐一家庭裁判所の許可を得る必要はないと考えられる。しかしながら、近年、意思決定支援がクローズアップされている中で、裁量逸脱や裁量権の濫用となるおそれがないかどうか懸念されることも多いと考えられるため、その際には、連絡票などで、家庭裁判所にご相談いただきたい。
意思決定支援に関連して時折ご相談いただく例として、居住用不動産の処分における本人の意思と処分の必要性判断への影響についての質問がよくある。本人の意思決定や意思確認ができる場合には、これまでと同様に本人の意思を確認していただき、確認されていない場合には、本人の意思確認をお願いするということになるものと考えられる。
そして、本人の意思決定や意思確認が可能であるところ、意思確認がない場合には、本人の意思確認が困難である事情、本人の最善利益となる事情についても補充していただくことになるのはこれまでと同様である。先ほど述べたとおり、諸事情を考慮の上、個別具体的に判断することになるため、居住用不動産の処分について、本人の意向と異なる場合には、申立ての理由に最善利益となる事情をしっかりと記載していただけるとありがたい。
一般的には、これまでと同様に、1つ目としては本人の生活、療養看護及び財産管理の観点からの処分の必要性、2つ目としては処分による住環境の変化が本人の心身に与える影響を記載することになる。1つ目の処分の必要性については、流動資産が少ないため、施設費や生活費の支給に窮するといった事情が代表的ではあるが、空き家のままにしておくと防犯上のリスクがある、あるいは台風や地震などの災害に伴い、近隣の住宅に影響、被害を与えてしまうという可能性がある、固定資産税の負担などが挙げられることも多いと考えられる。
2つ目の本人の心身に与える影響に関しては、本人の意思決定や本人の意思確認ができる場合には、本人の意思形成支援、本人の意思表明支援を前提とした本人の意向や、本人の心身に与える客観的事情から判断していくことになると考えられる。
一方、直接本人から聴取することが困難な場合には、本人の心身に与える客観的事情から判断していくことになる。具体的には、本人が施設に入所してから相当期間が経過し、施設において安定した生活を送っているなどの具体的な事情について説明していただけるとありがたい。一方、自宅から施設に入所することが決まったばかりの段階で、まだ自宅で生活している時期の申立ての場合には、一般的には本人の心身への影響が大きいと考えられるため、具体的な事情について申立書において説明していただきたい。
これらの要素に加え、処分が経済的に見て合理的と言えるか、売却処分でいえば、不当に安い価格で売却していないかという点も許否の際の考慮要素としているため、申立ての際には、不動産の価格に関する書類、査定書や固定資産評価証明書等の提出もお願いしている。
続いて、本人が利用を希望する金融機関からほかの金融機関に変更することは可能かとの質問も受けることがある。例えば、本人が昔から使っていた金融機関で、行員との関係も親密であって、本人が解約を渋っている一方で、金融機関には多数の口座に多額の預金があるものの、遠方にあって財産管理には非常に手間がかかるという事例もあると考えられる。
こうした場合に、財産管理の効率性から、後見人等が管理しやすいほかの金融機関に変更するものの、本人の意思にも配慮して少額の預金を入れた1つの口座のみ残すといった対応も考えられる。つまるところ、ほかの金融機関に変更する理由、代替策の有無、本人の意向及びその理由などを考慮し、事案に応じて個別に判断するということになると考えられる。
基本的には後見人等に広範な裁量があるため、多くの事案で後見人等の判断に委ねることが多いと考えられるが、特段の必要性が認められないのに口座を集約すると見られるような方法の場合には、裁判所から後見人等に対して、口座を集約する必要性について追加の説明を求めたり、場合によっては相当ではないという判断から、ほかの選択を求めたりすることもあり得る。
また、類似の事案として、本人が所有する株式の処分がある。本人が長年勤務していた会社において、従業員持ち株会により取得した株式であるため、思い入れが強く、売却に反対している一方、本人の資産状況などから、株式を売却しなければならないといった事案もあるかと考えられる。他の株式があれば、それを先に売却するのは当然であるとして、それでも本人の資産状況などから売却せざるを得ない場合には、せめて1株だけ残して売却するという対応も考えられる。
その他、自動車に乗ることに固執する本人が交通事故を起こした場合、後見人として責任を問われるのかといった相談をいただくこともあるが、後見人等が本人に対してどの程度の注意や措置などを講じていれば、後見人等としての責任を免れるのか、これは個別事案ごとに異なっているところでもあり、最終的には損害賠償請求訴訟等が提起された場合に、受訴裁判所が判断するということになるため、一般化して回答することは難しい。