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インハウスレポート

【当会会員】進藤 千代数 Chiyokazu Shindo(旧60期)

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インハウスローヤー(組織内弁護士)とは、企業に役員や従業員として所属する企業内弁護士、及び、省庁や自治体に職員 として勤務する弁護士の総称です。
本企画は、当会所属のインハウスローヤーに経験談を紹介していただく連載企画です。

筆者は、2007年に外資系法律事務所にて弁護士として執務開始後、2009年より経営支援・M &Aアドバイザリー企業に、2014年より日系精密機器メーカーにて勤務した後、2015年から現在のホーガン・ロヴェルズ法律事務所外国法共同事業にて勤務しています。このような外部法律事 務所とインハウスの双方の経験をベースに、本稿では、特にインハウスでの経験がいかに外部法律事務所において役に立つかについてお話しします。

❶ クライアントの目線で、そのニーズ を理解できる

法律事務所では、弁護士は、クライアントの依 頼に応じて日々業務を行っているわけですが、法 律事務所のみで仕事をしていると、(a)そもそもクライアントが、実際にどのようなプロセス・基 準で弁護士を選ぶのか、(b)外部弁護士のアドバ イス・成果物をどのように社内において使うのか、 必ずしも明確ではありません。インハウスは、日々国内外の複数の法律事務所からセミナーのお知ら せやニュースレターの送付等の様々なご連絡があるのが通常かと思います。その中で、外部弁護士 に依頼するべき案件が生じた場合に、案件の性質 (M&A、海外取引、紛争、知財等)、規模に応じて法律事務所を選択することになります。案件によっては、複数の法律事務所に対して提案依頼書 (Request for Proposal)をお送りして、フィー(弁 護士報酬)の水準も含めた提案書をもらい、その中から選ぶこともあ ります。ただ、重要なことは、フィーは安ければいいということではなく、同種案件の実績がどの程度あるか、アドバイスのクオリティーが高いか、当社のビジネスのことを分かっているか、 クライアントサイドの担当者とお願いする外部弁 護士との間に信頼関係があるかといった定性的な評価も重要となります。とりわけ、ビジネスに対する理解度は、重要であり、例えば単にM&Aのデュー・ディリジェンスをお願いする場合でも、ビジネスのことを十分に理解していない外部弁護 士に依頼するといかに法的専門性が高いとしても、 的外れな調査となったり、コストが余計にかかる ことになります。海外案件では、関連する各国の文化的背景や現地弁護士と円滑なコミュニケー ションができるかも重要です。インハウスは、社内の決済手続きに関与することも多々あり、役員会等社内の意思決定機関にプレゼンをすることも増えてきていると思われます。そこでは、必ずしも法律の専門家ではない役員陣に正確かつ分かりやすい説明をすることが必要となります。その際、法律事務所が出してきた報告書が電話帳のような 重厚長大なもので難解な専門用語で占められていると、インハウスとしてはそれをそのまま利用するわけにいかず、役員説明用に再構成する必要があり大変な苦労をすることになります。最終的に 社内決済手続きでプレゼンする可能性があることを理解している外部弁護士だとインハウスとしてもやりやすいと感じます。このように、クライアントであるインハウスがどのように外部弁護士を 選ぶのか、法律事務所が作成した成果物をどのように利用するのかを理解できているとクライアントから選定される際に有利になると思われます。

❷ 人脈が広がる

もちろん、法律事務所のみで勤務していても、 弁護士会での活動や、経営法友会等の法務関連団 体での講演会や交流会などを通じて人脈を広げる ことは可能です。ただ、とかく法務関係者とのつながりが多くなりがちです。インハウスの場合、法務関係者だけではなく、社外内のビジネスサイドの人と交流する機会も多く、かつ、各業界団体の会合に出席することもあります。その人脈があ ることにより、例えば、法律事務所で、実際に案件を対応する中で、相手方の関係者がインハウス 時代の知人であり、交渉が円滑になる、あるいは、ビジネスサイドとの関係があることが外部弁護士選定時に有利になることもあり得ます。

❸ 産業軸での専門性

法律事務所での勤務でも、M&A、ファイナン ス、知的財産、紛争解決といったプラクティス軸 での専門性を取得することは可能です。ただ、例えば、医薬医療、エネルギー、自動車といった特 定の産業軸での専門性を直ちに得られやすいかといえば難しい場面が多いのではないかと思いま す。弁護士は依頼された案件を対応することで育っていくのが通常であり、自ら案件を選択して育っていくものではないのが通常だからです。インハウスの場合、その属する会社のビジネスの法 規制にどっぷりとつかるため、各産業分野ごとの専門性を高めることが可能です。その経験は、法律事務所でも役に立ちます。特に、プラクティスごとの専門性は一般化され、産業ごとの強みを発揮しないと生き残れなくなってきつつある状況では、ある特定の産業部分野の法規制(例えば、医 薬医療では薬機法、自動車では道路運送車両法 等)に精通しているとほかの外部弁護士と比べて優位性をアピールできると思われます。

❹ 海外案件

法律事務所勤務でも海外案件に多数従事すること、その中で海外案件の経験を得ることは可能です。ただ、日本の弁護士として登録していれば、 日本法のアドバイスを求められることが多く、外 国法の問題については、具体的な依頼があった場 合に、その国の弁護士にお願いすることになろうかと思います。インハウスでも、もちろん海外の弁護士に依頼することになるのですが、特に日系企業のインハウスでは、ある案件や契約にそもそも外国の法律上の問題点があるのかないのか、といったところから関与することも多いです。その観点で、所属する企業が拠点を有するあるいは自らが担当している地域や国の法律にあらかじめある程度網羅的に精通している必要があります。法律事務所ではとかく日本法のアップデイトになり がちですが、インハウスでの前述の経験により、自らが担当するクライアントの属するビジネスの 法規制に関する動向にも意識がいくようになり、 そのことが自らの仕事の質を高め、外部弁護士選定時に有益になることもあり得ます。

❺ まとめ

以上、インハウスでの経験がいかに法律事務所において役に立つかについてざっくばらんに述べてきましたが、本稿がインハウスにご関心ある又 はインハウスへの転職を考えている方のご参考の一助になれば望外の幸せです。