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インハウスレポート

企業内弁護士の活動領域の拡大に向けて

小松 淳一 Jyunichi Komatsu(63期)

はじめに

私は、弁護士としてのキャリアのうち最初の数年間を法律事務所で過ごし、その後はいわゆるハウスメーカーである現在の職場で企業内弁護士として執務しています。本稿では、企業内弁護士の業務内容を具体的にイメージしていただくため、私がこれまで担当してきた業務のうち特徴的なものを中心に紹介するとともに、私自身が日々、どのような考えに基づいて業務にあたっているのかを記したいと思います。また、併せて、私が考える企業内弁護士から見た弁護士会等での活動の意義についても言及させていただきます。

企業内弁護士としての業務

私が、企業内弁護士として執務するにあたり最も大切にしていることの1つは、現場を深く知り、また経営サイドが目指している方向性を正確に理解すること、そして現場のために何ができるかを常に考えそれを実行することです。現場で何が起きているのかを知り、現場のニーズを的確に把握することで、きめ細やかな対応ができるものと確信しています。そのための現場とのコミュニケーションは欠かすことができません。私自身、これまで全国の支店のうち30拠点以上を回り、各現場のリアルな声を聞くことに努めてきました。
また、私は、入社して以来一貫して、社内においてこれまで法務の仕事として位置付けられていなかった新しい領域の業務に意識的に取り組み、自らの担当業務の外縁を自分自身で作り出していくというスタンスを貫いてきました。その結果、非常に幅広い内容の業務に取り組む機会を得ることができました。以下、その具体例をいくつか紹介させていただきます。
まず、投資開発プロジェクトの案件(海外投資案件を含む)では、いわゆるリーガル対応だけでなく、SPCやTMK等の組成、事業スキームや投資判断に関する検討、行政との間の渉外対応、独禁対応なども含めた、プロジェクト全体を一気通貫する立場での業務対応にあたっています。
また、M&A などの案件では、通常のリーガル対応・支援に加え、事業スキームの構築、事業シナジーの検証、買収価額の点も含めた交渉対応など、ディールそのもののマネジメントにも深く関与しております。
そして、中大規模木造建築を推進する部署において新たな業務フローを構築する際には、自らプレーヤーとして外部の専門団体と連携し、実際にISO 9001やその他の個別認証・規格の導入を行い、その運用面におけるPDCA サイクルの確立も含めた形での、組織全体におけるリスクコントロールの仕組み作りにも携わっています。
また、昨今、製品等の「品質」に関わる問題が世の中をにぎわせていますが、弊社が提供する住宅の品質を維持するためには使用部材等の品質確保が不可欠であり、これに係る品質基準の再構築、社内基準・フローの再検証、新たな工場監査(遠隔監査を含む)のための仕組み作りなどについても、プロジェクトの中心メンバーとして関わっています。 この点、組織内におけるリスクマネジメントに法曹が直接関与する意義は大きく、外部カウンセルとの連携可能性も含め、今後はより高度化したマネジメント手法の確立・実践に向けた取り組みを、社内弁護士自らが主導して実行していくことが強く求められるように思います。
そのほかにも、業界団体が主催する定例会にメンバーとして出席し、業界の在り方や各業法上の問題点についてディスカッションを行い、取りまとめた内容をベースに所管省庁の担当の方々と意見交換・折衝を進め、最終的に業法の改正にまでこぎつけたということもありました。
なお、最近では、部下の人材育成に力を入れており、強い法務機能・組織を構築すべく、日々部下への指導に尽力しています。今後の企業内弁護士にとって、マネジメント、そして組織・体制作りに関わることは、キャリアステップにあたっての必須の業務領域ではないかと考えています。

弁護士会等での活動

弁護士会での活動については、これまで所属する派閥の会合に参加したり、委員会活動として消費者委員会の住宅部会に所属して建築紛争等に関する研鑽を深めて参りました。特に、この住宅部会では、消費者側の先生方が大多数を占める中で、私自身は企業内部に在籍する唯一の事業者側の弁護士として参加し、企業の立場・目線から意見交換、情報発信をさせていただいています。また、日弁連のひまわりキャリアサポートセンターの幹事職を拝命し、企業内弁護士の活動をより拡充していくための様々な施策に取り組んでいます。
それ以外にも、現在、企業内弁護士等から構成される日本組織内弁護士協会(通称「JILA」)の理事の立場として活動をしており、そのJILA と第二東京弁護士会との間で締結された連携協定の具体化の一貫として、僭越ながら私自身、今期より当会における常議員の職に就くこととなりました。企業内弁護士が常議員に選出される初めてのケースということで、大変身に余る光栄であります。つい先日も常議員会の中で、企業内弁護士やJILAについてプレゼンをする機会をいただくなど、企業内弁護士の実態を弁護士会の先生方にも知っていただくための活動を行っています。
このように私が、弁護士会やJILA 等の活動に力を入れている理由は、昨今、SDGsやビジネスと人権などといった企業の在り方に関する議論が盛んに行われ、組織内において「社会正義の実現」を担う法曹としての役割が増々期待される中、弁護士会等における「弁護士」としてのベーシックな活動に継続的に取り組むことで、自己の知見やマインドをより深め、そして弁護士としての感性を育み、そのことが最終的に企業内に所属する弁護士としてのプレゼンスをより高めることにつながると考えているからです。

結び

昨今、弁護士の活動領域は飛躍的に拡大しており、社会のあらゆる場において弁護士の知見と経験が求められています。しかも、単に法的な知見の提供にとどまらず、法曹のリーガルマインドに従ってビジネスの方向性を先導する役割が期待されています。我々の今の足跡が、将来の弁護士の活動領域に直結するという強い気概を持って、新たな取り組みに意欲的にチャレンジして参りたいと思います。そして、弁護士会と企業内弁護士の在り方についても、今後、当会にて議論が深められていくことを願っています。