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あなたの事務所・自宅が狙われたら!?

第1 防犯対策の考え方・事務所の防犯対策

成田 純一 一般社団法人 総合防犯士会 会長 成田 純一氏

CONTENTS

  1. 犯罪理論(防犯対策の考え方)
  2. 警備業務
  3. 対象物の強化 (防犯性能の高い建物部品)
  4. テロ対策
  5. 事務所の防犯対策・レイアウト例
  6. 防犯グッズの紹介

1. 犯罪理論(防犯対策の考え方)

(1) 犯罪原因論から犯罪機会論へ

犯人がどうしてそういう犯罪を起こしたのかというのを考えるのが犯罪原因論です。しかし、最近は、犯罪原因論ではなく、どういう場所で犯罪が起きるのかという考察をして、その場所環境をなくすことで犯罪を少なくできるのではないかという犯罪機会論の考え方が進歩しています。
例えば、今、弁護士会の会議室で私の目の前には弁護士がいるとします。この状態で、テーブルに100万円置いてあったとします。犯罪を起こせるかと言えば、まず無理です。皆が見ているという環境があれば犯罪は起きにくいという考え方が、犯罪機会論です。これに基づいて、防犯環境設計や日常行動理論が出てきます。

(2) 防犯環境設計と防犯設備

図1 防犯環境設計における四つの基本原則

図1の点線の丸で囲ったところが防犯対象物・防犯対象空間です。それを守るためにどういう設備・環境が必要なのかを考えるのが防犯環境設計の考え方です。
その考え方の元にあるのは、いわゆる多重防護が一番大事だという点です。つまり、ゲートをいっぱい作るということです。1つ手前のゲートを破られても次のゲートがあって、お宝にたどり着くまでに時間がかかる状況を作っておく。犯人が1つ目のゲートを入ってきたときに110番すれば、大事なものを持っていかれる前に警察官が来ることができます。こういう考え方が基本です。
そこで、日本防犯設備協会が、防犯設備を設計する上で一番大事な基本の考え方として、警戒線というものを作りました。第1警戒線から第4警戒線まであります。第1警戒線は敷地の一番外側です。第2警戒線は建物の外壁です。第3警戒線は建物の部屋の中です。こういう形で多重防護をベースにして、それぞれの警戒線ごとに弱点を補強していくという考えです。

図2 基本警戒線 細分化警戒線

第1警戒線が破られたタイミングで110番すれば、建物の中に入ってくる前に警察官が到着できるかもしれません。そこで、この第1警戒線というのはとても大事なところになります。
具体的に第1警戒線でどんな検知器やセンサーを使うかですが、フェンスセンサー、振動検知器、またはフェンスの上にワイヤが張ってあるワイヤセンサーがあります。
なお、第1警戒線でも、外から車で入ってきたときシャッターが開いて車庫に入れるようなケースがあります。シャッター検知器については赤外線のほかに磁気式もあります。これはメリット・デメリットがあるので、その場所の環境に応じて使い分けていただければと思います。

赤外線のビーム検知器は、投光器と受光器の間を赤外線が走っていて、その線を人が遮断することで警報を出します。
赤外線ビーム検知器とマイクロ波検知器は、お互いに短所を打ち消し合う関係になっていて、これを1つの箱の中に2つセットにした検知器も一般的に使われています。
レーダーセンサーというのが敷地の外周の防犯についてはかなり有効なので普及してきました。自宅の駐車場とか勝手口とか、夜、人が近づいたら人感センサーが反応してライトを明るくするというものです。

続いて第2警戒線に入ります。建物の外壁といっても天井も床下もあり、全部第2警戒線です。その中で、窓とか出入口を細かく区分します。主な検知器は窓や扉が開いたら警報が出るというマグネットスイッチです。それに加えてガラス破壊検知器、ガラス破壊音検知器もあります。

次に第3警戒線ですが、これは建物の部屋の中です。一般的な家庭でも最近は鍵がかかる部屋がありますので、区分する警戒線ができています。鍵のかかる部屋の外壁になるとセキュリティレベルが1段高くなります。同じ外壁であっても、守るべき対象がその部屋にあった場合は、もっとセキュリティの高度な処置を取るべきです。
第3警戒線の中には、パッシブ検知器、赤外線パッシブ検知器を置きます。建物の中で半円形のおわん型の検知器を見かけたこがとあると思います。これは自動扉の前に人が近づいたら扉を開けるという目的でも使われている検知器です。

2. 警備業務

東京弁護士会作成の『常時施錠から始まる 事務所のセキュリティハンドブック-事務所襲撃型妨害に備える-』に、"警備会社を使う"という部分があります。実は私は警備会社に所属しておりまして、私が言うのも何ですが、警備会社を過信するのもよくないです。

警備業務というのは警備業法(i)で決められている業務だけです。警備業法第2条には、1号業務から4号までの記載があります。機械警備業務関係は、1号業務で、施設を守る業務に該当します。警備業務は、警察や消防と違って緊急車両を持っていません。呼んだら1分、2分ですぐ来るというイメージは頭から除いてもらった方がいいと思います。即応体制の整備というのが法律で決まっていますが、警備業法では時間は決めていません。それぞれの都道府県公安委員会規則に定める基準に従って速やかに対応せよとなっています。例えば東京都23区の場合は発報信号を受信したら25分以内に到達できるエリアを設定しなさいとなっています。

皆さんもその部分はしっかり踏まえた上で、警備会社の施設入退や機械警備、防犯カメラをお使いになる分にはいいと思います。

3. 対象物の強化(防犯性能の高い建物部品)

侵入経路として一番多いのが無締まりの扉で、次に窓です。窓からの場合、窓を割って中に侵入するという件数が非常に多いです。それならガラスの窓を簡単に割れないようにし、割れたとしても中に入るまで時間がかかる処置が取れれば、泥棒は嫌がります。
この防犯性能の高い建物部品、CPマークが付いたガラスやフィルムがあれば、泥棒も勉強していますから、ある程度の防犯効果はあります。ドア、ガラス窓、そしてシャッターについて、CP部品を認定しています。5分以内に壊せなかった部品はCPマークのシールを貼っていいことになっています。(ii)

CPマークのない普通の厚さ3ミリのガラスや、もうちょっと厚いガラスもあっという間に割れます。網入りガラスはあくまでも飛散防止の効果はありますが、防犯面では非常に弱いです。強化ガラスは点で力が加わると割れてしまいます。 一方、防犯ガラスでCP部品はガラスとガラスの間に特殊なフィルムを挟んでいるのでなかなか割れません。5分経過しても破れませんでした。

次に防犯フィルムです。A4の2枚分を部分的に貼ってもあまり効果はないです。ガラス一面に貼った防犯フィルムなら、防犯ガラスとほぼ同じぐらいの強度が得られます。5分経過しても割れません。

防犯性能の高い建物部品は『警察白書』の中で細かく紹介されています。『警察白書』には、CP部品だけではなく、去年・一昨年の泥棒被害の件数、手口など、詳しい資料が毎年出されていますので、ぜひご覧ください。
私たちの関連団体である総合防犯士会やセキュリティハウスなどでは、警察庁のデータを受けて、防犯の提案を書いています。これらも参考にしていただければと思います。

さて、続いてご紹介する防犯性能の高い建物部品は扉です。今、1ドア2ロックというのが常識になっています。
サッシは鍵が付いているクレセントにして、上と下に補助錠も付けてください。
意外と多いのが面格子です。アパートとかマンションで、廊下に面した台所、部屋に付いていますが、これはCP部品の面格子とそうでない面格子では、壊すのに大差があります。アルミか何かでできた面格子を壊してガラスを割るまで2~3分です。それに対してCP部品の面格子は5分たっても1本破れるかどうかというくらい頑丈です。 警察庁の「住まいる防犯110番」というホームページに、侵入犯罪の脅威など、いろいろな動画が掲載されていますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
赤外線パッシブ検知器、マグネットスイッチ、赤外線ビーム検知器といったものを付けると、外からの侵入があったら警報を鳴らすだけでなく、通報する自動通報装置というのもあります。登録しておけば機械が順番に通報してくれますから、そういうものを活用するのも1つの方法だと思います。

(i)警備業法

(定義)
第二条 この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
 一 事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
 二 人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
 三 運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
 四 人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
2 この法律において「警備業」とは、警備業務を行なう営業をいう。
3 この法律において「警備業者」とは、第四条の認定を受けて警備業を営む者をいう。
4 この法律において「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう。
5 この法律において「機械警備業務」とは、警備業務用機械装置(警備業務対象施設に設置する機器により感知した盗難等の事故の発生に関する情報を当該警備業務対象施設以外の施設に設置する機器に送信し、及び受信するための装置で内閣府令で定めるものをいう。)を使用して行う第一項第一号の警備業務をいう。
6 この法律において「機械警備業」とは、機械警備業務を行う警備業をいう。

(即応体制の整備)
第四十三条 機械警備業者は、都道府県公安委員会規則で定める基準に従い、基地局において盗難等の事故の発生に関する報を受信した場合に、速やかに、現場における警備員による事実の確認その他の必要な措置が講じられるようにするため、必要な数の警備員、待機所(警備員の待機する施設をいう。以下同じ。)及び車両その他の装備を適正に配置しておかなければならない。

(ii)https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/theme_b/b_d_1.html

4. テロ対策

アメリカのヒューストン市が作ったテロ対策の動画が参考になります。銃にしろ刃物にしろ、凶器を持った犯人が部屋の中に入ってきて、目の前にいる場面を想定した場合、一番最初に狙われるのは犯人に対抗しようとして武器を持っている人です。まずは逃げることです。自分の身の安全を確保した上で110番する。110番が早いほど応援が早く来ます。これはとても大事です。

ドアガードそれから、ドアガードで扉を開けたままにして風の通り道を作っておくことがありますが、この状態で昼寝でもしていたら危険です。ドアガード、ドアチェーンは外からはずされて簡単に入られてしまうということを覚えておかなければなりません。

5. 事務所の防犯対策・レイアウト例

では、具体的に皆さんの事務所を守るためにどういったレイアウトをしたらいいか、1つ例を示したいと思います。

図3 事務所レイアウト

まず、図3の事務所は、事務室、受付、応接室の3つにエリアが分かれていますが、一番大事な守るべきエリアは専用部エリアである事務室です。ここは何があっても部外者に入ってきてほしくない場所です。そのために何が必要かというと、カードリーダーです。受付の横の出入口にカードリーダーを付けます。応接室から事務室に入る所も相談者と弁護士は動線を分けています。次に守るべきが、準専用部エリア、つまり応接室です。最後に受付である共用部エリアとなります。
このように大きく3つに分かれますが、機械警備でこれを警戒する場合、最近はエリアごとに分割して警備セット・リセットできます。
そして、部屋の中に赤外線パッシブ検知器と、扉が開いたら分かるマグネットスイッチを付けます。防犯カメラを付ける場合は、まず外から一番最初に入ってきた所、共用部エリアの受付の所にカメラを付けます。ここにカメラを付ければ外から入ってきたときに事務所の中で110番できます。ですから、ここの入口のエリアは危険を察知する最初のエリアであり、とても大事なエリアなのです。

応接室はいろいろな人が来ますから、防犯カメラは必須かと思います。カメラがあると相談者の顔の動きを隣の部屋で見られて、すぐ応援に駆けつけられますし、事前に警察に通報することもできます。
要するに、入口に近い所、そして相談室に防犯カメラは必須だということです。

あとは、重要書類を盗まれても困るので、機械警備を警備会社と契約する場合は、パッシブセンサーとかマグネットスイッチだけでなく、防犯カメラも付けてください。少し費用はかかりますが、何かあったら非常押釦をトリガーにしてその時点の録画データを警備会社に「画像伝送」して、録画データを事務所以外の場所で保存して、後から検証できるようにしたほうがいいと思います。相談室で座る位置ですが、万が一出入口が一つしかない場合は、相談者の座る位置を奥(上座)にして、弁護士が先に安全に退室できるように出入口に近い方に座ります。これは一番逃げやすい場所ですから、守っていただければと思います。 図4

図4 相談室レイアウト

事務所のレイアウトは簡単に変えられます。オフィスメーカーのホームページで間仕切りを見られます。品物の価格はホームページに出ていますので参考にしてください。
具体的にどうしたらいいか分からないときは、防犯設備士や総合防犯設備士に見ていただくこともできます。防犯設備士だけでなく警察にも来ていただいて、一緒に防犯診断するということもとても大事なことだと思います。
青森県弘前市にある武富士が放火された事件では、事務所の奥に避難経路がなかったことで被害が大きくなってしまったということもあるので、事務所に出入口が1カ所しかない方は、何かあったら自分たちが出入口からすぐ逃げられるレイアウトを考えてください。

6. 防犯グッズの紹介

まずネットランチャー®というものがあります。同じメーカーで出しているリキッドランチャー®というものもあります。これは目つぶしのことで、催涙ガスみたいなものだと思ってください。しかし催涙ガスよりかなり性能はいいもので、非常に刺激が強いようです。

刺股はかなり訓練を必要とします。ちょっと気を付けてほしいのは、接近戦で使うようなスタンガンといったものです。これは、よっぽど訓練して慣れていないと、相手に取られたら自分がやられてしまいます。そういったことも考えた上で防犯グッズは選んだ方がいいと思います。

第2 弁護士と弁護士事務所・自宅をいかに護るか

平野 富義 一般社団法人 総合防犯士会 副会長 平野 富義氏

CONTENTS

  1. 理論値
  2. 具体的対策
  3. 防犯の具体的手法
  4. 過去の事例から得られる教訓

1. 犯罪理論(防犯対策の考え方)

(1) 犯罪原因論から犯罪機会論へ

①セキュリティ用語

セキュリティ用語を6つ紹介します。

第1に「セキュリティ」は、想定されるリスクに対して総合的に対策を施して、リソースを守り、安全で平和な生活と組織活動の継続を確保することをいいます。
第2に「リスク」は、安全で平和な生活と組織活動の継続を阻害する可能性または危険性のことです。リスクは、リソースの価値、脅威、脆弱性の結果として想定されます。
第3に「脅威」は、リスクを引き起こす事象または要因です。
第4に「リソース」は、安全で平和な生活と組織活動の継続を確保するために必要な資産です。
第5に「脆弱性」は、セキュリティ用語ではないですが、脅威が現実のものになったときに耐えきることのできないもろさ、弱さのことです。
第6に「被害」は、リスクが現実のものになったときに失われるリソースのことです。

②セキュリティ対象としてのリソース

セキュリティの対象であるリソースとリスクの話をします。まず根本的に守らなければいけないものに生活と組織活動があります。その次にリソースがあります。これらをリスクから守るためにセキュリティ対策をするわけです。
守る対象とそのリソースの話ですが、まず人、金、物です。物は貴重品、関連施設、設備、原料、製品といった有体物。それに対して無体物は、権利、信用、情報など。財産的価値のある権利、社会的・営業的信用、プライバシーを含む財産的価値のある情報です。

③セキュリティ対策の基本

セキュリティ対策の基本機能には、抑止から復旧、補填まで6段階あります。

第1に抑止です。これは、犯罪者に犯行の困難性を認知させて犯行を諦めさせること。
第2に検知、監視。設備、システムで継続的に監視し、犯罪行為の意図として不法侵入者や犯罪行為そのものを検出します。
第3に防御。犯罪行為が発生しにくい状態、犯罪行為を遅らせて発見しやすい状態、及び犯罪行為による被害を最小化する状態にします。
第4に拒絶。これは犯罪行為を不可能な状態にします。
第5に運用管理として、関係者、重要対象物、関連機器類、それから関連施設などをソフト面でマネジメントして、犯罪行為の早期発見、防御、抑止をします。
第6、最終的に復旧、補填です。犯罪行為が発生した場合、被害を復旧、補填し、継続してきた企業活動を速やかに再開できるようにする。補填できるものとしては、原材料、各種費用といったものがありますが、補填できないものが大変です。補填できない信用失墜、市場損失、開発費といったものを新たに構築するというのは大変な努力を必要とします。

(2) 危機管理について -発想の転換-

旧来は重大リスクによる緊急事態は防げると考えるという状況だったと思いますが、今日求められる対策としては、重大リスクによる緊急事態は必ず起きるという考えに立たなければいけないということです。
対応のタイミングは、事件後、後追い型対応が今までは一般的でした。しかし、これも事件想定予防型対応、すなわち起きるということを予測して事前に対応しておくことがこれからは求められます。

次に備えの形態です。一般的には、いつ発生するか不明な危機への投資より直接利益を生む分野への投資をし、防犯分野へ安心料として保険契約を締結することで十分だという程度の考えだったと思いますが、いったん事故・事件が起きると大変なことになります。保険で補填できない信用、市場損失といったものを取り返そうと思ったら大変な努力が必要になって損失も招きます。こういったことを認識して危機管理をするというふうに切り替えるべきです。
対策としては、従来は主に防犯警報装置を付けるというハード面が主でした。しかし、ハード面をいかに使いこなすかというソフト面も非常に重要になってきます。そして、いざ事が起きたときにはなかなかスムーズな対応ができないので、事前に訓練をしておく必要があります。

(3) 犯罪機会論

①合理的選択理論

次に犯罪機会論について簡単にお話しします。いろいろな理論がありますが、合理的選択理論を、1971年、ベッカーが提唱しました。犯行に及ぶかどうかの判断の3要素として1番目は犯罪の実行に際して要する費用に見合った十分な見返りがあるか。2番目に、逮捕され有罪となる確率が低いか。3番目に刑罰の重さに見合う成果が得られるか。こういうことを犯罪企図者は考えて犯罪を行うと言われています。

②防犯環境設計

防犯環境設計図5には、対象物の強化、接近の制御、監視性の確保、領域性の確保の4つがあります。防犯設計をする場合は、防犯診断をする前に環境の設計からやっていきます。

図5 防犯環境設計の4要素

いわゆる防犯性能の高いCP部品を使って、まず窓ガラス、錠前、面格子といった対象物の強化をします。そして接近の制御。塀、門扉、柵といったもので、できるだけ侵入に要する時間をかけさせます。攻撃を企てた場合、5分かかると約7割が諦めます。いかに5分間入らせないかということが積極的な防犯対策です。

あと、監視性の確保です。昔はブロック塀で頑丈な塀はいいとされていましたが、いったん中に入ってしまうと通行人から全く見えないので、最近の家ですとブロック塀はほとんど使われていません。足が掛からなくて中へ入りにくく通行人からいつ見られるか分からない、縦スリットのフェンスが一番望ましいです。植木は陰に隠れられると犯罪の温床になるので剪定する必要があります。
このような対策をしてから警備会社に依頼します。警備会社はこういったアドバイスをせずに、うちのシステムに入れば万全といったことを言うかもしれませんが、東京都23区の場合、発報信号が出て25分以内に現地へ駆けつければ警備業法上何ら問題なく、それで損害が発生しても警備会社は一切保障してくれませんから、まずこういう防犯環境対策が求められます。

それともう1つ、領域性の確保ということがあります。例えば、マンションでは、ここから先は関係者以外立入禁止という意味でタイルの色を変えるとか、立入禁止の表示とかいろいろな方法があります。それから落書きがあればすぐ消すようにします。ニューヨークでは地下鉄の落書きを消すことによってジュリアーニ元市長のときに犯罪が大きく減ったというのは有名な話です。こういうことをすることで防犯環境設計が完成します。

③割れ窓理論

割れ窓理論という1970年にウィルソンとケリングという人たちが考えた理論があります。

一見軽微な秩序違反行為が野放しにされると、それが、誰も秩序維持に関心をはらっていないというサインになり、犯罪を起こされやすい環境を作り出します。野原に車が1台放置されていて、あるときガラスが割れていました。そのうちガラスが全部割られて部品は持っていかれるという状況になりました。このようなことにならないよう、早いうちに芽を摘むということです。軽犯罪が起きるようになり住民が秩序維持に協力しなくなれば、一層の環境悪化につながります。そして、凶悪犯罪を含めた犯罪が発生するようになってしまうのです。

秩序を回復するには、一見無害で軽微な秩序違反でも取り締まることが有効です。ニューヨークでは警察官を大量に採用して、すぐに落書きを消し、軽犯罪でもどんどん取り締まりました。警察官によるパトロールも強化しています。そして地域社会は警察官に協力して秩序の維持に努めるのです。

(4) 状況的犯罪防止理論

状況的犯罪防止理論のひとつとして犯行達成への媒介物をなくすことがあります。これは、犯行を遂行するための努力を増加させる、時間をかけさせるということにつながります。

(5) 犯罪理論の応用

犯罪理論の応用で、犯罪者の視点で考えるということですが、どのような犯罪をいつどこで行うかは、当然ながら犯罪者が決めます。一般的に、犯行の結果、逮捕されることを犯罪者は避けたいです。対象の選定、接近及び逃走の経路、方法、成果の見積もり、成功の確率といったことをまず考えます。次に、犯行の実行の際、捕まらないために犯罪者にとっての安全を十分確認します。我々としてはこういう犯罪者の思考から防止策を考えることが有用です。

2. 具体的対策編

(1) 侵入窃盗者が嫌うもの

まず犯人は、侵入に時間がかかることを嫌います。5分かかると7割が諦めます。10分かかると9割が諦めると言われす。CP部品は5分以上耐えるものに対してCPのマークを与えたものですので、これらを使うのが効果的であることが分かります。
それから光に照らされることも嫌います。これは、夜間、例えば侵入警報装置を付けることで対応可能です。忍び込んできたときに回転灯が回り出したり、電子サイレンが鳴り出したりすると犯行を断念します。
人の目も嫌います。監視されることですね。防犯カメラも人の目と考えていただいていいと思います。

時間がかかること、光、音、人の目。この4つは侵入窃盗者が嫌うものとして有名です。

(2) 犯行を諦めさせる環境作り

1番目に声掛けの習慣化です。隣近所で声掛けをすることによって、犯罪企図者はぎくっとすると言われています。それと、この地域は防犯に力を入れているということで犯罪企図者は敬遠します。
2番目には環境浄化です。清掃、整理整頓ができていると、この地域はきちっとしているということになって犯行しにくいということになります。
3番目に運用管理です。防犯上のルールや動線管理などのルール作りです。町内会とか、1つの企業の中でルール作り、動線管理をきちっとやることです。
4番目に防犯設備・防犯システムです。予算に応じて適切な設備やシステムを導入すること。こういったことは、我々総合防犯士会にご相談いただければ対応させていただきます。
5番目に内外への告知です。犯罪を起こさせない意思表示です。防犯カメラを設置する場合はその旨を必ず書かなければいけないことになっており、「防犯カメラ設置中」の表示が重要です。管理者も明確に表示しなければいけません。また看板の表示も工夫する必要があります。「住民の皆様のご協力で痴漢を逮捕できました、ありがとうございました。」という表示は、「痴漢に注意」という看板よりもはるかに効果があります。

(3) 防犯対策の構図

犯罪が起きる条件というのは、犯罪機会論では、犯意のある行為者(犯罪企図者)がいるかどうか、格好なターゲットがあるかどうか、抑止力のある監視者が不在かどうか(人が誰も見ていないか、防犯カメラが付いていないか。)、この3つがそろえば犯罪が起きる可能性が高いと考えます。このうちの1つでもなくなれば犯罪発生確率は少ないということです。
昔は犯罪原因論が主流で、人さえいれば犯罪が起きると言われていました。今は、いくら犯罪企図者がいても、こういう機会がなかったら犯罪は起きないという犯罪機会論が主流です。
これも防犯環境設計と関係があります。対象物の強化、接近の制御、それから監視性の確保、領域性の確保。こういったものと関係しているということです。同一時間、同一区間でこの3つの要素が重なった場合に犯罪が起きやすいということです。

3. 防犯の具体的手法

(1) 怪しい者は事務所に入れない

一般の家はフェンスもない家が非常に多いです。その場合は第2警戒線、建物の外周できっちり守りましょう。1ドア2ロック。防犯の具体的な手法としては、怪しい者は事務所に入れないことです。もっとも、怪しい者というと判断が非常に難しく、具体的には皆さんの事務所でどう対応するかという話になりますが。
出入口は常時施錠。そして、まず録画、録音ができるインターホンで対応します。用向きを聞いて予約があって入れるべき客なら迎え入れて対応します。
入れるべき客は遠隔で電気錠を解除します。迎えに行ってもいいです。それから、できたら打ち合わせ室をとって、いきなり事務室ではなく打ち合わせ室に通します。そして、客は奥、応対者は出口近くに着座します。危険を感じたら応対者は部屋を出て110番通報する。場合によっては打ち合わせ室を外から施錠することができるように。これはいろいろ問題があるかと思いますが、中で暴れ出したりした場合はそういう対策も必要になってくると思います。
それから、不審な荷物を持ってきた人は事務所内に入れないようにします。ガソリンや凶器を持っているかもしれません。判断の難しいところですが、こういった配慮も必要になってくるかと思います。
可能であれば、事務所の外側に、"異常が発生したときに外部に110番通報してください"といったものを表示します。もちろん予め近隣の方とよくお話をしておく必要があります。

(2) 自宅での対応

自宅での対応ですが、事務所とあまり変わりません。玄関は常時施錠です。防犯優良マンション認定制度というマンションの防犯認定制度もあります。ドアチェーンを掛けたまま対応するというのも非常に重要になってきます。
ここでも来客は打ち合わせ室に通して対応します。自宅の場合は難しいですが、取れるようでしたらこういった対策をしていただきたいと思います。あとは全て事務所と同じです。

(3) 犯罪者の心理

簡単に入り込めて、確実に盗めて、捕まらない、泥棒はこの3つがそろった家を探します。防犯はこれの逆をやればいいということになります。
簡単には入れない、入っても持っていく物はない、下手したら捕まる。こういう条件を作ることが防犯対策です。最近の泥棒はスーツ姿か作業服姿が非常に多いです。泥棒は必ず下見をしていると警察が言っています。そのときに、こういう服装なら会社員が市場調査しているのかと見逃してしまうこともあるでしょう。

泥棒はインターホンで留守かどうかということを確認します。だから、インターホンが鳴った場合、居留守を使わずに出た方がいいです。断るなら断るという対応をすれば足ります。

それから、2階のバルコニーがコンクリート製だと、そこに泥棒が潜んでいても分かりません。今、侵入手口として多いのは窓です。錠前が強くなったからです。ピッキングに強い錠前になりました。錠前を攻撃するよりは窓を攻撃する方がはるかに早いです。それと無施錠のところが結構あります。無施錠を知っていてそこから入ったのでなく、物色していたら無施錠だったため、そこから入るというケースです。

近所の人にじろじろ見られて諦めるというケースがあります。また、犬がいて、警備会社のマークがあって諦めたという事例もあります。ここから分かることは、やはり各自が防犯対策をしてから警備会社に依頼するべきということです。なお、犬は対策として万全ではありません。

繰り返しになりますが、一番大事なことは時間をかけさせることです。防犯ガラスにするとか、防犯フィルムを貼るとかして、侵入に5分以上時間をかけさせます。そして、侵入された場合にはセンサー付きライトやセンサー付きサイレンで威嚇します。中に入らせないことです。中に入ってきて顔を合わせると強盗に早変わりするという可能性もありますから、そのあたりは注意が必要です。

(4) 打ち合わせ室の工夫 -対策機器など-

緊急時、打ち合わせ室内に一気に多量のスモークを発生させて前を見えなくするというアイテムがあります。天井がオープンでない部屋では効果があると思います。
それから、緊急時のネットガードもあるとなおよいです。

図6 ネットガード

ネットランチャー®は手で持つもののほかに、壁や天井に付けるもので犯罪企図者を網で包んでしまうものもあります。

あとは、打ち合わせ時にホイッスルを持っておいて、笛を短くピッピッピと吹いたら侵入者が来た合図というようなことを決めて笛を吹くという方法があります。防犯ブザーも有効でしょう。
そして、相談相手と弁護士の距離はできるだけ離すようにします。凶器になるものは机上に置かせないことも大事です。

(5) その他の注意事項

一人歩きのときは時々後ろを振り返って尾行者がいないか確認してください。帰宅時に自宅に近づいたときにも尾行者がいないかを確認してください。それから、危険を感じる場所では防犯ブザーをいつでも鳴らせる状態で歩いてください。鞄は、たすき掛けがいいです。
マンションでは、尾行者がいた場合、オートロックを通過したときに後ろに人がついてきた場合、いきなり郵便受けに行かないようにします。郵便受けに行ったら何階の何号室だということを見られる可能性があるからです。その場合は、どこか上階へ行くとか、待避するということも重要だと思います。
それから護身用催涙スプレーを携行するという方法もあります。ただ、警察はこういう能動的なものは嫌います。相手に取られたら自分が被害を受けかねないからです。このへんは非常に難しいところです。

4. 過去の事例から得られる教訓

最後に、過去の重要犯罪の分析と対策を考えます。ここでは松戸の女子大生殺害放火事件と、京都アニメーション放火殺人事件に触れます。

まず2009年10月22日に発生した松戸の女子大生殺害放火事件です。被害者は2階に住んでいました。建物の外には物置小屋のようなものがあって、ここへ登れば2階のバルコニーに簡単に入れました。我々は、対策としてバルコニーに忍び返しを付けるとか、バルコニーに登るための足がかりになるような物があった場合には、できれば移動して上がれないようにするようにとアドバイスをします。それと、マンションのバルコニーは1ドア2ロックにすることもおすすめしています。この事件発生時は2階の掃き出し窓を施錠しておらず、そこから入られて放火されました。
もう一つ考えられる対策として、バルコニーに入られたときにセンサー付きライトで威嚇するというのがあります。しかし、これは夜でないと効果がありません。なのでセンサー付き警報器を付けるという方法もあります。
それから、教訓として、2階のバルコニーの掃き出し窓のクレセントは必ず施錠することです。手で外せるロック付きクレセントは、ガラスを割って手を突っ込んでロックを外されたら開くのであまり効果はありません。そのため、鍵付きクレセントにするか、下の方に補助錠を付けます。そうすると2カ所割らなければいけないので、5分ぐらい耐えることができます。ロック付きクレセント1個だけではあまり効果がないですし、しかも、これを施錠していなかったらどうしようもないです。

次に2019年7月18日に発生した京都アニメーションの事件です。これは、当日10時半頃京アニ第1スタジオに犯罪企図者が入ってきて液体をまき散らして放火しました。スタジオが爆発、炎上して3階建ての建物が全焼したという事件です。
建物の入口には、普段はセキュリティロックが掛かっていましたが、このときは来客があるので開けていたということです。来客時に時間を限定して開けるべきだったと思います。
それから建物の入口のセキュリティロックは常時オンにしておくことです。特に、この事件では恨みを持つ人物がいる可能性があったのだから、有している設備は有効に使うべきだと教えられたと思います。

今日我々がお話ししたことが1つでも2つでもお役に立つようになることを祈っております。何かありましたら、ぜひ我々の方にご相談いただければと思います。

第3 質疑応答

防犯設備士と総合防犯設備士は違うのでしょうか。

違います。防犯設備士は、防犯システム、防犯設備の設計、施工が一般的な仕事です。総合防犯設備士は、その防犯設備が適切に運用されているかどうか監査する仕事もします。

相談料の価格設定はありますか。

価格設定はありません。毎年3月のセキュリティショーでは無料で防犯相談を受けることができます。そのほかに、例えば商店街だとかマンション、そういった地域的な要素が強い場合、所轄の警察署に相談していただければ、警察経由で防犯診断、相談に乗るということもあります。

CPガラス、CPフィルムの価格は?

ものによって違うので、業者にご相談いただければと思います。

事務所の中の間仕切りがない場合、本棚とかカーテンで対応できますか。

もちろんできます。効果はあります。要は犯人から死角になって向こうが見えなければいいのです。

防犯フィルムの件で、CPマークがないものでは効果はないのでしょうか。

CPマークがないものは防犯建物部品として認証されていないので、多少の効果はあるかもしれないということしか答えられません。

雨戸は効果がありますか。

雨戸のCP部品はシールを貼っていないのもありますが、雨戸を閉めるだけでも多少の効果はあります。

玄関のチェーンの使い方について教えてください。

なるべく玄関はチェーンをしたままにして開けた方がいいと思います。荷物を受け取らなければならないときは、物を外に置いてもらってチェーンをしたまま押印だけするのがベストです。

防犯カメラを設置する際の注意点を教えてください。

ダミーカメラと本物のカメラを見分ける ことは、プロの犯罪者は多分できます。ですから、付けるのであれば本物のカメラの方が効果があると思います。あと、防犯カメラを付けてもいたずらされたらだめです。地上から数メートル高い位置で、いたずらされない場所に付けることを推奨します。
また、防犯カメラのID、パスワードを、オリジナルの設定をせず、メーカーの初期のままにしておいたために勝手にインターネット上で侵入されて、その映像を海外からも見られたということがあります。必ず、IDやパスワードは変更しましょう。