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東京家事調停協会と 弁護士会との意見交換会

【家事法制に関する委員会 副委員長】
中本 有香 Yuka Nakamoto(61期)

2022年6月29日午後4時より午後5時30分まで、弁護士会館において、東京家事調停協会と弁護士会との意見交換会が開催されました。

意見交換会の開催趣旨と参加者について

本会の開催趣旨は、家事調停事件に関し、手続代理人となる弁護士と、家事調停委員との情報交換により、認識を共有し、相互理解を深め、家事調停のよりよい運用を目指すことにあります。東京家事調停協会と弁護士会では、今回が初めての開催となり、弁護士会より8名(東弁、一弁の会員を含む)、東京家事調停協会より13 名の調停委員が参加しました。東京家事調停協会会長の山崎雄一郎先生(東弁会員)の開会挨拶から始まり、終始和気あいあいとした雰囲気で意見交換がなされました。

意見交換のテーマについて

本交換会においては、まず、前半の50分間で、弁護士2名、調停委員3〜4名から構成される4組のグループに分かれ、以下の三つのテーマにてグループ討論を行いました。

  1. 各人が調停で気を付けていること、感じていること
  2. 調停委員から弁護士に対し、又は弁護士から調停委員に対し、日頃感じていること、聞いてみたいこと
  3. 調停運営について(工夫や課題、ウェブ調停実施の感想、調停全般について思うこと)

後半(30分間)のグループごとの発表において、テーマごとに次のような意見が出ていましたので、ご紹介します。

テーマ1「各人が調停で気を付けていること」について

【代理人弁護士として気を付けていること】

  • 調停の場でどんな話をすればよいのかということを想定しながら、調停前に、当事者と向き合い当事者の話をしっかり聞く。
  • 調停委員の進め方について、なぜそう進めるのかを推察し、進め方に敬意を払う。
  • 迅速に進めてほしい場合(申立人側等)と当事者の理解と説得に時間を要する調停がある(相手方側等)ことを調停委員にも理解してほしい。
  • どうやったら調停をまとめられるか、その事件の肝が何か、どこが争点で、どこを押さえれば進むのかということを正確に把握しながら進める。
  • 調停でどこまで解決できるのかの見通しを依頼者と共有してから調停に臨む。

【調停委員として気を付けていること】

  • 相手方の意見を調停委員の意見と誤解されないように、伝え方に配慮する。
  • 調停は当事者間の合意の手続であり、調停委員会が判断することはできないことを当事者に最初に明確に伝え、また、続行期日においてもことあるごとに伝える。
  • 相調停委員と役割分担をし、連携しながら調停を進める。
  • 調停委員、代理人、調査官、裁判官、書記官で一つのチームとして協力しながら調停を進める。
  • 当事者がヒートアップしている場合などは、その理由を把握するように努める。
  • DV事件での接触リスクに配慮する。
  • 不成立になったとしても、申立てをしたときよりは一つ前に進めたと当事者が感じて帰ってもらえるように意識している。

テーマ2「相手に対し、日頃感じていること、聞いてみたいこと」について

【調停委員から弁護士に対して】

  • 代理人から、当事者にどういうところを聞いてほ しいのか伝えてもらえるとよい。
  • 期日間にも依頼者に連絡を取り、相手方代理人とやり取りをしてくれる代理人はよい代理人と感じる。
  • 代理人が進行に非協力的で、期日が空転してしまうケースがある。
  • 書面が期限どおりに提出されず、直前や当日に提出され、困っている。
  • すぐに審判移行を主張する代理人がいる。
  • すぐに調査官調査を求める代理人がいるが、調査のタイミングなども重要であることを理解してほしい。
  • 電話会議の場合、代理人が主で話していると当事者の様子や意見が分かりにくい場合がある。
  • 調停委員に対し、威圧的に接する代理人がいる。
  • 裁判官が調停室に入ってくると態度が変わる代理人がいる。
  • 弁護士報酬の仕組みについて知りたい。

【弁護士から調停委員に対して】

  • 話を聞いてほしいと思って初回の調停に臨んでいる当事者に対して、事案の把握などを重視するあまり、調停委員が話を聞いていないと感じることがある。
  • 書面については、訴訟などが想定される場合には、調停段階で書面を出すことに慎重になるケースもある。
  • 養育費に関する調停はスピード感をもって進行してほしい。
  • 嘘が上手な当事者について、調停委員は、嘘かどうかまでは判断できないだろうが、ちょっとした動作や言動で人となりが分かることはある。
  • 威圧的な調停委員もいる。
  • 調停委員同士の仲が悪いケースもある。

テーマ3「調停運営の工夫や課題」について

  • 代理人としては、評議の時間を短縮してほしいと感じるが、調停委員としては、評議の順番待ちがあり、短い評議時間で裁判官に状況を伝え判断を仰ぐといった対応を無駄なくやっている状況であるため、短縮が難しいのが実情である。
  • 裁判官が入ってくると態度が変わる代理人や調停委員に対し威圧的に接する代理人がいるが、依頼者を納得、説得するためのパフォーマンスで行っているケースもある。
  • 代理人として調停委員に当事者の説得をしてもらえるとありがたいケースがある。
  • 調停委員としては、代理人と共同関係を築き、調停の成立に導きたいと考えている。
  • 電話会議よりウェブ会議の方が表情などが見えるのでよいのではないか。
  • ウェブ会議は裁判所に行かずに済むという点でDV事案にも有効である。
  • 調停委員は、事件が配点されたらまず一度記録を読み、期日の1週間前にまた記録を確認して調停に臨んでいる方もいる。
  • コロナ禍による時間短縮で、進行の工夫がなされ、迅速に進むという良い点と、話を聞く時間が短くなって不満があるという悪い点がある。
  • 陳述書に感情的なことが多く書かれている場合、調停の進行を阻害するケースがある。

継続的な意見交換会の実施を目指して

上記のような意見があり、調停委員からも、弁護士からも、これまで相手がそのように考えていたことについて、知らなかったことを知ることができてよかったという感想が多くありました。
最後に当会菅沼会長より「家事事件が充実するということは、市民にとって非常に大事なことであり、そのためには、調停委員会の重要構成メンバーである調停委員の先生方と、当事者の代理人として関わる弁護士がお互いにうまく役割を果たしながら、当事者本人の気付きや、解決に向けての気持ちの整理を促していき、本人達が解決できるようにサポートしてくことが大事」というお話がありました。
今回が第1回であり、試験的な小規模の開催となりましたが、調停委員と弁護士の相互理解を深め、よりよい調停の実施を目指すため、今後も継続的に意見交換会を実施したいと考えています。