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山椿

NF202212_Yamatsubaki%20.jpg●木内 秀行 Hideyuki Kiuchi(47期)

企業内弁護士が持つべき資質と理念
~「やっぱ最後は人権よ」

私が2008年12月より企業内弁護士として執務を始めてもう14年になる(外務省での公務員としての執務を入れると16年)。この間、石油会社、証券会社、エンターテインメント会社、電子機器会社、損害保険会社など、様々な業種の企業での執務経験をした。

我々弁護士は、日々の執務を通じ、①法律や契約条項の制度趣旨を把握し、その意味内容や適用範囲を解釈した上で必要に応じたアドバイスや文書作成ができること、②憶測ではなく証拠や事実から経験則と常識に基づき事実を認定・判断できること、③複雑な事案から問題点を整理し、論理的に解決策を提示できることという、広い意味での法的知見を職業上意識的・無意識的に身に付けている。そうした広い意味での法的知見は業種を越えて要求されていることから、私は様々な業種で働くことができたのだと考える。

企業内弁護士は、法律家と同時にビジネスマンという役割を果たす。すなわち、企業内弁護士は、単に案件への法的アドバイス提供のみならず、企業の業務遂行の一員として業務に直接従事し、役割分担に応じ直接責任を負担する。
そこでの代表的な役割には、リーガルリスク等の様々なリスクから企業を守る「守護神」としての役割、法務に軸足を置きつつも法務から踏み出したところで業務上の問題点につき打開策を提供し、業務を前進させる「機関車」としての役割、そして法務というプリズムを通じて、企業全体を俯瞰的に見渡して問題点・解決策を企業にフィードバックし、サイロ化しがちな企業諸部門をつなぐ「ハブ」としての役割がある。

これらの役割を果たすには、上の「広い意味での法的知見」が必須である。加えて、企業の業務は多くの人々が関与して動かされていることから、企業内弁護士は様々な職務や個性を有する企業内外の人々と日々接する。それゆえその人々と円滑に意思疎通して関係者を動かし業務を前に進めるための「コミュニケーション能力」が必須である。さらに、社長など会社経営陣を含め、会社のあらゆる人々に臆さず伍して、ぶれずに正々堂々と正論を主張し議論するための「胆力」が必須である。これらの役割を果たす上での「覚悟」といってもいい。若手の方々には「胆力」はなかなか難しいかもしれないが、企業内弁護士として成長する過程で是非胆力をつけてほしい。

企業内弁護士が職務遂行するにあたりその根底にあるのが「人権擁護」であり、それが単なる「ビジネスマン」と企業内「弁護士」の分水嶺である。弁護士が担当する人権擁護の領域は広大無辺で、弁護士間で役割分担が必要であるが、企業内弁護士は人権擁護を企業において実現する役割を担っている。「ビジネスと人権」がクローズアップされて久しいが、企業内弁護士がこれを担うにまさにふさわしい。企業で働く全ての人々が人間らしく働けること、企業が提供する財やサービスを安心して人々が享受し、企業の利害関係者 の合理的な期待を裏切らずに企業が社会貢献できること、そして企業が人権侵害行為に手を貸さないことを担保すべく企業内弁護士は執務すべきものと考えており、かつそうした価値観が企業内弁護士全体で共有されることを願ってやまない。