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福祉職との連携のススメ

磯野 清華 Seika Isono (61期) / 瀨野 泰崇 Yasutaka Seno (65期)

第1部 なぜ連携するのか

福祉職との連携の意義は何でしょうか。障がい者や高齢者が当事者である事件に特有のものなのでしょうか。決してそうではありません。連携の意義、それは福祉職の方と連携することにより被疑者被告人(以下「被告人等」とします。)の生活環境等を改善することで被告人等の生きづらさを少しでも和らげ二度と犯罪行為に及ばないようにすること、そしてこれを弁護活動として行うこと、これに尽きます。障がいを有していない方でも生きづらさを抱えている方は多く、これらを解消するために福祉との連携は重要です。

人が犯罪行為に及ぶには様々な原因があります。そしてその原因が社会的環境や本人の特性にある場合、その原因を理解し原因に対する対策を施すことで再犯の防止に役立ちます。情状弁護という弁護活動においては、原因の理解は犯罪に至る動機・経緯という点で犯情事実に関する主張につながりますし、原因に対する対策は再犯の防止という点で一般情状に関する主張につながります。このように公訴事実に争いのない事件において福祉職との連携を検討する場面は実は多いといえるでしょう。
それでは具体的にどのように連携していけばよいのか、説明します。

第2部 手続きの流れ

福祉職との連携といっても、福祉職の方と個人的なつながりを持っている先生は少ないでしょう。そのため弁護士会では弁護人に福祉職の方を紹介する制度を設けています。この手続きについては以前刑事事件に関するマニュアル改訂の際にも触れましたが、今回も触れます。まずは当会会員サービスサイトの「弁護士業務➡刑事弁護援助基金➡社会福祉士・精神保健福祉士との連携及び援助制度」に進んで相談依頼書を入手し、必要事項をできるだけ具体的に記載して人権課に提出してください(FAX提出可)。提出から数日後、担当の福祉職の方が決まり、個々の弁護人に連絡が入ります。その後は福祉職の方と個別に連絡を取り、まずは初回相談をしましょう。そこで弁護人が感じた被告人等の特性や問題性を福祉職の方に話し、どのような援助が可能なのかについて話し合ってください。なお、福祉職の方は別に職を持ち、日中はそちらの仕事をしている場合が多いです。そのためスケジュール調整は柔軟に行ってください。

その後福祉職の方は個別に被告人等と接見を行い、それに基づいて環境調整を行います。この間弁護人としては完全に福祉職の方に任せきりではよくありませんが、逐一報告を受けなくとも全体の把握ができていればよいでしょう。ここで重要なのはスケジュール管理です。更生支援計画を作成するには接見等含め通常1か月程度かかります。また福祉職の方の面会時間は多少長いものの一般面会扱いになるため頻繁に面会を行う必要があります。そのためもし被疑者段階で何としても終わらせたいと考えるのであれば、福祉職の方に相当負担をかけることになるので、可能な限り速やかに相談依頼書を出し、初回相談を行い、スケジュールがタイトである旨を告げましょう。被告人段階で行うとしても、公判のスケジュールを確認し早目に動きましょう。

こうして福祉職の方が更生支援計画を作れればそれを、更生支援計画を作れないような事情があれば環境調整の報告書という形で証拠として公判に提出することになります。さらに必要に応じて福祉職の方に証人として法廷で証言をしてもらうことも検討しましょう。

事件が終わると、福祉職の方の費用の清算を行います。国選事件の場合には、弁護士会からこの費用について支出がなされます(原則5万円、特に必要と認める場合には10万円。)。福祉職の方から請求書を受け取り、国選弁護人等援助金支給申請書とともに弁護士会に提出してください。なお、福祉職の方からの請求額が援助額を超えてしまうのではないかとの心配を抱く先生方がいらっしゃると思います。しかし、本原稿執筆時(令和4年8月)においては、国選事件の場合には請求書記載の金額が援助額を超えても弁護士会からの援助額を弁護士が福祉職の方へ支払えばよい旨、社会福祉士会から表明されています。したがって、弁護士会からの援助額をお支払いください。

また、福祉的関与を弁護人が行った場合、一定の条件の下で3万円を上限として弁護士費用の援助が弁護士会からなされます。これも積極的に利用してください。

第3部 具体的な事案

ここからは具体的な事案を2つ紹介します。

1. 強盗致傷事件

1つ目の事案は、被告人が氏名不詳者らと共謀の上、2人で雑居ビルにある携帯電話の買取業者に強盗のために押し入り、殺虫スプレーを店員にかけて金品を強取しようとしたが店員の反撃にあい目的を遂げず、逃げようとしたところ現行犯逮捕され、その際に店員にけがを負わせたという強盗致傷事件です。

私たちは、被疑者段階で国選弁護人に選任されました。選任の際、被疑者は、特に障がいを持っているという話は聞いていませんでした。接見を重ねるうち、本件犯行に至る経緯が理解しがたいこと(経済的に困窮していないのに税金を支払うために闇バイトを検索して犯行に及んだ。)や本人が本質的ではない些末なことに強いこだわりを見せるということが何回かありました。そこで私は本人に何かしらの障がいがあるのではないかと考え起訴後に臨床心理士に意見を聞くとともに、今後の本人の生活を立て直すためにどうしたらよいのか社会福祉士に協力を仰ぐことにしました。
臨床心理士とも連携したのは、障がいの可能性があるかないかを判断するためです。臨床心理士は障がいの有無・内容についての医学的な診断ができないので、もし障がいの可能性だけでなく、確定的な診断まで弁護活動で必要ということであれば医師に鑑定を依頼する必要がありますが、本件では障がいがあったとしても軽度のものであろうと考えられたため医師の鑑定まではしませんでした(なお、医師の鑑定についても弁護士会には援助制度があります。)。臨床心理士との連携の結果、被告人は発達障がいの可能性があることが分かりました。

そこで公判では、本件犯行に至る原因として本人の一般とは異なる考え方(障がいと診断されない以上障がいとはいえませんでした。)があったこと及びこれまでその特性について周囲から指摘されることもなかったことを主張し、今後の環境調整については速やかに医師の診断を受けるとともに福祉の援助を受けながら生活していくことを主張しました。前者については臨床心理士の報告書を提出、後者については更生支援計画を証拠として提出した上で作成した社会福祉士が法廷で更生支援計画の内容について説明をしました。

最終的には、起訴後被害者との間で示談が成立していたこともあり、求刑の半分以下の懲役刑が宣告されました。

2. 現住建造物等放火未遂事件

2つ目の事案は、団地に住んでいた被告人が団地内でのトラブルを発端として同じ団地の被害者宅の前に灯油をまいて放火したがドアが少し焦げただけで消火されたという現住建造物等放火未遂事件です。

被疑者は高齢であり、本件犯行当時のことについて全く覚えていませんでした(晩酌をして寝て、起きたら警察が家に来ていたという供述。)。実際に接見をしても前回話したことを覚えていないといったことが多々あり、本人の記憶能力に疑問を抱きました。また、本人が認知症の薬を服薬していることが分かりました。そのためだとは思いますが、勾留満期前に鑑定留置となりました。その後3か月ほど鑑定留置に時間がかかり、最終的には完全責任能力ありとして起訴されました。

本件でも起訴後に福祉職の方と連携することにしました。当初は責任能力について心神耗弱を主張して争うことも考えていたため、知り合いの医師に鑑定書に対する意見を求めるとともに、責任能力があったとしても今後の生活、つまり団地内で生活できるのかそれとも違うところに引っ越した方がよいのかについて考えるために社会福祉士に協力を依頼しました。

責任能力については、鑑定書には問題がないとはいえないものの心神耗弱とまではいえないという医師の見解が得られました。そのため公判では、犯行に至る経緯として団地内での長年にわたるトラブルがあったこと、そして今後の環境調整として団地を出ていき福祉の援助を受けながら生活をしていくということを主張することにしました。本件では様々な事情により更生支援計画を作成することができませんでしたが、社会福祉士がした環境調整の結果を報告書にまとめ、これを証拠として提出しました。判決は執行猶予付きの判決でした。

第4部 判決後の関わり

ここからは少し話題を変え、判決後の弁護人の関わりについてお話をします。弁護人は判決が確定すると弁護人ではなくなります。そのため、どうしてもその後に被告人がどのような生活を送るのか、それについて弁護人がどのように関わることができるのかについて興味が薄れることがあります。しかし福祉職の方は判決が確定して終わりではなく、むしろ被告人等が社会復帰してからが本当の関わりの始まりとなります。そのため、判決確定後しばらくした頃に福祉士から連絡が来るときもあります。その際にはもう弁護人でないからという姿勢ではなく、できることがあればぜひ積極的に関わっていただきたいです。

なおこの点、今年の10月から当会では寄り添い弁護士制度が開始されます。これは帰住先の確保や生活保護の申請、家族や就労先との関係調整等に弁護士が関わった場合に弁護士会から費用が支出されるものです。これまでこの活動は弁護士が手弁当で行ってきましたが、今後は弁護士会からの援助もあるので、ぜひ活用してください。

もうひとつ、判決後の弁護人の役割として忘れられがちなものがあります。それは更生支援計画の引継ぎです。現在東京三会では、被告人のために作成した更生支援計画書について、被告人の同意を得た上で東京拘置所に提出することにより矯正施設へ引き継がれるという運用がなされています。なお、これは、公判で証拠採用されていない更生支援計画でも引き継げます。しかし残念なことに作成された更生支援計画を弁護人が拘置所に提出していないため、矯正施設へと引き継がれていないケースが散見されます。せっかく被告人のために弁護人や福祉職の方が時間と労力をかけて作成したものですから、ぜひ引継ぎをお願いします。また、この制度は現在東京でしか行われていませんが、今後全国的に展開されることが予定されています。全国的に展開するに際しては東京での実績というものも重要視されますので、この点からもぜひご協力ください。

第5部 終わりに

福祉職と連携するというと、手続きが複雑で手間がかかるイメージがあるかもしれません。しかし実際には、環境調整などこれまで弁護人が手弁当で動いてきた部分を専門家である福祉職の方が担ってくれることで弁護人の負担が軽くなると共に、環境調整のクオリティも高まります。また国選であれば費用の心配もいりません。もちろん本人が更生支援計画どおり動いてくれない、社会復帰後連絡が取れなくなってしまうなどうまくいかない場合もありますが、多くの場合、公判での情状弁護における主張だけでなく本人の生きづらさを解消し再犯の恐れをなくすという大きな効果があります。ぜひ福祉職との連携が可能なケースであれば積極的に連携を取ってみましょう。