出版物・パンフレット等

家事事件の基礎と実践

Keiko Omori
大森 啓子(56期)

【略歴】
2003年 弁護士登録
2006年 金融庁証券取引等監視委員会 事務局課徴金・開示検査課勤務(~2009年)
2013年 日弁連家事法制委員会事務局長(~2022年)
2014年 フローラ法律事務所開設
2014年 東京家裁家事調停官(~2018年)
2018年 東京家裁家事調停委員
2019年 当会家事法制に関する委員会 委員長
2019年 法務省法制審議会民法(親子法制)部会幹事(~2022年)

はじめに

今回の研修は基礎一般研修であり、家事事件の基礎として最低限知っておくべきことを網羅するよう意識しました。同時に、弁護士会や代理人としての経験、家事調停官や家事調停委員の経験を通し、最新の議論や実務運用にもできる限り触れて有用なものとなるように努めたいと思います。なお、本日お話しする内容は個人的な見解となる部分も多く含まれることに留意願います。

1. 最近の家事分野をめぐる動向

事件数の増加

家事事件の事件数は、司法統計によると総じて高止まりあるいは増加傾向にあります。特に増加傾向が顕著な事件類型は、審判、調停共通ですが、婚姻費用、子の監護者指定や面会交流といった子どもに関する事件となっています。増加の背景にあるのは、国民の権利意識の高揚や家族観の変化にあると言われています。

高葛藤化、複雑困難化

これらは様々な文献で、最近の家事事件の傾向としてよく指摘されています。高葛藤化の背景は増加傾向と共通します。また、再婚などを含めたいわゆるステップファミリーにおける紛争や、夫婦関係調整調停に加えて婚姻費用や子の監護者指定、面会交流も申し立てられるなど、複雑困難な事案も増えていると言われています。

弁護士受任率の増加

手続代理人の受任率が増加している背景としては、国民の権利意識の高揚や事案の高葛藤化、複雑困難化に加えて、弁護士人口の増加ということも挙げられます。
これまで家事事件を扱ってこなかった弁護士が近年は扱うようになったという話もよく耳にします。
弁護士登録をして日の浅い若手の弁護士に限らず、中堅やベテランの弁護士も家事事件について、改めてしっかり学んでいかなければいけない状況にあると言えます。

2. 手続代理人に求められること

正確な知識(法制度、実務)

民事訴訟、民事事件は全ての弁護士が、司法試験や司法修習などで一通りきちんと勉強や研さんを積み、多くの弁護士は実際に経験もしています。
それに対して家事事件は十分に勉強や研さんがなされているかというと、そうではありません。必要な知識などについては、各人の研さんによるしかありません。
その結果、ばらつきが非常に大きいというのが率直な現状であり、代理人の知識不足が実際の事件の遂行において支障となることもあります。きちんと研さんを積んで正確な知識、法制度を押さえていくことが、最低限必要になります。
家事調停1つ取っても、夫婦関係調整や親族間紛争などのいわゆる一般調停事件と呼ばれるものもあれば、婚姻費用や面会交流などの別表第二事件の調停事件もあります。嫡出否認や強制認知など合意に相当する審判の対象となる人事関係事件もあります。それぞれ、手続が違いますので、正確に理解しておく必要があります。
用語についても正確に押さえる必要があります。「手続代理人」という言葉は家事事件手続法によって新しくできた用語です。また、家事事件手続法では審判事件について別表第一事件、別表第二事件と分類していますが、いまだに昔の家事審判法の甲類、乙類という言い方をする代理人を見かけることがあります。
また、訴訟委任状をそのまま家事調停事件で提出する代理人も時々います。家事事件手続法では24条2項で特別委任事項が規定されています。手続代理委任状に特別委任事項の記載がないと、その事項については委任を受けていないということになりますので、安易に訴訟委任状を使い回すことは避けてください。是非家事事件手続法にのっとった手続代理委任状を作成し、調停等での用語等の使い方についても気を付けてください。

最新の実務、運用の把握

家庭裁判所は、法改正の動きや社会情勢などに応じて、随時、運用を見直したり、新たな試みを導入したりしています。それらをきちんと把握しておかないと、最新の実務や運用からずれた代理人活動になりかねません。

家事事件への理解

実は、ソフト面の理解が一番重要だと考えています。もちろん代理人ですので、依頼者の利益を実現するために活動をするのは当然です。ただ民事訴訟などと同じ感覚で対応するのではなく、家事事件への理解を十分にした上での代理人活動を行う必要があると考えています。
家事事件は子どもも含めた家族、あるいは家庭の紛争の解決を図るものです。家族間の紛争をどう解決していったかということは当事者のその後の人生にとっても重要ですし、相続事件も含め多くの事件では親子あるいは家族としての関係がその後も続きます。そのため、単純な勝ち負けで考えるのではなく、手続代理人は一方当事者の代理人ではありますが、どのような決着をつけるのが依頼者も含めたその家族の今後にとって望ましいかといった全体的な視点、あるいは中長期的な視点に立った冷静な判断や対応が求められているように感じています。
特に子どものいる事件については留意をしていただきたいと思います。当事者において、もともとの性格や反対当事者への対立意識などから感情や心情が先走ってしまって、子どもが置かれた状況や心情への配慮になかなか気付けない、行き届かないという事案は少なくありません。しかし、子どもの不安や心の傷、子どもの意向や求めなどに対する気付きなしに子の福祉にかなう解決は得られませんし、子どもが幸福でなければ依頼者も含めた親にとって幸福な解決であるとは言えないとも考えられます。
そのために依頼者とはこれまでの経緯の聴取などの中で十分に協議をしながら、どういった解決が全員にとって望ましいのかといった点にも配慮していくことが望まれます。

受任・申立て

1. 聴取と見極め・共有の重要性

適切な聴取、事実関係の把握、そしてそれらに基づく正確な見極めというのは家事事件においても非常に重要です。
そしてそれらを依頼者に丁寧に説明し理解してもらい、共有することが肝要です。家事事件においても、信頼関係の継続は簡単ではありません。最悪の場合、適切な代理人活動ができないまま辞任に至ってしまうこともあり得ます。

2. 手続選択

緊急性の有無

例えば、DV事案においては、保護命令が必要か否かという見極めは重要です。また、他方の配偶者が子どもを連れ去ったという事案では、子の監護者指定、引渡しの仮処分をした方がいいのかどうかは早急に見極める必要があります。子の監護者指定の仮処分をせずに調停を申し立てる場合もありますし、むしろそれが適切な事案も少なくありません。もっとも、本当は緊急性を要するのに対応しなかった場合、後で裁判所に「実は緊急性があった」と主張しても、現状が安定しているとみられてしまいかねません。手を打つのであればすぐ手を打たないと遅きに失するということになってしまいます。
保護命令については、言わずもがなですが、やはり生命、身体に対するリスクを軽減するためには、必要な場合にはすぐ手を打つ必要があります。
ただ留意していただきたいのは、保護命令については精神的な暴力が含まれていなかったり、あるいは自宅から加害者を出ていかせる退去命令は限定的な期間しか認められていなかったりするなどの限界があることです。
他方、仮処分は実際に何でもやれるのか、やっていいのかというと決してそうではありません。仮処分が認められる事案は限られています。法文では「急迫の危険を防止するため」と規定されていますし、保全の必要性の疎明が必要です。したがって、仮処分を実際に行う場合には、急迫の危険があることを疎明していかないといけませんので、その見極めを含めた緊急性の判断が必要になります。

交渉するのか、調停するのか

相手方にも既に代理人が付いているかどうかや、それまでの協議の状況、相手方の性格、実現したい条件などによって、まず交渉をした方がよい場合もあります。
他方、交渉してもらちが明かないことが目に見えていて時間をロスするだけ、あるいは余計に感情的な対立を深める恐れがあるなど、交渉を経ずに調停を申し立てた方がいい場合もあります。そういった見極めをしていく必要があります。

婚姻費用、面会交流等の申立ての要否等

夫婦関係調整調停を申し立てる際に、併せて婚姻費用についても調停申立てをするのか、また面会交流についても併せて申立てをするのかについても確認、検討した方がいいと思います。
婚姻費用が支払われていない場合には、同時に申し立てた方がいい、あるいは夫婦関係調整調停より先だってまずは婚姻費用調停を申し立てた方がいいという場合もあります。
ただ、実際に婚姻費用が支払われてはいるが十分でないから申し立ててほしいという場合には留意が必要です。「支出から見ると足りていないから申し立てたい」という当事者の気持ちを十分理解できる場合もあります。ところが、家裁では算定表にのっとった金額が基準となります。そうすると婚姻費用の金額が不足していると主張して申し立てたところ、算定表に当てはめると過払いであることが判明し、逆に金額が減る結果になってしまうという事案もあります。そうすると弁護過誤にもなりかねませんし、当事者から非難されることも考えられます。そのため、きちんと検討し、依頼者と見通しを共有しておくことが重要です。
面会交流についても、別途調停を申し立てた方がいいかどうかを検討する必要があります。実際の面会交流の実施状況、夫婦関係調整調停での話し合いの状況などによって検討、判断することになります。

3. 申立ての際の留意事項

定型書式の工夫と提出資料

申立ての際は、なるべく定型書式を使っていただくことをお勧めします。裁判官、書記官や調停委員は多くの事件を同時進行で処理していますが、定型書式であれば、どこに何が書いてあるのか、基本情報を漏れなくすぐ把握できるからです。
訴状のように書かれた申立書をたまに見かけますが、必要な情報がどこに書いてあるのかの把握に少しまごつく場合もあります。そうした書面には年齢が書いていないなど、記載漏れがある場合もあるので、漏れがないためにも定型書式を利用していただくことをお勧めします。
ただ、提出の方法等については、工夫をいただきたいと思います。
家事事件手続法によって、申立書の写しは原則として相手方に送付されることになっています。そのため無用な感情的な対立を避けるなどの観点もあり、申立書自体は簡単な記載やチェック方式にとどまっています。その上で、別途裁判所にだけ提出する「事情説明書」が用意されていて、そこに家族の同居・別居状況や財産状況などの必要な情報を記載することになっています。そして、別居に至る経緯、調停を申し立てるに至った経緯などについては、この事情説明書の最後に簡潔に書く欄が数行設けられています。
ただ、事案によってはあらかじめ今までの経過などについて、相手方と共有をしておいた方が有用と思われるケースもあります。定型書式によらず自身で申立書を作成された方は、そうした配慮もあったのではないかと思います。そうした場合には、定型書式の申立書に「別紙参照」と記載した上で、別紙を付けるという工夫の仕方もあります。
また相手方とは共有を図る必要はないけれども、裁判所にはあらかじめ詳細な経緯をもっと知らせておいた方がいいと思う場合もあります。その場合には事情説明書に別紙を付けるという工夫もあります。定型書式の使用を前提としながら、事案に応じた工夫をすることを是非検討いただければと思います。
また、証拠資料には資料番号を付けて資料説明書もあわせて提出するということも忘れないようご留意ください。

非開示情報の扱い

DV事案における住所や学校の記載、またマイナンバー情報などについては漏れなくマスキングするようご留意いただきたいと思います。実際に、マスキングに漏れがあるまま提出されてしまい、調停委員が気付いて事なきを得たというヒヤリハット事案もあります。忘れがちなものの例として、年金分割の情報通知書の住所欄が挙げられますのでご注意ください。
相手方に開示してもらいたくない資料については、「非開示希望申出書」を作成して当該資料にホチキス留めをして提出する扱いになっています。ただ、あくまでも希望の申出であり、実際の閲覧謄写の許可権限は裁判官にあります。また審判移行となると原則開示になりますので、調停段階でもそのことを意識する必要があります。
また調停は話し合いの場でもありますので、話し合いをするに当たって必要な情報は共有しておかないと、前提が食い違って建設的な話し合いにならないということもあります。そのような観点からも、なるべく共有を図るという意識を持っていただくことが必要です。
もちろん陳述書等、相手にはあまり見せたくないというものも中にはあると思います。ただそういった場合は、書き方やその内容を工夫していただくということでご対応いただければと思います。
なお、本年5月に成立した改正法により、人訴事件・家事事件についても当事者の氏名・住所等の秘匿制度が導入されます。これまでの非開示情報の扱いとどう違うことになるのかなど、今後の実務については留意する必要があります。

進行に関する要望

進行についての要望は「進行照会回答書」に記載して提出します。相手方と接触したくないといった事情がある場合には、出頭時間をずらす「別時」、待合室を別のフロアにする「別階」などの希望を出します。
また電話会議システムを利用したい、あるいはウェブ調停をしたいといった場合には、進行照会回答書に記載していただければ良いですし、上申書を提出する方法でも可能です。

調停

0. 調停の意義

調停の意義の1点目としては、当事者本人が自分の判断で紛争解決の在り方や内容を決めることができる点にあると言えます。つまり、調停という調整過程を通じた解決を図ることによって、自主的な解決に寄与することができるということです。
調停では調停委員会が間に入って合意による解決を模索するわけですが、同席調停をする事案はほぼまれで、ほとんど全ての事案において、申立人と相手方が交互に調停室に入り、調停委員がそれぞれの話を聞いて整理をしていきます。
当事者間の協議では、どうしても感情的に対立して、相手方が言っている内容を冷静に分析・整理をする前に、「あの人の言うことはもう聞きたくない、受け入れたくない」という感情が先走ってしまいがちです。もちろん調停でもそうした面はありますが、調停委員による適切な傾聴や調整を通じて、当事者の中に整理立てた受け止めや今後の解決に向けての意欲が生まれることが期待できます。
それを手続代理人がサポートすることによって、自主的な解決につながっていきます。
そういったことは当事者が今後の新たな人生の一歩を踏み出すに当たって、非常に重要なポイントになってくると思います。
調停の意義の2点目として、審判や判決に比べると柔軟かつ適切な解決が可能ということが挙げられます。審判や判決では審判事項、判決事項が決まっています。調停では、それらに限定されず、柔軟かつ適切な解決が可能ということが言えます。また、「自分で合意をした」ということは、審判や判決で一方的に決められた場合に比べると、履行への期待が持てるとも言えます。
また、これらの意義を支えるものとして、調停委員会、家庭裁判所調査官といった様々な関係者が、1つの事件の解決に向けてサポートする体制が整っているのも調停のいいところです。また執行力も付与される上に費用も低く抑えることができます。
こうした調停における手続代理人の役割としては、依頼者にとって、また依頼者だけではなくその当該家族にとって、どういった解決が望ましいのかということを、当事者の考えや主張なども踏まえながら依頼者と二人三脚で進めていくことだと思います。
もちろん手続代理人は弁護士であり法律の専門家ですので、調停においても、調停がうまくいかなかった場合の審判や裁判での見通しを踏まえた法的観点を見失わないことは常に必要です。
もっとも、調停は話し合いでもありますので法的観点だけにとらわれず、どのような解決が依頼者も含めた家族にとってよりよいものと言えるか、望ましいかを模索して、それを依頼者が自ら検討し判断していくことをサポートし、同時に相手方当事者が合意できるように調停委員に話し、調停委員を通じた説得を図ることが重要かと思います。
これらの点を踏まえると、手続代理人には十分な法的知識や理解はもちろんですが、全体的な視野や将来の見通し、また調整力や人間力などが求められていると言えます。
他方で、調停の意義からすると調停を軽視しないことは重要ですが、事案によっては審判や訴訟が適当というものもあります。その見極めも重要になります。
家事調停官や調停委員をやっていますと、「もう終わりにして審判に移行してほしい」といった手続代理人の言葉を聞くこともあります。もちろんそれが適している事案もありますし、その場合には調停委員会もしかるべき対応をします。ただ調停は1時間45分の時間があり、弁論準備手続や審判期日に比べると時間が長く設定されています。いずれ審判移行することが見込まれるとしても、資料や不明点の確認、補充等が丁寧にできますし、調停を利用した方が十分に話し合えるというメリットがあることもご理解いただければと思います。

1. 調停の進行と東京家庭裁判所における工夫

双方立会手続説明

東京家庭裁判所では、双方立会手続説明という運用を行っています。これは同席調停とは異なるもので、初回期日の冒頭に双方当事者に調停室へ入ってもらい、調停とはどういう手続なのかを説明するというものです。また続行期日の冒頭や終了時にも双方当事者に入ってもらい、到達点や期日間の検討課題等を確認することもあります。
ただ、顔を合わせたくないという場合や、手続代理人が付いていて説明する必要がない場合など、事案に応じて行われないこともあります。

親ガイダンス

未成年の子がいる夫婦関係調整調停や面会交流調停などについては、多くのケースで親ガイダンスを実施しています。東京家裁での親ガイダンスは、両親の争いが子に与える影響や子に配慮した話し合いなどについて作成されたDVDを、待ち時間を利用して視聴する方法を採っています。
当事者と一緒に期日に行って視聴されたことがある方もいると思います。1度は見ておいた方がいいと思いますし、既に見たことがある方もその依頼者にとっては初めて見るわけですから一緒に見ていただき、子に関するディスカッションや検討につなげていただくと有用かと思います。

遺産分割における段階的進行モデル

東京家裁家事5部では①から⑤に従って進行しています。

  • ①相続人の範囲
  • ②遺産の範囲
  • ③遺産の評価
  • ④各相続人の取得額
  • ⑤遺産の分割方法
②遺産の範囲については、3回目の期日で一通りの見通しをつけることを目安とした運用がなされています。相続開始前に預金が引き出されて行方が分からなくなっている事案や、債務の扱いについて対立している事案なども少なくありませんが、前提問題や付随問題について当該調停で合意できる見込みがあるかどうかの見通しを早期に立てる運用をしていますので、ご留意いただく必要があると思います。

調停に代わる審判の活用

調停が成立しない場合において相当と認めるときは、調停に代わる審判をすることができる旨が家事事件手続法で定められています(284条)。家事事件手続法では別表第二事件も含めて調停に代わる審判が可能となり、実際に積極的に活用されています。
類型としては、1つ目に当事者の合意はできているがテレビ会議システムや電話会議システムを使っており、実際に出頭していないため調停に代わる審判を利用する「合意型」があります。
また、2つ目に当事者が、答弁書あるいはそれまでの主張書面などで主張していて、それに基づくと実質合意はできているが、その当事者が出頭せず欠席しているために調停成立ができない場合に調停に代わる審判を行う「欠席型」があります。
さらに3つ目として「対立型」、つまり当事者が対立をしている場面でも調停に代わる審判は積極的に使われています。例えば婚姻費用で金額に僅かに差があり、自分からは合意したくないが裁判所の示す判断に争うことまでは考えていないという場合のほか、僅かな差でなくても裁判所が1度考えを示すという意味で調停に代わる審判を出すということもあります。ただ、対立型においては、いきなり調停に代わる審判を出すということはなく、調停委員会案を示して説明を尽くした上で出している場合が大半です。
調停に代わる審判は2週間以内に双方の当事者から異議が出なければ確定しますが、異議が出れば効力を失い、別表第二事件については審判移行となります。ただ、異議が出るケースはほとんどないのが現状です。

2. ウェブ調停

従前、遠隔地に当事者がいる場合やその他相当と認めるときは、家事事件手続法54条に基づいてテレビ会議システムや電話会議システムが活用されていました。ただ大半は電話会議システムで、テレビ会議システムはほとんど利用が進んでいないのが現状でした。
こうした中でIT化の流れを受けて、東京家裁では2022年1月からウェブ調停の試行が開始され、4月から本格運用が始まっています。ウェブ調停は「Webex」というアプリを使用して、調停を行うものです。全国的には、東京、大阪、名古屋、福岡の計4庁で運用が開始され、10月からは19庁に拡大されました。東京家裁では家事2部から家事5部に機材が設置されており、手続代理人がいるケースでも、いないケースでも使用されています。
メリットとしては出頭の負担を軽減することができること、当事者の接触リスクを回避することができること、また電話会議システムに比べると調停委員側も当事者側もお互い、表情などを見ながら調整を進めることができることが挙げられます。
家事事件のIT化も見据え、開始されているのがウェブ調停です。積極的に利用を検討していただき、適当だと思われるケースについては先ほどご紹介した進行照会回答書や上申書を活用していただければと思います。

3. 代理人活動

事案の見極めと対応

例えば夫婦関係調整調停では、離婚したい当事者側の場合は、人訴になった場合に離婚が認められる見通しがあるのか、親権に関して自分の依頼者の主張が通る見込みがどの程度あるのか、また人訴が決着するまで婚姻費用を払い続けることや養育費に切り替えることとのメリットの比較、財産分与について調停でより上乗せできる条件が期待できるかなど、様々な見極めをしながら手続代理人として検討して、依頼者と共有して判断していく必要があります。
なお、これらの見極めが正しいのかどうか、裁判所はどう考えているのか不安になることもあるかと思いますが、調停において、調停委員あるいは裁判官から見通しについてのヒントないし心証が示されることもありますので、それを的確にキャッチし、正しく見極めた上で依頼者に適切なアドバイスをしていただければと思います。

当事者について

自身に不利なことを積極的に言わないという当事者は少なくありません。自分の味方である代理人に対しても言わないこともあります。例えば、依頼者が不貞していたことが調停において相手方から暴露されるなど、後から相手方当事者に指摘されて判明することも実際にあります。
後から判明したときのリカバリーは、大変なことが少なくありません。それを全部避ける、全部なくすのは不可能ですが、リスクを減らすための工夫、努力は可能だと思います。
例えば、依頼者から話を聞くときに、少しでも何か引っ掛かる疑問点があったらきちんと確認することです。相手方の立場に立って、相手方だったらどう考えるかということを意識しながら質問をするとよいと思います。
また、依頼者に対して、「相手方は何と言っていますか」と確認したり、依頼者から示された資料を丁寧に確認したりすることも大切です。他方、当事者を説得しなければいけない場面に遭遇することもありますが、その前提としては信頼関係を築いていることが重要です。依頼者の代理人という立場上の限界がある場合もあります。そのときは調停委員会の見解を求め、それを通じて当事者に理解を図るなどの工夫もしていただければと思います。

調停委員会への対応

手続代理人と調停委員会は対立する関係ではなく、よりよい解決をしたいという意味では同じ方向を向いています。調停委員会との信頼関係を構築することも、調停の中で重要であることに留意しながら、手続代理人としての言動にも気を付けていただくことが必要です。
ただ、信頼関係を築こうと思っても、「この調停委員の言動は看過しがたいものがある」という場合もあるかもしれません。その場合には是非積極的に書記官や担当の裁判官に、上申書など適宜な形でお伝えいただくのがいいと思います。

4. 各事件の実務 ~離婚とその関連について~

(1)養育費

家裁で使われている算定表の考え方を理解しておくことはマストです。算定表は令和元年12月に改定されていますので、改定されたものについて正確に理解していただきたいと思います。
収入資料は権利者、義務者を問わず、早期に提出することを是非心掛けてください。収入が分からず、その先の話に進まないことがあります。特に養育費は子どもにとっての生活費ですので、義務者側の代理人となった場合には、その点を意識しながらご本人と話をしていただければと思います。
養育費の対象となるのは未成熟子と考えられています。未成熟子という概念は未成年とイコールではなく、経済的に自立することが期待できず親の扶養を要する子どもを指しています。
養育費の終期については、従前は18歳あるいは20歳が多かったように思いますが、現在は20歳としているケースと22歳あるいは大学卒業までとしているケースが同じくらい多い印象があります。
なお成年年齢が引き下げになりましたが、引き下げによって養育費の終期に影響はないということを法務省も最高裁もアナウンスしています。
養育費については私立校や大学の学費の扱いで対立することがあります。算定表で考慮されている公立校を前提とした教育費相当額を差し引いて、残額について基礎収入割合で按分する方法を採ることが少なくないのではと思いますが、そこまで細かく考えずに、学費については全部折半にする、あるいは学費を全部収入割合で案分するという内容で合意する事案もあります。なお学費に関連して、習い事の費用についても争いになることがあります。子どもの習い事なので義務者も合意することも少なくありませんし、また従前からその習い事を続けている場合には義務者が合意しなくても費用負担が認められることがあります。しかし、新たに習い事を始め、しかも義務者側が納得していない場合には、事案や収入、職業などの状況にもよりますが、義務者に負担を求めるのは難しいのが現状ではないかと思います。
また養育費の変更の事案もあります。減額の例としては義務者側が失業したり著しい減収があったりした場合や病気などで長期入院をした場合、また扶養義務者が増えて再婚したりあるいは新しく子どもができた、若しくは養子縁組をしたといった場合があります。
逆に増額の例としては、義務者側の収入が増加した、あるいは子どもの学費関係で増額が必要になった、また義務者側の扶養義務者が減ったという場合があります。それぞれの事案に応じて、算定表やその計算方法を適宜使いながら検討します。

(2)婚姻費用

実務では、婚姻費用の始期は請求時と考えられています。あらかじめ当事者間で請求したことがあり、それがメールやLINEなどで残っていればそこが始期になりますが、そうした事情がない場合、基本的には婚姻費用の申立てをした月が始期となります。
なるべく婚姻費用だけでも先に申立てをした方がいい場合があるというのは、この始期に関連します。請求した痕跡がない場合には、なるべく早く申立てをして取り損ねがないようにし、その後で準備を整えて夫婦関係調整調停の申立てをする、あるいは面会交流の申立てをするという場合があります。
過去分、つまり始期以前の婚姻費用については、当事者において過去分についても併せて解決しようという合意ができれば、調停の中で取り扱うことはできますが、合意ができない場合はできません。だからこそ、早く申立てをした方がいいという話にもつながります。
なお、過去分の合意ができない場合についてですが、過去分について不払いだったという事情も財産分与の考慮要素の1つになるとされています。ただ実際上、例えば過去分の不払いが200万円あったとして、200万円が丸々その財産分与として上乗せとして認められるかというと、そこは現実問題としては難しいように思います。担当裁判官の裁量によりますし、夫婦の財産やその他の色々な事情によっても変わってきますので、丸々過去分が乗せられて認められるというわけではないということは留意する必要があります。
婚姻費用というのは生活費です。別居以降に生活をしていくに当たって生活費は必要なので、それが支払われていないのであれば一刻も早く確保する必要があります。
しかし、婚姻費用の調停の話し合いには収入の確定だけでなく色々な論点もあって、最終的な合意ができて結論を得るまでに時間がかかることも少なくありません。1年近くかかる場合もあります。
その間の生活費がないということは、当事者にとって非常に酷な状況です。
そのための工夫として、調停の中であるいは代理人間で、暫定払いについて調整するということがよくあります。調停の当初の時点で最低でもこれぐらいという金額を決めて、ともかく支払ってもらい、最終的に調停で合意をするときに、最終合意した金額が暫定払いの金額を超える場合は、不足額について払ってもらうなどの清算をします。

(3)面会交流

子どもの面会交流に当たっての留意事項としては、真の当事者は子ども自身だということを常に忘れず、依頼者に過度に同調するのではなく一歩引いて冷静に検討、対応していただくことだと思います。
また、今の東京家裁ではニュートラルフラットという運用が採られています。
かつては面会交流をすることによる支障が明らかにならない限り、原則面会交流を実施すべきという、原則実施論的な運用がなされ、抗弁事由をめぐって当事者が熾烈な対立となることもありました。今の家裁はそういう考え方を取っていません。
個別の事案に応じた適切な子どもの面会の在り方、交流の在り方など、面会交流をするかしないかも含めてニュートラルな形でオーダーメードで考えていくというスタンスを取っています。
面会交流調停事件で手続代理人が付いている事案は、当事者間の葛藤が非常に高い場合が少なくありません。そのため、面会交流で子どもを別居親と会わせることについて躊躇を示す当事者がいるケースも少なくありません。また、第三者機関を利用することを検討するという場面も多くなっています。
第三者機関としてはFPICが有名ですが、ほかにも様々な面会交流を支援する第三者機関があります。調停を行っていくに際して、第三者機関の利用が必要かどうか、必要と考えられる場合にはどこを利用するのが当該事案にとっては最適なのか、機関によっても利用条件が違ってきますので、手続代理人としてきちんと検討して当事者とも議論をすることが必要になります。
調停が成立する前には、必ずその第三者機関と連絡を取って、調停条項や条件の擦り合わせをしておく必要もあります。例えば、FPICに何の連絡もせずにFPICを利用する旨の調停合意をして、「調停でこう決めたので」と言ってFPICに持っていっても、「勝手に決められても困ります」と言われてしまいますので、あらかじめ調整することを忘れないようにしてください。

(4)財産分与

家裁では一覧表を使っていますので、裁判所のホームページからダウンロードして活用いただければと思います。様々な財産があるときには、調停で話し合いをするに際しても一覧表がある方が有用です。
基準時は別居時とすることが通常ですので、この基準時を踏まえた財産資料の収集が必要となります。
また、財産分与では、特有財産が含まれているという主張が出ることもあります。その場合には、一覧表に特有財産である旨を記入し、裏付資料も出すといった対応も必要となってきます。
分与割合については、専業主婦であったとしても家裁は5対5を堅持していて、よほどの例外的な事情がない限り、5対5を崩すということはありません。これまでの裁判例なども調査し、ご検討いただくことが必要になります。

(5)年金分割

離婚に伴って当然分割となり、そもそも年金分割の申立てをする必要もないという事案もありますので、この点をまず確認する必要があります。
次に、年金分割は2年間の除斥期間があります。
代理人がついて調停離婚あるいは裁判離婚をして年金分割についても認めてもらったケースで、それに基づいて年金事務所に行って年金分割の手続をしないといけないところ、手続せず2年間経ってしまい、どうにかなりませんかという話を法律相談で2~3例聞いたことがあります。
代理人がきちんと手続するよう説明してくれなかったと非常に立腹している当事者もいましたので、事後処理まできちんと目配りをしていただきたいと思います。

5. その他

(1)調査官調査について

面会交流や親権で争いがある事案では調査官調査が行われることも少なくありません。調査官調査に当たっては、その目的と種類をきちんと理解していただきたいと思います。当事者の中には長らく子どもに会えていないので早く試行面会を実施してほしいと主張される方がいます。ただ、調査官調査は調査であって面会サービスではありませんので、調査の目的や内容が固まらないと調査できません。
調査官調査にも色々な種類があります。子どもの気持ちについての調査としては子の意向調査があります。意向調査も更に分かれていて、小学校高学年以降の子どもはきちんと自分の気持ちや考えを話すことができるため、文字通り意向を聞くという意向調査となるのに対し、低年齢の子どもの場合には心情調査を行います。
子の監護状況を確認するために、同居親宅を訪問して状況観察や調査をすることもあります。また、試行的面会交流など交流観察の調査もあります。多くは家裁で試行的に面会交流を行って、その様子を調査するというものです。そのほかに主張整理の調査もあります。
調停の中で、何の調査をするのか、どういった目的に従ってその調査方法を選択しているのかというのは是非確認していただきたいと思います。
また、子どもの調査をするに当たっては、先立って子の監護に関する陳述書の提出を求められますので、漏れがないように作成してください。

(2)調査嘱託について

財産状況が明らかでないときに、家裁に調査嘱託を求める当事者もいます。ただ、調査嘱託に際しては、どこに調査を行えばいいかという特定ができていることが前提になりますので、探索的な調査はそもそもできません。また、調停の段階での調査嘱託には、家裁はさほど積極的ではないのが実情です。
ここが解明されれば調停が成立に向けて動く見通しがある場合には、家裁も積極的に調査をしようということになりますが、ほかにもたくさん対立点があり、およそ調査をしたとしても調停が成立する見込みがないような場合には、家裁は調停段階での調査嘱託に積極的にはならないといった傾向があります。もちろん、事案や担当裁判官によって異なりますが、そういった点にも留意をしながら調査嘱託を検討いただければと思います。

(3)手続代理人としての留意事項

書面の提出期限は極力守っていただくようにしてください。期限が守られないと他方当事者や調停委員が事前に書面に目を通せないまま調停を迎え、調停期日が空転してしまうこともありますので、そうしたことがないようにしていただければと思います。
また書面を作成する際は、相手方を過度に刺激しないよう攻撃的な表現などには十分留意をしていただくことが必要です。
子どもに関する事件では、子ども自身が調停手続に主体的に参加して、子どもを中心にした調整を図った方がよいと思われる事件もあります。手続代理人としてそのような事案だと思う場合には、子どもが利害関係人に参加し、手続代理人が付くという制度がありますので、ご検討をいただくとよいと思います。
最後にDV事案の留意点ですが、書面でのマスキングや非開示の対応はもちろんですが、実際に出頭する際に加害者側の当事者との接触を避けることについては、とても気を遣います。待ち合わせ場所や時間をどうするか、移動の動線をどうするかということについて、あらかじめ確認しておいてください。
実際、数年前に東京家裁の入り口で当事者が反対当事者に刺殺されたという事案もありましたので、是非ともご留意ください。
相手方の居場所が分からないということで、血眼になって探す当事者もいないわけではありません。調停に行けばいるだろうと考え、待合室に探偵や親戚を張り込ませて、手続代理人との打ち合わせの内容を盗み聞きさせて情報を入手するという例もありますので、そういった事案では待合室での会話も気を付けていただく必要があります。
出頭することによるこれらのリスクがある場合は、先ほどお話ししたウェブ調停を利用することもご検討ください。

最後に

これからも家事事件の事件数、受任率、そして重要性はますます増えていきますので、工夫をしながら1件でもこの解決でよかったと言えるようなケースができていくように、代理人としてサポートしていただければと思います。